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日本には、四季を6つに分けた「二十四節気」がある。立春、啓蟄など俳句の季語や手紙に使われることがあるが、この二十四節気をさらに3つに分けた「七十二候」があり、五日ごとに季節の移り変わりを表す。例えば今の時期だと二十四節気は「立秋」で、七十二侯ではそれを「涼風至」「寒蝉鳴」「蒙霧升降」に分ける。これが生活に季節感が薄れつつある昨今、改めて見直されつつあるという。都内のとあるグループでは「七十二候ワイン会」なるものを企画しており、旬の食材とワインを合わせる会を行っている。先日8月8日、つまり「涼風至(すずかぜいたる)」の会はドイツワインと旬の食材がテーマだった。気候変動の影響で涼風どころか蒸し風呂のような暑さではあったが、四谷荒木町のキッチン付イヴェントスペースには十数人が集まっていた。発起人は某I百貨店の食品部門に勤めるUさん。彼女は同僚とともに同店が各地の生産者から取り寄せた食材を選び、イタリアンのシェフとインポーターと相談しながら料理とワインの組み合わせを考えたという。基本となる選択肢は「さっぱり」と「こってり」。これをイメージした料理とワインを二種類づつ合わせていった。最初の組み合わせは(一)水茄子とじゃこの白和え(二)白桃とセロリのサラダに(1)モーゼルの微炭酸辛口(2011 Timo Dienhart Nov Secco trocken 2011)と(2)モーゼルのピノ・ノワールのブラン・ド・ノワール(2011 Römerkelter Bland de Noir 2011)。料理は少量ずつでワインも一口づつ。相性を見るにはちょうど良い塩梅だ。じゃこの白和えは穏やかな甘味があり、水茄子がさっぱりとした印象。白桃とセロリのサラダはセロリの塩気がモーゼルの微炭酸に相性抜群。ロゼはどちらにもほどほどにあうが、ここではリースリング55%、ケルナー45%の微炭酸に軍配があがる。次に(三)普通の枝豆のムースにプチトマト(さっぱり)と、(四)黒崎茶豆のムースにうにを乗せたもの(ねっとり)。黒崎茶豆の香りの明瞭さは印象的で、これぞ枝豆、という味の濃さ。これに(3)バーデンのミュラートゥルガウ45%、リースリング40%、ピノ・ブラン10%、ゲヴュルツトラミネール5%の辛口白(さっぱり、 Heitlinger White Summer Breeze 2010)と(4)ファルツのピノ・ブラン(ねっとり、Dr. von Bassermann-Jordan Weisser Burgunder 2011)をあわせてみる。うにとワインは難しいという意見が大勢を占めたが、個人的には黒崎茶豆の甘味を感じる品の良い豊かな香りと、ファルツのピノ・ブランのすっきりしたほのかな甘味がよくあっていたと思う。(3)のサマーブリーズは軽く飲みやすく、ゲヴゥルツの香りが意外と目立ちフルーティ。料理にあわせるよりも、単体でキンキンに冷やして戸外で飲みたい。次の組み合わせは(五)真子鰈にローズソルト、レモン汁、しょうゆを添えたもの(さっぱり)と(六)一日おいて脂をまわした真鯛のお造りにネギソースとしその実(ねっとり)に、(5)フランケンのシルヴァーナー・カビネット(さっぱり、Bürgerspital zum Heiligen Geist, Würzburger Stein-Harfe Silvaner Kabinett 2007)と(6)ラインヘッセンのピノ・グリ(ねっとり、Weinreich Grauburgunder trocken 2011)。ここではピノ・グリの万能的な相性が際立っていた。上記の他の料理ともほとんどそつなく寄り添っていたのは、ラインヘッセンという産地もあってか酒質が軽く柔らかめで、酸も穏やかだからだろう。一方シルヴァーナーの方は2007という少し熟成したカビネットの甘口。ミネラルの固さと大変綺麗な柑橘の甘味が若干目立つ。どちらも白身の刺身であったので差が少なかったようにも思うが、岩塩とレモン汁で食べるとわりとよく合う。しかしそれでも魚のもちもちとした食感にはどこか違和感が残った。食感という意味でも、柔らかくゆるめのピノ・グリの方が合っていたのかもしれない。次に(七)生姜の天ぷら(さっぱり)と(八)本しめじの天ぷら(ねっとり)。これは銀座天一のお持ち帰り用てんぷらだそうで、冷えても美味しいように衣に味がしっかりついていて、やわらかな食感。これにあわせたのが(7)アールのドミナ(Nelles, Domina QbA 2008)と(8)バーデンのピノ・ノワール(Ziereisen, Blauer Spätburgunder trocken 2010)。生姜の天ぷらは生姜の味が強く、本しめじも天ぷら油の香りが強く、どちらのワインともあまりかみ合わない。どちらかといえばアールのドミナの軽い赤を選ぶが、軽いながらもタンニンがしっかりしていて浮いてしまう。バーデンのピノ・ノワールはワイン自体は凝縮感のある緻密な良いワインだが、天ぷらとはあまり接点がない。さらに(九)太刀魚の朴葉焼き、秋のきのこ添えと(9)ファルツのピノ・ノワール(Fam. Petri, Herxheimer Honigsack Spätburgunder Auslese trocken 2003)、なんとアルコール濃度16%。土臭く強いピノ・ノワールに太刀魚の独特の臭みと味噌の香りがぶつかり合う力勝負。太刀魚がこれほど香りの強い魚とは。上のバーデンのピノ・ノワールとは、ワインそのものが美味しいが合うほどでもなく、(1)の微炭酸、(2)のロゼ、(4)のピノ・ブラン、(6)のピノ・グリならいけるが、一番あうのは日本酒かもしれない。このあと料理は茶巾寿司、売りの奈良漬けとチーズ、スイカなど旬のフルーツのゼリー寄せ、和梨とゴルゴンゾーラソースとブラックペパーに栗の蜂蜜が出され、ワインは(10)ナーエのリースリング・グローセス・ゲヴェクス(Schlossgut Diel, Goldloch Riesling GG 2006)。〆に辛口リースリングというドイツワイン会は今回初めてかもしれない。和梨とチーズと蜂蜜にあわせる興味深い提案であった。確かに胡椒はスパイシーな辛口白へのつなぎになりそうな気もする。考えてみると、ドイツではハムやソーセージなど塩を使った保存食が多い。それらの塩気の強さが、ドイツワインの酸や固さとよく合う。一方、やわらかく重心の低いことが多い和食では、ワインと料理の調和を求めた場合、ドイツで高く評価されているリースリングの辛口は、あわないことが少なくない。ミネラルの固さと酸による重心の高さが、和食の味覚構造にあわないことが多いのだ。どちらかといえば酸のゆるい、あまり果実香の強くない、地味な辛口白か中辛口があわせやすく、また、そうしたワインは手頃な価格であることが多い。観賞用のワインと食事用のワインを分けて考えた方がよいのだろう。もっとも、これもT氏のドイツワインセミナーで学んだことだが。もちろん、私も普段は調和などあまり気にせず、単純に好きなリースリング辛口をもっぱら飲んでいる。ただ、ドイツ人やドイツワイン好きが良いとするリースリングに違和感を覚える消費者に、こうした日本の食生活によりそうことのできるドイツワインを、導入として提案するのは一案ではないだろうか?ともあれ、日本における和食とドイツワインの合わせ方についての考え方も、「和食にはドイツワイン」という単純な図式から少しずつ成熟しつつあるようだ。そして旬へのこだわりや食材、生産者の志を伝えようという主催者の熱意と、学ぶことに貪欲で熱心な参加者の皆さんに、私は正直なところ圧倒されっぱなしだったことも白状しておかねばなるまい。
2013/08/11
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連日猛暑が続いている。13年ぶりの日本の夏だ。セミの声も久しぶりに聞いた。おそらく夏休みの解放感と梅雨明けの暑さが未だに記憶に染みついているのだろう、基本的に暑いのは好きなのだが、昨日は少し気分が悪くなった。以前、モーゼルの急斜面の葡萄畑で写真を撮りながら熱中症になりかけた時と同じだった。しかしにじみ出る汗は乾燥せずに滴り落ち、少しばかり息苦しく、モーゼルの乾いた風が懐かしかった。神よ、可能ならばこの葡萄畑を持ち歩かせたまえ、と、誰か昔の詩人が言っていた気がする。私が持ち歩くとすればモーゼル以外にありえない。モーゼルさえあればいい。死んだらモーゼルの葡萄畑を吹き渡る風に灰を飛ばしてほしい、と本気で思っているのだが、生産者はいやがるかもしれないな。それはともかく、猛暑の東京の片隅で久しぶりにモーゼルのゼクトを比べて飲む機会があった。たとえ葡萄畑は持ち歩くことが出来なくても、ワインは取り寄せることが出来るのがせめてもの救いだ。そして猛暑に相応しくスパークリングが6本。SMWザール・モーゼル・ヴィンツァーゼクト社のエルプリングとリースリングで、2008年から1984年にかけてのヴィンテージ・シャンパーニュならぬヤーガング・ゼクトである。ヴィンテージといっても、ドイツではむしろヴィンテージがついていないゼクトのほうが珍しい。シャンパーニュの大手メーカーのように生産年の異なる原酒をブレンドして毎年同じスタイルをつくるメーカーも中にはあるが、ドイツでは普通の醸造所がワインを業者に委託して、ブレンドせずにそのままゼクトに仕立ててもらうことが多い。だからワインの生産年が、そのままゼクトのヴィンテージとなる。これをワイン生産者(ヴィンツァー Winzer)のワインを仕立てたゼクトということで、ヴィンツァーゼクトWinzersektと言う。醸造所からワインを預かり、ゼクトに仕立てる業者をフェアゼクターVersekterと言う。モーゼルには私の知る限りでは3軒ある。ライヴェンのザンクト・ラウレンティウスSt. Laurentiusとヴィニンゲンのフォン・カナルVon Canal、そしてトリーアのSMW ザール・モーゼル・ヴィンツァーゼクト Saar Mosel Winzersekt (以下SMW)である。その日飲んだ1992と1991のエルプリング・ゼクト・トロッケンは、20年以上を経たエルプリングとは到底思えない若さと複雑さがあった。エルプリングは基本的に若いうちに飲みきるシンプルなワインである。しかし1992のエルプリングのゼクトは繊細でしなやかな熟成香、凝縮感と複雑さがあり、余韻も長く力があった。1991は1992よりも若々しく、澄んだ柑橘と驚くほど若々しい酸に端正な印象さえ受けた。正体を知らされなければ、きっとリースリングと信じて疑わなかったことだろう。なぜ、ここまで若いのか。デゴルジュマンが行われた際に添加された、門出のリキュールとして使われた、ある程度の甘さを持った若いワインが良い方向で影響しているのかもしれなかった。1990のリースリング・ゼクト・トロッケンは全ての要素が穏やかに調和して、若干泡の刺激が弱いものの、ほどよい複雑さと余韻の長さは他の古酒のゼクトと共通していた。一方、1989のリースリング・ゼクト・トロッケンはスケールが一回り小さいが端正でミネラル感があり、直線的で品が良かった。1984リースリング・ゼクト・トロッケンは、27年あまりの熟成期間をトリーアのSMW社の地下蔵で過ごしていたのかと思うと感慨深いものがある。1984は冷涼な秋で葡萄が熟さなかった年だ。おそらく原酒だったころは、痩せて酸がきつい味だったのかもしれない。今は軽くひねた白菜の漬物のような香りがトップノーズに漂い、ミネラリティと塩気が目立つ個性的な味わいだが、やや鈍重な酸を伴う凝縮感のある余韻が非常に長く続き複雑で、まだ枯れていなかった。強い酸と長期間の酵母との接触が、ワインの寿命を延ばしていた。2008 ディヒタートラウムのクレマン・ブリュットは、これらの古酒の後では少し気の毒であった。試飲会でもそうだが、熟成したワインの後の辛口の新酒は、アルコールと青臭い果実味がなんとも頼りなく感じられるものだ。軽くフレッシュで、まるで炭酸割した青りんごジュースだ。単独で飲んだならば、はるかに印象は良かっただろう。ちなみに、クレマンはドイツでは高品質なゼクトを指し、手作業で収穫した伝統品種を全房圧搾し、搾汁率を66%以下とするなどの規定がある。ワインをゼクトに仕立てることを「フェアエーデルング」Veredelungと呼ぶ。高貴化とでも訳したものか。1980年代初頭、過剰生産で抱えた在庫ワインに商品価値をつけて売るための、いわば窮余の策として試行錯誤の末に編み出されたヴィンツァーゼクトであったが、酵母とともに熟成したゼクトの複雑さ、力強さ、凝縮感、余韻の長さは、時間をかけなければ、そして酸ののったモーゼルでなければ到達できない味であったように思う。もっとも….案外単に、委託した醸造所が引き取るのを忘れていたゼクトなのかもしれない。ありえないことではないが、それはまた、改めて聞いてみることにしよう。
2012/08/01
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東京の(株)ラシーヌが今年から新しく扱うドイツ・オーストリア試飲会が開催された。「従来、フランス・イタリアの小規模生産者のスペシャリストとしてやってきたので、去年の夏まで、ドイツワインを扱うことになるとは思っていないかった」と、代表取締役の合田さんは言う。「日本のドイツワインのイメージは20年前で止まってしまっている。本当はドイツは生産者の世代交代が進むなど大きく様変わりをしているし、産地が様変わりしているのに、それを誰も日本に伝えないのはおかしい。インポーターとして、今のドイツから選りすぐってワインをお届けするのが私達の仕事ではないかと思った」と、新たにドイツワインを始める抱負を語った。今回紹介されたのはラインガウのエヴァ・フリッケ、モーゼルのA.J.アダム、クレメンス・ブッシュ、ザールのファン・フォルクセン、バーデンのシェルター・ワイナリー。今後扱う予定のラインナップの一部だ。同社では扱いを決める前に、昨年9月から5回ドイツに渡り、各地の醸造所を訪問している。その際基準となったのが1. 灌漑をしていないこと。2. 野生酵母による発酵か。3. 二酸化硫黄の使用を瓶詰前の一回だけに抑えているか。4. 上級キュベには大樽を使って熟成しているか。などだったという。だが、「有機農法で栽培していても、野生酵母での発酵と、発酵前のSO2の非使用は、ごくわずかの造り手に限られていて、皆無に近い」という現実に直面したそうだ。しかしそうした中でも、急斜面の葡萄畑の厳しい労働環境を受け入れ、理想とするワイン造りに邁進している生産者が、今回紹介する醸造所であるという。エヴァ・フリッケはラインガウのライツ醸造所で働きながら、2007年頃から自分で趣味のようにして栽培・醸造をはじめた女性醸造家。大きな醸造所でワイン造りに携わっていながら、なおかつ自分でもワインを造ろうという意欲あるいは野心は素晴らしい。ワインにもそれが現れていて、購入した葡萄で醸した2011ラインガウ・リースリングからフローラルで桃の香りがしてミネラル感に富み、素晴らしくチャーミング。2011クローネは深みと凝縮感、エレガントさはあるものの若干まだ閉じている。モーゼル中流で2000年に醸造所を立ち上げたA. J. アダムは2011年産がもうリリースされていることに驚くが、ワインとして一応仕上がっていた。奥行のある澄んだ香りにミネラル感が詰まって、甘口のカビネットとシュペートレーゼはしっとりとした甘味で肩肘はらずにリラックスして飲める。オルツリースリングのドーロナー、ピースポーター、ホーフベルクはテロワールを表現したモーゼルの辛口リースリングの一つの到達点。まるで石をなめていようなミネラル感とバランス、奥行があり、中でもホーフベルクにその印象が強かった。アダムの後はファン・フォルクセンのザール・リースリング2011は若干かすむ。実直でザールらしいミネラル感。食事のときに飲むべきワイン。2010シャルツホーフベルガー・ペルゲンツクノップは奥行があり、丸いボディに均一に様々な要素が詰まっている感じ。まだ若々しく、本領発揮まであと5年は待ちたい。クレメンス・ブッシュはまさにモーゼルらしいリースリング。酸とミネラル感が明瞭で、まるで火を通していない生野菜のような印象を受ける。その分鮮烈で個性的。2010フォン・ローテンシーファーと、とりわけ2010ローテンプファードGGの、赤色シーファーに由来するというハーブのニュアンスとフラワリーな甘味がエレガントに感じられた。参加者からは赤色シーファー、灰色シーファー、青色シーファーのワインの個性の違いがしばしば質問に上がり、土壌とリースリングの明快な関連性を知りたいという意見が多かった。バーデンのシェルター・ワイナリーは2010シュペートブルグンダーとピノ・ノワール。前者の方が廉価だが、私はとりわけ前者の香りに品質の高さを感じた。味はさほど複雑ではないが、でしゃばることなく非常に快適な飲み口。参加者の中にはバーデンのピノはブルゴーニュを追いかけているばかりでつまらない、ラインヘッセンやファルツにあるように、肩の力の抜けたピノの方が面白い。ラインガウやアールの甘味のあるピノは、四川料理に素晴らしく合うという意見もあり、なるほどと思った。この他オーストリアからセルナー、ピーター・マルベルク、ピヒラー・クルツラー、エルンスト・トリーバウマー、ビルギット・ブラウンシュタイン、セップ・ムスターが出品されていた。私はなかでもセップ・ムスターが素晴らしいと思ったが、ピヒラー・クルツラーの緻密なアロマも捨てがたい。ピーター・マルベルクは異端児と聞いていた割にはまっとうなワインであった。いずれにしても、こうして新しいドイツワインに本腰を入れて取り組もうというインポーターが現れているのは心強い限りである。これが刺激となって、ドイツワインを新たに扱おうという会社が増えてくることを望みたい。
2012/05/09
