マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2020.08.26
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~神の戦い人の戦い~



 記紀には倭建(日本武尊=左)が出雲建(大国主命=右)をだまし討ちにしたことが記されている。九州の熊襲を倒して大和に帰る途中出雲に立ち寄った日本武尊は親睦の証として互いの剣を交換しようと提案。大国主命は了解して自分の鉄剣を差し出した。ところが武尊が差し出したのは木剣。簡単に大国主命を倒した武尊は意気揚々と大和へ引き上げた。神話だが、日本武尊は天皇の皇子であり、彼の子もまた天皇とされている。



 朝廷の使いが、出雲の神宝を検分に来たことが記されている。この時も騙されて神宝を奪われてしまった。出雲国造家の祝詞には、密かにこの時の恨み言が込められていると言う。三種の神器は太刀(鉄剣)、鏡、そして勾玉だ。出雲は北部九州を通じて朝鮮半島とも交流があり、鉄も容易に入手出来た。鏡は三角縁神獣鏡が出土したくらいだし、勾玉は玉造製造の適地があった。



 第24代継体天皇は越前国敦賀の出身。第15代応神天皇の5代孫とされ、朝廷の血が途絶えそうになり急遽都に招かれた。后は琵琶湖一帯を制する息長(おきなが)氏の出で、古代豪族の尾張氏とも縁があった。越前も琵琶湖も尾張も水運で栄えた地。古代出雲は越前を含む「越」の国の支配下にあったとの説がある。古代の越前は日本海の海運により、各地の豪族と協力関係にあり、出雲はやがてその植民地となったとの説がある。



 大国主命には温和な和御霊(にぎみたま)と破壊につながる荒御霊(あらみたま)の両面があった。明日香、藤原宮、纏向王朝期は大神(おおみわ)神社の祭神として都を守り、平城京に遷都してからは現奈良市に摂社を移して都を守った。だが荒御霊が垂仁天皇の皇子に祟り、皇子は成人しても口が利けなかった。出雲大社に使いを出して、大国主命を祀った結果、口が利けるようになった由。



 貴族政治代表格の藤原氏は中臣鎌足が祖。「乙巳の変」(大化の改新)の功で藤原姓を賜り、急速に力をつけた。その子不比等には4人の男子があり。それぞれ「藤原四家」の祖となった。ところが天平4年(737年)の疫病(疱瘡)で、4人全員が病死した。藤原氏は慌てて出雲大社参じ、出雲に大神殿の建設を約束したのか。なお、平安中期の道長は北家の末裔。「この世をばわが世とぞ思う望月の」の作者だ。

 天平の疫病は疱瘡(ほうそう)で、朝鮮半島から対馬を経由し、北九州から上陸して全国へ流行した由。天平7年から9年までの3年間で、当時の人口の25%から30%に当たる100万人から150万人が死亡したようだ。医学も十分になかった時代の恐怖は現代の「新型コロナ」にも匹敵したことだろう。疫病を畏れた人々が神仏の加護を祈った気持ちが良く分かる。「呪い」は安倍晴明の出番を作った。



 出雲大社の奥に鎮座しているのが素鵞(そが)社。かつて中臣鎌足が絶滅させた蘇我氏を祀るもの。そして出雲大社司祭の北島国造家の境内に鎮座するのが天神社(右)。これも藤原氏の讒言により太宰府で死んだ菅原道真公の鎮魂のための社だ。道真の怨念が紫宸殿への落雷となり死者を出したことに慄(おのの)き、北野天満宮の造営と官位の復位などによって、天変地異が治まったのだった。



 京都府亀岡市の出雲大神宮(左)とその磐座(いわくら=右)は丹波国一之宮だが、明治に入るとご祭神の大国主命を出雲に移される。明治新政府は廃仏毀釈を進めるだけでなく、架空の天皇である神武のために橿原神宮を創建した。また神社の格式や名称を整理、それまで原始神道だった沖縄の社にも鳥居を建てさせた。全ての神社が神祇省の下に管理される、いわゆる国家神道の始まりだった。


      <出雲大社の摂社 日御碕神社の鳥居> この沖合に海中遺跡がある。

 大急ぎで古代出雲の謎を追及して来たが、まだまだ意は尽くしていない。昨年の山陰旅行で「島根県立古代出雲歴史博物館」の存在を知った。今年はそこを訪ね念願の常設展示を見た。また、謎解きのヒントとなる1冊の本と出会った。いずれも偶然だが必然でもある。不思議なことに古代史や考古学の疑問を長年抱き続けていると、突然それが解けることがあるのだ。だから面白い。きっと人生も同じなのだろう。

 「神が戦い人も戦った古代出雲への旅」。そんな大仰なタイトルを付けたこのシリーズも、とうとうゴールが見えて来たようだ。いつも退屈な文章に付き合ってくれた読者に心から感謝している。<続く>





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Last updated  2020.08.26 17:46:41
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