ヒット商品応援団

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2020.03.20
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カテゴリ: ビジネスブログ

​ヒット商品応援団日記No760(毎週更新) 2020.3.20。​



​気になって仕方がなかった大阪「駅前ビル」​

2015年にJR大阪駅ビルから三越伊勢丹が撤退しその跡に「ルクア イーレ(LUCUA 1100)」が誕生し、以降地下のバルチカなど注目を集め売り上げや集客など順調に推移してきている。こうしたJR大阪駅を中心に阪急電鉄による阪急三番街のリニューアルや阪急百貨店梅田店のリニューアルなど矢継ぎ早の開発からポツンと取り残され老朽化した大阪駅前ビル1〜4号舘の存在が気になって仕方がなかった。

というのも1970年代半ば大阪のクライアントを担当し、定期的に大阪に行くこととなった。当時は闇市の跡地を大阪駅前ビルへと開発が進行中でまだまだ戦後の闇市的雰囲気を色濃く残した時代であった。ちなみに駅前ビルの完成は以下のようなスケジュールで写真は駅前第1ビルである。




1970年4月 - 第1ビルが完成。
1976年11月 - 第2ビルが完成。
1979年9月 - 第3ビルが完成
1981年8月 - 第4ビルが完成
実は大阪のクライアントの担当者から大阪らしいところに行きましょうと誘われたのが鶴橋の焼肉「鶴一」と梅田の阪神百貨店の地下1階とJR大阪駅とを結ぶ地下道にあった老舗串カツ店「松葉」であった。これは余談であるが、この「松葉」で串カツの二度漬け禁止という大阪マナーを学んだことを覚えている。

地下道の街





ところで大阪に住む人間であれば駅前ビルの梅田における位置関係は当たり前のこととして熟知しているが、そうでない人間にとってはわかりずらさがある。そこでイラストの図解を見ていただくと良いかと想う。

数字の1、2、3、4 は各駅前ビルの位置を表している。阪神百貨店の北側(上)にはJR大阪駅があり、図の右側には阪急百貨店があり阪急電車の梅田駅がある。

大阪は梅田(キタ)と難波(ミナミ)という2つの性格の異なる都市拠点のある街だが、その梅田の中心地を担ってきたのが、4つの駅前ビルであった。もう一つの特徴は南北にJRの大阪駅と北新地駅があり、東西には各々の地下鉄が通っており各駅前ビルには複合ビルとして多くのオフィスがあり多様な企業が入居している一大ビジネス拠点となっている。イラストの図を見てもわかるように、このビジネス拠点を南北東西に巡らせているのが「地下道」である。難波(ミナミ)にも地下道はあるが、これほど広域にわたる地下道は梅田のここしかない。

老朽ビルの特徴の第一はその薄暗さ



駅前ビル地下街を象徴する写真であるが、横浜桜木町ぴおシティと同様一目瞭然薄暗い通路となっている。そして、老朽化は多くの商店街がそうであるようにシャッターを下ろした通りが随所に見られる。この地下商店街は南北東西とを結ぶ大きな地下通路のいわば枝分かれした通路となっており、大通りの横丁路地裏のような存在となっている。
ただオフィスビルの地下飲食街ということから人気のある飲食店は今なお数多い。若い頃であったが、2号館のトンテキの店やグリル北斗星には食べに行ったことがあるが、大阪らしくボリュームのあるメニューばかりでここ20数年ほど食べに行くことは無かった。ただ2年ほど前になるが1号館にあるサラリーマンの居酒屋の聖地と言われる「福寿」という店に行った程度の利用であった。
しかし、この老朽化した駅前ビル、地下の飲食街で小さな変化が出ているという話を聞き、その友人に案内してもらい観察をした。その変化とはシャッター通り化しつつある飲食街に「立ち呑み」「昼呑み」の居酒屋が流行っており、新規出店している場所もあるとのこと。アルコール離れは若い世代の場合かなり以前から大きな潮流となっており熟知していたが、「酒を飲む」業態が人を集めていることに興味を持った。というのもこうした脱アルコールの潮流に対し、新しい「場」をつくることによって、結果アルコールをメニューとして成功している事例が見られてきたことによる。それは同じ大阪の駅ビルルクアイーレ地下バルチカの「紅白」という洋風居酒屋である。このバルチカについては何回か未来塾で取り上げたのでその内容について繰り返さないが、実はもう少し年齢が上になる世代の新しい「飲酒業態」の芽が生まれているとの「感」がしたからである。
老朽化し、しかもあまり目的を持って通行もしていないようなビルの地下飲食街にどんな「芽」があるのか興味を持った。情報の時代ならではの人気店については未来塾で「<差分>が生み出す第三の世界」というテーマで競争市場下の現在について分析をしたことがあった。簡単に言えばどのように「違い」をつくり提供していくかという事例分析である。情報の時代ならではの話題の店づくりとして、次の整理を行ったことがあった。
1、迷い店  2、狭小店  3、遠い店  4、まさか店  5、人による􏰄􏰂「差」 
以上の違いづくり整理であるが、1〜4ではそれぞれ従来のマイナスをプラスに転換した業態である。例えば、「迷い店」とはわかりにくさをゲーム感覚で面白さに変えた店として差別化を図った事例である。この前提となるのは、その違いを違いとして理解してもらうためには「低価格」という入り口が前提となっていることは言うまでもない。
低価格立ち呑みパークの出現
大阪の呑ん兵衛であれば周知のことであるが、以前から駅前ビルの地下を始め数店の立ち呑み店があり、おばんざいなどの肴も美味しく人気の店となっていた店がある。例えば、その中の徳田酒店は大阪駅ビルルクアイーレの地下飲食街バルチカの増床の際にも出店している。
ここ数年こうした「立ち呑み」「昼呑み」スタイルで、価格が安いだけでなく、肴もうまい店が出店し始めている。









この写真は駅前第2ビル地下にある居酒屋通りで、徳田酒店同様の人気店で明治創業の竹内酒造という老舗立ち呑み店を挟んでメニューの異なる大衆呑み処が集まっている。ちなみに鉄板焼き、おばんざい、焼肉といったメニューの呑み処である。この3店舗の通りを挟んで反対側に新規オープンした「どんがめ」というこれも大衆居酒屋が人気となっている。観察したのは昨年11月にオープン1週間ということもあって満席状態で賑わいを見せていた。
こうした小さな立ち呑みパークもあるが、駅前ビル地下街は南北及び東西にある駅を結ぶ地下道に賑わいを見せる居酒屋も多い。
例えば、上にある写真の「七津屋」のような店々である。各店を観察していたところ、案内をしてくれた友人の後輩が写真の七津屋の代表であったので、立ち話ではあったが最近の駅前ビル飲食街について話を聞くことができた。各店メニューは安いことが前提となっており、それは日常的に回数を重ねられる価格であるという。また、経営的には駅前ビルは再開発ビルである、全体の運営会社はあるが賃料については月坪2、3万円から5万円までバラバラで、それは地権者の数が多く、そうした賃料の差が生まれているとのこと。安い賃料であれば、安い価格でサービスできると話されていた。




写真は立ち食い焼肉酒場の店頭メニュー看板であるが、焼肉一切れ50円からとなっている。人気となっている立ち呑み処、大衆酒場に共通していることはとにかく安いということであった。2年ほど前に第1ビルの地下にある福寿という酒造メーカーの直営店で飲んだことがあった。大阪のサラリーマンにとっては知らない人はいないほど飲兵衛の聖地となっている居酒屋であるが、その福寿と比較しひと回り安い店であった。また、今から5年ほど前になるが、東京の居酒屋で300円前後のつまみが人気となったことがあった。それらは単なる安さだけでわずか2〜3年で飽きられ撤退したことがあったが、2店ほどしか飲食しなかったが、数段美味しい肴・メニューであった。

