今回取り上げたのは1970年代の高度経済成長期に造られた複合商業ビルに新しい顧客市場の「芽」、すでにあるものを生かし直すビジネスの「芽」への着眼である。今回は首都圏横浜と大阪2つの事例を取り上げ、どんな芽であるかを学ぶこととした。
横浜桜木町ぴおシティ地下フロア
消費税10%時代の迎え方(8)
「老朽化」から学ぶ
老朽化する街。
老朽化が生み出す新しい「芽」、
デフレを楽しむ時代への着眼。
戦後75年高度経済成長期に造られ整備された多くのインフラ、道路橋、トンネル、河川、下水道、港湾等の老朽化が眼に見えるようになった。そのきっかけになったのは、やはり2012年に起きた笹子トンネル天井板落下事故であろう。9名が亡くなった痛ましい事故だが、実は同トンネルの完成は1975年。完成から37年後という、供用開始から50年に満たない時点のことだった。
こうしたインフラを更新する費用は今後50年で総額450兆円、年に9兆円を必要とするとの試算もある。その更新手法として、広域化、ソフト化(民営化・リースなど)、集約化(統廃合)、共用化、多機能化の5つが考えられている。例えば、少子化による小学校の統廃合によって必要のなくなった校舎をハム工場などに変えていくといったソフト化の事例は今までも数多く見られた。あるいはこうした行政が行う領域のインフラばかりか、「老朽化」は街を歩けば至る所で見られる。こうした老朽化する建物を新たな価値観を持たせたリノベーションは数年前から町おこしなどに数多く活用されてきた。今から5年ほど前になるが、東京の谷根千(谷中、根岸、千駄木)という地域の再生をテーマにして取り上げたことがあった。そして、この地域をレトロパークと名前をつけたが、その象徴の一つが解体予定だった築50年以上の木造アパート『萩荘』のリノベーションであった。若いアーティストのためのギャラリーやアトリエ、美容室、設計事務所などが入居する建物で、HAGI CAFEという素敵なカフェがあり、訪れた観光客の良き休憩場所となっていた。
今回取り上げたのは1970年代の高度経済成長期に造られた複合商業ビルに新しい顧客市場の「芽」、すでにあるものを生かし直すビジネスの「芽」への着眼である。今回は首都圏横浜と大阪2つの事例を取り上げ、どんな芽であるかを学ぶこととした。
「新しさ」の意味再考
1980年代の生活価値の一つに「鮮度」が求められたことがあった。新しい、面白い、珍しい、そうした価値の一つだが、生活の中に鮮度という変化を求めた時代である。今までとは違う、他人のものとは違う、そうした「違い」が差別化というキーワードと共に、ビジネス・マーケティングの重要なファクターとなった。例えば、鮮度を求めて、とれたての魚ならば漁師町で食べるのが一番といった時代であった。
商業ビルも同じで、その新しさに期待を持って行列した時代である。しかし、よくよく考えれば構造物の鮮度であればオープン当日が一番鮮度があることとなる。翌日からは古くなっていくことに思い至るに多くの時間は要しない。
同じような飲食のテーマパークには月島の「もんじゃストリート」があり、町おこしの成功事例として知られているが、月島もんじゃストリートも同様、メニューには各店特徴を持たせている。一般的な居酒屋は一件もない。面白いことにこうした競争が集客を促している。その象徴かと思うが、「風来坊」という中華を肴にした立ち呑み居酒屋で数年前に新規オープンし、観察した日もほぼ満席状態であった。
今またせんべろパーク人気
テーマパークと簡単に言ってしまうが、それほど簡単に顧客を集客できるものではない。「テーマ」は魅力ある何か、その言葉、キーワードで語られることが多いが、実は「実感」そのものである。よく昭和レトロなどとコンセプトを語る専門家がいるが、コンセプトとは実感そのものことであることを分かってはいない。テーマパークの事例として取り上げられる月島もんじゃストリートも、熊本の黒川温泉も、至る所でコンセプトが実感できる。
ぴおシティの「せんべろパーク」は勿論「せんべろ」とネーミングできる要素が明確になっている。まずは気軽手軽に立ち寄れる「オープンエア」の店づくりのスタイル、しかも立ち呑みである。そのオープンエアのオープンは、価格もメニューもわかりやすい、つまり「オープン」なものとなっている。「立ち食い」というと立ち食いそばを想い浮かべるが、気軽さ・手軽さは同じであっても、更にこだわりはあっても基本胃袋を満たす立ち食いそばとは根底から異なる。つまり、食欲ではなく、ひととき「こころ」を満たしてくれる、自由にしてくれる私の場であり、至福の時間ということとなる。そして、そのためにはデフレ時代を踏まえれば回数多く利用するにはやはり「低価格」ということになる。老舗の「すずらん」は店頭で食券を買い求めてオーダーする仕組みで、食券は1枚は300円となっている。そして、ほとんどのメニュー、ドリンクも肴も300円となっている。写真のせんべろセットもそうした「わかりやすさ」のためのものだが、多くの顧客は好みの注文をして「こころ」を満たす。
顧客が「店」をつくる
地下2階のせんべろパークも顧客がつくったテーマパークであるが、もう一つぴおシティには「顧客がつくった店」がもう一軒ある。それは地下1階のフロアにある店で「フードワンダー」というグロッサリーの店である。事前に調べ閑散としていると勝手に思い込んでいたが、まるで逆の光景を目にした。ちょうど3時過ぎの買い物時間ということもあり、地元の主婦と思える人でレジには行列ができていた。
第二の創業へ 復活を願って 2022.01.03
未来塾(45) コト起こしを学ぶ(後半) 2021.12.19
未来塾(45) コト起こしを学ぶ(前半) 2021.12.15
PR
Calendar
Freepage List
Keyword Search