うきよの月 0
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歩いても歩いても、何処にもたどり着かない。ふくらはぎがぱんぱんに腫れている気がする。足の裏が痛い。くるぶしも。 水の音が聞こえ出してから数時間で、絵梨井はとうとう座り込んでしまった。「もうやだ」 靴を脱いで、膝を抱える彼女の前に、寛二はしゃがみこむ。「じゃ、戻るか?」「……」 足を揉みながら彼女は考える。 ここまで来て、戻るのは嫌だった。だけどこれほど先が見えない道を行くことなど、今までなかった。 彼は絵梨井の隣に座ると、ぽんぽんと頭を叩いた。「何よ」「いや、何となく」 何でそんなに落ち着いてるの。彼女にとって、この幼馴染は謎だった。「あんた怖くないの? この先本当にトンネルが通れるのとか……」「正直言えば、わからん」「……何それ」「俺等結構長く歩いているはずなんだけど、人気が本当に感じられないんだよな」「電気が消えてるくらいだから」「や、だけど作業員は居るはずだろ?」 ああ。可能性の一つにぶつかる。「会えれば現状も聞けるか、とも思ったんだけど」 絵梨井は黙ってバッグからキャラメルを出して口に放り込んだ。「それに、だいたいこの辺りと思っていたものが無い」「無い?」「トンネルは一本じゃなくて、別の坑道もあるんだ」 何を言ってるんだ、と彼女は思う。ともかくこの幼馴染は一緒に行動しだしてから判らないところがどんどん増えてくる。 もともと本好きだということは知っていたが、普通に遊んだり、中学は運動部だったし、周りの男子達と変わらないよなあ、と思っていた。 だけど現在進行中の出来事で、彼がどうもその枠の中には入りきらないことに今更のように気付いてしまった。「だから」 少し苛立った声を上げてしまう。「何かこの先に悪いことが待ってるっていうの?!」「そんな気がしてる」「そうなの!?」「電気が落とされてるって言ったって、危険防止のためのくらいはあるはずなんだ。……となると、そのシステム自体が落ちてる可能性が高い」「……この先が、壊れているとか」 ああ、上手く言い表せない。もどかしかった。そもそも絵梨井はトンネルの仕組みを知らない。彼等がやってきたのは飛行機だ。帰りもその予定だった。「たぶん」「平気でいうんだ!」「怒るなよ」「だって」 怒るというか。何か苛々する。ともかく水を飲もう、と彼女は思う。腹が減っているのかもしれない。またバッグを探る。そんな彼女を寛二は黙ってみている。 ―――いや、そうじゃない。「何を」 しっ、と音を立てた。「聞こえる」「え」「……今度はあっちから」 今度は。水がこれから行くほう。だとしたら―――「あ」 光が。 そして、エンジン音が。「バイク?!」「走れるの?」「……」 寛二は黙った。じっと次第に近づいてくる光を待っているかの様だった。何が来るのか。どうしたらいいのか。 だから、自分達の目の前に止まったバイクの主がこう言った時には心臓が止まる思いだった。「……止まっていて良かった。そのまま行ったら、お前等生きて戻れるか判らなかったぞ」 男の声だった。腹の底から響かせることを知っている様な、野太い。「判らない?」「その先は、無いぞ」 な、と二人して声を揃えてしまった。「向こうは、埋まっているか、切れているか…… しっかりこっちも調べた訳じゃないが、ともかく『ずれている』」「……ずれて?」「地震で?」「いや、そういうことじゃない。ともかく、ここに居ても仕方ない。戻れ」「命令しないで!」 絵梨井は叫んだ。わんわん、とトンネルの中、絞り出したような声が響いた。「って言うか、あんた誰? 何でここにバイクで来れるの? あたし達がここに居るってこと知ってんの?」「おい絵梨井」「あんたもあんただ! 何でそんなへーぜんとしてるの!」「俺は」「悪いがこっちは公務員なんだよ」 さくっ、と男は二人の会話に切り込んでくる。「公務員?」 停められたバイクと、二人の間に入り込んできたその姿は。「……自衛隊のひと」 だった。宮田製菓キャラメル アウトレット選べるキャラメルセット(4袋)
2018.03.02
