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2012年09月29日
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カテゴリ: 水滸伝

「楊令伝15」北方謙三 集英社文庫
最終巻である。今巻ほどページをめくるのが辛かった本は無い。「楊令伝」の最後には主人公である楊令が死ぬことは定められている。それだけは定められているが、他の人物の死は定められてはいない。しかし、一つの物語が閉じるのだから、主要登場人物が死ぬのは、ある意味当然だろう。まさかこの人が、という人が次々と死んでゆく。思えば、「水滸伝」以来の人物は20人しか残っていなかったのだ。それがこの巻だけで9人も亡くなるのだ。もちろん彼らは十分に生きた。しかし、この「楊令伝」では彼らに必ずしも「水滸伝」の様な「滅びの美学」という舞台は与えられない。前作は戦って華々しく散るのがテーマだったからそれで良かった。しかし、「楊令伝」は国家建設の物語である。どの様な事情があろうとも、途中で退場は、その建設に棹さすことなのである。私は最終巻に梁山泊に大洪水が襲うと聞いていた。だから、この洪水が楊令の命と共に国そのものを押し流すのだろうかと思っていた。しかし、そんな単純なことではなかったのである。

敵役では遂に李富が死んだ。思いもかけず、呉用がトドメを刺した。「水滸伝」「楊令伝」通して最大の敵役だった。物事の順番を「国の秩序」に置き、その為にありとあらゆる権謀術数を使った。しかし、決して自らの利益の為に動かなかった。自らの子供を皇子にしたが、それも自らの為ではなかっただろう。いや、単なる金のためではなかったが、もしかしたら「国を自らのものにする」という魔物に取り憑かれたのかもしれない。その事の答えは次の「岳飛伝」で明らかになろう。その李富の最期は実に呆気なかった。

「なるほど。わしは、ここで死ぬのか」
李富はかすかに笑っていた。(192p)


この長い物語は最大の敵役が死んでもそれで終わりでは無い。そんな単純なことではなかったのである。

「死なぬと言え、公孫勝」
「いや、死ぬ。死なぬふりをしているのも、ここまでだろう」
「死を選んだのか?」
「見たくないのだ、呉用殿。夢が、実現していくのを、私は見たくない。見るべきでもない」
「心の中に、見果てぬ夢を抱いたまま、死んでいった同志が、多くいすぎるのだな」
「林冲など、いつまで経っても、どこにも行かん」
「おまえは、私の心の中に居座ろうというのか?」
「あんたが、死のうというのは、虫が良すぎる。もっと、苦しむんだな」
公孫勝が、低い声で笑った。(195p)


「楊令伝」では、宋江の様に楊令は次の頭領にバトンは渡さない(渡すことが出来なかった)。その代わり、公孫勝が呉用にこういう形でバトンを渡したのではないか。

もっと苦しめ。

長い物語の最終巻で、こんなにもカルタシスが無い終わり方というのも珍しい。光が見えない。あゝ良かった。という様な物語ではないのか。河の流れはいったい何処へ辿り着くというのか?そんな単純なことではないのか。

頁を変えて別の機会に、この「大水滸伝」構想に関しては語って置きたい。とりあえず、次の「岳飛伝」の文庫化が始まるまでの約4年間、またもや雌伏の秋を過ごさねばならない。
2012年9月15日読了
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最終更新日  2012年09月29日 06時31分39秒
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