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旅行の間に、電車に乗りながら読んだ本。「てらこや青義堂 師匠、走る」今村翔吾 【あらすじ】 明和七年、太平の世となって久しい江戸・日本橋で寺子屋の師匠をつとめる十蔵は、かつては凄腕と怖れられた公儀の隠密だった。 貧しい御家人の息子・鉄之助、浪費癖があって親を困らせる呉服問屋の息子・吉太郎など、事情を抱えた筆子たちに寄りそう日々を送っていたが、藩の派閥争いに巻き込まれた加賀藩士の娘・千織を助ける際、元忍びという自身の素性を明かすことになる。 年が明け、政情不安から将軍暗殺を企てる忍びの一団「宵闇」の動きが激しくなると、筆子たちと伊勢神宮へおかげ参りに向かう十蔵に報せが入る。 危険が及ばぬようにと離縁していた妻・睦月の身を案じた十蔵は、妻の里へ向かう。 そして筆子たちは、十蔵の記した忍びの教本『隠密往来』をたよりに、師匠を救う冒険に旅立つ。夫が買って読んでいた本。今村翔吾の『塞王の楯』を読んでから気に入ったようで、何冊か読んでいた。夫は、「その本はイマイチだった」と言っていたが、電車で読むにはもってこいの本だった。理由は登場人物が寺子屋の師匠と個性的な寺子たち、それに公儀隠密や忍びのあれこれは読んでいて面白かった。「一行でわかる名著」斉藤孝一行「でも」わかるのではない。一行「だから」わかるのだ。『百年の孤独』『悲しき熱帯』『カラマーゾフの兄弟』『老子』──どんな大作も、神が宿る核心的な「一行」をおさえればぐっと理解は楽になる。魂への響き方が違ってくる。究極の読書案内&知的鍛錬術。一行でわかるわけがないけれど、古典ともいえる作品のエッセンスを取り出して興味をひく解説にまとめるのは、さすが斎藤先生。なるほどなあ、とか、これ面白そうかもなどと、改めて読書意欲を刺激してくれる。それにしても齋藤孝さんは、日々どれほどの読書をし、本を書き、講義・講演しまくっているのか。そのパワーに脱帽する。
2024年05月19日
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「エンド・オブ・ライフ」佐々 涼子 (著)全国の書店員が選んだ「Yahoo!ニュース|本屋大賞 2020年 ノンフィクション本大賞」受賞作ベストセラー『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』の著者が、こだわり続けてきた「理想の死の迎え方」に真っ正面から向き合った。2013年に京都の診療所を訪れてから7年間、寄り添うように見てきた終末医療の現場を感動的に綴る。「命の閉じ方」をレッスンする。200名の患者を看取ってきた友人の看護師が病を得た。「看取りのプロフェッショナル」である友人の、自身の最期への向き合い方は意外なものだった。残された日々を共に過ごすことで見えてきた「理想の死の迎え方」とは。在宅医療の取材に取り組むきっかけとなった著者の難病の母と、彼女を自宅で献身的に介護する父の話を交え、7年間にわたり見つめてきた在宅での終末医療の現場を静かな筆致で描く。私たちに、自身や家族の終末期のあり方を考えさせてくれる感動ノンフィクション。佐々涼子(ささ りょうこ)ノンフィクション作家。1968年生まれ。神奈川県出身。早稲田大学法学部卒。日本語教師を経てフリーライターに。2012年、『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)で第10回開高健ノンフィクション賞を受賞。2014年に上梓した『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(早川書房)は、紀伊國屋書店キノベス第1位、ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR第1位、新風賞特別賞など数々の栄誉に輝いた。2020年、『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)で第3回Yahoo!ニュース|本屋大賞 2020年 ノンフィクション本大賞を受賞。佐々涼子さんの本をもっと読みたくて図書館で借りた本。誰でもいつかは人生の最期を迎える。どのような終わり方になるのかは、想像はしても誰もわからない。在宅医療の看護師として多くの人達に寄り添い看取ってきた人にも、想像していなかったような心境がやってきたようだ。その経緯を読み繋ぎながら、私も色々と考えることが多かった。今朝書いたブロぐは、まさに在宅医療を選んだ知人のことを書いた。この本を読んだ後だったので、色々な思いが心や頭を巡る。さて、私はどのようなエンド・オブ・ライフになるのかと思ってしまう。この本の著者である佐々涼子さんは、脳腫瘍で余命を宣告されたというが、現在はどのようにお過ごしなのだろうか。心境には変化があるのだろうか。
2024年05月01日
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「恩送り 泥濘の十手」麻宮 好出版社内容情報第1回警察小説新人賞受賞作!付け火の真相を追ったまま、行方知れずになっている岡っ引きの父・利助を探す娘のおまき。おまきを手助けする材木問屋の息子・亀吉、目の見えない少年・要、そして臨時廻り同心の飯倉。手がかりは漆で塗られた謎の蓋のみ。器の身はどこにあるのか? いったいどんな器なのか?もつれた糸がほどけずに四人が焦るある日、大川に若い男の土左衛門が上がったという。袂から見つかったのは漆塗りの毬香炉。だが、妙なことに蓋と身が取り違えられていた。身元は薬種問屋相模屋の跡取り息子・藤一郎で、のちに利助の遺した蓋と藤一郎が遺した毬香炉は一対だったと判る。利助と藤一郎とを繋ぐ毬香炉は果たして誰のものなのか?内容説明火付けの真相を追ったまま、行方知れずになっている岡っ引きの父・利助を探す娘のおまき。おまきを手助けする材木問屋の息子・亀吉、目の見えない少年・要、そして臨時廻り同心の飯倉。手がかりは漆で塗られた謎の蓋のみ。器の身はどこにあるのか?いったいどんな器なのか?もつれた糸がほどけずに.四人が焦るあの日、大川に若い男の土左衛門が揚がったという。袂から見つかったのは漆塗りの容れ物。だが、妙なことに蓋と身が取り違えられていた。身元は薬種問屋相模屋の跡取り息子・藤一郎で、のちに利助の遺した蓋と藤一郎が遺した容れ物は一対だったと判る。利助と藤一郎とを繋ぐ容れ物は果たして誰のものなのか?おまきと三人は新たな手がかりを元に利助を探し出せるのか?第1回警察小説新人賞受賞作!著者等紹介麻宮好[アサミヤコウ]群馬県生まれ。大学卒業後、会社員を経て中学入試専門塾で国語の講師を務める。2020年、第一回日本おいしい小説大賞応募作である『月のスープのつくりかた』を改稿しデビュー。22年、本作で第一回警察小説新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。おまきと三人は新たな手がかりを元に利助を探し出せるのか?麻宮好の「母子月 神の音に翔ぶ」を読んで面白かったので、続けてこの本を借りてきた。主な登場人物は、様々な事情をかかえながらも運命の中で健気に生きている少年少女たち。前回も少年の物語だったけれど、そこには当然彼らを励まし育む大人達もいる。舞台は江戸時代だけれど、現代にも通じる様々なことを面白くも深く描いている。ミステリーのジャンルなのかもしれないけれど、人間の成長物語の色合いが強い。よくみたらこの人も女性だ。最近は手に取る本が女性作家に偏っているような気がする。小説はやはり、どろどろとしたものがあっても、どこかに希望や「人間って捨てたものではない」と感じさせてくれなくちゃね。また麻宮さんの本を探してみようかな。
2024年04月24日
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「夜明けを待つ 」佐々 涼子生と死を見つめ続けてきたノンフィクション作家の原点がここに!私たちは10年という長い年月を、とことん「死」に向き合って生きてきた。しかし、その果てにつかみとったのは、「死」の実相ではない。見えたのは、ただ「生きていくこと」の意味だ。親は死してまで、子に大切なことを教えてくれる。(第1章「『死』が教えてくれること」より)家族、病、看取り、移民、宗教……。小さき声に寄り添うことで、大きなものが見えてくる。『エンジェルフライト』『紙つなげ!』『エンド・オブ・ライフ』『ボーダー』……。読む者の心を揺さぶる数々のノンフィクションの原点は、佐々涼子の人生そのものにあった。ここ10年に書き溜めてきたエッセイとルポルタージュから厳選!著者初の作品集。(目次より抜粋)第1章 エッセイ「死」が教えてくれること夜明けのタクシー体はぜんぶ知っている今宵は空の旅を命は形を変えてこの世の通路幸福への意志もう待たなくていいダイエットハノイの女たち未来は未定夜明けを待つ痛みの戒め柿の色ひろちゃん和製フォレスト・ガンプ誰にもわからないトンネルの中スーツケース梅酒ばあばの手作り餃子縁は異なもの第2章 ルポルタージュダブルリミテッド1 サバイバル・ジャパニーズダブルリミテッド2 看取りのことばダブルリミテッド3 移動する子どもたちダブルリミテッド4 言葉は単なる道具ではない会えない旅禅はひとつ先の未来を予言するか悟らないオウム以外の人々遅効性のくすり佐々涼子(ささ りょうこ)ノンフィクション作家。1968年生まれ。神奈川県出身。早稲田大学法学部卒。日本語教師を経てフリーライターに。2012年、『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)で第10回開高健ノンフィクション賞を受賞。2014年に上梓した『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(早川書房)は、紀伊國屋書店キノベス!第1位、ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR第1位、新風賞特別賞などに、2020年の『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)は、Yahoo!ニュース|本屋大賞2020年 ノンフィクション本大賞に輝いた。他の著書に『ボーダー 移民と難民』(集英社インターナショナル)など。友人に勧められて図書館で借りた本。エッセイとルポという、連続して読まなくても隙間時間に読めるのをいいことに、返却期限ぎりぎりまで借りている。生と死を見つめ続け、その間に生きている人たちの人生を深く見つめ、それをノンフィクションとして書き続けてきた人の言葉はとても優しくて心に響く。この人の作品は読んだことがなかったと思っていたが、ブログを確認したら、「紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている」を読んでいました。あとがきを読んで二度ビックリ。なんと、彼女自身が悪性の「神経膠腫(グリオーマ)」で余命宣告されているという。佐々涼子さん、できるだけ長く生きて自分の命と向き合う日々を書き残してほしいです。そして、もう少し彼女の本を読んで彼女と対話してみたい。もしも現実にお話が出来たなら、きっと共感することが多くて楽しくお話ができるのではないかと思ってしまった。
2024年04月12日
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「母子月 神の音に翔ぶ」著/麻宮 好 〈 書籍の内容 〉歌舞伎役者が命を懸けて守りたかったもの。公演中に毒殺された歌舞伎の女形――驚愕の事情と意外な下手人!女形の歌舞伎役者・二代目瀬川路京は人気低迷に足掻いていた。天に授けられた舞の拍子「神の音」が聞こえなくなっていたのだ。路京は座元と帳元の強い勧めもあり、現状打破のため、因縁の演目を打つことに。師匠の初代路京が舞台上で殺され、さらに瀬川家が散り散りになったきっかけの「母子月」だ。子役として自分も出演した因縁の公演を前にして、初代殺しを疑われた者たちが集まってくる。真の下手人は誰なのか?初代はなぜ殺されてしまったのか?終幕に明かされる真相に涙を流さずにはいられない、感動の時代小説。〈 編集者からのおすすめ情報 〉『恩送り』で第一回警察小説新人賞を受賞した際、満場一致、全選考委員が激賞しただけあって、筆力は折り紙付きの著者です。本作は歌舞伎の世界に浸かれるのはもちろんですが、江戸情緒も余すことなく描き込まれています。最高の読みどころは、主人公を陰ひなたで見守る、女形歌舞伎役者である初代瀬川路京の息子の心の機微。本当に俊逸です。この本は、多分新聞の書評で見て図書館に予約して借りた本。歌舞伎の世界を舞台にしているというので、興味を持ったはずだ。歌舞伎の世界のことは勿論、人間社会の感情の様々な色合いが巧みに描写されている。というような蘊蓄は別にして、物語としてとても面白く一気に読んでしまった。この人の作品は初めてだったけど、もっと読んでみたいと思いました。
2024年04月06日
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友達から借りた本である。「キングダム」をやっと読み終えて、昨日この本を手に取った。子どもの問題や教育に関心がありながら、今まで林 竹二氏を知らなかったことを恥ずかしく思った。問いつづけて ―教育とは何だろうか林 竹二 (著)小野 成視 (写真)どうしてこんなに美しいのか。傷つけられ、打ち捨てられ、落ちこぼれと言われるこの子たち。――逆なのだ、エリートコースに追い立てられる中で失われる人間としての真の価値を、肉体とたましいの奥深く秘めているのが、彼らなのだ。 林竹二氏が、学問的蓄積のすべてをかけてする授業が、みごとに呼びさますその劇的な姿は、こよなく深く尊い。人間にはまだ望みがある――この子らの示す事実に、私たちはたしかにそう胸につぶやくことができる。林竹二(はやし たけじ、1906年12月21日 - 1985年4月1日)は、日本の教育哲学者。東北大学名誉教授。元宮城教育大学学長。専攻はギリシア哲学。プラトンについての論文がある。と紹介されている。著作もとても多いのに、どうして今まで私の視界に入らなかったのかと不思議な気さえする。しかし、今地元の図書館に所蔵している本を調べたら、たった二冊だけ。うーん、どうしてなのか。この本は、林氏が全国の小中高校を授業して歩いた実践の記録だ。彼が授業をしている時の子ども達の表情の変化を、小野カメラマンが実に見事に写している。これが自分の内面で深く思索している子どもの表情なのか。これが心からわかったときの子どもの喜びの表情なのか。これを間近で見ていた教師たちはさぞ感動したことだろう。なんて思いながら読み進めたが、日常的にこの子ども達に教えている先生の受け止め方はまた違うようだった。さもありなんとも思う。林氏の授業はとても哲学的であり思索的だから、ついていける先生も少ないかもしれない。子ども達はまっさらだから、真剣にその問題を自分のこととして考え、自分の内部の心に問い、新しい自分への変容ができる。子ども達にとっては林先生の授業はとても面白くて、集中できて、「もっとこんな勉強がしたい!」と思うけれど、現場の先生たちにとってはきっと難しいのだろうとは想像できる。それでも、少数ではあっても林先生の授業に感銘を受け、授業後に子ども達が書いた感想文に感動し、その子の変化に涙する教師もいる。その先生たちは、常日頃から子ども達と真剣に向き合い、何とか子どもの喜びや成長を促したいと苦労している先生たちなのだ。もう、林氏の直接の教え子も少なくなっていることと思う。しかし、その思いを受け継いでいる人たちも必ずいると思いたい。林氏を知らなくても、彼のような思いで子どもに向き合って寄り添って、子どもに学び子どもとともに成長している人は少なからずいると思う。できれば公教育現場にいてほしいと思うが、それはどんどん難しくなっているようにも思う。不登校が激増しフリースクールが増えているが、そのような場にこのような先生がいるのかもしれない。林先生は語っている。「学校が子ども達を勉強嫌いにしている」「学びたいという願いを、子どもはみな持っているんですね。しかしそれに答えるものを学校教育は与えていない。私がよく言うように、パンを求めている子どもに石を与えているのがいまの学校教育です。そこでの優等生なんかは、石でも、うまい、うまい、というような顔をして食べてみせるわけですね。ところが、「石なんか食えるか」と言ってそれをはねつける者、拒む者は切り捨てられるのです」林竹二さんに会いたかったなあ。
2024年03月19日
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コミックの「キングダム」を読走中である。(読走なんて単語はないでしょうが、走り読みに近いかな) 「キングダム」は知ってはいたが、コミックにはさほど興味がなく、昨年まではどんな漫画なのかもよく知らなかった。しかし、昨年長男の家でその本を目にして、パラパラと斜め読み。面白そうだったので、「まだ持ってるの?」と聞くと、五巻までしかないという。とりあえずそれを借りてきて読み終え、お正月に来た時に「続きが読みたいけど何巻まであるの?」と聞くと、70巻近くあるはずだという。ヒェーッ! そんな長編なのだとビックリして、レンタルで借りるにしても大変だなあと話すと、次男が「BOOKOFFで60巻セットで売ってたよ。買えば?」という。もう本を増やしたくない私は、「私は買わないよ。もし続きを買った時には見せてよ」と頼んだ。すると、息子たちはみな読みたかったらしくて、早速お正月のBOOKOFFの割引の日に60巻を買ってきてしまった。(私の言葉が背中を押したらしい)ビックリしたけれど、「読み終わったら貸してね」と頼んでおいた。(次男はネットである程度読んでいたらしいし、長男とお嫁さんは農閑期に読まなくちゃと大車輪で読んだらしい)ということで、先月から私たち夫婦は日々「キングダム」を読み続けている。夫はもともと三国志など古代中国を舞台にした小説を読んでいたので、それまでキングダムのことは知らなかったけれど馴染みやすい漫画だったようだ。しかし私は、ずいぶん昔に「三国志」(吉川英治)があまり面白いとは思わなかったので、中国古代史についてはまったく疎い。それでも、「キングダム」は始皇帝の少年時代からの青春群像の成長譚のような側面があり、なかなか面白く読み続けている。現在50巻まできたのであと何日かで手持ちの本は読み終えるだろう。それにしても、漫画家というものはすごいものだ。基本的には史実を「史記」など記されていることをもとにしているようで、時々(「史記」にはこう記されている)という注釈があるのだが、あの数行でこのような物語を紡ぐとはと驚くばかりだ。どの国の歴史の事実は誰も知らない。後世に残された歴史書は、勝ち残った者の立場で書かれているものがほとんどだ。そうだとしても、中国の歴史はこのような殺戮と侵略と謀略の歴史だったんだとあらためて思う。それが今の中国の国と国民のアイデンティティなのかもしれない。それにしても登場人物が多いので、途中で休むと誰が誰だかわからなくなりそうなので、早くキングダムをやっつけたい。
2024年03月07日
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「加賀乙彦 自伝」小説家・精神科医の二つの人生を生きた、著者初の語り下ろし自伝2・26事件の記憶、陸軍幼年学校時代の思い出から大河小説『永遠の都』『雲の都』の完結まで、80余年に及ぶ自らの人生を知られざる様々なエピソードも交えて生き生きと描く、語り下ろし自伝。加賀乙彦の小説は「湿原」しか読んでいないのだが、自伝があると知り借りてきた。陸軍幼年学校で学び、終戦後に新制高校→東大医学部へと、家庭環境からも彼には必然の学歴コースだったのだろうが、とても興味深い歩みだ。この自伝を読み、『フランドルの冬』『帰らざる夏』『宣告』なども読んでみたいとは思うが、いつ読めるかどうか。実は、現在「キングダム」の60巻を息子から借りて読んでいるので、こちらの方も気になる。
2024年02月19日
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最近は「押し活」なんて言葉があるようだが、好きな作家を応援するのも押し活に入るんだろうか。それはともあれ、まったくタイプの違う二人の道産子作家、私は好きです。共に北海道に生まれ育ち、ただ同郷であるという共通点への親近感なのかわからないけど、これからもどのような作品を書いてくれるのかと楽しみにしています。物語で結ばれた熊のリアル 直木賞を受賞して 河﨑秋子 北海道新聞 数年前の夏の午後のことだ。私は別海町の実家周辺を歩いていた。道東にしては珍しく暑く、風のない日だったと記憶している。進行方向の、橋を挟んで二百メートルほど先の道路を、黒い生き物が四本足で横断していた。 大きく、そして全体のフォルムがシュッとしていた。胴も足も長い。 私は最初、犬かな、と思った。昔よりは少なくなったとはいえ、道東の農村部では時折野犬が出ることもあるし、(腹立たしいことだが)誰かが飼いきれなくなった犬を密(ひそ)かに置き去りにしていくこともある。 そういえば、あの黒い動物は以前飼っていたピレネー犬ぐらいの大きさだ。そうだ、あの子が真っ黒な毛並みだったらあんな感じかもしれない。あまりの大きさに遊びに来た友人から「熊ー!」と逃げられていたことだし…と考えて、ようやく気付いた。 あれ犬じゃない。熊だ。夏で食物が足らず、痩せている熊だ。 理解した途端、比喩ではなく全身から嫌な汗が出た。実際に野生の熊を見たのは初めてだった。 この地域に熊がいることは頭では分かっているはずだった。三毛別(さんけべつ)事件や福岡大学ワンダーフォーゲル部事件をはじめとした、開拓期などの熊被害について文献を調べてもいた。それらによって自分の中に作り上げていた熊のイメージは恐ろしく、獰猛(どうもう)なものだ。知識と想像から引用された恐怖に、私の筋肉は強張(こわば)った。 しかし、当の熊はというと、私の焦りどころか存在にも気付かず、悠々と道路を渡り終えて道路脇の藪(やぶ)に消えていった。大きな川が流れている地域なので、川沿いに移動していたのだろう。 熊は私の恐れなどにかかわらず、彼らの生き方を貫いていた。個体差の大きな生き物だから、好んで人間や家畜を襲う熊もいるが、多くは人間がいることなどさほど気に掛けずに彼らの営みを続けている。それは何百年前から大きく変わることはない。当たり前のことだが、人間が作ったアスファルトの道を悠然と横切る熊の姿を見ながら、私は彼らの『普通の生活』を垣間見ていた。 その後、私は熊に遭遇していない。牧草ロールのテープを破られたり、家族がトラクターに乗っている時に目撃したというので、家の周りに熊が生息していることに変わりはないのだろう。大きな被害がないまま、距離を保てるのは良いことだ。 今回、明治を舞台に、猟師が出てくる物語を書いて直木賞をいただくことになった。主人公の猟師は熊と戦い、その命を奪う。その理由は稼ぎのためであったり己の存在意義のためであったりするが、それを書いた私自身は熊と戦った経験がない。作中の描写の要素になったのは、実際の猟師さんたちが書かれた手記や私の山歩きの僅(わず)かな経験によるものだ。あくまでフィクションである。 そして、それでいいと思っている。 現実と空想を混ぜて物語と為す。それこそ最も人の心に届きやすい道だと私は思い定めて小説を書いてきた。実際の熊は作中よりも穏やかだったり怖かったりするだろう。しかし架空の物語を読まれた方の頭の中には、その人なりの熊の恐ろしさが刻まれる。あるいは、それは尊さでさえあるかもしれない。 それでいいのだ。少なくとも、書いた側の私は、そうあって欲しいと思っている。 大きな賞を機に、拙著は多くの人に読んで頂けているそうだ。物語を通してそれぞれに結ばれた熊の姿と恐ろしさ。実体を持たないからこそその人のリアルな熊の像を、機会があれば聞いて回りたいとさえ思っている。 <略歴>かわさき・あきこ 1979年、根室管内別海町生まれ。北海学園大経済学部卒。2012年「東陬遺事(とうすういじ)」で北海道新聞文学賞(創作・評論部門)。14年「颶風(ぐふう)の王」で三浦綾子文学賞を受賞し単行本デビューした。19年「肉弾」で大藪春彦賞、20年「土に贖(あがな)う」で新田次郎文学賞。21年「絞め殺しの樹」が直木賞候補、2回目の候補作「ともぐい」で第170回直木賞を受賞。<桜木紫乃 居酒屋さくらぎ>いち原作者の矜持 北海道新聞 ありがたいことにときどき、映像化のお話をいただく。浮かんでは消え、消えては浮かぶ泡に似て、実現にこぎ着けるのはわずか。そのわずかの実現も、さまざまな事情で完成までに時間を要する。 ひとかどの大人が集まって、自分の専門分野で責任を持って仕事をするわけだから、譲れないところ飲み込むところはさまざま。 おおよそ生活者の想像できる金額を遙(はる)かに超えた制作費用を聞いて、尻込みしてしまい黙り込んだこともある。 十年以上も前のこと、映像化にあたりラストシーンを大幅に変更したいとの申し入れがあった。 原作は、過去の過ちをひっそりと償い続ける老いた弁護士が、出会う人との関わりによって心解け、心のみ一歩踏み出すという内容だった。 小説のラストは、別れた息子の結婚式の招待を断るのだが、映像化するにあたってはそこを大きく変えて、結婚式に向かうことにしたい、という。理由は「映画館を出たお客さんが、少し視線を上に向けられるように」。 映画は映画人が作るもの、小説家は小説を書くのが仕事と割り切っているので「どうぞ新しい物語として自由に羽ばたかせてください」と応えた。本気で「小説はただのきっかけでいい」と思っていたし、いまもその思いは変わらない。 しかし主演の俳優さんとご飯を食べた際に言われた言葉が、なぜか今も胸でくすぶり続ける。彼曰(いわ)く「もっと自分の書いたものを大切に、最後まで責任を持ったほうがいい」。 責任を取れないことには口を出さないと決めているし、映画は映画とも思っているのも確か。当時のわたしには、口を出さぬことが原作者として出来る最大の応援だった。 いい大人が何十人何百人と関わってくる世界だ。その名を賭けて好きに作ってもらったことに悔いはない。現場はとても和やかな印象だった。 興行成績はふるわなかったが、今もときどきテレビで二次使用され人の目に触れていることを思えばありがたい限りだ。 あれからずいぶん時間が経(た)った。自分なりに全力で小説を書き続けてきた。時が経つほどに、当時俳優氏が言ったひとことの重みが増してくる。 映像が全国津々浦々を相手にどんな作られ方をしようとも、北海道に生まれ育った私が書いた小説のラストは変わらない。はっきり言って、どんなに情にほだされようとも、息子の結婚式に向かうことはないのだ。なぜなら、捨てた過去を惜しんだりしないのが、北海道人の無意識下にある「矜持(きょうじ)」と、物語を書いた私がそこばかりは譲れないからだ。 胸を張って明日の自分とつき合うために、そう易々(やすやす)と「内地の価値観」に取り込まれたりはしないのである。 血縁を担保にせず、情を垂れ流しもせずにやってきた人間の責任の取り方もある。 答えを出し終わった物語が別の表現方法でどう変更されても、そうそう心が揺らぐことはない。映像は映像で楽しんでもらえればいいのだから。 しかし、だ。もしもラストを書く前に逆の結末を提示されたらどうだったか。私という人間、あるいは生き方を解(わか)ってもらうために、自分はどう構え、どう差し違えようとしたろうか。思いは尽きず。
2024年02月16日
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図書館に行くたびに、時代劇短編集を借りている。読んだ端から忘れていくのが情けないが、心穏やかに眠りにつけるのて私の睡眠薬代わり。「おつとめ<仕事>時代小説傑作選」商人、大奥、駕籠かき……江戸の“お仕事”も やっぱり大変!?人気作家6人が共演する豪華アンソロジー「ひのえうまの女」(永井紗耶子)許嫁を受け入れられず、大奥に入ったお利久は出世を志すのだが……。「道中記詐欺にご用心」(桑原水菜)箱根の駕籠かきコンビ、漸吉と侘助は、江戸から「道中案内記」作成のためにやってきた版元・忠兵衛に箱根紹介をすることになるも、思わぬ騒動に巻き込まれる。「婿さま猫」(泉ゆたか)動物の医者である凌雲と、その妻で助手の美津は、飼い猫がいきなり人を襲うようになったという相談を受ける。大人しいはずの猫が人を襲う理由とは?「色男」(中島 要)吉原の花魁・朝霧に身請け話が持ち上がる。喜ぶべき話のはずなのに、朝霧にはどうしても忘れられない相手がいて……。「ぼかしずり」(梶よう子)摺師の安次郎が手掛けた版画絵が評判を呼ぶ中、絵の題材となった娘に会わせてほしいという武士が訪れる。切実な事情を抱える武士のために、安次郎は娘を探そうとするが……。「鬼は外」(宮部みゆき)主人が突然亡くなった小間物屋を継がせるために、幼い頃に養子に出された兄が呼び戻されるが、妹は彼を偽者だと言い出す。茂吉親分が辿り着いた切ない真相とは。朝日文庫時代小説アンソロジー『わかれ』武士の身分を捨て、吉野桜を造った植木職人の悲話「染井の桜」、咎人に仕立てられた十市と年寄り猫・赤爺の友情「十市と赤」、花火の破片で失明し、婚約者に離縁された簪職人おりよの矜持「闇に咲く」など、傑作短編小説6編を収録。
2024年02月06日
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先日会った友人が、「面白いよ!」というので六巻借りてきた。私は将棋は全くできないし、藤井聡太八冠が登場するまで全く興味もなかった。だが、藤井クンがものすごいスピードでタイトルを取るようになってからは、彼とその師匠の人柄もあり、興味を持つようになった。その対戦相手として渡辺明棋士のことも知ったという程度(渡辺さん、ゴメンナサイ)。とても個性的な感じのする人だなとは思っていたけれど、このコミックを読みながら笑いをこらえられなかった。ちなみに、これを書いている漫画家は彼の奥さんだと知り、二度ビックリである。「将棋の渡辺くん」 伊奈 めぐみ作品紹介将棋棋士は人類の代表!将棋を指して生活している。懸命に勉強し、年に50局くらい戦い、勝てば笑い、負ければ自分のせい。勝ち負けだけに支配された世界。それはまるで人生の縮図だ。棋士は、どんな人たちなんだろう?何を食べて、何時間寝ているんだろう?勝負師でも無頼でもない、リアルな将棋棋士の毎日を棋士の妻が漫画にしました。ノンフィクションです!