オープンエアの店々





「老朽化」から学ぶ


「老朽化」は、道路も、橋も、ビルも、街も造られた構造物は全て不可避なものとしてある。大都市においては再開発事業が進んでおり、成熟時代の山登りに例えるならば「登山」となる。一方再開発から外れた地域は老朽化したままとなっている「下山」の場所となっている。今回は一時期輝いていた商業ビルの生かされ方に焦点を当て、老朽ビルにあってその賑わいの理由・魅力について考えてみた。
今回観察したのは首都圏横浜桜木町と大阪駅前ビルという1970年代の都市商業の象徴であったビルである。その老朽化した商業ビルの「今」、その新しい賑わいの芽が生まれていることに着眼した。再開発から取り残された地域、街については東京谷根千や吉祥寺ハモニカ横丁などこれまで取り上げてきたが、複合商業ビルは今回初めてである。それは大きな構造物であり、スクラップし再生するには地権者や利用企業・テナント、更には周辺住民の賛同を得るには多くの時間とコストが必要となる。そうした困難の中で、シャッター通り化しつつある場所に、新規出店する店舗と顧客がつくるビジネス、いや新しい商売のスタイルを見ることができた。これも「下山」の発想から見える新しい芽・風景であった。その芽には老朽化ならではの商売と共に、新しい事業にも共通する工夫・アイディアもあった。東京谷根千や吉祥寺ハモニカ横丁をレトロパークと私は呼んだが、誰もが知る観光地となったのは周知の通りである。これらは OLD NEW、「古が新しい」とした新市場である。
都市の中心も、時代と共に変化していく

開発から取り残された横丁路地裏に新しい「何か」が生まれていると10年ほど前から指摘をしてきた。言葉を変えれば、表から裏への注目でもあった。その着眼のスタートは東京秋葉原という街であった。秋葉原がアニメなどのオタクの街、アキバとして世界の注目を集めていること、その後駅近くの雑居ビルをスタートにしたAKB48の誕生と活躍については初期の未来塾で取り上げてきたので参照して欲しい。
実は今回改めて認識しなければならなかったのは、時代の変化とは街の「中心」が変わることであり、それまでの中心を担ってきた多くの「商業」は老朽化していく。それは横浜の中心であった桜木町の変化であり、大阪の駅前ビルにあった中心がJR大阪駅周辺や阪急梅田駅周辺の開発によって、それまで駅前ビルが担っていた中心は移動し変化していく。このことは「街」だけでなく、小さな単位で考えていけば商店街の中心の変化にも適用できるし、SC(ショッピングセンター)においても同様である。もっと具体的に言えば、実は中心から外れた「周辺」にも新たな変化の芽も生まれるということである。
「作用」があると、必ず「反作用」も生まれる
日本の商業を考えていくと、2000年の大規模小売店舗法の廃止により、それまでの中小商店街が廃れシャッター通り化していくことはこれまで数多く論議されてきた。そこで生まれたのが「町おこし」であったが、決定的に欠けていたのが新たに生まれた「中心」(大きなSCなど)に人が集まっていくことへの販売促進策といった対応策だけであった。今や更に小売業は進化し、ネット通販などへと消費の「中心」が移動していく。
実は、中心から外れたところにも「変化」は生まれているということの認識が決定的に欠けていたということである。原理的には、「作用=中心の移動」があると「反作用=外れた中にも変化」が必ず生まれるということである。横浜の中心が桜木町から横浜駅やみなとみらい地区へと移動し、大阪駅前ビルからJR大阪駅や阪急梅田駅へと移動したことによって、外れた周辺にどんな新しい「変化」が生まれてきたかである。つまり、どんな反作用が生まれたかである。

大規模再開発が進む渋谷にも、「反作用」が生まれている



今回の未来塾は渋谷の大規模再開発について書くことが目的ではない。再開発のシュッような目的はオフィス需要を満たすことを踏まえ「大型ビルの建設」「渋谷駅の改良」「歩行者動線の整備」の3つが目的となっている。表向きはこうした背景からであるが、次々と高層ビルが建てられ、どこにでもある、ある意味「つまらない街」へと向かっている感がしてならない。
同じようなビル群、中に入る商業・専門店もどこにでもある店ばかりである。チョット変わった店かなと思えば、店名と少しのメニューを変えただけの従来からある専門店が並ぶ。せいぜい違いがあるとすれば「ここだけ」という限定商品があるだけである。写真はスクランブル交差点から見上げた230メートルの超高層ビルスクランブルスクエアである。
実はこうした高層ビルに象徴される「作用」に対し、「反作用」が渋谷にも現れ始めている。学生時代から渋谷を見てきた人間にとって「渋谷らしさ」を感じる場所もまだまだ数多くあり、道玄坂の百軒店辺りにはこれから「反作用」が生まれてくるかもしれない。

