マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2009.10.05
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 ベテランの走り 

眠りから目覚めると、気分がすっきりした。食べた後で胃薬も飲んだためか、吐き気もすっかり治まっている。これは凄い。わずか15分ほどでも睡眠の力は絶大なものがある。心配していた横浜のA津さんのことをSパパに尋ねてみた。何と結局彼は約160km地点のここまで走り、たまたま居合わせたS木氏の車に同乗してゴール地点へ向かった由。そうか、それは良かった。

第4ASのボランティアの方々にお礼を言い、お菓子1個とバナナ1本を補給し、さらにトイレに寄ってから再びレースに復帰した。再スタートは14時50分。ちょうど1時間ここで過ごしたことになる。時間はロスしたが、体が休まったのが何よりの収穫だった。勇んで沢崎の橋を渡り、2つのトンネルを潜ってゴールへと向かう。残り46km。元気な状態なら5時間半ほどで着く距離だが、実際は11時間20分ほどかかった。ここからが残された体力と気力を振り絞っての本当の戦いだった。

163km地点の烏帽子島を眺めながら走っていた時、後ろから1人のランナーが追い抜きざま私に声を掛けた。「ずいぶん足に来ているねえ」。同室のA井さんだった。69歳のベテランランナーが軽やかな足取りで颯爽と走り去って行く。ほんのちょっとだけ追いかけてみたものの、追い着くようなスピードではない。

ゴール後に聞いたら、彼は仮眠所で7時間半ほど布団に潜っていたと言う。何という豪胆さ。いつもと変わらぬ睡眠時間を取れて、疲労もさほど感じてなかったのだろう。だがその陰には、日ごろの厳しい練習と努力があるのだと思う。最年長ランナーの見事なレース展開ぶりに脱帽した私だった。

間もなく江積海岸。ここの浜には黒い俵のような形をした枕状溶岩が転がっている。ハワイのどこかの島では今でもこの枕状溶岩が海中で誕生してるのだとか。165km地点から一旦山道となり、木流集落で再び海岸へ出る。井坪からの山道では過去の2回とも道を迷ったのだが、逆コースの今回は迷わずに済んだ。だが、体から急に力が抜けて歩けなくなる。農道に座り込み、夫婦の農作業を呆然と眺めながら、最後のお握りを食べた。

少しだけ湧いたパワーを武器に、何とか海岸へ下る。そこから4kmほど続く素浜海岸で、左手がすべて砂浜。釣り客が何人かとランニングしている人が1人。間もなく夕暮れが近い。浜辺の先は穴だらけの砂利道になり、所々に水溜りがある。懐中電灯はあるが、日が暮れると厄介だ。それよりも飲み水が残り少ないのが気がかり。

その時、後ろから1人のランナーが私を抜いて行った。還暦は過ぎているようだが、足取りは軽やか。先ほどのA井さんと言い、このランナーと言い、これまでの経験を十分に発揮したベテランの走りを見せてもらった感じだ。

周囲は徐々に薄暗くなり、あれほど暑かった気温もぐっと下がって来た。その点は助かるが、何とか落日前に悪路を通過せねば。でもここ数日の天気で、ひょとしたら水溜りの水もかなり蒸発したのではないかと楽観も。さて、夕日と鈍足ランナーの駆け比べは、鈍足ランナーの方が一瞬早かったようだ。

水溜りは私の推察通り少し小さくなっていて、足を濡らすことは無かった。175km過ぎでようやく国道350号線とぶつかり、角のマリンスポーツショップでお茶とスポーツドリンクを補充し、18時11分に食堂へ入る。何とそこに先ほど私を抜いて行ったランナーがいて、750円のカレーライスを注文していた。私は400円のかけうどんを頼んだ。

うどんが出来るまでの間にスポーツ紙をチェック。楽天は土曜日、日曜日と連勝したようだ。出て来たカレーは大盛り。一方のかけうどんはとても貧弱な内容。それでも日中からの念願だった汁を飲めるのが嬉しい。食後、ヘッドライトと懐中電灯を取り出し、赤色灯を点火。18時40分、先行するベテランランナーを追って、漆黒の国道に飛び出す。だが、彼の姿はあっと言う間に見えなくなった。

ここからが長い長い登り坂。178km地点の田切須は第2回の時に、夜間歩いて到達した場所。そして181km地点の小立は第1回の夜間到達点だった。良く夫婦岩の仮眠所からここまで歩けたものと感心する。周囲はすっかり闇に閉ざされ、私の足音だけしか聞こえない。ゴールまで残り25km、まだ先は長い。<続く>





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Last updated  2009.10.05 19:19:19
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