2024年02月02日
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「ともぐい」河崎秋子/著明治後期の北海道の山で、猟師というより獣そのものの嗅覚で獲物と対峙する男、熊爪。図らずも我が領分を侵した穴持たずの熊、蠱惑的な盲目の少女、ロシアとの戦争に向かってきな臭さを漂わせる時代の変化……すべてが運命を狂わせてゆく。人間、そして獣たちの業と悲哀が心を揺さぶる、河崎流動物文学の最高到達点!!こんな小説は初めてだ!人も自然界に生きている獣(けもの)の仲間なのだとあらためて考えさせられた。人と獣の線引きなど、実はないのだろう。私たちは自然から少しずつ距離をおき、本来持っていた野性が弱くなり、自然と動植物を利用するばかりの卑しい存在になっているのかもしれない。野性を失った弱っちい人間の私は、正直なところあまり好きな内容ではないが、彼女の筆力と想像力には圧倒されてしまいながら読んでしまった。今まで読んだ河崎作品の中でも一番迫力があるし、物語としても面白いと思う。読むかどうかは別として、今後の河崎さんがどのような作品を書いていくのかはとても楽しみである。
2024年01月31日
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「肉弾」河崎秋子圧倒的なスケールで描く人間と動物の生と死。第21回大藪春彦賞受賞作。大学を休学中の貴美也は、父・龍一郎に反発しながらもその庇護下から抜け出せずにいた。北海道での鹿狩りに連れ出され、山深く分け入ったその時、2人は突如熊の襲撃を受ける。貴美也の眼前でなすすべなく腹を裂かれ、食われていく龍一郎。どこからか現れた野犬の群れに紛れ1人逃げのびた貴美也は、絶望の中、生きるために戦うことを決意する。圧倒的なスケールで人間と動物の生と死を描く、第21回大藪春彦賞受賞作。解説 平松洋子直木賞を受賞した「ともぐい」がまだ図書館から借りれないし、購入予約もしているが在庫切れということで、この本を借りてきた。いやー、河崎秋子さん恐るべしである。彼女の作品を何作か読んでいて、「骨太」だとは思っていたけれど、これはさらに迫力があった。私は本来、サバイバル的な小説はあまり好みではないし、中でも生きるためとは言え獣と闘い食べるというようなシーンは避けたい方だ。この作品はまさにそんな感じで、読み始めてからちょっと逃げたいような気がしたけれど、河崎さんの迫力に射すくめられた感じで、結局ガーッと読んでしまった。この作品は、まさに彼女の本領発揮という感じだ。北海道の自然の中で、飼われている動物であれ自然の中で生きる動物であれ、動物の命の営みを身近にしながら、生き物としての人間として生きている人ではなければ書けないと思う。生きることは食べること。それは、命をいただくこと。大きな食物連鎖と自然の循環の中でしか人間は生きれないということは、誰しも頭でわかっているとは思う。しかし、本当に実感としてわかっているだろうか。私はきっと、多くの都会人よりはそれをわかっていると思うし、北海道の農業はそこに生きている動物たちとの攻防戦であり、傲慢にも人間の都合によって、自然界で必死に生きている動物たちを駆除をすることも知っている。動物愛護の使命に生きている人たちは、人を襲う羆でさえ「殺すな」という。最近はペットを飼う人たちもとても増えているが、そんな人たちにも是非この本を読んでほしい。動物にとってどのような生き方が本来の姿なのかについても、考えさせられた。生きる意欲や意味を見失った時、自分自身の身体が何を欲しているのかに気付くのは、命の危険を感じる時かもしれない。単なるサバイバル小説と思ってはいけない。本当に様々な問題提起をしている作品だと思う。
2024年01月25日
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「脳の闇 (新潮新書)」中野信子人間の厄介さを知っていますかブレない人、正しい人と言われたい、他人に認められたい……集団の中で、人は常に承認欲求と無縁ではいられない。ともすれば無意識の情動に流され、あいまいで不安な状態を嫌う脳の仕組みは、深淵にして実にやっかいなのだ――自身の人生と脳科学の知見を通して、現代社会の病理と私たち人間の脳に備わる深い闇を鮮やかに解き明かす。五年にわたる思索のエッセンスを一冊に凝縮した、衝撃の人間論!(目次)はじめに第一章 承認欲求と不安ヒトに特異的な欲望と快楽/誰もが持っている「空洞」/理性に情動がついていかない「共感」というスキル/好意と「あわよくば」のあいだ/脳が恋愛のさなかにあるとき不安感情が内面に暴発するとき/不安と戦わない、という方法第二章 脳は、自由を嫌うタイムプレッシャーによる意思決定/「迷わない人」は信用できない/ブランドと権威を認知する脳の働き「解は不定」の居心地悪さ/人はかくも騙されやすい/迷信・俗信が確信に変わるとき/「わからない」を嫌う脳あいまいさを保持しておく知力/誰しも中立ではありえない/信頼できる意思決定をしてくれる誰か第三章 正義中毒「正しさハラスメント」/正義を執行する快楽/集団を守るための不寛容/「美しい」=「正しい」のトリックネアンデルタール人と現生人類の違い/「倫理的に正しい」への警戒/糾弾は自省よりたやすい/「不謹慎」を叩く快感民の裁き訣別するために/誰しもが陥る正義中毒メタ認知が中毒状態を乗り越える/「どうでもいい」という絶妙な距離感第四章 健康という病性格傾向の3類型/「いい子であれ」という無言のメッセージ/片頭痛持ちは賢い?/不健康自慢がウザいわけ自らに傷を負わせる作為症/自傷と創作の痛々しさ/健康を崇め奉る風潮/リスキー・シフトとコーシャス・シフト 第五章 ポジティブとネガティブのあいだ解決できない感情という重荷/アドバイスという名の自慢話/ナルシシストと自己肯定感自身の醜さと闇を知る人助けられなかった人たち/ポジティブ思考の暗部/抑うつ的反芻という思考習慣音楽を聴けば頭が良くなる、は本当か/音楽は灰白質の神経細胞を増やす 第六章 やっかいな「私」子どもの頃から感じた分断/王道イメージへの抵抗感/一番安いものを選ぶタイプ/気難しい自分の扱い方過敏な感覚とこだわりと/待つという能動的選択/極上の孤独は蜜の味/インナー・ヴォイスと毒親問題 第七章 女であるということ女性の寂しさの肌感覚/結婚は合理的か/「科学者」でなく「主婦」として評価されるマリー・キュリー理系と女性は両立しない?/女性に対するステレオタイプ脅威/フェイルセーフの女子アナ戦略/銃と男とテストステロン第八章 言語と時間について「始めに言葉ありき」の解釈/人は真実など欲していない/ネガティブ感情とストレスホルモン急急如律令と建設的批判/仮説としての普遍物語/自我とディスコミュニケーション/双子語と個人語「ヴァルダロの恋人たち」の時間/「話が通じる」という奇跡/コミュニケーション力の測り方杞憂と言い切れない日本人気質/人間は安全より不安に惹かれる/新世紀より世紀末が好き/時間軸と未来予測未来や過去を思えるのは人間だけ/何かが終われば、新しい何かが始まる/人間の本質としての新奇探索性中野信子さんはテレビのコメンテーターで時々見かけて、話し方がちょっと固い感じのする人だとは思っていたけれど、文体も文章も論文を読んでいるようで固かった。この方も、幼い頃から周囲と自分との違いに強い違和感を感じていたのだろうが、よく折り合いをつけてきたなと思った。内容はとても興味深く納得できることが多く、人間の様々な心理や行動がこのような仕組みなのだと思った。だが、すぐに忘れてしまいそう。「妄想radio (レディオ)」桜木紫乃直木賞作家・桜木紫乃のエッセイ集第2弾。昭和の流行歌をテーマにした妄想ラジオドラマや、令和に生きる人々の思いを映し出すエッセイを収録。担当編集者たちの「今だから話せるマル秘暴露話」もたっぷり。カバーイラストは江口寿史さん。これはとても気軽に楽しく読めます。「脳の闇」に疲れたらこちらで脳をほぐします。担当編集者の桜木さんエピソードは笑っちゃいます。「なみだあめ<哀愁>時代小説傑作選」江戸の人情に思わずもらい泣き父と娘、母と息子、男同士の友情……心震える名作アンソロジー「文」(志川節子)旅籠屋の主・源兵衛は、江戸にいる恒之介と四十年来の友だ。このたび隠居をして故郷に戻るという文を受け取った源兵衛だが、江戸で大地震が発生し、恒之介は亡くなってしまう。友が故郷でやりたかったことに思い当たった源兵衛は、その遺志を受け継ぎ、奔走する。「雨夜の月」(高瀬乃一)料亭の主人・徳兵衛は、老いによる躰の不調や料亭を継ぐ甥への苛立ちから、当てつけとして、迷い込んできた子犬に身代を譲ると言い出し……。「夏草ヶ原」(梓澤 要)隠居した武士・庄右衛門は、神田川の土手で浮浪児の少女に気付く。見て見ぬ振りができずに医者に連れていく庄右衛門だが、そこで厳しい現実を突きつけられる。「神童問答」(馳月基矢)手習所を営む勇実と千紘の兄妹のもとに、旗本の奥方が息子の鞠千代を連れて、入門希望にやってくる。七歳にもかかわらず『論語』を諳んじる鞠千代の面倒を見ることになった勇実だが、千紘は母親のことも気にかかり……。「深情け」(諸田玲子)豪農の娘・おそよは、気に染まない縁談の祝言の夜、盗賊に襲われる。しかしおそよは、自身を犯した盗賊の頭領のことが忘れられず、行方を突き止めるが……。「野槌の墓」(宮部みゆき)七歳の娘を一人で育てる<何でも屋>の源五郎右衛門は、娘から化け猫のタマの依頼を聞いてほしいと頼まれる。人の命を奪うようになった物の怪退治を請け負った源五郎右衛門だが……。このシリーズも、読んでいないものを見つけたら借りてしまう。脳や心が疲れる本を借りたら、このような心がほぐれる本も読まなくちゃ。女性が描く時代小説が心地よくなってしまった。
2024年01月22日
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直木賞に河﨑秋子さん「ともぐい」(北海道・別海町生まれ) 桜木紫乃さん祝福「素晴らしい作品」 河﨑秋子さんの直木賞受賞に、交流の深い作家や家族、友人ら関係者から祝福の声があがった。 河﨑さんは直木賞の印象を「私の故郷、道東出身で作家の先輩でもある桜木紫乃先生が『ホテルローヤル』という素晴らしい作品で受賞されたことで、憧れの賞でした」と明かす。 その桜木さん(58)=江別市在住=は「河﨑さん、ご受賞おめでとうございます。『ともぐい』は素晴らしい作品でした。この先は目の回るような忙しさが待っていますね。どうか、元気に乗り切ってください」と祝福の言葉を寄せた。 河﨑さんは幼い頃から読書好き。北海学園大で文芸サークルに所属したが、卒業後は羊飼いを目指してニュージーランドで羊の飼育を学んだ後、根室管内別海町の実家で酪農業を手伝いつつ綿羊を飼育・出荷するなど創作から遠ざかった。30歳を迎えた時、きちんと小説を書きたい、と創作意欲が湧きあがり、脳裏で温めていた熊撃ちの男の話「熊爪譚(たん)」を書き上げて2010年、北海道新聞文学賞に応募した。それが直木賞受賞作「ともぐい」の原型となった。この作品、読みたいと思って図書館に予約しているのだが、まだ先のようだ。実は、直木賞の候補作になっていることは、つい最近まで知らなかった。だが、図書館に予約した時点で随分予約待ちだったので、最近は人気があるのだなと思っていた。多分、候補作になることを知っていた人達が沢山いいるのだろう。先程予約状況を見たら「54人待ち」だった。私はもう少しで順番がくるのだが、彼女をさらに応援するつもりで書店で買うことにしよう。河崎さんの作風は、北海道の自然をしっかりとリアルに書き込んでいるし、作中に出てくる人たちも、開拓期から住み続けている道産子の気質をよく反映していると感じてきた。道産子と言っても多様だし、その気質も多様だ。桜木紫乃さんの書く人たちとはまた違うたくましさや強さがあって、私は好きだ。これを機に、河崎さんの読者が増えるようにと願っている。おめでとうございます、河崎さん!
2024年01月18日
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「とりどりみどり」西條奈加 (著)万両店の末弟、鷺之介が齢十一にして悩みがつきない原因とは――。時代小説の名手が描く、ホロリと泣かせる大江戸謎解き物語。万両店の廻船問屋『飛鷹屋』の末弟・鷺之介は、齢十一にして悩みが尽きない。かしましい三人の姉――お瀬己・お日和・お喜路のお喋りや買い物、芝居、物見遊山に常日頃付き合わされるからだ。遠慮なし、気遣いなし、毒舌大いにあり。三拍子そろった三姉妹の傍にいるだけで、身がふたまわりはすり減った心地がするうえに、姉たちに付き合うと、なぜかいつもその先々で事件が発生し……。そんな三人の姉に、鷺之介は振り回されてばかりいた。ある日、母親の月命日に墓参りに出かけた鷺之介は、墓に置き忘れられていた櫛を発見する。その櫛は亡き母が三姉妹のためにそれぞれ一つずつ誂えたものと瓜二つだった――。西條奈加 さんの本は何冊か読んでいるが、読みやすいし気持ちが柔らかくなるものが多い気がして、これも辛いニュースから逃げるように読んでしまった。私にとって読書には、そんな効用があるのだ。この作品は時代は江戸時代だし、登場人物の家はいわゆる富裕層。現代でもそうだと思うが、富裕層がそれだけで完璧に幸せとは限らず、富裕層だけに抱えやすい家族の問題もあるだろう。この作品の登場人物はとても個性的で鼻持ちならない姉たちもいるけれど、根っこはみんな善人ばかり。それがまず、いやな気分にならなくていい。連続短編集ともいえる作品で、隙間時間に読めるのもいい。そして、読後感はとても心が温かくなるものばかり。「読む心の薬」としてお勧めです。
2024年01月10日
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「なぞとき 」<捕物>時代小説傑作選平成を代表する女性時代作家の豪華競演!親子の切ない秘密、料理にまつわる謎……珠玉の時代小説ミステリー棒手振りの魚屋に、鰹を千両で買いたいという奇妙な申し出があり……(「鰹千両」)、幕府直轄の御薬園で働く真葛は、薬種屋から消えた女中の行方を探ってほしいと頼まれるが……(「人待ちの冬」)、商家の妾が主夫婦の息子を柏餅で毒殺した疑いをかけられるが、料理人の季蔵は独自の捜査を進め……(「五月菓子」)など、“捕物"を題材とした時代小説ミステリー。話題の女性作家陣の作品が一冊で楽しめるアンソロジー。テレビをつけると、地震や航空機事故、パレスチナやウクライナのことなど、心が痛むことばかり。このような時には、肩の凝らない短編集で気分を変えることにしてしまう。この本も、女性作家のものばかりなので感情移入もしやすく、面白かった。最近は、図書館に行ったらこのような本をつい借りてしまう。
2024年01月07日
