つきあたりの陳列室

つきあたりの陳列室

2009.07.25
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テーマ: 本日の1冊(3711)
カテゴリ: Book
(浅倉久志 訳,2008,プラチナ・ファンタジイ,早川書房)


「SFが読みたい! 2009年版」海外編第7位。全編にただよう沈痛な雰囲気といい,嫌いな作品が無いという点でも, 「20世紀の幽霊たち」 以上に気に入りました。日本での初単行本ですが,他作品もがんがん訳してほしいです。

癒されない喪失感というものに対して,人はどのように対処できるのだろうかなどと考えつつ,ゆったりとしたペースで読み進めました。以下は短編ごとの紹介。順不同。


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「ドレイクの方程式に新しい光を」
「転落のイザベル」
「息吹き苔」

これら3作は,遠い未来の地球または別の惑星が舞台で,創作上の生物や技術や文化や宗教が設定されているディープなSFです。事件やドラマを描くというよりは,人間に普遍的な悲哀というものの描写に主眼を置いているので,純文学好きの人にも勧めたいです。

中でも気に入ったのは,他の惑星を舞台にした伝記のような作品である「息吹き苔」と「転落のイザベル」です。設定としてはファンタジー的ですが寓話や活劇にあるような明快な筋は無く,主人公的な少女の日常から,人生の行く末までを描きます。

やや難解な言い換えや比喩が多いですが,大筋は理解できますし,なにより鮮やかな描写に引きずり込まれました。風景や生物,風や湿気や渇きやみぞれ,獣の匂いとか手触り,汗の匂いや肌の手触り,建造物の巨大さや距離感などに,五感を刺激されっぱなしです。




「帰還」

典型的なSF設定ながら,叙情詩的な味わいのある美しい小品。ブラックホールの「事象の地平線」に突入してデータを得るという,カミカゼ的事業に身を捧げた宇宙飛行士の,後日譚です。真綿で首を絞められるような,明るい悪夢のような,名状しがたい苦悩が淡々と描かれます。



iris.koitoi.far


「わが家のサッカーボール」

人間が他の動物や物体に変身できて当たり前の世界が舞台ですが,じつにまっとうな家族ドラマになっていきます。

息子はあるきっかけから両親の秘密を知り,急に世界が寄る辺なきものに感じられます。たとえ家族の中にも,何の疑いも持たずに依存できるものなどないというメッセージかもしれませんが,家族全員の成長譚にもなっています。

ジョー・ヒルの短編「ポップ・アート」( 「20世紀の幽霊たち」 所収)によく似たテイストの,エッジの効いた奇想文学。




「チョップ・ガール」
「夏の涯ての島」

この2作は歴史もの。前者は,第二次大戦中の空軍基地に勤める女性を主人公とした,ビター&スイートなフィクションです。後者は,第二次大戦でドイツが勝った世界で弾圧されるゲイ男性を主人公とした歴史改変フィクション。暗くて重厚ですが,高村薫ファンなら好きになるかも知れません。







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Last updated  2009.07.28 13:27:42
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inalennon @ Re[1]:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子(09/19) フィンちさん >この世は なんてままなら…
フィンち@ Re:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子 「人生のままならなさ」への強烈な疑問と,…
inalennon @ Re:4年はあっという間(03/04) ハオさん >バーチュー&モイヤー組見…
ハオ@ 4年はあっという間 バーチュー&モイヤー組見ました。 優雅…

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