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さてその頃。「トンネル入るって言ってたな」「言ってたの」「そっか」「言わなくちゃな」「急がないと」 彼等はその様に話されていたことを知らない。* トンネルは暗かった。 そしてゆっくりと下り坂であることを足の裏が伝えてきた。「室町幕府をはじめたのは?」「足利尊氏」「建武の新政」「後醍醐天皇」 手に懐中電灯はあったが、話していないと気持ちが暗くなっていく。結局気がついたら受験用の一問一答をしていた。全く役に立たないわけじゃない、と思いつつ。 それにしても。 絵梨井は思う。「あんたの言った通りだったね」「何が」「トンネルに灯りがついてないって」「……まあ」 思うところがあったらしい。何処に行くにせよ、暗くなったら必要だからと彼等は函館で購入していた。「全長50何キロだっけ?」「忘れた」 「そのくらい」だったら大丈夫じゃないか、という考えが甘いとは彼女とて思わなくもない。 だが他に方法が考え付かない。だから単純だが突き進む。それだけなのだ。 だが足がやけに疲れる。「大丈夫か」「あんまり」 そもそも運動靴で来ている訳ではない。修学旅行だったのだ。通学用の革靴は長距離を歩くのに向いてはいない。「……坂道は下りのほうが足に負担をかけるんだ」「そうなの?」「ゆるかったらゆるいで、無意識だから気付かない」「へえ」 とか何とか言いつつ、彼等は時々休みを入れていた。水を飲み、ブロック状の携帯食を口にして。 静かだから、無闇に会話が響いた。「江戸幕府の将軍。三代?」「家光。六代?」「家宣。……に、ついてた学者は?」「家宣は途中から入ったひとだったよね。ええと、何とか白石」「新井白石。八代将軍は?」「吉宗。この人もともと何番目の息子だったか」「三男」 はあ、と絵梨井は息をついた。負けるなあ、と思う。幼馴染は体力がもの凄くあるという訳ではないが、雑学で様々なことを補っているという印象がある。「半分も行かなくていいんだから、焦るなよ」 それで大丈夫なようにモノを買い込んだんだ、と彼は言う。三角座りで身体を丸めつつ、彼女は訊ねる。「そーいえば、サバゲーとか好きだっけ」「面白そうだけど、場所と仲間が居ない」「探せばいいのに」「そこまでしたいって訳でもないし」「ふーん」「おかしい?」「おかしくないけど。雑学魔だなあと思って」 あー、と寛二はうなづいた。「お前それ気にしてた? 買出しの時」「結構」「まあ―――どっちかというと、大学入ってからしようと思ってたことがあってさ」「大学入ってから?」 何処だっけ、と思い返す。「県外?」「隣。国立でできるだけいいとこ、って言ったらそこだろな」「いいとこ、行くわけね」「残念ながらお前は無理」「あいにくあんたに付き合って行くつもりじゃなし」 そもそも自分は自宅通学圏内しか行けないのだ。行ったところで何をしたいというわけでもないが。だけど自分がやってみたいと思うモデルケースは見つかるかもしれない、と思っていた。 でも彼は違うかもしれない。「やってみたいことがあるの?」「無いことも無い。けどまあ、どう生かせるかは判らない」「どういうこと?」「大学では歴史を中心にやりたいけど、何かそれだけが目的ではないし。それじゃ食えない」「それとあんたの雑学とどう関係あるの?」「どっちにしても、一年くらい日本中を歩くか自転車で回ってみたいと思ってる」 は、と絵梨井は目を大きく開けた。「何でまた」「面倒だと思ってるだろ」「思うけど。何で?」「ただ、見たいじゃいけないか?」 絵梨井は顔をしかめた。「意味がわかんない」「わかんなくてもいいよ。ともかく知らないことが多すぎてもどかしいから、色々実際に見て試して考えたいってことだけ」「危険じゃん」「危険をできるだけ小さくするのが知識だろ」「……雑学魔」 そういうことかい、と少しだけ彼女は納得した。 その日は座り込んだまま眠ってしまった。 翌日、だるさを感じつつ、それでもしばらく前日と同じ要領で話していた。 と、不意に寛二が言葉を止めた。「どうしたの」「音がする」 え、と絵梨井は耳をすました。「……聞こえないよ」「奥だよ。よーく聞いて」 もう一度耳をすます。―――「……水?」「だと思う」「何それ」「考えてみようぜ。ここはトンネルだ」 そう、トンネルだ。……海底の、更に下の。 さようならスーパー白鳥 青函トンネル最後の在来線特急【Blu-ray】 [ (鉄道) ]
2018.01.31
