ヒット商品応援団

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2020.03.18
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カテゴリ: ビジネスブログ

​今回取り上げたのは1970年代の高度経済成長期に造られた複合商業ビルに新しい顧客市場の「芽」、すでにあるものを生かし直すビジネスの「芽」への着眼である。今回は首都圏横浜と大阪2つの事例を取り上げ、どんな芽であるかを学ぶこととした。


横浜桜木町ぴおシティ地下フロア 

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消費税10%時代の迎え方(8)

「老朽化」から学ぶ

老朽化する街。

老朽化が生み出す新しい「芽」、

         デフレを楽しむ時代への着眼。

戦後75年高度経済成長期に造られ整備された多くのインフラ、道路橋、トンネル、河川、下水道、港湾等の老朽化が眼に見えるようになった。そのきっかけになったのは、やはり2012年に起きた笹子トンネル天井板落下事故であろう。9名が亡くなった痛ましい事故だが、実は同トンネルの完成は1975年。完成から37年後という、供用開始から50年に満たない時点のことだった。

こうしたインフラを更新する費用は今後50年で総額450兆円、年に9兆円を必要とするとの試算もある。その更新手法として、広域化、ソフト化(民営化・リースなど)、集約化(統廃合)、共用化、多機能化の5つが考えられている。例えば、少子化による小学校の統廃合によって必要のなくなった校舎をハム工場などに変えていくといったソフト化の事例は今までも数多く見られた。あるいはこうした行政が行う領域のインフラばかりか、「老朽化」は街を歩けば至る所で見られる。こうした老朽化する建物を新たな価値観を持たせたリノベーションは数年前から町おこしなどに数多く活用されてきた。今から5年ほど前になるが、東京の谷根千(谷中、根岸、千駄木)という地域の再生をテーマにして取り上げたことがあった。そして、この地域をレトロパークと名前をつけたが、その象徴の一つが解体予定だった築50年以上の木造アパート『萩荘』のリノベーションであった。若いアーティストのためのギャラリーやアトリエ、美容室、設計事務所などが入居する建物で、HAGI CAFEという素敵なカフェがあり、訪れた観光客の良き休憩場所となっていた。

今回取り上げたのは1970年代の高度経済成長期に造られた複合商業ビルに新しい顧客市場の「芽」、すでにあるものを生かし直すビジネスの「芽」への着眼である。今回は首都圏横浜と大阪2つの事例を取り上げ、どんな芽であるかを学ぶこととした。

「新しさ」の意味再考

1980年代の生活価値の一つに「鮮度」が求められたことがあった。新しい、面白い、珍しい、そうした価値の一つだが、生活の中に鮮度という変化を求めた時代である。今までとは違う、他人のものとは違う、そうした「違い」が差別化というキーワードと共に、ビジネス・マーケティングの重要なファクターとなった。例えば、鮮度を求めて、とれたての魚ならば漁師町で食べるのが一番といった時代であった。

商業ビルも同じで、その新しさに期待を持って行列した時代である。しかし、よくよく考えれば構造物の鮮度であればオープン当日が一番鮮度があることとなる。翌日からは古くなっていくことに思い至るに多くの時間は要しない。



勿論、「新しさ」を求めるマーケットは多くの生活領域に存在している。しかし、自動車で言えば、確か1990年代には新車販売数を中古車販売数が超え、次第に古い中古車はビンテージカーとしてコレクションとして当時の価格を上回る価格で取引されるようになる。あるいは最近であれば、一時期ブームとなった熟成肉、熟成魚などを見てもわかるように鮮度の意味が変わってきた。
大きな時代潮流という視点に立てば、バブル期までの昭和時代の雰囲気を「昭和レトロ」として再現することすら全国各地で行われてきたことは周知の通りである。それらは過去を懐かしむ団塊世代もいれば、その過去に「新しさ」を感じる若い世代もいる、こうした一見相反する街の一つが吉祥寺であろう。写真を見てもわかるように、駅前一等地にあるハモニカ横丁という昭和を感じさせる飲食街と共に、周辺にはパルコをはじめとしてオシャレなトレンドショッピングが楽しめる街並みが形成され観光地となっている。

