マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2018.01.25
XML
カテゴリ:
~まるで抒情詩のような叙事詩についての一考察~




 ああ それでね
 男は言う
 何が「それでね」かは分からない
 だが風も黙るほど静かな夜だったのは確かだ

 ああ それでね
 ピリカメノコは言う 
 ウトロのチャシに今宵も月が上った
 誰かが低い声でイヨマンテを歌う

 ああ それでね
 イナグは言う
 西(イリ)のグスクに陽が沈んだ
 明日は東(アガリ)のグスクからてぃだ(太陽)が昇るはず 約束通り

 男が詠うのは万葉
 ピリカメノコはユーカラを謡い
 イナグはおもろさうしの一節をつぶやく
 そしてやがてどれもが 空の果てへと消えた

 チャシは砦 
 グスクは城
 砦も城もみな同じ柵(き)と呼ばれた
 この倭の国で ある時までは

 オホーツク海を臨むウトロのチャシ
 東シナ海を臨む浦添のグスクとよーどれ(風葬墓)
 そして玄界灘に臨む名護屋の城は
 確かに朝鮮半島を睨んでいた しっかりと目を見開き

 メノコは娘
 イナグは女
 ユーカラは神謡
 そしておもろさうしは歌謡

 文字を持たないアイヌ
 うちなーにももともと文字はなかった
 倭も同様にあったのは魂だけ 
 だがどの民族にも歌があった 確かなことに

 アイヌは「人間」の意味
 うちなーは沖縄と訳され
 倭はやがて日本になった
 そして民族も国も一つに合わさった 永遠の祷りを込めて

 ハマナスが咲き乱れる知床
 芭蕉とハイビスカスが茂るヤンバル(山原)
 そして豊葦原の瑞穂の国には
 青空に映える見事な桜

 おーいおーい 誰かが呼んでいる
 メノコはムックリを奏でるのを止め 
 イナグは三線の手を休め
 男は黙って振り向く 遠い遠い彼方の遠い遠い祖先を

 男の祖先は海を荒らし回る倭寇
 メノコの祖先は吠え狂う熊を従え
 イナグの祖先はハブを殺して生きて来た
 今は忘れられた悠久の昔話たち

 月が上った 今日も
 真っ赤なてぃーだが昇る 明日の朝の空に
 そして夜になると
 素知らぬ貌をしたたくさんの星が瞬くだろう きっと 

 ここ北国では 
 諦め果てたように今日もまた雪が降り続く
 しんしんと そしてしんしんと
 ああ ああ ああ おーい おーい おーい





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2018.01.25 09:50:49
コメント(10) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR


© Rakuten Group, Inc.
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: