つきあたりの陳列室

つきあたりの陳列室

2009.07.15
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テーマ: 本日の1冊(3711)
カテゴリ: Book
(2008,ハヤカワ文庫JA,早川書房)

『SFを読みたい!2009年版』国内部門第7位。短編集ですが,面白いのとつまらないのが両極端でまとめづらいです。



表題作は「新しい人類への移行」という本作のテーマを高らかに謳うファンファーレ的小品ですが,分子生物学者という設定の主人公が,進化の仕組みやその解釈については,まことに薄っぺらな理解しかしていないことに落胆しました。でもツカミはばっちりだし,チラリズムも心得ているし,読後感は爽快だし,一服の清涼剤としてなら一読をお勧めします。

「Love me Me」は力作です。SF界では手垢にまみれているはずの自我の定義にまつわる物語ですが,描き方が丁寧でいいです。普通の人間が,全く異なる存在になっていく過程を,実に細かい段階ごとに分けて描いていくので,主人公の心理を追体験するかのように,自然に感情移入できました。さらに結婚や死といった方向にまで展開しますが,主人公の彼女は結局,後戻りのできない段階へと足を踏み入れる決断をします。ありきたりの救済をつい期待する読者心理をあっさり袖に振るわけですが,SF愛好者にとってはこれこそがSFプロパーな醍醐味でしょう。

「Slowlife in Starship」はいかにも「プラネテス」的で面白かったです。悩み方といい,引きこもり方といい,開き直り方といい,やる気の出し方といい,さらりと隣人の大切さを描く筆致といい,急に視点を転換する手際といい,まるっきりハチマキみたい。読んでて楽しかったです。




「千歳の坂も」はもっと丁寧に展開させて長編にすれば,面白くなりそうなんだけど,性急な終わらせ方が残念です。ラストのポリネシア伝統社会を舞台にしたSFは旧作の番外編ですが,あまりのセンスの古さにがっかりしました。






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Last updated  2009.07.15 19:09:24
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inalennon @ Re[1]:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子(09/19) フィンちさん >この世は なんてままなら…
フィンち@ Re:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子 「人生のままならなさ」への強烈な疑問と,…
inalennon @ Re:4年はあっという間(03/04) ハオさん >バーチュー&モイヤー組見…
ハオ@ 4年はあっという間 バーチュー&モイヤー組見ました。 優雅…

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