Profile

Hiro Maryam

Hiro Maryam

Archives

・2025年02月
2025年01月
2024年12月
・2024年11月
・2024年10月
2013年12月23日
XML
カテゴリ: おとぎ話 ”春”

こちらから







春の訪れ <10>






己の動揺を誤魔化すかのように、晋吉は医者の息子らしくこういった。


”身体の具合はすっかり良いのか?

陽が傾いたの。陽が落ちたら急に寒くなろうぞ。

風邪をひくから、家路を急ぐが良い。”



春はまだ話し足りなさそうに、物足りなそうな素振りを見せたが、

晋吉の様子と言葉を、村医者の言葉と同じような気持ちで受け取ったのか、

小さく黙って頷いた。


その様子をみた晋吉は、何の疑いもなく、

素直に己の言葉を聞き入れた春の様子に、心が咎めたのだった。


春の瞳が敬意を湛え、上から下まで晋吉の姿を眺めた後、

彼女はゆっくりと頭を下げ、くるりと背を向け、駆け出していった。


緩(ゆる)やかに、豊かに流れるような髪を揺らしながら、

次第に遠ざかって行く春の姿を眺め、



春との別れは、己が言い出したことなのに・・・

あの娘も己も、まだ話し足りなかったのに・・・



晋吉の心は、後悔していた。





遠くへ走り去って見えなくなってしまった春の姿から、

己の足元に視線を移した晋吉に、

つい先ほどまで、春の豊かな黒髪を結っていた、

鮮やかな紅色をした布が落ちているのがみえたのだった。



晋吉は両膝を曲げ、前かがみになって腕を延ばし、

恐る恐る触れると、それをゆっくりと両方の手のひらの中に包み込んだのだった。



そして、


これは確かに春の分身なのだ・・・


っという想いが強く湧き上がってくると、


晋吉は両の手にギュッと力を込め、


今の今まで、己が身近かに感じていた、

春の血潮のように赤い色をしたその布を、

胸の前へと、引き寄せたのだった。








にほんブログ村





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2014年05月21日 11時59分14秒
[おとぎ話 ”春”] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Favorite Blog

白梅、紅梅 New! アキリバーランズさん

今月のポンポロロン… New! chiichan60さん

フィッシング、特殊… New! lavien10さん

ウメジロー New! キイロマン☆彡さん

入院してました ガボちゃん♪さん

マメちゃん台風が来… かにゃかにゃバーバさん

ワンダーフェスティ… 猫に足を踏まれるさん

親指の爪が完全復活・… 天野北斗さん

ボージョーゼー20… うめきんさん

二月の慰霊に靖國に… こうこ6324さん


© Rakuten Group, Inc.
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: