写真日記
Huちゃん 写真日記
を転載しました。珠玉の写真ブログです。
ブログ冒険小説『官邸の呪文』(8)
(この物語に登場する人物、団体名等はフィクションである)
主な登場人物
・十鳥良平(とっとり りょうへい)前職は検察庁釧路地検検事正。現在は札幌の私大法学部教授
・堀田海人(ほった かいと)札幌の私大考古学教授
・榊原英子(さかきばら えいこ)海人の大学の考古学準教授
・役立 有三(やくだつ ゆうぞう)元警視庁SAT隊員 十鳥教授の助手
・堀田陸人(ほった りくと)資源開発機構研究所所長 海人の兄
・森倍 昭双(もりべ しょうぞう)首相
・水流 侃(すいりゅう かん)官房長官
・田森 博史(たもり ひろし)副官房長官(首相の側近)
・南 慈夫(みなみ しげお)国家安全保障局(NSS)局長(首相の側近)
・中井 直樹(なかい なおき)首相秘書官(首相の側近)
(7)
居酒屋UNOMI
皇居の外堀に面した通り、7階建てビルの路面店、居酒屋UNOMIがある。この店は、森部首相夫人が経営している予約制で、しかも一見客はお断りのお店である。首相夫人は馴染みの客が来たときに、お店に顔を出し馴染み客と食事を楽しむ。要は首相夫人の社交場とも言えた。とは言え、首相夫人だから当然警備は厳しい。店の外にSP2名、店内に2名が出入り口近くのテーブル席に控えめに陣取っている。
新型コロナ惨禍で例外なく、この店も自粛していたが、6月中旬に東京都のコロナ・アラートが解除され、馴染み客の予約が入り始めた。
(8)
海人のマンション
6月下旬となったが、海人たちの大学は、まだ完全に休校は解かれていなかった。特に文学部考古学科は7月から授業再開となっていた。
新型コロナを徹底的に避けて‟春眠”を続けている海人と英子は、昨年の夏実施された「日露共同北方考古学調査」を、論文『北方考古学調査考(1)』として完成させていた。
海人も英子も「ブログ」はやっていないが、英子は気が向いた時々、全国各地を特定的に綴る「ブログ」を検索し観ることがある。この数カ月は新型コロナ自粛のせいか、ほぼ毎日、寝る前に「ブログ」を検索していた。
「この‟悠々愛々さん”のブログって、ブラックユーモア満載。面白い方ですわ。‟てくてく御朱印”の記事。あれ? 基督教徒なのに――よくも集めているものですわ。でも、批評も面白いです。教養豊か、博学の方ですね。海人さん」
横のデスクでPCキーボードを打っていた海人が言った。
「英子さんが言うのだから、そうに違いない。他には?」
「そうそう、コメント欄から適当に検索してみたら、‟fujiwara13さん”。ん? そのコメント下に‟fujiwara26さん”。兄弟かしら?」
「英子さん。ハンドル名だから適当に付けているんだよ」
「今、‟fujiwara13さん”のブログを観ているわ。これは私を引き付けるブログですわ。京都の古刹を様々な角度から捉えて、簡潔にまとめた記事は、素人とは思えない程ですわ」
「英子さん。素人と専門家の境界って、職業の選択の違いだけでもあるからね。つまり、優れた表現って」
「そうね。そうかも」
英子は更に検索を進めた。
「何これ! ‟fujiwara26さん”のブログって! 相当、偏執的な内容ですわ。森部官邸政権批判ばかりだわ。この人、飽きないようね。札幌の方のようだわ」
「英子さん。そういう変なブログも多いよ」
「あら! ‟Huちゃんさん”のコメント。今検索してみたら、まあ素晴らしい‟Huちゃんの写真日記”。抒情詩的写真。感動ものですよ」
「英子さん。そのHuちゃんさん”は、プロの写真家じゃないのか?」
「そうかもね」
英子はさらに検索していく。‟fujiwara26さん”のコメント欄にあるハンドル名を――
「まあ、‟ただのデブ0208さん”のブログって、今日は何の日。そういうテーマだけど、自分の意見をきちんと書いていて、とても誠実さを感じるわ」
「英子さん。その方は‟ただのデブ”ではないのだよ」
「海人さん。そうね」
「あら、札幌圏の‟ナイト1960さん”のブログを観たら、プロの‟奏者であり、アウトドアの方”ですよ。去年までは、あっちこっちでフェステに参加しているわ。活動を再開したら、ナイトさんのLIVE演奏を聴きに行きたいわ。ナイトさんって、この方のブログ記事、ずいぶん凝っていますわ。このようなジョークの効いた絵を入れたりして。おや、今度はキャンピングカーを買い替えるようだわ」
「英子さん。ナイトさんを観にいくとしよう。そうでナイト」
「海人さん。それって駄洒落ですか? fujiwara26と同じフレーズだわ」
「英子さん。fujiwara26と一緒にしちゃ、俺が下がるよ」
「海人さん。‟神風スズキさん”のブログに入ったわ。この方は英語等受験予備校、ゼミナールを経営し、主宰していますわ。濃密な英語勉強の内容、あら! 短編小説も書いていますわ。あら!! スキーもやられていますよ」
「英子さん。‟神風スズキさん”って、北海道の出身じゃないのかな?」
「そうかもね。スキーの写真を観ていると、かなりの達人のようです」
「英子さん。ブログやっている人って、我々とはちょっと異質な感じがするなあ」
「海人さん。‟呉情報”の‟コバルト4105さん”もいますわ。呉港に限定したブログのようですわ」
「呉と言えば、戦前は大和等の軍港で、現在は海上自衛隊の重要な基地があるなあ」
「そうね。戦争中は米軍の爆撃対象でしたわね。あの狭い瀬戸内海に、そうした基地があるって、ちょっと疑問だわ。今時」
「英子さんの言う通りだな」
「今度は‟ 5sayoriさん”のブログに入ったわ。岐阜の女性ですよ。あら、色んな活動をされているわ。えっ! 今住んでいるお家も親から出してもらったって! えっ! 別荘地、山奥にあるから嫌だって! 海人さん!」
「何っ! 何と贅沢な。俺に譲ってほしいくらいだ」
ここで英子はブログ検索をやめた。夜11時30分を過ぎていた。
「海人さん。私お風呂に入ります」
「ああ、俺はこの文章を書いているよ。今日中に終わらせなきゃ」
(続く)
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