「Love me Me」は力作です。SF界では手垢にまみれているはずの自我の定義にまつわる物語ですが,描き方が丁寧でいいです。普通の人間が,全く異なる存在になっていく過程を,実に細かい段階ごとに分けて描いていくので,主人公の心理を追体験するかのように,自然に感情移入できました。さらに結婚や死といった方向にまで展開しますが,主人公の彼女は結局,後戻りのできない段階へと足を踏み入れる決断をします。ありきたりの救済をつい期待する読者心理をあっさり袖に振るわけですが,SF愛好者にとってはこれこそがSFプロパーな醍醐味でしょう。
「Slowlife in Starship」はいかにも「プラネテス」的で面白かったです。悩み方といい,引きこもり方といい,開き直り方といい,やる気の出し方といい,さらりと隣人の大切さを描く筆致といい,急に視点を転換する手際といい,まるっきりハチマキみたい。読んでて楽しかったです。