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友人宅で何本かワインを開けた。トリーアの町外れにある古いアパートの屋根裏部屋で、磨り減った木製の階段を5階にある彼らの部屋まで上る途中の窓ガラスに淡いブルーやピンクの色ガラスがパッチワークのように使われていて、柔らかい光が差し込んでいた。それは昔懐かしいような、時間の流れが数十年停まったままのような趣があった。「とりあえず、これでも飲んでいて。今リゾットを作るから」と、玄関脇のキッチンでオリバーはみじん切りのたまねぎをバターで炒めながら言った。彼は料理が得意らしく、奥さんのニーナのハートも手料理で射止めたという。2010 ジルヴァーナー・ヴァイスブルグンダー トロッケン(Schloss Sommerhausen/Franken)控えめな酸味、たっぷりした口当たり、軽くクリーミィなテクスチャーに乳酸発酵のヒント、フレッシュな洋ナシのすっきりした果実味、スパイシーなミネラルの刺激。ほどほどに飲み応えもあり、デイリーワインとしては申し分なし。「アルディで買ったんだけど、悪くないよね」とオリバー。大手ディスカウンターのアルディは時々著名醸造所とコラボしてワインをリリースすることがある。数年前、バーデンのフリッツ・ケラーとコラボを始めた時は話題になったが、これはフランケンのシュロス・ゾンマーハウゼンとコラボしてリリースした辛口白で、確か7ユーロ。妥当な価格だろう。2010 ブラウネベルガー・リースリング・トロッケン (Weingut Martin Pr?m/Mosel)プリュム醸造所はJ.J.プリュムとS.A.プリュムが有名だが、このプリュムは聞いたことがなかった。ゼルバッハ・オースター醸造所の栽培責任者が実家で醸造しているのだという。非常にフレッシュで細かな気泡が立っている。ステンレスタンクから直接試飲しているような未完成のワインで、もぎたての洋ナシ、フレッシュな青リンゴの溌剌としたアロマに、軽く青臭い苦味の混じる酸味とミネラル感。酸はアタックには目立たないが余韻に残る。半年くらいして落ち着いたころにはかなり良くなっていそうな予感。2006 カーゼラー・ニーッシェン 、リースリング・グローセスゲヴェクス(Weingut von Beulwitz/Ruwer)VDPと異なりこの生産者の加盟するベルンカステラー・リングではハルプトロッケンでもグローセスゲヴェクスになる。グローセスゲヴェクスは醸造団体の独自基準による格付け畑からの高品質な辛口系ワインの格付けなのだが、どうもややこしい。このワインにしても完熟から過熟ぎみのアロマにマイルドな酸味の2006年産らしい味わい。アプリコットに桃の甘みがあり、華やかで香り高くミネラル感も上々なのだが、やや深みに欠ける気がする。もっとも、それは私の部屋という室温20度を越す熟成環境に恵まれなかった影響もあるかもしれない。辛口ではとくに、繊細なニュアンスが失われる傾向があるように思う。2008 ピースポーター・ゴルトトロプヒェン、リースリング・カビネット(Weingut Reucher-Haart/Mosel)ロイシャー・ハート醸造所にはここ数年ご無沙汰しているが、オリヴァー達が先日行った時も相変わらず親切な醸造家親子だったという。そういえば、息子のマリオ・シュヴァングは醸造家達が結成したサッカーチーム、ヴァインエルフのメンバーだとか。快適な飲み口の甘口で軽く繊細、熟したリンゴや西洋すぐりの綺麗な甘みと調和するフレッシュでほどよい酸味。2000 シャルツホーフベルガー・リースリング・シュペートレーゼ (Weingut Van Volxem/Saar)私の思い出の一本。ファン・フォルクセン醸造所を現オーナーのローマン・ニエヴォドニツァンスキーが1999年末に購入して、初代セラーマスターのゲルノート・コルマンと一緒に初めてリリースした2000年産。ファン・フォルクセンは今はシャルツホーフベルガーからは辛口しかリリースしていないが、当時はシュペートレーゼの甘口もあった。確か一本9Euroだったと思う。6本注文したら、オーナーが自ら配達に来たので驚いた。アパートの玄関まで受け取りに出たが姿がない。「ニツァンスキーさん?」と呼ぶと階段の上の方から「あ、下でしたか」と大またで飛ぶように降りてきた。部屋番号が3から始まるので3階だと思ったという。そそっかしいが、当時のエネルギッシュさは、あれから10年過ぎた今も変わっていない。このボトルも部屋に置いておいたのだが綺麗に熟成していた。まだ若さの残る魅力的なフルーツの甘み(アプリコット、桃)と角のとれたチャーミングな酸味、繊細な白い花の香りが漂い、少しも色あせていない。甘口だからというだけではなく、シャルツホーフベルガーという葡萄畑のポテンシャルも寄与している。そして初めての収穫に対する醸造家の熱意も作用していたに違いない。1977 ユルツィガー・ヴュルツガルテン、リースリング・カビネット(Weingut Karl Erbes/Mosel)カール・エルベス醸造所もロイシャー・ハート醸造所と同じくらいとても親切な醸造所だ。オリヴァーが先日醸造所を訪問した際、自分の誕生年のワインを売ってくれないかと聞いたら、これなら、と売ってくれたという。コルクは既に乾いてオープナーを刺そうとしたらストンと首の奥に沈んでしまった。ソムリエナイフのコイルの先を慎重にひっかけて、なんとか抜き出し事なきを得たものの、残念ながらブショネだった。ほっそりとした果実味に乾燥したグレープフルーツのヒント、甘みはやや枯れて、湿って黴臭いコルクの臭いも明瞭だが、飲めないこともない。炒めたアンズ茸とマッシュルームにパセリとパルミジャーノをたっぷり混ぜたオリヴァーのリゾットは大変美味であった。奥さんのニーナはこの秋から博士論文を書くために母国アメリカに帰り、冬にはオリヴァーもグリーンカードを取得して移住するという。二人に幸多からん事を祈る。
2011/07/22
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時が経つのを忘れワインを語り合う参加者たち。24. 1997 ?rziger W?rzgarten Riesling Auslese (Weingut Dr. Hermann)澄んで繊細な香り、力強い酸とミネラリティ。酸味が舌の上でビリビリと震える。それまでのワインを、時間という霧の向こうで揺れるともし火とすれば、このワインは明瞭な輪郭をもつサーチライトの光。眩しいほどの若さに未来が香る。25. 1985 Erdener Treppchen Riesling Auslese (Weingut Erben Hubert Schmitges)まるい舌触りにフルーティな甘みとほどよい酸味、澄んで繊細、穏やかな調和。1985は温暖な春に冷涼な夏が続いた。良年になりそうもない、と、やはり冷夏で不作年となった1984の記憶も生々しかった生産者達が悲観的になりはじめたころ、ようやく天候が回復して穏やかな秋晴れが続き、素晴らしいシュペートレーゼ、アウスレーゼが収穫されたそうだ。26. 1985 ?rziger W?rzgarten Riesling Beerenauslese (Weingut Dr. Hermann)なかば茶色に酸化したリンゴを思わせる素朴な味わいの、フランクフルト近郊などで愛好されているアップルワインの香り。貴腐香を伴う明瞭な甘みに軽くカカオが混じる。27. 1991 Erdener Treppchen Riesling Eiswein (Weingut Karl Erbes, ?rzig)閉じている。アプリコット、新鮮なリンゴ、蜂蜜のヒントに繊細な酸味。凝縮してかつ精妙な余韻。1991は6月の冷涼な気候で開花が遅れた後、7月から収穫直前まで太陽が照り続けた年。乾燥と高温で酸が過剰に減ることを恐れて早めに収穫した醸造所もあったという。一方10月末まで完熟を待って収穫した醸造所のワインは、凝縮したフルーツ感とミネラルで若いうちはとっつきにくく、ピリリとした酸味が効いていたそうだ。本収穫が終わってから数週間後の早い時期にアイスヴァインが収穫された。28. 1998 ?rziger W?rzgerten Riesling Eiswein (Weingut Karl Erbes, ?rzig)繊細な香りが広がる。完熟して凝縮したアプリコットの甘みに厚みのある酸味、非常に長い余韻。1998年も11月20~23日という早い時期にアイスヴァインが収穫された年だが、私がモーゼルにやってきた年でもある。猛暑の夏の後、10月は肌寒くしばしば雨が降り、トリーアのハウプトマルクトのヴァインスタンドで飲んだグリューヴァインの暖かさ思い出される。そしてこのワインの若々しさは、12年という歳月が長いようでいて、ほんのつかの間でしかないことを示しているように思われた。29. 2006 ?rziger W?rzgarten Riesling Auslese*** (Jos. Christoffel jun.)エレガントで繊細な甘みにマンゴ、パイナップルなど南国のフルーツのヒント、とても長い余韻。2006年は収穫を目前にした10月初旬の大雨で、貴腐が一気に広がった年だ。完熟した南国のフルーツが華やかに香るワインが多い。Le vin c’est le temps; parsque le temps fait le vin. (Jean-Marc Maugey)ワインとは時間である。なぜなら、時間がワインを造るからだ。30. 2006 ?rziger W?rzgarten Riesling Auslese Urgl?ck GK (Dr. Hermann)完熟した柑橘の香りが華やかに香り立つ。みずみずしくボリューム感のある酒躯に白桃、アプリコットのヒント、ほのかな苦味。「ウアグリュックUrgl?ck」は畑の区画名で、樹齢30~80年の自根の古木が育つ。31. 2005 ?rziger W?rzgarten Riesling Trockenbeerenauslese (Karl Erbes)繊細かつ複雑な香りが華やかに香り立つ。アプリコット、蜂蜜、マニキュア落としのヒント。非常に力強く凝縮しているが、同時に繊細な軽やかさもある。シトラスの香りに爽やかな若々しさ。32. 2007 Erdener Treppchen Riesling Trockenbeerenauslese GK (Dr. Hermann)深みと複雑さを備えた香り。舌の上では果てしなく濃厚で丸く、トロリとしてクリーミィだが軽やかで上品。蜂蜜、熟した南国の果物のヒント。舌の上でとろけるような貴腐。偉大な古酒となるだろう。最後のワインの試飲を終えたときには、既に深夜零時をまわっていた。年配の参加者がおもむろに立ち上がり、言った。「シュテファン。クリスチャン、素晴らしい試飲だった!我々は今日、数多くの古酒を味わった。熟成を待ってから飲むことは、新酒が早々に出回るようになった昨今では古臭いことかもしれない。皆新酒のリリースを心待ちにして、市場に出た端からあれこれ評価して飲んでしまう。残念なことだ。しかし昨今、せっかちな消費への反省と批判の声がしばしば聞かれるようになった。特に2010年産の酸味は、熟成を必要とするだろう。つまり熟成したワインを味わうことは古臭いようでいて、実は新しいトレンドなのだ。今宵、我々はモーゼルの真価を味わうことが出来た。素晴らしい体験だった。ありがとう!」セラーに拍手が木霊し、参加者達は皆疲れた様子もなく上機嫌で、夜のしじまに消えていった。外は霧雨であった。しっとりとした空気を胸いっぱいに吸い込むと、モーゼルの水の匂いがした。(終わり)
2011/01/29
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16. 1971 ?rziger W?rzgarten Riesling Auslese (Weingut Gesch. Berres)明るい金色。パセリ、アスパラガスの匂い。軽くほっそりとしてほのかに甘いが、野菜系の香りが面白い。1971は本来優良年として定評のあるヴィンテージだ。1976ほど貴腐の影響は無いが、凝縮した果実味に酸が調和し、理想のリースリングとも言えるエレガントな味わいで、やはりバランスの良い1975と比べても、熟成のポテンシャルでは1971が勝るという。1971年。あの7月は葡萄の葉が黄色に染まり枯れ始めるのほどの猛暑だった。ルーヴァーのカルトホイザーホフは灌漑設備を設置し、6~8週間給水することで収穫を確保した。ザールのフォン・オテグラーフェン醸造所の記録によれば、収穫時の果汁糖度は78~120エクスレ、酸度は8~9g/Literとほぼ理想的な数値。しかし、優良年の定評のある醸造所の優れた葡萄畑に育つリースリングのアウスレーゼでも、こういうワインもあるのが、古酒には避けられないリスクかもしれない。17. 1971 ?rziger W?rzgarten Riesling Auslese (Jos. Christoffel Jun.)オレンジを帯びた暗い金色。鉛筆の芯、アプリコットの香り。コンパクトにまとまった酒躯に干したアプリコット、カカオのヒント、余韻に乾燥した葡萄のヒント。これはまっとうに熟成している。18. 1971 ?rziger W?rzgarten Riesling Auslese***** (Jos. Christoffel jun.)明るい金色。繊細な香り、ブランデー入りアーモンド菓子(マルチパン)のヒント。エレガントで純粋な甘みにほのかな蜂蜜とアーモンドのヒント。クリアーに澄んだ甘酸の調和、気品、長く美しい余韻。フィネス。歳月を経てもなお、というのではなく、歳月を経たからこそ到達出来た味わいというべきか。供出前にコンディションをチェックするクリスチャン・ヘアマン。19. 1975 ?rziger W?rzgarten Riesling Auslese (Dr. Hermann)金色。やや控えめな香りにアプリコット、蜂蜜のヒント。軽い酒躯に砂糖に漬けたアプリコットのヒント。長い余韻にごつごつしたミネラル感が残る。繊細な気品を湛えた18.に比べると若干粗野な印象は否めないが、頼り甲斐のある感じ。20. 1976 ?rziger W?rzgarten Riesling Auslese (Dr. Hermann)ややオレンジがかった金色。熟成香、やや枯れかけている。ほろ苦いカカオのヒント、余韻に繊細な酸味とミネラル感。「やっぱり1975は過小評価されているよ」と参加者の一人。「貴腐ワインの当たり年だった1976の影にかくれているけれど、優良年と飲む度に思う」1976も1959, 1971, 1973同様に猛暑の夏だった。そして収穫期には葡萄畑を包んだ霧が午後に晴れるという、貴腐の繁殖に理想的な天候となったが、酸が不足する傾向があり、熟成能力は1959や1971に及ばないとされる。21. 1976 Graacher Himmelreich Riesling Auslese GK (S.A. Pr?m, Wehlen)黄色を帯びた金色。フルーティなアロマにマッシュルームのヒント。繊細で直線的な構造の酸味とミネラル、余韻に漂う熟成香。ちなみに、S.A.プリュムはカール・ヨゼフ(通称カヨ)とよばれるクリストッフェルJr.醸造所主人の兄の奥さんの実家である。22. 1969 ?rziger W?rzgarten Riesling Beerenauslese (Gesch. Berres, ?rzig)オレンジがかった金色。ほのかに葡萄に繁殖した貴腐菌を思わせる黴くささがあるが、干したアプリコットの凝縮した甘み、ほんのりビターアーモンド、繊細な酸味、長い余韻。23. 1966 ?rziger W?rzgarten Goldwingert Riesling Beerenauslese (Weingut Peter Nicolay, ?rzig)明るい金色。残念ながらコルク臭が目立つが、やわらかな甘みとどうにかこうにか調和しており飲めないことも無い。1969と1966はどちらも良年で似た性格を持っているが、69はどちらかといえばリッチで酸が柔らかく、66は中程度の酒躯に繊細な果実味、上品な酸味が特徴という。試飲会はその後休憩をはさんで1985以降、すなわち温暖化以降のワインに移行した。(つづく)
2011/01/28
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供出前にワインをチェックするシュテファン・エルベスとクリスチャン・ヘアマン。10. 1979 ?rziger W?rzgarten Riesling Auslese (Weingut Gesch. Berres)やや明るい麦わら色。ほのかに熟成香、繊細で上品なカラントの甘みにほのかな酸味の調和したほっそりとした酒躯、美しい古酒。1979は葡萄が熟すのが遅く、糖度はほどほどで酸も強かったが、収穫量が低かったぶん凝縮したワインが生産された。若いうちは固く気難しく、6年目位からようやく飲み頃に入ったという。11. 1970 ?rziger W?rzgarten Riesling Auslese (Weingut M?nchhof, ?rzig)金色を帯びた麦わら色。熟成香にほんのり鉛筆の芯、アプリコットのヒント。甘みは枯れて熟成香と軽い苦み、熟成香の余韻。残念ながら終わっていた。J.J.プリュムの記録によれば、1970は10月になっても葡萄は熟さなかったが、その後訪れた晩秋の好天で挽回出来た。11月半ばから12月半ばまで(!)収穫は続き、それから間もない12月23日と24日にはアイスヴァインが収穫されたという。12. 1967 ?rziger W?rzgarten Riesling Auslese (Weingut Geschw. Berres)オレンジを帯びた金色。ほのかにモルトウィスキーを思わせるスモーキィな香り。コンパクトな酒躯に干した果物の凝縮感があり、繊細で長い余韻に気品を感じる。ものの本によれば1967は恵まれた生産年ではなかった、とある。夏の好天で収穫前まで葡萄は順調に熟したが、その後所により大雨が降ったため醸造所によって差があるそうだが、このボトルは素晴らしかった。13. 1967 ?rziger W?rzgarten Riesling feinste Auslese (Weingut Merkelbach)明るい金色。これだけの歳月を経ても閉じているように感じる香りにシトラス、鉛筆の芯のヒント。軽く繊細な酒躯、ミネラルのほのかな苦味、熟した酸味。14. 1964 ?rziger W?rzgarten Riesling feinste Auslese (Jos. Christoffel jun.)明るい金色。軽く繊細でエレガント、繊細な甘みが花のように香りたち、若々しささえ漂う。ボトルの中で時の歩みが止まっていたかのようだ。1964のワインは一般に酸度は低いが大変充実した酒躯を持つとされる。だが、ザール、ルーヴァーとラインガウは、産地特有の生き生きとした酸味のお陰で酸不足を免れ、とりわけ美しく熟成したという。このクリストッフェルJr.のファインステ・アウスレーゼは中部モーゼルながら、素晴らしい芳しさがあった。ちなみに、昔はアウスレーゼをファイネ・アウスレーゼ、ファインステ・アウスレーゼと数段階に分けてリリースすることが出来た。ルーディ・ヘアマンによれば、ファイネ・アウスレーゼとファインステ・アウスレーゼに法的な基準はなく、醸造所がそれぞれ独自に判断していたという。だから消費者の誤解を招くとして1971年のドイツワイン法で禁止されたわけだが、その後も高品質を目指す醸造所はゴルトカプセル、ランゲ・ゴルトカプセルで区別している。15. 1959 ?rziger W?rzgarten Riesling feinste Auslese (Jos. Christoffel jun.)暗い金色。干したアプリコット、ほのかに鉛筆の芯、カラメルの魅力的な香り。舌の上では軽やかな酒躯に歳月を経て凝縮した味わい、干したアプリコットにほんのりとした苦味、モカのヒント。香りは口中に長く残る。1959は世紀のヴィンテージとして名高い。5月半ばの氷の聖者(アイスハイリゲン)で葡萄の蕾が霜害を受けた後「夏の間中、ず~っと太陽が照り続けていた」と年配の参加者が言うように、ほぼ3ヶ月間雨が降らず収穫の大半はアウスレーゼ以上となったが、酸度が6~9g/Literまで下がった。そのため収穫直後は熟成能力が疑問視されたが、それが杞憂に終わったことは周知の通りである。しかしその日は、1959, 1964, 1969, 1971, 1975, 1976, 1979といった評価の高い生産年も確かに相応のポテンシャルを示していたが、それ以外の、言わば忘れられた生産年とも言うべき1967, 1968, 1973のワインもまた、思いのほか楽しめることに感銘を受けた。「思い出は時とともに色あせていくものである」と先日書いた。ごく一部の奇跡のようなワインだけが、その魅力を保ち続けることができるのではないかと思ったからだ。しかし、古酒はどうやらそれだけではないようだ。(つづく)
