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ついに英国のスナック菓子メーカーのキャドバリー(デイリーミルクチョコレート、クロレッツが有名)が米国のクラフトフーズ(チーズもあればナビスコも傘下にある)の買収提案に合意した模様です。「敵対的買収提案」が一気に「友好的買収提案」になったということです。$196億ドル(約1.8兆円)のディールです。 最初、キャドバリーはクラフトの提案を「話にならないぐらいに安っぽい金額」であり、「クラフトのような低成長なコングロマリットの傘下に入るより、菓子専業メーカーとして成長する方が株主にメリットがある」といって、クラフトにひじ鉄を食らわしました。 その間、ネスレ(スイス)やハーシー(米国)他が、「ホワイトナイト」(白馬の騎士)としてキャドバリーの救済TOBをするのではないかとも憶測がありました。 一方、クラフトの筆頭株主である、あのバ-クシャー・ハザウエイ(ウォーレン・バフェット)は株式交換の比率の高いディールに反対の意を表しました。 「ホワイトナイト」の一角であったネスレに対し、クラフトは北米の冷凍ピザ事業を売却し、ネスレに対しキャドバリーに手出しさせない約束を得たと言われています。 結局、この事業売却代金でキャドバリーに対する金額提示を上乗せできたことと、ハーシーの筆頭株主である創業者財団がキャドバリー買収に当初難色を示していたために、正式提案に乗り遅れてしまい、キャドバリー側もクラフト側に折れた模様です。 バフェット氏は「株主価値を毀損させない提案なら賛成に回る可能性がある」と言っていましたので、これで筆頭株主のGOサインが出たと言えそうです(株式交換は持ち株の希薄化を招くためであり、現金を積み増しすると、レバレッジが効いて、希薄化懸念が小さく、EPSが上がりやすい)。 クラフト側は、得意の冷凍・チルド商品事業(チーズが最も有名)を縮小しても、チョコレート、ガムという常温商品にシフトすることになりました。さらにキャドバリーにはインドをはじめとした新興国の売り上げシェアが高く、長らく米国市場に閉じこもっていたクラフトにはグローバル展開の足掛かりを得たと言われています。英国の「アイコン」といわれる名門企業は、その旧植民地(インド・香港・南アフリカなど多数)に根差した有望市場を持っているために、こうやって1社1社外国企業に買収されていきます。しかし、残った英国の時価総額上位企業は世界のリーディングカンパニーが勢ぞろいするという弱肉強食の中におかれています。それでも英国経済は(今は大変ですが)ここ20年ほどは安定成長してきました。 それにしても、クラフト側は金融団がこれ以上金を貸せないという制約と株主の希薄化反対というガバナンスの中、主力事業の一つを売却して資金調達にこぎつけました。 日本だと成長戦略だ、と証券会社に吹聴されると、あっさり増資や新株発行を認めてしまいそうな(今回は現金と株式交換の合わせ技で日本では制度上出来ないと思いますが)イメージに流されて決着しそうですが、「市場原理」が働いたとも言えそうです。 もっとも、まだハーシーがクラフトよりも高い金額でTOB提案をする道が残っているので、決着したわけではありません(その場合は買収合戦になってしまう)。 クラフトのCEOは菓子部門の出身者でパワフルな女性CEOです。彼女がこのディールをトップダウンで強くリードしたはずです。かつて女性CEOといえばヒューレット・パッカードのカーリー・フィオリーナ氏が有名でしたが、今や女性CEOはそんなに珍しくありませんね。ざっと知っている範囲では、ペプシコのCEOはインド系の女性ですし、鉱山会社のアングロ・アメリカも事業とは全く似つかわしくない若い女性CEOですし、ヤフーのCEOも女性です。確かタバコ世界4位の英国のインペリアルタバコも女性CEOだったと思います。業種国籍・肌の色に関係ありませんね。日本でもぼちぼち出現しつつあるのでしょうが、国を代表する企業クラスで上り詰める例は見当たらなさそうです。そもそも、役員全員が似たような年代の似たような学歴の人で固まっていることが世界的には珍しいのかもしれません。あちらでは役員(取締役ではなく)のうち複数は女性ですね(人事系が多い)。 久々の敵対的買収ネタでした。 そういえばバフェットさん、韓国の高炉メーカー、ポスコの株を買い増ししたいそうです。ポスコのCEOは「大変名誉なことだ」とコメントしたそうです。うらやましいなあ。バフェットさん、日本にはあまりよい印象がないみたい(「スノー・ボール」では、ソニーの故盛田氏に接待されたものの、まったく興味がなかったようでした)。応援よろしくお願いします。
2010/01/20
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このブログの最も多いネタの一つである鉄鉱石問題です。クライマックスかなあ。 Rioティントとチナルコのディールの破断と同時に、Rioは株主割当増資US$150億ドルとBHPビリトンと西豪州ピルバラ鉄鉱石鉱区での50対50の合弁事業を行うとし、そのためBHPビリトンから58億ドル(以下全て米ドル)を受け入れると発表しました。これで、合計200億ドルを調達し、チナルコから受け入れる予定だった195億ドルとチナルコへのブレークアップフィー(違約金)2億ドルを調達することができました。チナルコはRioの株主なので、結局株主割当分は出資ができますが、支配権の拡大とRioの持つ、Tier 1 Asset (中核事業)へのアクセスは途絶えてしまいました。 チナルコは残念でしょうが、前総経理が政界入りするという記事がすっぱ抜かれるなど、政治色の濃い疑惑が表面化してしまい、完全に英豪のアングロサクソンを敵にしてしまいました(M&Aを踏み台にして、中央政界入り)。 これで、レノボがIBMからPC事業を買収したのは成功しましたが、ユノカル買収失敗など、中国は 「出る杭は打たれる」 を地て行っています。三菱はかつてロックフェラーセンターを買収したときには、「アメリカの魂を買った」と批判されましたが、モルガンスタンレーに出資したときは「救世主」扱いだった。日本人としては感慨深いものがある。本来チナルコも救世主だったはず。 Rioティントの今回のBHPとの合弁受け入れは180度方向転換と言えるでしょう。RioはBHPを完全に嫌っていました。07年11月のBHPによるRioの敵対的買収提案発表以来、両社の主張は完全に違っていました。経済環境が当時と今では180度違うという点は差し引いても、経営戦略的に違っていましたからねえ。 それだけ債務弁済に困窮していたということ他なりません。 Rioの主張:BHPと合併する必要性はない。なぜなら、Rio単独で株主価値を高められるから。たとえば、鉄鉱石は当然のことながら、中国は今後アルミの輸入国に転落するなどアルミの単価は上昇する。Rioの他の資産の潜在価値はBHPの提案なんかよりもはるかに価値がある。と世界経済の成長とRioにあってBHPにないもの(特にアルミ)の存在でBHPより高い成長が期待できる。基本的に景気連動型成長を主張していました。 BHPの主張:BHPの戦略は、規模を大きくして、大量生産によって採掘の生産性を高めることである。高めた生産性は消費者に還元すべきで、リーズナブルな価格で大量供給していくことだ。値段を釣り上げて儲けるだけではない。と、自助努力(効率生産)をして、その利益を株主や顧客に還元するという基本的主張でした(けど、昨今の鉄鉱石交渉を見ても、Rioとそん色ないけどなあ)。 そして、BHPの買収提案の目玉商品が西豪州のピルバラ鉄鉱石鉱山でした。ここには巨大な鉱区があって、これを統合すればシナジーが大きいと主張していました。また、BHPは当時から、鋭いアナリストに、「シナジーの大半がピルバラであれば、ピルバラだけを買うか、合弁事業でもやればいいわけで、Rioティントを丸ごと買う必要性はないではないか。丸ごと買収はBHP自身の株主の利益になるのか」 と突っ込まれていました。 (JVの概要、FT.Comより)しかし、すべては景気次第で、マイナス30%不況の今回は、Rioの景気連動型成長路線の根幹を揺るがしてしまい、BHPビリトンの欲張り買収戦略を適正買収戦略に修正させてくれました。 したがって、このJVが成立すると、一番得をするのはBHPビリトンだと思います。なんといっても前回の買収提案では10数兆円の買収金額を提示して、最大の目玉資産がこの西豪州の鉄鉱石地帯だったのです。今回は5千億円程度で手に入ります。 そのシナジーが両社で約1兆円ですから・・・。しかし、アナリストは鉱山会社の生産調整は生ぬるいという指摘があり、業績は不透明かもしれません。 (ちなみに、以前TBSの「世界不思議発見!」で西豪州特集を放送していて、ピルバラ地区から運び出される鉄鉱石の貨車が踏み切りを通過するのに、確か数十分近くかかったというのを放映していました)Rioティントも合弁によるコスト削減は自社にもメリットがあります。しかし、日本人とは違い、よく合理的な意思決定ができたと、この辺はアングロサクソンチックなのかなあ(「文化が違う」、とか意味不明なことは表向きは絶対に言わない。Yahoo! も未だにマイクロソフトに対して、「条件次第で売却してもいい」と言っていますし) 最期はロスチャイルドが動いたのかなあ?(かつてリオの30%近い株を保有)。 豪州政府も喜んだかな? 一級品の有望資産が国内で消化できるし、過度の中国介入が防げるし、そのくせ中国はしっかり買ってくれるから。 私には、「土地を売るのは嫌だけど、土地から産出される石なら売ってもいい。」 としか聞こえません。 チナルコのオリジナルの提案だと、「土地も石も買います」 と言っているように聞こえます。しかし、TCIとJパワーのときと違い、株主がある程度納得できる代替案で決着しましたね。日本じゃ 「Just Say NO」 ですから。一方、Rioティントは株主割当150億ドルの消化があります。英国では3月にHSBC Holdings plcの180億ドル株主割当増資が英国史上最大の増資といわれていました。今回は2番目に大きい増資となります。株主割当ですから、チナルコに異論を唱えた株主さんは当然応じるのでしょうね(文句言うからにはお金あるんでしょうね)。 尚、日本でRioティントの株を買って、その後株主割当を受けようと思っても、外国証券取引口座約款17条の2により、有償割り当て権は売却処分しないといけないようです。私は楽天証券で3月にHSBCのADRを買って割り当ても受けよう、と思ったのですが、同規程によりできません。といわれ、権利を売却したことになっていました。ご注意を(当然権利の売却代金はもらえましたが)。
2009/06/07
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ついに堪忍袋の緒が切れた? FT.comによると、中国アルミ(チナルコ)は英豪Rioティントへの195億ドルの出資を見合わせるようです。Chinalco set to quit $19.5bn Rio dealいきさつは以前にも少し書いていますが、以下をご参照中国は「漁夫の利」を得たのか? Rioティント、チナルコ195億ドル・ディール、BHPの反撃があるのか?09/2/13中国の経済成長は歓迎されているのか、それとも妬み・嫉妬のタネなのか? M&Aで考える。09/04/02 結局、Rioティントの株主(注:チナルコはRioの約9%の株を保有する筆頭株主でもある)が猛反発したこと、Rioのメインの資産があるオーストラリア政府の許認可がなかなか降りないこと(豪州では中国の相次ぐ資源資産の買収に最近神経質になっているともいわれている)など、アンチ中国の風が激しく吹いていました。Rioは200億ドルといわれる多額の借入金の返済期日が迫っており、資金調達は必須でした。そこに、ナンバーワンのお客様である中国国営企業からの出資の申し出は「渡りに船」でした。しかし、英国他の大口株主の猛反発にあった(英国では株主割当増資の検討を優先する習慣が強い)ため、デットロックになっていました。特に、中国側がRioの鉱山に直接出資すると言うのが、Rioの企業価値を骨抜きにすると反発していました。 いやー、非常に滑稽な結果となってしまいました。Rioは借入金の返済に困窮していて、結局これが返済できないと経営が行き詰ってしまいます。Rioの経営が行き詰ると困るのはほかならぬ株主のみならず、中国側も困ってしまいます。したがって、本来このディールは利害関係者が皆ハッピーなはず? でした。何せ長期安定的な大口顧客が自ら出資してくれるのですから。中国以上のお客様は今の資源業界にありません。 反論の大半が、中国企業がかなり大きな株主になると、Rioは中国の言いなりになって、不当に廉価な価格で鉱石を中国に売る、と言う利益供与的なものでした。しかし、今年の鉄鉱石の交渉では、Rioは中国側の昨年比40%ダウンの提示を跳ね除け、先に新日鉄とポスコに対し33%ダウンで契約をまとめ中国に強気の対抗姿勢を崩していません。したがって、Rioは忠実に利益の極大化を追求している、と言えそうです(今年だけとの声もあるが)。 株主割当だけで十分な資金が調達できるのかが次の焦点で、ひょっとするとBHPビリトンの再来がありうる展開にもなってきました。BHPビリトンはこの状況で、会社丸抱えは消極的で、Rioの持つ優良鉱山の権益買収で生産性を高める戦略を狙っているようです。それが証拠に、この冬かなりの額の社債を発行していまして、軍資金はあるようです。西豪州のピバラ鉄鉱石やチリの銅山が有力と言われています。 一応、これまでの報道ではRioティントは「Plan B」(株主割当)も考えている、と主張していましたが、「Plan C」(同業他社への資産売却)も検討せざるを得なくなってきました。 外野からは、ちょっと注目度が上がってきます。チナルコは「ええ加減にしろ」といった感じでしょうか、それとも米国債の買い入れを優先したのでしょうか? 空気を察したのでしょうか?Rioの経営陣は益々眠れない夜が続きそうです。 「感情論」 ならぬ 「勘定論」 で考えればいいディールだったのに。英国の人は「功利主義」と思っていましたが、案外こだわりますね。
2009/06/05
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すでにたくさん報道されていますが、米国のバイオベンチャー、ギリアドサイエンシズがCVセラピューティクスに対し、1株20ドルでTOBを表明し、CVセラピューティクス取締役会は、賛成を表明した、とのこと。 これは、ギリアド社が ホワイト・ナイト として登場したということに他なりません。アステラス製薬は完全に 「振られ」 ました。この逆転TOBに対し、アステラス側は現状は沈黙を守っていますが、アナリストの間では、価格を引き上げて対抗する可能性を分析しています。仮にギリアド社に対抗してTOBに発展すれば、買収合戦にヒートアップします。 アステラス側の読みがどうだったのかは全く不明です。対抗者の登場を予想していたのか?16ドルで表明してそのあと特に値上げせずに、プロキシーファイトに持ち込もうとしていたようなので、予想外のことなのかな? インベブとアンハイザーブッシュや、カールスバーグ・ハイネケン連合とスコティッシュアンドニューカッスルなどでも、被買収者側は「価格が低い」と言った結果、買収者側も段階的な値上げを実施しています。被買収者がTOBに反対する理由は 「常に」 価格でした。 不成立だったものの、BHPビリトンとリオ・ティントも一度価格を引き上げています。最初から引き上げることを見越したスタートプライスだったと思います。なおかつ、これらの事例では、いきなりTOBに入らず、提案段階で終わっています。TOBに入ったときにはすでに被買収者側は賛成を表明しています。 しかし、アステラスでは、すでにTOBに突入し、プロキシーファイトを表明してしまったので切るべきカードを切り損ねた感もあります。今更価格を引き上げたとなれば、CV社側の株主を甘く見ていたといわれかねません(けど、現在のCVの株主の多くは値ざや稼ぎの人だから、価格を引き上げることは常に歓迎される)。 アステラス側はまずは既存株主に対し、買収の正当性に対する十分な説明を行い、次いで、価格根拠を説明し、そして、CV社側の株主にも自分たちの提案のよさをアピールをもっとすべきです。買収したらアステラスの企業価値または株主価値にどれだけ貢献するのかという点は、外国人株主保有比率が45.1%(08年9末現在)もあるので重要な気がしましたが・・・。 徐々に泥沼化していませんでしょうか?日経新聞には、製品さえあれば人は関係ない、という趣旨がありましたが、これは少し考えさせられます。 一方、結局もう一方の敵対的買収だった ロシュとジェネンテックは 「友好的買収」 に落ち着きました。1株95ドルでジェネンテックは音をあげました。(112ドルの正当性はどうなったんだろう)ロシュ側は如何に、経営幹部と研究者の引きとめが出来るのかが課題とロイターでは言及しています。バイオベンチャー企業はコア経営陣やコア研究者はストックオプションを行使できるので、売却により金銭的には目的を遂げてしまうようです。 こちらはジェネンテックより4月になると有力な新薬の研究開発のフェーズ3の途中経過が発表されるということなので、研究者が買収後も研究し続けてくれることが必須です。局面の違いがあるものの、ロシュとアステラス製薬の対応を比較してしまいますね。 3/15 9:00 追記フィナンシャルタイムズで、アステラスは 「対抗Bitに応じないかもしれない」 といった、との記載がありました。Health care sector provides Wall St tonic フジサンケイビジネスアイでも、第一三共-ランバクシーのような巨額ののれん減損を警戒しているとの記事もあり、総じてこれ以上の突っ込みがないかのような記載です。 第一三共は確かにこけちゃったけど、友好的なM&Aだったし、今回の買収金額から1000億円をさらに数百億円増額しても、のれんの償却の際は結局大して変わりはない、かつ、ランバクシーのような中途半端な上場維持ではなく、100%買収を意図しているんでしょうし、プロキシーファイトまで覚悟したという経営陣の決意が中途半端に感じられ、結局投資家としては、頼りない経営陣と言う風に映ります。少なくとも、ランバクシーのマネージをやりぬく決意を表明した第一三共の経営陣の方がアステラスよりも投資家として投資したくなります。製薬会社も立ち止まっていては何も得られないのでしょう。マイクロソフトも刀を引っ込めましたが、あれとは全く状況が違いますね。
2009/03/13
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昨日の「武田ショック」はすごかったですね。ストップ安とは・・・。新薬開発のプレッシャーが強くのしかかりますね。 以下のアステラス側の事実は同社のHPの公開文書を参考にしています。米国のSECファイルはとても読めませんので、そちらでもっと詳しいことが公開されていると思いますが、時間がなくご容赦ください。昨日は憶測段階のブログエントリーでしたが、今日、アステラス製薬は、正式に敵対的買収の提案先である、CVセラピューティクス社にプロキシーファイトを挑むことを公表しました。CV Therapeutics社に対する株主提案に関するお知らせ要するにCV社の取締役の首を挿げ替えて、アステラスの提案に「Yes」と言わせてしまうということでしょう。 これによると、アステラスの推薦する2名の取締役はアステラス社によれば、「高い適格性を有する独立した」者とのことで「株主にとっての価値最大化機会を前向きに検討する意思がある取締役会の選任」のためには必須だと主張しています。相手側のCV社は「ポイズンピル」(すなわちライツプラン)を導入済みで、「Just Say No」 の状況です。 一旦、強行策をチラつかせて、今後、CV社側の出方を見るのでしょうか、それともそのままプロキシーファイトに持ち込むのでしょうか?では、このポイズンピルをどうやって突破するかと言えば、TOBで出来るだけたくさん買い集めて(2/3超が必要)、(日本人が忌み嫌う)株主の権利とやらを行使して、アステラスに好意的な(注:同社は「独立したもの」と述べています)取締役を送り込み、ポイズンピルを消去することです。または2/3を超える委任状を集めてその意思を貫くことにあります。 なお、CV社はスタッカードボード(取締役の期差選任;取締役の任期を期ずれさせることで、一度に過半数の取締役のイスを乗っ取られないようにする。米国では取締役の任期は3年程度が一般であり、取締役総数を3で割った人数を毎年改選するケースが多い)を取り入れている模様ですが、これも、アステラス側はTOBで2/3を掌握して、一気に残り2/3の取締役を解任させようとしています。これが成功すると、近年まれに見る敵対的買収劇になるかもしれません(もっとも私が見ているのは大型のM&Aばかりなので、今回の1000億円程度のM&Aですと、見落としている可能性がありますが、何といっても、仕掛け人が日本企業ですからね)。 多くの敵対的買収は、結局、買収者が価格を上乗せし、被買収者が「友好的」に降参してしまいます。アステラスは09年1月27日に提案した、1株16ドルを変更していません。価格は買収提案発表日の前日の終値より41%のプレミアムが付いています。しかし、それ以降は16ドルを貫いています。アステラスによると、16ドルはどこの誰ともわからない「第三者の意見」も取り入れた価格、とのことで具体的な算出根拠は公開されていません。原弘産と日本ハウズイング(懐かしいなあ)のような、完璧な計算の後はないですね。 かなり飛躍しているかもしれませんが、うまく2/3買い集めても、残りの株主にヘッジファンドのようなモノがいて、「16ドルではまだ安い」と反対するとか可能性がないのでしょうか?その場合、アステラスの息のかかった取締役は、どういった判断をするのでしょうか?(独立した方なんですよねえ???)杞憂かもしれませんが、こういった可能性を排除するために(CV社の株主名簿が手元にあるわけではないと思う)、もう一声ぐらい価格を上乗せした方が良いかもしれません(もちろん、M&A後の採算の方が大事ですが、M&Aの戦術としては)。 TOBはすでに2月27日にスタートしていますので、さらに何らかの反応があるかもしれません。俄然ヒートアップしてきました。蛇足ですが、どこの証券会社がアステラス側のアドバイザーなんでしょうか(たぶん米系だと思いますが)。米国だとアドバイザーは開示されるのですが。 日本だと、「提案どまり」 で 実際にTOBに突入することは敵対的の場合は(今まで)ありませんが、アステラスは思い切った手を打ってきました。強気のアドバイザーがいるんだろうなあと感じた次第です。野村や大和の仕業ではないことは確かです(旧リーマンの現野村の人ならありうるか)。 アステラスの株主側の立場はどうなるのだ???アステラスの株主にとってみれば、なぜここまで強硬な姿勢をみせてまで、CV社を買収する意義があるのか、という点については十分な説明がないと思いますが?バイオベンチャーたるCV社は開示資料によれば3期連続で最終赤字です(たぶん研究開発費を吸収できないのだと思いますが)。そのような企業に約1000億円を投じてどのようなシナジーが得られるのか、など示す必要性もあるのではないでしょうか? よく「3年後に100億円のシナジー」とか言うあれです。アステラス株主に今回のM&Aのメリットが何であるかの十分な説明は重要だと思います。アナリスト向けの説明会や株主向けの説明資料などの開示は跡がないです。エーザイさんはこの辺はとてもきちんとしていましたが。 一般論M&Aは自社の株主の価値を最終的に向上させるための一つの手段であり、一番重要なのは自社株主への説明責任ではないかと思う次第です。株主はM&Aでなくとも内部成長でもいいので、業績が良くなればそれでいいのです。ただし、その業績達成のために、どれだけ資本を効率的に投下しているかが問われるはずです。 M&Aは友好的に行われることが良いに決まっています。無理やり買収しても、買収後のインテグレーションが大変です。もう少し、柔軟な方法をとった方がいいかもしれません。買収提案に対して、注目を置いているのは株主だけでもありません。従業員や取引先も注目しているはずです。そして、自社のステークホルダーも注目しています(うちの会社は結構えげつないなあ、なんて思う人もいるはず)。M&Aが活発化していますが、社長の功績はM&Aをやったこと、ではなく、やはり利益の極大化、株主価値の極大化で評価されるべき、という風潮が出てくると、ずいぶん雰囲気も変わるのでしょうね。それともし、このM&Aが成功すれば、この程度で日本でも敵対的買収が成功できる制度を作り変えてほしいものです。ことM&Aにおいては制度的に他の先進国とアンフェアーで、もし仮に、日本企業がのそアンフェアネスを 「有効利用」 しているとすれば、海外からの非難は間逃れないでしょう。
2009/03/10
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このブログの中心話題の一つでもある敵対的買収関連。こんな景気低迷期でも、「やるときはやる」のでしょうね。 医薬品業界のM&Aが活発です。09年に入り、医薬品売上高世界1位のファイザーと同9位のワイス(ともに米国)が統合を発表しました。これは「友好的」な再編劇ですが、常にそうとも限らないようです。(医薬品業界2010年の衝撃 酒井文義著より)世界4位のF・ホフマン・ラ・ロシュ(スイス)が同16位のジェネンテック(米国)には「敵対的買収」を仕掛けており、TOBの最中で神経戦を繰り広げています。そしてもう一社、世界20位(日本では2位)のアステラス製薬も米国のバイオベンチャー、CVセラピューティクスに対し、敵対的TOBを既に繰り広げていることは、知る人は知るところです。 上記2つの敵対的買収はかなり特徴的な面があり、米国のNYTなどでも話題となっています(その割りにアステラスの件はあまり大きく取り上げられない。日本企業が 「敵対的買収者」 の場合はあまり目立たず、「被買収企業」 となった場合は相当反響が大きいのだろう。日本人の性格の問題か。教科書問題もこういった偏向が巻き起こしたのかもしれない)。 ロシュの件で何が話題かと言えば、ジェネンテックはロシュが既に55.8%の株式を保有する実質的なグループ企業であり、今回経営権の完全掌握を目指すためのM&Aであるにもかかわらず、ジェネンテック経営陣は、そのTOB価格が低すぎる、と買収提案に「はむかう」姿勢を崩さないからです。それどころか、ロシュは先週金曜日までに3回の価格提案をしていますが、第一回目の提案価格は08年8月に1株89ドルだったのが、2回目の提案価格を09年1月に提示した際には、86.5ドルと価格を引き下げたと言う点で話題を呼んでいます。ロシュの言い分は「市場動向の変化」とのこと。そして先週末、3回目の提案価格である93ドルを言い渡しました。一方、それに対し、ジェネンテックの特別委員会は、現在のパイプラインを考えると提案株価は低すぎて、とても株主に推薦できるものではないと反発し、具体的に112ドル、と「適正価格」を主張しています。昨年夏から、ロシュから執拗に買収提案を受けていたものの、ジェネンテックは拒み続けていたため、ついにロシュは「株主に直接真意を問う」行為に出たわけです。しかしながら、ロシュの実質子会社たるジェネンテック買収に、子会社の「独立委員会」は少数株主のために、算出根拠が不明ながらも、「適正価格」を開示して、徹底的に拒み続けている姿勢は、日本の「独立委員会」の諸先生方は大いに見習ってほしいものです。私は、実現可能性は不明ですし、空想上の話で身勝手なのですが、ロシュが61%保有する日本の中外製薬が仮にロシュからジェネンテックのような提案を受けた場合はどのように対応するのか見てみたいものです。既に昨年6月に50.9%から59.9%まで買い増しした際にTOBが行われていますが、この時は「たった11%」のプレミアムで、あっさり決まっています。戦略的アライアンスと少数株主の保護を履き違えないように既存少数株主の方は見た方がよいかもしれません。さて、ジェネンテックへの買収提案は、ロシュが少数株主をスクイーズアウトするといって、さらに2段階買収をちらつかせるなど、佳境に入りつつあります。即ち、仮に93ドルでTOBに既にロシュが保有する55.8%を含めて90%を超えた場合、残りの10%程度の株主は93ドルで強制的に換金して出て行ってもらう、というもので、米国では90%もの株主が集まれば、「経営の迅速化」のために少数株主は「搾り出されて」しまいます。 一方、ご存知、国内2位のアステラス製薬も、日本企業としては珍しく敵対的買収を行うと言う点が米国でも話題となっています。さらに、相手側のCVセラピューティクスには「ポイズンピル」が導入されている、ということですから見逃すわけにはいきません。ちなみにアステラス製薬は「ライツプラン」の導入はありません。したがって、個人的には「敵対的買収をする権利」があると思います。米国でも「ポイズンピル」のことをNYTのDealbookでは「Just Say No Strategy」といって批判されています。日本のライツプラン同様の言われようです。アステラスはこのポイズンピルの中、TOBを実施しています。米国医薬品会社CV Therapeutics社に対する株式公開買付けに関するお知らせ 09/2/27アステラス側は既にCV社の株式のいくらかを保有しているようです。したがって、このTOBを成就させるためにはさらに価格を引き上げて、CV側の取締役会を揺さぶるか、アステラス側は、プロキシーファイトに持ち込んで、アステラス側役員を送りこみ、新しくCV社の役員に選出された親アステラス側の役員がCV社のポイズンピルを取り消すことで解決するようなシナリオが考えられます。3月6日のブルームバーグでは、アステラスは後者の方針を固めたと報道しています。事の発端は共同開発している製品の取り扱いのようです。日本企業による徹底した敵対的買収ストーリーとなりますか。日本発プロキシーファイト? 日本企業のIn-out M&Aが盛んになっていますが、医薬品業界はその中でも主役に近い状況です。大手4社(武田、アステラス、第一三共、エーザイ)は全てここ数年間で海外企業のM&Aを経験しています。これはひとえに「医薬品業界の2010年問題」と言われる問題から来るものです。2010年に大手4社(特に武田とエーザイは死活問題)の主力医薬品の特許切れが迫っていますが、それを引き継ぐ新薬の開発が遅れていることが原因となっています。また、国内医薬品業界は少子高齢化の中、薬価改定で薬の単価が下落することが確実で、それほど成長性が望めない状況になっています。「高齢化社会となれば需要は増加するではないか」という意見がありますが、日本は国民皆保険制度を採っていて、肝心の保険料の納入者たる労働者の比率が低くなってしまうという皮肉があります。要するに、全体の納入される保険料の伸びが限定的で、したがって使える医薬品代もいきおい制限されざるを得ません。日本の医薬品市場は6兆円ほどあり、世界2位とのことですが、世界1位の米国は50兆円と言われています(注:オバマ大統領の「選挙公約」である医療制度改革の行方が話題となっており、業界にダーク色をもたらしています)。したがって、今のうちに世界に通じる製薬会社となることに大手4社は必死です。海外売上高比率も大きくなり、為替の影響を受けやすくなっているので、「ディフェンシブ」銘柄とはいえなくなってきています。 また、新薬の開発も年々難しくなっており、米国FDAの承認時間の長さや承認基準の厳格化(年々医療技術が進んでいるため、ちょっとした開発だと「特許」を与えるまでに行かないということで、承認基準が高跳びのバーのように高くなってしまう皮肉な現象)されており、あのファイザーですら画期的な新薬が出せない状況です(といってもファイザーの単独での画期的新薬ってあの「バイアグラ」ぐらいじゃないか?)。これが、大手同士がくっつけばいい、という再編から、武田のミレニアムファーマや今回のアステラスのCV社のTOBまたはエーザイのMGIファーマ買収など、自社の開発の不足を補完する中堅医薬品ベンチャー企業の取り込みが主流となっています。エーザイ、MGIファーマTOB成立 08/1/30一方、外資が日本の医薬品メーカーを買収するか、と言う観点は既に古いようでして、世界的大手は皆日本にしっかりした拠点を設けていて、日本企業をいまさら買収するメリットはほとんどないようです。 医薬品業界ではないですが、住友重機械工業は結局アクセリステクノロジーズ社への敵対的買収は不発に終わったものの、その買収目的だったSENという半導体製造装置会社を100%子会社化にすることに成功したようで、あの騒動は何だったんだという感じでしょうか。SENに「住友の精神」とやらを叩きつけてくださいな。半導体製造装置なんて不動産に次ぐ不況業種なので、エコノミーな価格だったんでしょう。参考住友重機械工業 VS アクセリス・テクノロジーズその4 アクセリス社「防衛成功」 08/09/18
2009/03/08
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このブログでこだわったBHPビリトンとRioティントの敵対的買収の結末となるか、ラウンド2に発展するか? 日本企業の介入余地は? ロンドン証券取引所の顔でもある、資源2位のリオティントが経営危機に陥っているというのは一昨日の記述の通りです。FT.comで、早速中国側とのディール内容を報道しています。 Investor anger at Rio Tinto's China Cash(英国のマスコミなのでご察しを)これによると、総額195億ドル(ざっくり2兆円ってとこか)のうち、72億ドルは転換社債、のこりはRioの保有する優良資産へのマイナーでの権益買収とのことです。転換社債は期間7年間で年利9~9.5%、Rio株が45ドル以上で転換できる権利が付与されているとのことすべて転換されるちと、昨年の9%株を市中から買収したのに合わせて、何と18%で圧倒的筆頭株主となる。取締役1名の派遣の権利を保有するとのこと。 優良資産への出資は以下の3つを含むRioの主力優良資産への権益獲得ひとつは昨日記載した、チリのエスコンティーダ銅山の権益出資豪州のボーキサイト鉱山同じく豪州の鉄鉱石事業 これに対し、英国の上位株主は激怒。あちらでは増資を行う場合、まずは既存株主への株主割当出資を打診して、だめな場合は第3者割当で調達するのが習わしとか(聞いた範囲なので、違っていたらご指摘ください)。確か、英国随一の 「問題児」 ロイヤルバンクオブスコットランド(RBS)も政府出資以前に株主割り当てをしたような記憶あり。怒りの内容は、「まずわれわれが出資する権利を得るべきだ。次に、「クラウンジュエル」を売却するなんてもってのほかだ」 ただし、Rioはこの中国側の支援を実行するためには、チリと豪州当局の許認可が必要という。豪州側は、昨年の資源争奪戦で、あまりにも中国他の国々が豪州資源の権益を買収するので、外国側の豪州進出に神経をとがらせているという。(しかし首相は確か、中国語を話す、親中派のはずだが?)チリのエスコンティーダは昨日記載したとおり、ライバル、BHPビリトンがRioの権益買収を狙っている。BHPは銅山では世界2位のシェアがある。 そこで、このディール、BHPからの敵対的買収提案を退けたRioの陰に隠れて、チナルコ(国営企業なので、ズバリ中国)が最後に笑うのか?今回の195億ドルは中国としては1企業に対し最大の海外投資案件になるとのこと(日本ではJT-ガラハーの当時のレートで約2兆円の買収が過去最大)。 中国としては企業に対する影響力と個別資源に対する影響力の双方をゲットできることになる。イオンに出資して、なおかつ優良なトップバリューXXの資本も直接把握するようなものか? 一方、これまでの資源バブルの余韻さめやらぬ、資源メジャーでは生産過多に陥っているとの分析もある。すなわち、07、08年の異常な盛り上がりを前提に将来の鉱山開発を計画、実行してしまったので、少なくとも2011~2012年までは従来の生産量で十分まかなえたものを、昨今の突貫工事による開発でキャパが増え、結果的に在庫になっているのでは、という疑惑である。中国では資源需要の盛り返しが早々とその兆候があるが、Rest of the worldでは、今まさに在庫調整、その後生産調整が待っている。したがって、増産設備は早々に余剰となるリスクをはらんでいる、鉱石相場がまだ下落するリスクがある、とのこと。BHPもヴァ-レも生産調整がまだまだ不十分との指摘もある(すなわち、日本の商社もまだまだダウンサイドリスクがあるということになる)。 ただ、Rioという伝統ある企業(もともとスペイン国王の保有会社でその後、英国のロスチャイルド家が一時支配していた)とその優良資産にアクセスできる機会もめったにないので今回の投資判断は5年~10年という長期スタンスで見れば、日の芽を見るのだろう。 BHPビリトンとしては心穏やかならない話でしょう。1年前の買収提案は、Rioに「話にならないほど安っぽい」とぴしゃりと謝絶され、今回はBHPの示したか半数以上の株式交換ではなく、特定株主への「優待券」の発行であり、優待券の価格が昨年より割安である、というのは解せないでしょう。チナルコとBHPとどちらがRioの資産を評価していて、どちらがRioの株主にとって得策かという選択肢を考えたのか、というプロセスが不透明です。 また、ボーキサイト、鉄鉱石の資産がある豪州はどちらかといえばBHPびいき(BHPはメルボルンが本社)、エスコンティーダの筆頭権益者はBHPです。豪州政府を味方につけると、「ラウンド2」がありうるかもしれません。 日本人としては、これで中国側の鉱物資源の「乱獲」が落ち着いてくれれば、メリットもある。 商社側も、すっかり「資源会社」という看板が大きくなりすぎたことへの揺り戻りがあるかもしれないし、常識的にこれからバブルの発生源に積極的な投資をする、とうのは社内的にも対外的にも理解が得られにくい。そしてなんといっても、総合商社と言えども、資金調達が十分な環境にない。したがって、Rioに食い込むのは難しいか。相手は中国という国家だし。(本当はその常識が怪しいんですけど) ちなみに、日本のMUFGは、やっとモルガンスタンレーと日本法人統合の発表にこぎつけました。出資からあれこれ5か月です。計画が慎重だったのか、出資が唐突だったのか。たぶんその両方だと思う。
2009/02/13