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「4TEEN (新潮文庫)」石田 衣良 (著)僕たちがアカサカさんに出会ったのは、大華火が近い夏の日だった。死を目前に、自由を求め病院を抜け出したアカサカさんに僕たちができることは……。木造の長屋とスカイラインを切り取る高層ビルが共存する町・月島で、僕たちは恋をし、傷つき、慰め合い、大人になっていく。瑞々しい八つの物語で描く今どきの十四歳、青春物語。波 2003年7月号より 一巡目の風景 石田衣良『4TEEN』森絵都 ともに十代を過ごした旧友と集まり、ああでもないこうでもないと言い合いながら痛飲するのは、私にとって定期的に必要な楽しみの一つだ。二十年近く友達をしていれば、良くも悪くもすっかり気心が知れているし、二十年分のネタがあるからまず間違いなく盛りあがる。皆が皆の過去を知り、恋愛を知り、傷を知り、下手をするとセックスの嗜好まで知っている。が、それでいて私たちはもはや十代の頃のようには結びついていない。あの頃のように瞳に映るすべてを共有し、わかちあい、重なりあうことを求めてもいない。単純な話、すべてをわかちあうには、私たちは個々の経験を積みすぎてしまった。恋。挫折。反発。和解。絶望。別離。誰もが味わうそれらを一通り経験し、すでに私たちは二巡目や三巡目に入っている。何もかもが新鮮だった一巡目の驚きや興奮、しびれるような感触。誰かに伝えたくて、わかってほしくて、わかりあいたくてしょうがなかったあの狂おしい衝動も、すべてを笑い話にする術に長けた今の私はいつしか忘れていた。石田衣良氏の『4TEEN』を読んで、久々に思い起こした。一巡目の世界の初々しさと、生々しさと、痛々しさを。『4TEEN』は、十四歳の少年四人が主人公の連作集だ。舞台は月島。新しいものと古いものと、豊かさと貧しさとが複雑に入り組みあう、もんじゃのように混沌とした町で彼らは日々暮らしている。テツロー。ナオト。ジュン。ダイ。当然ながら彼らは女の子の好みも小遣いの額もファッションセンスもまちまちで、性格からしてまるで違うし、合わせようともしていない。同じ学校に通う十四歳。それだけで共通項は充分に事足りているのだ。しかし、中には同じ十四歳でありながら、早老病とも言われるウェルナー症候群に冒された仲間もいる。ナオトだ。すでに髪の半分が白く、もしかしたら人生の二巡目や三巡目はかなわないかもしれないナオトの側にいる三人は、だから「早く大人になりたい」なんて決して口にはしない。否が応でも今の自分を、その時々の自分たちを満喫して生きることを迫られる。そしてそれを実際、なんとも軽やかにやってのけてくれる。とはいえ、一見脳天気に映る彼らもまた、それぞれ内側には重たいものを抱えている。いつも何かを頬張っている大食漢のダイは、じつは家庭内暴力の犠牲者。ほかにもこの一冊には拒食症、飛びおり事件、老人の孤独死、同性愛などの問題が次々に登場するけれど、それらは新聞やテレビで見る「社会問題」とはまったく印象を異にする。一巡目の世界に生きる彼らにとって、それらは遠い地平で起こった他人の不幸ではなく、日々新たに発見する初々しいもの、生々しいもの、痛々しいものの一つなのだ。傷つくのを承知で手を伸ばし、自らの肌で確認せずにはいられないもの。ましてそれが仲間内で起こった事件ならば、じっとはしていられない。ひときわ胸を打たれる一作「空色の自転車」で、ダイが自分の父親を殺めてしまったときも、他の三人はそれを社会問題として括ったりはせず、自分たちの問題と考えて身を乗り出した。仲間が困っているから力を合わせて助ける。彼らにしてみればごく当たり前のことを、人は何巡目あたりから当たり前にできなくなってしまうのだろう。忙しいから? 背負うものが多いから? 体のあちこちにガタが来ているから?もしもあの頃の自分と、一巡目の瞳に映った風景ともう一度めぐりあいたい方は、どうか最終話の「十五歳への旅」を読んでいただきたい。四人で新宿まで自転車を走らせ、高層ホテルのラウンジから地上を見下ろし、初めてのアダルトショップにどぎまぎし、クラブで出会った女の子たちと心を通わせ、夕暮れの晴海ふ頭で自分たちの秘密を告白しあう彼らの声に耳を傾けてほしい。「みんなにはあの音がきこえないのかなあ。地球が猛烈な勢いで自転して、一日を刻むごーごーという音。ぼくが一番怖いのはあの音だな。だってみんなの三倍の速さで、ぼくの地球はまわってるから」そんなナオトの告白――壮絶な「生」の意識に触れたなら、きっと頑固に立ち塞がっている過去のむこうから、生まれたてのようにぴかぴかした一巡目が透けて見えるだろう。何げなく手に取った文庫本だったが、これは面白かった。四人の14歳の少年たちは、個性も家庭環境もバラバラだ。重いテーマも含んでいるのだが、少年たちはそれぞれを思いやりながら、共通する興味や好奇心を満たそうと、力を合わせる姿が眩しいほどだ。私にとって「男の子」は未知の生物のようだった。自分が男の子を二人育てていても、やはり「男の子は面白い」「女の子とは別の生き物だ」と思うことが多く、やはり未知のままである。そんな私には、とても興味深く面白く様々な発見のある本だった。石田衣良さんの本、また読んでみようかな。
2023年12月21日
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「水曜日の凱歌」乃南アサ/著鈴子、14歳。私の戦争は、8月15日に始まったーー占領下の東京を生きる少女が目撃した、本当の「敗戦」昭和20年8月15日水曜日。戦争が終わったその日は、世界のすべてが反転してしまった日、そして女たちの戦いが幕を開けた日だった。14歳の鈴子は、進駐軍相手の特殊慰安施設協会で通訳として働くことになった母とともに、慰安施設を転々とする。苦しみながら春を売る女たち。米兵将校に接近し、したたかに女の生を生き直す母。変わり果てた姿で再会したお友だち……。多感な少女が見つめた、語られざる戦後を描く感動の長編小説にして、『しゃぼん玉』に並ぶ著者新たな代表作。芸術選奨文部科学大臣賞受賞。解説=斎藤美奈子。特殊慰安施設協会とは日本が進駐軍の性暴力に備えるために女性を募り、東京・大森海岸や静岡県・熱海などに慰安施設を日本各地に作った実在の組織。5千人を超える女性が売春や娯楽を提供したとされる。通称RAA。斎藤美奈子さん「解説」より戦争の犠牲になるのは女性と子どもだ、といわれます。しかし、『水曜日の凱歌』に登場する女たちはみな、それぞれのやりかたで戦っている。重い題材にもかかわらず、本書が心地よい読後感を残すのは、そのためでしょう。思えば乃南アサはデビューした当時から、戦う女を描いてきた作家です。直木賞を受賞した『凍える牙』(一九九六年)で初登場した音道貴子も、パワハラやセクハラが横行する男性社会の警視庁で働き、戦う女性刑事でした。立場や時代がちがっても、逆境に負けない人は私たちを勇気づけてくれます。本書も例外ではありません。図書館で借りた本。長編の部類ではあるが、一気読みに近い感じだった。「特殊慰安施設協会…RAA」については、何かで読んだか見たかで知ってはいたが、この作品でそこに関わっている女性や子どもの視点で書かれているものは、初めてのような気がする。戦争は女性や子ども達が犠牲になるとは判で押したように言われるけれど、このような歴史の陰の犠牲者はどれほど多いことだろう。生きるために、家族を養うために、どれほどの多くの女性たちがこのような仕事に就き、そして放り出されてしまったのだろう。Wikipediaの記事によると、の女性兵士用の「慰安夫」も存在したらしい。ため息が出るような話ではあるが、これが人間の業というものなのだろう。それでも、そそのような体験をしたとしても、その人たちの人生は続く。この小説の中の女性たちは、よく「負けたんだから仕方がない」とつぶやき現実を受け止めて生きている。傍から見たら、前日まで「鬼畜米英」と言っていた国の人達に対しての豹変は、信じられない気がするけれど、それも生き抜くためには仕方がないのだ。彼女たちの生き方は、それぞれたくましく時には明るい。同時に自分たちの家族や家を奪った戦争と、その戦争を巻き起こした者たちに怒りと復讐をするかのように、自分の持ちうる能力をフル稼働して生きようとする。その人たちの頑張りのおかげで、今の日本があるのかもしれない。世界中の紛争の中に生きる人たちは、絶望の中でもその日の糧を求め、尽きようとする命を守るために必死に生きているのだろう。その頑張りが報われる日が来るのだろうか。
2023年12月17日
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「つきのふね」森絵都「これって本当に青春なのかなあ」小説!親友との喧嘩や不良グループとの確執。中学二年のさくらの毎日は憂鬱。ある日人類を救う宇宙船を開発中の不思議な男性、智さんと出会い事件に巻き込まれる。揺れる少女の想いを描く、直球青春ストーリー!内容(「BOOK」データベースより)あの日、あんなことをしなければ…。心ならずも親友を裏切ってしまった中学生さくら。進路や万引きグループとの確執に悩む孤独な日々で、唯一の心の拠り所だった智さんも、静かに精神を病んでいき―。近所を騒がせる放火事件と級友の売春疑惑。先の見えない青春の闇の中を、一筋の光を求めて疾走する少女を描く、奇跡のような傑作長編。先日 、森絵都さんの「カラフル」を読んで面白かったので、図書館で借りて読んだ。これもヤングアダルトの本になるのだろうけれど、まあまあ面白かった。「1999年7の月、人類は滅亡する」というノストラダムスの大予言は、当時結構世界中(? いや日本だけか?)を騒がせていたような気がするが、その頃まだ20代前半だった息子たちは、半信半疑ながらもそうなることもあるかもと思っていたようだ。私自身は、まったく信じていないということでもなく、でも多分そうはならないだろうけれど、何かあってもおかしくないだろうとは思っていたような気がする。そんな時代背景の中での青春群像的な小説だった。良い小説は、読者をその世界にいざなう。そして、登場人物の中に自分を投影させたりできる。それは、SFでもファンタジーでも歴史小説でも現代小説でも同様だ。その意味では、この作家は力があると思える。私はすでに70代だけど、いつのまにか自分が登場人物の周辺にいるような感じになった。しかし、そこにいる私は70代でもあるわけで、時には突っ込みを入れながらも、共感したりもしている。本を読むのは本当に楽しいと思う。高齢者でもヤングアダルトや児童書、絵本を楽しみましょう。
2023年12月01日
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「湿原」〈上・下〉 加賀乙彦出版社内容情報大学紛争が激化した時代、暗い過去を持つ中年男と心病む女子大生が愛し合う。T大紛争の終結直後に新幹線爆破の嫌疑で捕らわれた二人は、冤罪を晴らすために長き闘いを始める。魂の救済とは何かを問いかける感動の長編小説。内容説明大学紛争が激化した一九六〇年代の終り、謎多き人生を過ごしてきた自動車整備工・雪森厚夫は、スケート場で出会った女子大生・池端和香子に恋心を抱く。T大紛争を巡る混乱の中で、心病む和香子は闘争の有効性に疑問を持ちながら、Y講堂にも出入りする。急接近した二人は六九年二月、冬の北海道への初の旅に出た。帰京した二人は、新幹線爆破事件の容疑者として逮捕される。予期せぬ罠にはめられた二人の孤独な闘いが始まる。著者等紹介加賀乙彦[カガオトヒコ]作家。1929年、東京生まれ。東京大学医学部医学科卒業。東京拘置所医務技官を務めた後、精神医学・犯罪医学研究のためフランス留学。帰国後、東京医科歯科大学助教授、上智大学教授を歴任。日本芸術院会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。えん罪について新聞のコラムで紹介されていた本で、図書館から借りてきた。加賀氏の本は、精神医学関係のエッセイなどは何冊か読んだ記憶があるが、小説は読んだことがなかったような気がする。学生運動時代の大学生たちのことや、留置所や刑務所のことなど、きっと加賀氏が実際に見聞きしたことなどを土台にしているのだろう。少し冗長に感じる部分もあるけれど、これも登場人物の精神的な遍歴や、えん罪の起こる過程や裁判、弁護士と検察の攻防戦を書き込むには必要なことだったのかもしれない。これを読んでいると、えん罪がどのように仕立て上げられているかが想像でき、本当に恐ろしくなる。この作品が書かれたのは1980年代。現在も多分、ここに書かれている状況はさほど変わらないのではないか。また、窃盗などの再犯率が高いこともこの小説を読んでいるとリアルに納得できる。長編なので読むには少し時間がかかったけれど、とても興味深い内容の作品だった。「湿原の取材と野田弘さんとの出会い」
2023年11月20日
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「カラフル」森 絵都 (著)商品説明死んだはずの「ぼく」の魂にむかって天使が言った。「おめでとうございます、抽選にあたりました!」。そうして、ぼくは輪廻のサイクルに戻るために、下界にいるだれかの体を借りて(天使業界では「ホームステイ」というのだそうだ)前世で犯した悪事を思い出さなくてはならなくなった。乗り移ったのは「小林真」という自殺したばかりの14歳の少年。ところが、真は絵を描くのが得意な以外は、親友と呼べる友だちもいない、冴えないヤツだった。父親は自分だけよければいい偽善者で、母親はフラメンコの先生と浮気中。しかも、好きな女の子は、中年オヤジと援助交際中ときた。しかし、ホームステイの気楽さも手伝って、よくよく周りを見回してみると、世界はそんなに単純じゃないってことが次第にわかってくる。森田芳光の脚色で映画化もされた、多くのファンをもつ1冊である。著者は、講談社児童文学新人賞受賞作「リズム」でデビューした児童文学界のトップランナー、森絵都。シナリオライターだった著者による本書は、生き生きとしたセリフが心地よく、軽快なテンポで一気に最後まで読ませる力をもっている。そして、周りを見渡せばすぐにいそうな登場人物との距離感が、物語をよりリアルにみせてくれる。中学生が主人公である本書は、中学生に読んで欲しい本ではあるが、「世界はたくさんの色に満ちている」というテーマは、どの世代にも共感できるもの。かつて中学生だったすべての大人にもおすすめしたい。(小山由絵)内容(「BOOK」データベースより)いいかげんな天使が、一度死んだはずのぼくに言った。「おめでとうございます、抽選にあたりました!」ありがたくも、他人の体にホームステイすることになるという。前世の記憶もないまま、借りものの体でぼくはさしてめでたくもない下界生活にまいもどり…気がつくと、ぼくは小林真だった。ぐっとくる!ハートウォーミング・コメディ。日本ハムの清宮君が、「僕はこの本で生き方を学びました」というようなことを言っていたので、どのような本なのかと図書館で借りて読んだ。私は結構児童書が好きなのだが、児童書を探して読むというよりは、誰かが読んで良かったよというのを聞いて読むことが多い。この本も、清宮君の「生き方を学んだ」といフレーズに惹かれたのだ。いや、予想以上に面白かった。森絵都さんの作品はこれが初めてだと思うが、もっと読んでみたいなと思う。ぜひ悩み多き年頃の中高生に読んでほしいと思う。
2023年11月14日
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「母という呪縛 娘という牢獄」齊藤 彩/著【内容紹介】深夜3時42分。母を殺した娘は、ツイッターに、「モンスターを倒した。これで一安心だ。」と投稿した。18文字の投稿は、その意味するところを誰にも悟られないまま、放置されていた。2018年3月10日、土曜日の昼下がり。滋賀県、琵琶湖の南側の野洲川南流河川敷で、両手、両足、頭部のない、体幹部だけの人の遺体が発見された。遺体は激しく腐敗して悪臭を放っており、多数のトンビが群がっているところを、通りかかった住民が目に止めたのである。滋賀県警守山署が身元の特定にあたったが、遺体の損傷が激しく、捜査は難航した。周辺の聞き込みを進めるうち、最近になってその姿が見えなくなっている女性がいることが判明し、家族とのDNA鑑定から、ようやく身元が判明した――。髙崎妙子、58歳(仮名)。遺体が発見された河川敷から徒歩数分の一軒家に暮らす女性だった。夫とは20年以上前に別居し、長年にわたって31歳の娘・あかり(仮名)と二人暮らしだった。さらに異様なことも判明した。娘のあかりは幼少期から学業優秀で中高一貫の進学校に通っていたが、母・妙子に超難関の国立大医学部への進学を強要され、なんと9年にわたって浪人生活を送っていたのだ。結局あかりは医学部には合格せず、看護学科に進学し、4月から看護師となっていた。母・妙子の姿は1月ころから近隣のスーパーやクリーニング店でも目撃されなくなり、あかりは「母は別のところにいます」などと不審な供述をしていた。6月5日、守山署はあかりを死体遺棄容疑で逮捕する。その後、死体損壊、さらに殺人容疑で逮捕・起訴に踏み切った。一審の大津地裁ではあくまで殺人を否認していたあかりだが、二審の大阪高裁に陳述書を提出し、一転して自らの犯行を認める。母と娘――20代中盤まで、風呂にも一緒に入るほど濃密な関係だった二人の間に、何があったのか。公判を取材しつづけた記者が、拘置所のあかりと面会を重ね、刑務所移送後も膨大な量の往復書簡を交わすことによって紡ぎだす真実の物語。獄中であかりは、多くの「母」や同囚との対話を重ね、接見した父のひと言に心を奪われた。そのことが、あかりに多くの気づきをもたらした。一審で無表情のまま尋問を受けたあかりは、二審の被告人尋問で、こらえきれず大粒の涙をこぼした――。殺人事件の背景にある母娘の相克に迫った第一級のノンフィクション。図書館で予約して借りた本である。この本を読んで、完全に自分とは関係ないことだと思える人は幸いだと思う。少なくても私は、この加害者の気持ちが多少は理解できたし、運悪くこのような母親の元に育ったなら、殺さないまでも母への過剰な抵抗で何か事件になっていたかもしれないと思う。そしてまた、母親の娘への異常な支配は、やはり母親の育ちにあっただろうとも思う。願わくば、このような状況に追い込まれる前に、何とか父親が母と娘を引き離してほしかったけれど、それも現実にはなかなか難しかっただろうとは思う。本当にやり切れないけれど、彼女がその後の人生をできるだけ穏やかに生きてほしいと願う。時折見られる尊属殺人事件には、状況は違ったとしても長年にわたる親の子に対する支配や虐待が背景にあるはずだ。子どもは親を選べない。幼い頃は特に、生きるためには無条件に従うしかない。その過程で、誰かが気付き子どもを助けてあげてほしいと願う。
2023年11月04日
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面白かったけれど、それだけにすぐ読んだことを忘れてしまいそう。「まんぷく」時代小説傑作選PHP文芸文庫おいしくも切ない味がする、江戸の料理をめしあがれ蕪汁、桜餅、鮎の塩焼き……いま話題の女性時代作家による絶品アンソロジー岡っ引きの茂七が、謎めいた稲荷屋台の親父が出す料理をきっかけに事件の真相に迫る「お勢殺し」(宮部みゆき)、菓子屋の跡取り息子なのに、菓子作りが下手な栄吉の葛藤と成長を描いた「餡子は甘いか」(畠中恵)、風邪で寝込んだお勝が本当に食べたかったものとは何かを探る「鮎売り」(坂井希久子)など、江戸の料理や菓子をめぐる短編六作を収録した、思わずお腹がすいてくる時代小説アンソロジー。「わらべうた 〈童子〉」時代小説傑作選 (PHP文芸文庫) 誘拐を持ちかける少年、赤子に焼きもちをやく少女……無邪気でいじらしい江戸の子供たちが起こす騒動を描いた、豪華執筆陣による珠玉のアンソロジー繁盛している料理屋の息子が、出入りの職人に自分の誘拐を依頼する「かどわかし」(宮部みゆき)、互いに支え合って戸外で暮らす子供たちの一人に殺人の疑いがかかる「初雪の坂」(澤田瞳子)、これまで可愛がってくれていた義理の母が出産することになり、複雑な思いを抱く末っ子が安産祈願の絵馬を無くしてしまう「安産祈願」(諸田玲子)など、江戸に生きる様々な子供たちを描いた出色の時代小説アンソロジー。