2011/01/27
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5. 1968 ?rziger W?rzgarten Riesling Kabinett (Weingut Fritz Berres, ?rzig)黄色の色調の麦わら色。軽くシトラスのヒントにほのかな甘み、余韻にアーモンド菓子(マルチパン)の香りが漂う。1965よりずっと明瞭な果実の存在感で、生産年の条件の違いを伺わせる。6. 1972 Erdener Treppchen Riesling Kabinett (Joh. Jos. Christoffel-Dr. Hermann)淡い琥珀色。干したアプリコットの繊細な香り、繊細な丸い酸味、熟成香に干した柑橘のヒント。「この年は72エクスレ以上に糖度が上がらなかった」と、ワインを醸造した本人のルーディ・ヘアマンは言った。「昔は90エクスレまで上がれば御の字だったのが、今は110エクスレまで普通に到達する。温暖化の影響だ」実質的に1985年以降、ドイツでは良年が続いている。果汁糖度が70エクスレ止まり、という生産年はもはや皆無だ。してみると、1984年産から始まったこの試飲会は、温暖化以前の生産年を遡るようにして始まった訳だ。7. 1968 ?rziger W?rzgarten Riesling Sp?tlese (Weingut Merkelbach, ?rzig)黄色の色調の麦わら色。ほのかに香るアプリコットのヒントから期待する甘みは枯れていたが、中身の詰まった酒躯にミネラル感があり、余韻に熟成香が漂う。1968年は晩熟な年で、フォン・オテグラーフェン醸造所の記録では11月に入ってから収穫を開始。果汁糖度は63~78エクスレ、酸度は12~13g/Liter。シュペートレーゼは10年以上若々しく非常に上品な新鮮さを保っていたという。8. 1973 ?rziger W?rzgarten Riesling Sp?tlese (Weingut Karl Erbes, ?rzig)金色を帯びた麦わら色。昇華しつつも繊細な甘みがはっきりと感じられ、蜂蜜、干したアプリコットのヒント、長い余韻。今でも十分に楽しめる。「1973年は素晴らしい夏だった。暑くて晴れた日が続いてな。あの夏は今でも忘れられんよ」と、年配の参加者がつぶやいた。厳しい乾燥で葡萄は収穫を目前にしてそれ以上成熟することが出来ず、期待された偉大な生産年にはならなかったものの、熟した果実の味わい深いワインが出来たという。9. 1973 Wehlener Klosterberg Riesling Sp?tlese (Weingut M?nchhof, ?rzig)やや暗い色調の麦わら色。熟成香にハーブ、干した果物のヒント。甘みのすっかり枯れた丸い舌触りの酒躯、辛口の余韻。ワインに集中する参加者。「それにしても、甘みはどこに行ってしまったんだろうね」と一人が首をひねる。「若い時のフルーティな甘みは、熟成すると枯れてしまうのはなぜだろう」「フロリアン・ラウアーから聞いたんだけど」と一人が答えた。フロリアンはモンペリエで醸造学を学んだザールにあるペーター・ラウアー醸造所の若手醸造家だ。「長期間の熟成で糖の分子が結合して、舌の味覚細胞の受容体に収まらないくらい大きくなってしまうらしい。だから糖は存在はしても感知できないから、辛口に感じるそうだ」なるほど、そうなのかもしれない。しかし、熟成を経て甘みが枯れるのは、可愛い子供が成長して大人になり、やがて老いていく人間の辿る過程に似ている気がする。そしてまた、老いてなお魅力を失わないものには、ワインでも人間でも、敬服するに値するのではないだろうか。(つづく)
2011/01/26
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小説や映画で、夜の森の中を車で走るシーンがある。エルデン村の試飲会の後、ユルツィヒ村に向けてしばらく渓谷の上にある森の中を走った時は、丁度そんな感じだった。雨にぬかるんだ山道にヘッドライトの光芒が揺れ、暗闇の中に森の木立を浮かび上がっては、後ろへと飛び退っていく。対岸にあるユルツィヒまで普段はトレプヒェンの麓を走る国道を使うのだが、その日は氾濫したモーゼル川に水没していたため、葡萄畑がある斜面の背後を大きく迂回しなければならなかった。我々はやがて木組み造りの家屋が軒を寄せ合う村に入り、霧雨に濡れた石畳の上に車を停めた。古酒の試飲会場となったのは、カール・エルベス醸造所の地下セラーだ。醸造所の通りに面した入り口は狭く、一見すると普通の民家にしか見えない。居間を通り抜けてセラーに向かう階段を下りると、壁の目の高さの位置に「Hochwasser 23.12.1993」と日付が記され、1993年のクリスマス・イブの前日にモーゼルの大氾濫があり、このセラーはすっかり水没したことを示していた。それに比べれば今回の氾濫は大したことは無い。「よくある程度」と地元住民は落ち着いていた。積み重なったワインボトルに囲まれた酒庫は、14人あまりの参加者にはいささか狭かったが、却って昔からの知り合いのような、家族のような親密な雰囲気が生まれていた。我々は肩を寄せ合うようにして着席すると、半世紀の歳月を遡る古酒の試飲が始まった。会場全景。参加者にワインをそそいでまわるシュテファン・エルベス。1. 1984 ?rziger W?rzgarten Riesling QbA (Weingut Karl Erbs, ?rzig)明るい金色。熟成香は年相応にあるが、舌の上では意外なほど若々しくエレガントで、繊細な酸が生きていた。「1984は恵まれない生産年と言われているけど、これはなかなか」「ぜんぜんいけますね」と驚きの声があがる。瓶詰めされて以来セラーから動かなかった、理想的な保存状態がうかがえる。2. 1980 Graacher Domprobst Riesling QbA (Ewald Pfeiffer, ?rzig)金色。軽いシェリーのようで、ほのかな苦味に酸の目立つ余韻。「これは終わっている」との声で供出された二本目のボトルは、コンパクトな酒躯に干したグレープフルーツのヒント、スモーキィな香りが余韻に漂った。「この年は花振るいで収穫も少なかったが、そのぶん、しっかりしたワインになった」と、おそらく地元に住む年配の参加者が当時を懐かしむように言った。3. 1965 ?rziger W?rzgarten Riesling natur (Weingut Merkelbach, ?rzig)明るい麦わら色。マッシュルームの匂い。舌の上でもマイルドな酸味とハーブティーにマッシュルームが混じる。セラーでびっしりと黴に覆われたボトルだったのだろうか。カマンベールの白黴を思い出す。私のヴィンテージでもあるこの1965年は、世紀の不作年と言われている。収穫時期に雨が降り続き葡萄が熟さず、酸味の勝る痩せたワインが少量出来たに留まった。ザールのフォン・オテグラーフェン醸造所の記録では、その年の収穫は果汁糖度60~68エクスレ、酸度は12g/Literというから、いかに恵まれない年だったかわかる。「それでもカルトホイザーホフはアイスヴァインを造ったけど、あれは酸がギスギスして飲めたもんじゃなかった」と参加者の一人は言う。ちなみにそのアイスヴァインは果汁糖度109エクスレ、酸度35.3g/Liter(!)であった。4. 1965 Erdener Pr?lat Riesling naturrein (Weingut Fritz Berres, ?rzig)やや暗い色調の金色を帯びた麦わら色。ほのかに甘く繊細な香りが漂い、ほっそりとした酒躯に繊細なガラス細工のような酸味と枯れた甘み、軽くモカのヒント。これも1965年産だが、まだ生きていた。今にも壊れそうなほど儚いが、まだ生きていた。恵まれた葡萄畑と理想的な熟成環境が可能にした、ひとつの奇跡というべきかもしれない。(つづく)
2011/01/25
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先日の雪景色をもう一枚。あれから少し暖かくなり、この雪もあらかた融けてしまった。昨夜は友人宅でワイン会。印象に残ったのはDr.ジーメンス醸造所の2009 ピノ・ノアール。ザールの最も上流にあるのだが、なかなか緻密な仕上がりで、良い意味でドイツらしからぬ調和のとれた辛口赤に驚く。まだ閉じており2,3年後が楽しみ。エンデルレ&モル醸造所の2008ピノ・ノアールは上品だがやや後味があっさりしている。2007にあった凝縮感もやや弱く、2008は難しい年だったようだ。破産したバッテリーベルク醸造所を元ファン・フォルクセンの醸造主任ゲルノート・コルマンが引き継いで初リリースした2009 Riesling Kabinett CAI halbtrockenは、個人的にはやや期待はずれ。酸のキレがわるく輪郭がぼやけ、ミネラル感はそこそこあるものの、口当たりの良いリースリングでしかない。機会を見て他のワインも試飲したい。ゲルノートが手がけた最後の生産年である2003年のファン・フォクセン Wiltinger Braunfels Vols Rieslingはまだ生きていた。ちょうど飲み頃で、これから次第に下り坂に入りそう。まったりとした味わいにほのかな熟成の香りが良い感じに出ている。ペーター・ラウアー醸造所の2009 Fass 3 Ayler Kupp Riesling feinherbはこの造り手らしい軽さ、繊細さ、ミネラル感と透明感にほのかな甘みが心地よい。飲んでいて負担にならない綺麗なワイン。アルテンキルヒ醸造所の2009 Quarzschiefer Riesling feinherb。軽めの口当たりにほっそりした酸のアクセント、やや控えめで程よいミネラル感。若干大人しかったが参加者には好評。Dr.ヘアマンの2008 Erdener Treppchen Riesling Sp?tleseはケバい。ゲヴルツトラミーナーかショイレーベとしか思えない独特のアロマが強く、本当にリースリングなのかと思ったが、モーゼル中部ではこういう香りの、私にはやぼったく思えるリースリングに時々出会う。テロワールなのか、クローンの個性なのか。同醸造所の2009 Erdener Pr?lat Riesling Ausleseも同じ傾向のアロマが若干目立ち気になった。対照的にヴァインホフ・ヘレンベルクの2003 Schodner Herrenberg Riesling Ausleseは素晴らしい。クセのない素直で濃厚な甘み、完熟した柑橘に蜂蜜のヒントに綺麗なまるい酸味にほんのりスパイシーなミネラル感、とても長いアフタ。まだ若々しさを感じる。…と、こんなところか。あ、まだゼクトがあった。クリュセラート・ヴァイラー醸造所のリースリング・ゼクト・ブリュット。この醸造所らしい柑橘の香り高いゼクト。熟した柑橘の澄んだアロマで、なかなか美味しい。以上6人で10種類。全部空にしたわけではなく、残りは適宜持ち帰った。
2010/12/12
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このところ、涼しくて曇り勝ちな日が続いている。6月末から7月にかけて3週間あまり続いた暑さで、渇水ストレスのある畑もあったというが、ここしばらくの雨勝ちな空模様で、給水は問題なさそうだ。最近飲んだワイン。2009 Weingut Altenkirch, Steillage Riesling feinherb私は中途半端にフルーティな辛口は嫌いだ。甘みでもともと薄っぺらな味わいを覆い隠そうとしている様子が見えようものなら、グラスの残りを流しに捨てたくなる。しかし、これは違う。口に含むと舌を押し返すような、濃い目でしっかりとした、真っ直ぐに伸びやかな味わい。ファインヘルブでも辛口と中辛口の中間あたりだろうか。甘みが目立たない。綺麗に澄んだ果実味がきっちりとまっすぐな酸味に調和。背筋の伸びた、堂々とした、自信に満ちた、調和のとれた、無理のない、自然な、中身の詰まった、スッキリとした、余韻の長い、エネルギー感のある、素直な味わい。バッターボックスでピッチャーと対峙して、どんなボールを投げてくるか身構えていたら、直球どまんなかの剛速球を投げられ完全に振り遅れた感じ。まいった。2009 Weingut Altenkirch, Quarzschiefer Riesling, feinherb同じ醸造所の、位置づけ的にはワンランク上のリースリング。こちらは明瞭に甘みを感じる。食事にあわせて飲むのはどうも、と思ったが、力強い酸味と熟した柑橘の甘みと拮抗して、この酸と対抗するにはこれだけの甘みが必要だったのかな、と思わせる。中盤から肌理の細かいミネラルがやや控えめに存在感を現し、素直に伸びやかな果実味と調和しつつ長い余韻を残す。まさに葡萄のエネルギーが詰まったようなワイン、醸造家のパッションを感じる。最初にこの醸造所の栗山さんのワインに出会った2007年産以上にインパクトのある仕上がり。ゴー・ミヨのAufsteiger des Jahresになってもおかしくないと思うが、このぶんだと他の醸造家の仕上がりも侮れないだろう。個人的には栗山さんに一票。2008 Weingut Georg Breuer, Sp?tburgunder Pinot Noirリューデスハイムで短時間直売所に立ち寄ったとき買ったもの。第一印象は薄く物足りないが、飲み進むうちに軽いながらも調和のとれた丁寧な仕上がりに感心する。控えめながらピノ・ノワールらしいラズベリーのヒント、やわらかい舌触りのボディ、そっと支えるこなれたタンニン。2008が難しい生産年だったことをうかがわせる反面、ここまで綺麗に仕上げているのは立派だ。2009の出来にも期待できる。直売所では2009 Sauvage Riesling trockenと2008 Rieslingを一通り試飲。2008は全般にやや線が細く軽い熟成のヒント、リースリングに枯淡な繊細さを求める人にはいいかもしれない。果実味よりミネラルが勝っている。この生産年としては個人的にはお勧めの醸造所ではない。しかし2009 Sauvageは対照的に力強く、他のラインナップにも期待が持てる。だが、フラッグシップの2008 Berg Schlossberg R?desheimer Rieslingは他の2008とは別物だ。力強く調和がとれ、雑味がなく美しく、パワーと奥行きがある。その完成度の高さはまさにグラン・クリュに相応しい。40Euroは決して安くは無いが、ポテンシャルからすると高すぎることはないと思う。ちなみに、9月5日と6日はこの醸造所の新酒試飲会で、誰でも参加できる。詳細はwww.georg-breuer.com。
2010/08/13
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今年の葡萄は開花は遅かったが、その後の成長の早さはすごかった。わずか二週間あまりで房はみるみるうちに形をととのえて、こんなのはこの20年間見たことがない、と、モーゼルのある醸造家は言っていたそうだ。このぶんなら、また昨年のような良年に恵まれるかもしれない。今日のワイン。アルテンキルヒ醸造所、2009シュタイルラーゲ・リースリング・トロッケンWeingut Altenkirch, 2009 Steillage Riesling trocken明瞭な酸味-熟す手前の果肉の固い桃を齧った感じに似ている-が、舌に乗せた瞬間からアフタまで続くけれど、軽くクリーミィな感触のボディの、繊細でこなれたミネラルとエキストラクトがキレのある酸味を包み込み、フレッシュな青リンゴ、シトラス、ミントの爽快なフルーツの香味とあいまって、さっぱりとして明瞭な余韻を長く残す。かすかに野生酵母臭があるものの、ほとんど気にならない。並の醸造所のシュペートレーゼ・トロッケンよりも素晴らしい。夏向きの爽快感と飲み応えを兼ね備えている。栗山さんの醸造手腕に脱帽です。
2010/07/26
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その日も真っ青な青空が広がり、最高気温は30度を超えた。午後、図書館から外に出ると、まるでオーブンの扉を開けたような熱風に包まれ、息苦しいほどであった。夏至を過ぎてから3週間あまり続く暑さにぐったりしつつ、これでは出かける前に一度帰ってシャワーを浴びなければなるまい、と思った。その夜、トリーアの市街地にある知人宅で久しぶりにワイン会があった。ワインスタンドのあるハウプトマルクトから歩いて5分ほどのところにある、一階にピッツェリアが入っている建物の屋根裏部屋が、彼の住居兼事務所である。狭い階段を4階まで上る間に、洗い流した汗が再び噴出してきたが、開け放った窓から拭きぬける風に素早く乾いていった。こじんまりとした台所の片隅にある小さな冷蔵庫の前で何を飲もうか3人で思案したあげく、とりあえずこの2本から始めることにした。フォン・シューベルト醸造所、2008 アプツベルク、リースリング・アルテ・レーベンVon Schubert, 2008 Abtsberg Riesling Alte Reben シュタイン醸造所、2008 ザンクト・アルデグンダー パルムベルク・テラッセン、リースリング・シュペートレーゼ・トロッケンWeingut Stein, 2008 St. Aldegunder Palmberg-Terrassen, Riesling Sp?tlese trockenフォン・シューベルトのアルテ・レーベンは昨年以来3回目になるが、相変わらず気難しい。明瞭な野生酵母による発酵香があり、寡黙で、緻密なミネラルが舌の上にどっしりと腰を据え、舌の脇にかけて繊細で明瞭な青りんごの酸味が流れるが、全体としてややそっけない印象を受ける。1年半の熟成を経ても相変わらずだ。しかし、いずれは見事に花開くのではないかと期待を抱かせる。一方、シュタインのパルムベルク・テラッセンはきっぱりとしている。明瞭なストラクチャーで、骨太な酸味とミネラル感に、完熟したリンゴ、グレープフルーツの透明感のある果実味が調和して、飲み応えがあり、おいしい。野生酵母で発酵をスタートし、頃合を見計らって香味への影響が少ない培養酵母を投入したという。酸味が似通っている二本を選んだ、とラースは言うが、確かにそれぞれ酸の出方に個性があり、面白い比較だった。ペーター=ヤコブ・キューン醸造所、2009 クアルツィット・リースリング・トロッケンWeingut Peter-Jakob K?hn, 2009 Quarzit Riesling trockenベッカー・シュタインハウアー醸造所、2008 ツェルティンガー・シュロスベルク ディー・シュタインマウアー、リースリング・シュペートレーゼー・トロッケンWeingut Becker-Steinhauer, 2008 Zeltinger Schlossberg Die Steinmauer, Riesling Sp?tlese trockenP.J.