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2021年03月23日
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テーマ: エッセイ(94)
カテゴリ: 過去のエッセイ
「靴の底」 (45歳)

 トシちゃんは三人兄弟の末っ子。母親が40歳になってからの子どもで、兄とは十歳も年が離れていた。神様はトシちゃんの染色体に、一本付録をつけたので、彼はダウン症候群として生まれた。
 そんな彼は、抵抗力も体力も弱く、育てるのはとても大変だったようだ。
 私が彼と出会ったのは、そんな乳児期をやっとクリアーし、「心身障害児訓練センター」に通うようになった時だった。
 ダウン症は知能や運動機能発達の遅れがあるが、人懐っこい子が多い。彼もそんな可愛い幼児だった。
 トシちゃんはいつも上等な服を着ていた。お母さん自身はとても質素なのに、と思った私は、ある日何げなく言った。
「トシちゃんはいつも王子様みたいなお洋服で、ステキだね」。
するとお母さんは
「この子はこんな顔つきでよだれも多いし、普通の服ではどうしてもだらしなく見えてしまうでしょ。着るものだけは人一倍気を遣ってやれって、主人も言ってくれるから」。
にこやかな笑顔だった。

 ゆっくりとではあるが、寝返りから這い這い、つかまり立ちへと成長し、やがてよちよちと歩くようになったのは、四歳の誕生日が過ぎてからだった。
 そんなある日、いつものようにセンターに来たお母さんが、私の顔を見るなり、「先生、これ見て!」と小さな靴を差し出した。それは、最近トシちゃんが履いている可愛い運動靴だった。何事かと戸惑いながら靴を手にした私に、母親は靴底を指さして言った。
「ここがすり減っているでしょ? 今まで、この子のこんな靴見たことないから、私、嬉しくて…」。
 そう言う母親の目から、見る見る涙が溢れた。

 元気な兄たちのすぐにすり減る靴と比べ、トシちゃんの靴はいつも新品同様のままだった。母親は今、靴底の痛みに、彼の確かな成長の証しを見たのだった。
 いつも穏やかで、感情を表に出すことの少ない彼女の涙に、その喜びの深さを感じ、「本当だね…」と言いかけた私のまぶたの奥にも、熱い何かが突き上げてきていた。



この瞬間の光景は、今でもはっきりと思い出す。
私も男の子を二人育てていた頃だったので、何も教えなくてもどんどん成長する息子たちの姿に、ハンディを持つ子たちの成長の大変さを痛感していた頃だった。
だから一層、私もトシちゃんの靴底の減りに、母親ほどではないけれどとても嬉しかったのだ。

トシちゃんも今は50代近くなっていることだろう。
施設に入所したことまでは聞いていたけれど、その後のことは全くわからない。
あのお母さんも元気でいるだろうか。





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最終更新日  2021年03月23日 16時35分59秒
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