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そこからの行動は早かった。 空港に居候の身だった彼等が一人二人と減っていくのを、周囲の大人達が見ないふりをしているのは知っていた。 つまりは、見ないふりをせざるを得ない状況が起きている。それが彼等の出した結論だった。 いや、その結論自体はもっと早く出ていた。ただその確信が持てるまで時間がかかったことと、次に起す行動へ今ひとつ自信が持てなかったのだ。 だがぐすぐずしていたら、所持金が尽きてくる。本州へ行くにしても、近づくまでの列車代すら出ないじゃどうにもならない。 移動を開始した。 空港から南千歳―――函館方面へ向かうルートを選択して。「長いなあ」「長いな」 駅で時刻表を見ながら彼等は言い合う。荷物は出来るだけ減らした。途中から徒歩になるなら、できるだけ身軽なのがいい、と絵梨井はトートバッグ、寛二はリュック一つに荷物を詰め込んだ。「新幹線は止まってる」「特急も高いしな…… やっぱり鈍行で行って、函館で泊まるか」「泊まれるかな」「函館なら何かあるだろ。さすがに」「だといいけど」 その後のほうが厄介なんだ、という言葉を飲み込んでいたのはわかっていたが。 ただし。 そのまま上手く函館まで行けたわけではない。 新幹線だけでなく、幾つかの路線が所々運休になっていた。駅で事情を聞くと、送電所の具合らしかった。「動きはするけど、本数は減らしているんだ」 駅員はそう答えた。乗り換えの駅に出ているホワイトボードにもそう書かれていた。 その都度彼等は待合所で時間を潰した。修学旅行のお供のトランプが何度彼等の暇を救ったことか。 一応ゲーム機も持ってはいた。使えないながらに携帯端末も持っている。個人情報がてんこ盛りなのだ。下手に捨てられない。内臓されているゲームならできる。 だが知っているのがお互いだけの場所で、少なくとも絵梨井は何となく気が咎めた。一人残されたときにやってみても、何処かつまらなかった。 寛二は元々さほど使っていなかった。列車に乗り込む前に買った新聞と、そしてついた場所で流れているテレビを見比べている。「何か判る?」「ほれ」 テレビ欄を彼女に見せる。「何か、すかすか」「所々放送時間が抜けてんだよ」 これも電気なの、と彼女はつぶやいた。寛二は黙ったままだった。「どこまで行くの?」 仕事帰りらしい女性が話しかけてくることもあった。函館まで、と彼等は必ず言っておいた。ルートは間違っていない。それ以上聞かれたら、親戚のところへ、という答えを返すことにしていた。 ただしせっかくなので、少しずつ情報は得るべきだ、と考えたのか、寛二は彼女達に幾つかのことを訊ねていた。 この間の地震はどうだったか、電気はどうなのか、最近ずっと電車はこうなのか……「そうだね、まあ停電というか、電気を大切にとか言ってるね」「でもまあだいたい仕事に出てるしね」「困るのは携帯だよね。全然つながらない」「親戚が居るんだけどねえ」「嫁が泣いてるよ」 そうですかそれは大変ですね、とともかく聞いてやる態度が一貫していたので、絵梨井の方にも情報が次々に飛び込んでくる。「駄目らしいね本当に、端末は。でもあんまりオバさん達、堪えてないように見えるよ」「暮らしてるからじゃね?」「暮らしてるから…… かなあ」 結局その時は一日では到着せず、途中の駅の待合室で一晩過ごす羽目になった。 こういう時に一人でなくてよかった、と彼女は思った。もっとも、一人だったらここまで動きはしなかっただろう。 寛二は、と言えば。 彼は何かを考えているようだった。「どうしたの?」 変わらず、列車の動きは途切れ途切れだった。「妙だな」「何が?」「北海道は原発があるんだ。ちゃんと道内の電力はまかなえてる」「え、ちょっと言ってることわからない」「首都圏に売ってすらいるんだぞ」 端末を取り出しかけて、彼は顔をしかめた。「だから?」「だから、電力が足りないってのがよくわからん」「……あんたが判らないのがどうして私がわかるのよ」 時々彼女はこの幼馴染についていけなくなる。成績はそう変わらないのだが、妙な雑学に時々はまるのだ。おそらくその一つだとは思うのだが、絵梨井にはその情報一つでは彼の懸念はわからない。「……また後で説明するよ」 どうやら考えをまとめたいのだろう、彼は函館に着くまでの列車の中では無口になった。 函館についたからと言って、ゆっくり休んでいることもできなかった。必要なのは食料と水の買出しだった。「重い」「水や茶は俺が出来るだけ持つから。お前食い物な」 立ち寄ったスーパーでエコバッグまで買って詰めているのだから大層な重さだ、と彼女は思った。 何とか泊まった安いホテルで、彼はリュックの方に水を詰めなおし、軽い自分の荷物をエコバッグに入れていた。「お前も両方の重さがつりあうくらいにしとけよ」 彼はそう言う。「何で?」「肩痛めるぞ」「私もリュックだったらよかったかな」「軽いものが大量には入らないから、それでいいんだ」 そっか、ととりあえず彼女は納得した。納得せざるを得なかった。 そしてその翌日、函館を出発し―――木古内まで、たどりついた。「で、ここから228号線をひたすら行く」「ひたすら」「一応『トンネルを見たいんですけど』と言ったら教えてくれた。案外トンネル自体は遠くない」 遠くない、が近い、ではないことをその後すぐに彼女は知ることになるのだが。バッグ メンズ スクエアリュック 通学/通勤対応 A4収納 スクエアバッグ ビジネスバッグ アルファインダストリーズ ビジネスリュック ALPHA バックパック ブラック ホワイト トリコロール カモフラ ネイビー レッド[200-BAGBP004]【サンワダイレクト限定品】【送料無料】