キューンのクアルツィットは醸造所のラインナップでは下から二番目の、ハウスワインと畑名ワインの中間にあたるが、畑名入りのドースベルク、ザンクト・ニコラウスで行っている醸し発酵を取り入れたリースリングに似た、独特のアロマティックな調和を感じる。完熟する一歩手前の赤い桃を思わせる瑞々しい果実味に溶け込んだ繊細な酸味が、飲み手を飽きさせず、スイスイとグラスが進む。ベッカー・シュタインハウアーは、熟したグレープフルーツを軽く燻したようなスモーキーな香りが面白い。2008年産、野生酵母、ステンレス発酵。樽香でなければ、この香りはどこから来るのか?キューンは私、シュタインハウアーはマンスーの持ち込み。特に比較する意図はなかったが、成り行きで。A.J.アダム醸造所、2008 ホーフベルク GG リースリング・トロッケンWeingut A.J. Adam, 2008 Hofberg GG Riesling trockenクレメンス・ブッシュ醸造所、2008 マリエンブルク・ファルケンライ GG リースリング・トロッケンWeingut Clemens Busch, 2008 Marienburg Falkenlay GG Riesling trockenA.J.アダムはVDP加盟醸造所ではないが、最上の区画からの辛口に「グローセス・ゲヴェクス」にちなんで「GG」と裏ラベルの畑名の横に小さく書いている。繊細で澄んだ果実味、品のよいミネラル感、軽やかさと調和を感じ、高原の新雪を思わせる非常に美しい仕上がりは、醸造所独自とはいえGGの格付けに相応しい。クレメンス・ブッシュのファルケンライは本物のグラン・クリュ。口に含むと落ち着きと調和をまず感じ、肩の力の抜けたゆとりある酒躯のおおらかさに、木樽で十分に時間をかけて醸造したことをうかがわせる。中盤からアフターにかけて舌の上で力強いミネラルが次第に存在感を増し、葡萄樹が深く根を張っているというグラウシーファーの岩盤を彷彿とさせつつ、長い余韻が凝縮した果実味とともに長く続く。クレメンス・ブッシュに比べるとアダムはやや力負けしてしまう。それは畑のポテンシャルによる面がおそらく大きいのかもしれないが、前者のライオンのような年季の入った相貌と、後者の2000年にワイン造りを始めた一途な優男という、醸造家の個性をも反映しているような気もする。エンデルレ&モル醸造所、2007 ブントザントシュタイン ピノ・ノワールWeingut Enderle & Moll, 2007 Buntsandstein Pinot Noir二人の若者スヴェン・エンデルレとフロリアン・モルがバーデンのオルテナウに2007年に立ち上げた、1.8haばかりの小規模醸造所が初リリースしたワイン。瑞々しく濃厚、広がりと調和のある果実味にラズベリーのヒント、完全な辛口だがフルーティ、濃厚な果実味に絶妙なバランスのタンニンと控えめなバリック樽のロースト香。ノンフィルター。ドイツ赤としてはスケール感のある大きなピノ・ノワールで、丁寧に造ったことが伺える。二人ともバーデンで醸造を学び、醸造所で働いた経験を持つが、4月に醸造所を訪問したラースによれば、現在はそれぞれ郵便配達とディスカウンターの物流センターで働きながら、ビオディナミで葡萄畑を世話し、醸造施設を借りてワインを作っている。ちなみに、樽はドメーヌ・デュジャックとジャイエ・ジルが1年使ったものを購入したという。なんだか、若者達の夢と情熱が伝わってくるようなワインだった。醸造家として成功する日も遠くないだろう。最後の一滴を飲み干して気がつくと午前1時を回っていた。良いワインを飲んでいると時の立つのが早い。屋外ではひとしきり降った夕立のお陰で石畳も冷え、夜風が心地よかった。
2010/07/23
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週末、菜の花畑を見に行った。かれこれ一週間位、遠くからも黄色に染まっているのが見えたのだが、近寄ってみるとまだ満開前であった。このところ肌寒いので開花もゆっくりと進んでいるようだ。夕食時、フォン・シューベルト2008 アプツベルク・アルテ・レーベン・トロッケンを開ける。リリースから1年近くを経てどうなっているか興味があったからだ。まだ固く閉じている。ごつごつとしたミネラル感が前面に出て、果実味を圧倒しているが、それでも一体感はある。充実している。実直で、媚びる所が無い。ある意味そっけなく、内気で、無口で、じっくり味わうとそれなりに見所はあるが、美味しいと素直に楽しめる酒ではない。私が普段飲む5~7Euro前後のワインと比べて、その2倍近い価格に見合ったものかどうか、少し考えた。例えば最近では、バーデンのフライヘア・フォン・グライヒェンシュタイン2008ホーフガルテン・ヴァイスブルグンダー・カビネット・トロッケンは、繊細で軽い舌触りの酒躯に、絹のヴェールのように軽やかなシトラスがアクセントを添え、非常に快適な飲み心地で料理にも素直に寄り添った。南ファルツのユルゲン・ライナーの2008 リースリング・ハンドヴェルク・トロッケンは、ほぼ完全発酵したと思われる辛口でありながら11.5%という控えめなアルコール度で、その軽やかさと端麗な果実味は、これまでに体験したことのない新鮮さがあった。どちらも7Euro前後であるが、その価値は十分にあった。フォン・シューベルトのアルテ・レーベンは二日目になると、果実味に少し艶が出てきた。ほんのり白い花の香りが漂い、目の粗かったミネラルもややこなれて、少し肩の力が抜けたかのように見える。相変わらず地味ながらも奥行きと余韻が明瞭になって、最初からデカンタージュするべきだったことに思い当たる。しかし飲み手に媚びない酒であることに変わりは無い。気に入ろうと気に入るまいとそれはあなたの勝手だ、と突き放すような気配すらある。熟成香は未だどこにも無い。コルクを抜くのは、1年待っても時期尚早だったようだ。恐らく普段飲みのワインとの価格の差は、飲み頃を待つ楽しみの対価なのかもしれない。長期熟成能力と言ってもいい。それは、日常消費用のワインには求められない。あるいは、日常消費用ワインの分かりやすさと、テロワールを表現することに主眼を置いたワインの難解さが、その差かもしれない。ワイン造りの意図するものが違う。日常消費用ワインに求められるものと、畑の個性を反映することを追求したものと。後者の結果が、飲み手に魅力として映るかどうかは別問題である。コストをかけても、それが理解されなければ市場で成功することは難しい。テロワールのもたらすものがそこで問われることになる。
2010/05/11
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ここ数日、非常に寒い。青空が見えるのだが、気温は氷点下で時折蛍のように雪片が舞う。ここは北国だったのだなと、改めて感じた次第。さて、年を追う毎に評価が高まっているように見える日本のワインだが、最近ドイツでも時々話題になることがある。先日はネットでワイン番組TVinoを主催する有名ソムリエ、ヘンリック・トーマがYouTubeで日本のワインを試飲した印象を伝えている。生産年ははっきり確認できないが、ワインは勝沼醸造の『Magrez-Aruga Koshu』。フランスの生産者ベルナール・マグレが富士山の斜面に購入した6haの葡萄畑からの収穫を、有賀雄二氏の営む勝沼醸造が醸造したワインだ。初リリースの2007は日本国内のみの発売というから、ヘンリックが試飲したのは2008か。「正直言って、驚いた」とヘンリック。「グアヴァ、パッションフルーツ、少しあるリンゴのヒントも綺麗だし、良くできている」携帯で撮影したと思われる画像の背景にはグラスが林立し、無数のコルクがテーブルに転がっている。おそらく業者向け試飲会の後で、これは記録に留めておいた方が良いと感じたのだろう。「ただ、ちょっと高すぎるね...生産本数6~8000本で、日本レストランが争って仕入れているそうだからわからないでもないけど...ジューシィでとても面白いし、何か発見した気分になれるワインだね。でも35Euroはちょっと高すぎる。いずれにしても、日本でもとても興味深いワインが出来るということがわかった」と、1分半ほどのコメント。35Euro(約4550円)は大抵のVDP加盟醸造所のグラン・クリュに相当するグローセス・ゲヴェクスが25~30Euro前後であることを考えると、ドイツ国内ではかなり強気な値付けだ。一方、逆にドイツのラインガウで栽培された甲州も日本では約6000円(約46Euro)もする(初リリース時の希望価格は1万円)。エストリッヒ・ヴィンケル村のF.B.シェーンレーバー醸造所が日本から取り寄せた苗木244本を0.23haで2003年から栽培、2005年が初収穫。2008年の生産本数はわずか348本。初リリースの際、シェーンレーバー醸造所の醸造家フランク・シェーンレーバーは2006年に甲州の故郷山梨を訪れ生産者とのディスカッションを行い、ヘクタールあたりの栽培量を低く抑え、収穫の際の選別を徹底すること、低圧でゆっくりと圧搾すること、低温発酵することなどを提案したという。甲州のとりもつドイツの日本の縁とでもいうべきか。この交流を通じて日本の甲州の高品質化がすすみ、ドイツのテロワールへの理解が深まればと思う。
2010/02/10
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年末にトリアーのケーキ屋で買った、マルチパンで出来た豚さん。幸運を呼ぶお守りなのだが、そろそろ食べなければならない。四つ葉のクローバーをくわえて、幸運を呼ぶキノコを載せている。さらに、チョコで出来た馬の蹄鉄-これも幸運を呼ぶ-を背負っているという欲張りな一品。今日の一本。2002 Wiltinger Hoelle Riesling Spaetlese trocken (Vereinigte Hospitien/Trier)。これはまだ十分楽しめる。繊細な酸味、控え目ながらしっかりとしたミネラルと林檎のヒント、ほんのりとマロンの熟成香。あと1,2年は大丈夫だろう。
2010/01/13
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ゴー・ミヨのドイツワインガイド2010年版が18日に発売された。1. 大山鳴動して鼠一匹4ヶ月ほど前にワインガイドの制作費協力依頼に反発、同ガイドでもトップクラスにランクされている14醸造所がサンプルボトル提供と掲載拒否を宣言し、これを受けて編集主幹の一人アーミン・ディールが辞任して話題になったことは記憶に新しい。さて、反旗を翻した醸造所の扱いはどうなったかといえば、まるで何事もなかったかのように掲載されていた。ベルヒャー、デンホフ、ルドルフ・フュルスト、グンダーロッホ、Dr.ヘーガー、ヘイマン・レーヴェンシュタイン、ケーラー・ループレヒト、ヨゼフ・ライツ、ヨーナー、クニプサー、キュンストラー、マイヤー・ネケル、エゴン・ミュラー、ゼーガーはもとより、声明に同調したヨハン・ルック、テッシ、グッツラー、スティグラー、ハーンミューレ、ヴィルヘルムスホーフ、K.F.グレーベなども昨年と同様の扱いであった。大山鳴動して鼠一匹。一体あの騒ぎは何だったのかと思いたくなる。ドイツのワインブログWürz-Weinでアーミン・ディールとジョエル・ペインのインタビューの動画を見ることができるが、それによればディールが辞任した後編集主幹を一人で引き受けることになったペインは、意見書に署名した醸造所の大半を訪問してまわったそうだ。その結果3分の1前後の生産者はサンプル提出に同意し、あとの醸造所も訪問の際におおっぴらにではないがサンプルを渡してくれた。2,3の醸造所だけはやむなく市場に出回っているワインを購入して評価を行ったという。訪問したいずれの生産者も友好的で、ガイドブックの存続を希望し、「ほんとはみんな、あなたの本で良い評価を期待しているんですよ」と言ってくれた醸造家もいたそうだ。雨降って地固まる、といったところか。エチケットの大半はカラーになり、産地の風景写真が要所要所に入り、4つ房以上のトップヴィンツァーはポートレートも追加された。今後の動向が注目される醸造所の房は赤で表示され、醸造所解説に段落見出しが加わり、各醸造所の試飲ワインの本数と最高点とともに最低点が記載され、仕上がりのばらつきの有無も一目でわかるなど、様々な改善が行われ読みやすくなった。2. 醸造所とワインの評価 雑感ワインと醸造所の評価については、それを受け入れるかどうかは読み手の判断に任されるとして、大筋で了解しうるし、一応の参考にしてよいと思う。以下に2010年版の受賞醸造所・ワインを挙げる。醸造家大賞 ティム・フレーリヒ (Weingut Schaefer-Freohlich/Nahe)コレクション大賞 ベッティーナ・ビュルクリン・フォン・グラッツエ、フリッツ・クノル(Weingut Dr. Buerlkin-Wolf/Pfalz)向上醸造家大賞 ヨハネス・フライヘア・フォン・グライヒェンシュタイン(Weingut Freiherr von Gleichenstein/Baden)新発見醸造家大賞 エヴァ・フォルマー(Weingut Eva Vollmer/Rheinhessen)ソムリエ大賞 メラニー・ヴァグナー(Restaurant Schwarzer Adler/Oberbergen)ワインリスト大賞 ガビ&ハンス・シュテファン・シュタインホイアー(Restaurant Alte Post/Heppingen)Bester Winzersekt Brut2004 Pinot Noir & Chardonnay Cuvee MO Brut Nature (Diel/Nahe)Bester Spaetburgunder2007 Pinot Noir (Friedrich Becker/Pfalz)Bester Weisser Burgunder2008 Im Sonnenschein Weisser Burgunder Grosses Gewaechs (Rebholz/Pfalz)Bester trockener Riesling2008 Forster Kirchenstueck GC (Dr. Buerklin-Wolf/Pfalz)Bester feinherber Riesling2008 Wiltinger Gottesfuss Alte Reben (Van Volxem/Saar)Bester Riesling Kabinett2008 Wehlener Sonenuhr (Joh. Jos. Pruem/Mosel)Bester Riesling Spaetlese2008 Bockenauer Felseneck Goldkapsel (Schaefer-Froehlich/Nahe)Bester Riesling Auslese2008 Scharzhofberger Auslese -10- (Egon Mueller/Saar)Bester Riesling Edelsuess2008 Monzinger Harlenberg Riesling Eiswein Goldkapsel (Emrich-Schoenleber/Nahe)・ゼクト夏の騒動で編集主幹を辞任したアーミン・ディールはナーエの醸造所シュロスグート・ディールのオーナーでもあるが、彼の醸造所のゼクトがいきなりゼクト大賞に選ばれているのは、後を引き受けたペインからのはなむけのようだ。また、昨年まで評価なしだったシュロスグート・ディールは4つ房にランクインしている。個人的には3房と4房の間くらいかな、という気がする。・ブルグンダーシュペートブルグンダーのフリードリヒ・ベッカーはここ数年不動の地位。レープホルツのヴァイスブルグンダーは試飲しているはずだが、あまり印象に残っていない。94点のレープホルツより93点のベルヒャーのFeuerberg Grauer Burgunder Grosses Gewaechsの方が強い印象を残している。・ファインヘルブとファンフォルクセンベスト・リースリング辛口のForster Kirchenstueckは同感。やっぱりね、と思う反面、ベスト10にヴィットマンが入っていないのは不思議。ベストファインヘルブはファン・フォルクセンのヴィルティンガー・ゴッテスフース、アルテ・レーベンだが、ファン・フォルクセンはこのカテゴリーのトップ10に4本ランクインしている(Wiltinger Gottesfuess Alte Reben, Kanzemer ALtenberg Alte Reben, Scharzhofberger Pergentsknopp, Wiltinger Volz)。新酒試飲会でも2008のファン・フォルクセンは確かに繊細な仕上がりでクリーンで、畑の個性もそこそこに出ており欠点もみあたらなかった。成功した生産年とは思ったが、反面整いすぎて何かが欠けている気がした。香味だけではなく、ワインから伝わる何か-驚き、感動、背筋がぞくぞくするような、何か起こりそうな期待感-がそこには無かった。栽培・醸造技術的にはファン・フォルクセンのワインはほぼ完成の域に達したと言って良いだろう。それは新酒試飲会-満員の会場で人混みにもまれながら、ほんの一口ぶんだけ注がれたワインを口に含むだけでも感じられた。同時に、そのワインが本領を発揮するのは当分先だろうということも明らかだった。小さなバラの蕾を愛でているような気がして、いつか大輪の花を咲かせたときの様子を見たいものだと思った。・甘口評価は著名醸造所偏向かちなみにベストファインヘルブの1位、2位はファン・フォルクセンで、3位はフォン・シューベルトのアプツベルク・スペリオールがつけている。フォン・シューベルトは高貴な甘口部門でアイスヴァインがトップ10に入っている。私も試飲しているはずなのだが、あまり印象に残っていない。端麗でエレガントで、シューベルトらしくニュアンスに富んだワインだったとおぼろげながら記憶している。ベストカビネットのJoh.Jos.プリュムは無難な選択。マルクス・モリトール、ヴィリ・シェーファーも当たり前すぎるし、醸造所名で選んでいるようにも見える。「軽く、生き生きとして、さっぱりとしつつ、それでいて凝縮感があり余韻を残す」のが良いカビネットの条件というけれど、特に2008年のような生産年には選択の幅はかなり広かったはず。この他、シュペートレーゼ、アウスレーゼと続くが、モーゼルのリースリングが多い。高貴な甘口ではラインガウのヴァイルとシュロス・ヨハニスベルク健闘が目立つ(Kiedricher Graefenberg TBA (Weil), Kiedricher Turmberg TBA (Weil), Johannisberger Eiswein Blaulack, Kiedricher Graefenberg BA Goldkapsel (Weil)。ここでもどうも、知名度の高い醸造所を優先しているような気がする。・新酒と飲み頃とワインの評価ラインガウといえば、栗山朋子さんがケラーマイスターを勤めるアルテンキルヒ醸造所が二つ房に昇格した。ということは、ドームデヒャント・ヴェルナー、トーニィ・ヨースト、フォン・ジンメルン、フュルスト・レーヴェンシュタイン、オッテスなどと同格である。たいしたものだ。だが、2008年産をリリースまもなくに飲んだ時、あれ、と肩すかしを食らったような気がして正直、心配になった。Steillage Riesling trockenはほっそりとして軽くやや酸が鋭く、feinherbは甘酸のバランスがやや不自然に分離して感じられ、難しい年だったのかな、と思った。Grauschieferは酸が物足りなくアフタがあっさりとして、Quarzschiefer feinherbでようやく甘酸のバランスと力強さを感じるものの、昨年試飲したワインに比べて土臭さが足りなかった。彼女の初年度2007は衝撃的だった。個性的でテロワールの特徴が素直に表現されて、コルクを抜き、一口目を味わう度に背筋がゾクゾクするほどだった。それなのに、2008は甘みで欠点をカバーしようとしているかにも思われた。それ以上試飲を続けるのが怖くて、他のワインはしばらく寝かせておくことにした。9月末にLorcher Bodental Steinberg, Riesling trockenを抜栓。ミネラル感たっぷり、繊細で綺麗な酸味、上品。しかし、あっさりしてやや物足りない。こんなものなのかな...それとも、谷の時期に開けてしまったのか。それで、再び試飲を止め、しばらく待ってみることにした。11月12日、Lorcher Krone Riesling trocken抜栓。フレッシュ、繊細で切れ味のある酸味、丸く深みのあるたっぷりとしたボディ、ほのかに赤く固い桃のヒント、長いアフタに軽くピリピリとするペパリ-な刺激。ようやく片鱗をみせはじめたようだ。11月19日、Lorcher Schlossberg, Riesling trocken。力強くスパイシー、厚みのあるボディに明瞭な酸味のアクセント、スグリ、ライム、スターフルーツ、肌理の細かいミネラル感、長く続く余韻。他のどこにもない、個性的な味のリースリング辛口でとても楽しめる。テロワールをストレートに表現した感じがして、そこが良い。それでいて様々な要素のバランスがとれている。ようやく期待に応えてくれた気がした。ゴー・ミヨの評では2008は2007を上回るものもあるという。2009の仕上がりが楽しみだが、飲むのはやはり、11月以降にしよう。それまで多分待てないだろうけれど(苦笑)。************************などと色々思い出しながらワインをすすりつつゴー・ミヨのドイツワインガイドのページをめくるのは、はやはり楽しい。ドイツワイン好きなら一冊手元においておいて損はない本です。Joel B. Payne, Gault Millau WeinGuide Deutschland 2010, Christian Verlag 2009. 29.95Euro
2009/11/20
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「本音を言えば、大抵のドイツワインは常に退屈な代物であった」と、ヒュー・ジョンソンは8月19日付けのWelt-onlineのインタビューに語っている。「スペイン、フランスあるいはオーストラリアにも違った意味で退屈なワインがある」と続けているが、大家ジョンソンのこの発言はドイツワイン界にいくらか衝撃を与えたようだ。「私は長年彼を個人的に知っているが、こんなことを言うとは理解できない」「彼の著作を見てもドイツワインの良き理解者だと思っていた」と、インタビューを紹介しているワインジャーナリスト、マリオ・ショイアーマンのブログに当惑気味のコメントが寄せられている。ジョンソンはさらに衝撃的な発言を続ける。「ドイツワイン生産地域の大半は、実際には真に高品質なワインの栽培には向いていないし、良質なワインを生産するためには収穫量の制限が緩すぎる」これに対しショイアーマンは「間違い以外の何物でもなく、ほとんど中傷だ」とコメントしている。ジョンソンの思い切った発言は続く。「1971年の惨事(ワイン法改正を指す)以来、我々英国人はドイツワインを響きの良い名前をつけた一種の砂糖水と見なしてきた」確かに輸出向け量産ワインにはそうしたワインが多かったし、それがドイツワインのイメージとして日本を始めとする海外では今でも定着し、高品質なドイツワインの普及を難しくしていることは周知の通りだろう。「酸度の低い南ドイツのワインはなんとなく興味が持てなかったが、モーゼル・ザール・ルーヴァーが今日唯一国際的に認められたドイツのワイン生産地域であることは興味深い」と続ける。何故突然モーゼルに話題を引っ張ったのか?それには訳がある。ユルツィガー・ヴュルツガルテンの近くに予定されているB50neu高速道路高架橋建設計画だ。1970年代の冷戦時代に立案された高架橋はヴュルツガルテンの急斜面付近から始まり、高さ160mで1.7kmあまり続く巨大なコンクリートの支柱に支えられた壮大な陸橋だ。この橋でアイフェルとフンスリュック間の交通は約15分短縮されるという。しかし一方で葡萄畑の一部は支柱につぶされ橋の影に入り、工事用道路の敷設に伴う環境破壊とともに、河岸の斜面を覆う葡萄畑が一面に続く景観が損なわれること、さらに高速道路の敷設により、橋の先にあるヴェーレナー・ゾンネンウアー、ツェルティンガー・ゾンネンウアー、グラーハー・ヒンメルライヒからベルンカステルにかけての土壌の保水環境に影響を及ぼすことが懸念されている。「本来世界遺産に指定されるべき地域を、ラインラント・ファルツ州政府は高速道路橋で破壊しようとは」とジョンソンは嘆く。おそらくジョンソンの今回の発言は、ドイツワインの現状を踏まえた上での意図的かつ政治的なものだろう。先日ここでも伝えたように、EU指令に基づく原産地呼称導入に際して、ラインラント・ファルツ州は収穫量上限の引き上げを決めた。「大抵のドイツワインは退屈な代物」「ドイツワインは響きの良い名前をつけた砂糖水」という表現は、現状を維持した上で大規模生産者の側に立つ州政府の方針への批判と見ることが出来る。「ドイツワイン生産地域の大半は、実際には真に高品質なワインの栽培には向いていない」という発言からは、原産地呼称制度導入に際しても厳格な収穫量制限ができない現状への、表現を選んだ批判であるように思われる。インタビューの終わり近くで、コカコーラ的ないつも同じ味の工業的に生産されるワインと、少量の高級ワインに二極化しつつあるように見えるが、という質問に対しジョンソンは「大量生産される工業的ワインと個性的な手作りのワインを両極端に二分化して捉えるのは危険だ」と言う。「小規模な無名生産者には、(大規模生産者の)有名な名前なくして生計が成り立たない人たちもいる。それでも、出来る限り最高のワインを造る人々は大勢いる。すぐわかることだが、彼らは仕事を愛しているからだ」ジョンソンの過激な発言の裏には、つまるところ、ドイツの生産者達への愛情があるように思われる。
2009/08/20
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先日、知人のアパートの裏庭でワイン会があった。1900年に建てられたというから築109年になる、屋根裏部屋を入れて4階建ての建物の裏手には、かつて馬や牛が飼われていたらしい小さな納屋と青い実をつけた林檎の木が枝を茂らせている。納屋とアパートの間に置かれた丸テーブルの上にはドイツパン、生ハム、チーズとパテ、それにグラスとワインクーラー。その中のボトルは、赤い靴下のような覆いがかぶせてあった。「さて、産地はどこかな」とマーク。夏の宵、気心の知れた仲間と裏庭でワインを飲まないかと誘われた時、てっきり気楽なパーティだと思ってロゼと軽めのリースリングをぶら下げてきた私は当てがはずれ、いきなり深い沼に引きずり込まれたような気がした。昼間の暑さも吹き飛び、冷や汗が滲む。酸とミネラルで引き締まったボディはほっそりとしつつ、とても力強い印象を与える。ミネラルの詰まった酒躯が、やや青みのある酸でギリギリと絞り込まれ、残糖はほとんど感じられない。そのミネラルがシーファー由来ではないことは、なんとなくわかる。リースリングであることもほぼ間違いないとして、果たして産地はどこか。モーゼルではなさそうだが、私にはここ、と断定することは出来なかった。「ファルツ....かな」「なかなか。じゃあ醸造所は」「VDP加盟醸造所だということはキャップシールが見えたから分かるけど」「じゃあ、ヒントをあげよう。妥協しない辛口で定評がある醸造所」「う~ん」「VDPの醸造所を片っ端から言ってごらんよ。夜明けまでにどこかで出てくるから」とにやり。「そんな。わからん。降参」「そう。それじゃ」と言って覆いを外すと現れたのは、葡萄のモチーフに見覚えのあるエチケット。2007 Vom Buntsandstein Riesling Kabinett trocken (Weingut Oekonomierat Rebholz)VDPファルツの代表で、見事なシュペートブルグンダーの造り手とは認識していたが、知人によれば昔から完全に発酵した辛口で有名なのだそうだ。それにしても力のこもったリースリング辛口で、今にも矢を放たんとする引き絞られた弓のような印象。力強い。「さて、次はこれ」と、デカンターが出てきた。軽く金色を帯びている。とても深い香り、非常に複雑、完熟したリンゴ、アプリコットに軽くシーファーの埃っぽい匂いが混じる。ニュアンスに富みしなやか、華やか、大きなワイン。モーゼルかザールらしいが、これほど懐が深く濃厚な、ほのかに甘みの残る辛口リースリングを造る醸造所といえば、3つくらいしか思い浮かばない。ファン・フォルクセン、クレメンス・ブッシュ、ヘイマン・レーヴェンシュタイン。「これはすぐわかるよ。レーヴェンシュタインだろ」と同席した知人。「はずれ」「ブッシュ」「あそこのは抽出が強すぎて、僕の好みじゃない」「じゃあ、ファン・フォルクセン」「そう….ファン・フォルクセン。生産年は2005だけど、畑はどれ」「そりゃ難しいよ。ここまで複雑なら、きっとグラン・クリュに格付けしている畑だろうけれど」「難しいかな?わかりやすいワインを選んだつもりだよ」そう言われると、悩む。シャルツホーフベルク、ブラウンフェルス・フォルス、ペルゲンツクノップ、ゴッテスフースなど、ファン・フォルクセンのグラン・クリュ畑を頭のなかでとっかえひっかえかき混ぜても、ピンと来るものがない。「わからない。ヒントは」「ヒントねぇ…しようがないな。実はこれ」2005 Piesporter Goldtroepchen Schubertslay Erste Lage (Weingut Vereinigte Hospitien)「ホスピティエン!ファン・フォルクセンじゃないのか」「ごめん。でも信じただろ」とニヤリ。「ホスピティエンが最初に醸造したエアステ・ラーゲ」参考までに補足すると、エアステ・ラーゲはVDP醸造所連盟が独自に定めたグラン・クリュに相当する畑からの収穫を使ったワインで、収穫量の上限は50hl/ha。2006年に新酒試飲会で試飲している筈なのだが、4年の熟成でこれほど変わるとは驚きであった。実に魅惑的な、包み込むような香味の、スケールの大きなリースリングに成長していた。この様子だと、いまようやく飲み頃に入りつつあるエアステ・ラーゲは他にも数多くあるに違いない。そうしたエアステ・ラーゲのまとまった試飲会があれば、きっとリースリングのファンは一層増えるに違いない。しかし、こう見事なワインが最初から出てくると、私の持参したワインは肩身が狭い。夏の宵、戸外でワインを楽しむと聞いて、そらならロゼでしょう、とアールのDeutzerhofの2007 Spaetburgunder Weissherbst QbA trockenを持ってきたのだが、ぱっとしなかった。リースリングとは方向性が違うのでそれなりに目先が変わって楽しめるし、気心の知れた仲間と飲むには悪くない選択であったと思う。しかし、弱冠オレンジの入った色合いにラズベリーのコンポートのアロマが漂い、ほどよい濃度もあるものの、期待したほどの酸が無く爽快感に欠け、凡庸な印象に終わった。この醸造所にはSaumon de l’Ahrというもうワンランク上のロゼがある。本当はそれを持参したかったのだが。ロゼで舌をリフレッシュしたところで、次に2008 Steillage Riesling feinherb (Weingut Altenkirch)。日本人醸造家栗山さんの2年目のワイン。ワイン仲間に日本人の活躍をアピールしたかったのだが、やはり最初の2本が強烈すぎた。さっぱりとしているようで弱冠残糖が目立ち、リリース当初はフレッシュな酸で引き締められていたボディに緩みが出てきたような印象。戸外で飲んでいたので、少し温度が高かったせいかもしれない。「これ、Abfuellerってあるね」「あ、ほんとだ。Gutsabfuellungじゃないね」ふ~む。今度栗山さんに聞いてみよう。いずれにしても軽すぎた。残念。そして持参ワイン3本目。2008 Vols II Saar Riesling (Weingut Vols)元フランケンのビュルガーシュピタール醸造所の技術部門代表者で、現トリアーのビショフリッヒェ・ヴァインギューター経営責任者のヘルムート・プルニエンが、Van Volxemの契約栽培農家だった実家を2006年に継いで立ち上げた醸造所。所有面積はわずかに1haあまりのミニ・ワイナリーだが、ドイツ人がよく言うKlein, aber fein。素晴らしい酸味を伴う純粋な果実味、熟した青リンゴ、緑のJohannisbeereのヒント、ほっそりとしていて濃厚、アタックから非常に長い余韻に至るまで、チャーミングで上品な味わいは弱まることなく延々と続く。アルコール濃度8.5%、極上のKabinett。「この醸造所のワインははじめてだけど、良い意味で驚いた」ともう一人の知人。「では、次は僕の番かな」と、アルミホイルで覆ったボトルを持ってきた。キャップシールの様子から古酒であることは分かったが、さて何年かが問題。日はとっぷりと暮れて、裏庭には電灯もなく、ろうそくの灯りだけが揺れている。恐らく金色を帯びているであろう液体から、やわらかな甘い香り。すべての要素が調和して一つになり、空気に溶けこみ、ほのかな優しい甘みが舌の上をやさしく滑る。「今からすれば、良い思い出だね」と言うことがある。歳月を経ることで体験の生々しさは陰影を失い、やがてぼんやりと、穏やかな記憶として脳裏に留まる。このワインからはちょうどそんな印象を受ける。濃厚な甘み、酸味のコントラストは薄れ、輪郭を失い、薄もやのむこうに滲むパステルカラーの色彩のように、あたたかな甘みを静かに漂わせている。1964 Geisenheimer Klaeuserweg, Riesling Spaetlese (Weingut Rebenhof, Theo Soher)今は無くなってしまった醸造所の、遠い日の思い出を味わったような気がした。「それじゃ、これは何年」と、しばらくセラーに姿を消したマークが再び赤い靴下をかぶせたボトルを持って現れた。1964より明らかに若いことは、その酸味から見当がついた。酒躯は角が取れて丸みを帯びているが、さっと一刷毛掃いたようなほのかでやわらかな酸味がそこはかとなく若さを感じさせる。80年代後半か。「それは、褒め言葉だね」とマーク。「1975」1975 Brauneberger Juffer Auslese (Weingut Adolf Conrad Schreiber)「1970年代は1971, 1976が有名だけど、1975も酸がしっかりして熟成能力のある優れた生産年」という。それはグラスの中のワインがよく示していた。彼のセラーにはまだ古酒が色々あるらしい。「それじゃ、次はこれ」とセラーから出てきたのが1990 Graacher Domprobst, Riesling Auslese (Friedrich Wilhelm Gymnasium)前のワインで話題になった1990年が実際はどんな具合か確かめよう、という訳か。ふくらみと奥行きのある甘みにほんのり甘栗のヒント、やや軽めだが調和がとれ、2番目に飲んだ2005 Piesporter Goldtroepchenと通じるものがある美味しさ。今はビショフリッヒェ・ヴァインギューターに吸収合併され今は無き醸造所だが、ケラーマイスターはトリアーの州営醸造所にいると聞いた。熟成した酒が続いた後、再び若い生産年に戻った。2007 Hofberg Riesling Spaetlese (Weingut A.J. Adam)モーゼルの支流ドーロン川のドーロン村で、2000年に1haあまりの畑を祖父から譲り受けて立ち上げた、近年評判を上げている若手醸造家アンドレアス・アダムのワイン。目の覚める濃厚な甘口、青リンゴに白桃、ひなたぼっこでうつらうつらとしていた老人から、いきなり草原をかけまわる子供に若返ったような、新鮮なインパクト。醸造所は2009年産からピースポーター・ゴルトトレプヒェンがラインナップに加わり、今波に乗っている。「アダムは自分の造りたいワインを造っているんだ、という自負が、話からもワインからも伝わってくる」と、とある知人は言う。モーゼルの未来は、おそらく彼のような醸造家達の手にあるのだろう。何か飲み足りないね、と最後に2005 Zeltinger Sonnenuhr Riesling Spaetlese (Weingut Markus Molitor)。上品な白いレース編みのような甘み、エレガント、調和。欠けるところのないバランス、若くもなく老いてもおらず、穏やかに静かに続くアフタ。夜半に漂う甘い香り。気がつけば午前0時を過ぎていた。昼間の暑さが石畳に残っているのを感じつつ、覚束ない足取りで帰途に着いた
2009/08/10
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ゴー・ミヨ騒動で揺れたドイツワインだが、それとは別に、もうひとつ大きな変革が訪れつつある。EUのワイン市場改革による原産地呼称制度の導入がそれだ。『原産地呼称付きワイン』(Weine mit geschuetzter Ursprungsbezeichnung)、『地理的呼称付きワイン』(Weine mit geschuetzter Geographischer Angabe)とそれ以外の3段階に分かれた格付けがEU全体にこの8月から適用されることは周知の通り。ドイツでは来年12月までは移行期間で、現在この原産地呼称システムにあわせてドイツワイン法を改正する作業がすすめられている。EU議会のコンセプトでは基本的に従来のQualitaetswein, Praedikatsweinが『原産地呼称付きワイン』に含まれ、Landweinは『地理的呼称付きワイン』、それ以外のTafelweinは地理的表示なしとなる。また、Kabinett, Spaetelse, Ausleseなどの肩書きも伝統的表記として残し併記できるため、要は現在の表記システムに原産地呼称が付け加わるだけの、スムーズな導入が配慮された改革であった。しかし見方を変えれば、ドイツで現行の果汁糖度が基準の格付けシステムから、フランス・イタリア・スペインで定着している原産地格付けシステムへの移行という大胆な変革でもある。VDPドイツ高品質ワイン醸造所連盟では、このEU主導の原産地格付けシステム導入を早くから歓迎していた。「この改革はドイツワインにようやく訪れた、明快な品質等級を実現する大きなチャンスである。生産地域が狭くなるほど高品質となるのは国際的に認知された規定であり、明らかな収穫量の制限とともに、ドイツに適用されなければならない」と、同団体代表のシュテッフェン・クリストマンは6月に開催されたVDP全国集会で語っている。同醸造所連盟では数年前から独自に畑の格付け制度を導入しており、エアステ・ラーゲ(グラン・クリュ)を頂点として村名ワイン、グーツヴァイン(醸造所名ワイン)の3段階の品質によるヒエラルキーを定め、それぞれ収穫量の上限を50hl/ha, 60hl/ha, 75hl/haとしている。VDPとしては今回のワイン法改正を機に、同連盟の収穫量上限基準を『原産地呼称付きワイン』の規定としてドイツワイン法に取り込むことを求めてきた。ところが7月24日、ラインラントファルツ州のワイン農業担当省とワイン生産者団体の協議の結果として発表された計画では、VDPの思惑とは裏腹に、『地理的呼称付きワイン』に相当するワイン(Landweinもしくは葡萄品種ワイン)の収穫量上限を、ナーエ、ファルツ、ラインヘッセンで、従来の105hl/haから125hl/haに引き上げることであった。「これではワインは供給過剰となり、価格崩壊を招くのは必至」とVDP代表クリストマンは危機感をあらわにし、『原産地呼称付きワイン』に関して生産地域名もしくはベライヒ名を名乗るものは90hl/ha、村名ワインは75hl/ha、畑名を表記する場合60hl/haに引き下げ、栽培地域が限定されるほど品質が高くなることを保証する原産地呼称システムを明確に打ち出さなければならない、と強く主張している(ドイツ語原文はこちら)。ここで思い浮かぶのはオーストリアのワイン法である。不凍液混入事件の後、ワイン法改正は時期尚早として見送ったドイツに対し、オーストリアではラントヴァイン以上の格付けには67.5hl/haという収穫量上限を定め、高品質路線を目指すことを明確に打ち出した。それが現在のオーストリアワインとドイツワインの市場でのイメージと売り上げの差に繋がっているのではないだろうか。今、葡萄畑で順調に熟しつつある葡萄の収穫量を、どこまでワイン法で抑えることが出来るか。実際にどれだけ収穫量を削減し、高品質を目指すかは個々の醸造所の判断によるとしても、原産地呼称システムの意義を明確に反映したワイン法改正が出来るかどうかで、ドイツワインの実情とともに、今後の行く末をある程度見通すことが出来るように思われる。今週のリースリング。収穫量を削減するグリーンハーヴェストは通例8月中に行われる。
2009/07/30
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最近、ロゼを飲む機会が何度かあった。以前はどちらかといえば中途半端で美味しくない、という先入観があったのだが、最近ポジティブに変わりつつある。きっかけは、ワインスタンドで飲んだWeingut Deutschherrenhofの2008 Spaetburgunder Blanc de Noir。綺麗な淡いバラ色。スッキリとしてエレガント、伸びやかでとても快適な飲み心地。地元トリアーの醸造所で、数年前にガイゼンハイムを出た息子セバスチャンに代替わりしてから向上しつつある。へぇ、こんなロゼを造るんだ、とちょっと感心させられた。ブラン・ド・ノアールとあるから、黒葡萄を白葡萄と同様に圧搾・発酵したものだ。昔はロゼといえば、赤ワインの醸造に使えない品質の劣る葡萄から造られることが多かったという。赤は果皮を果汁に漬け込みながらアルコール発酵して色素と香味を抽出するから、灰色黴がついたり腐敗して果皮が傷んだりした果実は、極力使わない方が良い。とはいえ、それを捨てるのは勿体ないのでロゼ醸造に利用したのだそうだ。灰色黴もしくはボトリティスのついた黒葡萄を使ったロゼの中には、色もオレンジがかった金色で、蜂蜜やアプリコットが香ったりして割と面白いワインもあるが、大抵は色とイチゴのアロマだけが取り柄の、シンプルで焦点のぼやけた退屈なワインが多い。そして先週また、おや、というロゼに出会った。大学から少し離れた丘の上にWeingut Gehlenという醸造所兼居酒屋がある。地元では人気があり、サンルームのようにガラス張りの天井があるコーナーのテーブルは予約でいつも埋まっているのだが、それはさておき、その日最初に2007 Spaetburgunder Blanc de Noirを注文した。こちらはブラン・ド・ノアールらしく赤の色素は少なく、やや金色を帯びている。アロマティックで深みもあり、重めのボディにアプリコットのヒント。それなりに美味しいが、軽くざらついたようなタンニンと果実味の濁りが気になった。次に生産年違いの2008 Spaetburgunder Blanc de Noir。こちらはほっそりとしてエレガント、直線的で伸びやかでフレッシュ、軽快なグレープフルーツやざくろのアロマが漂い2007とはまるで別物。生産年の気候条件による軽さと酸味とともに、栽培管理と収穫時期の見極めの差が品質に現れているのではないかという気がした。ボルドーでワインのアロマを研究していた故・富永敬俊博士は、セニエによるロゼを赤ワインのエスプリに例えている。果皮の比率を高めるために発酵前に果汁を抜き取る操作から出来るロゼには、アロマのもととなる成分が十分に含まれている。それは言わば美味しいダシの部分とも言える果汁であるから、赤ワインはその残り粕で造っているようなものかもしれない、という。そんな記事をヴィノテークで読んだせいもあって、最近はロゼが気になっている。先週末には大手ディスカウンターALDIがバーデンのFritz Kellerとコラボした2008 Spaetburgunder Roseを開けた。サーモンピンクにちょっと塩気が混じったような香りにイチゴ、レッドカラントのヒント。果実味はややシンプルでもったりとしており、赤醸造用に残す房のセレクションで早く収穫した葡萄を使ったのかもしれない。軽く青臭さを感じるフレッシュな酸味がそれなりに輪郭をまとめ、飲みごたえもある。悪くは無いが、これなら地元トリアーのロゼの方がスッキリとしてずっと良い。さて、今度の週末はどんなロゼを飲もうか。学生寮の小さなバルコニーで、ロゼ色に暮れなずむ夏空を眺めながら。
2009/07/29
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先日来ドイツのワイン業界でどちらかと言えば不快な話題となっている、ゴー・ミヨとそれに対立を表明した醸造所のその後だが、17日にゴー・ミヨドイツワインガイドの編集責任者ジョエル・ペインと出版社の企画部代表、それと14醸造所を代表してヘイマン・レーヴェンシュタイン醸造所のラインハルト・レーヴェンシュタインが会談した。その結果は以下の通り。1. 醸造所側としては、ワインガイドの評価が買収可能ととられかねない表現がゴー・ミヨからあったことを遺憾に思う。ゴー・ミヨはそれに対し、評価を買収可能なことはありえなず、そうした誤解を招きかねない発言がゴー・ミヨ関係者からあったことを遺憾に思うと表明。2. ジョエル・ペインは今後試飲は審査の公平性を確保するため、醸造所および生産者立ち会いのもとでは行わないことを約束。アーミン・ディールは今後一切試飲および評価にはかかわらない。醸造所評価の指標である葡萄の房の数の付与についても、評価基準を明確にする。個々の醸造所の解説の改訂については2011年版以降の課題とするが、個々のワインの評価を得点から言葉による表現にする予定はない。現在最も問題となっているのは醸造所評価の房の数であり、多くの醸造所は文学や前衛芸術と同様に、文化の一部であるワインを、学校の通信簿のように評価することは出来ないと考えている。一方で出版社と編集部としては、こうした構成は読者に有益な指針となると考えていることの他にも、採点制度は国際的に定評のあるゴー・ミヨの各種ガイドの前提条件であり、版権を持つフランス側の同意無しに独自の判断で変更することは出来ない。しかしながら、房の付与の基準に関して議論をする用意はあることを表明。3. 出版社は今一度明確に、『申請料』は『マーケティングキット』の予約であり必ずしも支払う必要はないこと、支払ったかどうかは醸造所とワインの評価に全く影響しないことを約束。誤解を招く表現があったことに遺憾の意を表明したが、このシステムを取り下げるつもりはないこと、来年以降の方策について生産者と話し合う用意があることを明らかにした。4. 三者は今後も話し合いを継続することで合意。秋以降にゴー・ミヨのサイトにフォーラムを開設、ガイドブックの評価の内容についても議論の場を設ける予定。昨日20日の時点ではこれで一旦和解が成立したかに見え、ラインハルト・レーヴェンシュタインが当初の目的を達成したことから、批判声明に署名した14醸造所も試飲サンプルをゴー・ミヨに提出するとの談話をケルナー・シュタットアンツァイガー紙にしたという情報が流れたが、その後撤回された。ジョエル・ペインがワインジャーナリスト、マリオ・ショイアーマンに「生産者にガイドブック編集に口出しさせるつもりは全く無い。編集責任者としてあくまでも独自の立場を貫く」と語ったことも一因とみられる。翌21日レーヴェンシュタインはSWRに改めて闘争はまだ終わっていないことを表明。その際批判の矛先はディールにあったのではないこと、ワインの試飲は主観的なものである以上、試飲する担当者によって異なる評価が出るのは当然、としている。成り行きを見ていると、ゴー・ミヨの権威を煙たく思う醸造所が増えてきているようだ。最初に批判を表明した14醸造所の大半はガイドブックの評価にもはや左右される心配のない大御所であり、ゴー・ミヨの評価に不信を抱く少なからぬ中堅醸造所を、いわば防護壁として守っているように見える。彼らの本音はゴー・ミヨのドイツワインガイドの現在の影響力の低下であり、195Euroの審査料請求は格好の口実を与えてしまったようだ。
2009/07/21
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このところ肌寒い日が続いている。時々雲が晴れると一気に気温が上昇し太陽が肌を刺すが、湿気はほどほどで凌ぎやすい。先週のリースリング。友人宅でのワイン会つづき。今回は赤編。1. 2007 Kleinbottwarer Goetzenberg, Trollinger trocken (Weingut Graf Adelmann)薄めの色合いと赤いベリーの甘い香りに20年前、初めてドイツで飲んだ赤の香りが鮮明に蘇った。確かローテンブルクのレストランだったと思う。あの時のワインは味もほの甘く非常にフルーティだったが、今回のトロリンガーは完全な辛口で、香りと味のギャップに戸惑う。甘さはほとんど感じられない。しっかりとした酒躯に、ひと刷毛さっと載せたような、かすかなストロベリーのアロマ。2. 2007 Lemberger trocken (Weingut des Grafen Neipperg)紫がかった赤、輪郭のぼんやりとした、やや軽めの果実味にレッドチェリー、ココア、赤いスグリの酸味。中程度のアフタ。レンベルガーはオーストリアのブラウフレンキッシュの同義語だが、味わいからそれを想像することは難しい。おそらく地元ビュルテンベルクではこうしたスタイルが好まれているのだろうが、とてもドイツ的な、垢抜けない赤。そしてドイツから離れて仏・西・伊。3. 2004 Les Perdrigolles, Saint-Joseph (Cave de Tain)素顔の美人。飾り気はない...簡素なドレスでほっそりとした体つき。スミレ、ブラックチェリーのヒント、少し胡椒。すこし素っ気ない気もするが、端正で引き締まった後ろ姿につい、みとれてしまう。エレガントなシラー主体のローヌ。4. 2003 Valserrano Reserva Rioja (Bodegas de La Marquesa)すこし強面。贅肉の無い引き締まったボディに力が漲っている。ブラックチェリー、プラム、チョコレートのヒント。上々のストラクチャ、バランス、内に秘めた情熱、美形。長く熱い余韻。テンプラニーヨ90%, ガルナッチャ10%。5. 2005 Contessa die Radda, Chianti Classico DOCG (Agricoltori del Geografica) やさしく素直。居心地の良く、包み込まれるような暖かさがある。スミレ、プラム、スパイス、フルーティなボディに快適なタンニン。ごつくてシンプルなビーフステーキにあわせてみたい。この他、先日やはり8~10Euro前後の新世界の赤を比べ飲みする機会があった。普段デイリーで飲み慣れている5Euro前後のワインに比べれば格段に高品質でコストパフォーマンスも良く、派手な香りと濃厚なベリーに添えられたほのかな甘さと絶妙なタンニンのバランスに喜んで飲んでいるうちに、濃厚さとアルコール度の高さに飲み疲れてしまった。その点、サン・ジョセフのシラーは新世界のそれとは全く別物。こういうのもシラーなのか、と発見の一本でした。
2009/07/20
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友人宅にて。今回はブラインドではなく、ラベルを見ながら。1. 2007 Castell Castell, Rivaner trocken (Fuerstlich Castell'sches Domaenenamt/Franken)フランケンのリヴァーナー。フランケンといえばジルヴァーナーだが、一番多く栽培されているのはリヴァーナー(=ミュラートゥルガウ)。透明なボルドータイプのボトルにスクリューキャップ。淡い麦わら色、わずかにグリーンの反射、微細な気泡。抑え気味のアロマ、しっかりした口当たりで軽くクリーミィな舌触り。果実味はややシンプルだが物足りないということはない。シトラス、リンゴ、控え目な酸味と石灰質土壌らしいミネラル感が良好なバランス。アフタがやや短めで食事なしだとグラス1杯で飲み飽きそうなのが玉に瑕かもしれないが、この値段(たしか5Euro前後)なら許せる。こういうワインがレストランでグラスで手頃な値段で飲めればうれしい。サラダやアスパラガス、白身の焼き魚か蒸した魚にレモンを搾った料理に合いそう。2. 2008 Nitteler Rochusfels, Elbling QbA trocken (Matthias Dostert/Obermosel)オーバーモーゼルのエルプリング。淡い白っぽい麦わら色、炭酸。香りに軽くアーモンド、土っぽさ、薄いりんご、やや垢抜けない。軽くて水っぽい、よく言えばほっそりとして端麗、野菜(ルバーブ)、線の細いやや未熟な酸味。エルプリングの醸造所としてはかつてのドイツワイン女王の実家ということもあり有名なほうだが、ここのワインはあまり感心したことがない。エルプリングならAylのMargarethenhofかMetzdorfのFuerstがおすすめ。3. 2007 Wuerzburger Stein, Silvaner Kabinett trocken (Juliusspital/Franken)フランケンのジルヴァーナー。ユリウスシュピタール。やや金色を帯びた麦わら、緑の反射。完熟した果実のアロマ、熟れたパイナップル、オレンジ、ハーブ、牧草のヒント。カビネットにしては濃いめ、熟したリンゴ、オレンジ、エキゾチックなフルーツ、パイナップル、マイルドな酸味に土の香り、こなれたミネラル、塩気、グリセリンの甘み、アフタも長め。いま非常に楽しめるジルヴァーナー辛口、美味しい。ユリウスシュピタール醸造所は170haという広大な畑を所有し、年産約100万本。その規模にしてこの高品質はあっぱれと思う。4. 2007 Chablis Premier Cru, Cotes de Jouan (Domaines Brocard)シャブリのプルミエクリュなんて、何年ぶりだろう。ミネラリティのある香りに牡蠣を思い出す。クリーン、青リンゴ、シトラス、フレッシュな酸味、還元的で明瞭、ミディアムボディでバランスの良い辛口だが、ミネラルとも樽ともとれるけれど、コルク....かもしれないという微妙な匂いがかすかに混じる。3人中2人がコルク派、1人は保留。コルクぽい匂いがなければ生牡蠣にあわせてみたいところ。5. 2007 Poully-Fume, Les Cailleux Silex (Domaine Jean-Claude Chatelain)ソーヴィニヨン・ブラン3連発その1。ロワール。火打ち石の香りがふわり。いかにも貝殻石灰質土壌のワインらしい匂いなのだが、ミネラルが果汁に取り込まれることは理論的に不可能ならば、どうしてワインからこういう火打ち石の匂いがするのか不思議。一説には発酵過程に生成されるメルカプタンに由来する匂いで土壌のミネラルとは無関係というけれど。品の良い辛口、ヨーグルトのヒントのあるフルーツ感に生のハーブがほのかに漂う。おそらく伝統的な樽発酵。全体的にややおとなしめで落ち着いているが、上品な透明感のある柑橘にグレープフルーツのヒント、ややミルキーなエキストラクト、ミネラルのバランスに好印象。料理にもあわせやすそう。香草を乗せて焼いた白身の魚あたり美味しいかも。6. 2007 Shephers Ridge, Sauvignon Blanc (Marborough/NZ)ソーヴィニヨン・ブランその2。ニュージーランド。上が火打ち石ならこちらはシーファー。ニュージーランドにシーファーがあるかどうか知らないが、黒い堆積粘板岩を思い出すアロマ。いや、消し炭に似ているのかな。いずれにしてもミネラリティのある香り、味。ハーブと典型的なピーマンの匂い、スモーキー、白から緑色のベリーのフルーツ感。良くできているし悪くはないが、もう一度飲みたいというほどでもない...かな。7. 2007 Us de la Kap, Sauvignon Blanc (Werner Naekel/Stellenbosch)ソーヴィニヨン・ブランその3。南アフリカ。ドイツのアールの赤ワインの第一人者、マイヤー・ネケルが南アフリカのネイル・エリスとジョイントヴェンチャーで起業した醸造所。最初は赤だけだったと思うが、近年はソーヴィニヨン・ブランをはじめたらしい。やや小振りなボディにピーマン!ピーマン!!ピーマン!!!これでもか、というくらいの緑のピーマンのアロマに加えて、オリーブオイルに漬けた細身のパプリカのピリリとした刺激まで感じる。どこかドイツぽい、リヴァーナーに似たニュートラルなフルーツ感にピーマンジュースを加えるとこんなワインになりそう。エキセントリック。それにしても面白い品種ですね、ソーヴィニヨン・ブランは。(赤編はまた改めて。)
2009/07/15
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一週間ほど肌寒い日が続いた。先々週は蒸し暑く、しばしば雷雨があったのだが。その頃、ラインガウ下流地域ではベト病だけでなくウドンコ病の危険性も高まっていたという。ウドンコ病がはびこるとボトリティスも発生しやすくなるため、生産者は気が気ではない様子であった。先週、暑さが一息ついた頃のリースリング。粒の大きさがやや不揃いなのはゆっくりとした開花のためだろう。話しは変わるが、先日来のゴー・ミヨ騒動で、編集主幹の一人でナーエのシュロスグート・ディールのオーナー、アーミン・ディールがワインガイド編集から退くことになった。共同編集者のジョエル・ペインは継続、2010年版は11月17日発売の予定。ディールはVDPナーエの代表でもあり、VDPの畑による格付けシステムの確立・普及の立役者の一人でもある。ゴー・ミヨ騒動の背景にはディールとその他のVDP醸造所の見解の違いもあったと見る向きもあるが、意見書に名を連ねた醸造家の一人アールのマイヤー・ネケルはディールのゴー・ミヨ辞任について、「我々の意図していなかったことで残念だ」とRheinzeitungにコメントしている。また、ディールのVDPでの役職に変わりはなく、ワインジャーナリストとしての活動も続けるようだ。
