マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2009.11.28
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 海の上の1本の線 そして思いがけないランナー 

林の奥から突然ウグイスの鳴き声。11月のウグイスはあまり歌が上手ではないようだ。スタートして8km近く、ようやく山荘への入り口が見えた。懐かしく思い起こしながらその横を通過。右手の深い谷底から今度はせせらぎの音。道は下り坂になった。前方に何やら横たわる物体。近づくと死んだ蛇だった。走ってまだ間もないと言うのに、早速ハブにお目にかかるとは。

やはりこの時期にもハブが活動してるのだ。そして、道路上に出没することも分かった。これはよほど注意しないと。一気に高まる緊張。次に小さな黒い物体が道路を横切るのが見えた。これは一体何だろう。形から言えばサンショウウオかイモリかアカハラ。車が通ったら轢き殺されてしまうだろうに。亀は見なかったが、やはりこの辺りは小動物が多いようだ。

9時30分。坂を下り切った左手に集落が見えて来た。戸数は20戸ほどか。何とも清らかな家の佇まい。庭には青い実をつけた数本のパパイヤ。ここ沖縄ではパパイヤはまだ青いうちに実を取り、野菜として食べるのが普通。千切りにし、油で炒めたりサラダとして食べるが、とても淡白な味だ。

海が見える。風に煽られた青い波。その海には1本の見えない線が引かれている。ここ奥集落は国道58号線の沖縄の基点。ご存知の通り、国道は2つ以上の都府県をまたぐものと決められている。沖縄が日本に復帰する際、道路を整備する上で問題になったのがこの法律だった。困った建設大臣は地図を取り出し、海の上に赤鉛筆で線を引いたとか。鹿児島から沖縄までが1本の国道でつながった一瞬だった。開発が遅れていた当時の沖縄を物語るそんなエピソードを思い出した。

海岸部は強風が吹き荒れ、濡れた体が一気に冷える。前方に亀の形をした東屋が見えた。そこで初めての休憩。テーブルにリュックを置き、取り出したビール袋を頭からすっぽり被る。至って簡便だが、これで風による体温の低下を防げる。ウルトラランナーの常識だ。それにしてもトレーナーが捨てられているのは何故?誰かがここまで走ったのだろうか。

再び風雨の中を走り出す。案の定体が温かく感じられるようになった。唇から歌が漏れる。「月の砂漠」だった。遥々と1人淋しく旅をする心境が、きっとその歌を選ばせたのだろう。やがて前方から走って来るランナーの姿が見えた。一瞬「ええっ?」と我が目を疑う。沖縄本島最北部の辺鄙な場所。しかもこの嵐の中を走るランナーが私の他にも居たとは。

そのランナーを止めて話を聞く。彼は糸満市阿波根(あはごん)集落の人。そこはNAHAマラソンの34km地点辺りだ。沖縄本島を何回かに分けて一周しているそうだ。走るのは1回につき15km程度。その都度奥さんに車で送ってもらっており、今日は16回目に当たる由。私が辺戸岬から与那原(よなばる)町までの140数kmを2日間で走り、今日はカヌチャベイホテルまで走ると言うとビックリしている。

本島を一周した沖縄のランナーの話を聞いたことがあるが、完走には確か2週間以上かかったはず。仲間の伴走付きで走った後は自宅に戻り、翌日再びゴ前日ゴールした場所から走り出す方法だと思う。そうでもなければとても完走は無理。私の計画は3年越しだが実際に走るのは6日だけ。ただし、本部(もとぶ)半島と勝連(かつれん)半島の45km分(?)は省いているが。糸満のランナーとはガッチリ握手して別れた。しかしこんな場所でランナーと出会うとは、何と不思議な縁なのだろう。<続く>






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Last updated  2009.11.28 14:49:19
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