2023年10月26日
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「各分野の専門家が伝える 子どもを守るために知っておきたいこと」そうそうたる13人の専門家が伝える子どもを守るための正しい知識と考え方インターネットや口コミなどで得られる子育てに関する情報は玉石混淆で、残念ながらまったく根拠のないデマも多いもの。そのような中から、本当に子どものためになる情報を選ぶには、「なんだかよさそう」という直感ではなく、正しい知識と論理的な思考が大切です。そこで、本書では各分野の専門家たちが、育児・医学・食・教育などのよくあるデマに反論。さらに、各テーマに関連した本当に大切な知識、情報の選び方などをわかりやすくお伝えします。大切な子どもたちを守るため、お子さんがいる方、教育や行政にたずさわる方、多くの大人に読んでいただきたい一冊です。第1章 育児自然分娩が一番いいの?/母乳じゃないとダメ?/体罰って必要でしょうか?/ホメオパシーをすすめられました/紙オムツやナプキンは有害?コラム1/保育の安全第2章 医学薬は飲ませないほうがいい?/ワクチンは毒だと聞きました/フッ素って危ないの?/発達障害はニセの病名?/整体やカイロプラクティックは必要?コラム2/日常生活での子どもの事故第3章 食砂糖や牛乳はよくないの?/玄米菜食が一番いいって本当?/マーガリンはプラスチック?/残留農薬が気になります/食品添加物は危険なもの?コラム3/国産と外国産の安全性第4章 教育「誕生学」でいのちの大切さがわかる?/「2分の1成人式」は素晴らしい?/江戸しぐさを学ぶみたいですが…/「親学」ってなんでしょうか?/「水からの伝言」って本当?コラム4/数字で語る学校のリスク番外編放射能って大丈夫なの?/EMって環境にも体にもいい?これは、子どもに関わる人たちには(特に親や祖父母)ぜひ読んでいただきたい。(そんなことが推奨されているの!)と思うようなことも沢山ある。「水からの伝言」とか「2分の1成人式」などは、この本で初めて知った。科学めいたことばで惑わされてしまわないように、ご用心、ご用心。なさけ 〈人情〉時代小説傑作選 (PHP文芸文庫)著者 西條 奈加 (著),坂井 希久子 (著),志川 節子 (著),田牧 大和 (著),村木 嵐 (著),宮部 みゆき (著),細谷 正充 (編)商品説明夫婦の情、親子の絆、長屋のあたたかさ…。「なさけ」をテーマに、女性時代作家の名短編を集めたアンソロジー。西條奈加「善人長屋」、坂井希久子「抜け殻」など、書籍未収録作品や書き下ろし作品を加えた全6作を収録。【「TRC MARC」の商品解説】いま大人気の女性時代作家による、アンソロジー第三弾。親子や夫婦の絆や、市井に生きる人々の悲喜こもごもを描いた時代小説傑作選。短編集なので、寝る前に一話ずつ読むのにちょうど良かった。このシリーズ、まだあるようなので図書館で借りてこよう。
2023年10月15日
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「がいなもん 松浦武四郎一代」河治和香 /著〈 書籍の内容 〉「北海道の名付け親」の生涯を描く傑作小説 明治十六年、絵師の河鍋暁斎を訪ねた松浦武四郎は、その娘・豊の問いに応じて自らを語り始める…。 武四郎は文化十五年、伊勢国に生まれた。竹川竹齋から〈神足歩行術〉を学び、地図や道中記を見て各地を旅したいという夢を抱く。十六歳で家出して江戸に行ったことを手始めに、全国を旅するようになった。その後、蝦夷地で頻繁にロシア船が出没していることを知り、都合六回に亘る蝦夷地の探検を行った。アイヌの人々と親しく交わり、大自然に寄り添った生き方に敬意を感じていた。なかでも、ソンという子どものアイヌを可愛がり、別れた後もその消息を確かめ合うことになる。江戸に戻った武四郎は様々な記録や報告書を作成し、和人によるアイヌへの搾取の実態と救済を訴え、九千八百ものアイヌの地名を記した地図を作成した。蝦夷地通としても、吉田松陰や坂本龍馬にも助言をした。そして、北海道の名前の制定に関わる。 幼い頃から好きだった古物蒐集家としても知られるようになった。晩年には、率先してユニークな墓や棺を用意するという終活の達人でもあった。 並外れた行動力と収集癖、膨大な執筆物で多くの人を魅了した人物を描いた伝記小説。〈 編集者からのおすすめ情報 〉 本書は、「第3回北海道ゆかりの本大賞」「第25回中山義秀文学賞」「第13回舟橋聖一文学賞」を受賞しました。今回、WBCの栗山英樹監督が推薦コメントを寄せてくださっています。解説は、札幌大学の本田優子教授です。松浦武四郎の名前は、北海道に住んでいる者なら必ず耳にしたことがあるだろう。彼の足跡については、私もある程度は知っているつもりだったが、この本を読んで本当に驚いた。とにかく、その好奇心と出会う人たちに対するフラットな態度や優しさ、「探検家」などとひとくくりにできないスケールの大きさには脱帽である。武四郎の交友関係のつながりには、「事実は小説より奇なり」そのもので、読みながら「それ、ホントなの?」と思うことの連続だった。この本で、松前藩からはじまるアイヌの人たちへの和人の迫害の事実を改めて知り、それを何とか世間に知らしめようとした彼の仕事も、ついには潰されることを懸念して封印したことを知った。彼は政府に対しての信頼を完全に失ない、その後は北海道には足を踏み入れなかった。大きな力に対して自分の無力さを知り、思いを託されたアイヌの人たちへの申し訳なさがそうさせたのだろう。しかし、彼のアイヌの人たちへのリスペクトは、執念のように記録したアイヌの地名が現在の地名に沢山残っていることで、私も多少救われたような気がする。松浦武四郎さん、ありがとうございました。そのことを書いてくださった河治和香さんにも、心からお礼を言いたい気持ちです。松阪市にある「松浦武四郎記念館」に一度行ってみたいと思うけど、かなうかな。
2023年09月20日
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育てられない母親たち (祥伝社新書)/石井 光太内容紹介(出版社より)2018年度、児童相談所への児童虐待の相談件数は15万9850件にのぼり、前年度から2万6072件増加して、過去最多を更新した(厚生労働省)。ニュースで虐待死事件が報じられるたびに、人々は親の鬼畜ぶりに怒り、児童相談所や教育委員会、学校の手落ちを批判する。しかし私たちは、児童虐待に4種類あることすら知らない(本書16ページを参照)。なぜ「虐待」や「育児困難」は増えるのか。どうすれば子どもたちを救えるのか。■「完璧なママ」を演じようとして「虐待ママ」に■特別養子に出したのは「たぶん、客の子」■子供とローンだけが残ったシングルマザー■「この子と一緒に死ぬ」が口癖の女性■DV連鎖■毒親の支配ーー母は覚醒剤の密売人■児童相談所と「親子再統合」への道のり市井の人々のドラマを描きつづける著者が、リアルな事案24例を多面的に掘り下げ、社会病理の構造を浮き彫りにする。石井光太ノンフィクション作家、小説家。1977年東京都生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動を行なう。作品はルポ、小説のほか、児童書、エッセイ、漫画原作など多岐にわたる。著書に『「鬼畜」の家』(新潮社)、『虐待された少年はなぜ、事件を起こしたのか』(平凡社)などがある。彼の著書を読むたびに、現在の日本の現実を突きつけられる。私達に何ができるのかと、暗然としてしまう。しかし、この社会を作ってきたのは間違いなく私たちなのだ。様々な要因が複雑に絡まりあって、しわ寄せは弱い立場の人たちに集約されていく。それを「困ったことだ」と見ていることは、その現実に追随していることなのかもしれない。私は何ができるのかと、彼の本を読むたびに思うのだが…。
2023年09月14日
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またまた読んだことを忘れてしまいそう。「鬼談百景」 小野 不由美虚実なかばする怪談文芸の頂点を極めた傑作!読むほどに恐怖がいや増す―-学校の七不思議にまつわる怪談やマンションの部屋で聞こえる不自然な音、真夜中に出るという噂の廃病院で見た白い人影、何度しまってもいつの間にか美術室に置かれている曰くつきの白い画布……。小野不由美が初めて手掛けた百物語。文芸評論家・千街晶之氏は「この世のあちこちに人知れず潜んでいる怪異が、不意にその姿を顕す。日常があり得ざる世界へと暗転する一瞬を確かに捉えてみせた傑作怪談」と単行本発売時、推薦文を寄せた。文庫解説を担当した稲川淳二氏は、「怪談とはどういうものかを知りたければ、この本を読めば分かります」と絶賛。「作品全体の質感を一言で表現するなら、”うっすらとした闇”です。」(解説文より)。山本周五郎賞受賞傑作ホラー『残穢』(新潮文庫)と内容がリンクしていると話題の本書。『残穢』は、実写映画化(監督:中村義洋『予告犯』『白ゆき姫殺人事件』、出演:竹内結子 橋本愛)、2016年1月30日(土)公開! かなり前に図書館から借りた本なので、内容についてはほとんど覚えていない。ただ、私はこのような類の話は好きであり、似たような現象を多少経験したこともある。ふと、私の以前の怪異譚を思い出しながら書いておこうかなと思った。つまりは、この世には人が説明できない現象は色々あるだろうし、なぜかそのようなものに惹かれてしまうのが多くの人なのだろうと。「営繕かるかや怪異譚」 小野不由美雨の日に鈴の音が鳴れば、それは怪異の始まり。極上のエンターテインメント叔母から受け継いだ町屋に一人暮らす祥子。まったく使わない奥座敷の襖が、何度閉めても開いている。(「奥庭より」)古色蒼然とした武家屋敷。同居する母親は言った。「屋根裏に誰かいるのよ」(「屋根裏に」)ある雨の日、鈴の音とともに袋小路に佇んでいたのは、黒い和服の女。 あれも、いない人?(「雨の鈴」)田舎町の古い家に引っ越した真菜香は、見知らぬ老人が家の中のそこここにいるのを見掛けるようになった。(「異形のひと」)ほか、「潮満ちの井戸」「檻の外」。人気絶頂の著者が、最も思い入れあるテーマに存分に腕をふるった、極上のエンターテインメント小説。宮部みゆき氏、道尾秀介氏、中村義洋氏絶賛の、涙と恐怖と感動の、極上のエンタ-テインメント。以前、小野不由美のファンタジーを読んだ時にはあまり入り込めなかったけれど、これらの作品は妙に入り込める。この作品はシリーズになっているようなので、また借りて読もうかと思ったのだが、そのままになっている。
2023年09月13日
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今日も朝から暑い。暑さが続くようになってから、睡眠のリズムが狂いだし、このところ眠剤のお世話になり続けている。毎日のように服用して寝るのだが、それでも二時間少しで目が覚めることを繰り返している。それでも、眠剤なしで寝た時よりは、一度は深い睡眠になるようで、飲まずに夜を過ごした時の頭が重い感じはない。眠剤依存症になったらいやだなと思いながらも、今は仕方がないと毎晩眠剤を飲む日が続いている。そんな時に読んだ本二冊である。「誰がために医師はいる――クスリとヒトの現代論 」松本 俊彦 (著)/みすず書房ある患者は違法薬物を用いて仕事への活力を繋ぎ、ある患者はトラウマ的な記憶から自分を守るために、自らの身体に刃を向けた。またある患者は仕事も家族も失ったのち、街の灯りを、人の営みを眺めながら海へ身を投げた。いったい、彼らを救う正しい方法などあったのだろうか? ときに医師として無力感さえ感じながら、著者は患者たちの訴えに秘められた悲哀と苦悩の歴史のなかに、心の傷への寄り添い方を見つけていく。同時に、身を削がれるような臨床の日々に蓄積した嗜癖障害という病いの正しい知識を、著者は発信しつづけた。「何か」に依存する患者を適切に治療し、社会復帰へと導くためには、メディアや社会も変わるべきだ――人びとを孤立から救い、安心して「誰か」に依存できる社会を作ることこそ、嗜癖障害への最大の治療なのだ。読む者は壮絶な筆致に身を委ねるうちに著者の人生を追体験し、患者を通して見える社会の病理に否応なく気づかされるだろう。嗜癖障害臨床の最前線で怒り、挑み、闘いつづけてきた精神科医の半生記。[月刊「みすず」好評連載を書籍化。精神科医による迫真のエッセイ]目次「再会」――なぜ私はアディクション臨床にハマったのか「浮き輪」を投げる人生きのびるための不健康神話を乗り越えてアルファロメオ狂騒曲失われた時間を求めてカフェイン・カンタータ「ダメ。ゼッタイ。」によって失われたもの泣き言と戯言と寝言医師はなぜ処方してしまうのか人はなぜ酔いを求めるのかあとがき参考文献松本俊彦(まつもと・としひこ)1967年生まれ。精神科医。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部長。1993年佐賀医科大学卒。横浜市立大学医学部附属病院精神科、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所司法精神医学研究部、同研究所自殺予防総合対策センターなどを経て、2015年より現職。著書に『自傷行為の理解と援助』(日本評論社 2009)『自分を傷つけずにはいられない』(講談社 2015)『もしも「死にたい」と言われたら』(中外医学社 2015)『薬物依存症』(ちくま新書 2018)他多数。訳書にターナー『自傷からの回復』(監修 みすず書房 2009)カンツィアン他『人はなぜ依存症になるのか』(星和書店 2013)他多数。この本は友人に勧められて読んだのだが、松本俊彦医師の本を読むのは初めてだった。とにかく「目から鱗」のことばかり。依存症に対しての誤解が私の中からするすると抜けていく感じだった。特に、覚せい剤などについては、今までの誤解と偏見に満ちた自分を恥じる思いだ。この本を読んだら、メディアに取り上げられる芸能人たちの覚せい剤関係の報道が、いかに偏見に満ちたもので、それにより私達の目もどんどん曇り、その人に対するマイナスイメージが強化されているかを知るだろう。少なくとも私は、薬物依存となる人達へのまなざしは確実に変化した。多分、ほとんどの人が依存症に対する偏見を持っていると思うので、ぜひ読んでいただきたいと思う。「世界一やさしい依存症入門; やめられないのは誰かのせい? (14歳の世渡り術) 」松本俊彦「スマホもゲームもやめられない」「市販薬を飲む量が増えてきた」「本当はリスカをやめたい」…誰もがなりうる「依存症」について、最前線で治療にあたる精神科医がやさしくひも解く。《もくじ》はじめに第1章 気づいたらハマってた──モノへの依存 1事例:きっかけは、試験前のエナジードリンク:エミさん(中学2年)の場合カフェインがくれるのは「元気の前借り」市販薬は謎の薬! ?「周囲が求める自分」になりたくて疲れたときは、休もうよ第2章 居場所がほしかっただけなのに──モノへの依存 2事例:大麻をくれたのは、憧れの人でした:ソウタくん(中学3年)の場合やめるのは簡単でも、やめつづけるのは難しいクスリをやるのは、意志が弱いから?アルコールは立派な薬物ゲートウェイ・ドラッグとしてのタバコ薬物の先にあるもの第3章 依存症のしくみと歴史脳がハイジャックされる!快感の正体、ドーパミン依存症になりやすい人、なりにくい人世界最古の薬物アルコホリック・アノニマスの誕生日本の薬物対策史規制するだけでは解決しない命を守る、ハーム・リダクションそれでも薬物をやらないほうがいい理由第4章 僕が僕であるために──行為への依存 1事例:気晴らしが止まらない:カイトくん(中学1年)の場合手の中の小さな部屋、スマホ今、このときを乗り切るためにゲームと心中するほどバカじゃないSNSにとらわれてインターネットが悪いのか?誰にだって起こりうる第5章 傷つけることで生きている──行為への依存 2事例:切った瞬間、すーっとしました:メイさん(中学3年)の場合拒食と過食のスパイラル心のストレスと食欲の関係切っているのは、皮膚だけじゃない死にたいくらいつらい今を、生き延びるトリガーはどこにある?心の蓋の奥にひそむものただ、そこにいてくれるだけで第6章 依存症の根っこにあるものある少年の物語友が求めていたものは依存症は、人に依存できない病困った子は、困っている子楽園ネズミと植民地ネズミ自立って何だ?第7章 社会と依存のいい関係見せしめの逆効果当たり前を疑う依存症はなくならない失敗しても、終わりじゃないありのままの自分を許す[きみとあなたへのメッセージ]依存症かもしれないきみへ友達が依存症かもしれないきみへ子どもが依存症かもしれない親御さんへ生徒が依存症かもしれない先生へ[ヒコ先生の相談室]・「あの子、依存症かも?」と思ったら・信頼できる大人の見分け方・依存症の友達に、どう接したらいい?・家族がゲームにハマったら・友達の腕にリスカの痕を見つけたら・逃げ場のつくり方・心の専門家になるには[困ったときの相談先リスト]この本は中学生向けの本だろうけれど、ぜひ大人も読んでほしい。私が長年薬物依存や行為依存などに対して誤解していたように、ほとんどの大人たちが誤解していると思う。できれば、学校でこれを教材にして依存症について学ぶ機会を作ってほしいと強く願う。そのためには、まず中学校や高校の先生たちに読んでほしいと思う。