2018.01.20
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教師が消えたことに気付いた生徒達は蜘蛛の子を散らしたように何処かへ消えた。 無論、散るまで数日かかったし、その時ATMを操作して、出せるだけの現金を出す者、それができずに機械に当たる者、―――それ故に、弱い誰かしらの財布を狙う者―――そしてそれを横から蹴散らす者。 絵梨井は寛二と居たことである程度の防御はできた。現金の引き出しもできた。「地方銀行のカードの奴は駄目だって泣いてたな」「あんたは?」「ゆうちょだったからな。だけど大した金は入ってないから」 さて、と彼女は思った。動揺していないわけではない。だが、動揺しても仕方ない、と感じていた。「落ち着いてるな」「かもね」 奇妙なほどに、それは感じていた。「みんながおかしくなっちゃったから、冷めちゃった。何かそれは駄目かなあって」「なーる」 いつの間にか、同じ班の女子も姿を消していた。荷物も無かった。いや、荷物が無くなったから居なくなったのかもしれない。中には何処かに行くときに好きな子を無理やり連れて行くという男子も居たということだ。 友達と言い切る程仲は良くなかったが、頼ってくれるあたり可愛かったので、連れ去られてしまったかと思うとやや腹が立つ。「で、俺等はどうする?」 言われてみると、自分自身を守るのと周囲を観察するのに精一杯で、この先どうするのか考えてはいなかった。 だがそろそろ決めねばならない。「あんたはどうすんの」「色々考えてみたんだが」 こいつの色々は油断がならない、と彼女は思う。付き合いは長い。幼馴染と言ってもいい。色気めいたものはない。少なくとも自分からは。向こうも姉妹―――というより、少し力が弱い兄弟感覚で扱ってる部分がある。そして言葉に容赦が無い。そんな点が気楽で割と一緒に行動してきたと言ってもいい。「一番大きい分かれ道は二つ。ここに残るか、帰るか、だ」「帰る」 それは無理じゃないか、という考えが彼女の中に一瞬浮かんだ。ただこいつが言うなら、何かしらの策が無いわけではないだろうとも思う。「たぶん皆それをまず考えたと思うよ」 連絡がつかない。教師が見捨てた。そして公的機関からも何かしらの援助がこない。 これが状況判断できないからなのか、自分達に構っていられないからなのか、その辺りは自分達にはわからない。 一度、苫小牧や札幌にある役所や警察、消防、テレビ局や新聞社、自衛隊にまで電話をかけてみた。だがけんもほろろに扱われるだけだった。 何故そう扱われるのか。それも一つの疑問だったが。 彼等が夜露を凌いでいる空港にしても、当初あったスタッフの心配りも一週間を越えた辺りで殆ど無くなった。毛布を貸してくれて、場所を提供してくれている「だけ」になった。 絵梨井はたまたま自販機の前で出会ったスタッフの女性に訊ねたことがある。「空港も大変なことが起こっているんですか?」「まあ…… あるのかもしれないけど…… 部署が違っているから」 ごめんね、と大人の笑みで拒絶された。実際そうなのだろう。毎日見下ろす飛行機の姿にも動きが無い。「永遠にここに居続けることはできない」「そりゃそうだけど、道内はともかく、帰ることはできると思う?」「全く無いとは言い切れないな」 地図を頭に浮かべろ、と寛二は言う。「海があるけど」「でもトンネルもある」「……青函トンネル?」「一応調べてみたけど、鉄道も本州への線は全部止まってるようだ」「それを通って? 何で」「まあ、……一つしか俺には考え付かない」 絵梨井は苦笑するしかなかった。瞬時に頭に浮かんだ選択肢、車、バイク、自転車――― 全部難しいことに気付いた。「徒歩ね」「トンネルまでは、そうじゃなくてもいいと思うけど、トンネルだけはな」 そこ「まで」は列車もある程度通っているらしい。生活に密着した路線なら。 その後は。いや、そもそも。「あんたバイク乗れた?」