まいかのあーだこーだ

まいかのあーだこーだ

2024.07.09
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カテゴリ: ドラマレビュー!
今ごろですが「9ボーダー」を見終わりました。

金子ありさにしては、
これまでになく構成感のある脚本だったなと思う。



なぜか知らないけど、
TBSの「くるり」と「9ボーダー」は、
どちらも記憶喪失のラブコメで、
お相手の名前が "コウタロウ" でしたね。

たぶん多くの視聴者は、
「くるり」の結末には納得感があっても、
「9ボーダー」の結末には、
ちょっとモヤモヤした後味を感じたはず。



生見愛瑠の「くるり〜誰が私と恋をした?」では、

3人の恋人候補のうち、
2人の男性はやや不誠実で、公太郎だけが誠実だった。

しかもヒロインは、
記憶を失う前も後も、
ずっと公太郎を好きだったわけだから、
最後に公太郎と結ばれる結末には必然性がある。



かたや松下洸平の「9ボーダー」の場合、

2人の女性の恋人候補のうち、
どちらか一方に落ち度があったわけじゃない。

にもかかわらず、コウタロウは、
記憶喪失前とは別の女性を最後に選ぶのよね。
つまり、川口春奈を選んで大政絢を捨てる。
多くの視聴者は、この結末を受け入れにくいと思う。

夏に終わるドラマなのに、
最終回がクリスマスだったのも不思議でした。



ただ、わたしの印象はむしろ逆で、

たしかに「9ボーダー」の結末は中途半端だけど、
そこには脚本家の確固たる意図が感じられたので、
かえって納得感をおぼえてしまった。




記憶喪失前の「芝田悠斗」が、
東京下町の開発を目論む地上げ屋の悪人であり、
記憶喪失後の「コウタロウ」が、
純真無垢なアマチュアのミュージシャンならば、

そこには勧善懲悪的な図式が成り立つはずです。

でも、
金子ありさの脚本は、
そこに善悪の区別をつけませんでした。

実際のところ、
地上げ屋の企業はそれほど悪い会社ではなく、
芝田家の家族もけっして悪い人たちではなく、
芝田悠斗の婚約者も悪い女性じゃなかった。

だから、勧善懲悪的な図式が成立しない。



これって、
朝ドラ「ちむどんどん」の大野愛と同じですね。

恋敵に落ち度がないと、
勧善懲悪的な図式が成り立たないので、
フラれたほうが可哀想に見えてしまうし、
なんならヒロインのほうが悪人に見えてしまう。

でも、
今回の金子ありさの脚本は、
あえて勧善懲悪的な図式をとらず、
むしろ「1か0か」ではない中間的な結末を選んでる。



たとえば、

長女の木南晴夏は、
井之脇海と完全に別れるのでもなく、
結婚して海外に移住するのでもなく、
あえて中間的な選択肢を探ることにしたのですね。

下町の開発についても、
実家の銭湯のリニューアルについても、
完全に古いまま残すのでもなく、
完全に新しくするのでもなく、
中間的な解決策を模索することになった。




…とはいえ、
男女の三角関係において、
「1か0か」ではない中間的な選択って無理ですよね。
ふつうなら、どちらかに決めなければならない。

かりに平安時代の「光る君へ」なら、
当時はまだ一夫多妻制の社会だから、

…みたいな曖昧な決着も許されるだろうけど、
現代社会では、そうはいきません。

もちろん、実際には、
曖昧な三角関係を維持してる男女もいるとは思う。

でも、
すくなくともテレビドラマの世界で、
そういう結末は視聴者に許されていません。

にもかかわらず、
金子ありさは、あえて曖昧な結末に着地させた。



結局のところ、
コウタロウは、
神戸での生活を選んだのか、
東京での生活を選んだのかハッキリしません。

今後、記憶が戻れば、
また婚約者とのあいだで揺れ動くかもしれない。
そういう曖昧さを残した結末です。

現実においても、
恋愛は完全懲悪的に片付くものじゃないから、
理不尽に傷ついてしまうのが常だし、
曖昧な状態を受け入れるほかない場合もある。



今回のドラマの結末が成功してるかは微妙ですが、
金子ありさはあえて難しい課題に挑んだと思います。

曖昧な恋愛を描くドラマは、
これから増えていくかもしれない。

模範的な恋愛ばかりを強制する社会は、
若者の恋愛離れや、
晩婚化や非婚化や少子化を加速させる一方だし、
不倫に対する異常なほどの不寛容さも、
自由恋愛へのひとつの足枷になってると思う。



強制力をともなう支配関係でないかぎり、
同性愛であれ、年の差恋愛であれ、
若年恋愛であれ、老年恋愛であれ、
そして多重恋愛であれ、
マッチングが適切なら容認されるべきなのよね。

逆に、
いくら見かけは模範的な恋愛でも、
強制的な支配による恋愛は容認されるべきじゃない。

そこらへんの価値観が、
いまの日本社会はあべこべなのです。


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最終更新日  2024.07.09 15:00:41


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