2023年08月26日
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気楽に楽しめた本二冊。このような本は、読んだことを忘れてしまうのが常の私。「ランチのアッコちゃん」柚木 麻子∥著内容説明地味な派遣社員の三智子は彼氏にフラれて落ち込み、食欲もなかった。そこへ雲の上の存在である黒川敦子部長、通称“アッコさん”から声がかかる。「一週間、ランチを取り替えっこしましょう」。気乗りがしない三智子だったが、アッコさんの不思議なランチコースを巡るうち、少しずつ変わっていく自分に気づく(表題作)。読むほどに心が弾んでくる魔法の四編。読むとどんどん元気が出るスペシャルビタミン小説!「よなかの散歩」角田光代/著恋人にカレーが好きといわれるがっかり感。住んでわかった新しい「家族」のすごいところ。なぜ私は家計簿をかかさずつけるのか。そして、なぜ子供が写った年賀状が好きなのか?…食べ物、暮らし、旅のこと、人のこと。あせらずに、りきまずに。流れる毎日のあれこれをやわらかく綴る、小説家カクタさんの生活と(ちいさな)意見。共感保証付き、日常のおもしろさ味わいエッセイ。こちらは、現代日本の子どもや若者の生きづらさを抉る重い本。現在読んでいる本もあるのだけれど、それは後日。「君はなぜ、苦しいのか 人生を切り拓く、本当の社会学」石井 光太∥著日本の子供が感じている幸福度が、先進国38カ国のうち37位。子供のうち7人に1人が貧困、15人に1人がヤングケアラー、児童虐待の相談件数は年間20万件、小中学生の不登校は24万人以上、ネット依存の子供が100万人を突破……。子供たちを覆う息苦しさの正体とはいったい何なのか。貧困と格差をどう乗り越えるか、虐待する親からどうやって逃げるか、いじめはなぜなくならないか、マイノリティーといかに向き合うか……。子供が直面している困難の正体を見極めたうえで、マイナスをプラスに変える処方箋を提案する。「教育虐待 子供を壊す「教育熱心」な親たち 」(ハヤカワ新書) 石井 光太 (著) 作品紹介・あらすじ教育虐待とは、教育の名のもとに行われる違法な虐待行為だ。それは子どもの脳と心をいかに傷つけるのか。受験競争の本格化から大学全入時代の今に至るまでゆがんだ教育熱はどのように生じ、医学部9浪母親殺人事件などの悲劇を生んだのか。親子のあり方を問う。
2023年08月20日
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毎日暑い日が続き、ぼちぼちさんのブログで知って購入し読み始めた「存在しない女たち」は、なかなか進まない。そんな時、友人から「面白かったよ」と手渡された本がこれ。「くらのかみ」小野不由美「四人ゲーム」。まっくらな部屋の四隅に四人の人間が立ち、肩を順番に叩きながら部屋をぐるぐる回るゲームだ。とうぜん四人では成立しないはずのゲームを始めたところ、忽然と五人目が出現した! でもみんな最初からいたとしか思えない顔ぶればかり。――行者に祟られ座敷童子に守られているという古い豪壮な屋敷に、後継者選びのため親族一同が呼び集められたのだが、後継ぎの資格をもつ者の食事にのみ毒が入れられる事件や、さまざまな怪異が続出。謎を解くべく急遽、少年探偵団が結成された。もちろんメンバーの中には座敷童子も紛れこんでいるのだが……。これは面白かった。貸してくれた友人は小野不由美さんのファンタジーが好きなようで、以前「十二国記」を借りたのだが、私は物語に楽しく入り入りこめなかった記憶がある。これは児童小説なのだが、久しぶりに子どもの頃に面白い物語を読んでドキドキワクワクした感じが蘇った。描かれている広く複雑な構造の家が、私の生まれ育った家や、母親の実家を連想させるものだったのがその要因かもしれない。そういえば、私もお盆や正月に母の実家に行った時には、従妹たちと家の探検をしたことがある。きっと今では、そんな体験をするような子ども達は少ないのだろうな。久しぶりに児童向けの本を読んだような気がするが、児童書や絵本は高齢者にもお勧めです。
2023年08月03日
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「この父ありて 娘たちの歳月」梯久美子父を憎み、父を愛し、娘たちは書いた石牟礼道子、茨木のり子、島尾ミホ、田辺聖子、辺見じゅん……。不朽の名作を生んだ9人の女性作家たち。唯一無二の父娘(おやこ)関係が生んだ、彼女たちの強く、しなやかな生涯。『狂うひと』『原民喜』『サガレン』など、話題作を発表し続けるノンフィクション作家が紡ぐ、豊穣たる父娘の物語(ナイン・ストーリーズ)。目次・渡辺和子 目の前で父を惨殺された娘はなぜ、「あの場にいられてよかった」と語ったのか?・齋藤 史 二・二六事件で父は投獄された。その死後、天皇と対面した娘が抱いた感慨とは――。・島尾ミホ 慈愛に満ちた父を捨て、娘は幸薄い結婚を選んでしまい、それを悔い続けた……。・石垣りん 四人目の妻に甘えて暮らす、老いた父。嫌悪の中で、それでも娘は家族を養い続けた。・茨木のり子 時代に先駆けて「女の自立」を説いた父の教えを、娘は生涯貫いた。・田辺聖子 終戦後の混乱と窮乏のなかで病み衰えた父の弱さを、娘は受け入れられなかった。・辺見じゅん 父の望む人生を捨てた娘は、父の時代――戦争の物語を語り継ぐことを仕事とした。・萩原葉子 私は、父・朔太郎の犠牲者だった――。書かずには死ねないとの一念が、娘を作家にした。・石牟礼道子 貧しく苦しい生活の中でも自前の哲学を生きた父を、娘は生涯の範とした。 ・「書く女」とその父 あとがきにかえてどの父と娘の物語もとても興味深かった。子にとって父と母がどのような人でどのような時代に育ったのかは、その人の人生を大きく作用する。昨今「親ガチャ」なんて言葉もあるけれど、子どもは親を選ぶことはできない。良くも悪くも、その環境の中で育ち、その過程で育んだ個性や価値観で自分の道を歩いてゆくしかない。それは、どんな国、どんな時代に生まれようが同じだろう。通読して、「子の親ありてこの子あり」という思いを強くした。概して、娘にとって直接的な影響が強いのは母親のような気がするが、父親もまた娘の価値観や生き方に強い影響を与えているし、社会的に認めらる業績を残す女性には、父親の影響が強いのかもしれないとも感じた。私が興味深かったのは、「石垣りん」と「茨木のり子」の二人だ。私はこの二人の詩は、さほど読んでいるわけではないのだが好きである。お二人とも生活に根差した凛とした詩が多い印象で、何となく両者を混同するくらいである。しかし、この本を読むとお二人の成育環境は真逆ともいえる。それを改めて知り、人の個性はやはり生まれ持ったものが土台であり、そこに成育環境の影響を受けてゆくのだが、本来的な個性はよほどのことがない限り根本的に変わることはないのだろう。そんなことを感じながら、もっと色々なことも書きたいけれど、ここまでにしよう。
2023年07月13日
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忙しい時には隙間時間にちょこっと読めるから、図書館でエッセイなどを借りてくる。今回の二冊は、私にはとても対照的というか、考えさせられる本だった。何を考えさせられたかというと、人間は生まれ育った時代や環境で人格や価値観が形成されるのだなということ。もう一つは、時代や環境を超えて、人の個性はみんな異なるのだというあたりまえのこと。「ボクと、正義と、アンパンマンーなんのために生まれて、なにをして生きるのか」 「それゆけ!アンパンマン」「手のひらを太陽に」の生みの親やなせたかし氏による、愛と勇気の人生論。 戦争を経験した著者が考える、本当の正義とは。 国民的ヒーローのアンパンマンが生まれた背景や、子どもたちから学ぶ純粋な心など、著者のものづくりへの姿勢や生き方、温かな人柄が伺えるエッセイ集です。●第1章 ボクと、正義と、アンパンマン●第2章 子どもは先生●第3章 人生はよろこばせごっこ●第4章 女の子・男の子●第5章 表紙の取れた本アンパンマンはあまりちゃんと読んではいないけど、内容は知っている。私にはやなせたかしが編集していた「詩とメルヘン」の方がなじみがある。書店で手にとって、いいなと思う作品があったらよく買っていた。残念ながら、今はまったく手元にはない。今思えば、そのうちの何冊かでも手元に残しておけばよかった。私はやなせたかし氏の考え方には共感できることが多いので、このエッセイも無理なく受け止めることが出来たし、時代は変わっても普遍的な人間の価値はあるなと思ったのだが、彼の女性観・男性観には(やっぱり一昔前の人だな)と思うことが多かった。「よなかの散歩」角田光代/著恋人にカレーが好きといわれるがっかり感。住んでわかった新しい「家族」のすごいところ。なぜ私は家計簿をかかさずつけるのか。そして、なぜ子供が写った年賀状が好きなのか?……食べ物、暮らし、旅のこと、人のこと。あせらずに、りきまずに。流れる毎日のあれこれをやわらかく綴る、小説家カクタさんの生活と(ちいさな)意見。共感保証付き、日常のおもしろさ味わいエッセイ。確かに読みやすく面白かった。しかし、それは(わかるわかる、その感じ…)ではなく、(へ~ッ! そう考えたり感じる人なんだ)という、自分とは異なる感性の人に出会った面白さだ。さらに、日本社会は私の生きてきた70数年でとても変化したのだという実感。自分が普通に生活してきたので、戦後から現代までを激動の時代なんて考えてもみなかったけれど、やはりかなりの変化があったのだろう。本を読むって楽しいですね。
2023年07月10日
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「教誨」柚月裕子 /小学館〈 書籍の内容 〉女性死刑囚の心に迫る本格的長編犯罪小説!幼女二人を殺害した女性死刑囚が最期に遺した言葉――「約束は守ったよ、褒めて」 吉沢香純と母の静江は、遠縁の死刑囚三原響子から身柄引受人に指名され、刑の執行後に東京拘置所で遺骨と遺品を受け取った。響子は十年前、我が子も含む女児二人を殺めたとされた。香純は、響子の遺骨を三原家の墓におさめてもらうため、菩提寺がある青森県相野町を単身訪れる。香純は、響子が最期に遺した言葉の真意を探るため、事件を知る関係者と面会を重ねてゆく。〈 編集者からのおすすめ情報 〉ベストセラー『孤狼の血』『慈雨』『盤上の向日葵』に連なる一年ぶりの長編!「自分の作品のなかで、犯罪というものを一番掘り下げた作品です。執筆中、辛くてなんども書けなくなりました。こんなに苦しかった作品ははじめてです。響子が交わした約束とはなんだったのか、香純と一緒に追いかけてください」――柚月裕子新聞でこの作品を知り、図書館に予約して借りた本。予約してから随分時間が経っているので、きっと大勢の予約者がいたのだろう。読み始めたら内容や展開に引き込まれ、昨日は雨だったので読み続けて読了。この作品で想起する事件があるが、ひょっとすると作者はこのような事件への「?」が執筆の動機になったのだろうか。とても良く書けていると思うし、このようなこともあるのだろうなと妙に納得しながら読んでいる私は、作品にのめりこんでいるというよりも、このようなことが起きうる日本社会をどうしたらよいのかということを考えていたような気がする。北海道という、本州よりは家意識や男尊女卑意識の低い土地に生まれ育ち生きている私には、家族を取り巻くあまりにも理不尽な習俗や価値観は、葉想像を超える設定なのだが、今でもこのような空気は色濃く残っているのかもしれないとは思う。なかなか薄まらないこのような重苦しく澱んだ空気の上に、さらなる現代社会の歪みが加われば、今後も「信じられない」「それが親のすることか」「なんで逃げ出さないのか」「イヤと言えばいいだけなのに」などと言われる出来事も減ることはないのだろう。「面白い」とは言えない内容だが、事件の取り調べ、裁判のありよう、刑が確定後の死刑囚の皹や思い、犯人の家族や周囲や、この作品にはあまり出てこないが被害者関連のその後、果ては処刑後の諸々など、あまり事件とは関わりなく生きている人が知らないことが沢山書かれている。私は比較的このようなことに関する本や記事を読んでいるのでさほど目新しくはなかったが、それでも考えさせられることはとても多かった。作者は随分色々調べり関係者に学んだりしてこの作品を書いたのだろうと思う。私はたった一日で読んだけれど、この作品にどれほどの時間をかけたのだろうか。作家の努力に頭を下げる思いだ。そう思いつつ、作者のこの作品を書いたことのエピソードがないかと調べたら、下記の記事を見つけた。ネット社会、ありがとう。【著者インタビュー】柚月裕子『教誨』/理不尽な事件に対して抱く戸惑いや「どうして?」を小説に描く2022/12/11この記事が載っていた下記のサイト、面白そう。
2023年06月10日
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「また会う日まで」池澤 夏樹 著 /朝日新聞出版 海軍軍人、天文学者、クリスチャンとして、明治から戦後までを生きた秋吉利雄。この三つの資質はどのように混じり合い、競い合ったのか。著者の祖母の兄である大伯父を主人公にした伝記と日本の近代史を融合した超弩級の歴史小説。『静かな大地』『ワカタケル』につづく史伝小説で、円熟した作家の新たな代表作が誕生した。朝日新聞大好評連載小説の書籍化。〇長編小説の冒頭は印象的な場面からはじまる。主人公の秋吉利雄は病におかされ、死を前にして自らの生涯を思い返す。息子と一緒に行った球場で驟雨に打たれながら、自分の生きてきた道筋はどのようなものだったのか、改めて考える。天文学者として自分の手がつむぎだした計算結果が飛行機や軍艦を導き、人の上に爆弾や砲弾を降らせた。海軍の軍人であることは、クリスチャンとしての第六戒「汝、殺すなかれ」にあきらかにそむいたのだ。戦争に加担してきたことを悔いる。*長崎の熱心なクリスチャンの家庭で育った秋吉利雄は、難関の海軍兵学校に入学、優秀な成績で卒業した。その後、海軍大学校を経て東大で天文学を学び、海軍の水路部に入った。幼なじみのチヨと結婚したが、10年共に暮らしたチヨは長女の病気を世話するうちに感染して他界した。妻を失った利雄は職務に専念する。1934年、日本統治下のローソップ島へ、国内外の研究者を率いて皆既日食観測に向かい、大きな成果をあげた。島を離れる時に交流をふかめた島民がうたってくれた賛美歌「また会う日まで」が思いおこされる。この日にこそ私は帰りたい。アメリカへ留学経験もあるヨ子(ルビ・よね)と再婚し、養子にむかえた亡き妹の次男、チヨの遺した長女も交えて新たな生活がはじまった。 1937年、天皇陛下が水路部に行幸されることになり、天文・潮汐を掌理する部門を率いる立場からご説明を申し上げた。水路部で日本近海の調査業務にかかわったが、1941年、山本五十六大将によばれ、真珠湾の精密な潮汐表を求められた。 アメリカとの戦争がついに始まる。ミッドウェー海戦では、海軍兵学校の同期、加来止男(ルビ・かくとめお)が空母「飛龍」の艦長として戦死した。この年、養子にした甥の文彦が17歳で天に召された。ついに学徒出陣がはじまり、戦況は悪化したため、水路部は分散疎開がすすみ、東京郊外の立教高等女学校に水路部の井の頭分室を設置した。ここで生徒の協力を得て、天測暦が作られた。築地では信仰の仲間でもある聖路加の日野原重明医師とすれちがって、長い立ち話をした。1944年、甥の福永武彦が山下澄と結婚して、その後、夏樹が生まれた。 1945年3月10日の東京大空襲により、築地の水路部も被災したので、かねて準備していた岡山の笠岡に家族とともに疎開した。戦争が終わって、一家は東京に戻ったが、公職追放で次の職場はなく、軍人恩給も停止された。妻のヨ子はGHQの仕事を得て活躍するようになった。兵学校の同期のMとなじみの居酒屋で、あの戦争を振り返る。そして娘の洋子が父の秋吉利雄の最期を記す。病床の父は聖歌の「主よ、みもとに」を歌って欲しいと言った。父が亡くなったあと、洋子と4人の弟妹の歩みが記され、水路部の部下によるお墓まいり、そして作者からのことばで「また会う日まで」は終わりをむかえる。〇目次から終わりの思い 海軍兵学校へ 練習艦隊 第七戒 海から陸へ、星界へ 三つの光、一つの闇 チヨよ、チヨよ ローソップ島 ベターハーフ 潜水艦とスカーレット・オハラ 緒戦とその先 戦争の日常 立教高等女学校 笠岡へ 終戦/敗戦 希望と失意 主よ、みもとに コーダ 新聞の書評で読み、面白そうだと図書館で予約して借りた本。