まいかのあーだこーだ

まいかのあーだこーだ

2024.01.24
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NHKの100分de名著「シャーロック・ホームズSP」を見ました。

わたしのお目当ては、
1887年の 「緋色の研究」 (A Study in Scarlet) です。
ホームズシリーズの第1作だけど、
以前から、このタイトルの意味を知りたかったのよね。

でも、残念ながら、
それについての言及はなかった。



フリッツ・ラングが、
ジャン・ルノワールの映画「牝犬」をリメイクしたとき、
かなり"イヤミス"っぽいフィルムノワールにアレンジして、
タイトルも 「緋色の街」 (Scarlet Street) と改めたのだけど、

おそらく欧米では「スカーレット=緋色」というのが、
ゴシックロマンス世界を象徴する共通イメージなのだと思う。

そして、その元ネタは、
たぶん米国のナサニエル・ホーソーンが書いた、
1850年の 「緋文字」 (The Scarlet Letter) じゃないのかしら?


…ってなことを、
以前、シネマレビューのほうに書いたんだけど、
https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?SELECT=24063&TITLE_NO=15518#HIT
それと同じことが、ホームズの第1作にもいえる気がする。



スカーレット=緋色というのは、

ナサニエル・ホーソーンの小説では、
ピューリタンの社会が、姦通した女性の服に、
その罪を刻印した際の 「A」 (=adulteress) の文字色です。

かたやコナン・ドイルのホームズ第1作では、
恋人を一夫多妻制だった初期モルモン教会に奪われた男が、
血で壁に 「RACHE 」 (=復讐) と書いたときの色です。

この小説の原題「A Study in Scarlet」は、
日本では「緋色の研究」と訳されてきたけど、
英語の「study」は仏語の「étude」と同義であり、
絵画なら「習作」、音楽なら「練習曲」と訳す言葉なので、
邦題を「緋のエチュード」としている訳もあります。

コナン・ドイルとホームズにとっては、
謎解きの対象となった米国のゴシックサスペンス事件が、
いわば「緋色のエチュード」だったのかもしれません。



そしてフリッツ・ラングの映画では、
通りの名前が「Scarlet Street」なのです。

原作の「牝犬 (La Chienne) 」は、
パリのモンマルトルを舞台にしてますが、
フリッツ・ラングの映画では、
それをNYのグリニッジ・ヴィレッジに移してる。

モノクロ映画だから分からないけど、
グリニッジ・ヴィレッジは赤煉瓦の町だから、
それにちなんで「Scarlet Street」としたのでしょう。
(実際にそういう呼称があるかどうかは不明)






思えば、
マーガレット・ミッチェルの「風と共に去りぬ」が、
ヒロインの名前を スカーレット(Scarlett O'Hara) にしたのも、
南部ゴシック的な世界観を暗示してのことかもしれない。

ちなみに、
ナサニエル・ホーソーンの「緋文字」は、
17世紀の北東部ニューイングランドの物語ですが、

コナン・ドイルの「緋色の研究」は、
19世紀、南北戦争前の西部ユタ州の物語で、
マーガレット・ミッチェルの「風と共に去りぬ」は、
19世紀、南北戦争下の南部ジョージア州の物語、
…ってことになるかと思います。



余談ですが、

現在の日本では、
あまり「緋色」という言葉を使いません。
もともとは「火色」が転じたものらしく、
すこし黄味がかった赤のことなのだけど、

一見しただけでは、
たんなる「赤」としか思えないし、
せいぜいのところ「濃い橙色」とか、
あるいは「赤味の濃いオレンジ」って感じです。

そして、
紛らわしいのは バイオレット との区別なのよね。
バイオレットは青紫/菫色のことだから、
本来は スカーレット とまったく違うのだけど、

日本では、
桑名正博の「セクシャルバイオレットNo.1」のせいで、
セックス&バイオレンスからの語感的な連想があり、
バイオレットのほうがどぎつい色と思われがちだし、
かなり"赤寄り"に誤解されてる感じもある。

松本隆の書いた歌詞は、
《情熱の朱/哀愁の青》《ときめきの赤/吐息の青》と、
赤と青の混じった色と言ってるだけですが、
ジャケットデザインはあきらかに"赤寄り"の紫です。


欧米人がスカーレットに託す暴力的なイメージは、
日本人がバイオレットに抱くイメージに近い気がする。

ちなみに、
桑名正博の曲のタイトルは松本隆の発案ではなく、
CMソングを依頼したカネボウ側の提案だったらしい。



追記:
▽こんな考察記事がありました!
https://itukami.lampmate.jp/study-of-scarlet
コナン・ドイルの「緋色 /Scarlet」の由来として、
ギリシャ神話由来、聖書由来などの説が紹介してあります。へええ~。
▽こちらの論文によると、
https://www.jiu.ac.jp/files/user/education/books/pdf/841-73.pdf
もともと日本の「緋色」には、
明るい赤 (スカーレット) &暗い赤 (茜色や赤紫) の2系統があり、
フランス語の「pourpre」の訳語にもなってるらしい。へええ~。






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最終更新日  2024.01.27 04:01:47


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