「原チャは。けど手に入れられるか?」 彼女は首を横に振った。「お金、勿体無い」「だな。今だって正直少なくなってるんだ。道内で稼ぐ手段が全くないわけじゃないけど」 だからこそ、道内に生徒達は散って行ったのだろう。現実的な視点を持っていればいるだけ。特に農場系を回った者達は、そちらに連絡を取ったかもしれない。「で、お前はどうしたい? まずその選択をしないと、次の手が打てない」「帰る」 絵梨井はきっぱりと言った。「そうか」「納得できないからね」「まーお前はそういうと思った」「そういうあんたも、ウチに残した子が気になるんじゃないの?」 昔から知ってる。猫好きなのだ。家に二匹居る。「わかってるじゃねえの」 決定だった。お年玉1000円OFFクーポン発行2017シティサイクルカテゴリ1位獲得最多【送料無料】 ママチャリ(全6色)26インチ カゴ ライト 鍵 シマノ6段変速 メンズ レディース おしゃれ 軽快車 街乗り 通学 自転車 シティサイクル 26インチ かわいい インスタ映え お年玉 ☆
2018.01.08
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福岡県北九州市―――。「やっぱり駄目だ」 海岸で男はスマートフォンを切る。「そっちも駄目かぁ?」 声を張り上げる。「駄目だ。全く」 向こうもあっちも…… その場には、総勢四十名。最も本土に近い大学で、一つの実験が同時に行われた。 すること自体は単純だ。皆一斉に、自分のスマホからとあるソフトを起動させる。―――日本中に。* 発端は、つい数日前の異変だった。 全国的にアラートが鳴った。端末が嫌な音を立てた。 正確に言えば、本州を中心に、だ。 彼等が現在立っている辺りには直接影響するものではなかった。 だが無論彼等は用心した。するに越したことはなかった。 その頃、日に日に悪化する国際情勢に、研究馬鹿達とて全くの無関心ではいられなかった。 時間的には夕刻から夜。大半は大学構内に残っていた。大概の学生が、院生が、研究者が、この時期、何かしらの課題を抱えていた。 基本この時、安全を政府から保障されていた彼等でも、作業中でもインターネットとテレビを常時開いていた。 各地と、元凶の国の双方の情報を何とかして網羅しようとしていた。 彼等と関係する機関はそれこそ山ほどある。何かあった時にすぐに連絡がつけられるように。皆が皆、それぞれ役割分担を無言で為していた。 だが、ある瞬間、それは途切れた。 テレビの電源は入ったままだったが、唐突に途切れた。全国放送だった。 地方局が慌てて引き継ぎ、慌て顔のキャスターが、大きく目を見開いたまま、しばらくお待ちください、と一言彼等に投げつけた。 しばらくお待ちください、というテロップが映し出され、スタッフがあちらこちらへと動き回る映像がひたすら流れていた。 他の映像を流すことが許されない雰囲気がそこには漂っていた。 そんな中。「動かん」 ネットにつないでいた一人が言葉をこぼした。 あ、とテレビに注意を取られていた者達も、自分の端末に視線をやる。もしもし、と電話をかける者もいた。「電話、つながるわ」「うちは駄目だ」「え、ちょっと」「俺の実家、おかけの番号は、言われた……」「ちょお待て、島はどうだ」「おい海外で使える奴もってる奴!」 一気にその場は可能性を試す場となった。「あ、ラジオ……」 アナログなものを思い出した者も居た。「大丈夫、これはつながる」「……待てや、それ、FMか? 短波どぉだ?」「短波持ってる奴!」「俺持ってる」「うちのアパートに電信持ってる奴が」 何処にも色んな奴は居たもので。 結果。 その場に居た白衣の男三十二人と、女八人は、状況を取りまとめた。 「では、中間報告を」 佐倉谷藍は、眼鏡のリムを軽く押さえる。「アラートが発令されたのが、十九時三十九分。本州一帯ということが、先ほどのテレビで確認されました。県庁からの発表がありました。ただ、それ以上のものではありませんでした」 何で自分に押し付けた、と彼女は沈黙の中、重い気分になる。「イントラネットはともかく、インターネットは基本的に死んだ状態になっています。ただし海外利用のできる端末を持つものからでしたら、『海外のサイト』にはアクセスが可能――― 国内に関しては、安定した接続ができません」 一旦彼女はそこで言葉を切る。「次に電話。固定電話は市内、県内、九州及び島々は可能。海外も可能…… 北海道も可能。道庁との連絡は取れた様子です。向こう側も同じことを確認している模様で、向こうの近隣諸国に掛けてみたところ、可能。