マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2016.09.24
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カテゴリ: 文化論
<恐山・神秘の扉>

 「恐山の冷水」の石仏

 今年の6月末、私は東北の歴史を訪ねる一人旅で岩手、青森、秋田の3県を訪れた。旅の3日目に訪れたのは下北半島の中央に位置する恐山。ここは古来東北の民に、死んだら人の魂は恐山に帰ると信じられてきた聖地で日本有数の霊地でもある。峠の「恐山の冷水」で迎えてくれたのが、この苔生した石仏だった。




 峠を下り切ると、目の前に青い湖水が見えて来る。これが宇曽利湖(うそりこ)。「ウソリ」はアイヌ語で「窪んだ地」の意味。周囲10kmのカルデラ湖は、確かに大きな窪みには違いない。異臭がするのはここが活発な火山運動をしているため。強烈な硫黄の臭いが周囲に漂っている。




 宇曽利湖に流れ込む通称「三途の川」に赤い橋が架かっている。するとこの先はもう地獄という訳なのだろう。11月から3月まで、この地は閉ざされて人は近づけない。ここは豪雪地帯でもあるのだ。




 入山料500円を支払って恐山の境内に入る。目の前に荒涼たる風景が広がっている。ほほう。ここが日本を代表する北の霊地か。高野山、比叡山とこの恐山は、日本の三大霊地とも言われている。境内に硫黄臭が漂っている。ここを訪れた観光客や信者のための浴場が4つもあり、私も「話の種」に入って見た。とても熱い天然温泉だった。




 寺院の先から地獄に向かう。この山を開いた慈円大師円仁が座禅を組んだ石もあった。地獄からは異臭が漂い、地下にはヒ素や硫化水素などの猛毒が眠っている。数十年前には火薬の原料である硫黄を採掘する本物の鉱山だった由。地獄には無数の石仏や石塔が建てられ、死者の霊を弔っている。地獄の向こうに小さく見えるのが宇曽利湖。神秘的な湖水の色だ。




 湖に近づく。とても静寂な世界だ。この湖水は強酸性で、生物は特赦な魚であるウグイしか棲むことが出来ないそうだ。酸にも強い構造をしたウグイも、最近では極端にその数が減っているらしい。




 ここは一際美しい浜辺で、「極楽浜」と呼ばれている場所。「地獄」と「極楽」が隣り合わせている不思議。死後、人が極楽に行くか地獄に落ちるかは、三途の川の金次第なのだろう。だが観光客はそんな心配もせず、無邪気に浜辺で遊んでいた。




 だが私が恐山を訪れたのは、決して観光のためではなかった。恐山に対する長年の疑問を解決するため、恐山を自分の目で実際に確かめるためだった。




 少々見難いが、これはかつての「恐山大祭」の写真。毎年8月のお盆の頃、全国からここに大勢の人々が集まって来た。もちろん死んだ家族の霊と対面するためだ。死者の霊は恐山に集まっている。その霊を呼び寄せる霊媒者が「イタコ」さん。境内には10名を超えるイタコがいて、集まって来た人々の願いに応じ、死者の霊をあの世から呼び寄せたと言う。これがいわゆる「イタコの口寄せ」だ。




 この日の恐山は前線の通過に伴って、強い雨が3度降った。そしてその後で奇跡的に空が晴れた。周囲10kmの宇曽利湖の全容がはっきりと見え出した。アイヌがかつて偉大なる窪地と呼んだこの地は、巨大なカルデラ湖。そしてまだ雲に閉ざされている周囲の山々は外輪山。つまり恐山は典型的な火山地形なのである。




 北東北の歴史を訪ねる一人旅。その3日目に訪れた恐山。その最後の最後に、私は偶然一人のイタコさんと対面して写真を撮らせてもらい、少しだけお話をすることを許された。私は死んだ両親の霊を、あの世から彼女に呼び寄せてもらうことはしなかった。私の専らの関心は、長い間胸に秘めて来た学問的な関心それだけだった。<続く>





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Last updated  2016.09.24 08:20:46
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