ちょっと本を作っています

ちょっと本を作っています

Jan 24, 2005
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カテゴリ: 本を作る
出版業界でメシを食う方法(その十六)

今日の日記も以前の分の再録です。私の中では、昨日の結城美栄子さんの件とセットです。いやはやそれにしても女性は凄まじい。行け行けドンドンの私の性癖に、自分の感性を信じる要素を加えたのは、このお二人かも知れません。


人形作家、土田早苗さんの場合

前述の結城美栄子さんの本を作ってまだ一ヶ月もしない時だった。

私の会社に一本の電話が飛び込んできた。

「あのー、初めてお電話するんですが。結城美栄子さんのビバ・サーカス」


「そちらさんで作られたそうですね」

「発売元の出版社に教えて頂いて、お電話したんです」

「旭屋さんでこの本を見て、アッ、これだって思ったんです」


「作って下さい。私のお人形さんの本」

おいおい何なんだ、このオバサンは。

ともかく私の人形の本を作って下さいの一点張りなのだ。


売れる本の企画でないと取り上げられないと言っても、聞く耳を持たない。

「分かりました。お役に立てるかどうかは分かりませんが」

「いいですよ、ともかくお会いしましょうか」


相手の話が延々と続きそうなので、やむなく会うことを承諾した。

こちらの住所を言うと、三時までにはお伺いしますと言って電話が切れた。

約束の時間よりは少々早く、高価そうな和服を着こなした女性が現れた。


「私、土田早苗と言います。女優さんで同じような名前の方がいます」

「私の土には点が付くんです」

最初の自己紹介だけはまともだった。その後はビックリの連続だ。


こんなのアリ?