図書館で手に取り、あまりの分厚さにビックリ。少し忙しい時期だったので、期間中には読めないかと思いつつ、それでも最後まで目を通したくて、終盤は久しぶりの飛ばし読み。著者の池澤夏樹は、福永武彦息子であり、この作品は父方の大叔父が主人公である。私が興味を持ったのは、主人公の秋吉利雄が、敬虔なクリスチャンであり、天文学者で海軍軍人だったということであった。科学者で信徒で軍人ということが、一人の人間の中でどう折り合いをつけるのかを、どのように描くのかが私の主たる関心だった。しかし、読み進めると秋吉利雄を取り巻く環境は予想以上に複雑であり、かつ戦前から戦後までの諸々の日本の社会環境が書き込まれているので、理解しながら読み進めるのには時間がかかった。さらに、もう一つのサブテーマのように、登場する女性たちの生きざまもまた多様であった。戦争をはさんだあの時代は、誰にとっても時代と生き方の折り合いをつけるのは大変だっただろうと思うと、そちらの方も興味深かった。しかし、何せ時間が足りず、後半はただあらすじを辿ったのみである。ただ、様々な場面で、信仰を持つ人はこのように考えるのかと思うことは多々あった。信仰を持たない私には、「そうなのか…」と思うしかないのだが、信仰という芯がある人は強いなとも思うし、少し羨ましくも思う。今、これを書こうとしてネット検索をしたら、下記の池澤さんの記事を見つけた。参考までにコピーしておこう。池澤夏樹が3作目の歴史小説「また会う日まで」で描いた大伯父の3つの顔 現在と重なる日本の戦中史 作家・池澤夏樹さん(77)が、自身3作目となる歴史小説『また会う日まで』(朝日新聞出版)を刊行した。主人公は、父方の祖母の兄(大伯父)にあたる秋吉利雄。明治から戦後までを生きた秋吉の生涯を通して、日本の戦中戦後史が描かれている。(飯田樹与)◆ただの「親族の一人」だったはずが… 主人公・秋吉は、天測や海図製作などを担当する「水路部」に属する海軍軍人で航海術に業績を残した天文学者、敬虔けいけんなキリスト教徒という三つの顔を持っていた希有けうな人物だ。 「親族の一人」という程度の認識だった池澤さんは、秋吉の三男が残した秋吉に関する資料を譲り受け、大伯父の三つの顔に興味を引かれたという。「信者と軍人では十戒の『汝なんじ、殺すなかれ』に反することになる。非常に悩んだんじゃないか。三つの人格にどう折り合いを付けたのだろう」 折々に自問する秋吉の姿がリアルだが、残された資料には日記はないという。中学校の卒業生総代として読み上げた答辞、練習艦寄港地から送った絵はがき、日本統治下のローソップ島で皆既日食観測を指揮した際の隊員の手記などが保管されており、聖書と合わせて作中に多く引用され、確かに生きていた人なのだと、ぬくもりを感じさせる。特に印象的だったのは、前妻・チヨが亡くなるシーン。親族や教会関係者に宛てたと思われる文章は、報告文のように淡々としている。が、秋吉の深い悲しみがじわりとにじむ。池澤さんは秋吉の人柄を、「冷静に伝えようとしながら気持ちがあふれる文章が書ける。やっぱり魅力的な人物だったのでは」と話す。◆軍部、メディア、国民…今と重なる 秋吉の妹で池澤さんの祖母にあたるトヨ、前妻・チヨ、後妻・ヨ子ね…。夫に付き従うのが当たり前という、当時の女性像とは大きく懸け離れた女性たちが登場する。終戦後の公職追放で職を失った秋吉に代わり、米国に留学経験のあるヨ子は連合国軍総司令部(GHQ)に雇われ、家族を支える。〈うちは奥方といっても奥にはいない。家内といっても家の内にはいない。むしろ家外と呼ぶべきものだ〉という秋吉のせりふに、ニヤッとしてしまう。「女性が生き生きとしている話を書きたかった」と池澤さんは語るが、背景にはそうした女性がいた一方で、伯母や母親のように性別を理由に不遇な目に遭った女性の存在もあるという。「(彼女たちの)リベンジをしているんだ」 軍艦や飛行機が位置を把握するための暦の作製にあたった秋吉は、泥沼化する戦争の中を歩んだ。「歴史というのは、時間がたたないと正確な図が見えてこない。今、私たちが共有する戦争の像を書きたい」。 そこで池澤さんは語り手として秋吉の海軍兵学校同期「M」を創作した。不都合な事実を隠した軍部、国民をあおるメディア、熱狂する国民—無謀な戦争に突き進んだ裏側を説いた。 80年ほど前の出来事だが、どこか今と重なって見えるのが恐ろしい。 「政府はウソをつくし、文書を焼くし、メディアはあおるし。大衆はころころ(意見が)変わる。戦争中と同じことをしているなと思いますよ」と苦笑いする池澤さん。世界全体で見ても、不穏さが増している。「結果としてみると、現実にある意味、こんなに近い小説は書いたことないかもしれないね」この文章を読み、海軍兵学校同期の「M」という人物は架空の人だとわかった。実は、きっとモデルがいるのだろうと思っていたのだ。しかし、きっとМのような人もいたのではないだろうか。「政府はウソをつくし、文書を焼くし、メディアはあおるし。大衆はころころ(意見が)変わる。」という池澤氏の言葉に、心から共感する。
2023年06月06日
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「清浄島」河崎秋子著風が強く吹きつける日本海最北の離島、礼文島。昭和二十九年初夏、動物学者である土橋義明は単身、ここに赴任する。島の出身者から相次いで発見された「エキノコックス症」を解明するためだった。それは米粒ほどの寄生虫によって、腹が膨れて死に至る謎多き感染症。懸命に生きる島民を苛む病を撲滅すべく土橋は奮闘を続ける。だが、島外への更なる流行拡大を防ぐため、ある苦しい決断を迫られ……。「エキノコックス症」は、北海道に住む人間なら一度は聞いたことがあるのではないか。キツネに寄生していると思っていたのだが、犬にも寄生するということは恥ずかしながらこの本を読んで知った。(道民として知らなかったでは済まされませんね、反省!)また、礼文島で発生しこのようなことが起きていたことは、まったく知らなかった。色々な意味でとても勉強になったし、人間と他の生き物との関係を考えずにはいられなかった。人間はいつも良かれと思って何かをしているのだが、それがいつも期待通りの結果になるわけではなく、時々自然界からとてつもないしっぺ返しをされることがある。それに気付いた時には、人はその問題を解決しようと立ち向かうのだが自然の力というものは人間の浅知恵をあざ笑うようなことがある。河崎秋子さんの作品は、いつもとても考えさせられる。文体も情緒的ではなくていつも何かを突きつけられるような感じなのだが、それは決して冷たさではなくて大地に根差した強さと大らかさもある。過酷な現実に立ち向かうには、人間同士の助け合いが不可欠だということも感じさせてくれる。しかし、自己防衛の気持ちが強すぎると、それは差別や排除にもつながりやすいことも。エキノコックスは現在進行形のものである。本州から観光で来た人たち、キツネを見ても可愛いなんてエサを与えないで下さいね。
2023年05月12日
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「硝子の葦」 桜木紫乃/著道東・釧路で『ホテルローヤル』を営む幸田喜一郎が交通事故で意識不明の重体となった。年の離れた夫を看病する妻・節子の平穏な日常にも亀裂が入り、闇が溢れ出す――。彼女が愛人関係にある澤木とともに、家出した夫の一人娘を探し始めると、次々と謎に直面する。短歌仲間の家庭に潜む秘密、その娘の誘拐事件、長らく夫の愛人だった母の失踪……。驚愕の結末を迎える傑作ミステリー。桜木さんの本は読みやすいので、図書館で未読の本が目についたら借りてくる。この本も、事前に全く知らずに借りてきた。うーん、正直なところ私好みの内容ではない。確かに、読み物としては面白いかもしれないし、人間の闇や業について関心を抱き始める時には考えさせられるかも。でも、今の私はもっと人間の善さを感じられるものがいいな。しかし、こんなにグチャグチャ・ドロドロの人間模様を、こんなこともあるかもというような感じで、サラっと表現できるのは流石かな。彼女の作品に共通するのは、女性の強さでありしなやかさだと思う。そこが好きなのだが、この作品は△である。この作品、ドラマ化されていたことを今知った。
2023年04月30日
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読んでもすぐに忘れてしまう私。そのためにも、読書記録は二重読みを避けるためにも必要。と思ってメモしているけれど、それを確認せずに図書館で二重借りして、読み始めてから「私、これ読んだことある」と自分にガッカリすること数知れず。ということで、メモ・メモ…。「PLUTO (プルートウ) 全8巻」 浦沢 直樹 (著)長男の家でこれを見つけて借りてきた。浦沢直樹の漫画である。次男は「お母さんには前に貸したよ」というのだが、覚えていなかった。読み始めたら、確かに読んだような気がするが完全に忘れていたので再度飛ばし読み。手塚治虫の「鉄腕アトム」の中の「地上最大のロボット」をリメイクした作品だという。手塚治虫も凄いけれど、浦沢直樹も別の意味で凄いなと感じる。現在、AI(人工知能)が様々な分野で応用されていて、最近はチャットGPTについても色々な問題が指摘されている。原子力の問題もAIの問題も、作者の脳裏には予想済みのことだったのだろうか。そんなことを思いながら読み進み、この技術開発の末の人間の役割は何か、その先にどんな希望の未来があるのかないのかという感じであった。登場人物がややこしくて(これはどんな漫画を読んだ時も感じるのは年のせいか?)なかなか全部が理解できないままなのだが、とりあえず読みましたよ。感想は…、うーん、ひょっとすると作者も落としどころは明確には見えていないかも。というのは、私がわからないことの裏返しか?ハッキリ言って、人間はどんどん技術開発をしていて、色々と便利なことも多くなっているのだが、それで失うものとのバランスはとても危うい。その危うさを回避する知恵は、AIに頼るのかそれとも人間に残された能力なのか、多分誰もわかってはいないのかもしれない。そんな時代に私たちは生きているんだろう。千早 茜 「さんかく」「桜の首飾り」「しろがねの葉」が面白かったのでこの二冊を借りたのだが、期待が大きかったせいかそれほど面白いと感じられなかった。「犬棒日記」乃南アサ「犬も歩けば棒に当たる」のように、外に出ると色んな人に出会う。ということでの、作者の観察日記。眠り薬のように読んだのだが、面白い人は面白いのかもしれない。しかし作家というものは、このように常にネタ話を探して歩いているものなのだろうか。それとも、周囲に関心を持ち続けて普通は見過ごすようなこともキャッチする体質が、作家になれる素質なのだろうか。多分私も、歩きながら色々と妄想や想像をめぐらす方だとは思うが、彼女とは少し方向性が違うので、多分同じ場面に遭遇しても違う感想を持つだろう。それに、私は他人の会話は耳に入れないように避けるのが決定的に違う。私は、自分に話してくれていないことは聞かないことにしたい方なのだ。
2023年04月12日
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「アウシュヴィッツのお針子」ルーシー・アドリントン 著/宇丹貴代実 (翻訳)絶滅収容所のファッションサロンをめぐる、衝撃と感動の実話!!ナチス幹部家族らの服を仕立てることで、地獄を生き延びたユダヤ人女性たちがいた。針と糸、そして強い友情の絆で抵抗した、不屈の物語。「とうてい信じられない話でしょう?不屈の囚われ人の一団が、ヘス夫人をはじめ、ナチス親衛隊の妻たちのために型紙を起こし、布を裁断して縫いあわせ、装飾をつけて、美しい衣服を作っていた。まさに自分たちを劣等人種として蔑む人々のために。アウシュヴィッツのサロンのお針子たちにとって、縫うことはガス室と焼却炉から逃れる手段だったのだ」(本文より)ホロコースト関係の本は結構読んでいる方だと思うが、このような視点で書かれたものは初めてのような気がする。人間というものは、状況によりかくも残酷になれるのかということは、現在のウクライナのニュースでもよく感じるものだ。そしてまた、どれほどの悲惨で地獄のような状況でも、人間らしさを失わずに前向きになれる人もいる。読んでいると辛くなり、なかなか読み進めなかったのだが、図書館の返却期限が迫って頑張って最後まで読んだ。彼女たちが生き延びることが出来たのは、洋裁の技術と、戦前の絆と友情と信頼そして自分たちではどうしようもない「運」であった。しかし、運よくアウシュヴィッツから解放されたとしても、その後また過酷な日々が続いている。故郷に戻ってもユダヤ人に対する偏見や忌避感がすぐに解消されるはずもなく、かつての住居は他人のものとなっていて、新たに生きる場所を見つけなくてはならない。そんなことをわが身のこととして無理やり想像したなら、二度三度と絶望感に陥るだろうし、収容所生活で心身に病を得ていることは多い。さらに、過酷な体験でのPTSDに不断に苦しめられる。その体験は、同じ体験をした人同士では理解されるはずもなく、子どもや孫にも何も言わなかった人もいる。戦争というものは、本当に残酷なものだとあらためて思う。
2023年03月28日
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「アマゾンおケイ」の肖像 /著者:小川 和久女は凄い! 人間は凄い! 生きる力が伝わってくる。柳田邦男氏(ノンフィクション作家)激賞!──13歳でブラジル移民、横浜でカフェ経営、上海で外交官と恋に落ち、強運で一攫千金、女性実業家として大成功するが……「自立した女性」として激動の20世紀を生きぬいた「母」の波瀾万丈の人生を描く入魂のノンフィクション!女手ひとつで自分を育てた「母」の数奇で破天荒な人生を丹念に追跡し活写!──熊本の没落地主の家に生まれ、13歳で叔父夫婦とブラジルへ移民、開拓農場を脱走してダンサー&タイピストとして自活。横浜でカフェを経営し、ビジネスを学びに渡った上海でアメリカ人外交官と運命の恋に落ちるが、破局。しかし宝くじで一攫千金! 女性実業家として大成功するが、戦中戦後の混乱ですべてを失い……「いついかなるときでも、凜とした女性として一度たりとも誇りを失わなかった」と著者が回想する「母」に捧げた傑作ノンフィクション!著者プロフィール小川和久(おがわ・かずひさ)1945年12月、熊本県生まれ。軍事アナリスト、作家。特定非営利活動法人国際変動研究所理事長。静岡県立大学グローバル地域センター特任教授。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。『日本海新聞』記者、『週刊現代』(講談社)記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わる。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。橋本内閣における普天間基地返還交渉、小渕内閣における情報収集衛星とドクター・ヘリの導入などで中心的な役割を果たす。『フテンマ戦記 基地返還が迷走し続ける本当の理由』(文藝春秋)、『日米同盟のリアリズム』(文春新書)ほか著書多数。新聞の書評で知り、図書館で借りた本。小川和久氏のことは、軍事アナリストとして知ってはいたが、そのお母さまがこのような人生を歩まれた人だったとは!「女は凄い! 人間は凄い!」と柳田邦夫氏が激賞しているそうだが、むべなるかなである。人生を切り開こうとする強い意志がある人には、幸運もめぐってくるのだろうか。しかし、どのように幸運が重なったとしても、それをどのように生かすかはその人の人格や倫理観・道徳観も大きな影響を与えるだろう。「いついかなるときでも、凜とした女性として一度たりとも誇りを失わなかった」と著者であり一人息子の和久氏は語るが、息子にそう言わしめた彼女に心から感服する。だとしても、これほど波乱万丈の母親の元に育つのには、和久氏も様々な思いを重ねながら生きてきたであろう。まさに、彼女とその周辺の人達との交流も含めてドラマ化したら戦前・戦中・戦後の日本の一面をあぶりだすにはうってつけの、アマゾンおケイの人生だと思う。
2023年02月27日
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「塞王の楯」を読んでとても面白かったので、夫が下記の単行本を買ってきた。ということで、夫が読み終えた後、私も読んでみた。「八本目の槍 」今村翔吾/著秀吉の配下となった八人の若者。七人は「賤ケ岳の七本槍」とよばれ、別々の道を進む。出世だけを願う者、「愛」だけを欲する者、「裏切り」だけを求められる者――。残る一人は、関ケ原ですべてを失った。この小説を読み終えたとき、その男、石田三成のことを、あなたは好きになるだろう。歴史小説最注目作家、期待の上をいく飛翔作。いや、面白かった。「賤ケ岳七本槍」と呼ばれた、秀吉の小姓たちのその後の物語。これがどの程度史実に基づいた人物像なのかわからないけれど、物事の見え方は人によって違うということを改めて考えさせられた。そして、もしも八本目の槍の人がこのような人だったならと思うと、彼に代わって今村翔吾氏に頭を下げたい気分だ。ただ、小姓時代の名前と改名された名前がすぐに頭に入らず、そこだけが私にとっては行ったり来たりで忙しかった。
