ヒット商品応援団
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ヒット商品応援団日記No563(毎週更新) 2013.10.25コラムニスト天野祐吉さんが亡くなられた。私が尊敬もし好きな方の一人であった。5年ほど前の総務省の発表であったと思うが、インターネットが普及する10数年前と比較し、流通する情報量が530倍になったと。恐らくFacebookやTwitterが普及した今では1000倍を超えていると思う。こうした情報豪雨にあって、「何」を大切にしなければならないか、常に情報の本質に立ち戻って、時に軽妙洒脱に分かりやすく話をしてくれた。私にとって今なお思い起こすのは、ジャーナリスト筑紫哲也さんが亡くなられた時のコメントである。天野祐吉さんは筑紫さんを評し、「ニュースに声を与えてくれた人」と語っていた。それは同時に、膨大な情報を整理し、防波堤の役割を果たしてくれていたことを踏まえてのことだ。筑紫さんがキャスターを務めていたTBSの「News23」の番組コーナーに多事争論があった。多事という膨大な情報を争論できるようにしてくれた訳である。このことは情報の時代におけるコミュニケーションの原則としてある。意味のない情報を削ぎ落とし、その先にある「声」は否応なく私たちの想像力を刺激する。そうした情報、ことばの本質を常に指摘してくれた人であった。あるいは、広告批評の編集長をしながら若い世代とのキャッチボールの模様をブログ「天野祐吉のあんころじい」に公開してくれていた。そのブログによると、「広告批評」で若いコピーライターの卵100人に「からだことば」のテストをし、その結果について次のようにコメントされていた。(以前書いたブログを再褐します)・「顔が立つ」/正解率54.9%/回答例 目立つ 、化粧のノリがいい・「舌を巻く」/正解率42.3%/回答例 キスがうまい、言いくるめる、珍味、・「あごを出す」/正解率35.2%/回答例 イノキの真似をする、生意気な態度をとる この結果を「無知」「国語の再勉強」というのではそれで全てが終わってしまう。天野さんは”「舌を巻く」なんていうのは、これからは「キスがうまい」というイミに使ってもいいんじゃないかと思うぐらい面白いですね。(どうせ、半数以上の若者は本来のイミを知らないんだし、そのことにいまさら舌をまいても仕方がないしね)と、書かれていた。当時天野さんのような「大人の知恵やセンス」が求められているのだと大いに触発されたものであった。その知恵は思想・主義・論理からではなく、自然にくるまれて育ってきた「大人」の美意識から生まれてくる。「いいか、わるいか」ではなく、「素敵か、素敵じゃないか」「カッコイイか、ワルいか」で、若い世代にも分かるように話をしてくれていた。天野さんのように「キスがうまい」と、時代のセンスとでも言えるような扉が次なるヒット商品の着眼になるということであろう。このブログを書いている最中に阪急阪神ホテルズが東京や大阪で運営するホテルのレストランなどで、メニューに表示されたのとは異なる 食材を使って客に提供していたと報道された。メニュー偽装、食材偽装であるが、「くらげのレッドキャビア(マスの卵)添え」では、1キロ1万6000円はするレッドキャビアの卵ではなく 3000円前後のトビウオの卵であったという。利用した8万人近い顧客に対し、レシートがあれば料金を返却するという記者会見であった。そして、社長以下担当役員による記者会見があったが、全て議そうではなく「誤表示」で、その理由は現場スタッフの無自覚・無知によるものであったと。ホテルには電話を始めクレームが殺到しているという。いやそれは単なるクレームではなく、以降二度と利用しないという電話であると理解すべきである。ここ10年ほどの間、いや情報の時代といわれてから、耐震偽装からはじまり、「発掘!あるある大辞典」のような「やらせ」という情報偽装、成分内容や賞味期限の偽装、産地偽装、汚染米使用事件、少し前には三重の米卸し会社の産地偽装、そして阪急阪神ホテルズによる食材偽装である。多くの偽装事件があったが、私たちが教訓とすべきが5年前に起きた三笠フーズによるあの汚染米事件であろう。汚染された事故米の流通先は多様で、原材料として使用した酒造メーカーは、農水省が公開をためらっているなか、自ら公開した。いち早く汚染された米使用商品を公開し自主回収に向かった薩摩宝山をはじめとした焼酎・日本酒メーカーであった。そして、その後汚染米と知って使って嘘をついた美少年酒造は破綻し、本当に知らずに使っていた西酒造(薩摩宝山)は逆に顧客支持を取り戻し、焼酎の一大ヒット商品となった。この2社の間にあるのは顧客を信じる真摯さ、誠実さだ。そして、消費者は西酒造社長の記者会見という「情報」からそれらを感じ取ったからであった。この記者会見と今回の阪急阪神ホテルズ社長の記者会見を重ねて見る。今回のメニュー偽装が現場スタッフの無自覚・無知による現場の問題、表現の問題とした。つまり、自分の部下であるスタッフはプロではないことを表明したようなもので、顧客はプロではないスタッフが調理し、サービスされたものを食べさせられてきたということになる。そんな矛盾するような弁明ではなく、阪急阪神ホテルズのリーダーこそ、49品目ものメニューを7年以上もの間、結果として顧客に嘘をついてきたこと、自らその不明を恥て、顧客に真摯に謝罪しなければならない筈である。さて天野祐吉さんであれば今回の阪急阪神ホテルズによる偽装に対し、どんなコメントを寄せたであろうか。今回の誤表記とする弁明記者会見によって、”「舌を巻く」なんていうのは、これからは「キスがうまい」というイミに使ってもいいんじゃないかと思うぐらい面白いですね。”というノリで軽く済ますことはできなくなった。企業のコンプライアンスは当然遵守しなければならないことは自明であるが、虚と実、真偽、嘘と本当、それらが混在し、変化し続ける時代そのものへの警鐘としてコメントは欲しくなる。豪雨のごとき情報のなかで、更に嘘と本当を見きわめることの難しい時代になった。筑紫さんではないが、そんな情報防波堤となって「声」を挙げるジャーナリストがいないとは不幸な時代である。今日の競争社会にあって多様なメニューのなかに独自を創り、顧客に選んでもらう。その評価が結果として売上や利益になる。その独自に嘘があった時、顧客の側が唯一選択出来ることは利用しないことだけである。そして、企業は顧客の評価を待つしかない。本当を貫き、汚染米問題を乗り超えた西酒造(薩摩宝山)のように。(続く)
2013.10.25
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