兵どもが夢の跡… リオ五輪、施設たなざらし・廃虚化も
2017-5-21
平井隆介 前田大輔 朝日新聞
世界最大のスポーツの祭典の舞台は、祭りが終わって1年もたたないうちに、たなざらしになっていた。 昨年8月の閉幕直後には、お金をかけない運営が評価されたブラジル・リオデジャネイロ夏季五輪。だが行政の資金難に加え、後利用法を真剣に考えてこなかった無計画さもあり、競技施設の多くは放置されたままだ。 リオを引き継ぎ、3年後に五輪を開く東京にとっても、ひとごとではない。
競泳や柔道、テニスなどの競技施設が集まり、大会時はにぎわいの中心だったリオ市西部バーラ地区の五輪公園。東京ドーム25個分の敷地は平日は封鎖されている。土日祝日は市民に開放されるが、トイレも水道も日陰もなく、人影はまばらだ。
「こんなはずじゃなかった。五輪のレガシー(遺産)が我々、一般市民に引き継がれないことに怒りを感じる」。4月下旬の祝日、家族と訪れていたヘイナウド・サンタナ・ジアスさん(46)は話した。
公園内の競技施設は、ほとんど放置されている。萩野公介選手が金メダルを取った競泳会場。プールは移設されたが、解体費がまかなえず、建物の外壁などは残されたままだ。
中に入ると、いくつもの消火器がゴミのように散乱していた。隣にある屋外の練習用プール跡地には汚水がたまり、大量の蚊が飛び交っていた。「ゴミは持ち帰ろう」。観客に呼びかけるステッカーが床に貼られたまま、放置されていた。
日本柔道男子が全階級でメダルを取ったカリオカアリーナ2は、土日祝日でも立ち入れない。管理主体が市から政府に移ったものの、ブラジル代表選手のトレーニングセンター(トレセン)として改築する計画は実現していない。人の姿が全くない中、施設を老朽化させないために稼働させている空調の音だけが建物の外まで大きく響く。隣のアリーナ3は、市が学校に生まれ変わらせる計画だが、一向に進んでいない。
「市や国が民間業者に改修を依頼したくても、民間も金がないからどこも手を挙げない」。リオ大会組織委員会で残務処理にあたるマリオ・アンドラダさん(58)は嘆いた。組織委自身も資金難で、大会期間中に購入した物品の代金、計8千万レアル(約28億円)を払えないでいる。
五輪公園から北に15キロほどにある、羽根田卓也選手が銅メダルを取ったカヌー・スラローム会場などが広がるラジカルスポーツパークも、市が施設管理費を出せず、昨年12月から封鎖されている。警備にあたる市職員は「いつ再び開放されるか、我々にも全く分からない」とこぼした。
通りの向かいに座っていたマリア・ガルボンさん(49)は、息子が営む理髪店の奥から「日本」と書かれた扇子を持ってきてくれた。五輪開催時にこの場所でカフェを営んでおり、カヌー日本チーム関係者が訪れた際にもらったという。「日本だけじゃなく、世界中の選手や観客と交流でき、大会は素晴らしかった。早くこの場所にスポーツを楽しむ人たちの姿が戻ってほしい」。人の姿が消え、カフェは閉店に追い込まれた。
リオ市では今年1月に市長が交代した。五輪招致時から昨年12月まで市長を務めたパエス氏は、ブラジル検察当局が汚職捜査の対象として名前を挙げた98人の政治家リストに名を連ねている。元サッカー20歳以下ブラジル代表で、今はリオ市議のフェリペ・ミシェル氏(40)は 「後利用についての無計画さ、汚職、市の資金不足。この三重苦のため、五輪のレガシーは市民に引き渡されていない」 と憤る。そして、「東京はどうなっている? 今から後利用のことを真剣に考えないと、我々の二の舞いになるぞ」と警告をくれた。(平井隆介)
■東京の後利用、民間頼み
大会が佳境を迎え、リオの五輪公園の興奮も最高潮に達していた昨年8月。就任直後の小池百合子・東京都知事が視察に訪れていた。「リオの挑戦に学び、コストエフェクティブ(費用効果がある)な大会にしたい」。当時市長だったパエス氏から、会場を学校に転用する計画を興味深い様子で聞き、リオを手本にしたいと宣言した。
小池知事は直後に、会場の見直しに着手。400億円の施設整備費を削減したが、競技会場は変わらず開催準備は遅れた。 大会組織委員会は今月末から37会場の仮設施設の基本設計の入札手続きを始めるが、小池知事が「3月末までに決めたい」としていた大会経費の分担問題は、決着が今月末までずれ込む見通しだ。
東京の後利用は、民間に委ねる計画だ。都が整備する6会場のうち有明アリーナ(江東区)を除く5会場で年間収支が計約11億円の赤字になる見通し。水泳会場の「アクアティクスセンター」(江東区)では約6・4億円、カヌー・スラローム会場(江戸川区)で約1・9億円など 。都は利用率を高めるため、施設の運営を民間に売却する「コンセッション方式」などを検討しており、来年度までに事業者を決める方針。小池知事は「民間の創意工夫を最大限に生かしたい」と語る。
また、昨年12月に建設が始まった主会場の新国立競技場では、後利用を考える政府のワーキングチームの議論が昨年9月から止まったまま。こちらもコンセッション方式の採用が有力だが、球技専用にするのかどうか決まらず、コンサートなどの大規模イベントを開くにも現在の設計では屋根がなく、騒音問題がある。
観客席の空調やレストランも想定されていない。採算に見合うイベントをどの程度開けるか未知数だ。 年間維持費は概算で24億円 。関係者は「コンセッション方式に参入しようという民間事業者はいるのか」と心配する。(前田大輔)
■「負の遺産」他の街も
施設が「負の遺産」と化しているのは、リオだけではない。2004年五輪を開いたアテネは、野球場やホッケー場が集まるヘレニコン地区を国立公園に衣替えする計画だった。だがやはり資金難などから放置された。記者が07年に訪れた時すでに一帯は封鎖され、ホッケー場跡地には腰の高さほどの雑草が伸びて、野犬がうろついていた。
08年に夏季五輪を開いた北京は、22年冬季五輪の招致に成功した。08年のメインスタジアム「鳥の巣」は地方住民の観光地としての活用が主だったが、22年に再び開閉会式会場として使う計画だ。
12年ロンドンは、後利用に成功した例とされるが、紆余曲折(うよきょくせつ)もあった。8万人収容の五輪スタジアムは当初、2万5千人規模の競技場に縮小し、地域住民にも開放する予定だった。しかし市は「それではうまく回らない。人が集まるのはサッカー」などと方針転換。5万4千人収容のサッカー場に改修し、今はプレミアリーグのプロチームが使う。改修費には市民の税金が投入された。
日本では、1998年長野冬季五輪のそり競技会場・スパイラルの年間2億円を超える維持管理費が問題になり、今年4月、来年度からの製氷が中止されることが決まった。(平井隆介)
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