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すみません。当ブログで取り上げるべきテーマだった、東洋電機製造 と日本電産の敵対的買収提案の件は勃発時点が多忙であまりチェックできていなかったことを言い訳にほとんど取り上げていませんでした。 月曜日に日本電産側は提案期限切れを理由に、提案を撤回しました。詳しく正式発表文を読んでいないのですが、おおむね日本ハウズイングと同じようなことと想像いたします。強いて言えば、特別委員会の勧告を受けて、日本電産側と2回程度面会した程度で、「委員会の顔を立てた」ことぐらいが前進したのでしょうか。多くは無意味な質問合戦に費やされたようです。 タイトルどおり、東洋電機製造、Yahoo!、Rioティントの3社は敵対的買収の防衛に成功しました。が、防衛後の世界は欧米と日本ではかなり違うようです。 Yahoo!は現在、創業者でもあるヤンCEOは辞任を表明。後任CEOが決まるまで暫定的にCEOをしていますが、マイクロソフトに「あの時」売却しなかったことを非難されて、CEOの座を維持でいなかったようです。後任CEOには元ボーダフォンCEOなどの大物のうわさもありましたが、当人は否定し、選考プロセスは難航の模様です。後任者はマイクロソフトへのヤフー株の売却交渉が第一目的になるか、マイクロソフトが提示した33ドルを上回る成績を上げることが求められるというきつい任務を負っています。マイクロソフトはもう、お手の物で、サーチエンジン事業だけの買収だったら相談に乗る、とYahoo!側は非常に難しい立場にあります。面白いことに、バルマー、マイクロソフトCEOも永守社長も、「(相手側は)最初から売却する意思を感じなかった」(趣旨)と同じような感想を直談判で感じていた模様です。 「あの顔には、たとえ40ドルといっても売却しないと書いてあった」(バルマーCEO )と当時を語っています。 Rioティントは、まあ、Rioが悪いと言うより、欧州の公取委が却下してしまったことと、BHP側の景況感から今買収は得策ではないと判断したことが提案撤回の最大の理由のようです。しかしながら、Rioは昨年夏にアルキャン(カナダ)を67%ものプレミアムで買収しており(当時確か5兆円)、ほぼ借入金で調達しています。したがって、BHPは買収後この借入金のリファイナンスを考えていたようですが、先行き不透明感から、多額の借財を負いたくないというのが提案撤回の最大の理由のようです。ということは防衛後には、Rio自身も過剰債務の返済に苦しむことなり、アルバニーCEOは厳しい目で見られつつあります。株価も買収期待がはがれたので、30%下落した模様です。鉄鉱石の価格や生産量とも急減が避けられないまま、バブルで高値つかみをした借金の返済が重くのしかかります。資産売却を急がねばなりませんが、資産価値が劣化しています。そして、中国(中国アルミが10%前後Rioの株を保有している)がさらに増資などでRioの支配権を手に入れようとするうわさがあります。まさに前門の虎、後門の狼です。 翻って日本では。ブルドックソースの社長は全く何もとがめられていません。最近ではリストラのために閉鎖する予定だった工場すら閉鎖しないような記事を見ました。TOCはダビンチからのTOBに僅差で「防衛」しましたが、これといって経営陣、創業家にプレッシャーはありません。日本ハウズイングは、原弘産の保有株式を、お仲間のリロホールディングスに持ってもらい、6億円を「防衛費用」に支払った以外に特段変わりありません。東洋電機製造では「提案可否の判断は株主がする」と繰り返し言及していましたが、株主が判断する機会はついに訪れませんでした。これから独力でこの不景気を乗り切る資金繰りが付いたから強気に出たのだと思いますが。 こういった日本企業はオーナー経営で持ち株のかなりが与党株主であるため、規律が働いていない点が欧米との最大の違いでしょうが、防衛した企業が買収提案前と比較して何も変化がないというのもいただけないというか、これでは防衛策を導入すればあとは「ごね得」となってしまいます。日本でも防衛したとしても高くつく、という何かがないとせいぜい数億円程度で防衛できてしまうシステムだと防衛策入れたもの勝ちです。あの永守さんでさえ、突破できなかった(永守さんだからと言う意見もあるが)ライツプラン。提案側がファンドだとか誠意があるとか、企業価値を向上させるとか関係ありません。ただNoを言い続けていればよい、ということになってしまいました。(最も今回、日本電産側の景況感も悪化しているはずであり、リスクを負わなかったという側面があったのだろうし、銀行も期限を越えて株式買収資金の融資に応じるほど余裕がなかったのでしょう。東洋電機製造は「運」も味方だったと推察します。 以下雑談昨日のゴールドマン、今日のモルガンスタンレーの決算発表でもニューヨーク株価はたいした反応を示しません。2社とも巨額の赤字計上をしましたが、株価は2日通算でかえって上昇しているようです(午前2時現在ですが)。モルガンスタンレーは続伸しています。ひょっとして、金融恐慌の山を一つ越えたのかもしれません。後はバンク・オブ・アメリカの来月の決算発表が最後の勝負でしょう。おっとその前にゼネラルモーターズへの融資がどうなるのか、という山がありますが。空売りする人がいなくなった、材料出尽し感があるのでしょうか。投資にはもってこいの時期が来たのかな? 最近の風潮はオバマ次期大統領が全てよくしてくれる、と期待が過剰に感じられます。彼の側近は元クリントン政権の重鎮です。「Change」といったものの閣僚はチェンジできていないし、オバマ氏のPER(株価収益率;期待感)はヒートアップしすぎではないかと感じてしまいます。確かに優秀だと思いますが、全知全能ではないので、等身大に見てあげたいものです(と言いつつ彼には日本経済復興の期待も副作用としてあるんですが)。仮に政策や手腕が期待はずれ(これは高い現在のPERを上回る成果が上げられなかったに過ぎず、並み以上の成果を挙げても起こりうる)終わった場合、ちょっとかわいそうな気がいたします。
2008/12/17
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ロイターによると、当該ディールに詳しい銀行筋が今週中にもシンジケートローン組成完了が近づいていると述べたそうだ。 RLPC-InBev poised to draw down $55 bln to pay Bud shareholdersこれまで当ブログではアンハイザー・ブッシュ(バドワイザーのメーカー、米国本社)に対するインベブ(ベルギー本社の世界2位のビールメーカー、経営はブラジル人主導)の敵対的買収について記載してきました。結局はアンハイザー側の取締役会が全会一致で提案に賛同し、株主にTOBへの応募を呼びかける、「友好的買収」へと転換しました。 下記参考バドワイザーが買収されるかも? インベブ、アンハイサー・ブッシュに買収提案か? 5月28日アンハイザー・ブッシュ VS インベブ その2 America's KING OF BEERS の買収防衛と米国社会の反応 6月16日アンハイザーブッシュVSインベブその3米国社会の反応パート2 6月19日アンハイザーブッシュ VS インベブ その4 This Bud's is not for you! 「プロジェクト ブルーオーシャン」 6月30日アンハイザーブッシュ VS インベブ その5 「陥落」 7月15日 そして、今日までインベブの株主総会、米国の独禁法審査、そしてアンハイザー・ブッシュ側の株主総会等全ての手続きをパスしました(独禁法審査ではカナダの一部事業の売却を条件に認可されたようです)。 「傷だらけの融資団」さて、申し込み時点から若干気にはなっていたのがインベブの資金調達でした。7月時点ではリーマンショック前ということもあり、インベブ側も、銀行団に融資をコミットメントさせるために10億円程度のコミットメントフィーを払ったこともあり、楽観的な空気が支配的でした。しかし、リーマンの破綻、欧州銀行の相次ぐ公的資金注入など金融動向は一変しました。このシンジケードローンのコアメンバーは以下の銀行です。バンコサンタンデール(スペイン)、東京三菱UFJ、バークレイズキャピタル(英国)、BNPパリバ、ドイツ銀行、フォルティス(ベルギー)、ING(オランダ)、JPモルガン(米国)、みずほコーポレート銀、RBS(英国)。 JPモルガン(一番健全な米銀ですが、一応公的資金注入される)が中心になっているものの、バークレイズ(3度目の増資はカタールなどからですが出資条件で既存株主ともめている)、フォルティス(ベルギー・オランダ政府に完全国有化された)、ING(政府から公的資金注入)、RBS(公的資金注入)、と決して台所事情が芳しくありません。ついでに言えば、フランスナンバーワン銀行BNPパリバはインサイダー云々で日本では非難を浴びています。そして邦銀は持ち合い株式の評価損に苦しみ、これから不良債権引当金が尚増加しそうな気配です。東京三菱UFJはこの間、モルガンスタンレーに9000億円出資して1兆円増資を伺っており、みずほも3000億円程度劣後債を調達するようです(劣後は相変わらず系列の生保が引き受け手の中心の模様です。進歩がない)。バークレイズは1兆円近くをさらに増資するそうです。同行は確かサブプライムが始まって3度目の増資(2度目には三井住友銀も1000億円近く「戦略的な」増資に応じた)ですが、今回は何でもカタール辺りのSWFからの増資とのことです。この条件が英国政府の公的資金の配当利回りなんかよりも好条件だとのことで既存株主から「モノ」を言われているそうです。「中東の投資家にそんなよい条件で増資をさせるのなら、まず既存株主に割り当てるべきではないか。また、なぜ英国政府でなく中東の投資家から受け入れるのだ」といった感じです。 インベブの資金調達計画は総額5.5兆円のうち、4.5兆円は融資、残り1兆円はインベブ自身の増資ということになっていました。欧米でこれだけのビッグディールにもかかわらず株式交換が全く入らないのは珍しく、確か記憶ベースですが、史上最高の現金ベースのM&Aになるはずです(売却側株主の立場からみてM&A対価が全て現金と言う意味)。なぜ株式交換を取り入れなかったかというと、インベブの株主構造(詳細を調査していませんが)が、投資ファンドとベルギーのインベブのオーナーを主としており、これを崩したくないというのが第一理由と聞いています。 私はこのディールは結構やばいんじゃないかなあとひそかに思っていました。10月中旬にヘッジファンドの解約による相場大暴落があった直後に、インベブ側は増資を計画していたのですが、当のインベブ自身の株価も暴落し、思うように増資が出来なかったからです。増資は年明けに延期となっています。 インベブの株価推移。10月以降急落 こういった事情であるにもかかわらず、各行「予約済み」の融資枠の中応じざるを得ないのでしょう。アンハイザーの株価もそれを物語っていました。尚、増資部分の1兆円はブリッジローンということでつなぎ融資が出るようですが、つなぎ融資の期限は6ヶ月でこの間に増資を完了させ、なおかつアンハイザーやインベブのノンコアビジネスの売却で現金を稼ぐという算段になっています。 アンハイザーの株価、一時60ドル割れ。TOB価格は70ドル (うわさベースですが、インベブの韓国事業を日本のアサヒビールが買収するのでは、と言う記事もありました。アサヒは否定していましたが)このシンジケートローンは7月時点では確かトリプルB格付けだった記憶がありますが、これから先の実体経済の悪化を織り込むと、いくら食品とはいえ、生産量の増加はそれほど期待できないような気がしますが・・・。当該ロイターの記事によりますと、各行は最低4000億円程度を引き受けることになっている模様です。当然各行はセカンダリーで他行にも融資を募ったり、一部債権売却をしたりするのでしょうが、ご存知のとおりのサブプライム騒ぎで、「血が止まっている」状態でどこの銀行、投資家がこれを引き受けるのか(セカンダリーの人には引き受ける義務がない)結構大変です。なぜ大変かと申しますと、各国・各行とも「貸し渋りは厳禁」と厳しく当局から睨まれている状況下の中、4000億円はさすがにきついと思います(これで中小企業向け貸出金がタイトになると余計風当たりが悪そう。なおかつ、融資対象がアンハイザー・ブッシュ、要するにバドワイザーの売れ行きが担保とはいえ、その売れ行きの大半が米国ですからねえ。自動車の売上が30~50%減、ヤケ酒はあっても、米国人は前向きな飲食は控えると思います)。 以下は余談ついでながら日本政府がIMFに10兆円の融資枠を設定し国際貢献を果たしているかのような記事があります(財源は外貨準備金より)。しかし、その10兆円で世界貢献も悪くはないが、まず自国をしっかりして欲しい。かつ、実はIMFが国家財政に関与することは、近視眼的には各国から「お呼びでない」という側面もあります。アジア通貨危機の際の隣国韓国の混乱振りは記憶に新しいです。もっとも、中長期的には韓国経済が立ち直ったので、よかったのですが、かなりの痛みを伴い、国民の反IMF抗議などあったかのように記憶します(IMFの支援の前に韓国は日本に支援要請したが、日本は謝絶したらしい)。立ち回りの下手な日本外交で、良かれと思ってやったことであだ花を咲かせることがないようしっかりアピールしてほしい。(その10兆円があれば内政でいろんなことが出来ると思うが故) 全てとは言いませんが、ざっくりと、進んでIMF融資を受け入れない国々。進んで公的資金を受け入れない日本を含む世界各地の銀行(米国は半強制的でかえってびっくり)。オーバーバンキングと言われて久しい日本の地域金融機関も同じ。進んで身の丈にあった金融機関で融資取引をしてこなかった日本の中小企業。 制度としては資金の出し手はいるのですがねえ。公共の福祉か経済的自由の確保か、と言う点でしょうか。共通点は自らの過去の汚点を省みず、将来のことを語ってしまうので、介入されたくないが資金は必要、ということになってしまう。有利な資金調達をしたいのなら、普段から資金効率に気をつけなければならない(あまり利益を生まないものにお金を費やさない)という点だと思います。これは町の中小企業からグローバルバンク、又は国家財政でも結構共通していることだと思いました。緊急事態に言っても始まらないが、日本の場合2度目の緊急事態でもあまり進歩のない事実が多くガッカリ。
2008/11/17
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原弘産とカテリーナイノウエの保有する日本ハウズイング株式約27%をリロ・ホールディングス(JASDAQ2366、以下「リロ」という)が買い取ることになった模様です。 リロは本取得に辺り、日本ハウズイングに対し、ライツプランの不発動(買い取り賛成)を要請し、はノンハウズイングはそれに応えました。10月20日リロの発表文日本ハウズイングの発表文20日(受け取りましたと言う文章)21日(合意しましたと言う文章) 公表文書によると、10月中旬にリロと交渉を開始し、10月20日にリロが買い付け説明書を日本ハウズイングに提出、21日にはあっさり賛成、となっています。結果的に日本ハウズイング社はリロの持分法適用会社となる見通しだとのこと。様々な疑問が沸いて出ますが、あまり時間がないので簡潔に。 疑問1なぜ、たった1日で賛成したのだ。原弘産への「重箱の隅をつつく質問攻撃」と同レベルの検討をしたとは思えない。せめて1回程度詳しく質問を投げ返してもいいのではないか?リロの提案書はそれなりに立派だと思うが、それでも尚、あれこれ質問したのになぜ?原とのヤリトリでは、「完璧な提案書はありえない」と思わせたあの気合いは全株主のためだったのではないのか? 疑問2価格が一株約870円となっているが?確かに今回の取引は原弘産Gとリロの市場外の相対取引であり、いわば勝手に取引しているのかもしれない。したがって一般株主とは違うところでの取引で、会社側から見れば止めようのない側面もあるだろう。しかしながら日本ハウズイングの株価はこの世界的な「フリーフォール」状態の下げ局面で、1000円前後にぴたりと張り付いていて、既に原広産がTOBをかけたかのような状態で推移しているという信じられない光景がある。これ見てください。日経平均の「フリーフォール」とは無縁のようだ。 取締役会としてはせめて市場価格並みの価格で取引するような「お願い」は出来なかったのだろうか?一般株主は1000円程度と信じていた株価がそれより1割ちょっと安い価格で取引がされ、かなりシナジーがありそうな業務提携をするのだったら、もっと高く評価してもいいのではないだろうか?したがって原弘産がそれを主張すべきだったのではないか?もちろん経営支配しないと言っているのでいわゆる「コントロールプレミアム」は付かないのかもしれないが明らかに取引所で値段が付いているのに(もっとも原広産もマンション不況の直撃を受け、ヤフー掲示板では原倒産とか原降参とか揶揄られているので、お金に困っていたのだろう)。 疑問3ランドマーク社はこの直近まで大量保有変更報告書を提出しており(ほとんどの流動株を買っているような感じがする)同社が「じゃあ俺にも提携結ばせろ」と言ってきたらどうするんでしょうか。仮にも「元筆頭株主」ですし、3月末が12.6%の保有だったものが直近10月16日には18.11%まで市場で真面目に1000円程度の株価で買い集めていますし、リロ+ランドマーク+日本ハウズイングと連合すればもっとシナジーが出る、ということにならないでしょうか?そのほうが一般株主に都合がよいということはないでしょうか?(しかしこの会社に「一般株主」ってどれぐらいの割合が残っているのだろうという素朴な疑問もある) ノーリツといい、本件といい、もし仮にライツプランの手続きに乗せる、乗せないの決定そのものが取締役会の「好み」で決まってしまうのなら、ライツプランは恣意性のある欠陥商品といわざるを得ない。全ての提案をライツプランの手続きにかける(というとややこしいし面倒)というのも杓子定規であるし、ライツプランどおりに手続きが進むと鉄壁の防衛網にかかっているケースが多く(日本電産の件は注目中)、現時点は事実上、手続き外でコトをなさねばならないということになっている。客観的な基準作りが必要(ってそんな箸の上げ下げまで大の大人にするのもやってられないと言われそう)。 それと、本件とは違いますがLEOC(レオック、JASDAQ2366)がMBOに賛同しましたが、よく読むと、取締役会の全会一致ではなく、1名だけ反対した取締役がいるというこれも通常のケースとは異例の発表がありました。同社は「サッカーの」三浦カズが所属する横浜FCのスポンサー 発表文100円の取引株価を500円でオーナーがTOBをかけたのですが、それに対し、(1)既存大株主(三菱商事、やSodexoなど)との関係の希薄化を招く、(2)過大な借入金負担は経営安定化に資するものではない、(3)将来的な企業価値から逆算すれば過小評価しており、他のビッダーが出ないかの提案を求めるべきである、という趣旨で反対意見を述べています。「全会一致」が当たり前の取締役会に何が起こったのか、と詳しく見てみると、ジル・マエというフランス人取締役がおり、彼は資本提携先Sodexoから派遣されている者のようです。同社は約9%保有の大株主。マエ氏の言う「他の提案」とはSodexoなのでしょうか? しかし、バイアウトのときに他社の提案を検討する期間や意見を求め、その結果取締役会が賛同意見を出す、というのは欧米では普通に行われています。あの、米バーニーズに対するファースト・リテーリングの買収提案は、先に中東のファンドであるイスティスマルが経営陣にバイアウトの提案をしており、「他の提案」を広く聞こう、という時間帯に出たものでした。ファストリは残念ながら買収を断念しましたが、あれでBit価格がつりあがっており、バーニーズ取締役陣営はその忠実義務を果たしたのでした。単に100円、500円でよいというわけでもなく、マエ氏の主張は日本の取締役会運営に何か一風を投げかけてほしいものです。
2008/10/22
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22日深夜、1文字だけ修正しておりますスティール・パートナーズ(SP)に関するエントリーは久しぶりで、アデランスでの総会におけるまさかの社長解任劇以来だと思う。 本件への結論としては、ノーリツ側は後がないという感じで、SP側は株主総会(12月決算なので3月ごろ)に何か提案するのに向けたプロセスという感じかもしれませんが、そろそろ日本を理解したほうがいいかもしれません。そのほうが効果的です。 16日、ノーリツ側はSPのTOB提案について、TOBの際はライツ・プランの手続きに従うように意見具申しました。ノーリツ側の回答 これに先立ち、SPは08/09/11に1株1025円で発行済み株式総数の50.1%以上の取得を目指すという提案に際し、SP自身の提案が企業価値の向上の資するはずであるという理由から、ライツ・プランのルールの適用外で本提案をTOBにかけるよう取締役会の同意を得るという趣旨であったものと理解されます。SPのノーリツへの買収提案 これまでの経緯SPのノーリツに対するプレスリリース07/12/13に「企業価値向上のための提案」と称する分析レポート以来、盛んに赤字のキッチン・バス事業についての方針を問題視しています。その後1月29日付では、上記提案を経営計画に組み込むことへの警告7月14日付では、不採算事業の撤退と経営陣の交代をも示唆する文章を発表しています。そして9月16日のTOBへの取締役会の賛成提案へとつながっていきます。 これに対してノーリツは2月20日に、「第三次中期経営計画」で、同事業を黒字化するといっています。 争点は、SP側が不採算(赤字)の住設機器(システムキッチン、システムバス等)の事業が赤字化し、かつ固定費もかさむので、ライバルであるリンナイ(5941)と比較してかなり収益性が悪化していることに対する不満です。さらに、ノーリツがキャッシュリッチで低ROEなので、もっと株主還元をしっかりしてほしいというものです。 一方、ノーリツ側は、住設機器の事業は温水空調器(給湯器など)、厨房機器(コンロや食洗器)の事業とシナジーがあり、これを撤退しても固定費の抜本的な削減にならず、逆に赤字幅が広がる(営業赤字だけど固定費は賄っている)と主張。また、創業事業で経営理念の中核だからはずせない(とメッセージ)とのことです。ただし、SPの提案に対しては「本公開買い付けが当社の企業価値および株主共同の利益の確保・向上に『明らかに適う』とまでは認められないと言う消極的な判断を行ったにとどまり、当社の企業価値および株主価値共同の利益の確保・向上に「反する」ことにつき、積極的な判断に至ったものではありません。」という、あいまいな言い回しとなっています。ざっくり言えばSPの提案が共同の価値向上に資するかどうか取締役会としては絶対的な自信がない、ということでしょうか。ノーリツとしてはお風呂が創業の原点で、「お湯を作る、お湯を使う、楽しむ」が価値提供の会社だと信じて今まで事業を行ってきたので、いきなりその原点を否定されても判断できない、という風に言いたげな内容となっています。ただし、同社の発表資料ではシステムバスの損益分岐点は05年以降、3年連続売上高実績を上下回っており、黒字化が厳しいことを匂わせています(会社側は固定費削減で達成しようと考えている模様)。今期も7億円の営業赤字を計画段階で計上しており、黒字化は11年12月期まで待てという中期計画です。 なお、SPとしては、TOBにより経営権を把握できれば、自らの提案を実行すると言っています。9月の提案では経営陣の帰属については言及していません。 株主価値は向上することは間違いない(この市場動向のなかでプレミアムが付いているし、今のところ買取株式数の上限を言及していないので、非公開化もありうるのではないか)のですが、企業価値の向上に資するかわからないというのは言い逃れに聞こえます(ただし、従業員一同がSPをどうしても生理的に受け付けないので、経営権を支配した瞬間に全員辞表を叩きつける、という風であれば別ですし、結局は事業を売却するとなると従業員の処遇をどうするのか、という点に不安があるのと創業家に気を使っているということでしょうか。それが守るべき「企業価値」なんでしょう)。 SPは、このままライツ・プランを活用した提案に進むのか、別の手をとるのかわかりませんが、「じゃあ黒字化してROE8%をやってくれよ」というのが本音かもしれません。要は業績を改善して資本効率を改善して株価が上がればいいのですが、埒が明かないので提案やTOBに踏みきったのでしょう。 客観的に見ていますと、ノーリツ側は黒字化への執念を見せることと、資産効率の改善は必須でしょうし、外部環境が悪化したとはいえ今期決算が山場かもしれません。10年先を見据えると中期計画では述べていますが、今年がなければ10年先もないというのが実際ですし、創業事業から撤退して成長している企業もたくさんあります。2期連続赤字は許されないと思います(実質無借金企業だから悠長なのかもしれませんが、銀行から見ると要注意先候補になってしまいますので、色々銀行対策も本来なら大変になってくる)。もし仮に創業事業だから、多事業とのシナジーがあるのだ、というのならこの事業を早期に黒字化し、利益化することが創業者から託された現経営陣の宿命であり、ただ継続しているだけでは、創業者も悲しむでしょうし、3年先に黒字化とは変化のスピードの速い今日の情勢では悠長すぎると考えられます。何が何でも早期黒字化、利益化を断行すべきです。経営理念という目標を追求・実現するためには利益という燃料が必要だと思います。 SPは9月7日付日経ヴェリタス「脱『こわもて』対話重視へ 米スティール、日本での投資スタイル転換」に記載されているような対話重視路線に転じたようにも見受けられず(今回の提案にいたるまで十分な対話があったとは思えない経営陣との食い違いなのか、経営陣から敬遠されているのか)、新聞記載を実践してほしく思います。また、まずは経営陣と一緒に赤字事業の黒字化の道を探って見るというのが「日本的」だと思います。赤字だから止めましょうでは、オーナー色が強い日本企業は「わかっちゃいない」と一蹴されるだけです。SPが出資する企業は上場とはいえ、実質オーナー企業が多く、公開企業と言えど、オーナーは戦前の天皇陛下とあまり実態が変わらないケースが多く、「尊王」する姿勢を見せないと、ウォールストリート式のロジックを投げ込んでも、二重橋の向こうには届かないと思います。また、自社株買いの提案はいつも極端なメッセージが多く、保守的な経営陣には腰が引けそうで現実的な提案ではないと思われます(提案では議決権の38%の株を自社株買いすると記載ある)。ただし彼らが日本に上陸して6年経過し、その間完全撤退した銘柄は少なく、「長期的な株主」とは一応いえそうな気がしてきました(単に売り抜け出来なくなっただけかも知れませんが)。 今回は例の「買収防衛策の在り方」に行く手前の攻防ですが、ほとんど取締役会の意見は今回の社長声明に出し尽くされていると思います。したがって、このままライツ・プランに沿った手続きを踏んでもあまり画期的な進展がないのだろうと推測します。もしSPが「長期的な株主」なら、赤字事業の早急な黒字化を支援し、それでもダメな場合にもう一回、大胆な提案をすれば効き目があるかもしれません。本来は経営資源をぱっとしない事業につぎ込むより、強みのある事業に注ぎ、リンナイ他の競争相手とのシェア争いに負けないようにしないと、「その時」では遅きに失する可能性もあります。個人的には経営判断が遅くなって手がつけられなくなるほど事業劣化した企業をたくさん見ていますので、風邪ではないですが早目、早目の対策がいいと思いますが、こうもかたくなな以上は経営陣と一緒に考えることでしょうか。蛇足ですがキッチン・バスなどは、山勘ですが、製品価格に占める材料費割合が高いため、主要材料の高騰が結構利益を直撃するコスト構造ではないかと推察します。TOTOや松下電工などでも苦戦しているようです。 いずれにせよ、腹を割った話し合いが出来ていると思えず、今回の提案も従来型SPの姿勢とそれほど大きな差がないように感じます。一方、ノーリツの株主構造は硬直的なので、経営陣が賛成しない限り、抜本的な株主構成の変化も望み薄な気がしますが、経営陣も経営理念だというのなら、意地を見せるべきでなんとも締まりのない争いのような気がします。一応、経営陣側から今後の対応策をSPと話し合いたいという声明が出ていますので、今回のTOB提案は話し合いのきっかけになるのかもしれません。
2008/10/20
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米国のバイオテクノロジーベンチャー企業である、イムクローン・システムズ(抗がん剤「アービタックス」など)は、同社の筆頭株主で、おおよそ16%株式を保有する、米製薬大手のブリストール・マイヤーズ・スクイーブ社から、8月1日、1株60ドルという買収提案を受けていた。これに対し、イムクローンズ社の取締役議長である、カール・アイカーン氏は「過小評価している」と一蹴した。その後ブリストル社が1株62ドルに引き上げても「ばかげている」と相手にもせず、交渉のテーブルに着かない。一方、ブリストル社側は「直接株主に訴える」と敵対的買収も辞さない構えでいる。これは、取締役の過半数を更迭し、買収提案を真剣に検討する布陣とすることに株主から同意を取り付ける、と言うもの。(と言っても、2位株主で13%近くの株式を保有しているのはアイカーン氏なのだ)。ところが、匿名希望の「製薬大手」企業が70ドルでイムクローンの買収を検討している、と議長アイカーン氏が公表。この製薬大手はデューデリジェンスを実施しているという。したがって、アイカーン氏は本当にイムクローンがほしければ、条件を見直すよう申し入れたそうだが、ブリストル社からは音沙汰なしだったようだ。で、「製薬大手」は実在するのか、と言う点に焦点が集まっているようだが、10月1日(米国時間)の23時59分までに、買収提案を行うか、提案を引っ込めるといったそうだ。米国では「製薬大手とは誰だ?」ということに話題が集中しているが、かのビジョナリーカンパニーの一つであるメルクは「わが社ではない」と否定している。ファイザーやイーライリなどは「ノーコメント」としており、米国製薬大手の羨望の的のようだ、アービタックスは。ブリストル社とアイカーン氏の我慢比べの様相を呈している。アイカーン氏は経営者として少しでも「株主価値」を引き上げることに尽力し、ブリストル社は「フェアバリュー」での取引を目指している。アイカーン氏はあまり強引に価格を吊り上げた結果、ブリストル社が逃げると株価は急落してしまう。そうするとクラスアクションを起こされかねない。株主全体の価値を考える「忠実義務」がある。 あれ? アイカーン氏は「物言う株主」で有名な投資家。経営者として逆に攻撃を受けている。ブリストル社から、「取締役の更迭」というきつい要求を受けていて、それはアイカーン氏がよく使う手で、実際にモトローラやヤフーなどで自ら(又は氏の息のかかったもの)取締役に送り込んでいる。攻守逆転している。敵対的買収提案の株主、経営者双方の立場を実践しており、注目されている。「過ぎたるは尚及ばざるが如し」という格言にもあるよう、どこで手を打つかだろう。ディール不成立となるとアイカーン氏の取締役としての責任を問う声も出てくるだろう。一方、62~70ドル又は70ドル以上の金額でまとめると、「取締役アイカーン」としての評価も上がって、すっかり冷え切ったヤフーなどの次の展開も興味深くなってくる。 買収できる条件としてキャッシュでポンとできるところ(株式交換はこの市場では嫌だし、ファイナンスを必要とする形式は銀行がそれどころではない)に限られる。その分株価もつきにくそうである。ある医療機器メーカー幹部の方から聞いた話ですが、米国では大学発ベンチャーのような企業が新技術、新薬などを開発し、市場の芽が出てきたところで大手が買収する、というパターンが出来上がっているようだ。あのジョンソンアンドジョンソンなども頻繁にM&Aを行う。開発する人とマーケティングする人の役割分担が出来ている。もちろん自分でも開発を行っているようだが、そう簡単に当たらない。あの世界一位のファイザーですら、ワーナーランバート社を買収したときに手に入れた新薬の特許切れが向こう数年でやってくるのに次の有力パイプラインが見当たらず、市場は厳しい視線を浴びせている。高い配当で株主をつなぎとめているが、それでは開発資金や買収資金が捻出できず悪循環に陥っているような気がする。日本でもエーザイは次の新薬期待に米国の赤字ベンチャーを買収している。当たれば大きいが、なかなか当たらない製薬業界。M&Aは手っ取り早く「新薬」を手に入れる「研究開発」資金だ。 物言う株主が自らボードメンバーにもぐりこみ、その後の行動というものが注目される。日本でもアデランスホールディングスに取締役を送ったスティールパートナーズは、30日、MBO又は売却の「プロセス」に入った、と報じられ一時ストップ高を記録した(会社側はとりあえず否定)。 さてどうなるか、昼ごろにはニュースが出るか。けど金融問題でかき消されそう。追記:「製薬大手」はどうやらイーライリー社のようです。
2008/10/02
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今年2月に住友重工が非友好的買収提案(敵対的買収提案)を行った案件は、結局住友側が提案撤回ということになってしまった。 アクセリス側はさしずめ、「防衛成功」といったところか。ポイズンピルは全く関係ありませんでした。 これまでのいきさつは、以下の拙ブログを参照住友重機械工業 VS アクセリステクノロジー その3 デューデリジェンス入り 住友側からプレスリリースされた9月16日付「アクセリス・テクノロジーズ社との買収交渉終了に関するお知らせ」によれば、半導体市況の先行き不安定なこと、このためDD期間(株価提案)の延長を申し出たものの、拒否されたことなどが主な理由となっている。赤字続きのアクセリス社へ果敢に敵対的買収提案を試みたものの、自社の株主の理解を得られず、元のさやにおさまった格好だ。もっともその間、自らはライツプランの導入に成功するなどのこともあった。 現時点で多額の買収資金を費やさない、というのはいかにも堅実な住友らしい判断だと思う一方、もともとアクセリス社との50%ジョイントベンチャーであった子会社の経営支配権をめぐったM&Aだったので、当該子会社の運営をそれまで通り継続できるのかは結構不透明要素が多いと思います。 東洋経済オンライン 6月20日の記事 住友重機械 ドラマの2幕目 「日本的」からの旋回 結局は「日本的」?(1)によれば、取材でアクセリス側は、今回の買収提案に対し屈辱的な感情を持っていたようであり、このようにこじれてしまった関係を元のさやに収めるのは、通常では考えられないと思う(この記事はこれまでの私のこの案件のシリーズよりもずっと対住友重工に辛辣なストーリーとなっている)もちろん、ビジネスとの割り切りも可能だが、アクセリス側の対住友不信感は大きいように思われる。 しかし、一方のアクセリス社もこの買収提案の撤回で株価は破たん企業並みの水準に墜落してしまった(最も、業界の不況と昨今の金融不況と提案撤回と悪いことがトコトン重複した結果ですが)。 住友側はJV相手との相互不信感だけが残り、住友側株主はリスクを避けることができたものの、自ら敵対的買収提案を行う一方、アナグマのようなライツプランを導入など終わってみれば、何を得たのだろう? 「重要なパートナー」との連携の難しさを物語る。 それにしても東洋経済の記事は、憶測が入っているような感じを受けるものの、『一見、「日本的」から離れたかのような住重が、実は、「日本的」なるものから脱していないことだ。5月、住重の取締役会は「買収防衛策」の導入を決議した。決議案のリリースには「住友の事業精神」が高らかに謳(うた)われている。アクセリスのプーマCEOなら、さしずめこう言うだろう。「自分の企業文化を守るために外部からの買収を拒否しておきながら、人の会社の企業文化は買収で踏みにじってもいいと考えているのか」。』 とはまさにこのテーマで私が言いたかったことに限りなく近い。フェアな精神で運用してほしいものだ。総会も終わったし、いっぺん言ってみたかった。
2008/09/18
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8月1日、米ヤフー!は遅い年次総会を終えた。争点の取締役改選をめぐる委任状争奪戦は経営陣の圧倒的勝利に終わりました。85%の株主がヤフーのCEOヤン氏を支持したと発表され、取締役全9名が再選されました。もっとも、アイカーン氏はアイカーン氏またはアイカーン氏に近い2名のものを増員した計11名の取締役会のメンバーに迎え入れるというヤフー経営陣側の案に賛成していたこともあり、波乱は回避された模様です。こういった直前のアクティビストと経営陣の「取引」 は米国でちょっと流行っていました。この春の年次総会でモトローラやニューヨークタイムズなどが委任状争奪戦を回避するために、事前に数名のアクティビストをボードメンバーに抱えるというような形で双方妥結しています。アクティビストは4~5名ほど候補者を示し、経営陣側は2~3名ほど受け入れる代わりに委任状争奪戦を取りやめるよう打診するというもの。現在のところ、上記2社内でアクティビストが議論を巻き起こしているという話は聞かれません(注:他に数社似たような事例がありましたが、私が当時チェックしていたのはこの2社程度です。あしからず)。 さて、ヤフーに戻しますと、マイクロソフトとの数度にわたる提案、交渉を真剣に検討していないと批判されていた同社取締役会でしたが、異口同音にそういったうわさを否定し、あるものは、「1日26時間考えていた」 と言い、ヤフー取締役会が株主の利益を最大限に考慮して行動していることを強調しました。今後の行方はまた色々議論があると思いますが、アイカーン「取締役」が他の株主の利益を代表していない(だろう)と考えられる点があります。彼は25ドルほどでヤフーの株を買ったといわれていますが、「長期的な」他の株主はもっと高い値段で株を買っている人が大勢いると思われ、30ドル前後じゃ本当は利益にならない人も大勢います。しかし、アイカーン取締役はおそらく、マイクロソフトがもはやヤフーの「企業丸ごと」買収に興味がないことを感じているでしょうから、25ドル以上の価値が付く価格なら妥協する可能性も出てきます。一応、彼は33ドル以上なら、「長期保有の」他の株主にもけじめが付くと考えているようですが・・・。要するに、氏が取締役として全ての株主の利益を視野に入れて考えることが出来るのか、という点に興味が惹かれます。残念ながら、あのブーン・ピケンズ氏はさっさと損切でヤフー株を売却した模様です。過去3年程度で見てみると、やっぱり33ドル以上じゃないとしんどそう。しかし、考えようによっては、ヤフーの新取締役会に対し、アクティビストが出てきて「物言う」 勇気ある株主がいますでしょうか?新取締役会に物言う株主が出たとすれば、まるで、北島三郎か和田アキ子に文句言う、傍若無人な新人芸能人のような感じでしょうか?したがってヤフーの取締役陣営は、外野の声がかなり小さくなって、数的優位な内野の議論に集中できそうです。しかし、どういった議論がなされるのか見ものです。 米国の医薬品メーカー、ブリストル・マイヤーズスクイブ社がイムクローンテクノロジーズ社に買収提案を行いました。イムクロンからの返事はないため、友好的か否かなんともいえませんが、イムクロンの取締役議長はあのアイカーン氏だそうです。ブリストルは30%のプレミアムを乗せて、1株60ドルで提案しているようですが、金曜日の株価は既に60ドルを超えています。イムクロン取締役会の声明が見ものです。だたし、ブリストル社は既に16.7%程度同社の株を保有している模様で、他社との争奪戦は考えにくいですが、ブリストル社の平均取得株価は60ドルのもっと低い価格だと考えられるので、60ドルでは済まないのではないでしょうか?取締役としてのアイカーンさんの手腕を見てみたいと思います。しかし、医薬品にインターネットに通信機器(モトローラ)に、小売など様々な業種に顔を出していますが、お忙しいんですね。イムクローン・テクノロジー社(過去3年間の推移)は60ドルの提案が十分って感じ。 ヤフーが今回のマイクロソフトからの買収に耐え抜けたのは、ひとえにマイクロソフトに戦略上の迷いがあったからということになるでしょう。自らの株価も低迷していますし、マイクロソフトはグーグルが将来世に出すといわれているネット上でエクセルのようなスプレッドシートが取り出せる機能(商品名忘れてしまいました)がヒットすれば、MSのOSそのものをパソコンに標準装備する必要性がなくなるため、グーグルへの危機感を抱いているといわれています。検索機能はそれに比べると、戦略上の優先順位が劣後するのと、同分野で圧倒的優位に立つ、グーグルに経営体力をつけさせたくないという、むしろ自らの企業防衛上の理由でヤフーの買収にうごいたといわれています。インベブやBHPビリトンなどが戦略上の野望を達成するために、是非にとも、というほど固執していない点がMS側の事情でしょう。したがって、今回のヤフーの防衛(まだ終わっていませんが)が、日本の参考になるかはかなり事情が違うでしょう。しかし、アイカーン氏との取締役会での今後の議論はひょっとして、物言う株主との「付き合い方」に何かヒントがあるかもしれません。氏はたくさんの企業のボードメンバーになっていますが、ヤフーほど有名企業はないので、情報量も多そうです。
2008/08/04