ただ」 目を伏せる。「本州と四国が、ともかくつながりません」「四国もか……!」 誰ともなく、声が漏れる。「一方携帯電話。やはり本州と四国につながりません。通常回線だと、九州内のみ。海外利用可能な機種で、北海道は確認できましたが、やはり本州四国とは無理でした。つまり―――」 何と言っていいのだろうか、と彼女は迷う。正直推論を出したくなかった。「つまりは、本州と四国が壊滅状態にある可能性がある、と」 ありがたいことに、ここの人材は感情より現実を直視するタイプが大半だった。自分はまだまだ甘い、と彼女は思った。「……ただ、ローカルのネットに上げられた情報ですが」 彼女は端末を操作する。動画がモニタに映る。「これはアラートのあった時間に本州が見える工場の定点モニタから送られて来た映像です」 皆目を見張る。音は無い。 光。―――瞬き一つで、見逃してしまうくらいの。 ただそれは瞼の裏をひどく傷めそうな錯覚を起すくらいの―――「……落ちた――― のか?」「そう見えますか?」 いや、と答える声がある。映像の中に、本州の対岸は、無事に存在している。「雷が一瞬光った程度って感じだな」「ですが」 映像を切り替える。光が走る前の風景。彼女はその明度を上げる。「次にこれをごらんください」「―――え」 誰かしらから声が上がった。「同じ地点の、光の後です」「ちょっと待て」「輪郭だけを抽出して重ね合わせます」「そんなこと」 しなくていい、と彼等のうちの誰かが叫んだ。「工場は何処にいったんだ!」 九州・山口工場景 本田純一写真集 [ 本田純一 ]
2017.12.30
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女子は取り上げた事務官のズボンの裾を幾度も折り曲げ、ぐっとベルトを締めた。「似合う?」「あーはいはい、似合う似合う」 ぱん、と男子のかぶった帽子をはたく。「おい、遊んでんじゃねえぞ」 男は車の中であちこちを確認していた。ハンドル、アクセルとブレーキ、クラッチ…… 調べているうちに、シャツの腕がきしむ。やべ、と口の中でつぶやく。「使えそうなの? 中田さん」 くりくり、と窓を開けるハンドルを珍しそうにいじりながら、女子は問いかける。「まあ…… ちょっとタイプの違うマニュアル車って感じだな」「俺、オートマしか知らない」 男子が横に乗り込んでくる。「寛二、お前免許持ってたの? 」「まだ。だけど講習は受けたよ。絵梨井お前は?」「私もともと乗る気無かったもん」 重い、とドアを開けながら彼女は後部座席に乗り込んだ。「でもこれから乗れるほうがよさそうだよね。教えて、中田さん」 言いながら、ざっ、と髪を後ろで束ねる。「……上手いとこ、俺がこういうのに慣れて、お前の家に着ければな」 だから今は乗れ、と中田は二人をうながした。ぶるるん、と音を立ててエンジンは動きだす。「でかい音だよなあ」 横で寛二はわざとらしく耳をふさいだ。俺のせいじゃない、と中田はゆっくりとアクセルを踏んだ。「ちゃんと体を支えてろよ」 彼は言う。何せこの車にはシートベルトなど存在しないのだ。* 彼等の車が遠ざかるのを悔しそうに見ながら、残された事務官達は、何とか体勢を立て直し、国道の路壁に体をこすり付けた。ざらつきの多いそれならば、括られている書類紐程度ならすぐに切れるはずだ。「……取れました、渚さん」 若い部下の方が先に取れたようだった。言葉の端々から、この部下を酷く若い、と驚いていたようだから、手加減したのかもしれない。 彼は駆け寄ってきて、すぐに渚の猿轡を外した。「慣れてますね、あの男」 そう言いつつ、今度は親指のみを括った紐を外す。書類用の細い強い紐を本結びにされているからたまらない。だから擦り切ろうと思ったのだが。「そっちこそ、肩は大丈夫か?」「はい、まあ痛いことは痛いですが」「こっちも取れました。遅れてすみません」 もう一人の部下は、自分より早く紐を擦り取ったらしい。それでもやや時間はかかった。すっかり自分達の乗ってきた車は見えなくなっている。 ため息をつきつつ、渚は彼等が乗り捨てた「車らしきもの」に目をやった。 鮮やかな卵色、高い天井の箱型の。ナンバープレートは黄色。だが番号は自分達のそれとは違う。「海外でもここまでふぬけた色は見ませんが」「だよな。俺も見たことが無い」「渚さんは海外は」「大陸は行った。けどビザが必要だったことはないな」 なるほど、と二人はうなづいた。大柄なほうは口を挟む。「自分は欧州に査察に行ったことがありますが、イタリー辺りで見た色に近いですな」 いっそ外車と言われたほうが納得できる。