ころで昨年11月渋谷パルコがリニューアルオープンした。1973年以降若者文化の発信地と言われてきたパルコであるが、それまでのトレンドファッションの物販のみならず、パルコ劇場やミュージアムに象徴されるように「文化」を販売する場でもあった。
リニューアルによってどんな変化が見られるか、年が明けて落ち着いてから見て回ったのだが、今一つ面白さはなかった。唯一面白いなと思ったのは地下にある飲食街であった。「食・音楽・カルチャー」をコンセプトにした飲食店と物販店が混在した レストランフロアとなっている。いわゆる飲食街であるがフロアのネーミングが「CHAOS KITCHEN(カオスキッチン)」となっているが、どこが魅力を感じるカオス(混沌)なのか今ひとつわからない。






唯一特徴的なのが「立ち食い店」が3店ほどあるということであろう。うどん、天ぷら、クラフトビール、という業種である。また、「真さか」という居酒屋もあるがパルコならではの居酒屋とは思えない。唯一行列ができていたのが博多で人気の「極味や」という鉄板焼きハンバーグ店だけであった。

ただ写真を見てもわかるように、「レトロ」な雰囲気で、一種わい雑な賑わい感を創り出そういうことであろう。吉祥寺のハモニカ横丁や新宿西口の思い出横町を感じさせる通りとなっている。また、右側の写真を見てもわかるように酒瓶やビールなどのケースを店頭に置いた立ち呑みスタイルの店づくりになっているが、桜木町ぴおシティや大阪駅前ビルと比較しても今一つこなされてはいない。更にMDの内容を見る限り、パルコが持っていた新しい「文化」には程遠い。
パルコらしい「文化」と言えば、これから起こるであろう食糧難がら世界で注目されている「昆虫食」のレストランであろう。ただ、昆虫を食する文化がどこまで日本で広がるかは極めて疑問である。しかも価格が極めて高いという難点を感じざるを得ない。ただ現時点で言えることは、渋谷スクランブル交差点から見える高層ビル群に対する「反作用」であることは間違いない。ただ、桜木町のぴおシティや大阪駅前ビルで見てきたように、「反作用」の世界が十分消化されていないことは言うまでもない。



「道草」を求めて
もう15年ほど前になるか、ベストセラー「えんぴつで奥の細道」にふれブログに書いたことがあった。「えんぴつで奥の細道」の書を担当された大迫閑歩さんは”紀行文を読む行為が闊歩することだとしたら、書くとは路傍の花を見ながら道草を食うようなもの”と話されている。けだし名言で、今までは道草など排除してビジネス、いや人生を歩んできたと思う。過剰な情報に翻弄されながら、しかもスピードに追われ極度な緊張を強いられる時代だ。当時身体にたまった老廃物を排出する健康法として「デドックス」というキーワードが流行ったことがあった。そのデドックスというキーワードを使って、「こころのデドックス」の必要性をブログに書いたことがあった。人によってその老廃物が、衝突を繰り返す人間関係であったり、極端な場合はいじめであったり、そんな老廃物に囲まれていると感じた時、ひとときそんなこころを解き放してくれるもの、それが道草であるという指摘であった。その後、「フラリーマン」というキーワードが注目されたことがあったが、共稼ぎの若い夫婦のうち、旦那だけが仕事を終え自宅に直行することなく、書店に立ち寄ったり、バッテングセンターでボールを打ったり、そんな時間の過ごし方をフラリーマンとネーミングしたのだが、今回観察した横浜桜木町のぴおシティも大阪駅前ビルにも多くのフラリーマンを見かけた。