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あちこちで議論される、日経新聞7月29日の経済教室の論文。著者の言い分は、いいたいことがあるのなら、経産省の元でなく正々堂々と政策提言して欲しい。なぜなら、企業価値研究会のガイドラインが現在の買収防衛策の原型を提言し、コンセンサスが形成されるほどの影響力を持つため、そういった方が今頃になって昨年のブルドック最高裁の判例を覆すような提言をされても実務では困る(要するに、立ち退き料を払うことをガイドラインで否定した点)、というのがざっくりとした内容。しかし、私は実務の人は大いに悩んでほしいと思っている。例えば日本ハウズイングの件。あれで結局、アドバイザー陣営は6億円を手にしたのでしょう(多分。間違っていたら教えてください)。ブルドックにしても同じだ。しかし、そのアドバイザリーフィーは誰が何に対して支払うのだろうか?結局は株主のお金であり、従業員給与の「所得移転」の可能性すらある(防衛費用を払ったので赤字または減益だからボーナスは弾めませんなんていったりしたらそう言われても仕方ない。一部指摘では、日本ハウズイング従業員は勤務時間中に委任状をもらいに行っていたという話すらある)。ブルドックの場合はスティール以外のほとんどの株主が経営者に賛成した(その多くは持ち合い株主で、金で票を買ったようなもので選挙だと違反になる)ので、「身から出たさび」だが、日本ハの場合はかなり接近している。アドバイザーは株主価値を引き上げたのなら、その報いを得られるべきであって、単に経営者のいうことを聞いただけで「成功報酬」というのはおかしいような気がする。アドバイザー自身の忠実義務は株主の目線と同じでなければならないのではないか?米国でも、アンハイザーブッシュのFAを勤めたゴールドマンサックスは、まあ一応、株価を5ドル引き上げることに成功し、アンハイザー既存株主はそのまま放置していれば55ドル程度の株価で、さらに65ドルの提案に対し、もう5ドル分の利益をえたので、その利益の一部をゴールドマンに数十億円のフィーとして支払った、と考えれば合理的である。日本ハウズイングの場合も、アドバイザーと被買収側企業との間でどういう契約で、アドバイザーは何に忠実であって、どうすれば「委託完了」されるのか、ということも企業価値研究会さんについでに議論してほしい。あそこには日本で最高のM&AアドバイザーのOB、現役の方が何人もいる。これなら判例も何もないだろう。是非お願いします。(それが 「健全な防衛論争」 の一番大きな薬だったりして)これをきちっと定義しておくと、今回のような、ほとんど経営論争とは無縁の、買収防衛合戦も一味違ってくるのではないだろうか?被買収企業側が買収企業の属性や資質がダメだから、この買収提案はダメなんですっていう諸外国ではほとんど聞かないロジックがまかり通る現在の枠組みはたとえ最高裁でも考え直してほしいと思うし、アドバイザーの忠実義務が経営者にではなく株主に対してなら、あんな揚げ足取りのようなことにはならないだろう。そういった流れに「待った」を投げかけれる人がいるだけでも救われた気分だ。経済教室は「やっと出来たと思ったルールを変更されると商売上がったりだ」と聞こえました。アメリカもこういった判例を何度も乗り越えて今のルールが出来上がって、それを輸入したんじゃなかったのか?英国の「パネルによる評価」というのは、パネルはほとんど評価なんてしないし、相撲の行司のようにつっかえているものを流れよくさせる程度でしか実務上お目にかからないなあ(Put Up or Shut up、非公式買収提案の期間が一定期間継続すると、被買収企業側からの要請で、買収企業側に「正式提案しないのなら、向こう6ヶ月間正式提案を自粛してください」というのを買収企業側は律儀に守っているのを何度かお目にかかった)。 東京海上日動が米国の損保会社を友好的に買収すると発表されました。東京海上日動は米国に買収目的専門会社を作って、その会社を通じて三角合併を目指すそうです。日本じゃ、三角合併の際、「買収目的専門会社」はご法度じゃなかったでしょうか?(とってもビルのワンフロアに駐在員がいる程度のオフィスでもいいから実態があればいい程度)別に東京海上さんが「ずるい」ということを言うつもりで書いているわけではないですが、海外企業が日本で三角合併を実施するときの論争をそのまま日本企業が海外で「合法的に」使っているのを見ると、ちょっと「閉鎖的」と海外に言われても仕方ないなあと思う次第です(住友重機の件もです。住友重機さん、いつまで経っても買収案まとまりませんね。何してるんだろう? なれない敵対的買収だからかな) これはマンデルソンさんが来日した日のFTの第一面。日本人にもわかりやすいルールと、経営者にも厳しい罰則を設けてほしい(その代わり報酬を一定程度増やすことは異論がない)。 また脱線しますが、日興コーディアルの株主さん、三角合併に応じた組は悲惨ですね。第一号案件は結果的にTOBのほうが得だった(で正解でしょう)。
2008/07/31
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7月14日、アンハイザーブッシュ(AB)とインベブの両社は合併に合意したと発表されました。買収価格は1株$70と発表され、これまでの提案価格である$65を約7.7%上回っています。ちなみに、$70というのは、ABの過去最高株価である2002年の約55ドルと比較しても27%も高い。アンハイザー側の発表文はこちら主な合意内容*買収価格は1株$70ドルとする*新会社の名前は「アンハイザー・ブッシュインベブ」とし、バドワイザーをよりグローバルに展開する*合併により、2011年までに年間15億ドルのコストシナジーを見込む*セントルイスは北米事業の本部であり続け、「旗艦ブランド」となるバドワイザーの世界本部を兼ねる*バドワイザーの3層におよぶ流通システムを支援することを完全にコミットメントする*すべての米国のビール工場の存続を米国社会にコミットメントする これを基本骨子として、両社の取締役会は全会一致で合意した。しかし、重要なことは以下の点でしょう新会社の取締役会は、既存のインベブンのメンバーとブッシュ4世およびもう一人のアンハイザー側の既存または元取締役(一族か?)がメンバーに加わることが確認されていること、及び、執行体制も現在の体制から「重要メンバー」で構成されること、アンハイザーブッシュ社はインベブの完全子会社として存続することなど、「所領安堵」 ではないでしょうか。 本件は政治も絡み、両社の交渉直前にはあの、バラク・オバマ氏でさえ、アンハイザーブッシュが外国企業に経営されるとなれば、「a shame」だ、と発言した。日本語では「遺憾だ」という表現になっていたが、なかなか日本人泣かせの表現かなあ。下手な直訳だと大問題になりかねない。 正確にはロイターに Democratic presidential candidate Barack Obama said on Monday it would be "a shame" if iconic American brewer Anheuser-Busch (BUD.N: Quote, Profile, Research, Stock Buzz) was acquired by Belgium's InBev (INTB.BR: Quote, Profile, Research, Stock Buzz). と記載されている。Obama says "shame" if Anheuser-Busch sold to InBev 7月7日 すでに12日にはNYTやブルームバーグなどでは、敵対的姿勢から一転、両社が交渉に入ったことが報じられていました。そして、いったん交渉に入ってしまえば合意に至る確率は非常に高いという報道がなされており、経営陣が合意すれば株主もそれに従う確率は格段に高くなる。これが敵対的なTOBにいきなり入り込まない大きな要因の一つでもあります。 個人的な感想ですが、結構あっさり決まっちゃったな、というところです。もっと交渉が長期化するものだと考えていましたが、正式な買収提案があってから1か月というのは(当初は)非友好的だった本件にしてみれば意外とあっさりという感じ。決め手はインベブの用意周到な買収戦略だったという結論になるのでしょうか?彼らは、まず、株価の落とし所を$70前半だと考えていたふしがある。FTでは、5月下旬の買収憶測記事(正確には記事ではなく、ALPHAVILLEというゴシップ記事に近い内容)を出したときに、インベブは銀行団に総額500億ドルまで($70相当)なら融資の確約を得たとまで記載されていた。話は最初から最後までインベブ主導で進められた感が強く(特に上記FTの情報に沿って進められている。恐るべき取材力というか、情報管理体制、いや、インベブがマスコミをうまく活用したのか。AB側は受け身であり、提案拒否の声明を出すのに3週間近く要している(リオティントやスコティッシュ&ニューカッスル、またはヤフーなどではおよそ1週間以内に提案拒否をしている)。その後、互いに訴訟を起こしたが、低迷する株式相場の中でAB株はほとんど下落を免れており、買収への期待が高かったことをにおわせている。結局はABの株主に大きく背中を押されたということになるだろうか。また、「ブルーオーシャン」で予定されている強硬なリストラ案の執行リスク(従業員の反発等)もあると指摘されていた。FTの株価妥当性の解説は以下のとおり。ブルーオーシャンで予定されていた09年度のEPSが3.9ドルであり、PER16倍をすると、62.4ドルがスタンドアローンのポテンシャル株価となる。それにプレミアム30%を加えると$81.1に達する。しかし、上記執行リスクを考えると結局は$55がブルーオーシャン実行後のスタンドアローンのフェアバリュー(これでも過去最高値)で。これに1.3倍の$71.5が妥当な価格だと株主へのヒアリングをまとめている。多分に昨今の期待相場を考慮して55ドルがフェアだと言ったのでしょう。したがって、$70ドルでは若干物足りないものの、取締役会の推薦を受ければ応じるだろうと結論付けています。 青線がDOW平均で赤線がアンハイザーブッシュの株価である。4月からの比較であるが、DOWは10%以上下落している。 あっさり決まってしまったので今後の独断と偏見のポイントを(あまり日本の防衛策には役に立たなかったような感あり。これならヤフーVSマイクロソフトを追いかけていたほうが興味深かった)。 1:(あまりにもインベブのシナリオ通りに進んだ感もあるため)外国企業による、象徴的米国企業の買収が成功するのか?(多く事例を存じ上げないが、近年ではダイムラー・クライスラーが「世紀の結婚と離婚」を味わっている)2:ウォーレン・バフェット(ABの第2位株主)はすんなり賛成するのか?(彼の公式コメントは今のところ聞こえない) 3:インベブはこれで、メキシコ(メキシコナンバーワンブランド「コロナビール」の製造会社、モデロ社の株式の50%取得と中国ナンバー2のビールメーカー「チンタオビール」の株式27%取得が同時に可能となり、グローバル戦略が加速化するか?(実はバドワイザー以上に将来性があると言われる) 4:果たして、15億ドルのコストシナジーを出すのに「バドワイザーを現状維持」のままで工面できるのか?(現状、ベストプラクティス方式を相互に浸透させること、規模の経済による重複部門の合理化といっているが、後者は地理的な補完が魅力の現スキームで果たしてどれだけカットできるのか? 前者は要するに「インベブの業務手順に従う」という意味ではないだろうか?)しかし、一方でアンハイザーブッシュが「独立」を勝ち得た場合においても、10%近くの人員削減にさらされるため、AB従業員においては究極の選択に近いかもしれない。とりあえずは変化に耐えることしか生きる道はないように思います。 5:そして最後ですが、「邦銀復活」の のろし となるか? この450億ドル($=107円で約4.8兆円)に上るシンジケート団の幹事銀行団に、みずほコーポレート銀と三菱東京UFJ銀が入っていることは前回お伝えしました。ちなみに、現在伝えられているBHPビリトンのRioティントに対する買収では、BHPは最大550億ドル(同5.9兆円)のシ団を組む予定になっていますが、買収提案発表時点(3月)では邦銀の名前はありませんでした。したがって、世界的なプレゼンスが一歩向上しているのは事実です。ただし、今回が被買収企業が米国であるため、また、その米国銀がボロボロであるため、「故障者リスト」入りし、2軍から「1軍昇格」扱いとなった邦銀にチャンスが到来している、という立場かもしれません。個人的にはもう少し様子を見てみたいと思います。NYTが「情報筋」から得た情報では、今回の4.8兆円シ団は10の銀行団に各々17.5億ドル(約1900億円)を少なくともコミットしてほしいとインベブは依頼しているようです。仮にワンショットで1900億円に上る貸し出し資産となれば、邦銀では即大口貸出先トップ10入りが確実になるでしょう。「石橋を叩いて壊す」三菱東京UFJにはハードルが高そう。なお、450億ドルのうち、70億ドルは他の資産売却などで返済、120億ドルは増資とし、計190億ドルはブリッジローン(つなぎ融資)とし、130億ドルは3年間、残り130億ドルは5年間の期限でローンを組むそうです。なお、金利はLIBOR(ロンドンインターバンクオブレート、ロンドンで銀行間の資金の貸し借りにおける基準金利)に+1.750%が利ざやとなるようです。結構いいんじゃないか? これでインベブは融資実行後、BBB-とぎりぎり「投資適格債」を維持できるようで、結構危なっかしいですね。しかし、よくしゃべる「情報筋」ですね。今回の邦銀参加は、客観的に見れば上出来でしょう。しかし、インベブの業績リスク(ブラジル経済に大きく依存)と為替リスク(ヘッジすればスプレッドが落ちる)を背負っています。「一軍定着」への試金石となるでしょう。ただし、日本のビールメーカーは経営的には「2軍定着」しそうです。キリンがかろうじて時価総額ベースで世界の中堅に位置しますが・・・。サッポロは益々影が薄く、買収妙味も薄れていく・・・。 ご愛読ありがとうございます。少し本業が立て込んでいまして、更新が遅れました。
2008/07/15
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左がABのCEOブッシュ4世、右がインベブCEOブリトー(なんとなく元広島東洋カープの「鉄人」衣笠さんに似ている)。両者とも若い。アンハイザーブッシュ(AB)は正式にインベブの買収提案を拒否しました。6月27日のカンファレンスコールとその資料主な内容AB取締役会は全会一致で、インベブの提案を拒否する。その理由は、「InBev's Proposal Inadequate」だからというもの。なぜ、「Inadequate」かと言うと、昨年秋からスタートした「プロジェクト・ブルーオーシャン」を推進すると、10億ドルのコストカットが出来ること大規模な自社株買いを実行することメキシコ、中国などの新興国向けプレゼンスを加速させること(海外資産への評価が低いと言及)絶え間ない生産性の改善や原材料分を賄える値上げが期待できること結果として、09年度には、営業利益率を3%改善できるEPS(一株当たり利益)も09年度までに2桁成長率を達成できるフリーキャッシュフローは$5億ドル改善できると言及した。10億ドルのコストカットの目玉は、全従業員の10から15%に当たる正社員の早期退職制度を実施する。残った従業員には強いインセンティブ制度を導入して、効率的な働きをしてもらう。というのはちょっと刺激的です。サブプライムで揺れるウォール街でも、それぐらいの人員カットなので、「なんで赤字でもないのにそこまで?」と素朴に思うのと、あの市民の声はなんだったのかという気と、買収の有無にかかわらず、リストラは行われる現実(日本もブルドックが同じ防衛策をとしましたね)。 そして、こういった自助努力と他のメガディールと比較しても、その評価が低い。自助努力と他社比較の双方を勘案すると、アメリカの「iconic」(象徴的な)ブランドに対する評価が「Inadequate」だ、というロジックになっています。 これは、他の大型ディールのEBITDA倍率(ざっくり言いますと、企業価値/(営業利益+減価償却費))の比較をしています。他のディールの営業利益が予想値か実績値かわかりませんが、要は企業のキャッシュフローの何倍で企業価値(時価総額+ネットの有利子負債)を評価するかということです。ちなみにABはEBITDA倍率が0.5倍違うと1株あたり3ドルも違うはずだと反論しています。ABの2位株主であるウォーレン・バフェット氏はP&G VS ジレット(2番目に高い)のときのジレットの大株主でした。最後にはP&Gが直接バフェット氏を説得に行ったと言われています。 インベブ同日付で、ABとの「友好的な」交渉をするスタンスに変わりないが、AB側の回答の遅れや買収提案を不当に阻止するのであれば(これはメキシコのジョイントベンチャーの買収、インドJVの買収などインベブの買収提案後にABが「防衛策」として行ったと勘ぐられている行為を指す)、ABの取締役会全員の解任を求めてくと激しく抗議し、ABの株主にこういった抗議が出来るような確認を裁判所に訴訟した、とされている。 英国HPでインタビュー 氏名とメールアドレスを登録すると見れます。英国のサイトと思われ、ロンドン証取上場の巨大企業のCEOの15分前後の単独インタビューが見れます。たまたま、ブリトー氏がインタビューを受けています。以下趣旨彼は経営に一番大切なのは人材だ。ビールを造るのも、売るのも、ブランドを作るのも全て人によって作られる。インベブの30カ国にわたるオペレーションでもその国の人の勤勉性や価値観の多様性を認め、ベストのブランド、ベストのビールを造ることで引っ張っていく、というような感じのことを述べています。ABの中間業者は「ビジネスパートナーである」、尊敬の念を持って接する、バドワイザーの従来のイメージを変えることはしない。アメフトに対する派手な広告や流通業者の協力、セントルイスでブッシュ家が創業を始めた農場の跡(記念館となっているらしい)、美術館、これらは全てブランドを形成している、我々は地理的に全く重複していない。セントルイスの街もバドワイザーブランドだ、と不安を打ち消すことに全力を挙げています。インタビューの間中、終始にこやかに自分の言葉で、今回の買収提案のメリットやインベブとはどういう会社かを力説していました(インタビューは具体的な提案内容には触れず、市民向けのメッセージという前提があったと思われる)。(内容だけ聞いていると日本人社長さんもこれぐらいのことは言うので、コストカッターの片鱗が見えない) それと日本人は注目。6月11日付で、インベブはこの大型現金買収をラザード、JPモルガンチェース、バンコサンタンデール(スペイン)を中心とし、バークレイズ、BNPパリバ、ドイツバンク、フォルティス、ING、ロイヤルバンクオブスコットランド(RBS)の「Strong Support」を受けている、と述べていました。しかし、6月25日、金融機関から「committed financing」を受けたと報道された。コミットした金融機関は、NYTの報道順に述べますと、バンコサンタンデール、東京三菱UFJ、バークレイズキャピタル、BNPパリバ、ドイツ銀行、フォルティス、ING、JPモルガン、みずほコーポレート銀、RBSとなっている。50百万ドルのフィーを支払ったとのこと。11日時点から東京三菱UFJとみずほコーポレートが加わりました。理由までわかりませんが、他行がサブプライムでコミットメントできる金額が小さくなった、邦銀が攻勢をかけたなどが考えられます。元々邦銀は80年代のLBOブームのときから資金の出し手として活躍していたようで、KKRのRJRナビスコの敵対的LBOなども有力な資金の出し手として加わっていたそうです(ちょっと言葉悪いですけど、会社を食い物にしたM&Aブームの影の功労者だったとも言えなくもない)。2点あります。邦銀は昔からキャッシュフロー主体の融資手法のノウハウが海外ではあったこと、敵対的M&Aでも特段融資すること(彼らの経済合理性からは別に悪い話ではない)をチェック。おそらく、これらの銀行が「主幹事団」となって、さらにぶら下がりシンジケートを組むのでしょう。単純計算でも1行あたり3600億円~4000億円の「ノルマ」があるため、邦銀としてはビッグプロジェクトでしょう。(彼らも、サブプライムで損をしたら叩かれ、手を出さないと「弱虫」と叩かれ、やや同情的な面もある) その他インベブのライバル、SABMiller(SABはSouth African Brewery)は本件に手を出すことはないと示唆。ただし、買収後リストラなしで、$65ドルの価格を正当化させるのは難しいと述べています。 グルッポ モデロ(メキシコのビール会社) コロナビールはおいしいですね。ライムを入れて飲むとよりおいしい。モデロのCEOはABの取締役を兼ねていましたが、退任しました。「利益相反の可能性があるかもしれない」という意味深な言葉を発しました。ABがモデロの残り株式50%を買収すると言う説、モデロがABの残り50%を買収すると言う説、インベブが密かにABの買収成功後の経営の独立維持を約束した、そのためにはMBOも許容すると言ったという説、SABミラーが全株引き受けるが経営の独立を維持するといったという説など、台風の目になっています。ABとモデロはJV関係にありますが、仲がよくないといわれていますが、ABは自分の独立維持のためにはモデロを逃がしたくないインセンティブにあります。影のクラウンジュエルになる可能性があります。専門家の予想では、今の価格では落ちないだろうが、ABが逃げ切れるのは難しいし、プロジェクト・ブルーオーシャンが実を結ぶのに2年は短いと言う意見もあります。 インベブの出方とモデロの動きに注目。
2008/06/30
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予想外の結果となりました。50%程度はとると思っていたのですが、総会の直前から原側のネガティブなメッセージがあったりしたので、「よもや」という感じには思っていましたが(MUF信託への牽制球とか)。 しかし、浮動票(この中身が実は曲者だったりして)の大半が日本ハウズイングに回ったような結果になるとは思ってもいませんでした。(Jパワーを含め)私は日本の株式市場に大きく不信を抱かざるを得ません。理解不能です。今回も金融機関の持ち合いが最後には効いたような格好となり、金融機関の持ち合い株についての議論が出てきそうな予感もあります(事業会社が持合をやっても%的にはインパクトは小さいから)。渡辺大臣、ガツンといってほしいものです。ご貴殿の政治理念とも比較的近くないでしょうか? 日本に世界の金融センターの座の一角を死守させたいのなら。 原弘産側は早速、日本ハウズイング株式会社の株主総会の結果について として、さらに睨みを利かせるという趣旨の声明文を出しています。デベロッパー事業からの撤退を含めた成長戦略の達成ですね。上記声明文によると、日本ハの社長は総会で計画の達成と1000円以上の株価の達成約束について、明言しなかったとありますが、あれだけ書類の応酬合戦において、「当社の成長戦略における今後の業績計画は、原弘産が『1,000円』の根拠とした業績計画を凌駕するものであり、この成長戦略を確実に実行することにより、原弘産の子会社になった場合の株価を上回るものと確信しております。」と言い切っていたのでいまさらそれはないなあ、という感じがします。株価はそのときのミスターマーケットさんの気分次第もあるので、コミットできないというのはわかりますが、計画は着実に行ってほしいものです。ブルドックとの違いは総会後も買収(希望)者側が「睨み」を利かせていることでしょうか? 原側の敗因はなんだったのか? やはり、買収企業側にしっかりとした経営体力がないとみなされたこと、TOBの買い付けが2/3未満という中途半端で上場維持という公約だったことでしょうか?本件は相手もオーナー持分が30%以上あるので、上場維持はある程度作戦としてやむをえなかった可能性もありますが、制度的な限界、そもそも30%以上を固めている企業への挑戦、ランドマーク社との不透明な関係などでしょうか。 原側はまさかの敗北と、株価が気になるでしょう。保有の日本ハ株の含み損が増えれば自社の業績にも大きく足かせとなってしまうため、日本ハの株を保有することこそ「著しく企業価値を毀損する」元凶になりかねません。(なんと言う皮肉!)それにしても、開票結果は何時に判明したのでしょうか?株価の動きからすると、午後3時以前にはわかっていたことになりますが、ヤフー掲示板を見ても午後3時以降の書き込みで、総会は続行中ということになっています。ちょっと気になる動きです。 今後、原、カテリーナ、ランドマークは同じとみなされるのでしょうか?(それぞれが大量買付け希望の対象となるのか。即ち、例えばカテリーナ単独で買い増しを行うと「ルール違反」になるのか?)この辺もあいまいと感じます。 正直、日本の事例は様々な意味で追いかけるだけアホくさくなってきていますが、読者の方の親近感といったところからすると、日本企業の記事のほうがアクセス数がよい(と思う。楽天ブログはアフリエイト規制が厳しく、ニンジャツールなんてリンクできない)のですが、個人的には海外事例のほうがタメにもなるし、展開が面白く、かつ、ダイナミックなので、今後のエントリー主体がそちらにシフトするかもしれません。海外=善、日本=悪・レベルが低い というわけでないことも具体的に感じてもらえると思っています(しかし、どちらかといえばそういった図式は当てはまることが多いというのがざっくりとした感想)。 私が推測する限り、当ブログの読者層はこんな感じです(個人名はわかるはずもないですが、ドメイン名はわかります)。皆様ありがとうございます。特に、2月ごろまでは1日150~200程度のアクセス数だったのが、最近は(特にアデランス事件以降)500前後に急増し、特に「Jパワー」という記事には反応が大きいようです。 以下推測する読者層大企業に勤務の方。ただし、おおむね日本を代表する企業の方が多く、防衛策なんて導入されていない(と思われる)企業の方が多い。大学関係者の方(教員の方か学生さんかはわからず)。しばし、大杉先生が取り上げてくださるので、急増中。日本を代表する大学のドメイン名が入っていたりすると、書くほうも緊張します。最近はどう考えても海外大学のドメイン名まで見受けられ、留学生の方もお読みいただいているらしい。法律関係の方。Toshiさんのブログでかなりご紹介いただいたからかもしれません。自分はこの分野には詳しくないのと、買収防衛となるとどうしても「市場と法」といった構図が出来るので、少しネガティブに書くことが多く、申し訳ありません。しかし、日本の会社法は経営者に優しすぎるというのが率直な感想です(特段、弁護士の方に責任があるわけではないですが)。それと利益相反についても制度なのか運用なのか、甘く感じています(認識不足かもしれませんが、日本社会で結構あいまいな側面だと思う)。市場の参加者。個人の方から法人(と思わしき方)まで。こういったプロの方の目線まで内容が伴っているか正直疑問ですが、今後ともよろしくお願いします。そして当事者企業の方。出来るだけ、経営に絞ってウンチク書かせてもらっているので、従業員の方がお読みになると、賛否両論かもしれません。ただし、私は敵対的買収やアクティビズムの成功と従業員の幸・不幸は別問題だと思っています。もちろん現経営陣の覚えメデタイ方はネガティブに考えられるかと思いますが、要は必要な人材はどこでも誰でも必要とされるのです。現在、アンハイザーブッシュとインベブの買収合戦でも、買収側のインベブはバド事業を一切リストラしないといっていますが、アンハイザー側は株価を引き上げるためにリストラを敢行するような声明文を出しています。マツダや日産自動車も友好的なM&Aでしたが、大きなリストラが行われています。世論が勝手に「敵対的買収は必ず従業員を不幸にさせる」という根拠が希薄なメッセージを少しでも感じ取っていただければと思っています。日本板硝子や日産自動車などを見ていると、むしろ、従業員の方が一番変化を望んでいるのかもしれません。買収者は被買収企業に買収後、がんばってもらわないといけない宿命にあります。友好か敵対かを問わず。 マスコミ関係者? ネタ探しか巡回ロボットか著作権侵害を見回っていらっしゃるのか。書きぶりが恣意的だと思ったことは率直に申し上げさせていただいています。その他 プロバイダ名だったりするので特定が出来ないですが、ありがとうございます。Jパワーについてはじめは特段Jパワーを追いかけるつもりはありませんでした。海外のアクティビズムを調査するうち、日本の増配要求なんて子供だましぐらいにしか思えなくなり、海外のアクティビズムを少し具体的に調査しようということにしました。そうすると、ナイトビンケとTCIに行き着きました。正直前者のほうが、「カルパースの代理人」という正当性、アタックする企業も自分の土地勘のある銀行(HSBCという世界最大級の銀行)で、アプローチ方法もしつこく、かつ、徹底しており、こういった事例のほうがよかったかもしれません。TCIの方がやや過激でちょっとそのバックグラウンドが不透明なことがあったのは事実でしたが、「実績」が大きかったのと、日本でも投資活動を行っているということでTCIを追いかけているうちに、Jパワー問題が再燃したということです。そうするうちに、問題が大きくなりすぎた、というのが実感です。要は「株価を上げるためにもがんばります」というメッセージがあればそれでいいと思います。 総会が終わり、今後のエントリーネタの方向性について試行錯誤するかもしれません。ただし、事例を中心に深く突っ込んだエントリーが中心であるというのは継続を予定しています。経営戦略と同じで選択と集中(Deep & Narrow)で行きたいと思います。バドワイザーは多分「その20」ぐらいまではやるかもしれません。ヤフーも遅れを挽回するかもしれません。モトローラも秋ごろから再燃するかもしれません。BHP等の資源ネタは溜まりまくっています。糞詰まりのような日本のネタより、当ブログの読者層からいたしますと、そういったネタのほうが実は貢献できるのかなあと思ったりもします(英語が大変ですが)。 今後ともご愛読のほどよろしくお願いします。
2008/06/28
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日本の案件ではなく、時期が時期でもあるため、正直ややリラックスして書けるのですが、引き続きバド動向を。ベルギーに本社を置くインベブのブリトーCEOはスタンフオード大MBAホルダーでブラジル人であり、今回の買収提案には、やはりアメリカ企業であるラザードとJPMをアドバイザーとして起用して、米国の象徴的ブランドであるバドワイザー(アンハイザーブッシュ)に米国風の買収提案をしています(要するに企業とCEO以外はよく見ると米国のM&Aと言いたい)。今回は、なんと米国の首都ワシントンに乗り込み、ミズリー州選出の上院議員2名と個別に面会したとのことです(綿密に作戦を立てたのでしょう)。2人の上院議員はその有権者から激しく「Stop lnBev Save AB(アンハイザーブッシュの略)」の陳情を受けており、ブリトーCEOには冷たい返事をした模様です。「ABは数多くの中流の雇用を与えており、米国人の多<は今自分の雇用がなくなることを恐れている」「アメリカは売りに出ていないし、これが破談になることばすばらしいことだ」「l was passionately opposed to the sale」などただし、両名とも、これでディールそのものを食い止めることが出来ないし、議会が介入する必要もないことを認めています。感情論であることを容認したようなものでしょう。 一方、ワシントンの多くのマスコミにインタビューをされたブリトー氏は、「私は我々の提案がどれほどすばらしいものかを説明に来た」、「これはセントルイス市にとっても良いことだ。バドを世界市場に向けて販売することだから」、「我々はABの取締役会と株主が正しい決断を下してくれることを信じている」(注:メキシコのビール会社の買収を暗に釘をさしている)、「1株65ドルはすばらしい価格であり、FullPriceだ」(ただし、現状の資産状況の話)など従来の提案内容を再び説明しました。さらに、地元セントルイスにも、コラムを寄稿し、インベブがセントルイス市に何が出来るのかを訴えているようです。セントルイスの市民センターや一定の公的機関を支援すると。そして何より、バドワイザーブランドの意思決定機関としてセントルイスを変えるつもりがないと。(注:インベブはバドワイザーの「現状維持」を約束しているが、それ以外の事業、例えばテーマパークのようなものや、ビールとは直接関係のない加工工場のようなもの資産総額35百億円相当は売却すると推測されている)ただし、当のセントルイス市民は、まるで鯨かホッキョクグマを絶滅から守る動物愛護団体のようなこんな活動を繰り広げています。SAVEABキャンペーンです。この書名欄には総勢3万人が署名した模様で、当然知事も市長も国会議員も署名したとのことです。 この人たちの赤いTシャツの胸にはSAVE ABと書かれ、背中には「This Bud's for USA!」と書かれています。実際写真を見ていただくとわかるのですが、平均年齢が45歳以上と思われ、こういった年齢層の方がリストラにおびえている状況がわかるかと思われます(単にビールを飲んで騒いでいるようにも見えなくもないが、それはきっとカメラ目線なのでしょう)。(追記)単なるビール会社ではなく、米国そのものだという くだり は強烈ですね 一方、インベブのお膝元、ベルギーでは「あんなソーダ水のようなものを買収してどうするんだ。我々欧州ビールは米国の水のようなビールと差別化して成長してきたのだ。水の象徴がバドではないか」個人的には非常に納得感があるコメントです。米国ビールは味がしませんからねえ、ヨーロッパ人が「アメリカンなテイスト」というのは理解しますねえ。 しかし、セントルイスから距離の離れたニューヨークでは、ニューヨークタイムズでも、こういった発言やキャンペーンは感情論であり、ビジネスとは区別すべきである、と冷静な分析をしています。ABの現在のCEOブッシュ4世は、子供の頃から手の付けられないやんちゃで、学生時代には交通事故で当時のガールフレンドを死に至らせ、一家の弁護士の力で無罪にねじ込んだ過去がある。ヤフーのジェリー・ヤンCEOなんかよりもはるかに少ない保有株(一族合計でAB株最大4.5%程度)、で米国のThe Corporate LibraryはABのコーポレートガバナンスをDランクとして問題があると永年評価していること、など同族経営の弊害というべきか、経営者としての適性に疑問点を呈しており、この経営体制で、がっちりスクラムを組んでいる新進気鋭でM&Aに精通したインベブには歯が立たないだろうと、「身から出たさび」という感じの論調をかもし出していると感じました。さらに、ヤフーVSマイクロソフトとダウジョーンズVSニューズコーポレーションを引き合いに出し、単に意固地となったり、パニックに陥るとヤフーのように「獲物を逃す」(株主訴訟の対象になりかねない)かもしれないし、逆にダウジョーンズのように賢明な選択をしたケースもあると解説しています(当然、過小評価されていると訴え、インベブの資金調達が限界に来るまで「兵糧攻め」は出来ると指摘)。そしてベルギーの新聞社は情報源を明かさなかったが、あの、ウォーレン・バフェットがインベブを支持していると報道したといわれています。投資家からは現代株式市場の神様の様に尊敬を集めている氏の動向は単に彼の持ち株5%以上の影響力があるだろうと早い段階から動向が注目されていました(注:米国紙では今週中にブッシュ一族と会う予定と報道されている)。 要するに株主だけが買収に前向きだという捉え方を欧米各紙は伝えているように個人的に感じました。ABはゴールドマンサックスとCitiグループをアドバイザーに起用した模様。ただし、インベブ、ABともアドバイザーのフィーは公表されていません。あしからず(買収者側はこの金額だと総額の1%程度が相場らしいです。このケースだとザックリ500億円!)政治家を巻き込んで、感情論に訴えるところは日本でも見られる光景ですが、政治家も頭では理解を示しているところを見ると、それぐらいの感情コントロールが出来ないと政治家が務まらないということでしょうかね。そう考えると日本国内の論争は中途半端にも見えます。「腑に落ちる説明」も何もなく、単に嫌といっているのですから。CSXというフロリダの鉄道会社があのTCIから取締役の数名の交代に関するプロキシーファイトを受けました。このときも「公共事業を外国人のしかも投資ファンドに経営させるとは何事か」という意見が米国議会まで巻き上がりました。しかし、冷静に考えると、TCIのホーン代表はハーバード卒で、推薦した取締役候補5人のうち4人は米国人だったようで、ほとんど米国人同然じゃないか、という意見とかみ合っていませんでした。 敵対的買収となると、日米を問わずこういった社会論争になるということが言えそうです(英国は違うと思うけど)。買収者はリストラしないというものの、被買収者はリストラにおびえます(既に労働組合の一部が反対声明を出しています)。企業価値推進派の方の意見を勝手に肩代わりいたしますと、「アメリカだってえらそうなこと言えないじゃないか。」ということになるかもしれません。確かに米国人はあまり他人のことや外国に関心のない人たちは多いように感じますし(米国が世界一とふつうに感じている)、自分たちの価値観を押し付ける嫌いがあります。そのくせ、外国人に何か欠点を突っつかれると、「愛国的」になったりします。まだ、提案発表後間もないので、事態の推移を見ていかないといけないと思いますが、私もバランスよく様々な事例を伝えることで、よりよい判断をしていただく一助になればと思っております。日本の社長さんも仮にも相手が嫌がっている会社を買収するのなら、ブリトーさんのように、提案発表後10日ぐらいで 「敵地」 に乗り込む勇気がないと、と感じてほしいものです。数十ページに及ぶ資料をダウンロードして類推するより、明確なメッセージを社長自らの口で聞きたいものです(案件のインパクトにもよるかと思いますが)。それと繰り返しになりますが、本件、成約すると市場最大の現金買収(買収価格5兆円弱を全て現金支払い)ですので、FXファンの方も為替に影響を与える可能性があるそうですので、要チェックですね。それだけ、対ユーロから見れば、ドル安で買収しやすくなったということも言えなくもないですが。
2008/06/19