2009/07/12
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7月に入ってからゴー・ミヨのドイツワインガイドを巡って、ちょっとした騒動が起きている。事の起こりは、6月8日にゴー・ミヨの出版元であるChristian Verlagが醸造所に対し、従来は試飲評価用サンプルを無料で提供してもらっていたところに、今年からさらに195Euroの審査料を請求したことに始まる。審査料といってもゴー・ミヨのロゴ入りプラカードなど、醸造所が宣伝に使えるキットの購入という形で、その支払いは強制ではなく醸造所の自由意志に任されてはいる。しかし、それを払ったかどうかでガイドブックに載る醸造所の評価に影響するのではないか。またガイドブックが一部醸造所の資金的サポートを受けることになれば、参加醸造所が同一条件で審査されることにはならなない。果たしてそれで公平な審査が出来るのか、将来的に不公平が広がる可能性もあるという危惧から、一部醸造所がゴー・ミヨに対し、審査料は支払わないし、試飲サンプルも提供しないし、今後ガイドブックには無視してもらってけっこう、という公開書状を出した。そこには以下の14醸造所が名を連ねている。エゴン・ミュラー、ヘイマン・レーヴェンスタイン(モーゼル)マイヤー・ネケル(アール)デンホフ(ナーエ)ルドルフ・フュルスト(フランケン)ヨゼフ・ライツ、グンター・キュンストラー(ラインガウ)クニプサー、ケーラー・ループレヒト(ファルツ)グンダーロッホ(ラインヘッセン)Dr.ヘーガー、ヨーナー、ベルヒャー、ゼーガー(バーデン)いずれも3~5房のトップクラスの醸造所である。従来からゴー・ミヨにはブラインドではなく醸造所を知った上での試飲評価であることに対する批判や、不当に低く評価されているという醸造所の不満、ゴー・ミヨの編集主幹の一人アーミン・ディールの政治的思惑が評価に反映しているのではないかという不信がくすぶっていた。また、広告収入の減少による出版元の経営難から、商品試験財団Stiftung & Warentestなどでとっている有料のロゴ利用料(500Euro)を真似たものとみられるが、醸造所とワインジャーナリスト達の反応を甘く見積もっていたことは否めない。これに対して出版社代表クレメンス・ハーンは、あくまでも審査料ではなくマーケティングキットの購入であることを強調、ガイドブック編集部にはどの醸造所が支払ったかも一切知らせないことで審査の公平性を確保することを約束した。これに対して反旗を翻した醸造所からの回答はまだなく、一時はゴー・ミヨをボイコットする動きが広がるようにも見えたが、どうやら収まりつつあるようだ。主な関連情報:the drink tank Welt online Weinakademie Berlin
2009/07/06
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友人宅のワイン会にて。全てブラインド。1. 2008 Pieroth Gutscuvee Nahe trockenクリアなフルーツ、少しクリーミィな舌触り、香草、ややあっさりとした果実味にシトラスの軽快な酸味。食中酒として十分楽しめる。リースリングとミュラートゥルガウのブレンドだそうだが、割と良くできている。2. 2007 Pieroth Grauburgunder Naheやや褐色、不自然なほど多い炭酸の泡、平板、果実味に自然さを欠き美味しくない。これほど不味いグラウブルグンダーは久しぶり。3. 2007 Pieroth Riesling Naheタイヤ、酸化したゴマ油の匂い、とってつけたような不自然な酸味、あっさり消えるアフタに未熟なりんご。これも美味しくない。1~3はドイツのピーロートから取り寄せた試飲セットで、1~10点で採点して送り返すそうだ。私の点はグーツキュベには6点、グラウブルグンダーとリースリングには2点。1はともかく2, 3は生産者としての良心を疑いたくなった。人生は駄酒を飲むにはあまりにも短い。お金も勿体ないし、体にも良くない。4. 2007 Vols I (Wgt. Vols/ Saar)2年前までフランケンのビュルガーシュピタール醸造所の醸造責任者で、現在トリアーのビショフリッヒェ・ヴァインギューターの経営責任者をしているヘルムート・プルニエン氏が実家で醸造したワイン。ヴィルティンガー・ブラウンフェルスの最上の一画フォルスから、Vols IとVols IIの二種類をリリースしている。まろやかで調和のとれた舌触り、ほのかに熟成香、ミネラルのスパイス感でアロマティック、アプリコット、熟したリンゴの蜜、アフタにエレガントな酸味。美味しい。アルコール濃度9%でやや甘めだが、食事にあわせることも出来そう。2003年頃のファン・フォルクセンを彷彿とさせる。5. 2007 Vols II (Wgt. Vols/ Saar)アルコール濃度9.5%でVols I より弱冠辛口、非常に良いバランスとストラクチャー、立体感がある。アプリコット、熟したリンゴ、中身が詰まってミネラル感豊か、甘すぎず辛すぎず飲み飽きず、私の好み。もう一度飲みたい。6. 2008 Bopparder Hamm Feuerlay R. K. (Wgt. Weingart/ Mittelrhein)直線的て力強い酸味、青リンゴ、エネルギー感のある果実味、カッチリしたミネラル感と果実味、飲み応えあり。とても良いワイン。7. Scheurebe 2007 Spätlese Nahe (Wgt. Bürgermeister Willi Schweinhardt/ Nahe)リースリングと間違えた。軽く繊細、非常に上品なスグリの甘み、白い花の蜂蜜、アロマティックでエレガント、アフタにミネラルのスパイスがたっぷり残る。素晴らしいショイレーベ。8. 2003 Enkircher Batterieberg R. Sp. (Wgt. Immich Batterieberg/ Mosel)今は無きバッテリーベルク醸造所だが、畑の収穫は数年前までケラーマイスターだったウヴェ・ヨストックが近所のCaspari-Kappel醸造所で同醸造所のワインとして醸造しているそうだ。甘みはやや枯れ始めている。ヘーゼルナッツ、蜂蜜、アフタにミネラル、熟成香、全体として辛口の印象を受ける。料理に合わせて飲んでみたい気がする。9. 2003 Wehlener Sonnenuhr R. A. (Wgt. Selbach Oster/ Mosel)熟したリンゴ、素晴らしくエレガントな酸味に熟した青リンゴのヒント、しなやかな甘み、繊細。
2009/06/29
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日没が遅くなり夏らしくなった最近、ソーヴィニヨンに興味があることもありロワールに手が伸びる。2007 Chateau de Montgueret, Le Petit Saint Louis (AC Saumur)ロワールの白。りんご、シトラスのアクセント、ほんのり酵母の香り、自然に伸びるフレッシュなリンゴのアフタ、。ややシンプルながらやさしい口当たり、食中酒として申し分なし。(7Euro, Karstadt)2008 Domaine du clos du Bourg, Sauvignon (AC Touraine)ロワールのソーヴィニヨン・ブラン。ほのかにピーマン、ペトロールのアロマ、清涼感のある果実味にスターフルーツ、青リンゴ、明瞭なシトラスのアクセント。かっちりとまとまった感のある果実味で良好なコストパフォーマンス。(5.20Euro, Jaques Wine Depot)2008 Tour de la Roche Reserve Sauvignon (AC Touraine)同じくロワール。ややニュートラルな果実味、りんごのヒント、奥のほうからミネラルの力強さが漂う。先に飲んだDmaine du clos du Bourgの方が果実味が明瞭で好み。(5.95Euro, Jaques Wine Depot)2007 Muscadet Sevre et Maine, Sur Lie (Domaine de la Quilla)淡い麦わら色に微細な気泡。完全発酵、残糖はほとんど感じられないがアルコール濃度12%と控え目。ニュートラルな酒躯の真ん中にライムと酵母のアクセント、テレピン油系のミネラルぽい香り。グリーンアスパラには合わなかった。やはりシーフードに合わせるべきだったか。(5.90Euro, Jaques Wine Depot)***************************先月開店したワインバーWeinsinnigに立ち寄ったら、マルクス・モリトールがラインナップに加わったという。モリトールのワインはトリアーのどこに行っても置いてある気がする。2007 Pinot Blanc (Weingut Markus Molitor/Mosel)エチケットにはドイツ語名のヴァイスブルグンダーではなくピノ・ブラン、天然酵母で発酵、バリックで熟成。しっかりした辛口を期待したところが、甘かった。アルコール濃度12%、ほのかにヴァニラ、りんご、たっぷりとした口当たりでフルーティだが、直線的で複雑さにやや欠ける。何よりハルプトロッケンに近い残糖の甘みに違和感がある。アルコール濃度を抑えてエレガントでフルーティな、モーゼルらしさのあるピノ・ブランを追求したのかもしれない。「これ、甘いじゃないですか」とオーナーのマニュエラさんに思わずクレームしたら、目をむいて「そんなはずは」と自ら試飲。「しなやかで、たしかにジューシィだけど甘口じゃないわ」と。私にとってはピノ・ブランとして十分甘すぎます、と思ったが、口には出さなかった。個人的に中途半端な残糖感は苦手。どちらかと言えばしっかりした辛口が好きだ。リースリングは別だが。(2.90Euro/100cc, Weinsinnig)2007 Erdener Treppchen Riesling Kabinett (Weingut Markus Molitor/Mosel)辛口とも甘口とも書いていないが、アルコール濃度11.5%でも上記のピノ・ブランより辛口に感じる。軽めのボディ、白い果実の甘み、繊細なミネラル、さらりと流れるような飲み口。綺麗な仕上がりで好感が持てる。(2.60Euro/100cc, Weinsinnig)2007 Zeltinger Sonnenuhr Riesling Spaetlese (Weingut Markus Molitor/Mosel)白い花、白桃の香り、クリーミィで繊細な舌触り、極上のりんご、白桃シロップ、なめらか、長いアフタ。これは文句なしの見事なシュペートレーゼ甘口。いつまでも戯れていたい味。(3Euro/90cc, Weinsinnig)*****************************その他印象に残っているワイン。2007 Baden Spaetburgunder Rotwein, Edition Fritz Keller (Aldi Sued)昨年暮れのリリース直後に飲んだ時はピノ・ノワールらしいアロマに感動したものだが、今回はすこし甘みが目立って感じられた。赤いベリーのアロマ、品の良い酸味で飲み応えもそこそこにあるが、キイチゴのジャムの甘みが浮いて調和に欠く。熟成の過程なのか、タンク違いなのか。それでも飲み飽きることなく一本空にはなった。(6.99Euro/Aldi)2007 Dmaine de Grangeneuve Tradition (AC Coteaux du Tricastin)南仏。まとまり感のある果実味、赤いベリーたっぷり、軽くジャミー、しかし重すぎず軽すぎず、軽い酸味が効いてほのかに土臭く、産地の個性を感じつつ飲み口は上々。あっという間に空になった。(5.60Euro/Jaques Wine Depot)2008 Sunrise Carmenere (Concha y Toro/Chile)チリのカルメネーレ。カカオ、ヴァニラ、ブルーベリー。ほとんどチョコレートドリンク。濃度もあり調和もとれて口当たり良く飲みやすく、量産ワインだとしてもコストパフォーマンスは良好。3.99Euroなら文句なし。(EDEKA)2005 St. Laurent QbA trocken (Weingut Anselmann/Pfalz)フルーティな辛口、ラズベリーのヒント、やや軽めで物足りないと感じる一歩手前。コストパフォーマンスはともかく、飲んでいて楽しくない。(4.99Euro/Wasgau)2007 Carpio Cosecha (Ribera del Duero/Spain)Aldiのスペイン特集で2.99Euro。テンプラニーヨ100%とあるが、薄いと感じるギリギリ一歩手前を見切ったような濃度。ラズベリーのヒント、それほど甘くもなく辛くもなく、デイリーとしてはなんとか飲める。3Euro以下で期待するほうが間違っていたのかもしれないが、食欲(飲欲?)をそそられない。(Aldi Sued)2008 Steillage Riesling trocken (Weingut Friedrich Altenkirch/Rheingau)日本人醸造家、栗山朋子さんの2年目のワイン。開栓直後は切れ味の良い酸が目立ち、かっちりとして直線的に感じられたが、二日目から酸が馴染んで落ち着き、果実味に奥行きが出た。フレッシュなシトラスに塩気に似たうまみを持つミネラルの味が混じり面白い。ややシンプルだが飲み応えはあり、もう半年くらい寝かせた方が良いかもしれない。2007 Spaetburgunder trocken (Weingut Friedrich Altenkirch/Rheingau)ごくわずかに不透明感のあるラズベリーレッド。ほんのりと甘いラズベリーにヴァニラにバタートーストの香ばしい香りがほのかに漂う。やや濃いめで緻密さもある果実味はフレッシュなラズベリーに乳酸、軽くコーヒーのヒント、ブルゴーニュぽい雰囲気もあるが、ほのかな甘みを伴うフルーティさはドイツ的と思う。アルコール濃度12.5%。抜栓直後少し気になったタンニンの青臭さは三日目にはうすれ、柔軟なテクスチャで酒躯に力強さを与えている。果梗を一緒に発酵したのだろうか? フルーツとタンニンの調和がとれた心地よいアフタ。ドイツ赤としては上出来、誰の物まねでもない栗山さんのワイン。個人的にはもう少し辛口の方が好みだけれど、3~5年後にもう一度飲んでみたい。
2009/05/23
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2007 Les Capitells (Antoine Ogier, AOC Cotes du Ventoux)セパージュはシラーとグルナッシュ。黒紫、香りは甘いが味は辛口、濃いめで滑らかな舌触り、非常にスパイシー、八角、アニス、チョコレート、ヴァニラ、ラズベリー、自然なアフタに軽くほろ苦さが残る。南仏らしさが明瞭で個性的、5Euroでこれはやや出来すぎか。(Rossmann)2003 Chambolle Musigny (Thierry Beaumod/Morey St. Denis)久しぶりのブルゴーニュ。奥行きのある香りに黒海苔の佃煮ぽい匂いとラズベリー、まとまり感のある魅力的な赤いベリーを現状ではタンニンがやや圧倒している。複雑さは少し物足りない気もするが良いワイン。2007 Dornfelder trocken (Weingut Rudolf Pauly/Lieser)黒赤紫。濃い色合いだが味は平板。ブルーベリー、綺麗な酸味、スタイリッシュなドルンフェルダーとも言えるが、いかんせん奥行きに欠ける。グレープジュースと思って飲めば非常に美味しい。(Weinsinnig, 8.90Euro)2007 Jakoby pur. Riesling Kabinett trocken (Weingut Jakoby-Matty/Kinheim)やや平板なアロマにレモンキャンディ、赤リンゴ。よく言えば端麗、私的にはやや薄い果実味、クリーンなアロマ、ミネラリティも少しある。上のドルンフェルダーとともにワインと言うより清涼飲料水に近く、辛口の割には残糖が目立つ。(Weinsinnig, 6.70Euro)2005 Ch. Haut-Canteloup (AOC Medoc)メルロのボリューム感にソーヴィニョンの奥行き、フランの土臭さが調和。丸みのあるフルーツ感にタンニンの効き具合もほどよく、今飲んで美味しく楽しめる。ラズベリー、ヴァニラ、心地よいアフタ。上等なデイリーワイン。(Aldi Sued/9.90Euro)
2009/04/26