テクノロジーの進化、そのスピードはこれからも更に速いものとなっていく。AIは働き方を変え、それまでのキャリアの意味も変わっていくであろう。ましてやグローバル化した時代であり、その変化は目まぐるしい。こうした時代を考えると、この道草マーケットは縮小どころか、増大していくであろう。
2つの老朽化したビルの飲食街に人が集まるのも、リニューアルした渋谷パルコの地下レストラン街も道草のための路地裏横丁である。渋谷パルコのフロアネーミング、コンセプトであると理解しているが、カオス(混沌)キッチンというネーミングは正確ではない。いや、コンセプト・MDのこなし方が上滑りしており、単なるレトロトレンドに終わっている。若い世代にとっても、道草は必要である。つまり、若い世代にとっての立ち呑みも、立ち食いも、店づくりも、勿論価格も、それは東京吉祥寺のハモニカ横丁もそうであるが、大阪駅ビルルクアイーレのバルチカに学ぶべきであろう。もし渋谷パルコが若い世代の「文化」の発信地になり得るとすれば、スタイルとしての「レトロ」だけでなく、過去の「何に」新しさを感じて欲しいのか、過去の「何に」面白さを感じて欲しいのか、デフレ時代の先を見据えたコンセプトの再考をすべきということであろう。それが渋谷パルコの目指す「反作用」となる。

人間臭さを求めて
道草はひとときこころを解放してくれる時間であるが、どんな「場」がふさわしいかと言えば、構えた窮屈な場・空間ではなく、少々だらしなくしても構わない、そんな場である。道草もそうだが、一見無駄に見える時間が必要な時代である。例えば、商品開発など次に向かう方針やアイディアを持ち寄った会議があるとしよう。物事を整理し議論してもなかなかこれというアイディアは出てこないものである。逆に、休憩時間などでの雑談の中から面白いアイディアが生まれることが多い。
ところで歴代の漫画発行部数のNo. 1は周知の「ワンピース」で1997年以降4億6000万部となっている。「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」を巡る海洋冒険ロマンで、夢への冒険・仲間たちとの友情といったテーマを掲げたストーリーである。昨年のラグビーW杯における日本チームの「ワンチーム」というスローガンと重ね合わせることができる「人」がつくる世界への「思い」をテーマとしている。勿論そうにはなってはいない現実があるのだが、そうした「人間」を見つめ直したい、そんな欲求があることがわかる。
のびのびとさせてくれる、多くの規制から一旦離れ自由になれる世界が求められているということである。今、静かなブームとなっているのが「食堂」である。大手飲食チェーンによって次々と町から無くなってきているが、ほとんどが家族経営で高齢化が進み、結果後継者がいないことによる廃業である。しかし、食堂の魅力を「家庭の味」「おふくろの味」に喩えることがあるが、少々盛り付けはガサツであるが、手早く、手作りで、しかも安い定食を求めての人気である。そこには「人」の作る味があるからだ。立ち呑み店の多くはセルフスタイルが多く、そこには「人」が介在しないと勝手に思いがちであるが、古びたのれんをくぐれば「いらっしゃい」の声がかかる。メニューは全て短冊に手書きで書かれており、その多さに迷ってしまうほどである。そんな人間臭い店に人は通ってくる。

回数多く利用できる安さとクオリティを求めて
老朽化したビルに生まれていたのは、特別な時、特別な場所、特別な飲食・メニューではなかった。いわば「ハレの日」の食ではなく、徹底した「ケの日」の利用でとにかく安い。5年ほど前、東京の居酒屋でセルフスタイルで、つまみや肴は1品300円という価格設定でかなり流行ったことがあった。しかし、今やほとんどそうした業態は無くなっている。その理由は「価格」だけを追い求めてしまい、つまみや肴のクオリティは二の次であった。つまり、回数多く利用したくなる「クオリティ」ではなかったと顧客がわかってしまったといういうことである。




写真は大阪駅前ビルの立ち食い焼肉のメニュー写真であるが、1切れ50園からとある。少々読みづらいが上はらみは1切れ220円、ハート50円、和牛A5カルビ1切れ180円となっている。ちなみに大阪駅ビル地下のバルチカの若者の人気店「コウハク」のメニュー洋風おでんは180円である。グラスワインは平均400円前後となっている。数年前、西武新宿駅近くの立ち食い焼肉店が話題となったことがあったが、価格は半額〜2/3程度という安さである。
実はなるほどなと思ったのは横浜桜木町ぴおシティのセンベロパークの価格も老舗の「すずらん」に見られるようにつまみや肴、ドリンクはほぼ300円前後であった。そして、「ケの日」の特徴である回数多く利用できる「業種」も多彩である。数年前に新規オープンした中華の「風来坊」はウイークデーにもかかわらず午後3時には満ほぼ員状態であったと書いたが、この店も当然価格は安い。レモンサワー300円、酎ハイ250円となっており、実は肴の中華料理は本格的なものばかりである。チャーシュー350円、ピリ辛麻婆豆腐400円、玉子炒飯350円となっている。
価格だけを見れば、極端に安いということではない。デフレ時代としては「普通」の価格帯となっている。ただ、どの居酒屋もクオリティは数段高くなっていることは間違いない。そのクオリティにはアイディア溢れるものもあって一つの集客のコアになっている。デフレ時代の進化系の特徴の一つである。
出入り自由なオープンエアの店づくり