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人の振り見て我がフリオイグレシアス (80年代のギャグです)ご参考バドワイザーが買収されるかも? インベブ、アンハイサー・ブッシュに買収提案か?先日の続き。インベブの公開された提案書 提案概要一株65ドルの提案で、プレミアムは35%(FTが5月下旬にすっぱ抜く前の水準比較。なお、アンハイザーの過去最高値は02年10月の$54.97で、これに+18%の価格)合併は全株主、顧客、従業員、販売業者や納入先および地域社会の全ての利益となり、新会社は世界市場でのシェアと競争力が増す合併後の新社名はアンハイザー・ブッシュに最大限の敬意を払い、バドワイザーを既存のインベブの市場を中心にさらに世界に広げる(バドの売上の80%近くが米国市場らしい)新会社の北米事業部と新会社の「Flagship」ブランドとなるバドワイザーの事業本部はセントルイスとし、重要な役員はそのままとする(invite a number of Anheuser-Busch's directors to join the combined companyという表現)。米国内のバドワイザー事業は当面現状維持とすることをコミットメントする(リストラはしない)。ちなみに、インベブのブリトーCEOは工場も従業員もビールの「レシピ」も変えないとインタビューで言っています。アンハイザー・ブッシュの反応it has received an unsolicited, non-binding proposal from InBevと表現。取締役会は株主他の長期的利益の観点からレビューし、評価して「in due course」で決定すると公式発表。この、「in due course」を各マスコミこぞって引用しています。アルクのHP「英辞朗」で調べると、「そのうちに、やがて、時間が来れば」という意味のようです。私はなんとなく、空返事に近い印象を持ちました。ただし、販売会社向けの買収提案に対する説明会でCEOは1ヶ月ちょっとというニュアンスの返答を業者にしたそうです。株式市場の反応キーパーソンとなるべき、バフェット氏(アンハイザーの株5%保有、2位株主)のコメントは現状ありませんが、市場一般はおおむね歓迎しています。過去最高値を18%上回る株価のみならず、バドを取り巻く外部環境の変化が株主を動かす気配です。市場構造(おさらい。ただし、FT.com6/13を一部加筆訂正) 現時点では、企業としてはInBevが企業別シェアで首位(上段13.9%)ですが、ビールのブランド別ではバドとバドライトが圧倒的に首位を固めています(下段)。しかし、米国市場では日本同様、近年嗜好がビールからスパークリングやワインさらには輸入ビールといったトレンドにシフトしつつあり、バドの生産量も逓減気味とのことです。さらに、モルソンクアーズとSABMiller が米国事業を合弁かすることが決定し(要するに米国2、3位ブランドである、クアーズとミラーが事業統合する)、バド追撃体制を整えつつあります。したがって、何かバドも具体策を打つことが期待されています。インベブの「バドを海外に」という提案はその具体策に答えられますし、彼らのStella Artoisという伝統的なブランドの米国での拡販も期待できます。彼らの強力なコスト管理も競争力回復に期待が持てます。また、なんと言っても株価でしょう。05年以来の両社の株価アンハイザーの株価は買収提案のうわさがなければ過去2年ほとんど変化がない状況です(ダウ平均はその間20%近く上っている)。 米国社会の反応ロイターの記者の答えに、「バドの味は米国人が一番良く知っている、米国で作られるべきで、米国人が経営すべき」と回答する人がいました(多分ロイターはこの答えを「誘導した」可能性もあるが。バドを「黒ラベル」とし、米国を日本としても違和感のない受け応え)。本社のあるミズリー州の知事に至っては王子-北越を思い出させるようなこんな回答です。「I am strongly opposed to the sale of Anheuser-Busch and today's offer to purchase the company is deeply troubling to me. I have said that while I am supportive of action to prevent the sale there is no immediate tool available at the state level to block it.」さらに、セントルイスのウェブなどでは、Fight the foreign invasion などと書かれ、NYTのWebニュースの書き込みにも、「ベルギー人にアメリカビールの味がわかるか」とか「政治力を使って買収をブロックしろ」とか、中には「これより悲しいのはトヨタがGMかフォードを買収するときだろう」というコメントもありました。80年代の日本人のバブル買収同様、自分たちの価値を外国に押し付けることは得意でも、その逆は必ずしも真ではないですね。つい先日、インドのタタ自動車が英国のジャガー、ランドローバーを買収したときにはこんな声はあまり上がらず、逆に労働組合がタタ自動車と交渉し、タタ自動車の買収を支援する声明文を発表したぐらいです。むしろジャガーの親会社デトロイトのフォードで、「インド人にジャガーが経営できるのか」という心配があったほどです。この辺の英米の「処世術」のような違いは意外と興味あったりします。インベブとアンハイザーの違いインベブ1366ベルギーで創業されて、合併を繰り返し、04年インベブとしてスタート。アメリカ人の前CEOから05年、インベブのCEOに就任したブラジル人ブリトーは、89年にスタンフォードでMBAをとった。また、CFOをはじめとする彼の側近はGPパートナーズというプライベートエクイティファンド出身です。前身のアムベブがPEの投資先で、ファンドが主体となって南米のビール会社を束ねてきたそうです。主要メンバーの大半がブラジル人で、ブリトー氏は「我々は節約を尊び、そうすれば年度の終わりに株主に報えると考えている。社用車、社長室なんて要らないし、他の役員との相部屋でうまくやっている。マーケティング担当は左で、営業担当が右、CFOは目の前って感じ」と述べており、「コストカッター」の異名も取っています。カナダのスリーマンというビール会社を日本のサッポロと争奪戦になったとき、スリーマン側は「日本側はリストラしないと約束したからだ」とサッポロに売却した経緯を述べています。またブラジルの販売業者は、インベブは自前の車両で納入業者に納めたがる「中抜き」を志向するので、仕事がなくなった」と証言しているそうです。 アンハイザー・ブッシュ創業以来148年、現在のブッシュ4世は歴代5代目のCEOで、ブッシュ家がCEOを独占しているようです。ただし、一族合計でも普通株式を4.5%程度しか保有していない。マーケティングや営業には熱心で、アメフトのスーパーボールの最大のスポンサーで、そのゲームのためだけに今年は23百万ドル以上使ったといわれています。また、販売業者も「困ったことがあれば、マーケティングの副社長に電話一本で解決だ。20年来の付き合いだからね。インベブになると不安だなあ」という感じで、経営革新もそれほど熱心には思えません。今回の買収提案では、本家は正直反対しているようですが、CEOのおじさん(父の兄)は、「決定は株主の利益に従うべきである」と意見が分かれているようです。 防衛策?ポイズンピルを廃止し、役員も1年任期としたそうです。現在、アンハイザーの50%出資の合弁企業、モデロというメキシコのビール会社があります。この会社はメキシコナンバーワンブランドのコロナビールを生産しています。これの残り50%を買い取ろうというものです。50%が約1.2兆円と試算されています!これを借金で買収すれば、インベブもさすがに高すぎて手が出ないだろうというものです。しかし、どうもあまりお付き合い状況がよくなかったらしく、メキシコ側は乗り気ではないらしく、逆にインベブの提案が通ってしまうと、自分の側にも影響があるので、米側の持つ50%を買収したいと考えているようです。これが「クラウンジュエル」の一つでもあります。メキシコ側が50%を米側から買い取ると、米側は「焦土化」されてしまう、という向きもあるようです。あとは中国市場です。2社は中国にそれぞれ合弁事業を持っており、新会社になると中国のビール市場の27%をコントロールできるそうです。これはさすがに中国政府も嫌だろうから、中国政府に圧力をかけろ、というものだそうです(何でもありだな)。ポイントは現金買収でしょう。インベブ側はその特殊な株式構造を崩したくないはずです(ベルギーの財団が大株主)。8つの銀行から構成される400億ドルの融資団(JPモルガン、サンタンデール、バークレイズ、BNPパリバ、ドイツ銀、フォルティス(ベルギー)、ING(蘭)、ロイヤルバンクオブスコットランド)とラザードをアドバイザーに起用しています。(余談ですが、これLBOということでしょうね。米側の株を買収後に合併するのでしょう)仮にアンハイザーの株主の利益に寄与する場合、株式交換はなぜダメなのか(現金だと売却益課税されてプレミアムが税金に変わるだけの可能性もある)、という点が反撃材料に。パックマンディフェンス。2社の時価総額規模は拮抗しているので、「やり返せ」というものです。しかし、これは、両社の経営陣によるM&Aの習熟度が圧倒的にインベブに分があるとされており、現実味がないとのことです。個人的には、弱肉強食という言葉があれば、それはこういった事例だと思います。日本企業への示唆は、人の振り見て我がフリオイグレシアス、いや、我が振りなおせ、でしょうか。反面教師というか、世界にはこんな野心的な企業も存在するのですね。新興国の新鋭が米国流のMBAやPEで、象徴的な巨大米国オーナー企業に米国流の挑戦 という皮肉な構造です。
2008/06/16
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インベブがアンハイザーブッシュに買収提案を仕掛けました。これも非友好的買収提案です。約5兆円で現金買収するそうです(株式交換がないのは結構すごい)。これは単にビール業界の再編という視点だけでなく、ユーロ VS ドル、BRICs VS USA、伝統的企業同士でありながら近代的なインベブ VS 古きよきアメリカの象徴的なアンハイザー(同族経営)、外国人(特に相手はブラジル人)企業の買収に対する米国人の一般感情(外国人を見下している)、新興国市場へのアプローチなど当ブログとしては重要テーマなのでまた突っ込んでいきたいと思います。前回エントリーをご参考バドワイザーが買収されるかも? インベブ、アンハイサー・ブッシュに買収提案か? 5月26日 敵対的買収防衛のあり方なるものが経産省にありました。報告書案として、なぜか修正箇所がそのままアップデートされています。株主共同の価値ということを強調していますね(共同ってどういう意味かな)。昨日は単に日経新聞の記事を記憶ベースでキラーパスと表現しましたが、今日はこの内容を読んでみました。結構、普段ブログで愚痴っていることが掲載されているので、「Comfortable」です。ただし今日は投資家ではなく、従業員的な観点で見てみました。 要は、社長さん、防衛策をもし発動するんだったら、取締役の善管注意義務や忠実義務ということを小さな胸に手を当ててよーく考えましょう、といっているように感じました。しかし、確かに敵対的買収なんて戦後はほとんどなかったので、何らかのガイドラインは必要だと思いますが、自分の会社の社長には(注:当社は導入していない)こう言って欲しいなあ。「そんなもん、お上に言われんでもわかっとるわ!!」、「俺達は毎日、顧客、従業員、株主のために誠心誠意やっとるんや」、「大きなおせっかいじゃ」(うちの社長は関西弁じゃないけど)と。奮起してよ、社長さん。(もちろん研究会の中には経営者の方もいらっしゃいますが、わかってないから出たということでしょうね)なんだか箸の上げ下げまで言われないとあかんのか、と「べき」、「ならない」の連発で、およそ上場企業の取締役たるもの本来は言われなくともわかって欲しいが、言われればすんなりうなずいて欲しいなあ。経団連辺りが、もっと柔らかく同じようなことを言うのでしょうか?財界人の発言を見ていきたいです(これ最終報告じゃないから、内容変わるのかな)。ワーストシナリオは財界からいまひとつはっきりしたメッセージが出る前(出ない)に「防衛産業」サイドから、「あーだ」、「こーだ」と話をかえって難しくするような議論が出てきて経営者の頭越しに「空中戦」にならないといいのだが。なんだかんだ言っても、導入している(予定含む)のは500社程度で、導入していない企業のほうがはるかに多いし、そういった企業の方はこういった事項について十分な理解があるのだと思います(うちもそうだが、特に外国人持ち株比率が高い企業)。もちろん導入済みの500社さんでも、理解がある方のほうが多いと思います(と一応は信じています)。「そんなもん、お上に言われんでもわかっとるわ!!」、「俺達は毎日、顧客、従業員、株主のために誠心誠意やっとるんや」、「大きなおせっかいじゃ」とハッタリではなく、本心で言えない経営者なら、それは「防衛産業」のカモですよ。自分の会社の社長だもん、胸張っていって欲しいなあ(どうだろう?やや心配)。株主に経営を委任されたかもしれないが、同時に従業員代表でもあるし(裸の王様でもダメだけど)。「お家を守る」という封建的な発想もあるかもしれないが、守ってばかりいてもねえ。ちょっと前までは財閥とかケイレツとか行っている場合じゃないとか言ってたのに。カモられないよう株主 「にも」 誇りを持って経営して(いるはず)いる姿を見せて欲しい。最悪なのはアクティビストと防衛産業と双方にカモられて、オドオドしているのでしょうか。そう考えると、経営者自らの言葉で、自社の経営戦略とか株価向上策(自社株会ってありますよね)や経営方針とかを語ってほしいなあ。経営会議とかIRとかでも原稿をそのまま読むのは止めてほしいなあ(自分の言葉でももっとましな内容を望みます。ほとんど気合だけ)。あっ、「カモ」以外は結構自分ところの会社のことが多いので、気にされずに。
2008/06/13
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日経新聞も読売新聞もビジネス法務の部屋のToshiさんも、原弘産側は40%以上を固めたような雰囲気の記述になっています。世論は防衛策の発動は非常に厳しいものとなったという前提です。会社法であそぼ の葉玉弁護士(会社法作った人の一人)によると、一般的に買収防衛策を発動して、裁判で勝てるためには特別決議が必須(ただし必勝とはおっしゃっておられません)、で普通決議の場合だと敗訴確率40~50%程度だろうと、個人的な解説されておられます。議決権の40%強を原側が固めたとなると、当然特別決議は無理ですね(普通決議も怪しい)。私は前回そういう意味をこめて、日経さんに苦言を呈したのですが、皆同じように報道されているので、日経新聞と読売新聞という2大日刊紙と心中し、もういいやって感じでこれを書いています。これを懐かしい大学模試にたとえると、C~D判定ってことで、学校の先生に「安全校ではなく、記念受験だぞ、いいな。」って言われたことと同じような感じでしょうか。 したがって、日本ハさんは、総会後の票決次第でしょうが、とりあえず思い切って挑戦する(発動する) → 高い確率で差止め食らう(かな?)発動回避 → TOBに進む という選択肢があります。アドバイザー陣営はどちらをアドバイスするのかわかりませんが、経営者とすればアドバイスに関係なく「記念受験」はないだろうな。少なくとも4割以上の株主(議決権ベース)が反対しているものを無理やり発動するとなると、これはもう「自爆テロ」に近い行為で、「株主をなめとるんか!」という反論と、「そんなこともわからんのか?」 といわれるのがオチでしょう。さすがに倒産法よろしく、株主数も過半数以上とかいわないだろうな。(日本ハ側もオーナー株主が30%近く保有しているので、発動すると自分の資産もむちゃくちゃになってしまうんじゃないか? → 自爆テロ? こっちの方が株式市場を「混乱」させないか)ただし、仮に差止められても、経営陣が誰に何にどれぐらい責任を負うのかこれは私にもよくわかりません。株主代表訴訟を食らっても、裁判費用とか新株発行費用ぐらいしか請求出来ないのでは???会社法は経営者に優しいからなあ。「だったら一か八か記念受験やったろやないか、どうせクビになるんやろ。これぐらい払ったる」という「モラルハザード」を起こさないでしょうか?(悪意にやったら背任とかにもなるのかな?)したがって、何が企業価値を極大化するのか腹の中では十分ご承知の賢明な面従腹背状態のアドバイザーならば、TOBで勝負をご助言されるのではないでしょうか(当該アドバイザーが面従腹背と申しておりません。一般論ですし、アドバイザーのフィーも株主価値を極大化する大義名分の下支払われる性質のものですから。けど一般的には面従腹背に陥りやすいのではないだろうか)。記念受験とモラルハザードはやめて欲しいなあ。アドバイザーの姿勢もフィーが成功報酬型と固定型ではまた違うかもしれません。アドバイザーの誠実度(誰に対して何を誠実とするのか、「成功」とは何ぞやなど)も含めて議論の余地があるかもしれません(注:同じフィービジネスの私の意見は6億円を絶対額として高いとは思っておりません。誤解を招いているようです)。少なくとも契約書を株主に開示すべきであるような気がします(株主のためのアドバイザーならば会社が負担しても同じ帰結じゃないか?)。単に相手方の属性を批判するネガティブチェックに終始する防衛合戦は海外ではほとんど見ません(価値が不十分だってヤフーも一応言っています。「売らないとは言っていない。フルバリューではないだけだ」と)。したがって願望をこめて、すんなりTOBということにしておきます (TOB手続きは一応参考書で調べた限りです)。TOBでもライツプラン同様に被買収者側は「意見表明報告書」なるものを提出する「義務」があります(金商法27条の10第1項)。ここで、TOBに賛成、反対、保留のいずれかを言う「義務」があるそうです。その後、買収提案に疑問があれば、質問する「権利」があるそうです(同法27条の10第2項1号)。買収者側は質問に解答する「義務」があるのですが、5営業日後がデッドラインだそうです(同法27条の10の第11項)。TOB時における独断と偏見の日本ハ一般株主の素朴な疑問 (若干京都弁が混じりますが)「まだやるの?もうええやん。質問も枯渇してるんと違うん?何百ページ印刷さしたら気済むんや? 全部もよう読まんわ。難しいわ」「カテリーナさん、TOBには応募しはるんやろか?」「1000円は売ってもいい値段なんやろか?」「いいかげんめんどくさいなあ。何言うてはるのかようわからへんわ」 TOBに応募するべきか否かの判断は、あの企業価値研究会のメンバーで日本のM&Aにも大きな影響力をお持ちになられるこの方の日経ネットのコラムをご参照。私は前回(その6)で必要なことは申し上げましたので第7回「敵対的買収と実現期待企業価値-買収防衛策ではもはや企業を防衛できなくなる-」(2008/01/04) 答えが書いてあるわけでもありませんが。 経営支配権の異動に関する根本的な疑問買収防衛策は経済産業省の管轄、会社法は当然法務省。金商法は金融庁。外為審議会には財務省まで参加。縦割り行政なのだ。政治のリーダーシップが欠落してるんじゃないか?渡辺金融大臣があれだけ「腑に落ちる説明を」と言ったTCIの件でも未だに経産省は無視状態だろ?(防衛策発動強化ということで、TCIをブロックした理由を明確に正当化していない。議論のすり替え) 以下ロイターから日本ハウズによると、イノウエ社は8日頃から、個々の株主に対して原弘産に委任状を返送するよう電話連絡で呼びかけている。(中略)日本ハウズは4月30日、イノウエ社からの請求によって、株主名簿の閲覧に応じた。日本ハウズは、イノウエ社が、このときに開示した株主名簿に沿って、原弘産の委任状勧誘に応じることを訴える電話連絡をするのは、金融商品取引法による委任状の勧誘規制で問題があると指摘している。法的にどうなのかわかりませんが、もうちょっとフェアプレーをしてほしいですよね。いろいろと。これじゃ泥仕合。 PS 買収防衛策発動基準の強化という記事が出ていました。総会召集通知発送直後(少なくとも印刷完了済み)のこの時期にこの記事とは、サッカーにたとえると、相手ディフェンダーをギリギリひきつけておいて、中田英寿がFWにキラーパスを出したようなタイミングだ、と感じました。あとはFWがゴールを決めてくれればいいのだが、FWがドイツW杯の柳沢君か、絶好調のクリスチャーノ・ロナウド(マンチェスターU)かで、総会というネットががゆれるかが決まります。まあ、日本はサッカーにしろ、政治にしろ、経済にしろ、とにかく決定力がないからなあ。 本物の柳沢君もがんばってね(一応アントラーズファン)。
2008/06/12
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6月10日のフジサンケイビジネスアイによると、 住友重機械工業はかねてから、買収提案を行っていた、米半導体装置製造業のアクセリステクノロジーとのデューデリジェンスに入るための守秘義務契約の締結を発表したことを報道しました。会社側発表文同紙によると、住友側の株主総会前に相手側と合意を取って、株主側に交渉が進展していることをアピールすることが狙いではないかというアナリストのコメントを紹介しています。 このディールに関するこれまでの進展は以下の拙ブログをご参照住友重機、米アクセリス・テクノロジーズへ買収提案、アクセリス側は承諾せず、ポイズン・ピル発動? 2月13日住友重機 VS アクセリス社 その2 日本人にとって株主価値の意味は何?? 3月3日ディールとは関係ありませんが、本件に関する参考エントリー(後半部分)ブルドックソース 08年3月期決算を振り返る あの企業は今?5月18日3月に住友とTPGが買収条件を1株6ドルに引き上げてから案件の進捗がスローダウンしていました。一方、5月13日、住友重機械工業はこの総会で、自らライツプランの導入を提案しています。会社発表文現時点でアクセリス側がディールに関して3月以降のコメントがないものの実は、5月の定時株主総会で3名のディレクターが再任否決されており、株主からも住友との交渉の前進を促されている模様です。 もし、仮に、アクセリス側が、買収防衛策(策というより戦術)の一つである「パックマンディフェンス」(逆買収提案)を仕掛けたらどうなるだろうか(注:同社は赤字会社であり、経営陣についても上記の状態で、「外堀が埋まっている」状態で、パックマンディフェンスは非現実的であり、全くの架空の話)。既に住友側は買収防衛策の導入を取締役会決議している(株主総会で否決されれば廃止される)ため、アクセリス側は住友のルールに従うものとします(けど34ページも分析しきれないので、買収提案初期段階における情報提供に絞ります。時間ある方ご一読ください)。大規模買い付け者に対する情報提供 すべて日本語に限るそうですまず、これに先立ち「意向表明書」の提出 1を提出後、5営業日以内に1:大規模買い付け者およびそのグループの概要2:買い付け者の内部統制システムの具体的内容および当該システムの実効性の有無および状況3:大規模買い付け行為の目的4:当該重要提案行為の目的、内容、必要性および時期並びにいかなる場合において当該重要提案行為を行うかに関する情報5:意向表明書提出前60日間における住友の株券等の取引状況6:大規模買い付け行為に際しての第三者との間における意思連絡の有無および意思連絡が存する場合にはその具体的な態様および内容7:価格の算定根拠、算定経(シナジー予想を含む)8:買付資金の裏づけ9:大規模買付行為の完了後に意図する当社及び当社グループの経営方針(当社の属するいわゆる「住友グループ」の中における当社の位置付けに関する方針や当社の商号の取扱い(「住友」の冠の取扱いを含みます)に関する方針等を含みます)、大規模買付行為の完了後に派遣を予定している取締役又は監査役候補者の経歴その他の詳細に関する情報(当社及び当社グループの事業と同種の事業についての経験等に関する情報を含みます)、事業計画、財務計画、資金計画、投資計画、資本政策及び配当政策等(大規模買付行為完了後における当社資産の売却、担保提供その他の処分に関する計画を含みます)その他大規模買付行為完了後における当社及び当社グループの役員、従業員、取引先、顧客、当社工場・生産設備等が所在する地方公共団体その他の当社に係る利害関係者の処遇方針 (長いんですけどこれだけ原文をそのまま抜粋いたします)10:買収に投下した資本の回収方針11:当該買収に際し、適用される可能性のある規制、独禁法、許認可などの取得の蓋然性(弁護士の意見書をあわせて提出するよう付記あり)12:住友重機の経営権取得後に必要な国内外の許認可維持の可能性や各種法令の規制遵守の可能性13:反社会的勢力ないしテロ関連組織との関連性の有無14:その他会社側が必要と判断した書類 だそうです。一方、住友重機械工業がアクセリス社に提供した資料は公開情報の限りにおいては米国の半導体製造装置メーカー、アクセリス・テクノロジーズ社に対する買収提案に関するお知らせ 2月11日付米国の半導体製造装置メーカー、アクセリス・テクノロジーズ社に対する買収提案に関するお知らせ 4月16日付 アクセリス社の返答、情報開示は 同社HP(Press Releaseをご参照ください)です。住友側がどのような買収提案書を提出したか開示がないので、わからないですが、現時点ではアクセリス社が提案を行おうとすれば、相当高度な日本語が必須です(注:住友重機械工業側の外国人株主比率は19年3月末ですが43%もありますが、日本語に限定ですか 株主のための情報公開なのに 株主プロ参照)。 もちろん、住友さんも上記14項目すべて考えてアクセリスに提案はされたのだと思いますが(何語で提案したのだろう?)、すべてを買収時点で開示するのは・・・(必要な許認可とか相手側の開示なしにすべて把握できるのかな。全くの同業だとわかるかもしれないが、住友は建機とか造船とかコングロマリットだし。弁護士の意見書とかも。外国人に「住友の事業精神」が理解できるのかな。また、過去はこんなこともありましたよね)。報道にもあったように住友側は株主から、ファイナンス的な買収提案の正当性を問われているのだと思います。でも、デューデリが出来てよかったと思います。対象企業が日本企業だと、帳簿閲覧権を否認(既に5%程度アクセリス株を取得していたはず)されたり、サッポロがスティールに言ったように、特定株主への開示はしないだの「目暗」のままの交渉になっている可能性が十分あります。ただし、買収側のクラウンジュエルであるアクセリスと住友の合弁会社の内容は熟知しているはずなので、シナジー効果がいくらかぐらいかは公表しないと住友側の株主さんも、ファイナンス的な意味でいい買収か悪い買収か判断つかなさそう。アクセリス側の姿勢が軟化したのはアクセリス側の株主のプレッシャーがあったと推察されます。過去の拙ブログでも言及している通り、アクセリスの株主はおおむね住友の提案価格を歓迎しています。しかし、アクセリスは粘って買収価格を引き上げています(これ、ポイント)。デューデリ後には無事「友好的」な結末を迎える(と勝手に思いますが)でしょうが、そのときの買収価格に対する注目と、アクセリス経営陣の取った一連の行動、住友の買収提案内容とライツプランの情報開示要求条件などを総合的に勘案すると、色々思うところはありますが、ちょっと総会前なのでこれ以上は控えさせていただきます(アクセス数が激増しているので)。
2008/06/11
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9日未明、追記しています。緑字 6月7日付の日経新聞朝刊で、日本ハウズイングの創業家一族の資産管理会社で日本ハウズイングの株式約10%を保有する、カテリーナ・イノウエが7日、原弘産の主催する日本ハウズイング向け株主説明会に同社社長が出席し、原弘産の株主提案を支持する意見表明をすると報道された。 日経ネットによると、朝刊のとおり株主説明会に出席し、「ビジネスプランが非常に具体的」と原弘産の提案に賛同し、買収防衛策の不発動(原弘産の株主提案にあり)に賛同すると表明した。 大きな山場を迎えそうになりました。ただし、以下の疑問が。 疑問1 日経新聞の報道? これじゃあ、特別決議が無理って言っているようなもの既に票読みを開始していますが、朝刊では、「10位以内の株主のうち、日本ハウズイング側が30.5%、原弘産側は、提案者2社で16.2%、同社と取引関係があるランドマークの12.81%と井上家(井上恵子氏の持分を含む)が加わると、約42%に高まる。」と報道されている。え?ランドマーク社が原弘産を支持するって言ったの??? (結構注目していましたが気がつきませんでした)日本ハウズイング側から再三共同提案者じゃないかと突っ込まれていて、原広産は「取引先だけど、本件の意思決定は関係ない」(趣旨)といっていたのに、含めちゃっていいのですか? これ素人が読むと大いに誤解するんじゃないかな? もちろん各人の心で、そのような解釈をするのは勝手だと思いますが、日経さんのような影響力ある日刊紙でちょっと踏み込んだ表現だなあと感じました。オバマ-クリントンじゃないけど、州の予備選みてから支持を鞍替えする特別代議員が多かったので、決定的なことにならなければいいが。 疑問2 結局1000円は「フェアバリュー」なの?そもそも買収防衛策、ライツプランは株価を少しでも引き上げるための交渉の道具としての役割りが期待されていたのに、日本ハさんなんて、「株価は、証券市場において投資家が介在して形成されるものであり、上場会社は、そのような株価形成の場である証券市場における有価証券の発行体として、証券市場への情報発信又は関与について、細心の注意を払ったうえ、適法かつ適正に行わなければなりません。にもかかわらず、上場会社の経営陣自らが、「株価」に対して直接的に言及する行為は、本来証券市場における自由売買によって形成されるべき株価に対してコミットするという事態になりかねないばかりか、証券市場における株価形成プロセスを混乱させることにもつながりかねません。 当社取締役会といたしましては、当社の企業価値を向上させるために、5月13日に発表いたしました意見書に記載された成長戦略を実現するために最善の努力を行う所存です。」なんだかどこかの参考書の引用文みたいです。日本ハの社長さんに「御社が考える、自社のフェアバリューはいくらですか」と日経さん突っ込んでください。上記と同じ答えをスラスラとしゃべったら、座布団一枚ですね。経営者が自社の適正株価を公表したら市場が混乱するのですか? そりゃ、例えばトヨタの株価が5000円で取引されていて、「適正株価は1000円だ」なんてアナウンスすると、「大混乱」する可能性はありますが、「6500円ぐらいだ。市場は過小評価している」といったところで、「どういう戦略があるんですか」って聞いて、意見のヤリトリが行われるという流れになるんではないですかね。日本ハさんの株式市場での売買数の感じから言っても、恐縮ですが、そんなに注目されないと思います。したがって市場が混乱することはないでしょう。過去に市場が混乱したといえそうなのは、例のみずほ証券のシステムトラブルのようなものではないでしょうか?混乱の意味が不明。後ろの2行だけにして、「提案はこの成長戦略のポテンシャルを十分に発揮していない。取締役会はこの戦略を遂行するに十分な経営資源と方針を兼ね備えている」などダイレクトに言わないと、1000円で行っちゃいますよ? ただし、具体的に何円とかこの段階では言わなくともいいと思う。このままじゃあ、まともに解釈すると、「経営者は業績に関心はあるが株価に関心がない」と解釈できそうで、それはそれで無責任だし、そういった経営者の言動がスティールさんのような「招かれざる株主」を呼び寄せるってことをわかって欲しいなあ。 →原弘産は日本ハ株主向けの説明会を開催するけど、自分たちの株主に説明会を開催したの??分厚い回答書を読めって言っているだけかな? JパワーさんもTCIさんも必死だし、油断したアデランスさんはああなっちゃったし・・ぶつぶつ。→本件、原弘産さんはTOB成功後も日本ハさんの上場を維持する様ですので、「フェアバリュー」は非常に微妙。原さんが、日本ハの企業価値を引き上げてくれるんだったらTOBに応募しない方がよいことにならないか?(継続保有したら1200円とかになるんでしょ?) だから株価の議論は避けて通れないはずなのに。疑問3 関西弁がちょっと変?「あのな!パパがやらなかったら、誰が会社を経営するんや!パパがまともに経営しなかったら、会社なんかすぐつぶれるんやで!会社がつぶれたらおまえらが困るんやで!」と。真の経営者とは社員や株主にもこう言える人ではないでしょうか。(原弘産側の回答文書から)あまり「あのな」、「まとも」は使わないなあ。「あんな」、「ちゃんと」だろうな。 ドーデもいいけど。全体的に原弘産の内容は、熱い創業者経営者の思いが伝わると同時に、いまどき正月から幹部集めるか? 働くのは大変そう。ワンマンなのかな?疑問4 気になるのは業績と軍資金。後者は50.1%を目指すのなら、後35%程度必要。まだ50億円弱は必要です(不明点:カテリーナ側は売らずに保有するのかな?)。2月決算月には100億の現預金残高がありますが、色々理由があるのかもしれませんが、前期比大幅減益です。その割りに風力発電事業を積極受注しています。増加運転資金も必要だろうし、買収資金などは銀行さんめど付いたの?欧米ではコンフリクト回避が主目的とはいえ、必ず買収者側、被買収者側ともアドバイザー(法律、証券とも)が公表されています。もっとも、その後投資銀行が資金調達できずにオシャカになった案件もありますが(例:ブラジル リオドセ(ヴァーレ)のスイス エクストラータの買収提案はサブプライム後のメリルリンチがシンジケートを組成できず破談)、取引先各社にとってみても、どういう利害関係にあるのか知る必要性もあるのではないでしょうか?→原弘産に与信取引ある人への配慮は?ステークホルダーじゃん。企業価値構成するんでしょ?疑問45 TOBとの兼ね合い?ライツプランでこれだけ喧々諤々やって、TOBでまた日本ハさんは意見表明して、質問攻めにして、って同じことやるのでしょうか? また、TOBかけると、ダヴィンチさんのような人が1100円とか言って出てきたりして。そういう場合はどうするのでしょう?英国なんてのは結構バトルがありますが、金商法のような厳しい質問回答制はなかったように感じます。→ 日本ハさんの経営支配権争奪は2社に限定された話ではないはず。広く原弘産以外にも日本ハさんの経営に興味を示す買収者への門戸が狭いように感じるが、それでは投資家の利益を極大化しているとは思えない。これ金商法の欠点では? 日本ハさんの回答、全般的に素っ気ない印象を持ちました。原弘産の回答は、抜粋したとおり気合十分って伝わる。参考ながら、その素っ気ない文章をお手伝いしていただくのに、純利益10億円程度の日本ハさんは6億円でアドバイザーをお雇いになられたという。→もちろん気合だけで何かが決まるとは思っておりません。単純な感想。ただし、現時点では、「どちらが経営するにふさわしいか」という議論が白熱しているに過ぎず、How Much という肝心のところは、ほとんど議論になっていないと思われる(経営計画を示しているが、行間を読めといっているだけ)。現状お家騒動の域を出ていないなあ(素朴な疑問)。
2008/06/08
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ご参考 アデランス VS スティールパートナーズ 08年2月11日ご存知の通り、29日の定時株主総会でアデランスは新任取締役候補2名以外の再任が否決されました。ざっくり言えば、スティールパートナーズのアクティビズムが勝利したことになります。当ブログではスティールパートナーズを盛んに取り上げてきましたが、最近頻度が減っています。理由はサッポロHDとの「妥協」とも取れる総会前の敵前逃亡的な対応に失望したことが原因でした。 アデランスの件は2月11日に一度取り上げていますが、それっきりです。この後経営陣は再度08年4月17日にまたまた中期計画を開示しています20011年に売上高900億円、営業利益111億円、配当性向50%、ROE10%以上という数値目標を掲げています。これしかしながら08年2月期決算は売上高 750億円、営業利益約40億円にとどまっています。このギャップを説明し切れなかったことになります。業績改善のためにM&Aをするといっていますが、チト違うような気がしないでもありません。今回はISS(議決権行使助言会社世界最大手)が取締役の再任に賛成していたのですが、約28%の株式を保有するスティールに先導される形で反対票は過半数を超えた模様です。 さて、ここで考えなければならないのですが、これからどうするかです。単に業績悪化と狼少年(下方修正を繰り返し、計画を発表した翌月に決算下方修正するような計画ですから)だから社長がクビになったのは仕方ないと思うと同時に、こういった株主の発言はむしろ全体的かつ長期的な株式市場や日本企業の競争力改善には好ましいと考えます。単純にハゲタカが勝ったとかスティールが牙をむいたとかそういった議論をしてもあまり意味がありません。スティールはなんだかんだ言っても(へたくそな面がありますが)、日本企業のガバナンス改善にある程度の貢献を村上氏同様していると考えられ、誰が言ったかではなく、何が事実なのかに目を向けるいい機会かもしれません。 そして、岡本社長以下取締役にこれ以上託せないというのはわかるとしても、ではどうするんだ? ということについて。スティールはこれまでの提案から言って、明らかに企業ごと売却を推進すると考えられます。日系ネットでは、これまでの取締役と新任取締役の計2名が暫定的に経営継続となることになっていますが、 売却するのか新任社長を選んでアデランスという企業体を継続するのか新任社長は内部昇格か外部招聘か(外部招聘だと身売りと同じ意味かな、日本の場合) と言ったところに、意見を持って反対した人がどれぐらいいるかということでしょう。また、ここで空気をうまく読まないとスティールさんも「スティールの再選反対案は賛成するが、会社を売るのは嫌だ」という方も多いでしょう。一方、外国人株主はその質のほどがわかりませんが、スティールさんのお仲間さんだったら、身売り大賛成ですし、まともな機関投資家だったら是々非々かもしれません(しかし、ISSの助言に動じないところを見ると、前者の可能性も比較的あるのでは?)。一応、これまでのスティールさんの行動様式から、リヒテンシュタイン氏自ら取締役に就任する可能性が大きいと思います。リヒテンシュタイン氏は「今回の株主からの不信任という結果に鑑みて、SPJSFは、同社には企業価値を拡大させるためのあらゆる戦略的選択肢を検討していただきたいと思います。」と発言しているので、以下省略ですね。「Unlock the value」 という言葉を好むようです。反対票を投じた他の株主は売却に賛成したのでしょうか?また、再選に賛成したいわゆる「物言わぬ株主」はどう考えているのでしょうか?人が一杯いる大企業ならともかく、アデランスは根本氏という取締役現最高顧問で現在も約9%の株式を保有する創業家の君臨する企業ですし(ちょっと指揮・命令系統が複雑な印象を客観的には受けますね)、こういった方が身売りに素直に賛成するとも思えないです。ちなみに根元氏、大北氏の創業者2名も再選を否認されています。外部招聘するといっても米国の取締役会のように、じっくり人選して、外部の「経営のプロ」を雇うことも一般的でありません。個人的には、拙速な身売りをせず、よい経営者を招聘してうまく企業価値を「再生」できれば、もっと彼らに賛同する株主が増えて、結果的に彼らの利回りにとってよい結果を生む、win-winの関係が出来るのになあ、と現在の日本社会の空気を読むとそのように考えますが、そんなこと関係ないでしょうかね。 ちなみに こうやって比較すると、アデランスさんも人を使って何か開発していたけど、現時点では芽を生んでいないように感じられます(研究開発費が成果に結びつかない)。競争も激しくなっていますし(粗利率の低下)、コストコントロールをしっかりやっていかないと売上高が半分以下のアートネイチャーに利益額で追いつかれてしまいました。今なら巻き返しが出来そうな位置づけにありそうです(もっともアートネイチャーも今期、本社家屋で大幅な減損を計上し赤字に転落しており、まあどっちもどっちな感あり)。投資有価証券の中身をチェックしていないのですが、ざっくり半分は換金できるとしましょう(税金を考慮せず)。キャッシュリッチで、持ち合いリッチ?だと、この分は実質買収価格から控除できますので、30%のプレミアムで買った場合でも、実質は8%程度のプレミアムとなります。したがって15%程度のプレミアムだと実際は「おつり」が来ることが予想されます。なお、時価総額842億円は29日終値ベースです。持ち合いやキャッシュリッチが「企業価値をフルに生かしていない」という意味をよく考えましょう。また、なぜスティールがMBOを提案したかもお分かりでしょう。仮定実質買収価格約900億円(イコール企業価値)のうち、仮に450億円を借入金で賄った場合で3年後に仮に企業価値が1100億円程度になっていたら、株式価値は450から650億円となり、450億の投資で3年間で200億円稼げる結果となります(彼らのターゲットはもっと高いと思いますが)。グリコやらハウスやらブラザー、ノーリツやら、お尻に火がつきそうですね。ウイークデーなのでざっくりとした分析ですので、早とちりしている可能性もあります。ご了承ください。
2008/05/30
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日本ハウズイングの大株主で創業家一族の株式管理会社、カテリー・ナイノウエ社から、両社宛に公開質問状が出されました。当該公開質問状は原弘産のHPに開示されています。 これ日本ハウズイング側からも1日遅れで開示されましたが、質問の本文は開示されませんでしたこっち詳細は原弘産側の開示から見ていただくとして、概要は*井上家とは、日本ハウズイングのマンション管理ビジネスを創業した故井上博敬氏を一族に持つ、創業以来の大株主であること、*カテリーナ社は4月7日にも日本ハに対し、「4月7日付お願い」という質問らしきものを出していたこと(しかし、日本ハからはそういった情報開示がない)*日本ハ経営陣に対し、原弘産の質問に対する将来計画には1:単に外部環境頼みのもので創業者精神がないこと、2:開発事業からの撤退について、なぜこの時期に決めたのかと撤退するということに対する経営陣の経営責任に対する考え方、自己評価*これまでIPO株価880円を下回っており、今回の提案がなければ2月に実施した自社株買い(789円)よりも高い株価は望めそうにない現状に株主としての不満*この株価を高めるための具体的な「工程表」の提出*日本ハ自らが考える適正株価の自己評価は それと日本ハの内情*開発事業と管理事業にほとんどシナジーがなかったこと(人事交流すらないと)*旧東洋信託銀行出身者が50人もいて(本社員1083名だからかなりの数)、実質的には旧東洋信託にコントロールされている。その証拠に、小佐野会長や井上取締役に同行出身者が退任を迫るという事態が平然と行われていること(取締役人事の権限がないのに経営体制に問題があると指摘) *それと株主名簿閲覧の拒否などせず、正々堂々とプロキシーファイトしろといっています 一方、原弘産に対しては日本ハが指摘している、やや不透明な過去の取引についての見解を述べさています。それと日本ハの株主に対して買収成功後のどういったガバナンスで経営監視するのが最適かを述べさせています後は決算発表直前になって業績下方修正はどういう意図だ など カテリーナ社のように、創業家の方からの質問なので、どれも納得感のある内容が多いのですが、原弘産側の子会社井上投資とは無関係なのでしょうか? 一部では小佐野家と井上家のお家騒動であるかのような情報もありますが、旧東洋信託出身者が どちらも取締役を退任しろ という趣旨のことを言った、と書いてありますのでそう簡単な構図でもないような気がします。もっと複雑系かな? いずれにせよ、日本ハ側が発表した5月13日付取締役会意見書 これ では、原弘産の退出した株価算定のための計画より少し上方修正した計画を出した程度に過ぎないように見えてしまう「後出し じゃんけん」だなあ、と個人的に感じていたので、カテリーナ社の言い分は説得力があります。特に、経営陣にこれまでの経営の評価と適正株価の自己評価をさせるというのは非常に重要だと思います。原弘産側は外部限定情報のみで1000円といったわけですね。 雑感今回のカテリーナ社の質問はシンプルかつ、端的な内容だと思いますが、これまでの何かにつけて何十枚の資料を読みこなさなければならない公開質問をやるのなら、正々堂々と討論会でもやったらいいのにと感じます。上場している会社の株式を買うのがこんなに大変なのか、と考えます。特に今回は、やたら法律的な内容が多く(別に原弘産側から、「あるべきライツプラン」の提案なんてなくとも、廃止させるようキャンペーンすればいいような気がする)、一般株主の立場からはわかりにくい。結果、日本ハから「企業価値を著しく毀損するもの」と、やんわりと濫用的買収者だと断定されているのですが、自分たちが努力しても出せない1000円の株価をつける人がなぜ、価値を毀損するのかさっぱりわかりません。1000円で買った人は1000円以上の価値にする必要性があり、例えば短期的で資産売却してしまい、投資回収をしようともくろんでいた場合、仮にそれで投資回収できるとうことは、それがむしろ正しく、それまでそういった事態を放置した経営者に責任があるんじゃないでしょうか? コングロマリットディスカウントって奴ですね、日本の多角化経営(いわゆる総合化のツケ)の一番の弱点です。 こういったのは経営者が考えないといけないはずなのに、平気でこれまでこの手法で買収者を撃退してきたといった「自分の事例に合うのか確認しない根拠なき通説」を信じて質問するのは愚の骨頂です。法律家を含め、アドバイザーの方はアドバイスするかもしれませんが、自分で判断して開示して欲しいものです。まかせっきりになるから、経営論争なのか法律論争なのかわからなくなってしまうのではないでしょうか。 これは買収防衛策全体にいえることかもしれませんが・・・。あんなライツプランの提案をいちいち読んで、しっかり理解できる株主なんて何%いるのだろうか?そんなことだから、支持する気になれないのですが・・・。