2023年02月23日
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「いっちみち」乃南アサ短編傑作選 (新潮文庫)内容紹介(出版社より)家族が引き起こした不祥事で故郷を離れ、コロナ禍のなか帰郷した女性。母の実家で、家業代々の秘密を知った息子。両親を事故で失い、我が家にやってきた不思議な従妹。わかりあえると思ったら、遠ざかる。温かいのに怖い。恋があって、愛があって家族になったはずなのに──。「人間」という人生最大のミステリーを描き続けてきた作家による、傑作短編を精選した文庫オリジナルアンソロジー。図書館に本を返却しに行って、寝ながら読める単行本を探していた時、この本をみつけた。最初の「いっちみち」を流し読みして選んだのだが、私好みはこの一作だけ。あとは不気味なミステリーの連続で、なんだか嫌な気持ちになって眠りにくくなる。フィクションのミステリーではあるのだが、人間のおぞましさを抉られるような感じなのだ。ブラックユーモア程度ならまだいいのだけど。ということで、「だまされた!」。この短編集のレビューを読んでいて、「イヤミス」という単語(ジャンル?)を知った。イヤミスとは? イヤミス の意味とおすすめ作家の代表作イヤミスとは、ミステリー小説の一種で、読んだ後に「嫌な気分」になる小説のことだという。ここに紹介されている作家では、湊かなえの「告白」しか読んでいないのだが、あの一作で私は彼女の作品を読んではいない。本を読んで嫌な気分になるのは御免だというのが私の読書傾向。でも、このような作品を好む人もいるようだ。乃南さんの作品には好きなものも多いので、彼女はこのような作品も書けるのだと感心した。読者の心をひきつける作品を書けることでは、彼女は職人に近いのだろう。
2023年02月14日
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「しろがねの葉」千早茜/著【内容】戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出されて……。生きることの官能を描き切った新境地にして渾身の大河長篇!第168回直木賞受賞作【著者情報】千早茜(チハヤアカネ)1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で第二十一回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。同作は09年に第三十七回泉鏡花文学賞を受賞した。13年『あとかた』で第二十回島清恋愛文学賞を、21年『透明な夜の香り』で第六回渡辺淳一文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)これまでこの作家の作品は読んだことがなかったのだが、直木賞を受賞したことで興味を持った。北海道出身であり、何年か前に石見銀山に行ったこともあるし、主人公が女性ということで図書館で順番待ちするのもイヤだったので購入した。石見銀山もそうだが、佐渡の金山、銀山温泉の坑道に入ったことがある。観光客が入れるように整備してあるし、電灯もあるので不安にはならないのだが、電気もなく、先がどうなっているのか、いつ落盤になるのかわからない狭い場所で終日働いていた人達のことを考えると、命がけのきつい仕事だったであろうことまでは私でも想像できた。古い時代では、男は坑道で岩石を掘り、女は運び出した鉱石の選別などを担っていたのだろうとも思った記憶がある。それにしても作家の想像力は凄いとまたしても思う。そこでもしも女性が働いていたなら…とか、狭い坑道は子どもの方が使い勝手が良かったのではないか、など、千早さんの想像力は物語に昇華させるほどまでに大きく、地中に鉱石を求める行動のように次々に広がり枝分かれしながら膨らんだのだろう。というのは、文体はとても平易で光景が眼前に広がるような描写が続くのだ。孤児として山師に育てられた少女・ウメの心理や成長も、私には想像できない状況なのにリアルに納得できるものだ。またしても、期待する作家が登場してくれたと嬉しくなってくる。人は生きることを脅かされるときに強くもなり生命力が爆発するのかもしれない。銀山のように、常に命を削りながらのように生きざるを得ない男女にとって、生は性であり、生と死は表裏一体のもので、好むと好まざるに関わらず、人間の命の業とでもいうようなものに巻きこまれつつ、次の命をつなごうとする。その迫力には、ただ圧倒される思いだった。現代でも同じなのかもしれない。様々な事情で命を脅かされ、長生きは望めないような地域では、子どもは沢山生まれる。日本で少子化になるのは、当然のことなのかもしれない。【参考】はじめての石見銀山千早茜さん、初の時代小説「しろがねの葉」インタビュー 石見銀山で生きる女の濃厚な「性と死」描く濃密な生と官能とともに「人はなぜ生きるのか」を描く 『しろがねの葉』千早茜インタビュー
2023年02月12日
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「塞王の楯」今村祥吾【あらすじ】幼い頃、落城によって家族を喪った石工の匡介(きょうすけ)。彼は「絶対に破られない石垣」を作れば、世から戦を無くせると考えていた。一方、戦で父を喪った鉄砲職人の彦九郎(げんくろう)は「どんな城も落とす砲」で人を殺し、その恐怖を天下に知らしめれば、戦をする者はいなくなると考えていた。秀吉が病死し、戦乱の気配が近づく中、匡介は京極高次に琵琶湖畔にある大津城の石垣の改修を任される。攻め手の石田三成は、彦九郎に鉄砲作りを依頼した。大軍に囲まれ絶体絶命の大津城を舞台に、信念をかけた職人の対決が幕を開ける。この作品が直木賞を取った時は、さほどの興味を抱くことはなかった。というのは、その題名から何となく戦いにまつわる話だと思い込み、読んでみたいと思わなかったのだ。しかし最近、この作品が城壁づくりの石工集団、穴太衆が主役と知り興味がわいた。受賞してから時間が経っていたので、図書館ですぐに借りることが出来た。石垣づくりの穴太衆にという職人集団については知ってはいたが、彼らについても城郭づくりのノウハウについても全く知らなかったので、読んでいてとにかく面白かった。棚田づくりも、穴太衆の技術が生かされていることを改めて知った。この物語においては、人の命を守るための城郭づくりの穴太衆と、鉄砲づくりの国友衆の、いわゆる楯と矛のせめぎあいの物語。双方の職人たちは、お互いに自分の技で争いの時代を終わらせたいと切磋琢磨する。圧倒的な武器で防御しようとする立場と、決して崩れない楯としての城づくり。最後の方は、石垣でそんなことができるんだとビックリするし、守りながら攻めるという息をのむような命がけの職人たちの戦い。正直なところ、そんな最後の方は飛ばし読みしてしまったのだが、争いごとが嫌いな私でも面白く読み終えることが出来た。さて、現代の楯と矛はどうなっているのか。武器の方は今や核までいっていて、矛の前には楯は無力のような気がする時もあるが、常に争いを生むのは人間の心であることは今も昔も変わらない。だとすれば、やはり楯となるのは「争いを起こさない」という覚悟しかないのではないか。しかし人間の心は本当に弱いし、それは簡単なことではないだろう。だが、その覚悟なしでは、決して平和をつかむことはできないだろう。なんて、色々なことを考えさせられる作品だった。ところで穴太衆の末裔はと検索したら、株式会社粟田建設がその伝統を守っている。国友衆はどうなったのかと調べたら、国友鉄砲の里資料館があった。国友衆の流れをくむSKB (銃器メーカー)もあった。なるほどねえ。
2023年02月08日
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「むさぼらなかった男」 渋沢栄一「士魂商才」の人生秘録/中村彰彦著「幕末の志士」から「日本資本主義の父」へ。誰も知らなかった渋沢栄一の素顔を直木賞作家の中村彰彦が解明する。歴史秘録の決定版!図書館で目について借りてきた。大河ドラマ「晴天を衝け」で渋沢栄一を初めて知って、こんな人がいたのだと感動した。原作は読んでいなかったし、図書館でこの本が目につき借りてきた。内容はほぼ大河ドラマと同じようなことなので、さらに詳しく記録をもとに記されているので、とても興味深かった。あらためて、あれだけの仕事をしながら「むさぼらなかった人」渋沢栄一の偉さを思う。現在の経済界で、彼のような人がいるのだろうか。今ネットで「渋沢栄一」を検索したら、こんな財団があることを知った。面白そうなので、あとでゆっくり見てみよう。公益財団法人 渋沢栄一記念財団
2023年02月03日
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「夕鶴の家 父と私」辺見じゅん紹介家族、文学、民話、昭和史、そして自身について-ひたむきな生を求め続けた「昭和の語り部」の全貌をたどる。目次1 父の娘(薬のはなしちいさな一歩 ほか)2 神々幻視行(さまざまの生死に出会う東京のかくれ道 ほか)3 昭和の語り部(夢の跡-映画『新しき土』をめぐる人々日本を愛したスパイ-終戦和平工作に奔走した二人の外国人の軌跡)4 散歩道(冬の虹片割れ良寛 ほか)5 記憶の海へ(戦艦大和の贅沢メニュー「大和」とともに沈んだウイスキー ほか)附録「泰山木」の時代辺見じゅんさんはノンフィクション作家だと思い込んでいたのだが、そうでもなかったようだ。作家であり歌人であり、民俗学・近代史学にも深い関心を抱いていて、私生活では色々なことがあり多忙だったと思うが、フィールドワークも精力的に行っていた。お父さんは角川源義(角川書店創業者)氏、弟は角川春樹氏である。この本は、父である角川源義にまつわるエピソードなど色々と書かれており、知らなかったことばかりなので興味深かった。
2023年01月28日
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「自民党の統一教会汚染」鈴木 エイト (著)〈 書籍の内容 〉安倍元首相と教団、本当の関係。メディアが統一教会と政治家の関係をタブーとするなか、教団と政治家の圧力に屈せずただひとり、問題を追及しつづけてきたジャーナリストがすべてを記録した衝撃レポート、緊急刊行!〈事件の10か月前、この宗教団体のフロント機関が主催するオンライン集会に予め撮影したビデオメッセージでリモート登壇した安倍は基調演説の中で、教団の最高権力者への賛辞を述べていた。全世界へ配信された安倍の基調演説を見た山上は犯行を決意。この”動機”は山上の思い込みなのか、それとも一定以上の確度をもって裏付けられるものなのか。その検証は第2次安倍政権発足後、9年間、3000日以上にわたって自民党とこの宗教団体の関係性を追ってきた私だけがなし得るものだった。日本の憲政史上最も長い期間、内閣総理大臣を務めた安倍が殺害されるに至った道程を記す。〉(プロローグより)〈 編集者からのおすすめ情報 〉事件以降、次々と明るみになる自民党と旧統一教会の関係を、その何年も前から追い続けていたのが鈴木エイト氏です。鈴木氏は、刊行の当てもないままこの本の元となった原稿を以前から書きためていました。テレビ出演など大忙しのなかその原稿に大幅加筆し、この緊急刊行にこぎ着けることができました。圧力に屈せず真実をひたすらに追い続けたジャーナリストの、覚悟と執念の集大成です。自分で買おうかと思ったのだが、内容はネットでも大体わかるような気がしたので、図書館で少し待って借りた。故安倍首相襲撃事件から、鈴木エイト氏をテレビで知った。長年統一教会等のカルト宗教のことについて追い続けていた人のようだが、私は今回のことがあるまで全く知らなかった。よく今まで危険もありながらも追い続けてきてくれたと思う。それにしても、書かれている内容は予想以上のもので、自民党の旧統一教会とのあまりにもひどい癒着が長年続いてきたことに、頭を抱えてしまう。政治家たちは、権力を握るためにここまで堕落してしまっていたのか。日本や政治家たちをバカにしていた教祖の考え方を多少でもわかっていたら、あんなことにはならなかっただろうと思うのだが、そんなことは票の前にはどうでもいいことだったのか。それほどに自民党の大物政治家たちはバカだったというか、信念がないというか。日本人としての、いや政治家としての矜持も、サタンに売り飛ばしたかのようだ。昨日、山上容疑者が起訴されたというニュースを見たが、結局は彼の暴挙の裁判だけに矮小化されてしまうのではないか。少数のトカゲのしっぽになった政治家だけは切られたが、大物たちはまだぬくぬくとしていることとにかく腹が立って仕方がない。これからのジャーナリストたちの発奮を祈る。
2023年01月14日
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「義民が駆ける 」藤沢周平老中の指嗾による三方国替え。苛酷な運命に抗し、荘内領民は大挙江戸に上り強訴、遂に将軍裁可を覆す。天保期の義民一揆の顛末。このような農民たちがいたんだ。「ダモイ遙かに」辺見じゅんこのような人がいたんだ。あとで、もう少し感想を書きたいと思う。
2023年01月05日
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「土に贖う」河崎秋子【第39回新田次郎文学賞受賞】大藪春彦賞受賞第一作!明治時代の札幌で蚕が桑を食べる音を子守唄に育った少女が見つめる父の姿。「未来なんて全て鉈で刻んでしまえればいいのに」(「蛹の家」)昭和初期、北見ではハッカ栽培が盛んだった。リツ子の夫は出征したまま帰らぬ人となり、日本産ハッカも衰退していく。「全く無くなるわけでない。形を変えて、また生きられる」(「翠に蔓延る」)昭和三十五年、江別市。装鉄屋の父を持つ雄一は、自身の通う小学校の畑が馬によって耕される様子を固唾を飲んで見つめていた。木が折れるような不吉な音を立てて、馬が倒れ、もがき、死んでいくまでをも。「俺ら人間はみな阿呆です。馬ばかりが偉えんです」(「うまねむる」)昭和26年、最年少の頭目である吉正が担当している組員のひとり、渡が急死した。「人の旦那、殺してといてこれか」(「土に贖う」)など北海道を舞台に描かれた全7編。これは今なお続く、産業への悼みだ――。カバー画:久野志乃「新種の森の博物誌」【著者略歴】河崎秋子(かわさき・あきこ)1979年北海道別海町生まれ。2012年「東陬遺事」で北海道新聞文学賞を受賞。『颶風の王』で2014年に三浦綾子文学賞、2016年にJRA賞馬事文化賞を受賞。2019年『肉弾』で大藪春彦賞を受賞。このところ、河崎秋子さんの作品を続けて読んでいる。北海道を舞台にした、近代の歴史のエピソードの一端が描かれていて、この短編集も面白かった。読みながら、「私も小説が書けたら、こんな作品を書いてみたかったな」と思った。なんだか、私に代わって書いてくれているようで、感謝の念すら湧いてくるという、不思議な気持ちだった。北海道の風土がそうさせるのか、北海道の作家の書くものは、どこか乾いている感じがする。北海道の雪にも湿ったものはあるけれど、パウダースノーと表現されるようにサラサラとしている。厳しさはあるが、自然に逆らわずひたすら生きるという強靭さと、自然の動植物との共生というか、動植物の生きる姿の運命の過酷さに自分を重ね合わせて、励まされたり助け合ったりしている。もっと、北海道の環境や歴史に根差した作品を書いてほしいと思っている。
2022年12月18日
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「はかぼんさん―空蝉風土記―」さだまさしこの国には古来「不思議」が満ちていた――。各地の伝説を訪ね歩いて出逢った虚実皮膜の物語。風に揺れる枝垂れ柳が美しい京都の高瀬川で、少年が自殺した。白衣白袴という異様な姿で。死の背景には、旧家に伝わる謎の儀式があった(「はかぼんさん」)。身を持ち崩した一人の男を救ったのは、海辺の漂着物だった(「夜神、または阿神吽神」)。緑豊かな信州に嫁いだ女性。夜半、婚家に「鬼」が訪れる――(「鬼宿」)。各地を訪ね歩いて出逢った、背筋が凍り、心を柔らかく溶かす奇譚集。図書館でこの単行本を見つけて、気軽に読めそうと借りてきた。読み始めた時は、さだまさしが各地を旅して体験した不思議な話かと思ったが、完全に創作物語のようだ。それにしても、「さだまさし」は作家としても一流だ。天は、時には二物も三物も与えるんだと思ってしまう。もちろん、それぞれの物語にはヒントとなる各地の伝説や体験談があるとは思う。とにかく面白くて、一日で読んでしまった。彼の作品に欠点があるとしたら、面白いのでしみじみと味わう時間が欠けてしまうこと。でも、読書に一番必要な条件は「面白いこと」だろうから、これを天は二物を与えずというのかも。
2022年12月15日
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