「旭屋さんで本を見て、ドキッとしたんです」

「私の探していたものがようやく見つかったって」

「私、お人形を作っています。市松人形なんです。創作人形です」


「新幹線の中で、もう嬉しくって嬉しくって。興奮してしまって……」

「えっ、新幹線で来られたんですか? どちらから」

「大阪から来ました。宝塚に住んでいるんです」


あいた口が塞がらない。

旭屋書店って名前を聞いて渋谷か池袋の旭屋さんを連想していた。

どうやら旭屋は旭屋でも、大阪の梅田本店だったらしい。


「お気持ちは嬉しいんですが、私、人形は専門じゃないですよ」

「たまたま結城さんの本を作っただけで……」

この女性、私に最後までしゃべらせてくれない。


「一目見れば分かります」

「お人形さんの本で、あんなに素晴らしい本には出会ったことがありません」

「ほかの出版社や編集の人にはムリです」


「私、主婦の友社やNHK出版局などで何点か出しています」

「でもあの本を見れば月とスッポンです」

「私、見る目だけは誰よりもあると思います」


押し切られてしまった

経費もかかるし、売れないと商売にならないと言うのだが、

「絶対売れます。それに私も千冊ぐらいなら買います」

「みなさん私の本を欲しがっていますから……(延々と続く)」


ともかく強気なのだ。

そりゃ本屋で見ただけで新幹線に飛び乗るのだから、これは敵いっこない。

買取り条件を確認して手掛けることになった。


彼女の作品は、一体を作るのに一年ぐらいかかるという。

それ以上の期間をかけている作品もあるそうだ。

梶さんという新進気鋭のカメラマンに協力を仰いだ。


スタイリストも結城さんのときと同じ小山織さんという人にお願いした。

二人とも結城美栄子さんのお気に入りでもある。

さてそれからが大変だった。


土田さん、撮影場所は宝塚にある、立志伝中の人物の別荘を決めてきた。

まず普通では立ち入れないところだ。

次に彼女の主要作品の借り出しが控えていた。


さらにビックリの連続

そのときになって始めて知った。

彼女の作品はびっくりするほど高いのだ。

たかが人形のために札束を出す人がいるのにもビックリさせられた。


今現在の人形の持ち主を聞くと、超資産家の名前が次々に挙がる。

人形の借り出しの依頼は土田さんがしてくれた。

でも、ほとんどが東京近郊にある。


配送を日通に相談したら、とんでもない金額を提示された。

保険金額も目が飛び出るような金額が提示された。

それでどうしたかって? こうなりゃ自分で運ぶしかないでしょう。


いい年をした私が、人形を抱きかかえて新幹線で大阪へと向かった。

まるで金塊輸送をしているような緊張感で、トイレにも行けなかった。


絶版になってしまったが『市松人形』という本が、そのときの作品である。

某大富豪の別荘で、小雨に濡れガタガタ震え、撮影する人形を支えていた。

私自身の仕事って、人形を抱きかかえて新幹線に乗ったことがメインだ。


やっぱり半端じゃなかった

彼女のアトリエにも足を運んだ。

なるほど一体を作るのに一年以上かかるのも理解できる。

高額な値段が付くことも納得できた。


たとえば市松人形の着物自体がすべて手作りなのだ。

それも反物の織りから染色、仕立てに至るまで全てが彼女の手を経ている。

西陣へ潜り込んで染色を勉強したと本人も言っていた。


彼女、四国の素封家の家で生まれ育ったそうだ。

親戚の県知事も務めた人に孫のように可愛がられたとも言っていた。

小さい時から本物だけを見て、本物だけに囲まれて生活してきたそうだ。



人形作家、土田早苗さん。(ネットで検索すれば出てきます)

お嬢さんと言うにはちょっとだけ年を経ていた。

でも、本物のお嬢さん育ちの凄まじさを見せてくれた女性だった。


前回この日記を書いた直後、連絡が入った。「ナタマメ狂想曲、見ましたよ」土田早苗さんだった。「エー、どうして?」「娘が見つけたのよ。両国のご隠居さんの日記を」「どう、私の見る目、間違っていなかったでしょう?」コロコロ転がるような土田さんの声が響いてきた。「また本を作って下さいよー」「いいですよ、ぜひ」今度は私も二つ返事です。ところでこの土田さんとの話も、今度の本『身も心も捧げた女は飽きられる』に収録しましたからね。この場を借りて事後承諾です。ダメだって言っても、もう印刷に回っちゃったからね。ゴメン。





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Last updated  Jan 25, 2005 12:15:47 AM
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聖書預言@ Re:ネットを再開するぞーっ! と思ったとたん(04/28) 神の御子イエス・キリストを信じる者は永…
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38万円で本ができた


第一章 もっと手軽に自分の本を作れたら


第二章 協力出版と懸賞募集の甘い罠


第三章 自分の本を作りたい理由を考えよう


第四章 本にする原稿をまとめよう


第五章 自分の本を売ってみよう


第六章 安く本を作る方法を考えよう


第七章 物書き稼業と編集者稼業の裏表


第八章 昨今の出版業界のお寒い事情


第九章 いまどきの本屋さんと物流事情


第十章 出版業界こぼれ話


【出版後記】


負けてたまるか


その1


その2


その3


その4


その5


その6


舞台裏からの独白


すぐそこの田舎暮らし


第一章 先住民/黒猫の『タンゴ』


第二章 山里「コンタ」発見


第三章 知らないってことは


第四章 竹の子で仲間を釣り上げる


第五章 森の天使の小さな落し物


第六章 小悪魔『チビクロ』参上


第七章 チビクロ砦とチビクロ王国


第八章 まったくもう、田舎暮しってヤツは


第九章 チビクロ、チビコゲへ変身中


第十章 隠れビーチで日向ぼっこ


第十一章 チビクロ、何処へ行こうか


第十二章 何で、お前まで行ってしまうの


第十三章 ムジナに見送られ、街へ帰る


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両国・千夜一夜物語


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後編


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第四話 土木から資格試験へ


第五話 工学書転じて実用書に 


第六話 なぜかスキー書


第七話 退職、そして創業


第八話 行け行けドンドンの始まり


第九話 原稿は役員専用車で届く


第十話 スパイにされちゃった


第十一話 ただ酒、ただ飯、お土産は仕事


第十二話 閃いた


第十三話 出版から映像へ


第十四話 ヒットチャートに載っかった


第十五話 思えば、いろいろやったもんだ


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第四章 私の出会ったイイ女列伝


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第二話 やっぱり巻き込まれてしまった


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