2008/05/29
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5月28日未明、修正いたします、申し訳ございません。インベブ社が「Plan B」としてアンハイザー・ブッシュ社の買収が難しい場合の代替案として考えているのは、SABMiller社との「合併」提案だということでした。要するにどちらかと合併を主導的に考えているということになります。誤訳でした。 (なお、直近情報では米国では、自国を代表する企業が外資に下ることに議員の反発が予想され、オバマ氏もそういった考えを支持するだろうという論調らしいです) ビール業界世界1位(生産高、売上高とも)のInBev(インベブ、本社ベルギー)は、同3位のアンハイサー・ブッシュ(米国、バドワイザーですね)に買収提案を計画しているとFT.comで報じられた。買収価格は460億ドル(1ドル103円で約4.7兆円!)といわれている。買収後のビールの生産量は2社単純合計で世界シェア25%になり圧倒的首位となりそう(キリンは同2~3%程度)。両社広報関係者は共にノーコメントという。当ブログでは、意識していなかったのですが、取り上げている業界では実はビール業界が一番多いのですね(次に資源関係、金融関係、電力関係などでしょうか)。特にサッポロとカールスバーグ、ハイネケンなどを採り上げていました。したがって、ビール業界の巨人であるインベブやサブミラー(本社南ア)などが、どういう動きをするのかという点についてもある程度ご紹介していたかと思います。このインベブの件については、当ブログ バドワイザー、デルタ航空、リオドセ。資源バブルと玉突きM&A 2月17日 でも多少取り上げていました(インベブは世界2位じゃなかったのか?)。 世界のビール業界(数値以外の記載は筆者の記憶ベースなので、ご了承ください)日経ビジネスオンライン2007年4月18日より。現在はハイネケン、カールスバーグのシェアが2~4%ほどアップしていると思われる鉄鋼業界同様、アルコール飲料もかつては地域密着的な志向の強い業界で(かつ重要な税収源)、国ごとに味付けやブランドがあり、他国のマーケットにはなかなか踏み込めませんでした。しかし、欧州や北米では事業化が進み、嗜好も類似していることからハイネケン、カールスバーグやバドワイザーといった巨大ブランドが育成されました。ただし、日本を含めた欧米先進国ではアルコール消費量の成熟化、低減傾向は強く、成長性が見込めなくなってきました。また、ビールの原材料である穀物の急騰、アルミやデリバリーのための運搬コストの高騰など規模のメリットを更に追及しないと競争に勝てなくなるという危機感もあるようです。一方、いわゆる新興諸国(BRICs又は南アフリカのSを取ってBRICS)の台頭により、こういったマーケットがビールの消費量を底上げし、典型的な「デカップリング」業界となりつつあります。こういった欧米市場の成熟化などを見越し、インベブやサブミラーといった企業がM&Aをテコとしてついにハイネケンやバドワイザーから世界市場の主導権を奪ってしまいました。ブランド=企業ではなく、ブランドの集合体が企業という発想で、LVMH(ルイヴイトンモアへネシー)と同様のブランドコングロマリット化しつつあり、ブランドの枠を超えた規模のメリットを追求しだしました。 インベブ本社はベルギーなのですが、2004年にベルギーのインターブリューとブラジルのアンベブが合併して出来た会社です。現状はブラジルを中心とした南米市場の成長がすさまじく、経営の主導権はブラジル人が把握しています。したがって、「ビール版アルセロールミタル」の要素があります。13人のトップマネジメントのうち、ブラジル人が実に7人を占めるといわれています(これも日本板硝子同等買収後経営主導権が入れ替わったケースに近いのではないか?)。07年インベブの収益構造、約2兆円の売上高の41%を南米が占めるが、EBITDA(償却前営業利益)はなんと56%を占める南米依存型の構造。欧州はこのポジションが逆転しますね。それだけ南米では収益率が良いということになります。 このインベブがアンハイサー・ブッシュに1株65ドルをメドに買収提案を出すといわれています。昨年秋に非公式に打診を行ったといわれており、そのときはブッシュ側に拒否されたとのことです。今回もインベブは確実にオフォアーするか決めかねているようですが(InBev was not about to push the buttonと表現)、様々な憶測が流れています。 オファーを強行するという説まず、地理的な補完関係が完璧であるという考え方。インベブは欧州と南米をほぼ手中に入れているが、北米、特に米国ではさっぱりのシェアです。その北米ではブッシュが50%のシェアを握っています。今、ビール業界は日本も同様、「プレミアムビール」が売れ筋となっていますし、利益率も格段良い。したがって、アンハイザーの北米基盤にインベブと共同開発したプレミアムビールを流し込めば、シナジーが非常に大きいといわれています。当然アルミ缶などコストメリットも莫大です。20011年までに14億ドルのシナジーが見込まれるといわれています。今週中にももう一回話し合いを持ち、そこで、正式に提案するといわれています。仮に拒否をされた場合、「株主に提案の良否を直接訴える」可能性があるといわれています。非友好的買収提案をするということですね。さらに、「Plan B」として、なんとサブミラーと共同で買収提案を行う可能性があるともFTは報じています(この場合、ミラーとバドワイザーが重複する北米市場が米国独禁法に抵触する可能性も考えられる。民主党政権になると余計に) オファーを撤回するという説既述の通り、インベブはベルギーの企業とブラジル企業が2004年に合併して出来た企業であり、大方の見方と違いブラジル人主導で統合が進められており、現在厳格なコスト管理の下、グローバルなオペレーションの統合を粛々と進めているといわれています。ただし、この統合に当然反目する勢力もいるので、現時点ではただでさえ広範囲な管理地域に対し、「進行中」の段階で、統合に成功したとまで言うには早いといえそうです。したがって、今度はもっと大変そうな米国企業の統合となると、時期尚早ではないかとブラジル人が考えても無理はありません。アンハイザー側CEOであるAugust Busch 4世は乗り気ではないらしいです。ただし、防衛策といわれていたスタッガード・ボードを廃止したらしいですので、現状では丸腰となっているらしい。(スタッガード・ボード:取締役の期差選任。米国では通常取締役の任期が3年といわれており、3年の交代期を同時期に設定するケースが多いがこれを、例えば3分の1ずつ毎年改選していけば、敵対的買収者等に取締役を一気に変更されることがなくなる。買収防衛策の一種。日本では、1年改選が主流となりつつあること、東証がライツプランとの併用の自粛を申し出ていることから、取り入れている企業は極めて少ないと思う)第2位の大株主(5%ぐらいの保有)はあの、バークシャーハザウェイ、そう、「米著名投資家」のウォーレン・バフェットです(彼の枕詞、米著名投資家はアイカーン氏と同じ枕詞だが、市場では全くアイカーン氏と比較にならないほど尊敬されています)。彼の出方が非常にキーポイントになってきそうです。彼はP&Gがジレットを買収したときにも、「絶対に売らない」といいましたが、P&Gに説得されて売却しました。尚、投資家はアンハイザー側が昨秋の打診段階で、積極的に提案を検討しなかった取締役会に不満を抱いているといわれており、次回の提案は真剣に検討するようにプレッシャーをかけているといわれています。 雑感ユーロ経済によるドル経済の支配の象徴的なディールになるのでしょうか?ドルが凋落するとそのまま円もズルズルいってしまいそうな気がします。また、BHPビリトン、Rioティント同様、買収企業と被買収企業が業界トップ同士で大差がありません。世界シェア3位だから、といって安穏としているとやられてしまうのでしょうか。厳しいですね。 なお、インベブ側は既に買収に必要な総額5兆円近くの資金調達をJPモルガンチェースとバンコ・サンタンデール(スペイン)にメドをつけたといわれており、あとは「ボタンを押す」だけに整っている。 しかし、毎度ながら、取材努力がすさまじいのか、口が軽いのか、ほとんど買収提案書のドラフトを読んでいるかのような内容ですね。まあ、日本も産業再生機構案件で特に、ダイエーの処理なんてのは「筒抜け」状態だったので、あまり他国のことをとやかく言う資格はありませんが。
2008/05/26
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マイクロソフト 動く。 嫌いだといいながら、展開が読めないこの案件にどうしても興味はそそられてしまいます(ポリシーないなあ)。各紙によると、マイクロソフトはヤフーに新たな提案を示し、依然ヤフーに対し関心があることを示しました。一時はmoved on と表現し、新たな戦略を練るようなことを言っていましたが。いわく、マイクロソフトとヤフーの検索事業を提携・合弁等の共同でグーグルと対抗するような勢力を作ろうとする動きです。今回の声明文ではマイクロソフトはヤフーという企業全体への買収に対しては提案をしていないとのことです。 アイカーンの側近は、マイクロソフトが買収に関心がないのならヤフーにグーグルとの提携を勧めるだろうという趣旨のことを記者に語ったそうです(マイクロソフトへの牽制ですね。しかし人の嫌がること徹底的にしますね。ビリオネアーさん)。ヤフーの事業構成はよく存じ上げないのですが、仮にクラウンジュエルだけ抜き出してしまえば残りのヤフーは「焦土化」するのでしょうかね。仮に焦土となってしまうとマイクロソフトは日本流で言えば「濫用的買収者」なんでしょうかね? 非常にクレバーな提案にも思えるが・・・。 それよりも今日のメインはアイカーン側のコーポレートガバナンス。 NYTのDeal Book にDeal Professorというコーナーがあります。ここでは、米国のM&Aにおける論点を色々指摘してくれるので、とても参考になるのですが、英語とデラウエア会社法が両方理解出来ないとついていけない(私にとっては商事法務を英語で読んでいる感覚です。したがって訳が少しあやふやかもしれません)。今回はアイカーン側のプロキシーファイトにおける論点を問題提議しています。これってデラウエアだけでなく、日本でもありうるのではないでしょうか?(詳しい人いましたら教えてください) アイカーンは自らの取締役候補者名簿にコーポレートガバナンスで有名なロースクールの教授Lucian Bebchuk(株主民主主義推進派とのこと)を推薦しているようです(米国では送り込む候補者が結構いらっしゃるのですね。日本じゃOKする人少ないでしょう)。仮にプロキシーファイトに勝利した場合でも(ヤフーの取締役会が「アイカーン派」に総入れ替えとなる)、すぐにマイクロソフトとの買収交渉に入るわけにはいかないといっています。すなわち、今度は自らヤフーの取締役会として、ヤフー自身の長期的な見通しをレビューし、独禁法等の規制リスクなどをレビューし、それとマイクロソフトとの提案を比較検討してから結論を出さなければならない、というアセスメントプロセスを踏襲しなければならないはずであり、それを軽視するとヤフー株主への忠実義務(fiduciary duties と言っています。直訳は信託義務とか忠実義務とかになっていますが)を果たしていないということになる、と指摘。もっともこのかしこい教授なら「言わなくともわかっている」と思うが、と皮肉なコメントがある。要するに取締役になったからといってすぐ売却交渉に入るというわけに行かないはずだ、と指摘しています。ヤフーの現取締役が行ったであろう手順をもう一回踏むんですよと。 エージェンシー問題。株主の決定という前提を利用してどこまで執行役員やディレクターをコントロールできるのかという点。最近流行のアクティビストによる株主民主主義の傾向に一矢。特にアイカーンはヤフーがマイクロソフトの提案を拒否してから株主になった人。なぜ取締役会がそういう決定をしたか内部事情を知らない人。仮に僅差でプロキシーファイトに勝利した場合でもアイカーンは自らの思うままに出来るだろうか?他にもBebchuk教授は会社重役(オフィサー&ディレクター)の特権批判(直行便、ファーストクラスとか)を批判しているけど、自分が取締役になったら、例えばカリフォルニアまでデトロイト経由のノースウエストで行くのか、みたいなこともいっています(結構せこい)。 これは「少数株主」が勝利した場合のケースを想定するからいえることなのか?例えば昔懐かしい? 三角合併による敵対的買収脅威論争がありました。三角合併はそもそも総会特別決議が必要だから敵対的に活用することは「ありえない」とする正統派説? いやそんなことはない、TOBで50.1%とって取締役を入れ替えて、総会を開催して特別決議に持ち込めばいいとする経団連説がありました。(当然私は前者だと思っていましたが)後者の場合、50.1%とらなくともプロキシーファイトで取締役を送り込めばいい、とする「極右」の意見もありましたが、この場合でも今回の「アイカーンの乱入事件」と同じようなことがいえるのではないでしょうか?新任取締役にも忠実義務(ありますよね。一人株主にでもならなければ)。意思決定に多少時間かかりますよね。事業会社でも実際取締役になって色々レビューしたら買収しない方がよいという結論に傾くことは「論理的には」ありえるでしょう。 夜にみた日経ネットから。あのブーンピケンズさんもこの買収劇に「乱入」し(といっても1%未満の保有)、アイカーン氏を支持する声明を発したそうです。たしかに、将来の会社のあり方を決めるための総会なんでしょうが、マイクロソフトが5月初旬にwalk awayした以降に所有した株主が、ヤフー経営陣を突き上げるのはこれも一種の「後だし じゃんけん」だと思いませんか? 「あのブーンピケンズ」の意味がわからない若い読者の方へこの人(79歳だそうです。アイカーン72歳といい、若い!)は、日本ではバブル絶好調時代に、トヨタ系列の小糸製作所(静岡市、東海道新幹線で静岡-新富士間で工場が見えるはずです。清水あたりかな)の株を買占め、トヨタに買戻しをさせようと企てた人です。そうです、「会社を食い物にする」未遂までいった人。 80年代の「コーポレートレイダー」の同窓会のようになって来ました。
2008/05/21
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当ブログでは当社の買収防衛を非難し、特に企業価値向上策である計画の実現性のなさを厳しく指摘してきました。 15日に同社の08年3月期決算より、その「企業価値向上ぶり」を分析しました(決算短信はこちら )参考昔の私のブログ外資って怖いの 2当社の昨年の「当社の企業価値向上に向けて」 当社は少なくとも、スティールの提案株価よりこの計画のほうが、長期的な株価にお得ですよ、といったわけですね。もっとも、通常の場合でトヨタやソニーのような企業ですら中期計画の達成を予測するのは困難であるためブルドックソースだけが「ばら色」とはいえないのだが、ちょっとひどいなあ中期計画の概要 前期08/3期 計画1期目です計画1年目の営業利益の達成率が75%はないんじゃない?当然当期利益は買収防衛関連費用があるため19億円の赤字ですが、見逃してはならないのは、投資有価証券評価損3.4億円と減損損失6.3億円の計約9.7億円の特損です。投資有価証券評価損はたぶん持合株式の評価損じゃないかと思われます。減損は主に買収したイカリソースの のれん です当該のれんは昨年6月時点では5年償却といって株主総会を迎えましたが、中間決算段階ですでに減損しているとはひどくない? 以下注記事項の抜粋のれんについては、事業計画を見直した結果、当初想定していた収益が見込めなくなったことから減損損失を認識しております。なお、当連結会計年度において認識した減損損失の内訳は、機械装置36百万円及びのれん594百万円であり、特別損失に計上しております。抜粋終わりまさか、来期以降の「ゲタ」を楽にするために、意図的に前倒しで減損したのではないだろうな。監査法人も厳しいだろうから、注記の通りだと思うが、株主価値・企業価値共通の利益向上に貢献したのでしょうか? もっとも、当社は営業利益までの計画しか公表してないので、減損や持合評価損を責めても不適切だが、株主価値・企業価値共通の利益の観点からすると、こういった利益予想について当然にして毀損をもたらしたと認識すべきではないかと思います。営業利益が7億円の企業で、約半分の株式評価損、1年分の利益の大半の減損、あわせて営業利益を超えています。あの弁護士さんは、本心はいざ知らず、弁護士としての忠実義務を果たしたといえるでしょうが、ブルドックソース経営陣は果たしてその忠実義務を株主・企業共通の利益のために果たしたのでしょうか? 弁護士のプロフェッショナル魂をすぐ隣で見ていて、どう思ったのでしょうか? さらに営業利益面は、「経営全般にわたる徹底した合理化及び効率化を図ったものの、原材料価格や物流コストの著しい高騰等により」 (短信抜粋)コストが増加したといっていますが、これも中期計画で08年3期の計画では逆に1.5億円の削減を見込んでいたのですよ。「1.5億円の削減は出来たけど、それ以上に値上がりもした」という場合はどうでしょうか。やっぱり見通しが甘いとしかいえませんね。去年の当ブログでも指摘しましたが、同じ原材料を使うカゴメは07年3期の決算説明会でこんなコメントを残していました。 「リンゴ果汁などが高くなっておりまして、従来、生で食べることをしなかった中国の方々が、生で食されるようになって、原料価格にも反映されて、高くなっている状態でございます。また、ペットボトルや缶などの容器についても、原料価格の高騰により影響を受けております。ずっと抑制を続けておりますが、抑制しきれなくなり、若干のアップになると見込んでおります。」同社はアナリストとの質疑応答を公開しています。 カゴメの決算はまさに予想通りだったわけですが、ここまでピタッとする必要性もないものの、要はそれぐらい慎重に計画を立てるわけですね。また食品業界でも資源業界同様の「買い負け」現象が発生しています(中国等が日本より高い値段を提示するため日本が輸入できなくなる現象、マグロなんて典型的)。原油高、買い負けなんて「ソース作りのプロ」だったら想定できないでしょうか ブルドックの来期予想営業利益が677から800に増加を予想していますが、そもそも12億円やるといっていたので、計画2期目ですでに当初計画との達成率は67%しかありません。毀損してしまった企業価値を挽回するというメッセージが読み取れません(挽回できなければ従業員の方も給与にも影響ありますね)。 中期計画の下方修正を発表していないのですが、計画3期以降は達成率がもっと落ちそうです。 仮にDCFで企業価値を評価する場合、計画最終年度である13/3期の計画値さえ、うまくいけばそれほど影響がないと思っているのでしょうか?つまりターミナルバリューが企業価値の70~80%ぐらいを占めたりするケースが多いですから。 カゴメといった一流どころはきちんと、買い負けや原油高といった外部環境を把握していること(ブルドックは外部環境把握能力が欠落)、イカリソースの買収失敗という内部経営管理能力に欠落していること、身の丈以上の持合株式評価損というコーポレートガバナンス上も問題があることなど総合的に考えると、結果として株主価値のみならず企業価値も毀損した(この2つが違う概念と解釈するのに違和感を覚えます)のではないでしょうか? ここからはブルドックソースを離れる。こういった非友好的買収提案を受けた後に公表された事業計画の精査作業の経験を積み重ねていかないといけないと思うのですが、後だしじゃんけん はよくないと思います。なぜなら、買収者側は例によって帳簿閲覧権を拒絶されるのが目に見えています。したがって、提案する株価も慎重な値にならざるを得ません(原弘産は株主名簿閲覧の件、高裁行きですね)。本場欧米では、将来の経営数値を明確化していないのになぜこんなことになったのか不思議です。住友重機械工業も現在米国半導体装置メーカーに非友好的買収提案をしていますが、株価ぐらいしか提示していませんよね(当ブログ 住友重機、米アクセリス・テクノロジーズへ買収提案、アクセリス側は承諾せず を参照)。 株主の判断だといっても、きちんと分析できる一般株主っていませんよ。そのための特別委員会だと思うのだが、機能不全ですよね。 なお、住友重機械工業は今回ライツプランの導入を提案していますが、みずからは株価オンリーの情報しか非友好的な買収相手側に提供していないのにガチガチでまるで要塞のような防衛策の導入はやりすぎなんじゃない? これもアンフェアだなあ(もっとも同社は中計の同時発表をされてはいます)。 ライツプランなんて所詮、「猛犬注意」 の張り紙です。しかし、その張り紙のおかげでスティールさんもお行儀がよくなったりして、一定の効果があった。しかし、持合ではない一般株主の意思決定をゆがめてしまうようなばら色の後出しじゃんけんや、相手とのまともな議論を避けたり、特別委員会が予想通り期待はずれだったり、面会すらしていないのに労働組合等から「企業文化が違う」と一方的に反体声明文が出たり(こういう言葉は合併後よく聞く言葉ですよね)、圧倒的に買収者に不利な仕組みとなってしまった。 非友好的な買収提案をするほうだって、下手すりゃ濫用的買収者呼ばわり(最近では「著しく企業価値を毀損するもの」と曖昧かつ拡大解釈されるトレンドにある)されるレピュテーションリスク(原弘産は相手企業から呼ばれている)やプレミアムの用意、アドバイザーの協力やら、そのための時間とコストをかけて提案するわけですよ。そういう提案者は実は株式市場にプラス効果をもたらし、ひいては国民の年金運用にも寄与する大事なリスクテイカーなんですよ。リスクをとり行くものに報われる途がない仕組みって、おかしくないですかね?日本人がリスクを好まないのは理解しますが、だからといってその行為を否定するような雰囲気はいかがでしょうか?他人が儲かると自分は損するんですかね?事業会社がやりにくい泥を投資ファンドがかぶっている事だってありうる(スティールは米国でEXITは基本的に他の同業の事業会社への売却が多く、結果的に産業再編に貢献しています)。 これじゃあんまりにもアンフェアだ。
2008/05/18
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5月14日、日経新聞夕刊、ブルームバーグ等で、あの「米国著名投資家」(日経新聞の枕詞)カール・アイカーンがヤフーの4%弱の株式取得が判明、明日に迫ったヤフーの定時株主総会の株主提案提出期限に独自の取締役候補案を提出する、プロキシーファイトになる可能性がある、との報道が一斉にされた。マイクロソフトが今月上旬にヤフーへの買収提案を取り下げたことはご存知のとおりです。米国では、マイクロソフトが引き下がるはずがなく、一旦株価を下げてから、最アタックするのだろうといわれていました。ヤフーの株価推移(直近3ヶ月)マイクロソフトが買収提案を引っ込めた5月初旬に株価が急落していますが、株価はマクロソフトが提案前の19ドル以上にとどまっています。これが、市場で「マイクロソフトは帰ってくる」といううわさ裏付けています。アイカーン氏率いるアイカーンパートナーズ(米国でトップクラスのアクティビスト・ファンド)が、10人の取締役メンバーのうち、3人程度を送り込み、会社の売却をヤフー経営陣に迫るものであろうと考えられている。アイカーン側は、このニュースにノーコメントを貫いています。米国では、この記事に騒然となっていまして、CNBCなどでは、マイクロソフトが去ったとき、ルパードマードック(ダウジョーンズを買収した豪州の新聞王)、グーグル、AOLなど提携や買収のうわさがあった企業は結局誰も手を挙げなかった、アイカーンがリスクをとって手を挙げたことは、投資家にとってwelcomeで、ジェリー・ヤン、ヤフーCEOにとって悪夢だ、というのが一般的な見解となっています。アイカーン氏は米国で微妙な評価を得ていまして、肯定派と否定派がいますが、利回りのパフォーマンスのみならず、その言動や行動といったパフォーマンスでも物議を醸し出すことが多く、TCIなど欧州系とはちがって、派手でアメリカンな物言う株主ぶりを発揮しています。彼は2005年に投資銀行ラザードフレールを雇い、あのタイムワーナーをけちょんけちょんに論破して、大幅な自社株買いを成功させました。07年に入っては、11月にオラクルがBEAシステムズを敵対的買収に成功したときの、BEA側の大株主としてオラクルに立ちはだかりました。そして、12月、今度はあのモトローラの携帯電話部門を分社化させるのに成功しました。この時は、約1年前から、モトローラ株を買い集め、やはり役員を送り込むぞ、携帯事業はお荷物なんだから何とかしろ、と散々経営陣に迫りました。モトローラ側は07年度決算、通期で携帯電話部門が大赤字を計上したこともあり、分社化を決断しました。アイカーン側は役員を送り込むことに成功しています。モトローラは08年中に携帯事業の分社化を株主に通告しました。彼はこういった投資ファンドでは珍しく、ハイテク業界で実績を挙げていています。逆に米ハイテク業界がもはやハイテクではなくなってきているのかもしれません。昨年夏、「バリュー株投資セミナー」というものに参加したとき、あのインテルが「バリュー銘柄」といわれていたのにはびっくりしました。 さて、肝心の「あの人」は帰ってくるのでしょうか?これも様々に言われていまして、帰ってくると信じる人は、バルマーCEOの威厳にかかわるという説(敵対的TOBも辞さないといってやらなかったら、名折れとする説)、オラクル的やり方を踏襲しているとする説(一旦引っ込めて、再びオファー、価格を揺さぶる)、ヤフー買収を引っ込めるとそれこそ、追撃すべきライバルのグーグルが益々有利になってしまうから(経営戦略上もっともな理由)、などがあります。(当面)帰ってこないとする説は、敵対的TOBはヤフーのクラウンジュエルである、優秀なエンジニアの離散を招くとする説や、これ以上ヤフーとにらみ合うと、ヤフーがグーグルと提携を結んでしまいかねない、そうすればグーグルが一番得をして、マイクロソフトは得るものがないからだとする説があります。ただし、「ウオールストリートの事情をよく知る人」(誰だ一体)は、マイクロソフトは当面帰ってこないといっているようです。ところで、対岸の火事であるかのような今回の買収劇、米国情報産業勢ぞろいのような感がしますが、日本企業も学ぶべき点はあるのではないでしょうか?ヤフー過去1年間の株価推移なぜ、マイクロソフトが31ドルで提案し、33ドルまで引き上げたのでしょうか?まったくの個人の意見ですが、やはり、10月ごろに32.5ドルをつけており、これを超える金額でないと株主は納得しないだろうし、31ドルは最初からジャブのようだったのかもしれません。また、2月の31ドルという買収提案価格は当初62%74%(記憶ベース)のプレミアムだ、と伝えられていましたが、これもよく見ると、株価は秋ごろの32ドルから急落して19ドル付近まで転げ落ちています。これはヤン氏がCEOに復帰しても大胆なリストラ策を打ち出せず、弱気な発言など市場が期待外れだったことが売り材料だった模様です。したがって、株価下げ局面では、プレミアムの多寡にばかり気をとられていてもいけない、ということでしょうか。一般的には30%程度がプレミアムの相場といわれていますが、傾向を知っておくことは買収にも防衛にも有意義でしょう。これはRioティントがアルキャンをかなりの高値で買収したと市場評価され、買収後株価が急落しました。その価格を元にBHPが買収提案を仕掛けたりしていますので、株価急落局面には要注意であることは間違いありません。「売りドク感」を演出しやすくなります。さらに買収提案を一旦退けてしまうと、その後急降下する株価の維持対策もしっかりしないといけないでしょう。特に今回、37ドルがフェアバリューだといったヤフー側はその株価に近づく具体策を迫られています。日本でもライツプラン等で仮に撃退できたとしても、株価は一旦冷え込むことは十分予想されます(思惑買いが外れる、テーオーシーのような感じ)。まさに、その急落した間隙を縫って、アイカーンのような株主が割って入ったら、その株価急騰策を即実行に移さないと、「一斉口撃」を受けてしまいかねません。もし仮に、ばら色の絵を出して「さえ」おけば大丈夫と思っていればそれは大間違いになりかねません。その「薔薇の絵」の進捗をしつこく突っ込まれる可能性も覚悟しなければなりません。ちなみにリヒテンシュタイン氏はアイカーン氏を師事しているらしいのでご参考までに。さて、ヤフーVSマイクロソフト戦に突如登場したアイカーン氏、引っ掻き回すことは確実でしょう(多分)。***********************************************************まったくの独り言ですが、仮にマイクロソフトとアイカーンに「阿吽の呼吸」があった場合は、どうなるのでしょうか。アイカーンがしつこくヤフーに売却を迫る、そこでマイクロソフトと「友好的に」買収を合意する・・・・。だからマイクロソフトは簡単にWalk Away出来たのか、と。 5月16日未明追記アイカーンは委任状争奪戦に踏み切るべく、取締役候補案をヤフーに提出したそうです。 "It is clear to me that the board of directors of Yahoo has acted irrationally and lost the faith of shareholders and Microsoft". とヤフーの議長宛のレターに記載されているようです。10人全員の役員を取り替えるようです。アイカーンさんの見立てでは、34-45ドルだと「賛成してもいい」らしいです。けどM&Aって1対1の交渉になると圧倒的に買い手有利となるので、マイクロソフトもじっくりいく可能性もあるかもしれません(私論)。元々話題性の多いこの案件、益々ハリウッド化してきました。
2008/05/14
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「その3」以降の大きな経緯は、3つ。1:原弘産の株主提案、2:原弘産の株主名簿謄写仮処分申し立て、3:日本ハの取締役評価期間入りである。 1:原弘産4月10日、日本ハに対し、株主提案の実施。 リリース文この株主提案は、買収提案者が被買収提案者に対し、日本ハがすでに導入しているライツプランを 「こうしなさい」 といって逆提案している点がびっくりする点です。すなわち、1:会社定款に買収防衛策の導入・廃止の決議を株主総会の議案とすること、さらには対抗措置の発動そのものも株主総会の決議とすることを、定款に盛り込むよう要求している点です。さらに、取締役評価期間などに入る条件に客観的合理性を持たせろ、といっています2:ダメ押しで、この対抗措置を原弘産が20%以上買い増ししても発動しないことを決議事項に盛り込んでいます。なぜなら原弘産側の提案は日本ハの株主価値、企業価値を向上させる提案であり、対抗措置要件に合致しないからだ、というものである。3:原弘産から社外取締役2名を就任させること 2:4月23日に原弘産は日本ハに対し、株主名簿閲覧謄写仮処分の申し立て(株主名簿の閲覧を拒否した日本ハの処理を差し止める)をしました。リリース文3:日本ハウズイングは23日、原弘産からの買収提案の取締役評価期間に入るとリリースがありました。4月23日発表文 5月27日には回答をする、ということになっており、株主総会が決戦の場となる可能性が強くなってきました。 私は法律家ではないので、「生兵法怪我の元」になってはいけないのですが、以下の疑問があります。 1:の株主提案は、結構きわどい話題を含んでいます。そもそも株主総会の普通決議で導入した買収防衛策が法的に有効か否かを真っ向から問いただす内容を含んでいます。会社法を作った法務省の立法官は、普通決議導入を「単なる気休め」と言い切っており、会社法上は定款で決まっていないものや、役員の選任等法律であらかじめ決まっている議案以外のものをたとえ総会で決議しても意味がない、ということを言い切っています。防衛策で名をはせる弁護士さん達は、「事実上有効である」という風に言っておられます。どちらも「ポジショントーク」に聞こえなくもないです。 昨年、どれぐらいの支持を得て導入したのかわかりませんが、昨年の票+提案者側の票16.6%を入れると67%程度ぐらい取れるはずです。日本ハは対抗議案を出すのでしょうか?いずれにせよ、対抗措置を発動するためには株主の意見を何らかの形で伺うような路線はゆるぎないものとなっています(現行のライツプランでも株主意思確認会で決めることになっている)。 2の仮処分申し立ては確か、楽天がTBSで敗退し、最近のアッカ・ネットワークのイーアクセスに対するもの株主提案の取り下げを余儀なくされている。CFOの読みほぐしニュースをご参照今回の仮処分は過去事例(楽天 TBS)からいくと、原弘産の旗色がよくないものの、非友好的買収提案に関する司法のスタンスを再確認する 「踏み絵」 になろう。裁判所や政府の嫌いなファンドではないので余計に。 3の取締役会評価期間に入った、というのは日本ハ側も総会で買収案に対する一定の決着をつける覚悟を決めた、と考えていいのかな?原弘産側のネガティブキャンペーンの一つを食い止めた、ということかな? 結局、日本ハの買収提案に対する回答はA:賛成B:反対、なぜなら価格が低いから(アンダーバリューと欧米では言っている。ヤフーも「M&A自体を反対しないが、十分な評価を得ないと賛成できない」という趣旨を繰り返していますね」C:反対、対抗措置発動可否の提案D:反対、対抗措置発動なし、理由は買収提案者が買収者として不適格だから(理由はわからないけど) のパターンが想定できるのかな? Aはすぐにはないだろう。そのためのライツプランなんでしょ? Bは充分ありうる。このためのライツプランだというのが一般的見方。ただし、日本ハは原弘産の帳簿閲覧権も拒否しているので、デューデリなしに価格上乗せしろ、というのはやや世間に対する「ウケ」はよくないだろう。欧米だと別段帳簿見なくとも、 「もう一声」 はふつうに行われている。すると、一般株主という浮動票の票読みが難しくなるかもしれない(日本ハはオーナー側が30数%持っているんじゃなかったか?)Cは厳しそうな気がします。これだけ真摯に質問攻めに回答してきている同業者原弘産を「明らかに企業価値を毀損する存在」と言い切るのは難しそう。スティールさんではないので。合人社との共同保有者と決定付けるものがない状態。D。例えば、原弘産は風力発電を強化するのと日本ハの開発事業・不動産管理事業への投資と経営資源を分散させるほど経営体力がないように思われる。なぜなら、連結子会社の業績はおしなべて経常赤字であり、そういったグループに参加することには少数株主としては不安ではないか。原弘産20年2期決算説明資料(ただし、日本ハの株主の不利益というより原弘産の株主への揺さぶりとなってしまうのかなあ)対抗議案として、ばら色の計画 が出てくるのでしょうか? 一方の原弘産側は、結構かっちりしたバリュエーションをされているので、値段を引き上げるためには自社への株主説明責任をどのように果たすのか、風力発電は材料高騰などにより業績計画が遅れている点がある(要するに大幅減益)という点が少し気になります。 なんとなく備忘録的なエントリーで申し訳ありません。 尚、(また備忘録ですが)フィナンシャルタイムズで、日本板硝子の社長が英国人となったことを「reverse takeover」と表現していました。 GEは早速1000億円に上るリストラ案や一部資産売却案を発表、早速手を打っているとメッセージを発しました。一方、日立は子会社である、日立グローバル・スストレージ・テクノロジーが将来上場を目指してがんばるという趣旨を発表しています。 この辺の記事を追いかけたかったのですが、板ガラスの件は少し調査してみます。GE、日立の件は落ち着いたらもう一つ何か書いてみたい。これは結構疑問に思っていることです。
2008/04/25