港の街、横浜桜木町の変化
首都圏に生活の場のある人間にとって横浜桜木町と言えば「みなとみらい」のある街を思い浮かべるであろう。JR京浜東北・根岸線でいうと、横浜駅の次の駅が桜木町駅で、次の駅は神奈川県庁などのある関内、更にその次の駅には中華街の最寄り駅となる石川町、つまりみなと横浜の中心市街地である。
そして、周知のように横浜は明治以降日本を代表する貿易港である。ちなみに、日本で初めての鉄道の開通は初代汐留(新橋)と初代横浜(桜木町)を結ぶものであったことはあまり知られてはいない。このことが示しているように、桜木町は港横浜を象徴する街であることがわかる。首都圏に住む人間にとって桜木町駅というとJR線と東急東横線の2つの駅があり、2004年みなとみらい地区や元町中華街へ東急電鉄が運行するようになり、東急東横線の桜木町駅は無くなることとなる。JR京浜東北・根岸線の桜木町駅と横浜市営地下鉄の桜木町駅の乗降客数は若干減少したものの依然として賑わいのある駅となっている。



この駅前に建てられたのが、写真の「ぴおシティ」である。このぴおシティの前身である桜木町ゴールデンセンターは1968年に建造された商業ビルである。1976年には横浜市営地下鉄桜木町駅が開業、桜木町ゴールデンセンターの地下2階フロアと直結する。そして、1981年三菱地所が桜木町ゴールデンセンターの89%の権利を取得。1982年4月の改装を機に、「ぴおシティ」の愛称が付けられ今日に至る。オフィスとショッピング街の複合施設であるが、2004年10月にサテライト横浜(会員制の競輪場車券売り場)、2010年2月にはジョイホース横浜(会員制の場外馬券売り場)が開場する。

こうした場外馬券売り場などが誘致されたのも桜木町の辿ってきた歴史がある。それは港町、つまり港湾事業の歴史でもある。戦中戦後の横浜港は人力による荷役作業が中心であった。多くの荷役労働者によって街が成立してきた歴史がある。1955年横浜港は米軍の接収が解除され、1957年に職業安定所と寄せ場(日雇労働者に仕事を斡旋する場所)が移転し寿町がドヤ街として発展する。寿町は、東京の山谷、大阪のあいりん地区とならぶ三大ドヤ街で、物流の進化とともに港湾労働が荷役労働からコンテナ輸送へと変わっても、桜木町周辺、特に野毛あたりには当時の雰囲気が残る街である。勿論、山谷やあいりん地区のドヤ街・簡易宿泊所は訪日外国人・バックパッカーの宿泊場所へと変化を見せているが、横浜寿町にはそうした変化はまだ見られていない。
ぴおシティの写真を見てもわかるように、建造されて52年老朽化を感じさせる商業ビルであるが、その西側一帯にある横浜の古い街並を象徴するかのように風景となっている。

みなとみらい線によって、横浜中心街が一変する
ところで、桜木町駅の反対・東側には「横浜みなとみらい地区」が開発される。千葉の幕張と同じように首都圏の新都心として位置づけられ、高層オフィスビルや国際会議場、ホテル、あるいは古い赤レンガ倉庫を改造した飲食施設やイベント会場など新都心にふさわしい「都市開発」が今なお造られ続けている。
写真はJR桜木町駅から見たみなとみらい地区の写真である。こうした横浜みなとみらい地区とは異なる未開発のぴおシティ・野毛地区は昭和の匂いのする労働者の街であった。桜木町駅を境に、東側の海側には横浜みなとみらい地区〜元町中華街という横浜の表玄関・大通りであるのに対し、西側にはぴおシティ・野毛地区があって横浜の裏、横丁路地裏と言える地域となっている。「町の良さ」の一つは、こうした再開発による新しさと開発されずに残った古き時代とが入り混じったところの「おもしろさ」であろう。



ところでみなとみらい線によって大きく横浜の街は変わっていくのだが、その元町中華街に繋がる変化は都市観光の一つのモデルでもあった。当時の変化を次のようにブログに書いたことがあった。
『横浜中華街の最大特徴の第一はその中国料理店の「集積密度」にある。東西南北の牌楼で囲まれた概ね 500m四方の広さの中に、 中国料理店を中心に 600 店以上が立地し、年間の来街者は 2 千万人以上と言われている。観光地として全国から顧客を集めているが、東日本大震災のあった3月には最寄駅である元町・中華街駅の利用客は月間70万人まで落ち込んだが5月には100万人 を上回る利用客にまで戻している。こうした「底力」は「集積密度の高さ=選択肢の多様さ」とともに、みなとみらい地区など観光スポットが多数あり、観光地として「面」の回遊性が用意されているからである。こうした背景から、リピーター、何回も楽しみに来てみたいという期待値を醸成させている。』

