ケニー・バロンが参加しているため注目していたアルバム。 例によってSpotifyで何回か聴いた後にダウンロード。 何ということのないネオ・ハードバップのアルバム。 地味だが、これが何ともいい味を出している。 リーダーはパリ生まれのジェローム・サバー(1973-)というサックス奏者。 1993年にアメリカ合衆国に移り、ボストンのバークリー音楽院での2年間を経て、1995年からニューヨークを拠点に活躍している。 このアルバムは5年ぶりのリーダー・アルバムだそうだ。 線が細くレスター・ヤング派の香りがするが、サウンドは暗め。 凄いスピードでバリバリ吹くというのとは正反対の、音数が少なく小粋なフレーズで聴き手を頷かせるような芸風だろう。 全7曲のうちオリジナルが4曲とだいぶ力が入っている。 タイトル・チューンの「Vintage」はアップ・テンポでぐいぐいと進んでいく。 アルバム中、最も力がこもった演奏だろう。 「Elson's Energy」は最近連絡を取ったブラジルの幼なじみからインスピレーションを受けたもので、ブラジル音楽のテイストを感じさせるナンバー。 ノリノリなのはわかるが、ドラムスが煩いのが惜しい。 「Slay The Giant」は「巨人を倒す」というタイトルとは裏腹の、のんびりした曲。 ダメロンの「On A Misty Night」は小粋でスインギーなテイストで、なかなかいい。 ビリー・ストレイホーンの「A Flower Is A Lovesome Thing」がリリカルで実に味わい深い。 モンクのオリジナルが2曲入っているのが目を惹く。 ジョナサンブレイクの提案でテナーとピアノのデュオで演奏されている。 これが曲にぴったりのフォーマットだ。 モンクのぎくしゃくした側面よりはメロディックな側面が発揮された、なかなか含蓄に富んだ演奏だ。 諧謔性を感じる「We See」はテンポを少し速めにしたことで、両者の掛け合いがよりスリリングになった。 バラード「Ask Me Now」もしみじみとした情感が感じられる名演。 バロンのまったりとしたピアノ・ソロは、まさに名人芸の域に達しており、なんとも味わい深い。 サイドマンでは、やはりなんといってもケニー・バロンの好サポートが光る。 ぶっきら棒と言ったら語弊があるが、表情付けの少ないサバーのテナーを補って余りあるふくらみを与えていた。 彼の起用が、このアルバムの成功のカギだったと言っても大げさではないだろう。 ジョー・マーティン(1970-)のベースとジョナサン・ブレイク(1976-)のドラムスも悪くない。 特にジョー・マーティンの少し硬めのごつごつとしたサウンドが気に入った。 録音は普通だが、ピアノの輪郭がぼやけているのが気になった。 昔の街角の風景を切り取ったモノクロのジャケットも、趣味がいい。 ということで、昔の名盤を聴いているような気分になる、なかなか得難いアルバム。 ハード・バップがお好きな方には是非聞いて頂きたい。
Jerome Sabbagh:Vintage(Sunnyside Records SSC 1698)24bit96kHz Flac
1.Jerome Sabbagh:Vintage 2.Tadd Dameron:On A Misty Night 3.Billy Strayhorn:A Flower Is A Lovesome Thing 4.Jerome Sabbagh:Elson's Energy 5.Jerome Sabbagh:Slay The Giant 6.Thelonious Monk:We See 7.Thelonious Monk:Ask Me Now
Jerome Sabbagh(ts) Kenny Barron(p) Joe Martin(b) Johnathan Blake(ds)
Recorded at Oktaven Audio, Mount Vernon, November 5, 2020