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敵対的買収に関するM&Aの事例解説をかなり行っている当ブログで、このケースはあまり採り上げていませんでした。ポピュラーすぎて新聞で十分な解説がある、どうしてもマイクロソフトが好きでない、そもそもこういった業界に対する知見が極端に低い、などからでした。しかし、このマイクロソフトがあの、「シリコンバレーのランボー」といわれた、オラクルの戦術を採用しつつあるため、ここでは少し紹介したいと思います。ちなみに、ヤフーは「ポイズンピル」を導入しています。(以下、FT.comの記事から)マイクロソフトのスティールバルマーCEOは、ヤフーに対し「最後通告」とも受け止められかねない発言があった。彼は、今月末までにこのディールにけりをつける、場合によっては現在の買収提案価格を引き下げることになるだろうと含みを持たせている。「もし、株主に直接オファーをせざるを得ないのなら、我々の見通しから、undesirable impact on the value of your company となるだろう」。バルマーの側近は「読んで字の如くだ」と突き放した。ヤフーの関係者は、そういった行為は益々我々のスタンスが変更出来ない理由となる、我々の価値を十分に評価しないものには売却することは出来ない(安い)、とコメント。We will not allow you or anyone else to acquire the company for anything less than its full value.(以上FT.com)ブルームバーグでも、プロキシーファイトに持ち込んで、取締役を総替えする、株主に直接訴えた場合、提案価格の引き下げを暗示したと報道されている。ポイズンピルが、企業価値を引き上げる道具ではなく、「引き下げる元凶」 となりかねません。この戦術はマイクロソフトがオリジナルではありません。冒頭に記載したとおり、「シリコンバレーのランボー」ことオラクルが敵対的買収の際に採用した戦術です。ちなみにオラクル社は企業価値報告書ではオラクルがピープルソフトを「非友好的」な買収提案を仕掛け、「ライツプランが買収交渉の時間を作り、買収条件を引き上げた例」として掲載されています。もちろん、オラクル社は実際に当初提案価格を引き下げてディールをdone したわけではなく、きわめて狡猾な交渉戦術の一貫として採用しています。BEAシステムズの買収(07年~08年にかけて)時点での例を見てみましょう。BEAシステムズもポイズンピルを採用していました。 07年10月、オラクルはBEAに対し、1株17ドルで買収オファー。BEA側は拒否。同年同月 BEAは1株21ドル以下では応じない、と表明。同年10月下旬 オラクルの回答期限までに溝は埋まらず、一旦立ち消えになる同年11月 オラクル「誰もBEAに対抗提案するものはいない。いまや17ドルは高すぎるのではないか?」 と発言。次回オファーは株価を引き下げる可能性を示唆。08年1月 1株19.37ドルでオラクルとBEAが買収合意に至る。 とBEA側の絶対防衛ラインであった21ドルを下回る株価で成立してしまいました(結構話題となったが詳細は今回省略)。もっとも当初オファーの17ドルを上回ったため、一応2.37ドル分はポイズンピルの効果があったといえます。 しかしながら、独力で買収株価を達成出来ない場合でかつ、ホワイトナイトや対抗買収者が出現しない場合、こういった 「揺さぶり」 はある意味ロジカルです(日本だと「強圧的買収提案だ」といって、「ライツプラン発動」の大義名分を付与しかねない」。 なお、バルマーCEOは「株式市場、実体経済ともかなり弱含んでいる。特にインターネット企業は一般的に当てはまる」、と引き下げることへの外部環境の正当性をコメント。まっ、マイクロソフトの株主から見れば、このダウンサイドの時期にこれ以上引き上げるなよ、って気になるのは当然ですかね。経済産業省 & 企業価値研究会様ご一行が望むような結果になるのでしょうか? 対岸の例として。 ちなみに、経済産業省が主催する企業価値報告書で取り上げられたオラクル社は、「ランボー」 こと、エリソンCEOは「自分で開発できなければ買えばいい」(It's crazy to say you will only grow through innovation,"、「買収企業側で必要なものはエンジニアと顧客リストだ」(営業マンはいらない:ピープル買収時の提案内容)、さらに、こういった買収を仕掛けない他社を"Others would be foolish not to try."ですって。CEOがこのように豪語する企業を経済産業省さんは事例として取り上げられていますね。「技術立国、ものづくり国家ニッポン」の理想とは程遠い考え方の方が敵対的買収者ですね。 こわもてのエリソンCEO。実は親日家らしいが・・・。霞ヶ関の高級官僚さんの「とても頭のいいかたがた」の発想に凡人である私には理解不能です。ランボーのような豪快なライツプランによる買収交渉を企画したのですが、現実は、サッポロ、日本ハウズイングを見てわかるよう、相手方には 「重箱の隅をつつく」 ような運用がなされています(実際は「玉石混合」というべきですが、私はあえて「重箱の隅」と表現したい)。本来、弁護士のような専門職の方は、「縁の下の力持ち」的な存在であろうと思われますが、買収防衛に関しては主人公のような活躍をされています。これは弁護士の方に問題があるのではなく、もともと企業価値というものにそれまで鈍感であった依頼主経営陣に問題があるのだと思います。本来は経営者同士で話し合えばよいようなことまでも、経営戦略論争では買収提案者側に実は分がある可能性もあるため、リスクを避けるため、法的なこと以外にも「交渉のプロ」たる渉外弁護士に従わざるを得なくなる、などが要因でしょう(要するに力量不足で自分では手に負えないということ。もちろん最後の決断は経営者ですが)。あまり良い傾向とは思えません。買収防衛策の導入に関しては、百歩譲ってよしとしても、 買収防衛策の導入は「保身ではなく、企業価値を高めるためだ」と仰せなら、なにかベンチマークでもつけて、日ごろ努力するような提案を株主総会にご提示されればどうでしょうかね。また、ライツプランの「更新期限」が到来する企業さんには、過去数年間、企業価値向上のために何をやり遂げたかの説明責任を持って欲しいですね(配当や自社株買いを増やしたのは確かに回答の一部だけど、あれだけ従業員、取引先等一体となったものが企業価値だ、とのたまうのなら、その成果を見せて欲しいな。例えば従業員は給与が上がったのか?雇用者数は増加したのか、とか)。企業価値研究会さんには、ライツプランを導入後、こういった 「すばらしい事例」 をご紹介願いたいものです(業績アップ、株価アップ、待遇アップ、配当アップなどを成し遂げた企業)。こういった企業が増えると買収防衛策も皆さん(市場関係者の方を含め)それなりに歓迎するのでしょう。さらに、中途半端な買い付け条件を撤廃する努力をしてほしいですね。66.6%とか50.1%とかで成立するようなルールでなく、30%超の買い付けは、申し出があれば全部買い付け義務に応じるとか。さもないと、「少数株主のため」といって、「重箱の隅をつつく」 大義名分を付与させていますね。買収提案されるまでロクに株主のことなどを考えなかった(と思われても言い返せなさそうな)企業が、突然、買収提案されたとたんに 「少数株主の利益確保のため」 言及するのは滑稽です。そういう株主は実は持ち合い株主だったりするので、たとえ敵対者に買収されたとしても、実は取引が従前どおりに継続できれば価格なんてどうでもいいはずなんですけどね。最後は買収防衛策に関し、つれづれに思うところを述べてみました。
2008/04/08
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サッポロの株主総会が終了しました。結果から見ると、拍子抜けの反面、予想通り?の面もあり、双方とも 「問題先送り」 といえそうな気がした。 サッポロ側からすれば、不採算で経営の重荷となっている飲料事業の抜本策を投資ファンドであるクレセント・パートナーズとの提携を柱として改善するといっていますが、クレセントに何が出来るかは言及されていません。クレセントはチチヤス乳業に出資しているので、案外その辺と手を結ぶ可能性も否定できません。計画のよくわからない点ソフトドリンクを中心とする飲料事業ですが、前期含め、全社共通の販管費を考慮する 「前の」 セグメント段階で、すでに3期連続(05~07年度)営業赤字、ちなみに08年度は予算段階で既に赤字を計画している。09年度にやっと1億円の黒字の見込みだが、全社共通の販管費が07年度実績約23億円あります。これを何らかの仮定で各事業に配賦すると5期連続で赤字が確実な事業ということになります。なおかつ、不可解なことにこの全社共通のコストが08年度29億円、09年度34億円と増加してしまう。サッポロアシストなる各事業横断的にシナジー効果を引き出す部署が11億円も予算を食うのか?仮に11億円必要なら、その反面、削減すべきものはないのか大いに疑問。外食事業もかろうじて黒字(全社共通コスト配賦前)なので、同様のことが言えよう。これが計画です。JTがギョーザでこけちゃったので、なんともいえないが、こういうメーカーと飲料事業を合弁化するとかの抜本策が必要ではないか? サッポロの既存流通網ではキリン、アサヒはおろか、コカコーラ、サントリー、伊藤園などのメーカーと互角に戦うのは厳しいような気がする。ソフトドリンク売上の成長ドライバーは自販機の数じゃなかったかな。結局経営陣は地位が安泰、買収防衛策は発動意思決定に関し、社外取締役の関与を強める修正が可決。 スティール側は意図がさっぱりわからず、という意見が大勢です。私見では、彼らが出資済みのスティール銘柄の株価維持に必死なのでしょう。サッポロの総会で、ライツ・プランの発動を総会が承認するというのが彼らのワーストシナリオだったと思われます。ブルドックでライツ・プランが合法的とされた瞬間、彼らの日本株全体の価値が300億円近く下落した、といわれています(ちょっと情報源を忘れましたがこのころから下がっています。アデランスもそうでした)。一方で日経ビジネスオンライン「ブルドック完勝のウソ」2007年7月25日では、「スティール側から見れば、総額約18億円の投資に対して、リターンが約23億円ですよ。儲けはざっと5億円。儲けたのは誰かと言えば、間違いなくスティールなんですよ。」という論調を出されていましたが、私は投資家として、局地戦の勝利より全体戦の敗北に彼らは打撃を受けたと感じています。さらに濫用的買収者のレッテルもついて回った。したがって、特別委が今回絶妙な?感じで、ライツ・プラン発動の影をちらつかせため、彼らは比率を33.3%に引き下げる提案をしたのだと思われます(これなら単独で経営支配できないので、発動の大義名分がなくなる)。 私はそれ以上に、それまでは「企業価値向上へのアプローチ」で外食産業と飲料事業の抜本的見直しを主張していたものを、現経営陣の中期計画に対し、賛成に回るということが非常に残念でした。要するに経営陣と喧嘩したまま総会を迎えることはやばい(企業価値を毀損する可能性が高いと判断されたため、ズルズルいくと他銘柄の株価もやばい)という思いがあったのでしょう。SPが、投資家としてサッポロが今の状態で飲料と外食を継続することがサッポロ全体の企業価値にとってマイナスだと信じたのなら、それを貫いて欲しかった。それがあの「アプローチ」の位置づけではなかったでしょうか?これだと、他のグリコ、アデランス、ノーリツ等に提言している(提言というより「分析」のような内容だが)内容も本当に強力に経営陣に迫るのか? という感じで見られかねません。実際、ノーリツでは、株主提案もなく、総会出席もなく、そのまま総会が終了したといわれています。それだけ事前警告型が「効いている」 ということにもなりますが、だからといって主張を変えるのは、全体戦でも立場が危うくならないか? このままだと、事前警告型導入済みのスティール銘柄は皆同じような流れになりかねない。とりあえず、「価値を毀損するかもしれない」というベースだけで、発動の正当性だけ認める特別委の決済をとる、するとスティールは尻込みする、すると総会は無事乗り切れる・・・。今後、株式を約19% → 33.3%まで買い増し交渉を継続するということだが、その目的がさっぱり不明となりました。まったくの私見ですが、彼ら自身のポートフォリオがうまく運用できるためには、常に「何かが起こる」という期待を市場に与えねばならず、今回はそれが「買い増しする意思がある」というアピールなんでしょうか?こうしておけば、他の銘柄も一定の維持が出来るし、サッポロの株価も当面現状維持以上が望める(話し合いは長引いた方がよいのでは?)。 今後について 事前警告型導入済み企業はおおむね当てはまりますが、やや強引ですが、4つに分けてみました。 1、2はまさにブルドックやサッポロのような形ですが、今回株主に約束?した計画が達成できるか否かです。1の場合は経済産業省さんの大勝利でしょう。事前警告型ライツ・プランの国家的指導を取ったことを世界に胸を張ってもいいかもしれません。ただし、企業側からの改善策のハードルはかなり「野心的」なケースが多いため、ハイライトの色もばら色にしてあります。アクティビストは「モノ」言った甲斐があり、経営陣は企業価値の改善に目覚めたということですから。2の場合は本質的には大問題だと思います。「外国人ファンドよりはまし」 と思い、賛成した株主はどういった対応に出るでしょうか? あと1~2年もすれば、そのうち明白になると思います。その時点で、スティールは再度勝負(そこまで株持っているか?)すると、その時点での世論は?アデランスなんてのは2に近いイメージありますが。ただし、まったく計画達成がだめな場合と、「もう少し」といった努力賞では、株主の反応も違うかもしれません。努力賞的な達成度合いの場合、企業価値の改善が多少は出来ているでしょうから、皆さん実はWin-Winの関係にありつけるかもしれません。3、4はやや強引な事例ですが、ライツ・プランの導入がなかったり、あっても無理やり突破したケースで、3は企業側がユシロ化学工業のように大幅増配したようなケースでしょうか?4は、今後、「先輩格」のブルドックやサッポロの改善策がまったく未達成に終わる(終わりそう)など、改善策が「やっぱり ばら色」だった場合、後に続くライツ・プラン導入済みの企業のたどる運命を暗示しているかもしれません。一種の狼少年状態ですね。 こういった議論に国内の機関投資家が「モノ」言わないのが残念です。同じような感想を抱いていながら、外国人投資家だけをヒール役のようにして、個人や年金基金からの受託責任を果たしているのかわかりません。彼らがきちんと合理的な行動や発言をすれば、日本の株価はもっとましかもしれません。下記のような意見は出てこないのではないでしょうか?重要なことは買収が成功することが目的ではないと思います(該当企業には大問題ですが)。 ウォレン・リヒテンシュタイン氏はFT紙の3月18日号で、寄稿しています。主な内容を以下に記します。Corporate Governance has a long way to go(趣旨です。訳は70%程度で見ておいてください)我々はバリュー投資家として、企業の潜在的価値を高める。しかし、経営陣が率先して、本来の価値とのギャップを埋めることを望む。例えば、日清食品カップヌードル、サッポロビール、ブラザーなど世界的ブランドを持ちながら、その本来価値を企業価値に反映するよう努力して欲しい。ノーリツ、グリコは減益しており、予算が未達成となった。また、投資配分を誤っている企業もある。企業年金連合会が取締役選任案可決のための条件としているROE8%を達成できていない。07年日本企業のROEは平均で8.7%である。8.7%というのはUKの20.5%、ドイツの14%、世界平均の15.5%を大きく下回る水準であるが、我々はとりあえず8%を求める。経営者の失敗によるパフォーマンス低下銘柄もいくつかあり、我々の提案の頻度も増している。提案の主要な内容は、生産性の改善、資本の配分(増配、デットの有効活用など)などである。我々は日本では、日本企業の経営者を尊敬し、礼儀正しくしているにもかかわらず、批判されている一方、硬直的な日本への変化のカタリストとして期待もされている。日本では残念ながら、オープンかつ率直な議論はされず、すぐに「誰の意見であるか」を気にかけ、「どんな意見か」ということはあまり耳を傾けない。企業は企業価値を向上する意見であれば、進んで耳を傾けるべきだ。こういったことに遺憾を感じているのは我々のみならずISS(議決権行使助言会社で、外国人投資家の議決権行使に大きな影響力を及ぼす)も同様に感じている。日本の経営者の多くの方と面会してきたが、「アメージング」だと思うことが多々ある。それは、彼らがかなりオープンに株価や我々が企業をどのように見ているか、ということをあまり気にしないと堂々と意見を述べることである。株主の意向を無視すると誰の将来のリスクになるのかを上場企業としての正当性をどう考えているのかわからない点がある。一方、自社株買いが増加している。丸一鋼管、ハイレックスなどEPSやROEを気にする気運も高まっている。彼らは 「世界に取り残される」 という危機感よりも 「日本企業の中でも取り残されたくない」 という危機感があるようだ。 「誰が言った」ではなく「何を言った」に焦点を当てるべきだと感じます(グリコみたいに剰余金すべてを一括して特別配当しろ、というのは引いちゃうけど)。
2008/03/30
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本日、原弘産から日本ハウズイング側に6つの質問状がリリースされました。 ライツ・プランに対し、正面から突破を図る企業にとって、防衛企業側のライツ・プランの 「運用」 (注:個人的にはライツ・プランの仕組みそのものに問題があると解釈しておらず、それを運用する企業側に問題があると考えている。しかし結果的に、運用状態が芳しくなければ、仕組みが悪くなってしまうだろう) をどのようにするのかという課題が浮き彫りになった。現状では、買収者側に過度な負担を強いるものの、防衛側に対する指針は保身にならないようにすることという方針があるのみで、その実務的な運用面はきわめて不透明かつ都合よくなされている感がぬぐえない。個人的にはライツ・プランは企業価値、株主価値を高めるツールと考えているし(事実導入時点では、企業側はそのように宣言している)、買収者への過剰負担や嫌がらせになってはならないと考える。しかし、一定の制約された情報の中で提案されたものを、「あきらかに企業価値を毀損する提案か否か」というネガティブチェックに多大な時間とコストをかけて精査したサッポロには大きく落胆した(提案内容をふつうに読めば、そのような解釈にならないことは自明であり、買収者側の情報開示を進めれば、価格を引き上げてもいいという提案を拒否したところは 「企業価値引き上げる気が本気なの?」 と解釈できると思う。それを株主でもなく、取締役でもない独立委員会の大先生の茶番劇でがっくり)。 今回の日本ハウズイングも同じような運用を図ろうとしたフシがありありで、どうでもいいような内容や同じ上場企業だと質問せずとも回答がわかるようなものまで、法律事務所のアソシエイツクラスが思いついたような50個前後のものを「質問書」として玉石混合にして送付していたからだ(弁護士が一杯質問を考えるのは彼らが業務に忠実だから仕方ないとしても、それを取締役自身が取捨選択吟味して欲しかったなあ。弁護士がいったのではなく日本ハの経営者が質問したことになるのだから)。例えば、今期の業績見通しなどは特定の相手に開示することはないし、有価証券報告書で見ればわかるようなセグメント別の業績の推移などの質問は愚問だと思う。 では、原弘産はどんな質問をしたのかというと、以下の6つです(要点を記載。ただし、青字は個人的な解釈です)。 1.原弘産の日本ハウズイング株の買い増し中止要請の理由についてこれは前回、その2 で筆者が厳しく批判したことと同じですね。「ライツ・プランのルールに乗っ取って手続きします」と、誓約書を差し入れて、その誓約どおり買い増ししていて(20%未満の買い増しについては対抗措置や警告の対象にならないはず)、「いたずらに混乱をもたらす」などとエクスキューズするのはなぜだ? 株価は混乱するどころか、とても堅調に推移していますね。2.原弘産が日本ハウズイングに対し、過去に事業提携・事業統合の提案を行ったことに関する事実の認識相違について前回の原弘産の回答書では、いつ、誰に、何を話したかがきっちり記録されている(19年11月21日に電子メールにより経営統合の協議を行う提案をしている)。一方、日本ハウズイング側では「提案された事実がない」といっている点。要するに、原弘産としては以前から真剣に考えていた、といいたいのだろう。北越製紙も王子製紙から提案を受けたときには「正式な話ではなく、『打診』だと思った」と言い訳していたので、同じ弁明が聞けそうだ。レトリックではなく事実を日本ハから聞きたいものだ。 3.ライツ・プランの検討時間、判断基準の客観性についての質問原弘産の言い分は、ずいぶん前から経営統合を提案している(前回の回答書には19年11月19日からと記載されている)、十分な提案書を20年2月18日に開示している、さらに3月19日に50個前後の質問にも回答している、しかし、いまだ検討にも入っていない、それはなぜですか、というもの。 4.日本ハウズイングが考える自社の企業価値はいくらだ?自己評価はどうなんですか、という質問。これは何か答えが返ってくるでしょう。ブルドックのときもサッポロのときも、「ばら色の未来」 という回答が帰ってきましたが、今回は??ひょっとして、ステークホルダー全員が一心になって築き上げるもので数字では表せない尊いものだ、なんて回答することはないだろうな 5.そもそも今回の統合・提携を検討する気があるのか?原社長自ら日本ハウズイング側社長と協議を申し入れても、代理人弁護士が面会に応じるなど誠実性にかけるため、「真摯に検討」 しているのか疑問、とのこと。 6.アドバイザーに対するフィーはいくらか?日本ハウズイング側株主に「企業価値を確保するために十分な検討時間を確保する」という大義名分の下、色々手続きがいるものの、では、法律事務所等へのフィーが過大となってかえって「企業価値を毀損しないだろうか」 ということのようです。ブルドック事件の教訓ですな。ブルドック事件が終わった当時、世間ではフィナンシャルアドバイザーや弁護士などのアドバイザーへの支払額が結構な話題となりましたから。まあ、それでも企業価値を毀損するほどの大金にはならないだろう。 私見ただし、残念なのはこのM&Aは敵意が表面化しつつありますね。この質問状は明らかに原弘産側の遺憾の意がこめられており、ここをもう少し下手に出て行って時間をかけたほうが、交渉戦術としては良かったような気がする。これでは、日本ハウズイング側をコーナーに追い込んでしまったように感ずる。同社の経営陣のみならず、従業員も原弘産に対し、ややネガティブな印象を持つかもしれない(前回の回答書では、従業員に対し、見事な人事育成プログラムを披露されていますが)。あくまでも、日本ハの経営陣、従業員に 「提案内容、アプローチともに友好的です」 を継続して欲しかった。前回までは、オーナー経営者も一緒にがんばりましょう、という論調でしたが、日本ハの経営陣に対する不信感を顕在化させてしまったのは今後の取締役会からの支持取り付けや株主への心理状態に影響しないか心配です。
2008/03/26
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参考 日本ハウズイング VS 原弘産 その1 3月5日原弘産の質問に対する回答 原弘産は3月19日を回答期限に設定されていた日本ハウズイングからの質問への回答を行った。おおむね前回の提案を深堀したような内容であり、ざっと読んだ感じでは納得感がある。よくも49個の質問のすべてに回答したなと感心。 今回の回答の中で、バリュエーションの実務担当者としては、今回のDCF法の前提が具体的に論じられており、原弘産が言うように独力でするのも与えられた状況下では言い分があると思われる。外部者を活用した場合、その会社のネームバリューだけで評価した企業の経営陣は、「外部のプロがやった評価」で済ませる記述がよく見受けられますが、自分で 「出来る範囲で」 取締役が自分の責任で評価したという印象を与える。けどちょっと言い過ぎじゃない、原さん。 原弘産の記述抜粋現在のわが国のいわゆる「第三者」機関の企業価値評価機能は、その独立性・専門性に問題がある場合が多いため、その評価結果については、司法の場で否定される例も多いこと。また、評価主体としての責任が曖昧であり、企業価値評価結果に対する客観的信頼性が十分に担保されていないことから、必ずしも効果的なものと考えられないこと。企業の事業価値・株主価値を合理的に評価するには、対象企業の将来業績とそれに伴うリスクの予想が最も重要な要素であり、一般に評価機関においては、業績予想・リスク予想の機能はないこと(この点、本件においては、当社は不動産開発事業を営んでおり、貴社の不動産開発事業について将来業績及びそれに伴うリスクの予想並びに問題点の分析を行う能力を有しております。)。企業価値や株主価値評価に関しては、基礎的なファイナンス理論に基づくものであり、それらの理論を理解した上で、証券市場分析に関する知見を用いれば、評価自体は容易に実践可能であること。株式市場における上場会社の株価評価は、会計事務所や独立系評価会社よりも、投資運用業界におけるファンドマネージャーや証券アナリスト等の専門家において、実務的に優れたな能力があり、その分野のエキスパートから意見を聴いたほうが合理的な価値評価が可能であること(この点、当社においては、後記のとおり、本件を担当するプロジェクトチームのメンバーに証券アナリスト等の専門家がおり、合理的な価値評価を行う能力を有しております。)。以上1について、「司法の場で否定されることが多い」ってそんなに多く否定されたのかなあ。2について、「評価機関においては、業績予想・リスク予想の機能がない」。そんなことないですよ。やっていますよ。ただし、依頼者側が数百万円のフィーしか提示しないので、その程度のリターンでこんなリスクある業務は出来ないということです。桁が1から外資系の「お高いところ」は2つぐらいだせばやってくれます。ただし、詳細なデューデリジェンスを必要としますが、今回は日本ハウズイングが帳簿の閲覧を拒否したとのことですので、結局出来ないという結論は同じ。一般論ではありません、原さん。3、4について、御意です。外部情報に基づく評価ということであれば。 想定した事業計画では、いずれも07/3期の営業利益を下回る計画となっていますが、不採算な開発事業の撤退および得意の管理業務に集約化でコスト効率を改善するため、当期利益はアップします。また、開発事業はボラティリティが大きい(WACCの際に用いるベータ値が管理業務の1.26よりも大きい、1.41と言っている)が、これを撤退することで、ベータ値が小さくなるため事業価値がアップするといっている。割引率が低下するからだ(ファイナンスの詳細論は参考書に譲る)。 また、日本ハウズイング社のマンション開発部門は資本コストを上回る利益を上げることができないため株式価値を毀損すると言っている。EVAという一昔前流行した(流行で終わってしまうのが日本の悲しい現実)指標に近い概念だ。 なお、原弘産側が詳細な会計帳簿の閲覧を株主権の行使により請求したところ、謝絶されたので、外部公開情報に基づく評価であるとの前提である。帳簿閲覧権の拒否は楽天 VS TBSのころから拒否が可能な判例が定着しているが、仮にも 「企業価値の向上を目指す」 ために買収防衛策を導入したのであれば、原弘産に公開して株価引き上げの努力をして欲しいものだ。また、日本ハウズイング側は、原弘産が20%近くまで株を買い増すことに対し。「株主が混乱するから止めるように」言ったと報道されたが、いい加減にして欲しいものだ。自ら事前警告型買収防衛策で「20%を超える大量の株式取得」を行う行為に摘要すると公言しているにもかかわらず、20%未満の取得でも「警告」するとは越権行為ではないか。日本ハウジング社の株式は上昇しており、「企業価値」は上っている。「混乱」ではなく、「歓迎」しているのではないか? 原弘産の「揚げ足取り」ではなく真剣に今回の申し出を検討して欲しい。3月21日少し訂正いたします。日本ハウズイング側は、原弘産側に対し、質問攻めや「株を今買い増ししないで」と注文したり、帳簿閲覧を拒否したりしていますが、その意図とは裏腹に(私見です。間違っていたら関係者の方すみません)、皮肉にも 「企業価値」 (当然、株主価値+純有利子負債を指します)が上昇しています。結果的に、買収防衛策が 「企業価値の向上」 に寄与していますね。
2008/03/20
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BHPとRioの買収戦はBHPが今月末までに詳細なビットに関する資料をEUのアンチトラストコミッション(公取委)に提出し、その審理を受けなければならない。これがOKなら、さらに「フェーズ2」といわれる6ヶ月間の審理が続くため、TOBは速くても08年終盤と見られている(FT紙3/12)。 最近の株価の動向について、BHP側は大きく不満を抱いている。いわく、Rioはアルキャンを高値掴みしたため、株価が落ちたにもかかわらず、当社の買収提案のおかげでRioは400億ドルも時価総額が上昇しているといい、Rioは鉄鉱石ではBHPより生産量が上だが、原料炭(石炭)ではBHPが生産量で上であるため、鉄鋼ニーズという観点ではBHPのほうがより評価されるべきであるといっている。(上図は青線がRio、赤線がBHPの過去6ヶ月間の株価推移の指数。Rioの上昇率が良くなってしまっている。)しかし現実にはRioの株価が上昇し、BHPの提案価格を上回る水準で推移している。FT紙によれば、3月11日現在、Rio1株はBHP株価3.52倍で推移しているという(提案は3.4対1)。 さてこの買収提案を取り巻く「ステークホルダー」の環境は・・・。日本では先日、新日鉄がブラジルのヴァ-レ(旧リオドセ、世界一位の鉄鉱石輸出会社)と鉄鉱石の来年度の価格を65%アップで妥結したと報じられ、新日鉄の株価もさびしい状況となっている。株価はこの1年で50%もダウンしている。 今度はRioティントが中国の鉄鋼メーカーと価格交渉に挑んでいるが、ヴァーレのアップ率を上回る65~71%での締結を迫っているという。そしてもし、これが嫌ならその分はスポット市場で調達するように通告し、実際、長期契約物よりもスポット市場への鉄鉱石の流通量を増やす方針を打ち出している。鉄鉱石のスポット相場は、最近ジャンプアップし、ヴァーレが中国と締結したといわれる長期相場の1トン$110の約2倍の$210で推移しているという。この強気の価格交渉に臨む背景は、地理的にも中国(極東)と豪州またはブラジルの距離的なものがあり、運賃相当分を鉱物価格に転嫁してもいいだろう、という価格戦術がある(ブラジル-日本の船賃のスポット価格は65ドル、豪州-日本は27ドルと約40ドルの差があるといわれている)。BHPも以前から、極東向け鉄鉱石にブラジル産との船賃分の上乗せを迫っていた。 また「Rioの株主に対する適切なリターンを確保することをやっているのだ」という株主価値アップのためという 「大義名分」 を挙げている。これは価格引き上げが買収防衛になるというRio側のインセンティブが働いている。鉄鉱石の価格は資源大手3社(BHP、リオ、ヴァーレ)と日米欧中韓の鉄鋼大手がほぼ同時に交渉し、いち早く決着した価格に全社が従う「ベンチマーク制」が定着していた(日経産業新聞)。今年も記載の通り、2月に新日鉄がヴァーレと65%アップで決着し、これがベンチマークになるといわれていたが、Rioがそれ以上を目指している状況だ。一方、BHPはベンチマーク制ではなく、国際市場を創設し「市場価格制」を主張しているという。おそらく市場価格にすれば、もっとあがる可能性もある(ファンドとかの投機マネーなど)。 鉱物資源の価格推移(Rioの資料より)Iron Oreが鉄鉱石のこと、銅やアルミは市場価格 これに対し、日本鉄鋼連盟は公正取引委員会にBHPの合併提案の差止めを強く要望し、経済産業省も「対抗カルテル」の合法化を検討しているという。対抗カルテルとは、独占禁止法の適用除外として、大企業による市場の寡占化に対抗するため、購入者側がカルテルを結んで対抗する手法だという。ただし、経産省の話では、粗鋼生産世界2位の新日鉄と同3位(又は4位)のポスコ(韓)と提携して価格交渉に臨んでいるが「鉄鉱石大手に対抗する規模としては小さすぎる」とのことである。ということは、鉄鋼メーカー世界2位と3位(又は4位、ただしJFEを含め、この3社はさほど大きな差がない)が合併しても影響力が小さいのであれば、対抗カルテルを結んでもあまり意味がないんじゃない?METIさん。また、「仕入れ値」がまったく同じだと、技術や生産性の差がたわわになって困るメーカーが出てこないかな?一方、最大鉄鋼ユーザーである自動車業界は原油高、米国景気後退、日本では新車販売の構造的低迷(若い人が車買わないとか)で値上げに応じる余地は限りなく小さいとされている。BHPとRioが合併するとこの状況が変わるのだろうか? そもそもなぜこんなに鉄鉱石の価格が上昇するのかといえば、中国の需要がものすごいからだ(ヴァーレが新日鉄と結んだ鉄鉱石価格が1トン80ドル弱で、中国は同110ドルといわれている。蛇足だが、最終製品は中国産のほうが安い)。 (同じくRioの資料より。10年で中国では鉄鋼製品の消費量が約4倍、鉄鉱石は約6倍も増加)さらに、インドもひょっとして第二の中国化が始まるといわれている。Rioもインドの現在の状況が10年前の中国に酷似していると言っている。したがってBHP、Rioとも大幅増産を強いられており、そのために鉱山から鉄道敷設、港湾整備などに莫大な設備投資を行っている。結局こういった費用負担が価格になって「還元」されているというのも否めない事実である。ということは合併してもしなくても、結局鉱物価格は上昇するのであって交渉相手が少なくなる分、調達サイドもコストが削減できるのではないか??? 重要なことは鉄鋼メーカーの再編が避けられなくなっているという状況ではないのか? 鉄鋼業界は各国の国策的な事業であったため、その規模の大きさのゆえ、再編が国単位にとどまっているし、設備投資額が半端じゃないのでなかなか海外に拠点を設置しにくい装置産業でもある。一方の資源会社は鉱山そのものがグローバルであり、胴元にアングロサクソン系が多く、M&Aが活発でどんどん大手に集約されつつある。(金属資源会社の時価総額ランキング、BHPの資料より)自動車業界はまだまだ群雄割拠の域があるものの、業界そのものが長期的に成長しており需要意欲も強い。かつ生産拠点もグローバル化している。カルテル云々はたとえ実現しても時間稼ぎ的なもので、いずれ再編劇が起こるだろう。 ヴァーレとエクストラータが認可されると、BHP、Rioは認可せざるを得ないような気がするし、BHPとRioが認可されるとヴァーレとエクストラータはもっと簡単になる、すなわち、資源会社の寡占化は避けられない(2つともダメとなると、「資本市場の圧力」がものすごくなりそう)。ミタルの影におびえる、新日鉄、JFE、ポスコ、宝山製鋼など極東の雄たちは、いつか「大人の判断」を迫られるのであろう。
2008/03/14
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2月18日、原弘産(8894)は日本ハウズイング(4781)に対し事業提携・事業統合を前提とし、1株1000円での株式の公開買い付けを発表した。ただし、日本ハウズイング取締役会の賛成を条件としている。 一方、これに対し日本ハウズイング社は 「真摯に検討する」 と回答した。 少し更新をサボっている間にいろいろネタがたまってしまいました。少し遅れましたが、当ブログとしては見逃してはいけない話題です。原弘産側が 「かねてより日本ハウズイングに提携の協議を申し入れてまいりましたが」 、といい 「資本関係を強化する必要がある」 ために 「公開買い付けを行うことを決定しました」 と発表したことに対し、日本ハウズイング側が 「過去において原弘産側から当社に対し、・・・申し入れがなされた事実はございません」、「簡単な申し入れ」 はあるが、「検討自体をお断りいたしました」 と返答している。典型的な 「非友好的買収提案」 だ。被買収側の日本ハウズイング社はライツ・プランを導入済みだ。提案内容はざっとこんな感じだ(原弘産の発表資料より)原弘産はマンションの開発分譲を中心とし(特に中古マンションの買い取り・リフォーム・建替えが得意)、日本ハウズイングはマンションやビルの管理業務とワンルームマンション他の開発分譲を事業としている。そこで原弘産は日本ハウズイングの管理業務と開発分譲を分離し、開発分譲業務は原弘産と統合し、日本ハウズイングは管理業務に特化する。同社は管理戸数で日本一位という。中古リフォーム・建替えは管理組合等からの申し出などが商機であるため、日本ハウズイングの管理対象マンションへ原弘産の建設チャンスをクロスセリングが出来るだろう、というものだ。 下流のマンション管理は日本ハウズイングがしっかりやる。このことにより、様々な不動産ニーズが取り込めて、それを原弘産が「仕入れルート」として売上を狙うスキームです。確か外資系監査法人のKPMGの海外調査ではM&Aの効果として、規模のメリット、コスト削減の成功を述べる経営者が多く、営業上のシナジーを訴える経営者は少数だった記憶がある。このTOBを7月上旬に行う予定、というのがミソ。半年近い先のTOBですね。日本ハウズイングの定時総会直後にスタートする予定だそうです。ここで、日本ハウズイングのライツ・プランの要件と原弘産の「準備状況」を見てみましょう。ビール屋さんとファンドとの比較も興味深いでしょう(今回はしませんが)。同社のライツ・プランは、特別委員会の設置を行わず、「株主意思確認会」を開催してその後に対抗要件発動可否を決定するというもので、取締役会が自らの意思で発動する恣意性を完全排除することを目的とする点が特徴だ。新日鉄も同じパターンだった記憶あり(この「意思確認会」が法的に有効かは謎。ただし、総会と同時開催は手続き上OKとしており、今回の日程はTOB開始が7月上旬と言っているので、「意思確認会」を待って、満を持してのTOB計画と思われる。 という手順になります。ではその提出書類等の内容などはざっくり要点はTOB価格1000円、7月からスタート(20日間。これは金商法の最低期間、10日延期される可能性大)。それぞれ別会社で、連結子会社後も上場維持に努力、経営権の尊重、従業員の処遇安泰互いに得意分野に特化し、新サービスの創造をしようただし、日本ハウズイングが、ライツ・プランにより、買収後の事業計画の詳細を提出を求めてきた場合、別途守秘義務契約を締結して非開示情報の調査・検討が必要、と「先手」を打っている。すでに守秘義務契約書を差し入れているそうです。用意周到ですね。尚、価格算定のDCF法は独力で算出した、ということになっており、フィナンシャルアドバイザーはいないような書き振りです。いやあ、もしそうだとすれば、非常に優秀な方たちです。 「TOB専門家」 である、スティールパートナーズのサッポロに対するしどろもどろさと比較して、この用意周到さは投資銀行等のバックアップなくてここまで出来たとすると正直脱帽です。投資銀行が名前を出したくないということはないでしょうかね。両社の財務内容や原弘産の資金調達力等今回は調査できませんでしたが負って「その2」以降にご報告します。すでに1000円を超えてしまいました。この円高の中、話題沸騰中といった感じです。 日本ハウズイング側の対抗策は? 19年9月30日時点1月23,24に市場外で原弘産が買収し、現在原弘産、5.71%、井上投資6.13%の計11.84%を保有。日本ハウズイング逆転独立を勝ち取るには、MBOという手が残っています。カテリーナ、小野氏、ランドマーク、従持ち会はハウジング系と思われます(34.8%あり、あと少しで過半数確保可能)。一波乱を予感します。
2008/03/05
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すっかり更新が滞ってしまいました。急なデューデリジェンスの仕事が入って、昼夜・土日敢行でやっておりました。まだ続きがありそうなのですが、ちょっと中間ブレイク。 さて、2月25日にアクセリス社は公式に住友重機械工業の「Unsolicited Offer」 を拒否しました。住友側は取締役会の決定に失望しているとコメントしたそうです。ご参考 拙ブログ2月13日住友重機、米アクセリス・テクノロジーズへ買収提案、アクセリス側は承諾せず、ポイズン・ピル発動? ここで、少し比較対象してみましょう。 会社の公式見解をそのまま抜粋しています。アクセリス社についてはロイター他の記事から和訳を借用したり、自分で和訳しています。買収者側の主張はスティールも住友もさほど変わらないように感じます。もっとも買収経緯がまったく違うので、その点では仕方ない部分が残りますが、むしろ住友のほうが「株主に直接訴える」と強行に主張しているように感じます。被買収者側の主張は、水面下で2年近く交渉があった(よくある話)でありますが、アクセリス側は即、「Undervalued」といういつものフレーズを活用しているのに対し、サッポロ側は「買収防衛策があるから余計なことは話せません」 と提案に対する取締役会自身の評価はせず、2月になって特別委員会の評価を待って、その結果どおりの反応で、傍目には取締役会に主体性がまったく感じられません。 スティールの買収が株主価値を損なう、ということがありえるのか不思議です(特別委員会の言い回しでは、無計画な資産売却で株主・企業価値共同の利益を壊すような言い方だったのではないか?) ちょっと横道にそれてしまいましたが、ニューヨークタイムズの「The Deal Professor」 2月13日号によりますと、住友-アクセリス社のディールは マイクロソフト VS ヤフー とともに「bear Hugs Letter」(条件が良いので反対できない買収提案の意)と評価されているようです。 ただし、同コラムによりますと、米国企業が海外の企業から敵対的買収を受けるのは2006年以降は現在進行中の案件以外はたったの6件しかないそうです。法律になじめないのと、レピュテーションリスク(評価)を気にすると分析しています。ここで、少ない米国外からの敵対的提案の中に日本企業があることに少々驚いています。株価が高く評価され気味なので、ほとんど敵対的買収がありえない国 と紹介されています(多分過去の平均PERが東証1部で20倍程度あったからでしょう。NYSEは15~16倍がざっくり平均ですから)。 また、フィナンシャルタイムズはこの住友 VS アクセリス社の件で「One way street? As its company expand abroad, Japan erects new barriers at home」と皮肉っています(後ほど詳しく紹介予定)。外からはバリアーを敷き、「ガラパゴス諸島」と呼ばれている日本(周囲と隔離されているため独自の進化を遂げる生物がたくさん存在することを、日本のわかりづらい商習慣になぞらえた皮肉。過剰品質の携帯電話のことを比喩していたが、株式市場もそう呼ばれつつある)。 天敵がいないため、このように成長するガラパゴス諸島のウミイグアナ。キャッシュリッチな企業は海外の投資家にはこういう風に写るのかしらん?日本人にとっての株主価値は、日本国内におけるその意味と、海外で使用するときのその意味が違うのでしょうか???
