先月末あたりから福島県内のテレビ局においてしきりに流れている曲に、猪苗代湖ズの「I love you & I need you ふくしま」がある。TOKYO FMのサイトを通じて楽曲の配信も行われており、福島県外にお住まいでも既にお聞きになった方が多いかと思う。 この曲を聴いて、あるいは全国すべての都道府県出身者がこの曲を歌う映像を観て涙した方も少なくないだろう。特に福島県在住ないしは出身となれば、尚更のことと多くの人は考えるのではなかろうか。 ところが私は、この曲を耳にしても、率直に言ってこれといった感慨が湧いてこなかった。映像を観ると、いかに多くの方々が福島県を応援していることは理解できるし感謝もしたいのだが、心を揺り動かされることがないのだ。 我ながら、冷たい人間だな… と思う。しかしその現実を認め難く、いろいろと言い分を探してるもう一人の自分もいる。 気になることの一つに、この曲の歌詞が挙げられる。冒頭から
ふくしまに ふくしまに ふくしまに 置いてきたんだ 僕は 本当の自分を
と歌っているのだが、そもそも私は東京生まれの仙台育ちで30歳を過ぎてから福島県に移住してきた人間だから、「本当の自分」は福島ではなく東京や仙台に置いて来たんじゃなかろうかと邪推してしまう。しかし、仮に東京や仙台の賛歌が流れたとしても、果たして落涙に至るだろうか? シチュエーションをいろいろ考えてみたが、ちょっと想像しがたい。 やはり、私の心が動かないのは、自身の冷たさに起因するのだろうか? が、それを認めたくないものだから、またいろいろと愚考する。 そもそもこの曲は、昨年9月に裏磐梯にて開催された風とロック芋煮会というイベントにおいて、即興で発表されたものである。このイベントの主催者が、TOKYO FMの一番組である「風とロック」(ちなみにこの番組のパーソナリティが、郡山市出身で猪苗代湖ズのリーダー的存在でもある箭内(やない)道彦)と、地元新聞社の福島民報社であることが、個人的には気になった。なあんだ。巷間言われているように故郷へ恩返しするために箭内らが立ち上がってこの曲が配信されたのではなく、黒幕に福島民報がいるんじゃないか。そして福島民報は、ほぼ100%、福島県庁と繋がっている!! このことが分かった時点で、変な話だが、「私は冷たい人間で結構!」との、妙な開き直りがあった。 つまりはこうだ。「I love you & I need you ふくしま」は、恐らく、県庁サイドからの要請があって、配信が行われた曲なんだろうと思う。でなければ、どうして複数の県に跨る被災地全体の中で福島県に限定したセクト主義的な応援ソングが配信されるのか、また配信の収益全額が福島県に寄付されるのか、説明がつかない。県でもちゃっかり、この曲の宣伝に努めているし。 まあ、それはそれで構わないのだが、一番の問題は、この曲の配信に伴い県民の郷土愛が高まることによって、今回の震災、特に福島第一原発の事故における「福島県の責任」を問う声がうやむやになってしまわないかとの懸念があることだ。 西田敏行ではないが「美しい福島を汚したのは誰だ! 誰が福島をこんなにしたんだ!」という怒りの感情は、私も当然持っている。が、汚した側の一員に、原発を誘致した「地方公共団体としての福島県」がいることを、私たちは決して忘れてはならない。感情に左右された揚句、批判すべき敵を見失ってはならない。そして、真に福島県が復興するために、なすべき総括を怠ってはならない。