だが車体に取り付けられた名は。「ス・ズ・キ」 非常に日本的な名前だというのに。「スズキ」「スズキ、なんですよね」 またため息を一つ。向こう側ではこんな軽い車が普通だというのか。 ともかく、と渚は二人に最寄の公衆電話で回収の手続きを取るように、と命じた。国道なら、一キロにつき一つは確実に存在するはずだ。 ともかくこの車体はできるだけ早く本局の方へ送らねばならない。 一刻も早く、沢山の情報が自分達には必要なのだ。この道の向こう側、北海道からやってくる連中の持ってくる情報を。「しかし酷い格好だ」「着ますか?」 女子の残していった服を、若い方は苦笑しながら掲げてみせた。 黙って渚は男子の服を取った。自分に合いそうなのはおそらくそれだ。少年というにはずいぶんと背も肩幅もあった。だがもう一人よりは筋肉はなさそうだった。「では自分は失礼してこちらを」 部下の一人は作業服の上下を手にした。だが少し考えると、上着を相棒に渡した。「腰に巻いておけよ。自分が公衆電話まで行きます」「頼む。その間に」 既に上着を巻いた部下は、箱型の中を漁りだしていた。鍵は閉めていなかった。彼はあちこちのレバーを触る。危険は無いか、と言いたくなるほど無防備に。「うわ」 ……案の定。「何で座席がすべるんですかーっ!」「何でだろうな……」 渚二等事務官はふと、遠い目になった。航空自衛隊簡易ジャンパー
2017.12.28
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A面1 ともかくここから(1) じりじりじり。 重々しい机の上からベルの音が鳴り響いた。 がちゃ、と音を立てて黒い受話器を取る。鳥野静子はできるだけ落ち着いた声を心がける。「局長室です」『東北管区からです』 つないで、と彼女は交換手に向かって続ける。 ちら、と上司に顔を向ける。そのまま、と無言で促す。案の定、湯飲みを両手で抱えこんでいる。 ああそうだ。彼女は思う。 上司はゆっくりと茶を飲む習慣がある。ちょっとしたことでむせ易いのだと。 判りましたとばかりに、鳥野は横のボタンを押し、外部スピーカーを立ち上げる。会話に参加はしなくとも、内容は聞きたいというのが上司の常なのだ。 やがて、やや風の音が混じる声が入ってくる。車に据付られた電話の特有のやや響くものだ。『東北管区、渚二等事務官です』「首都中央局、鳥野中級管理補だ。確認されたのは、何名か」『三名です』 少ないな、と上司はやや目を細めてつぶやく。『構成は、中年の男性一人、十代の男子女子一人ずつ。男子女子は制服のようなものを身に着けています』「の、ようなもの」『少女のスカートがやや短すぎるので、もしかしたら、商売の娘かもしれません』「推測はいい。今彼等は、どの辺りにいる?」 向こう側で紙を開く音がした。「容赦は要らない鳥野。とっとと捕まえさせて」 上司の声が飛ぶ。 ああいつもながら、全くよく通る声だ。鳥野は内心苦笑する。きっと受話器の向こう側にもそのまま聞こえただろう。「東北管区を通る連中は、大体国道番号をひたすら追ってくるんじゃないか? 移動手段は何だった? 目撃情報しかないのだろう? 自転車か?」『車のように見えます』「の、ような、だな。なら確実にそれは捕獲せよ。早急にだ」『了解いたしました。随時連絡を』「頼む」 彼女は受話器を置いた。ようやく湯呑みの中身を飲み終えたらしい。ふう、と一息ついている。「お聞きの通りです」「彼等の例の移動手段は、ぜひ捕獲したいね。……下手な企業に取られる前に」「人間はいいのですか?」「無論それも。大切な情報源だ。それに今まで…… 何人だったかな? 今のところ」 お待ちください、と彼女は帳面を開く。「北海道から十五名。九州から三十三名…… 九州からは徒歩や自転車が多かったのですが」「さすがにトンネルの長さが違う、か。それに、今のところ移動してきたのは大人ばかりだ。十代の子供だとしたら、それはそれで…… スカートが短い、か。よくそこまで見えたな」「は」「移動手段が、我々の車と酷似したものだったら、どうして見えたのかな」「……!」 彼女は慌てて再び受話器を取った。*「……しばらくはこれで時間が稼げるんじゃないかな」 通話要求のランプが点灯している。だがそこは無視する。受話器の向こうの相手もこちらの失言の意味がわかったかもしれない。 だがもう一つこちらも手を打ってあるのだ。「すまないな、渚二等事務官」 猿轡をはめられ、後ろ手に括られた男達がむぅぅ、と罵倒らしきうめきを口にする。