2008/03/03
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2/14一部ご指摘に従い修正します(英訳能力の限界か?)修正は緑字とさせていただきます。申し訳ございません。当記事の終盤です。 NIKKEI NET 2月12日より 抜粋住友重機械、米半導体装置メーカーに買収提案・総額580億円住友重機械工業は11日、米ナスダック上場の半導体装置メーカー、米アクセリス・テクノロジーズ(マサチューセッツ州)に買収を提案したと発表した。買収総額は約5億4400万ドル(約580億円)。住重はIT(情報技術)や医療機器など新分野の育成を急いでおり、買収で事業基盤を確立する。「あくまで友好的買収を目指す」(同社)としているが、敵対的買収に発展する可能性もある。抜粋終了 概要住友重機械工業は米ナスダック上場のアクセリス・テクノロジーズ(NASDAQ:ACLS)に対し、1株5.2ドルで全株を現金で買収したいと提案した。ちなみに米大手プライベートエクイティファンド、TPG(Texas Pacific Group)が少数株主として出資する見通し。同社は、現状、株主に対し、現時点ではいかなる行動もとらないよう忠告した。両社は共に50%出資の合弁会社「住友イートンノバ:SEN」を運営しており、同社の経営権100%を目指す住友側がアクセリスを買収することにより、SENをコントロールしたい意向。SENは半導体装置のメーカーで、アクセリスが技術提供し、住友が販売を担当しているとのこと。SENは半導体製造装置の一つであるイオン注入装置を製造しているが、同社製よりもSENの競合(Varianセミコンダクター装置)製の方が速い処理が出来るらしく、住重は日本国内のシェアを落としているという。住重が一体経営により、シェア奪回を図りたい模様。ちなみに、アクセリス社はポイズン・ピル(ライツ・プラン)を導入している。 ***買収交渉は06年7月24日にさかのぼる。住重から、アクセリスに対し、「SENは競合の技術に追いついておらず、その長期的なポテンシャルに見合っていないことをとても気に留めている」というレターを送付。その2日後、両社首脳は会談し、買収可能性を話し合った。その場で、アクセリスはSENの買収を提案し、住友はアクセリスの買収を申し出た。06年8月10日に、アクセリス側は住友重機の申し出を断った。同年8月14日に住友重機側はTPGと共同で1株8.2ドル、同日の株価5.48ドルに50%のプレミアムをつけて正式提案した。アクセリス取締役会は申し出を拒否した。それ以降、アクセリス株価は低迷し、2月8日には4.04ドルまで下落した。***以上、The Boston Globe . comより筆者の要約。だれが情報提供したのだろう?詳しい。ちなみに両社から06年8月に本件に関するニュースリリースはありません。 市場の反応今回の1株5.2ドルに対し、アナリストは、2月8日終値の29%プレミアムのこの価格に、売りを考えてもいいのではないかと示唆(しかし、レーティングはニュートラルとなっている。なぜだ?)。また、アクセリス株12%を保有する同社第2位の株主(機関投資家)はアクセリスに「取締役会はこの買収提案を考慮するように」"強く後押しする"手紙を書いたという。(これはブルームバーグ) (06年9月以降、その幻のオファー価格に近づくところがなんだか怪しい気がしますが・・・) 各社のコメント住友重機側コメント両社の技術が一体となって製品開発を行えば、十分挽回できると語っています。シェアダウンしていることを訴えています。ただし、「有意義な議論を経た上で」としています。 アクセリス側コメント申し出株価は、当社の過去52週間の平均値より10%も低いものだとし、申し出をアドバイザーと共に協議し、すでに終わった話であると回答している。既述の通り、株主にいかなる行動もとらぬよう申し出ている。また、SENを住重と25年間一緒に経営してきたが最近になって、SENおよびアクセリスとその株主の長期的利益にならない野心を住友重機械工業が抱いている、とコメントしている。 私見ジョイントベンチャーの経営支配をめぐる争いって、スコティッシュ&ニューカッスル VS カールスバーグや、あのファイザーとワーナー・ランバート(これは一つの薬の共同研究ですが)など結構、敵対的M&Aのネタになりますね。やっぱり違う会社が一つのプロジェクトを経営するってどこか発想に食い違いがでるのでしょうか。うまくいっている・うまく経営できていた・うまく経営できていると勘違いしている? JVをお持ちの各社はゆくゆくコミュニケーションをとったほうが無難ですね。その会社が収益源になればなるほど。 気になる点2月12日のロイターの記事原文は「Japan's Sumitomo Heavy Industries Ltd said on Tuesday a $532 million bid to buy Axcelis Technologies Inc may not be its final offer, leaving open the option that it could sweeten its bid for the chip equipment maker.」(日本の住友重機械工業は火曜日のアクセリス社買収について、同社に価格の割り増しをするオプションを残し、これがファイナルオファーにはならないだろう)となっています。アクセリスが「評価が低い」という主旨の発言をするのは当然(06年の提案価格がすっぱ抜かれたのであればなおさら)ですが、買収者側はもう少し強気にオファーしてもいいのではないでしょうか?赤字会社(過去6期中4期が最終赤字)にプレミアムをつけているので、例えば「現在の環境下、この価格はアクセリス社の株主にとって大変魅力的な価格だと考えている。我々はいつでもアクセリス社と友好的な事業統合に対する話し合いの準備がある」といったコメントが自社株主向けに欲しいものです。アクセリス社(住友側公表資料より)07/12月期売上高 ; 404百万ドル、当期純利益 ; -11百万ドル、株主資本 ; 486百万ドル、オファー価格544百万ドル(株主資本の約1.1倍)ハイネケン&カールスバーグもラストオファーとは言いませんでしたが、買収先企業の株価を高く評価しているような発言を繰り返しています。日本人的な「誠意」を見せるのでしょうか。結果的にのりしろをもってM&Aに臨むことは戦術的にやむを得ない面は承知しますが、07年3月31日末現在、外国人株主比率は43.2%です。買収後の統合を考えての発言だ(ポイズン・ピルも頭にあるのか?)と思いますが、まあ、2年間の協議がだめだったのであれば、どう転んでも敵対的という表現が実態だと思いますが。最終価格がどこまで行くのか、気になります。 ちなみにこのアクセリス社もポイズン・ピルが導入されています。さて、アクセリス社の対応は?アニュアルレポートP.72参照フィリップ・イン・ライツ・プランといわれるポイズンピルと思われ、A種優先株の予約権をあらかじめ、配当として普通株式保有者に付与し、買収事象が発生(20%以上)した場合、優先株を発行することで、希薄化を計る、又は合併の場合は存続企業の株式、財産、証券と購入価格の2倍の価値で交換できるため、合併の場合は買収企業の株主に保有権の希薄化が生じる。(ちょっと具体的な希薄化率はわからない、ということにします。1つのA種優先株は100普通株に相当するといわれています)そして有事となれば、それを普通株と引き換えるという。こりゃ猛毒ですね。が、米国では過去に手続き上の齟齬で一度発動されたきりで、事実上ポイズン・ピルは発動されたことはありません。あくまで株主価値向上のための道具に過ぎません。原文 ちなみにアクセリス社は住重の行動が「アクセリス社の株主にとって長期的な利益にならない」と述べていますが、企業価値を毀損するなど言っていませんし、住友が濫用的買収者かどうかを疑問に思うようなコメントすら発していません(当たり前ですが、どうしても比較してしまいます)。 http://p-netbanking.jp/blog/in.php?blog_id=5031
2008/02/13
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不祥事について1月24日フランス第2位の銀行、ソシエテジェネラルは49億ユーロ(約7600億円)の損失計上を発表。ジェローム・ケルビエルという31歳のディーラーが、欧州株価指数の先物取引を単独で行ったものであったとのこと。彼はバックオフィス(事務方)からディーラーになったため、銀行の管理体制の裏口をついて不正を行っていたという。ケルビエル容疑者は株価先物取引で、最大限500億ユーロ(7.9兆円!)のポジションを持っていた。なんと、これすべてロングポジション(買い)だけだったという。普通はショート(売り)のポジションも入れて相場がどちらに転んでも一定の利益を上げられるようにする(リスクヘッジですね。ヘッジファンドの本源的な投資手法ですが)ものだが、異例のことだ。また、彼は過去1年間で4日しか休暇をとっていなかったようだ。私は銀行にいたとき、ディーラー業務をやったことがないが、大和銀行NY支店の損失のとき、経験ある為替ディーラーの先輩に聞いたところ、「課長クラスでせいぜい100万ドル程度、すぐに誰がいくらポジションを持っているかわかるはず」との回答であった。さらに、彼は取り調べに対して、銀行に規定どおりの業績給与約9500万円を要求したものの、その半額しかだめだといわれ、銀行に不満があったと供述しているなど、行き過ぎた成果主義が不正の温床になった可能性がある、と地元紙では報道されているらしい。また、ケルビエル容疑者はAFP通信のインタビューに対し、「私はソシエテに単独犯と名指しされた。責任の一端を負うが、スケープゴートにされるつもりはない」と語ったという。仏政府も「ずさんな内部管理体制が問題の温床にある」と報告書をまとめた。米国人監査役が、当局からポジションの異変を質問されて、公表されるまでに監査役自身の持株をすべて売却し(220億円!)インサイダー疑惑ももたれている。むちゃくちゃですね。 ちなみに大和銀行NY支店で損失額1000億円、英国ベアリングス銀行で1500億円ですから、今回の金額は突出している。ただし、過去の2事件も単独犯として片付けられた(はず)。蛇足ながら、ベアリングス銀のトレーダーだった、ニック・リーソンは服役し、本を出版し、講師としてリスクマネジメントを企業に伝えているらしい! 敵対的買収防衛、M&Aについて不祥事の捜査は続行中であるが、信用が失墜した同行は単独で生き延びることが難しいとささやかれており、M&Aのターゲットとなっている。同行はマーケット取引に定評があるユニバーサルバンク(銀行業と証券業の双方ができる。欧州ではUBSなどもこの部類)であり、早くも買い手が名乗りを上げている。HSBC(英)、Citi Group(米)、サンタンデール セントラル ヒスパノ(スペイン)およびBNPパリバ、クレディ・アグリコール(共に仏)などがうわさされている。仏政府は、あのナポレオン3世が作った国内第2の金融機関が外資に買収されてはならない、と懸念を表明し「黄金株」の導入を考えているという(注:黄金株とは、議決権に拒否権つきの株式。日本では会社法では容認されるものの、東証が強く導入に反対している。種類株式となることが想定され、株主総会が2階建てになると思われる。すなわち、日本の会社法の場合、普通株主総会と種類株主総会。議案は双方の総会で可決しないと、決定出来ない。したがって、「ねじれ総会」となる懸念がある。買収防衛策のひとつ)。ソシエテジェネラルの2006年12月31日現在の株主をアニュアルレポートから見ると、こんな感じになっている。 首位は従業員持ち株会、そして3位になんと日本の明治安田生命が入っている。この会社は複数議決権を認めており(フランスでは複数議決権がまあまあ一般的です)、何でも2年以上継続して保有すると、議決権が倍になるという。したがって従持ち会は11.4%、明治安田生命は4.21%で、これだけで14%もある。明治安田生命は、過去3年間保有株式は上記と全く変わらず、異国の地においても「安定株主」ぶりを発揮。またスペインのサンタンデール銀とは「Shareholder Agreement」があり、互いに敵対的買収者に賛成しないことに合意しているらしい。ただし、相互に株を持ち合っている場合に限る。サンタンデール銀は現在、ソシエテ株を保有していない。フランスでは日本の不文律が有文化していますね。地元紙では、政府はPNBパリバに買収して欲しい意向(買収後の時価総額がHSBCに匹敵または上回るようで欧州屈指の銀行が誕生するから)のようだが、こちらも市場取引に強く、重複業務がたくさんあるのでリストラが避けられないといわれている。一方、3位のクレディ・アグリコールは支店網が中心らしい。HSBCはパリバに奪われると、その欧州での地位が脅かされるのと、フランスの中堅銀行を傘下におさめているが、これがパッとしない。HSBCはアクティビスト・ファンドのナイト・ビンケにその戦略を厳しく批判されており、その矛先を和らげる意味合いもあるようだ。ちなみにアクティビストは、HSBCは元々香港上海銀行で中国に本店拠点があった(香港返還問題があり、1992年に英国のミッドランド銀行を買収し、英国進出)。この後フランス、北米の銀行を買収し、欧米に軸足を移すが、業績に貢献していない。一方、かつての本国、中国でのプレゼンスが落ちていることを大きく批判し、かつ頭取が株価パフォーマンスと乖離した役員報酬をむさぼっているのでコーポレートガバナンス不全だと批判。それが道理にかなっており、英国では昨夏から話題となっている。このナイト・ビンケは日本で投資活動をしていないが、欧州ではTCI(チルドレン・インベストメンツ・ファンド)と並ぶ大物アクティビストで、ロイヤル・ダッチ・シェルのW本社(英国・蘭国)を英国一本にさせたり、スエズ運河のM&Aを阻止したりしている。アクティビスト手法はきわめてスマートで、合理性ある提案で、英国紳士ぶりを発揮している。Citiはちょっと無理じゃないのかな。サブプライムの傷が大きすぎる。もちろんHSBCにもサブプライム禍はある。ソシエテ3ヶ月株価推移 不正取引が8兆円近くに上ったことを受けて1月28日に急落したものの、買収観測があって値を戻しています。この不祥事損失に加え、サブプライム損失も3000億円ほどあるようで、合計1兆円近い損を出した銀行とは思えません。今期はそれでも100億円近い黒字らしい。 つくづく思うのだが、こういう話しになると、すぐ買収候補があがるのは、それだけ魅力的な証拠であり、日本ではUFJのときは国内行でのみ争奪戦になったものの、日興コーディアルも外資はCitiだけだった。外国企業が敵対的買収を仕掛けてこないのは、実は魅力がないのではとも感じる。男に全くデートに誘ってもらえない女性のような心境になってしまう(私はオトコですが)。ちなみにHSBCは今、日本で一からプライベートバンク網を構築しているが、最初はM&Aを考えていたらしいが、売り物になる銀行もないし、魅力もなかったらしい。しかし、日本市場へは本腰のようです。 少しはなしがそれましたが、政府が望むBNPパリバの場合はリストラが想定されるとすれば、筆頭株主の従業員11%の賛成が得られるのか微妙。外資だと政府介入が想定と今から複雑なにおいがします。誰が誰を「敵対的」とみなすのかと言う意味で。 明治安田生命の出方は?(あまり情報はいってこなさそうだが) ちょっと追っかけてみたい。
2008/02/08
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ついに豪英BHPビリトンが英豪Rioティントに仕掛けました。Put Up Or Shut Up期限ぎりぎりです。 注:現在、EU、USA、南ア、豪州等の合併委員会等の承認まちだそうで、停止条件つきオファーとでも言いましょうか。修正いたします。申し訳ありません(2/7)。株式交換比率を3対1から3.4対1に引き上げました。米ドルベースで買収総額(株式ベース)1,474億ドル(1ドル=107円として、15.8兆円程度)のM&A史上第2位のディールとなりました。Rioの取締役会がYesといわなかったため、Hostile Bit となりました。これまでの経緯を参考にされたい方は以下の拙ブログをご参照BHPがRioに買収提案、Rioは拒否 資源メジャーがスーパーメジャーに 11月11日BHPビリトン、Rioティントへの敵対的TOBに踏み切るか? 2月4日 BHPのオファー内容は同社HPよりこれ、英文で60ページ以上あるのでまだ読めていません。FT、ブルームバーグによれば、BHPのクロッパーズCEOは「最初で唯一のオファーだ、この金額を上回るオファーは現金提案でないと無理だろう」、といい、Rioの株主にTOBに応じるよう呼びかけている(注:ブルームバーグでは「Last Offer」といっていないと言及)。 BHPのクロッパーズCEO、なんと45歳!「first and only offer」 一方、Rioからは、「advised shareholders to take no action yet. We are considering the proposal carefully」 と発表。たぶん今日協議することになる。投資家、アナリストの中では、3.4対1のオファーはまだ低い、との見方が主流である。Rioの取締役会がオファーを株主に「推薦」するには、3.4~4.25のレンジで決着つけないとだめだろう、と見る向きもある。一方、米国の「実物経済」のスローダウンで、非鉄金属株が暴落し、Rioはこれで応じないといけない、とする向きもある。一方、この2月1日に、突然現れたチャイナルコがRioの株式を取得した価格は1株54.3ポンドで、BHPオファー前日の終値はRio1株54.34ポンドであり、ほぼ同じ金額となる。私の解釈ミスでしたが、チャイナルコは、もしBHPが同社以上の株価でTOBをした場合、カウンタービットを考える主旨を報道されたとも伝えられている。 BHPはRioティント経営陣と戦うのみではなく、は中国国営企業というより中国国家そのものとも戦うことになる。中国はBHPの「価格コントロール」を極度に恐れている。 2月1日のチャイナルコCEO(左)とアルコアCEO(右)のRio株取得記者会見しかし、既存Rio株主は合併会社の44%の株主にもなるため、BHPが更に成長すると考えた場合、応じるのが得策となる。日本ではマイクロソフト VS ヤフーの記事のほうが話題性があるのですが、こっちは日常の最上流業界の再編なので、様々な生活用品への価格影響が心配されます。このサブプライムの中、英、米ともM&Aがひるまないですね。 ここで何度も登場するBHPビリトンを少し紹介1885年、豪州ブロークンヒルにおける当時世界最大の銀、鉛、亜鉛の鉱山開発を目的に投資家を募り設立。銀や鉄鉱石の採掘を得て、1900年初頭に鉄鋼業にも進出。M&Aや鉱山権益の買収、開発等で事業を拡大していくも、1998年資源価格の低迷により赤字転落。鉄鋼業を閉鎖。資源採掘に特化。2001年ビリトン社と合併。世界一の資源開発会社を目指す。「将来世界の資源産業界は3~4者のメジャーに統合され、あとは弱小のベンチャー的な企業が残る形となり、その中間は空白状態となろう」(BHPビリトン合併時のCEOコメント)要するに、会社の設立から、株主利益の極大化、規模の拡大化が使命づけられた企業といえるでしょう。アングロサクソン(正直あまり好きではないが)人が株式会社を考え付いたのは、欧州で誰かがリスクマネーを供給する必要性が出てきたという点が挙げられる。例えば十字軍時代のベニスの商人から、スペイン・ポルトガル国王がマゼラン、ヴァスコダガマ、コロンブス等に「新大陸」やイスラムを迂回してインド、中国を貿易するルート開拓などを託す場合のスポンサーが始まりと思われる。これが、イギリス人がスペインに変わって覇権を唱え始めた18世紀だったか、東インド会社を設立。貿易取引を行うのだが、とてもリスクが大きかったので、出資者を募って会社を興し、適任者に貿易をさせ、貿易からの果実を「配当」でまかなうようなことからスタートした(と、うる覚えで記載しているので、ご勘弁)。したがって、株式会社の儲けを配当するのは至極当然であり、出資者に最大限尽くすのも当然と考えられていた。BHPはそんな時代の英国人が豪州で「一山当てたい」人々が作った会社だ。当時はアメリカでもゴールドラッシュの時代でしたよね。日本では、黒船が到来したころでしょうか。日本の株式会社と決定的に違うのは、日本だと三井でも住友でも、当初は個人商店で、メキメキ成長するパターンが多いが、BHP他歴史ある英米企業は最初から配当とかリターン、権益を意識して作られた企業であり、DNAがまるっきり違う。配当について日本人は、福沢諭吉の「西洋事情」で、「利子のようなもの」と紹介されたのが始まりといわれているらしく(拙ブログ 配当基準日の脱決算日化、「脱 日本事情」のススメ 9月11日をご参照)、これもDNAが違うといってよいだろう。 Rioティント6ヶ月の株価推移 BHPビリトン、6カ月の株価推移 話がそれましたが、この話題はTOBの決着がつくまで、サッポロやTCIなどと共に、このブログのメインとなると思います。ご興味のある方、お付き合いください。個人的意見ですので投資は自己判断でお願いします。
2008/02/06
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特別委員の回答まあ、読売さんの特ダネどおりでしたね。気になる点。サッポロのライツプランに要求されている書類提出要件は敵対的買収の場合、ほとんどそろえることが不可能であり、ライツプランの設計そのものが、公平なビジネスの機会を毀損しているのではないのか?詳しくはこちらサッポロのライツプランにおける提出書類要件は、ざっくり買い付けを行う者の内容(名乗れということ)買い付けの目的、対価、時期、買い付け方法、取得対価の算定根拠、取得資金の裏付け、具体的名称、調達方法経営参画後の想定している経営者候補、経営方針、事業計画、財務計画、資本政策、配当政策、資産活用策等取引先、従業員等ステークホルダーの取り扱い となっています。ふつうのことなんですが、4については通常はデューデリジェンスを要します。でないと、買収者側のコンプライアンス、ガバナンス上やや問題を残してしまうからです。投資ファンドであれば、投資委員会等に諮問するので、おそらく必要になると思われます。SPはサッポロに対し、内部情報の開示を守秘義務契約を締結の上開示するよう要求しました。サッポロはそれを拒否しました。サッポロ VS スティール その3 あたりに過去の経緯を紹介にもかかわらず、特別委は上記4がないので要件不適格であり、対抗措置発動可の理由の一つに挙げています。本当に株主のための特別委であれば、サッポロにSPにフェアな金額を提示させるよう、資料の開示を迫るべきです。特別委が取締役会の飼い犬であることを立証したようなものです。これでは敵対的買収者は永遠に条件4を充足することが不可能であり、そういった状態を特別委が容認すると、その容認姿勢そのものがサッポロの企業価値を毀損してしまう可能性が高い、といわざるを得ない。なぜなら敵対的買収の脅威の薄れた経営者を放置することになるからです。一方、友好的M&Aは通常、深さに度合いがあるが、デューデリジェンスや十分な意見交換ができるので、発表時点で上記4が成立していることになります。シナジーとか社長とか決まっていますね。一方、株主を欺くかのようなスキームや金額がまかり通っていますね。かなりのディールが矛盾しています(キリンー協和発酵とか)。 もう一点、特別委の武藤さんという検事上がりの帝京大学名誉教授の方が対抗措置の発動に対する正当性にお墨付きを与えました(ロイターの記事)。もっとも特別委のお墨付きが裁判での、勝利の切符に直結することにならないですが。しかし、相当性の問題は対抗措置の内容を見てからの判断であるとも言いました。要するに、仮にサッポロが対抗措置に差別的行使条件付新株予約権(つまり、SPには新株予約権は付与するが、予約権を株券に引き換えない)を活用した場合、「立ち退き料」問題に直面します。あのブルドックのときに支払った、28億でしたか、のあれです。サッポロはどう考えても桁1つ以上の違いが予想されます。あの悪名高い東京高裁は濫用的買収者であれば、立ち退き料はディスカウントしてもいい、という決定内容でしたが、今回はSPは濫用的ではない、単なる不気味なやつだ、という判断だと思われますので、正規の立ち退き料が、新株予約権の場合は必要になります。つまり、新株予約権を新株に引き換えず、引き換え予定相当の対価のキャッシュと交換するというあれです。しかも、この相当性、多分株主総会(3月下旬)で決めるでしょうから、今度はさすがに、と個人的には思います。数百億円の立ち退き料を支払って、それで、大きく赤字転落して、企業価値が改善するのか、はなはだ不思議です。 少し先走った議論となってしまいましたが、SPの出方に注目したいです。今日は文字ばっかりでしたね。
2008/02/05
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ヤフー、マイクロソフトにグーグルまで登場していますが、今日はこっちのほうがメインです。先日も少し記載しましたが、BHPビリトン(豪英;主として本社機能が豪州・メルボルンにある)Rioティント(英豪;主として本社機能がロンドンにある)に対するM&A史上2位をめぐる買収提案の「Put Up Or Shut Up」の期限が2月6日(ロンドンタイム)に迫ってきました。これまで両社は株主に対し大キャンペーンを行っていました。BHPビリトン自分たちのほうが効率的な経営が出来る(過去数年間の株価、EPSの推移を両社比較し、BHPのほうが上昇ペースが優れていることを誇示)自分たちのほうが、将来性のある資産を所有している(オリンピックダムという一鉱山としては世界一位の埋蔵量を誇るウラン鉱山を100%保有している:鉱山は開発資金が多額に必要なので、パートナーとJVになることが多い。中国の電力需要を満たすため、計画中の原発がいっぱいある)自分たちのほうが生産性がよい(鉱区が隣接する西豪の鉄鉱石鉱区の過去数年の生産量を比較して優位性があることを立証)そのために、自分たちのほうが積極的な設備投資を実施してきたしたがって、Rioの資産をもっとうまく運用でき、かつ、シナジーが引き出せ、RioおよびBHP双方の株主価値を引き出せることが出来る(注:株式交換の提案)Rioティント鉄鉱石、銅は元々Rioが優位であり、(又は最近判明、取得した)新たな鉱脈等があり、埋蔵量が増加したためますます優位アルミニウムは昨年7月に買収したアルキャンのシナジーを上方修正(税引き後ベースで6億→9.4億ドル)配当を今期30%増、今後2年間さらに20%増アルミ部門の一部を含む総額150億ドル(1.6兆円)規模の資産売却により高収益体質にしたがって、BHPがなくても十分株主は価値を見出せる。BHPの提案は取るに足らないちっぽけな金額で話にならない。というのが主旨です。「クラウンジュエル」となっているのは西豪州のピバラという鉄鉱石鉱山です。BHPとRioが互いに別々の鉱区を保有し、勢力拡大を狙っている地域です。ここの埋蔵量がすばらしく、需要も中国はもとより、インドでも大幅増加を見込めるため、地理的優位性のあるこの地を抑えることができれば、鉄道や港の共有などにより、大きく生産性が改善します。BHPでは、この合併が成立すれば、見積もりシナジーを買収完了後3年目で37億ドル(4000億円/年)としています。ただし、Rioも、こちらのほうが埋蔵量が多いので、もっと売上・利益を生み出せる、と自らの価値のほうが上である点を強調し、一歩も譲りません。 さらにアップしかし、2月1日に中国チャイナルコ(国営アルミ精錬会社)およびアルコア(アルミ世界3位)がRioの株を9%いきなり取得し、筆頭株主となりました。これがホワイトナイトか?と思いきや、「Chinalco Unsolicited announcement」(チャイナルコの未承諾アナウンス)とコメント(2/4ブルームバーグ)し、これも一応敵対的といえるでしょう。この内容をもう少し見ていくと、こんな構図になっています。伏線は昨年5月頃のアルコアVSアルキャンの敵対的TOBがありました。結果、Rioがホワイトナイトとしてアルキャンを取得。 11月にBHPビリトンがRioに提案。2月1日にチャイナルコ連合がRio株取得。2月6日がBHPの正式提案期限 情報をたどると、昨年来BHPはRioの買収をたくらんでいたようで、同時にアルコアへの買収提案もうわさされていたようです。そこでアルコアは買収標的から逃れると同時に世界シェア1位を奪回するためにアルキャンへの敵対的買収を仕掛けました。アルキャンはどうしてもアルコアとの合併がいやで、Rio(アルミでは当時7位)にホワイトナイトとなってもらったようです。アルキャンとしては、どちらと合併しても、合併先がシェア1位に躍り出るので、現在の立場はRioのアルミ部門では主導権を握っており、Rioティント・アルキャンのCEOはそのままアルキャンのCEOが就任しています(文字通りホワイトナイトですね)。この世界1位のアルミ会社Rioティント-アルキャンをめぐって、アルコアが執念で食い下がろうとしています。チャイナルコの思惑がつかめまめません。2月4日にはCEOが「これ以上Rioの株を取得することはない。取得目的は戦略的なものだ。短期的な成果を狙うものではない」という主旨の発表をしました。チャイナルコは買収資金をアルコアに転換社債を発行し、さらに中国の政府系投資ファンドから資金調達したといわれています。政府系ファンドの出資目的がまことしやかに流れています。なぜなら中国はいまや世界最大の鉄鉱石輸入国(粗鋼生産量考えれば当然)であり、今回の合併劇が実現すれば、真っ先に被害を食ってしまうので、国家単位で対策を練っている、とずっと伝えられていたからでした。しかし、一方ではアルミに関しても、中国は将来アルミニウム輸出国から輸入国に転落することが確実視されており、「先手」を打ったのかもしれません。これはRioの07年11月の資料からです。Rioはこの説明会で、アルミの需要は高く、価格も上昇しており、「Rioティント-アルキャンとなって更にシナジーが出る模様でもあるため、アルミ事業でも大きく価値向上が期待できる」と主張していました。一方のBHPビリトンは、チャイナルコ騒動があり、Rioの株価が上がってしまい、買収提案に持っていくためには、チャイナルコ-アルコアの買収価格を上回る必要性があり、そのためには3対1の交換比率ではなく、4対1以上でないといけない(25%近いアップ)といわれています。それでも市場はBHPの2月6日の敵対的TOBに向け期待感があり、Rioの株価は急騰しています。BHPの出方に注目しておいてください。一両日中にも「Put Up Or Shut Up」のアナウンスがあるはずですから。ちなみに、BHPとRioの買収合戦で特徴的なこと。BHPは大方の外部関係者(鉄鋼業界、独禁法関係者、その他非鉄金属関係者およびその下流に位置する産業、さらには政府も含む)を慌てさせ、「価格コントロール」懸念を表明しています。BHPはそれを理解してか、「我々は合併により、価格を必要以上に吊り上げるということはない。むしろ、価格の乱高下に左右されない企業体質作りが大事だ。つまり、コストシナジーを最大限生かし、株主に還元し、需要家には値上げではなく、増産にて還元する。この市況に左右されにくい資源会社作りが当社の戦略だ」と主張します。一方、Rioは埋蔵量の多さと当面期待される強い需要を追い風に、「価格の上昇と増産対応が可能なので、もっと自社の価値が上がる」と市況頼みの戦略を主張しています。つまり、BHPは価格を上げず、数量は増産、コストを削減による価値向上と主張、Rioでは価格は上げる(主としデカップリング論を信じている)で、数量も増産、市場成長に乗じた成長を主張しているにもかかわらず、業界関係者は合併が、「価格コントロールにつながる」と危惧している、という構図になっています。本音がどこにあるのかわかりませんが、追うものと追われるものといった感じがありますね。アナリストからは、「ピバラで合弁企業を立ち上げれば、シナジーも出るし合併の必要性がないのでは?」とか、BHPもRioもお互い目一杯増産するのだったら、株式価値向上には差がないため、やはり今の株価や実績が重要では?といった突込みがありました。この大再編が玉突きM&Aを起こしています。日本でも有名な鉄鉱石世界1位のリオドセ(ブラジル)が資源総合5位かな、エクストラータ(スイス)と友好的に合併しようとしています。これで総合資源会社として対抗しようということです。こちらは、エクストラータ株主が現金買収を主張しており、リオドセは借入金等の資金調達の必要性が出てきましたが、思うようなシンジケート団が組めない模様で、フィナンシャルアドバイザーだったメリルリンチをクビにしてしまいました(FT紙2月4日)。仮にリオドセが買収できない場合は、総合資源2位のアングローアメリカがエクストラータ買収に動くといわれており、いずれにせよBHPは後に引けない状況です(アングロが買収成功すると世界1位から落ちると思われる)。資源業界でも将来再編が更に進み、石油同様の大手数社がメジャーとして生き残るというシナリオがささやかれていますが、その原型をつくったのがBHPビリトンで、2001年にBHPとビリトンが「世界資源会社再編をリードする」目的で合併した会社です。最上流の再編を痛いほど理解している新日鉄は新社長候補宗岡氏がM&Aを早くも口にしています。個人的にはBHPとRioが合併すると、鉄鉱石よりも銅とかウランとかの方が価格コントロールされはしないかなと感じます。 さて、今日・明日あたりのニュースに注目しよう!
