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2021年03月30日
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カテゴリ: 過去のエッセイ
「祖母の宝物」 (46歳)

 96歳になる祖母は、この数年痴呆が進み、母の腰痛の悪化も重なり、今年の春に特別養護老人ホームに入った。
 自分の状況をよく理解できない祖母は、施設暮らしがなかなか納得できず、慣れるのにも時間がかかる。年老いた父母の代わりに、祖母の慰め役は孫の私の役目となり、今も都合がつく限りホームに通い、祖母の話し相手に努めている。
 記憶装置が動かなくなった祖母との会話は、オートリバースのテープレコーダーのようなものである。
祖母の関心は、「いつ帰れるのか? 母さんの腰は良くなったか?」を中心に、毎日同じ質問を繰り返す。家に帰るのはもう無理だとも言えず、私も覚悟してテープレコーダーになる。
「お母さんは毎日病院に通っているよ。
 おばあちゃんがここにいてくれるから、安心して養生できるんだよ。
 お母さんの腰が良くなるまで、ここにいてね。私が毎日来るから」。
 祖母はその瞬間だけは納得するのだが、私が帰るとすぐに忘れてしまい、「もうすぐ迎えに来るから」と言いながら、荷物をまとめてウロウロと徘徊が始まるらしい。

 そんな祖母と少しでも楽しい会話をしたいと、かつて祖母がしてくれた思い出話に誘ってみる。悲しいかな、その思い出さえも徐々に少なくなり、なおかつ変形し始めている。
 子供の頃の思い出、最初の悲惨で短い結婚生活、そして再婚、厳しい姑や小姑とのエピソード、次男(私の父の弟)の自殺…、などなど。
 初孫であった私は、沢山の物語を祖母から聞いていた。その記憶をたどって誘い水をかけるのだが、それに乗ることも少なくなってきた。
「そんなことあったかなあ?」などと聞き返されると、
(あ、また消えたのか…)などと、老いることの残酷さや悲しさに胸が痛む。
 ある日私は、祖父母の結婚のことを聞いてみた。前夫が精神病で耐えられず婚家を出た祖母は、近所でも「鬼婆」と評判の姑に辛抱できる嫁としての再婚だったらしいが、祖父は優しい人だったと聞いていたので、それを話題にしようとした。
「初めておじいちゃんを見た時、どう思った?」
「うーん、何とも思わんかった。夫が普通なら、それで辛抱しなければならんと思ったから…」
 言葉が途切れたので次の話を促そうとした時、祖母は思いがけないことを言った。
「私は先生と結婚するんだと思っていたんだけどなあ。父さんが反対したんだ。体が弱そうだからって…」
「えっ?…」
 それは、私が初めて耳にする話だった。
 祖母の断片的な話から想像すると、尋常小学校の担任であった先生がとても可愛がってくれて、大人になったら結婚できると信じていたらしい。八十年前のことだ。
 貧乏な開拓農家の末っ子の祖母は、先生から借りた本を読むのがとても嬉しかったという。
「親に怒られるから、隠れて本を読んだ」と話す祖母の瞳は、決してぼけ老人の目とは思えず、少女のように輝いて見えた。
「おばあちゃん、先生と結婚したかったんだね。悲しかったでしょう?」。
「うーん、でも父さんが言ったとおり、先生は肺病で早く死んでしまったし。親がダメだって言ったら仕方ないから…」。
 どんどん記憶がまだらになってゆく祖母の脳裏の中に、先生との淡く切ない思い出は、今も生き続けていたのだ。青年教師と少女の間に、どんな語らいの時があり、どんな別れがあったのだろう。
 96年の人生を辛抱し続けた祖母は、今も不本意な施設の生活を我慢し、家族を心配し続けている。そんな中でも時々は、初恋の先生との思い出に心を遊ばせているのだろうか。
 祖母にとって先生との思い出は、大切な大切な宝物だったはずだ。もう一度その輝きに触れたいけれど、興味本位の手垢に汚してはいけないと思う。
 しかしその反面、これだけは最後まで忘れないように、何度も話をさせるべきかとも迷っている私である。



祖母が亡くなってから、すでに21年が経つ。
それでも、この時のことはよく覚えている。
どのような人にも幼い頃があり、思春期がある。
誰にでも甘酸っぱい思い出の一つや二つはあるだろう。もちろん、私にだってある。
キラキラした思い出は、お金には決して変えることのできない唯一無二の宝物だと、年を重ねるにつれてその大切さを思うようになっている。





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最終更新日  2021年03月30日 10時45分17秒
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