再出発日記

再出発日記

PR

フリーページ

お気に入りブログ

源氏物語〔12帖 須磨… New! USM1さん

アパート New! はんらさん

映画「不思議の国の… New! 七詩さん

『疑史世界伝』 1 New! Mドングリさん

イ・ウォンテ「対外… シマクマ君さん

カレンダー

2007年02月23日
XML
永島慎二の「黄色い涙」が 映画になるという 。彼にそれほどの想い入れはないのだが、分厚いわりには安い本(1,200円)なので、買って読んでみた。


永島慎二の絵はしかし、意外にも私たちの世代には馴染み深いものになっている。彼が「柔道一直線」の絵を描いていたからだ。(原作は梶原一騎)私はそのマンガが最高潮の頃、中学校に入り柔道を始めた。当然二段投げ、地獄車、大噴火投げは試してみた。テレビの影響もあり、つま先でピアノを弾くということも話題にはなったが、さすがにこれは試したものはいない。(二段投げ等、試してみてわかったのは、「あんた、担いだ時点で勝っているがな」ということ)

永島慎二の真骨頂はしかし、柔道マンガではなく、「漫画家残酷物語」や「フーテン」など、貧しい青年群像を描くことにあった。

この作品にこんな場面がある。
一間三畳の下宿に五人の若者が住んでいる。詩人を目指す井上はめかしこんで近くの喫茶店に出かける。残ったものは貴重な食費を削ってまで毎日喫茶店の女の子に逢いに行く彼を感心してこんな会話を交わす。「あすこはその昔ならコーヒー一杯50円だった。安かったなあ。」「今は80円だからな」「我々の食事代の二回分に当たる。」
井上君の恋は、哀れ、ご想像の通り。一日の食事代120円というのは、60年代初めでもおそらく最低の生活だったと思われる。彼らには金がなく、仕事も時々にしかなく、将来の展望はほとんどなかった。けれども、現代のワーキングプアーと決定的に違うのは、楽天的であるということだ。彼らには「若さ」と「夢」があり、しかも60年代の始めの時代は彼らに全く「シンクロ」していた。

この映画が現代に作られる意義はなんだろう。現代と変わっているここと変わっていないことは何だろう。「若さ」と「夢」は今の若者にもあるだろう。しかしそれを取り巻く「現実」は変わっている。60年代の初め、雇用は上向き、社会保障は年々充実していった。現代はその全く反対だ。このマンガには社会情勢は一切描かれていない。描く必要がなかったからである。同時代を描いていたので、すべては自明のことであった。村岡栄がセキと井上に出会ったとき、こんな感想を抱く。「二人とももう何日もまともなものも食べてなく‥‥‥自分の好きなものを推し進めるために満足にメシが食えないことがあってもまったくあたりまえなのだという顔つきだ。」彼らの顔つきには根拠があった。「夢」を犠牲にすれば「正社員」になれたのだ。そんな社会情勢を、現代との違いを明確に描かなかったらならば、この映画は「昔のワーキングプアには夢があった」などというかえって有害な映画になるだろう。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2007年02月24日 10時39分30秒
コメント(4) | コメントを書く
[07読書(フィクション)] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

キーワードサーチ

▼キーワード検索

コメント新着

ヒフミヨは天岩戸の祝詞かな@ 自然数の本性1・2・3・4次元で計算できる) ≪…三角野郎…≫は、自然数を創る・・・  …
永田誠@ Re:アーカイブス加藤周一の映像 1(02/13) いまはデイリーモーションに移りました。 …
韓国好き@ Re:幽霊が見えたら教えてください 韓旅9-2 ソウル(11/14) 死体置き場にライトを当てたら声が聞こえ…
韓国好き@ Re:幽霊が見えたら教えてください 韓旅9-2 ソウル(11/14) 死体置き場にライトを当てたら声が聞こえ…
生まれる前@ Re:バージンブルース(11/04) いい風景です。 万引きで逃げ回るなんて…
aki@ Re:書評「図書館の魔女(4)」(02/26) 日本有事と急がれる改憲、大変恐縮とは存…
北村隆志@ Re:書評 加藤周一の「雑種文化」(01/18) 初めまして。加藤周一HPのリンクからお邪…
ななし@ Re:「消されたマンガ」表現の自由とは(04/30) 2012年に発表された『未病』は?
ポンボ @ Re:書評「図書館の魔女(4)」(02/26) お元気ですか? 心配致しております。 お…
むちゃばあ@ Re:そのとき 小森香子詩選集(08/11) はじめまして むちゃばあと申します 昨日…

バックナンバー

・2024年11月
・2024年10月
・2024年09月
・2024年08月
・2024年07月
・2024年06月
・2024年05月
・2024年04月

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: