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2021年03月08日
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テーマ: エッセイ(94)
カテゴリ: 過去のエッセイ
「言葉」 (44歳)

 真一、二十五歳。アテトーゼ型重度脳性麻痺による体幹及び四肢障害と言語障害。
 彼は母親と妹の三人暮らしだ。母親は彼が生まれて以来、彼の命を守ることと、そのためのリハビリに明け暮れてきた。父は真一の将来を心配しながら、彼が十五歳の時に癌で亡くなった。
 今の彼の楽しみは、テレビのお笑い番組を見ることと、車いすで散歩に連れて行ってもらうこと。

 彼が自分でできることはほとんどない。全身の不随意運動と緊張が強すぎて、自分の意志通りに動かせる筋肉がほとんどないのだ。
 彼を初めて見た人は、一瞬目をそむけてしまう。変形した手足、そっくり返り常にクネクネ動く首、歪んだ口元から流れ出るよだれ。うめき声にしか聞こえない、絞り出すような声。

 彼が生まれた時、こんなに長く生きるとは誰も思わなかった。しかし、彼は生きている。
 幼い頃の真一は、体の障害は重かったけれど、精神的・知的な発達は順調だった。普通の赤ちゃん同様に人見知りをし、あやすと嬉しそうに笑顔を見せた。自動車のおもちゃが好きで、保母に手を添えられて動かして遊ぶのが好きだった。
 お気に入りの保母が別の子どもと遊んでいたら、ヤキモチを焼いてポロポロ涙を流した。
 人が話すことはほとんど理解し、知的な好奇心も旺盛で、五歳頃には文字にも興味を示した。
しかし、時には呼吸困難を起こすほどのマヒは、彼から言葉を声で伝える能力を次第に奪ってゆく。
 さらに、全身の激しすぎる緊張と不随意運動は、文字を言語化して意志を伝える手段に高めることを妨げ続けた。

 学齢に達し、養護学校の訪問指導を受けることになり、これで彼も勉強ができると期待したが、中学生になる頃には「知的障害もある」言われるようになっていた。入退院を繰り返し、伸びようとする芽を摘まれ続け、彼の知的好奇心は減退してしまったのだろう。

 父親が亡くなった時、彼は一時期、重度心身障碍者の施設に入った。彼の意志や気持ちを理解できない介護者との生活で、彼の意欲はとどめを刺された。
 真一のあまりの怯え方に、意を決して母親が再び自宅に引き取った時、彼は見た目にも知恵遅れの重度障碍者となっていた。
 彼がせめて、言葉を操る術を見つけていたら、たとえ体は不自由でも彼の心は豊かに羽ばたくことができただろう。今ならば、コンピューターなども随分開発されている。しかし、彼には遅すぎた。

 真一の母親は、自分に言い聞かせるように言う。
「この子に、普通の人と同じように考える力が残っていたら、今みたいに気楽に生きられない。真一が知恵遅れになって良かったよ」。
 母親の介護の限界はすぐそこに見えている。自分の最小限の気持ちを理解する人から再び離された時、次に彼は何を捨てるのだろう。
 表情豊かだった幼い頃の真一。発することのできなかった彼のおびただしい言葉たちは、もう戻ってはこない。


彼と最後に会ったのは、彼が30代後半の頃に市役所の窓口でだったと思う。
その時もまだ、母親と自宅で生活していた。多分、ヘルパーなどの協力も得ながらだと思うが、何と彼は私のことを覚えていた。
中年に差し掛かってはいるが、顔貌は昔のままで、私が思わず声をかけて名乗ると、嬉しそうに「わかるよ」というように首を振り笑顔を見せてくれた。
お母さんは「もう限界だよ。でも、先のことはあまり考えないようにしてる」などと言っていた。
私は「体に気をつけてね」と言うことしかできなかった。
心のどこかでいつも「真一とお母さんどうしてるかな」と案じながらも、こちらから声をかける勇気も出てこない冷淡な私だ。
こう書いていても、なんだか胸苦しくなってくる。

このエッセイは◎だったが、内容の重さに先生はこの作品で感じたことをたくさん書いてくれただけだった。

ちなみに「真一」は仮名です。





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最終更新日  2021年03月08日 14時51分23秒
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