「ごめんなさい。わたしのじゃ小さくて」 「制服みたいなもの」を掛けられた小柄な一人は、やや涙目になっていた。彼の手帳によると、まだ十代の四等事務官らしい。 そこに居たのは、中年の男と十代の男子女子。ぶかぶかだよ、と女子は言う。それはそうだ、と中年の男は当然のように応えた。 事務官の制服だけではない。その上に車まで乗り替えようとしていた。「ごめん、事務官さん達、でも俺達、どうしても家に帰りたいんだ。でももう燃料電池が切れちゃったらしいし、ここで代えが利くかわかんないからさ」 やはり事務官の服を着込んだ男子はかがみこむと、やや困ったようににや、と笑った。「これ、残してくから、それだけでもまだいいよね?」アンティーク電話機 プッシュ回線・ダイヤル回線OK
2017.12.27
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「……おい」 何ですか、と彼女は夫に問い返した。「何回時計見てるんだよ」「え?」 気付いていなかったのか、と夫は呆れた顔でノートパソコンを一度セーブさせた。 理由はわかっている。今日の夜帰ってくるはずの娘のことだ。「……だって、天気が悪いからって便が遅れるって連絡があったきりですよ…… いつになるか、全然言ってこないじゃないですか」 だからあの先生は嫌なんだ、とばかりに彼女はスマホを手にとる。まるで反応が無い。「仕方ないだろ、天気なんだから」 高校二年の彼等の娘は、北海道へ修学旅行中だった。「昔と違って期間も長いし…… 心配にしちゃ悪い?」「いや、心配は心配だけど」 天気に当たっても仕方ない、と思うばかりだった。「けど」 彼は再びパソコンに向き直る。気象庁のサイトを開く。雲がさほどにかかっている訳でも低気圧の様子も無い。天候にしては。「だいたい今日帰ってくるからって、あなたも早く帰ってきてるんじゃないの」 そうやって、と仕事の書類を指す。実際そうだった。一人娘が一週間居なかったのだ。普段なら会社でそのまま長々と続けてしまう作業も、わざわざ家に持ち帰っている。そんなことは滅多にないというのに。 と。「何」 嫌な音、だ。 彼らの持つ端末という端末が、音を立てていた。 いや、外からも、次第に音が響いてくる。この音は。「あなた」 アラートだ。「……落ち着け」 この音の時は。回数は。 夜だ。カーテンは閉まっている。だったらまずは。「こっちだ」 彼等は手早く端末とパソコンを持ち、マンションの、寝室の方へと移動した。内扉を閉じる。これでとりあえず窓の無い状態だ。 ベッドに座ると、彼女は早速何やら自分の端末を操作しだす。娘宛なのか。「今は電波が混雑しないか?」「そんなこと言ったって」 案の定、かからないみたいだった。彼はその間に、ネットで情報を拾おうとし――― ずん、と。「……揺れた」「揺れたわね!」 やだ、と彼女は夫の肩を掴む。「落ちた…… か何か?」「……」 彼はSNSを開く。タイムラインにあったのは、同じような思いだった。〈や〉〈今ゆれたよな〉〈響いた〉〈何あったの〉 時刻はほぼ同じ。数秒の差。 別窓で気象庁のサイト。数分。何度か更新を繰り返す。その間にもタイムラインは刻々と不安そうな言葉を流していく。〈サイレン鳴ったよな〉〈テレビ点くよ〉〈偏向報道してるんじゃねえよな〉〈嫌だな〉 そっと彼は扉を開ける。格別光も何も無い。そのままゆっくりと先ほどまで居た部屋へと向い、テレビをつける。何処の局だろうか、何やら報道局らしい。さざわついているのだが、何やらそこからアナウンスする模様もない。 NHKに変える。「出ない!」 妻の声が響く。「どうしたんだよ」「……おかしい」 手には端末が握られている。「何がおかしいって」 示されているナンバーは、娘のもの。だが。『おかけになった番号は、現在使われて……』 再び掛ける。『おかけに……』 再び。『おかけに……』「駄目。さっきから私も十回やったのよ」「回線がパンクしてるんじゃないか?」「うちにもかけたのよ」 同じ県内に住む親の元へと。だがそれはかかったのだという。「学校のほうには」「掛かったけれど、そっちも何か焦っているようで」 何が起こっているんだ。 彼は思った。 秋のことだった。防滴ラジオ 防水ラジオ AM/FM防滴ラジオ ( 小型ラジオ バス用品 風呂用品 風呂グッズ 浴室 バスタイム 持ち運び アウトドア レジャー 水遊び らじお キャンプ )
2017.12.26
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