桜木町ぴおシティも、大阪駅前ビルも、渋谷パルコも、少し前に未来塾でレポートした大阪駅ビルルクアイーレの「バルチカ」も、各店舗の多くはそのスタイルは別にして外の通りから店内が見えるオープンエアなものとなっている。日常回数利用を促進することが目的であり、その前提となる「分かりやすさ」が明快になっていることである。スタイルとしては、屋台、(角打ち)のれん、・・・・・・つまり閉じられた店ではなく、気軽に手軽に入ることができる店づくりである。特に、どんなメニューをどのぐらい安く提供してくれるのか、更に言うならば中にいる顧客はどんな顧客が来ているのか、どんな雰囲気なのか、通りかかっただけで「すべて」がわかる店である。
今回はできる限り多くの店舗のフェースや通りの写真を掲載したが、肖像権のこともあって通行する人たちが途絶えた時の写真となっている。実際にはもっと賑わいのある通りであることをお断りしておく。
上の写真も大阪駅前ビルの飲食店であるが、通りと店舗の境目がほとんどない、そんな店づくりとなっている。店主に聞いたら、管理会社からの要請でもう少しセットバックすることになると話されていた。
日常の回数利用の業態は、何の店なのか、例えばのれんひとつとっても「分かりやすさ」を表現する方法となっている。デフレ時代の回数ビジネスの基本であるということだ。

老朽化を新しさに変える
今回も山歩きの比喩を借りて、再開発ビル=登山、老朽ビル=下山、2つの歩き方を考えてみた。建造物である限り「安全」であることを前提とするが、リニューアルした渋谷パルコのレストラン街は2つの老朽化したビル(横丁路地裏)の雰囲気・界隈性に共通するものが多くある。それを渋谷の大規模再開発という、つまり登山という「作用」に対する「反作用」の事例として位置付けをしてみた。顧客視点に立てば、「老朽化」「過去」を借景とした世界もまた必要としているということである。勿論、経済のことを考えれば賃料も安く済み、その分メニューの「クオリティ」を上げ、しかも価格を抑えることが可能となる。オープンエアの店舗スタイルであれば、店舗の初期投資も軽く済む。ある意味、デフレ時代のビジネスの基本であるということである。4年ほど前、高級素材のフレンチをリーズナブルに提供した「俺の」業態は、今老朽ビルの飲食街で数多く見ることができた。デフレもまた進化しているということだ。
「時代」が求める一つの豊かさ
2年半ほど前に、未来塾において「転換期から学ぶ」というテーマでレポートしてきた。所謂「パラダイム転換(価値観の転換)」についてであるが、第一回目ではグローバル化する時代にあって「変わらないことの意味」を問うてみたことがあった。今回は身近で具体的な「老朽化」という変わらないことの一つを取り上げたということでもある。「老朽化」に変わらないことの意味を問い、その商業の賑わいの理由を抽出してみた。そこには、古の持つ新しさ、道草という自由感、人間臭さ、明確なデフレ価格、費用を抑えた店づくり、分かりやすいオープンエア、屋台風小店舗、立ち食い、・・・・・・・少し前まではどこにでもあった消費文化。今やスピード第一のグローバル化した時代、しかも生活がどんどん同質化していく社会にあって、ひととき「豊かな時間」を求めた、そこに賑わいがあった。金太郎飴のように均質化した高層ビル群ばかりのつまらない街に、老朽ビルの一角に妙に人間臭いおもしろい賑わいを見ることができた。これもまたデフレ時代の楽しみ方の一つとなっている。つまり、「時代」が求める豊かさの一つということだ。





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Last updated  2020.03.21 13:20:04
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