2008/02/04
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今日はびっくりするニュースが3件もあった。記事概要だけをエントリーします。 情報源はいつものFT、ブルームバーグ、ニューヨークタイムズです。マイクロソフト、ヤフーに敵対的買収提案モトローラ、携帯電話部門の売却を示唆アルコアと中国国営のアルミニウム会社Chinalcoが共同でRioティント株式を12 9%取得 9%の誤りです修正します まずはなんといっても、マイクロソフトがヤフーに敵対的な買収提案をしたことです。昨日の株価から62%ものプレミアムをつけて、現金で買い取る、というもの。総額446億ドル、多分4兆6千億ぐらいか? これは実は昨年もマイクロソフトが提案したようでしたが、ヤフー側が謝絶、その後創業者のジェフリーチャンがCEOとなって立て直しをしていましたが、業績回復せず、つい数日前の記者会見でも再起を誓っていた矢先でした。ヤフー側は、「提案内容を慎重に検討し、長期的な視点に立った株主の価値を最大化を検討していきたい」とコメント。うーん勝負あったかな? モトローラの件は、あのアクティビストの大御所、カール・アイカーンが昨年に大株主になって以来、しつこく社外取締役の指名等により「モノ」を言い、攻撃し続けていました。去年の株主総会では、アイカーンの案が否決され、その後の提案等も拒否され続け、「アイカーン神話」にかげりが見えたと昨年11月ごろは言われていました。しかし、ご存知のように携帯端末のシェアを落とし続け、最終赤字転落となった会社側は、すべての可能性を視野に入れた再編に言及しました。この発表を受けたアイカーンは、「この決定は、次の株主総会での新取締役の選任については、阻止しないだろう」とコメントした。なお、アイカーンとは80年代の「のっとり屋」時代からの唯一の生き残りで、あのブーン・ピケンズ(小糸製作所の株を買占めた、グリーンメーラー)などと同時期から乗っ取り屋家業を行っており、最近はアクティビストファンドを運用。米国新聞ではいつも「ビリオネアー」と紹介されます。 最後にRioティント。中国国営のChinalcoとアルコアのRio株の買収。これは、BHP以上にRioがびっくりしたという。最初に聞いたときは「ホワイトナイト」か? と思ったが、Rioも頼んだ覚えがないらしい。BHPとRioの買収合戦は、実はこの週末にでも、詳しくエントリーしようと考えていた矢先でした。BHPの買収提案は「ステークホルダー」から厳しく非難を受けていました。日韓中の鉄鋼業界、欧州もしかり、それと10カ国以上のAnti-trust法のクリア、それと昨年末には、中国企業が大連合を組んで、カウンタービットを実施するといううわさが流れていました。FTによると、2社のRio株買いは、「戦略目的」だそうで、何でもRioのアルミニウム事業の分割譲渡を狙っているらしい。これもびっくりモノで、実は、Rioは昨年7月にアルキャンというカナダのアルミニウム世界3位の会社を買収していました。このアルキャンは実は、今回の「思わぬ株主」となったアルコアに敵対的買収を仕掛けられていたのです。これに「ホワイトナイト」として登場したのがRioティントで、アルコアからアルキャンを奪い取ってしまいました。その後、Rioのアルミ部門はRioティント-アルキャンといって世界一位のアルミ会社となったのです。RioはBHPからの「買収防衛策」の一環として、低収益な旧アルキャンのアルミ加工事業の売却を示唆していましたが、中国企業と2社でRioティント-アルキャンの分割に乗り出したようです。この中国企業は国営ですので、「公的資金で敵対的?買収」をするのでしょうか?てっきり、王子-北越の買収戦のときに、突然割って入った日本製紙のようなパターンかなあとも思っていましたが、アルミ資産狙いだと、Rioはバラバラにされる可能性が出てきました。実はBHPビリトンのCEOはアルミにはそれほど強い興味を持っていない発言をしています。Rioは下流の精練事業も行っており、電力という決定的なコスト要因を抱えることから、Rioのアルミ加工部門は消極扱いのような口ぶりでした。ということは3社が連合を組む可能性も出てきそうですが、「Put Up Or Shut Up」期限(期日までに正式提案しない場合は、以後6ヶ月間は正式提案が出来ない)が2月6日とあっては、BHPは今回、Walk Away(提案撤回)するのでしょうか? 3件とも「シンジラレナーイ」です。
2008/02/01
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2/2 修正します。その4 → その5 の誤りです。 サッポロHDとノーリツに対する書簡が話題となっている。このうち、サッポロについては拙ブログでこれまでの経緯を述べていますのでさらにしつこくやりますサッポロホールディングスとスティール・パートナーズ その3サッポロホールディングスとスティール・パートナーズ その4(ノーリツについては落ち着いてからまた詳しく分析いたします)その34の経緯の後、リヒテンシュタイン代表がサッポロ首脳陣と面会したこと(主旨:SPは取締役会と交渉がしたい、株価に不満があるのなら、値上げも考慮するが、外部情報では限界があるので内部の追加情報がほしいという問いかけに、サッポロ側は特別委員会で諮問中のため、同委員会の勧告前はいかなる交渉にも応じるつもりはないと回答)特別委員会が回答案をまとめあげようとしていること 1月30日読売などが報じられています。この読売の記事が本当なら、ひっくり返ってしまい、特別委員会は 「やらせ」 じゃないのか? という投資家の潜在的な疑心暗鬼を顕在化させてしまいかねない。原文抜粋米系投資ファンドのスティール・パートナーズ・ジャパンから買収提案を受けているサッポロホールディングスの特別委員会は29日、提案はサッポロの企業価値向上に懸念があるとする勧告をまとめる方向で調整に入った。特別委は2月初めまでにサッポロ経営陣に勧告する見通しで、サッポロは買収提案への賛否を3月5日までに判断する。特別委が提案に懸念を示す方向になったことで、買収防衛策を発動する環境が整うことになる。 特別委は、スティールが示した買収後の事業計画案を精査した結果、サッポロの現経営陣が経営にあたる場合よりも、企業価値の向上に懸念があると判断したとみられる。 特別委はまた、スティールが企業価値を損なう「乱用的買収者」に当たるかどうかは、判断しない方向で調整に入った模様だ。抜粋終わりひっくり返る理由価値向上の懸念があるとの表現が、価値を破壊するかのような捉え方をしている。読売さん、あおらないでね。そもそも大株主であるSPが、他人の運用資産で大金をはたいた(現在時価総額3400億円であれば、その約20%であり、680億円の価値に相当する)株式の価値向上を否定する提案をしたということになること。そんな他人のお金を無駄遣いする提案するのか?SPの価値向上策は前回の「その3」でも述べたとおり、赤字事業を縮小(又は撤退)し、得意事業に特化することを進言しているが、これって、元企業再生コンサルの私が読む限り、セオリー通りのターンアラウンドです。そうなんです、産業再生機構が行っていたことと同程度の内容です。なぜ価値の向上に懸念があるのでしょう?(価値の破壊には絶対にならない)拙ブログで海外の買収事例を再三ご紹介していますが、どのケースでも 「Undervalue」 と被買収者側は言い返します。つまり、「自分たちのほうがもっとうまく経営できる」 といい、ポジティブキャンペーンを実施しています。リヒテンシュタインは、条件次第で値上げに応じる、といっていますが、拙ブログをお読みいただいている方は、欧米のルールにのっとって、彼は普通にアプローチしているに過ぎないことがよくわかるでしょう(日本のこういうルールってないので彼も困っているのでは?)。ライツプランとは、発動を前提とするものではなく、自社の株式価値を引き上げるための道具ですが(これは誤解なきよう申し上げます)、サッポロ側は株価を引き上げる目的で交渉しておらず(相手が引き上げに応じるといっているのに「委員会の勧告待ち」といって避けている)、特別委員会も1月23日に一回あったきりで、本当に十分な交渉をしたのだろうか? 互いの主張を言い合っただけで、特別委のかたは、SP提案の真意や意図を汲み取れたのでしょうか? 680億円の投資をしている人の提案をたった数時間の面会で「ダメ」と決め付けるのでしょうか???個人的な意見としては、やはり、「この提案はフェアバリューではない」 という意見を述べるのが答えだと思うな。SPの案が価値向上しないと考えるのはおかしい。自分たちのほうがより価値を見出せる、という 「議論を具体的に展開してほしい」 ものです。特別委の方々、「株主のための勧告」 を期待いたします。まっ、ナベツネさんの息がかかっているのかな? ちなみにこの記事について「買収防衛策を発動する環境が整った」とありますが、発動したら、必ず差止め請求をかけられ、結局は裁判所が適否を判断しますので、結果的に裁判で勝てるような前提を確認したほうがいいのではないですか?(今の状態だと、「価値の向上に懸念」という表現がやや抽象的ですが、「価値を破壊する」とまで踏み込んでいないような感じですし、個人的には 「裁判で勝てる」 確信がないと思われます。乱用的か否か不透明なんでしょ。世論を煽らないでね。「買収者側が投資ファンドである」 という前提ですから、 「あいつはだめだ」 みたいなロジックが今の世論では通っていますが、提案内容を読む限りでは、それなりにまともなことを提言しています。もっともSPは、最近米国のテキサス州の油田発掘をする会社(ドリルの製造も行っている)に突然株主提案による役員推薦を行った(目的は不採算なドリル製造事業の売却にある)。米国では今でも突然の提案をしているようですが、日本ではソフト戦術に出ています。仮に、今後、特別委員会(あえて固有名詞を出さないが、著名な方がメンバーに名を連ねる)が当該記事のような提案をして、発動の「免罪符」を与えた、という印象を世間が思った場合、これからライツプランを入れようと考えているかたがたには、機関投資家あたりは、特別委員会のあり方について相当厳しいチェックが入ることも予想されます。今までは、外国人投資家を除いては、なんだかんだ言っても、その基準はゆるいと思われました(例えば有識者のみで、社外取締役がメンバーでない場合でもOKする投資家もいた。そういった特別委員会は株主が選出した者ではなく -取締役の投票権は株主に直接帰属する- 勝手委員会のようなものですので、こんなやらせ的なものがまかり通ると、委員会の構成についてもっと突っ込んだ議論を仕掛けてくることも予想されます)が、「同じ轍は踏まない」 と考えるでしょうね。我々の企業年金や投資信託の運用者たちですから。
2008/01/31
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これまでの経緯は 拙ブログカールスバーグ、ハイネケンと連合で敵対的買収に!10/25カールスバーグ&ハイネケン、英国S&Nの「友好的な」買収が成立か? 1/22をご参照くださいついにS&Nはカールスバーグ連合の買収提案を1株800ペンスで承諾した、と一斉に報じられました。買収総額約1.67兆円です(株式ベース)。ほぼキリンホールディングスと同じ時価総額です。 簡単な経緯をおさらいしますと、10月17日にカールスバーグ・ハイネケン連合側から「買収提案をするかもしれない」というコメントがあり、その後S&Nは「Unwelcome、Unsolicited」(歓迎しないし頼んでもいない)とコメントしたことにより、この時点では敵対的でした。連合側は、「S&N取締役会の承諾、限定的なデューデリジェンス、S&N英国年金基金への追加支出がないことの確認」を前提にS&N取締役会に提案を承諾するようにしつこく迫りました。そして、取締役会の承認、株主への推薦・デューデリジェンスの後に「友好的にTOB」をする算段です。10月25日、連合側は720ペンスでファーストアプローチ。S&Nは、「話にならないほどの低い金額だ」と返答。11月15日、同じく750ペンスに引き上げ。S&Nは「過小評価されている」と即日回答。1月10日、今度は780ペンスに再引き上げ。S&Nは「まだ安い。800ペンスでなければ交渉しない」。1月17日、800ペンスに再々引き上げを条件に、3社は「テーブルに着いた」と報道される。1月25日、ついに3社合意が成立。今回はS&Nの買収防衛戦術と、連合側の買収戦術を中心に分析。 S&Nの買収防衛戦術について。S&Nがとった防衛策は以下の3つに集約されます。ホワイトナイトパックマンディフェンス焦土化戦術1はビール業界世界2位のサブミラー(南ア)と同3位のアンバイザー・ブッシュ(米)に秘かに打診したと報道されましたが、不発のような気配です。本件は、当ディールのクラウン・ジュエルでもある、BBH(バルティック・ビバレッジ・ホールディングス;旧ソ連圏のビール会社の持ち株会社。S&Nとカールスバーグが50対50で出資し、共同経営している)をS&Nとカールスバーグで奪い合う構図というのが理由のようです。たとえS&Nの全株式を取得しても、BBHの50%しか支配できなければ意味がありません。(注:ロンドンタイムズ紙は、TOB段階で、カウンタービットの可能性も少なからずあると言及、ただし、かなり高いと言及)2、3はS&Nは 「法の力」 に訴えます。すなわち、カールスバーグはBBHの株主間協定に違反していると。したがって調停に持ち込み、より良い値段を出した方にBBHを支配できる権利を勝ち取れるような手順を踏むというものです。ちなみに、S&Nが訴えた「違反事項」は、A:守秘義務の悪用、乱用(misuse)B:忠実義務、契約条項違反C:合意を自動解約できるような出し抜いた違反。A,Bにより関係者に与えた損害A:BBHは08年~10年の中期事業計画を策定。これはJVの経営のためのものであって、S&Nの許可なく当該情報をM&Aの価格算定に活用し、かつ、オファー金額は、この計画のもたらす価値を正確に反映せず、BBHを過小評価している。これはBBHの50%を保有するS&N株主に損害を与えるものである。さらに、JV2社間の守秘情報を間接的にハイネケンにも伝えたことになり、守秘義務違反である(これが権利の乱用・濫用ならば、日本では「濫用的買収者」となるのだろうか???)B:は今回のような出し抜いた買収劇は明らかにBBHおよびそのステークホルダーに損害を与えるものである。ブランドイメージに損害を与え、仕入先、従業員、顧客その他契約者にも影響を与える。C:2050年まで、相手側の了解なしに50%株式の処分を独善的な決定が出来ない、と協定を結んでいるにもかかわらず、これは自動解約条項に抵触する。したがって、S&Nにもカールスバーグ持分50%を「フェア・バリュー」で買う権利がある。専門家によると、調停の決着がつくには、1年程度かかる見通しであること、仮に勝訴した場合には、S&Nがカールスバーグ持分の50%の全株を買収する、または25%を買収ファンドなどに買ってもらうなどの策があるといわれていました。→ これはパックマンディフェンスに相当仮に勝訴の後、カールスバーグがよりよい「フェア・バリュー」を提示した場合、S&Nは自分の50%をオークションに掛けるだろう、といわれていました。→ これは、焦土化戦術に該当 このうち、当然ながら後者はS&N株主の評判が悪く、S&Nが取りうる選択肢はパックマンディフェンスのみといっても良かったでしょう。ただし、この場合においてもアナリスト等はS&Nに50%を保有できる資金調達力がない、と見ていたことと、買収ファンドも昨今の株式市場では、手を挙げるのが難しいだろう、という意見が支配的でした(恨めしや、サブプライム)。S&N株主の反応は、12月中旬ごろまでは「800ペンス未満ではダメ、自力でBBHを100%支配できても株価が現状以上にならない」という意見が圧倒的でしたが、1月に入り、市場の大暴落を受け、「いい加減に交渉テーブルに着いたらどうだ」 とS&N取締役会にプレッシャーをかけました。したがってS&Nも「800ペンスだったら交渉してもいい」というコメントを渋々出さざるを得ない状況となりました。ちなみに被買収者側が価格を提示することは稀だそうです。一種の賭けに出ました。合意が決まると大株主(機関投資家が大半)は「よくやった」と取締役会を称えたそうです。仮にS&Nが拒否をし続けると、連合側が「Walk Away;提案撤回」するというリスクが生じ、S&Nの株価暴落が予想されました。現在の株価は買収期待がこめられた価格形成であるからです。「Put Up Or Shut Up」(正式な提案する気がないのなら、出て行け)という英国のルールにのっとり、1月24日正午がその期限でした。24日に、一時カールスバーグが買収資金の調達が出来ないため、ディールが流れる、という観測が株式市場で流れました。そのとたん、株価は暴落し、24日の締め切り30分前になり、「期限を24時間延長する」と発表され、S&Nの株価は元通りとなりました。以下をご参照ください。 これは1月24日のロンドン市場におけるS&Nの株価推移です。株価が一時600ペンス付近まで暴落しています。やや戦術的な気がしますが。 カールスバーグ(デンマーク)の買収戦術買収サイドは、安く買収し、かつ、自社の将来株価を考えなければなりません。カールスバーグはBBHの将来情報を出したがりませんでした。S&Nからは、過小評価だといわれ続け、その原因がBBHの将来見通しを知っているくせに、その価値を反映しないからだ、と大きく非難され続けていました。11月の07年3Qの決算発表時点で、カールスバーグは、BBHは今期、売上・利益とも絶好調だ、と発表しましたが、来期以降はマイルドな成長にとどまり、原油高などもあり、利益率もコンサバな見通しを口にしました。アナリストは当然詳細な情報開示を求めましたが、会社側は逃げ腰でした。(これは、利益相反?でしょうね。日本におけるMBO時の取締役のコンフリ論争に近いですね。 S&Nはその情報(BBHの将来計画)をすべて知っているので、余計に複雑ですね)最後にはS&Nと2社で開示しました(ただし、市場では予想より低い計画値との評価です)。また、調達資金を増資と借入金で賄う予定だったので、昨今の株価暴落は借入金比率の増加という頭の痛い問題を生じさせました。アナリストあたりは「800ペンスは高すぎる」というコメントもあります。ただし、なぜ「取締役会の推薦」(つまり友好的買収)にこだわったか、というと以下の理由がありました。主にハイネケン側のリクエストとして、デューデリジェンスの必要性があったからです。1:英国事業の年金基金の状況の確認2:インドのJV事業(インド企業とS&Nが共同出資するビール会社があり、業界では「第二のBBH」の可能性があると将来嘱望されるビジネス)の財務状況の確認3:フランス事業と英国事業には利益が一部、英→仏に付け替えているものがあるといううわさがあった4:私見ながら、上記3つに加え、カールスバーグ側でも調停にもつれ込んで長引かせたり、予想外の事態を避けたかった(追記)これらの確認の必要性があったとFT紙では記載されています。しかし、私見ながらもう一つ見逃してはならないのは、既述の「Put Up Or Shut Up」期限の存在です。連合側は再三再四、「S&N取締役会の推薦」 が必要だ、と述べていました。この期限までに「友好的に」買収合意が出来ない場合、連合は買収提案を引っ込める、と言っているため、S&Nとしては、限りなく敵対的に近い提案を仕方なく友好的に受け入れざるをえなくなってしまっています(そうでなければ上記株価推移のような暴落間違いなし)。したがって、非買収者側が「思わせぶりな提案なら、いい加減にしてよ」という主旨で設定されるはずの、「Put Up Or Shut Up」期限が実は、非買収者側にも足かせになってしまったのです。 これでFTSE100(ロンドンの日経平均のような株式指標)銘柄の最後のスコットランド企業だったS&Nも消滅します。その約270年の歴史に幕を閉じようとしています。英国シェア27%の国産リーダーを失った英ビール業界は、中堅企業の再編がうわさされています。英国では15年以上にわたる好景気のなか、ポンド高となり売却される製造業が目立っています(日本板硝子-ピルキンストン、JT-ガラハー等の日本勢もいますね)。こういった「製造業のウィンブルドン現象」化について、国内では「株主の国籍なんて関係ない。海外からの投資が増え、優秀な経営者の参入は経済活性化をもたらす」という意見と、これでは英国の製造業がなくなってしまう、という意見があるようです。また英国は金融市場がかなりフェアなルールで運営されていますが、日本、フランスまたは米国ですら英国よりは規制が存在し、自国より規制のある国の企業が規制のない英国企業を買収することが「アンフェア」だ、という意見も出ているようです(かつての日米貿易摩擦と同じロジックですね)。買収される英国企業(英国大使館)をご参照。
2008/01/26
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ロシアを制するものは欧州を制する? フィナンシャルタイムズ紙1月17日によると、S&N(英ビール会社:スコティッシュ&ニューカッスル)は、カールスバーグ&ハイネケン(以下;「カールスバーグ連合」という)によるかねてからの「S&Nの取締役会の同意条件付の」共同買収提案に対し、1株8ポンドを目処に「テーブルに着く」と報じられた。このディールは10月21日付け 拙ブログ、カールスバーグ、ハイネケンと連合で敵対的買収に! にて、買収経緯、買収メリット、買収の争点・特徴などを第一報が報じられた際に記載していますので、ご参考ください。といいつつ、ざっくりと概要を申し上げますと、1:カールスバーグ連合がS&Nを地域分割による買収の提案をしていること、2:さらにカールスバーグが以前よりS&Nと50%同士のJVで、両社の稼ぎ頭である、ロシアのビール持ち株会社を100%カールスバーグにする、という点が日本的常識からすると、サプライズな提案です。従前は信頼できるパートナーだったのが、ある日突然狼になっています。当然、S&N取締役会は強い嫌悪感を抱いています(つまり「敵対的」ですね)。伝えられている地域分割は以下のとおりです。FT紙は、08年初頭のロンドン市場のM&Aの目玉商品として、当ディールとBHP VS Rioを挙げていましたが、最初の一つが早くも動き出しました。10月17日以降の経緯は以下の模様です(ハイネケン、S&NのHPより、カールスバーグ・ハイネケン連合側を緑字で示す)S&N株価の推移 3月下旬に買収観測が流れる。10月25日に「インフォーマル」な720ペンスの提案あり。その後は高止まりしていて、いかにM&A観測が株価を高騰させるかの例です。このサブプライム問題の中、しっかり踏みとどまっています。10月25日720ペンスで買収を提案。価格根拠は、現金買収を前提に以下のとおり。2006年3月時点のEV/EBITDA倍率が13.2倍同じく2007年3月28日終値581ペンスの36%プレミアム(4月ごろから買収観測が流れたため)この価格はS&NのStandalone価格(シナジーのない価格)と比較してS&Nの株主に絶対有利である。S&N取締役会が交渉につくことを強く期待する。買収は、カールスバーグ連合の買収専門会社(ビットカンパニー)が買収完了まで共同出資の元に管理する。そこから、カールスバーグはロシア(BBH:バルチック・ビバレジ・ホールディングス))、フランス、ギリシャ、中国を手に入れ、地元英国・インド等を含め他国はハイネケンが買収する。 10月31日S&NはJVであるBBHのJV条項の仲裁を申し立てる。すなわち、カールスバーグは株主間協定を破って一方的に(許可なく)BBHの株を買収しようとしている。その場合はS&NにもBBHの株式買収の権利があるはずだ(パックマンディフェンスですね)。 11月15日カールスバーグ連合は買収価格を750ペンスに引き上げ。前回提案と同じ前提とすれば、EBITDA倍率は13.6倍に、プレミアムは41%になった。ハイネケンのCEOのお言葉は以下のとおり。「価格アップの提案はS&N単独の株主価値より、さらに魅力的な機会をS&N株主にもたらすでしょう。このディールに関し、ハイネケンは(現金買収なので)財務的にもきちっと処理いたします:要旨」ただし、S&Nの取締役会の推薦(つまり「友好的」)があって最終確認的なデューデリジェンスを行うという点が残っている、という留保条件をつけています。さらに、買収後にカールスバーグがフランスビジネスの売却を示唆しています。11月15日S&Nは上記提案を即日拒否、「Full デューデリジェンス」の条件に、Undervalueされていること、その証拠にBBHの価値に関する開示が不十分で株主が正確なS&Nの価値を見出せないと主張。11月16日カールスバーグ連合は、条件付提案で、S&N取締役会が株主への「ご推薦」と、2社間で隣接するマーケットの資産に関する区分を明確にするための確認的なデューデリジェンスをさせていただくのみで、手荒なことをするつもりはない、という主旨の声明を発表。11月20日S&N、3Q決算発表時に、「750ペンスでは評価が低すぎる。この価格だと、BBHは約32億ユーロの評価となっており、BBHの評価を反映していない。S&Nの株主の方は、さらによく情報を収集する必要性があります。」という主旨の声明文を発表。12月10日カールスバーグ連合:750ペンスを引き上げるつもりはない。12月17日カールスバーグ連合は、ロンドンTakeovwe panelの「put up or shut up deadline」の勧告に対し、歓迎の意を表明。この勧告は直訳すると、「行動で示すか、出来ないのなら出て行け」ということになりますが、正式な提案(TOB)を08年1月24日までにしなければ、今の非正式提案を撤回せよ、今後6ヶ月間は本件の正式買収提案が出来なくなる、という勧告という解釈がなされています。S&Nも同日、歓迎の意を表明。S&Nの株主がこれで、正式提案を待つのか、提案が撤回されるのかという不安定な状態が解消されるだろう、とコメント。さらに再度「750ペンスでは低すぎる、BBHを過小評価している」とカールスバーグを非難した。特にBBHについては、カールスバーグはBBHの中期計画にフルアクセスできているにもかかわらず、S&Nの株主に正確なBBHの成長性を示していない、と指摘し、08年~10年のビール消費量の成長予想予想マーケットシェア売価動向営業利益動向予想設備投資動向を示すように、強く警告したさらに、法廷での仲介を示唆した。すなわち、カールスバーグは株主間協定を破っている。S&Nにもカールスバーグ保有のBBH株式分を買収できるチャンスがあるはずであり、法廷にその上程を08年にもする予定である。BBHを100%保有することは、完全なシナジーが生まれ、企業価値を高める、と。 BBHストラクチャー ハイネケンも西欧ビジネスを過小評価している。英国ナンバーワンシェアであること、インドにおいてもシェア1位であること、ポルトガルでもビールと水でよい業績を上げていること、サイダーでも世界的シェアを誇ること、などがある。株主はこれらのS&Nの保有する潜在的な価値を今一度思い起こしてほしい。我々取締役会は株主に株主価値の最大化とカールスバーグ連合の提案以上の価値をもたらすことをコミットする、とS&NのCEOは株主に呼びかけた。1月10日カールスバーグ連合は一株あたり買収価格を、780ペンスに2度目の引き上げ、S&Nに英国Takeover Panelへの上記締め切りへの対応をお願い。BBHのS&Nの持分50%の価値を42億ポンドと算定。根拠は07年ベースでEV/EBITDA倍率16.6倍、06年ベースで21.1倍、BBHの08-10年の見通しをカールスバーグより別途提示。あとは、取締役会の合意と既述のとおりの限定的デューデリジェンスは従来同様。カールスバーグはBBHの情報開示にさらに協力することを約する、と発表。 1月17日さらに価格を引き上げ、800ペンスを引っさげ、S&N取締役会と交渉に入る、と発表。 このサブプライムで揺れる株式市場の中、S&Nの株主はそろそろ決着つけないと、という危機感があるようで、それがS&Nを「テーブルに着く」プレッシャーとなっているようです。カールスバーグが「買うのを止めた」といったとたん、大暴落が予想されているからです。ロシアを制するものが欧州を制するのか? ナポレオンもヒトラーも失敗したロシア征服。カールスバーグは限りなく近くなっている。 この事例は出来るだけ深く突っ込んでいこうと思っていますので、以後継続的に紹介・分析したいと思います(そろそろ1月24日の締切日なので注目しておいてください)S&Nの対応策(S&N従業員の声とかないかな)や「なぜ買収されたのか」(当然株価が安かったからですが)、といったあたりに収集できた情報を元に紹介できればと思います。
2008/01/22
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本の内容これは、NHKスペシャルにて07年5月7日に放送した「敵対的買収を防げ」と、7月1日放送のBSドキュメンタリー「鉄鋼王ミタル」の製作取材班が書き上げた本であり、番組の内容を引用している。取材班は新日鉄、旧ミタル、旧アルセロールの各経営陣、新日鉄個人株主、旧ミタル・アルセロール株主等広範囲に取材し、それぞれの意見を吸い上げている(といっても新日鉄の意見がもっとも多いのはやむをえないが)。ミタルがアルセロールを敵対的買収に成功した06年6月以降、約1年間NHKが取材したものである。取材の当面の目的は、新日鉄が旧アルセロールと交わした技術提携について、ミタルとの統合後もこの提携をアルセロール・ミタルと継続するのか、というテーマに対する新日鉄の対応を追いかけたものとなっている。提携内容の概要は、欧州に進出している日系自動車メーカーに対し、新日鉄が国内で供給しているのと同じ技術内容の自動車鋼板を旧アルセロールの欧州工場を通じて供給するという内容である。要するに新日鉄の鋼板技術をアルセロールに対し、日系自動車メーカー等に対してのみ利用を許可するというもの。ただし、この提携には「チェンジ・オブ・コントロール」条項が入っていた。つまり、どちらかの経営陣が買収やなんらかの影響により、入れ替わった場合は、当事者の相手方の企業から提携打ち切りのオプションを付していることになる。つまり、新日鉄は今回の買収劇でこの提携を打ち切ることが契約上可能となっている、というもの。ただし、新日鉄は提携を打ち切ると、自らの主要顧客である自動車メーカーに迷惑がかかる話でもあるので、対応には慎重さが伴う。一方、ミタルは生産量こそ世界一だが技術的には新日鉄に見劣りするため、この技術を世界中で活用できれば名実とも世界の鉄鋼王になれるとの読みがあった。新旧鉄鋼王の駆け引きなどがとても興味深く描かれている。結果的に、新日鉄側の「旧アルセロールの欧州工場を通じてのみの活用ならば契約継続を認める」という主張にミタルが折れたような結論が書かれている。ただし、そのとき、「互いに買収はしない」という条項はミタルが拒否したと伝えられているが・・・。新日鉄側:「鉄は国家なり」という近代産業時代からの伝統的鉄鋼業概念および「ものづくり、技術立国ニッポン」といういわば「産業資本」(新日鉄三村社長)を象徴する存在として見立てている。(八幡製鉄所の高炉)アルセロール・ミタル(ほとんどミタルに対して):「ボーダレス・グローバルエコノミー」という現代的な資本主義の勝ち組要素を含んでおり、「株主、投資家の資金を預かる経営者は彼らの期待にこたえて経営成果を出さなければならない」という「金融資本」を象徴する存在、さらに、業界秩序にとらわれない発展途上国の暴れん坊、という存在に見立てている。 (アルセロール・ミタルの製鉄所) もちろん、新日鉄側にも株主に対し、自らの経営理念や方針を理解する努力を惜しまない場面や、ミタルに対しても鉄鋼業というものについての造詣や業界に対する将来感など鉄鋼経営者としての高い評価も下しており、NHKらしくバランス感覚が取れている。ただし、最後の個人株主の、「株を買って20年になりますが、やはり海外の会社に負けてもらいたくないですね。応援したいと思っています」という言葉が、私見を含めた、全体的な締めの印象を醸し出します。 新日鉄側の対策(新日鉄三村社長、ミタル氏と互角以上に渡り合い、提携継続交渉をまとめた)新日鉄は事前警告型のライツプラン(発動には株主投票によるとする変則型)を打ち出している。また、神戸製鋼、住友金属とも相互に買収時の相互支援(もっとも不況時点の2社に対する新日鉄の経営支援の延長線の意味合いもある<新日鉄住金ステンレス等があった>である)、や韓国ポスコ社との鉄鉱石の共同仕入れ等に対する資本提携(要するに持ち合い)や上海宝鋼との持ち合いなどを進めている。新日鉄は「ソフトアライアンス戦略」という互いにメリットさえ見出せれば競合先とでも、その局面にのみ提携を結んでいくという戦略を進めており、はじめは浅い提携でも信頼関係が深まれば提携範囲も広がり相互メリットを拡大していくという方針を採っている。新日鉄は海外に対したくさんの技術支援を過去におこなっており、そこから信頼関係の芽生えている各社とは非常に良好な関係を築いている。また、他の製造業と違い、高炉を伴う鉄鋼所の建設には下手すると兆単位の莫大な設備投資が必要であり、過去の需要は横ばい程度だったこと、さらに日本の鉄鋼ユーザー(自動車・造船・電気など)の技術志向が高まったこともあって、増産の投資にはかなり慎重にならざるを得ない事情があった。世界各地に新日鉄の「応援団」を築くことにより、投資額を抑制し、アルセロールのような信頼関係を結ぶことにより、製品の現地生産より「ノウハウの輸出」で業績を伸ばせる目論見があった、という「鉄冷え」時代の教訓が大きかった。そうした背景があったため、新日鉄では(他の日本の高炉メーカーも同じだが)従来より、「量より質、つまり技術志向」が強まっていった。ミタルの登場一方、ミタル氏は80年代前半にインドで鉄鋼業を拡大しようとしたが、政府の規制に阻まれ、インドを後にした。その後インドネシアで電炉会社を買収して建て直し、以後各地の政府系高炉製鉄所を次々と買収。買収先の製鉄所は東欧・中央アジアを中心とした旧共産時代のお荷物製鉄所であった。こういった製鉄所を安値で買って、生産を立て直す、いわば「ターンアラウンドマネージャー」として生産量を拡大。買収後の製鉄所を短期間で黒字転換に成功させる。この間、買収案件は決して敵対的ではなく、相手側政府等から依頼されての、「友好的買収」であったという。つまり、「鉄は国家なり」の理念で建設された過去の「遺物」を「ボーダレス」の概念で次々と買収したミタル氏という格好になっている。そして04年、米国の投資家ウィルバー・ロス氏(大阪の幸福銀行を買収し、関西さわやか銀行として三井住友銀行に転売した投資家でロスチャイルド系)と出会い、氏が投資していた鉄鋼グループISGを買収。これで世界1位の生産量に達する。彼の支援も受けて、ミタルはアルセロール買収に走る。ただし、ミタル氏は完全に金融資本のみで動く存在としてではなく、「今でも電炉の操作方法を覚えている」とか、旧アルセロール経営陣からも「彼の鉄に対する理解は我々と同じものがある」、「誠実で、聞く耳を持っている」と経営者としての評価も非常に高い。また、息子のアデュティア・ミタルCFO(弱冠31歳)も非常に評価が高く、アルセロール買収のシナリオ・戦略、アルセロール経営陣との買収交渉実務や現在の統合をリードし、金融経済と事業実務の双方を習得するミタル一族の実務リーダーとして期待されている。 彼も父親同様 「聞く耳を持っている」 との評価で、アルセロール経営陣が、彼と買収交渉をしていて、「ミタルとなら何かできる」と思ったというほどであるからたいしたものだ。最後にベールに包まれていたミタルの概要がわかり、彼らも買収済みの製鉄所の近代化を進めなければならないなどの課題が山積している事実も露呈した。一方の、先進国マーケットばかりに目を向けていても競争環境が激しく、利が少ない。一方、ミタルのように発展途上国マーケットでも莫大な利益を稼ぐことが出来、そのマーケットの将来性も魅力的であることがわかった。ただし、こういったマーケットで資本を蓄積し、発展途上国の経営者およびその予備軍は欧米のマネジメント手法を学び、また、身につけているため、英米的な経営思想はさらに進化する可能性を秘めている。産油国の政府系ファンドの台頭著しいなどが代表例だろうか。しかし、日本人が言うような企業が取引先との提携・切磋琢磨・信頼関係などで築き上げた技術や企業価値を否定する気持ちはないし、誇らしいことであり、そうあって欲しいと思うばかりであるが、日本の論理だけでは通じない 「外部環境の変化」 となってしまった。もちろん今後も日本が生き残る道は技術に立脚したグローバル展開ができる企業の繁栄であることには違いない。ただ、「成長を狙える非常に優れた会社でも経営陣の考え方をきちっと理解してくれる安定株主をもたない限り、企業としては安定した成長が出来ない。自分たちの企業価値はこういうことだと、機関投資家、政府、個人株主などに発信する努力を不断にやらない企業は生き残れない」(新日鉄三村社長)、「グローバル化を生き抜く道は「世界の経済情勢の変化を日々分析して理解し、明確な成長戦略を描く能力、その戦略を株主に明快に説明できる表現力、相手企業や投資ファンドのトップとハードネゴシエーションが出来る交渉力と人間的魅力。グローバル化時代の勝者となる経営者には、こうした資質が求められている。社内抗争にうつつをぬかし、業界での現状の地位に安住し、単に自らの保身に走るような経営陣は、株主から瞬く間に駆逐されるだろう。」(NHK報道局経済部長)ということはとても印象に残りました。 (自宅近くの公園から東京湾、アクアラインを経て、新日鉄君津製鉄所を望む)
2008/01/05
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あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。正月から軽くしようと思っていましたが、気になる記事があったのでいきなりトップギアとなりそうです。TBSは31日、放送法の改正で設立できるようになる「認定放送持ち株会社」に移行する方針を固めた(1・1読売新聞)。認定持ち株会社とは、以下抜粋『持株会社の一形態で、放送免許を持つ放送局を傘下に持つ純粋持株会社である。これまで放送局においては、同一企業による複数の放送局の支配を防ぐため、総務省が「マスメディア集中排除原則」を定めている。しかし、地上デジタル放送の開始に伴い、多額な設備投資が迫られており、特に地方局では資金調達に苦しんでいる状態である。こうした経営基盤強化のために、集中排除原則を緩和し、放送事業者にも資金調達能力の高い持株会社制度を認めるというものである。具体的には純粋持株会社の下に傘下となる放送局がぶら下がる形となり、キー局及び同一ネットワーク系列局が傘下企業となる見通しである。また、放送局という公共的にも影響を持つメディア企業であることから、特定の株主からの影響をできる限り排除し、言論の多様性を確保するために、株主の株式保有比率を20%未満に制限することが検討されている。これにより、単独の企業や投資家により経営支配や言論の制限を排除できるのみならず、放送局の外部からの買収をも阻止できることになる。しかし、こうした資本の集中によってキー局主導での効率的な経営ができるようになる反面、傘下となる地方局では、番組制作や編成においてそれぞれの地方での独自色が薄まるという懸念が出ており、またキー局の肥大化によって、番組制作会社を始めとする各種関連業界へのキー局の支配力強化に繋がるのでは、と不安視されている。』(以上ウイキペディアより抜粋)。したがって、TBSにおいても『地方局の意向に配慮する必要があるため、当初は系列局の子会社化など、大規模なグループ再編は行わず、将来的な課題とする。』(読売新聞)となっており、買収防衛先行の動きではないかと勘ぐられやすい論調となっている。(認定持ち株会社の導入は改正放送法が4月1日に施行される予定ですので、施行をまって取締役会決議の後、6月の定時総会で諮られることになりそう)また、マスメディア集中排除原則とは、『「放送をすることができる機会をできるだけ多くの者に対し確保することにより、放送による表現の自由ができるだけ多くの者によつて享有されるようにする」為に設けられた放送局の開設の根本的基準』(ウイキペディア)とのことである。特定株主の持分比率を20%未満とすることが出来る持ち株会社って…。TBSは現在楽天が19.87%(あれっ?20%をちょい超えるはずではなかったのか?)の筆頭株主となっていますが、事実上買収が法的に遮断されてしまうのでしょうか?もともと放送局は放送法の規制により外国資本が20%を超えてはならないという決まりがあり、外資による買収はできない構造となっている。そこに今回、こういった規制が出来る見通しである。規制賛成派からは、言論統制の可能性が考えられる。米国でもダウ・ジョーンズが豪州ルパードマードック率いるニューズコーポレーションに買収されたが、同様のことを指摘されていた。ここでは経営権と編集権を分離するという策がとられているらしいが、ダウ側の幹部の離脱などで揺れている。(ニューズ側はゴシップ、タブロイド系のマスメディアが主力で、格調高いダウ、特にウォール・ストリート・ジャーナル、の編集内容が堕落するのではないかと言われていた。マードックは一切関与しないと言ったものの、ジャーナル紙の有力編集役員が退社したりして話題となった)規制反対派からは、そもそも株式上場の意味が何なんだ、ということだろうか?株を自由に売買できない、買収が自由に出来ないのなら非公開化すればどうだ。また、米国ではGEが米国三大ネットワークの1局である、NBCを所有しているが、言われている様に一企業が放送に影響を及ぼしている論調はないではないか、などではないだろうか。個人的には、かりに、TBSが買収防衛対策に「認定放送持ち株会社」に移行するのなら、それは残念な事だ。そもそも地方局の持ち株会社参加があいまいなうちに移行する意味がよくわからないし、視聴者としては楽天との緊張感(社外取締役の派遣の認否など)があったほうが放送倫理など改善できないかとも感じる(ここ2年ほどの亀田問題や昨年の不二家などはひどかった)。(「認定放送持ち株会社」の趣旨(地方局を持ち株会社に集約)が成り行き任せで、制度だけ移行させると、20%資本規制のところが浮いてしまい、「李下に冠を正さず」のようなイメージで見てしまう)また、こういった「防衛ありき」で移行するようなマスコミに買収関連の中立な報道が出来るのかという点も見逃してはならない。最近では、防衛側に有利な報道は大きめの見出しで出て、不利な記事は小さめの見出しだったりする傾向を感じてしまう(TBSに限らないが)。また、ヤマダ電機が8%程度しかベスト電器の株を保有していないのに「ヤマダ電機、防衛策発動か」(サンケイ)など、先走った論調が目立つ。フジテックの株がオーチス系に売却されたのなんて、すごいニュースだと個人的には感じ、もっと警笛の意味で記事の扱いが大きくてもいいような気がする。株主がどうであれ、本来報道すべき内容を中立に、「倫理観をもって」(特にTBSには望む)報道してほしいな。
2008/01/01
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17日:少し修正します。修正箇所緑字です。 サッポロホールディングス VS スティールパートナーズ(SP) その412月6日、サッポロ側は、SPの買収提案に対し、事前警告型ライツ・プランに基づく「取締役評価期間」に入ると発表した。つまり、「買収提案の可否を株主に対してアドバイスするための、資料集めの期間は終わりました」と宣言したことになります。これまでの経緯は、拙ブログの サッポロホールディングスとスティールパートナーズ その3 をご参考ください。簡単に申しますと、今年2月25日にSPがサッポロに提案した一株当たり825円のTOBに対し、TOBに入る前にライツ・プランであらかじめ株主に伝えてあるとおり、20%を超える株式を取得しようとする株主に対し、20%を超えて株式を取得するにふさわしい株主か否かの事前調査期間に入る前の、「資料請求期間」が12月6日にやっと終わったことを意味しています。約10ヶ月かかりました。本件の今後の流れは、(買収者側:買)買収提案の表明(防衛側:防)買収提案を評価するため、評価するに足りる資料や意見を請求(買) 請求された資料を提出(防) 資料がそろった段階で、取締役評価期間に入る ← 現時点(防) 取締役は自らが評価した結果や一部依頼事項を独立委員会に諮問する。(防) この間、独立委員会は買収者側と折衝したりして、最終意見をまとめる。*独立委員会は依頼事項につき、助言や勧告を取締役会に提出 取締役会は、買収提案の賛否を表明(防) 賛成の場合:TOBへ。「友好的買収」となる 反対の場合:代替案を株主に提示し、株主を説得(買) 事前警告型方ルールに従う場合:一件落着 従わない場合 :防衛側に対抗措置の可能性。新株予約権とは限らない。 本件では、*の期日が大きな変化がない場合は来年の3月5日と90日間となっています。常識的に考えると、取締役会が賛成するとは思えず、SPが痺れを切らすのを待っているように見えます(要するにあきらめる)。しかし...。 最近の株価推移です。910円を突破し、SP提案価格の825円を大きく上回っています。したがって、SPは「現時点の相場においては」サッポロをアンダーバリューしていることになってしまっています。特に11月ごろから急騰しています。「その3」で記載した「資本提携」が奏功しているのでしょう。モルガン・スタンレー様様でしょうか。モルスタのほうがサッポロの株価を評価していることになりますね。しかもモルスタは来年6月ごろまで発行済み株式の5%近くまで買い増しを表明しているので、上昇要因となっています。このままでは825円のTOBは厳しい印象を受けます。SPが仮に株価を引き上げると、また「資料請求」を求められるのでしょうか? このままの状態で進める場合、不利ですのでSPには825円であろうともなかろうとも既存の他の株主に、買収価格の説明の必要性があるかもしれません(本気で66.6%ほしいのなら)。さらに、サッポロは12月決算であり、またまたあの、定時株主総会が3月下旬にやってきます。ここで、ドラマが予想されます。3月5日の評価期間が到来後、SP案に反対し、代替案の説明をここで行えば、効率的に物事が運びます。SPがルールに従わなければ、ここで株主意見を聞いて、対抗措置を決議することも可能です(形式的にはブルドックに近くなりますね)。したがって、サッポロ側は、株価と日程と有利な状況に現時点ではあるといえるでしょう。おそらくは、このタイミングまで、ズルズルと「資料請求期間」を引き伸ばした作戦だったのでしょう。その間、ファンド等との提携等を矢継ぎ早に決めており、がっちり固めていますね。3Q決算も前期同期比増益となっており、酒類事業もコストカット努力により増益となって、改善が見られます。ビールの値上げも決まっているので、業績が底入れしたのでしょうか?サッポロ19年第3四半期営業利益増減要因 一方のスティール。企業価値向上案を提出しました。117ページにわたりますが、ちょっと中庸的です。ざっくり申し上げると酒類事業はブランドの選択と集中、不動産事業は投資強化、飲料事業と外食事業は「事業継続の可否を株主に説明する必要がある」といっています。一時的に規模が縮小しても、これが長期的な企業価値のためだと言っています(個人的感想では、これが「切り売り」など濫用的とは思わないですが)。一方、サッポロ側は、10月30日リリースし、新経営計画を打ち出し、全事業を拡大するような総花的計画を打ち出しました(もっとも、サッポロ側の言い分では、各事業間にシナジーがあるといっているようですが)。現事業の拡大成長路線を主張する現経営陣と選択と集中を主張するSPといった構図になっています。SPで一番気になるのは、自分たちで経営するような書き振りは一切なく、誰かを派遣するようでもなく、現経営陣に抜本策を迫っている点です(実は従来主張どおり)。これではただのコンサルティング提案のようなものです(もっとも内部管理資料の提出を拒否されたので、仕方がないような気がしますが)。 部屋からの写真、アクララインが見えます争っているのは経営支配権ではなく、事業戦略の方向性であり、このために買収提案が必要あるのかな、という気がしてきました。サッポロ側は事業戦略そのものに対して、株主から提案を受けているのに、TOB価格の根拠を示せだの、資料が足りないだの、こういうときだけ少数株主をも含めて、「株主説明責任を果たすため」といっています。サッポロの計画はSPの言うとおり、飲料や外食産業は成熟化した日本市場という外部環境を無視して、「自分たちががんばれば、外部環境が逆風であろうとも、成長できる」という前提に基づいているように見えます。株主側も、株の支配権よりも、今後の経営方針を話し合い、ダメなら取締役選任で反対票を投じるというのが、普通です。仮に経営支配権を争うのなら、経営権も誰か信頼できるものを派遣するとかすべきではないでしょうか???部屋からの写真、境川河口付近 長期的に追いかけていますが、スティールが「適正に」株価を評価しないと(適正な根拠を示さないと)このままでは、株価的にサッポロが優位といわざるを得ません(来年今年の夏ごろまでは)。サッポロはスティールの支配や彼らの戦略を却下させるには、「赤字事業の逆風市場の中での成長戦略」をもっと具体的にアピールしなければなりません(今考えいらっしゃるのでしょうが)。それより、戦略の実行能力を問う声がないのが気になりますね。成長路線であろうとも選択と集中であろうと、執行するのは現経営陣ですよね。SPは経営陣が嫌がる戦略をどうやって執行させるのでしょう? 現経営陣は本当に計画が達成できる潜在能力があるのか?など。SPは米国他の案件では、社外取締役の派遣を実現しており、こういった手段も一考かもしれません。17%近く株を保有している先がボードシートの1つぐらい要求しても筋は通ります。そうすれば計画の進捗をON TIMEで管理できますし、なんとなくST=濫用的と感じている既存の他の株主も応じやすいような 「落としどころ」 と個人的に思います。ここは・・・ ただし、あくまでも個人の見解ですので。カメラを買い換えたので、少しアップしました。
2007/12/16
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