老朽ビルぴおシティの地下街




こうした都市観光から外れたのが今回テーマとしたぴおシティを入り口とした野毛地区さらにその先には昔の繁華街伊勢佐木町地区がある。
JR桜木町駅の西口(南改札)を降りるとその先には「野毛ちかみち」「地下鉄連絡口」の表示があり、地下をくぐるとぴおシティの地下飲食街につながっている。後述するがビルの地下街というより野毛地区に向かい「地下道」といった方がわかりやすい。また、まっすぐ降りていくと広場があって横浜市営地下鉄の改札になるのだが、ぴおシティは左側にビルの入り口があり、横丁・路地裏と言った感じである。入り口をくぐると写真のような地下2階のフロア になるのだが、古い地下道に店舗があると言った飲食店街である。
この薄暗い地下道を進むと今回目的となる飲食店街になる。全部で19店舗の内蕎麦店や寿司店もあるが、所謂居酒屋は13店舗に及んでいる。それら店舗には椅子もあるが、基本的には「立ち呑み」で「昼のみ」「せんべろ」酒屋が軒を連ねている。その集積度からこれはテーマパークになっているなと感じた。そして、観察したのは金曜日の午後3時すぎであったが、既に「宴会」は始まっていた。








同じような飲食のテーマパークには月島の「もんじゃストリート」があり、町おこしの成功事例として知られているが、月島もんじゃストリートも同様、メニューには各店特徴を持たせている。一般的な居酒屋は一件もない。面白いことにこうした競争が集客を促している。その象徴かと思うが、「風来坊」という中華を肴にした立ち呑み居酒屋で数年前に新規オープンし、観察した日もほぼ満席状態であった。

今またせんべろパーク人気



テーマパークと簡単に言ってしまうが、それほど簡単に顧客を集客できるものではない。「テーマ」は魅力ある何か、その言葉、キーワードで語られることが多いが、実は「実感」そのものである。よく昭和レトロなどとコンセプトを語る専門家がいるが、コンセプトとは実感そのものことであることを分かってはいない。テーマパークの事例として取り上げられる月島もんじゃストリートも、熊本の黒川温泉も、至る所でコンセプトが実感できる。

ぴおシティの「せんべろパーク」は勿論「せんべろ」とネーミングできる要素が明確になっている。まずは気軽手軽に立ち寄れる「オープンエア」の店づくりのスタイル、しかも立ち呑みである。そのオープンエアのオープンは、価格もメニューもわかりやすい、つまり「オープン」なものとなっている。「立ち食い」というと立ち食いそばを想い浮かべるが、気軽さ・手軽さは同じであっても、更にこだわりはあっても基本胃袋を満たす立ち食いそばとは根底から異なる。つまり、食欲ではなく、ひととき「こころ」を満たしてくれる、自由にしてくれる私の場であり、至福の時間ということとなる。そして、そのためにはデフレ時代を踏まえれば回数多く利用するにはやはり「低価格」ということになる。老舗の「すずらん」は店頭で食券を買い求めてオーダーする仕組みで、食券は1枚は300円となっている。そして、ほとんどのメニュー、ドリンクも肴も300円となっている。写真のせんべろセットもそうした「わかりやすさ」のためのものだが、多くの顧客は好みの注文をして「こころ」を満たす。

顧客が「店」をつくる

地下2階のせんべろパークも顧客がつくったテーマパークであるが、もう一つぴおシティには「顧客がつくった店」がもう一軒ある。それは地下1階のフロアにある店で「フードワンダー」というグロッサリーの店である。事前に調べ閑散としていると勝手に思い込んでいたが、まるで逆の光景を目にした。ちょうど3時過ぎの買い物時間ということもあり、地元の主婦と思える人でレジには行列ができていた。




周辺のみなとみらい地区には成城石井やディスカウンターであるスーパー OK、あるいは JR桜木町駅にはCIALに北野エースが出店しており、野毛地区の奥にある京急日出町駅には京急ストアがある。フードワンダーは小型スーパー的な業態であるが価格もリーズナブルなものとなっている。同じフロアには100円ショップのダイソーも大きな面積で入っており、ぴおシティ全体が日常利用しかも安価なデフレ業態の店舗で構成されていることがわかる。
よく生き残るためにはと表現をするが、顧客が「生き残らせる」ことである。ぴおシティにはそうして「生き残った」店ばかりで、しかもせんべろフロアにはメニューの異なる立ち呑み店がここ数年の間に新規出店しており、テーマパークのテーマ性がより強くなっている。つまり、「商売になる」ということである。
いつ解体してもおかしくない老朽ビルも、時間経過と共に顧客支持を得た「魅力」によって新しい価値を生み出す良き事例が生まれている。顧客によって育まれ熟成した生活文化と言えなくはない。(続く)



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Last updated  2020.03.18 13:25:28
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