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最近飲んだワイン。友人宅にて。シーフードを食べさせてくれるというので。2007 Pouilly-Fume, Les Cailloux Silex (Jean-Claude Chastelain)柑橘の明瞭な辛口、くっきりとしたミネラル感。クレヴェッテCrevetteと言うベルギー定番料理の小エビ(小指の爪ほどのごく小さいエビだが、殻をむくのは手作業という。塩ゆでしただけのシンプルな調理、素材の香りが自然な味)にワインの明瞭な柑橘とミネラルがアクセントを添えて抜群の相性。プイィ・フュメにクレヴェッテは定番だそうだ。2007 Muscadet Coteaux de Loire sur Lie, Le Vignes de l’Alma (Roland Chevalier)手作業で収穫、とラベルにわざわざ書いてあるのが面白い。クラシックなスタイルのムスカデ、おそらく木樽発酵でシュール・リー熟成したもの。マイルドな酸味に酒粕のような澱のアロマがミルキーな感じ。軽く酸化しており、過熟しかけたりんごのアフタが素直に伸びる。ホタテのオーブン焼きに。2007 Lafoa Sauvignon ((Colterenzio-Schreckbichl, DOC Alto Adige/Suedtirol)ミネラリティを感じるアロマにほのかに香草、クリーンな果実味、調和がとれており上品な辛口白、香草、青リンゴ、鉱物的な味わい。上品なソーヴィニヨン・ブランだが、22Euroはやや高い。自宅にて。2007 Mineralschiefer Riesling trocken (Weingut Grans Fassian/Mosel)やや弱いながら調和のとれた柑橘にパイナップルのヒント、細めの酸にミネラルのアクセント。アフタにスパイシーなシーファー、軽く火打ち石のミネラルが残る。良くできているが、どこか物足りない。(8Euro, REWE)2007 Loch Riesling (Weinhof Herrenberg/Saar)クリーミィなボディにメタリックなミネラル、複雑さには欠けるが充実した柑橘風味、パイナップルのヒント。トロッケンとハルプトロッケンの境界あたりの適度な甘み、12.5%Alc。デイリーとしてはもったいないほど丁寧な仕上がり。8,90Euroだから当然か。再び友人宅にて。全てブラインド。2006 Riesling Sp. trocken (Weingut Steffes Kees/Mosel)あまり印象に残っていないが、軽く熟成香、円熟した果実味にりんごのヒント、シーファーのミネラル感。2005 Riesling trocken (Weingut Sybill Kunz/Mosel)熟成感、軽くナッツ、力強く凝縮した柑橘、非常にミネラリッシュ。まとまりがあり重量感すら感じる。2003 Eitelsbacher Karthaeuserhofberg R. Sp. feinherb (Wgt. Karthaeuserhof/Ruwer)酸不足が言われた2003年産で、その上室温で貯蔵していた割には非常にフレッシュ。熟成のヒントはごく軽く、果実味はミネラルとともに力強さを保っている。軽くクリーミィ、ほんのりと梅干しの種、熟したりんごの甘みがナッツとともにほのかに感じられる。まだ熟成可能、長持ちするワイン。2007 Piesporter Goldtroepchen, R. K. (Wgt. Kurt Hain/Mosel)クリアで繊細な赤いりんごの甘みにフレッシュな香草、ほんのりパイナップルのヒント。エレガントで上品な甘口リースリング。2005 Gruenhaeuser Bruederberg R. QbA (Wgt. Von Schubert/Ruwer)軽くフルーティ、繊細なミネラル感、りんご、白い花の蜂蜜の甘み。素直に美味しい。2007 Stilvoll Riesling QbA feinherb (Jugendstil/Mosel)数ヶ月前も飲んだモーゼルの若手醸造家4人がプロデュースしたワイン。シンプルなやや甘口で奥行きに欠ける。コカコーラ系パーティワイン。1959 Cluesserather Bruderschaft Riesling Naturrein (Wgt. Matth. Werner= Blesius/ Mosel)明瞭な熟成香、軽くシェリー、古酒独特のほこりっぽいナッツとりんごの混ざったようなアロマ、残糖は枯れて辛口になった甘口だが、果実味に立体感と調和がある。脳裏にドイツの民間の古びた居間が浮かぶ。窓から差し込む光を埃が反射しながら舞い、色の褪せたソファが静寂の中に佇んでいる。静止した時間。2007 Trittenheimer Apotheke Laurentisuberg R. Sp. (Wgt. Heribert Boch/Mosel)自然な甘み、赤りんご、ややおとなしく上品。2007 Piesporter Goldtroepchen R. S. No. 13 (Wgt. Kurt Hain/Mosel)熟したりんごの蜜、濃厚でエレガント、軽くパイナップル、直線的で力強い甘み、繊細な酸味、非常に長いアフタ。Excellent!2006 Erdener Praelat R. A. (Wgt. Meulenhof/Mosel)明瞭な貴腐香、華やかで複雑な香り、ピュアな甘みのエッセンス、アプリコット、スグリのヒント、上品で長いアフタ。ベーレンアウスレーゼ級アウスレーゼ。1990 Erdener Praelat R. A. (Vereinigt Hospitien/Mosel)熟成香、ナッツ、まとまりのある上品な甘み、うまみ、赤い果物、綺麗な酸味。2007 Westhofer Morstein R. A. (Wgt. Seehof/Rheinhessen)非常に濃厚な甘み、青リンゴの蜂蜜、メロン、南国のフルーツ、グレープフルーツ、香草、凝縮してクリーミィ、延々と続く甘いアフタ。こてこての甘口。
2009/04/13
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昨日から午後の気温が17度を超えて、今日も初夏の様な暖かさ。アーモンドは8分咲きといったところ。さて、最近飲んだワイン。2007 Emiliana Vinyards Merlot DO Rapel Valley (Chile)酸が不足しており平板、ラズベリーのヒントはあるもののやや味気なく退屈。4Euro弱としてはこんなものか。(Wasgau)2006 Palo Alto Reserve DO Maule Valley (Chile)CS、カルメネーレ、シラーのブレンド、バリック熟成。抜栓直後より2日後の方が濃度を感じる。黒みを帯びた赤、ブラックベリー、ペトロール少々。整ってはいるが無表情、薄く感じる一歩手前で微妙に踏みとどまっている。センスの良いエチケットに惹かれて購入してしまったが、コストパフォーマンスはいまひとつ。(5.99Euro、Wasgau)2005 Finca Sobreno Crianza DO Toro (Spain)黒みを帯びた赤紫、ブラックチェリー、ラズベリーのほのかなアロマに独特の木樽のヒント。奥行きのある果実味にやや固めのバリックがストラクチャを与え、エレガント。中くらいのアフタ。あと2年位熟成させたい。コストパフォーマンスは良好。(7Euro, Aldi)2007 Silvaner QbA trocken (Domaene Castell/Franken)ほどほどに厚みのあるボディにレモンのさっぱりとした酸味がアクセントを添え、フレッシュな香草とアーモンドのヒント、控え目なミネラルがアフタに残る。複雑さには欠けるものの品の良さがあり、食中酒としては満足できる。(6Euro、Karstadt)2008 Baden Weissburgunder QbA "Edition Fritz Keller" (Aldi/Baden)大手ディスカウントチェーンAldi Südがプロデュースする"Edition Fritz Keller"の2年度目。ややクリーミィな舌触りにフレッシュなリンゴの自然なアロマ。しっかりと辛口、明瞭な酸味のアクセントがボディを引き締め、素直に伸びるアフタに軽くスパイシーなミネラルのヒント。ヴァイスブルグンダーの教科書的な仕上がり。バーデン全域から750前後の契約醸造所に栽培を委託した量産ワインだが、それにしてはよく出来ている。5,99Euroは妥当。(Aldi Süd)
2009/04/03
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相変わらず肌寒い。アーモンドの蕾はほんの少し膨らんでいるが、この寒さで咲くに咲けずにじっと我慢している様子。さて、最近飲んだワイン。友人宅の「勉強会」(苦笑)にて。いずれも10Euro前後。2007 Penfolds Private Release Chardonnay典型的なシャルドネ。力強いアタック、アーモンド、白餡、申し分ないバランス。中盤までは理想のシャルドネと言って良いほどなのだが、アフタが意外な位ストンと落ちるのが弱冠不自然。しかし食事に合わせていればさほど気にならない。2007 Gavi DOCG (Tenuta la Marchesa)品の良いバランス、牧草に青リンゴ、レモングラス、白い花。軽くスパイシーなミネラルがアフタに残る。とても快適な飲み口で好感が持てる。2007 La Carraia Sangiovese Umbria DOC黒みを帯びた赤。濃厚なブラックチェリー、カシス、モカのヒント。クリーンでたっぷりとしたフルーツ感だが、これもアフタがストンと落ちる。酸味も不足気味。ステンレスタンクでやや高めの発酵温度で色素と香味をしっかり抽出した感じ。モダンで魅力的なフルーツ感ではあるが人工的。2004 Sietecavallo Barolo DOCGバローロとしては小振り。煉瓦の入った赤色、控え目な香り、鉄分の混じったラズベリー、軽く木樽、マイルドなタンニン。10Euro強のバローロとしては値段相応の味かもしれないが、あまり楽しめない。(販売元:EDEKA)2006 Fetzer Oaks Valley Cabernet Sauvignon (California)スクリューキャップで透明なボトルだが、見た目より中身は充実。カシス、シガー、ラズベリージャム、チョコレートのヒント。カベルネ・ソーヴィニヨンを絵に描いたような香味。アフタも普通だが、これもコカコーラ系ワイン。整いすぎ。(EDEKA)2005 Peter Lehmann Barossa Shiraz (South Australia)黒みを帯びた赤。ぬめっとした感触のあるアロマ、ブラックベリー、シガー、カカオ。凝縮感のある果実味に綺麗な酸味が乗っており、アフタまで快適に続く。プラム、チョコレートのヒント、14.5%のアルコール濃度を感じさせない上品な充実感。量産ワインかもしれないが文句なしに楽しめる。(EDEKA)2007 Riesling Spaetlese (Wgt. Selbach Oster/Mosel)上品な甘みに完熟したリンゴのヒント、スパイシーなミネラルのアフタ。まっとうなリースリング甘口にほっとする。いずれも10Euro前後のワインとしては悪くないが、オーストラリア、カリフォルニアの量産ワインは恐らくヴィンテージに関係なく、いつ買っても同じ味がするよう生産されているはずだ。一方、ドイツの小規模な生産者のワインは個性がある。生産者毎、畑毎、生産年毎に違いのある、自然の産物である。だから楽しいのだ。と思いつつ、スーパーマーケットEDEKAで買ったモーゼルのヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン)。2007 Weisser Burgunder QbA trocken Winninger Domgarten (Wgt. Horst Loewenstein/Mosel)2007にしては熟成の気配が漂う軽く褐色の入った麦わら、中途半端な甘みで退屈な果実味、輪郭のぼやけたリンゴのヒント、生彩を欠く。保存状態が悪かったのか、醸造上の欠陥(UTA)かもしれない。5.99Euroは高い。こういうワインに出会うと、やっぱり没個性であっても廉価で安定している量産ワインを買った方が良かったかと思ってしまう。その一方で1Euroしか変わらないのに素晴らしいと感じたのが2007 Scheurebe “Vom Kalkstein” QbA trocken (Wgt. Seehof/ Westhofen, Rheinhessen)抜栓当初は先週飲んだリースリングよりインパクトが弱く頼りない。日陰に育つ草花を見るような気がしたが、翌日はボディにまとまり感が出来て、ほんのりと漂うカシスの上品な甘みに軽い硫黄くささがある。繊細で女性的で、どこかしらJ.J.プリュムを思わせるところがあるような気がするというのは褒めすぎか。6.99Euro, 購入先:REWE in Trier Galerie。やはりワインは醸造家次第と思う。
2009/03/24
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少しずつ暖かくなり、木立も芽吹き始めた今日この頃。そろそろ春物の上着が必要になりそうだ。さて、最近飲んだワイン。2006 Pinna fidelis Roble (DO Ribera del Duero)最初はアルコール感が勝り、やや平板な果実味と感じたが、全体のまとまりとバランスは良好。ラズベリー、ビターチョコ。6Euro弱のワインとしては納得。(購入先:Rossmann)2007 Quasaar Riesling (Weinhof Herrenberg/ Saar)濃厚でパワフル、クリーミィなボディに完熟オレンジ、蜂蜜、パイナップル、非常にミネラリッシュなアフタ。醸造所で試飲した時と印象が異なり弱冠甘みが目立つ。Alc. 12.5%。14%までよいから上げてガツンと辛口で攻めて欲しかった。アルコールをやや低めに仕立てるのは最近の流行なのか?2007 Spaetburgunder Rotwein QbA trocken (WG Oberbergen/ Baden)青臭い苦み、平板な果実味、砂糖漬けのチェリー、バナナ。ほのかな甘みで欠点を覆い隠そうとしているようだ。量産が出来る協同組合こそ高品質なワインを手頃な価格で出してほしいものだが、これでは5Euro弱でも不満が残る。大いに失望。(購入先:Rossmann)2007 Kaseler Nieschen, Riesling Kabinett trocken (Wgt. Von Beulwitz/ Ruwer)控えめの酸味にクリアーな黄色いりんごのヒント。酸味が少なく口当たりは良いのだが、気が抜けたようでアフタも短め、どうも物足りない。去勢されたようなワインというべきか。人によっては、このくらい口当たりが良い方がいいと思うかもしれないけれど。2004 Conde Galiana Crianza (DO Catalunya, Spain)抜栓直後は力強かった果実味はやがて大人しくなり、まるで焦がした木片を煮出したようなタンニンが強烈に自己主張をはじめた。苦い。非常に苦い。良薬は口に苦しというけれど、この焦げた木の味は本当に樽に由来するのか疑わしい。恐らく樽味をつけるチップだろう。裏ラベルには「数ヶ月アメリカンオークで熟成」とあるが3.50Euroでも損をした気分。(購入先:Rossmann)2008 Bianco Sicilia IGT BIO (Aldi)アルディのスタンダード・ビオワイン、シチリア産の白、2Euro台。ほんのりペトロール系のミネラルぽい香り、シンプルながらほどほどにボディもあり、グレープフルーツ、メロンのヒントがほんのり。スイスイ飲めてコストパフォーマンスは良好。冷蔵庫に常備すると便利かも。Freixenet Carta Nevada Seco (Cava, Spain)あっさり、フレッシュ、すっきりさわやか。会話と料理を楽しみたいときの清涼飲料水。ワインとしては退屈至極ではあるが、それなりのクオリティで安心感はある。2007 Riesling “Vom Kalkstein” trocken (Wgt. Seehof/ Westhofen, Rheinhessen)アタックは石灰石土壌由来のボディが押し寄せ、飲み進むうちに軽やかな印象に変わる。磨き込まれた透明感のある果実味にレモン、りんご、パイナップルのヒントがほのかに漂う。繊細な酸味がアクセントを添えつつボディを引き締める秀逸な辛口リースリング。ヴィットマン醸造所と同じヴェストホーフェンに持つ畑のポテンシャルは高そうだ。醸造家エルンスト・ファウスはラインヘッセンの若手醸造家団体『メッセージ・イン・ザ・ボトル』のメンバー。6.90Euroの価値は十分にあり、個人的に注目したい醸造所。(購入先:REWE, Galerie Trier)
2009/03/16
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シュトゥワート・ピゴットがFAZ Sonntagに書いている3月8日付コラムによれば、2008年産は1996年以来最も酸が強い生産年だという。ロバート・ヴァイル醸造所のヨッヘン・ベッカー・ケーンの談話を引用して、飲み応えのあるアルコール度の高いワインを求めていた消費者は昨今スッキリとして酸が強調されたワインを求めるようになっており、現在リリースされつつある2008年産はまさにその要望に通りのワインだが、あるいはやや度を超すことになるかもしれない、という。21世紀に入り2003, 2005, 2006とドイツの高品質な辛口は従来にない華やかさを備えるものが現れたが、それに疲れてきた消費者は軽くさっぱりとしたワインを求めるようになった。そこに2007でスッキリとして酸味が強いワインが戻って来たものの、2008は2007より酸が強い傾向がある。除酸を行った生産者もおり、それは上手くいけばいいが、下手をすると去勢されたようなワインになる。理想的には化学的操作を行わず、冬の熟成中に酒石酸の沈殿で酸が減少するのを待つことだ、という。消費者の嗜好の変化に関しては2006までの華やかさに疲れたというより、うわべだけの華やかさと酸の不足によるバランスの悪さ、そして値上がりから、2006を敬遠する傾向が一部に見られたということだろう。酸不足は2003でも熟成能力に問題をもたらすことが知られている。だが一方国内市場でドイツワインへの注目度を高め、愛好家を増やしていったのもそれらのワインだったはずだ。スッキリとして酸味の強調されたワインが求められるようになったのは、飲み応えのある高アルコールワインへの反動としてではなく、2007という生産年がもたらしたものを上手く市場でアピールしようとする売り手側のマーケティングが成功した面もあったように思われる。私は幸いまだ薄く酸っぱい2008年産には出会っていないが、去勢されたような2007年産なら思い当たる節がある。しかし酸の対応は2007の経験から多くの醸造所は学んでいるだろう。さらに長期間の樹上の成熟と十分な降雨によるミネラルとエキストラクトの蓄積で、確かに果汁糖度は上がらずアウスレーゼ以上は少ないだろうが、2008は2007よりも必ずしも軽く、酸味が強いだけの生産年ではないのではないか。先日の試飲以来そんな期待を抱いている。
2009/03/11
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少し寒さは緩んだものの、湿りがちでぱっとしない天気が続いている。今日はローゼンモンタークでトリアーでもカーニヴァルの仮装行列があったが、見に行かなかった。ARD系列局のケルンやマインツから生中継を見ると、不景気でも例年と変わりなく陽気に騒いでいたようである。さて、先週のワイン。2004 Domaine Lalanne (AC Madiran)マディランといえばモンテュス、ブーカッセで好印象を持っていたので購入したのだが、美味しくない。フェノールの苦みが目立ち、薄めの果実味には表情にも乏しく、ほとんど薬を飲んでいる気分。確かに健康には良いかもしれないが。6.99Euro、3Euro以下が妥当。(購入先:Wasgau)2007 Weissburgunder QbA trocken (Niederkirchener Weinmacher/Pfalz)明瞭な果実味に青リンゴ、メロンのヒント、軽い苦みに似た雑味があるものの邪魔にはならない。ほどほどに軽く清涼感があり、アフタも快適。3.99Euro。(Wasgau)2007 Lemberger Rotwein QbA trocken (Wgt. Heinz Pfaffmann/Pfalz)暗い紫を帯びた赤、微細な気泡がディスクの縁にある。やや田舎ぽい雰囲気で複雑さには欠けるものの赤ワインとして十分な濃度があり、ほのかな酸味が果実味をさっぱりとまとめている。ラズベリー、プラム、梅のペースト、カカオのヒント。ブルゲンラントのブラウフレンキッシュに通じるスタイル。12%と低アルコールでも残糖感は無く、グラスを重ねても酔いの回り加減は極めて穏やか。好印象。(4.95Euro, Rossmann)2005 Villa de Corullon (J. Palacios/D.O. Bierzo, Spain)シリアスなワイン。グラスに向かうと思わず背筋を伸ばしてしまう。抜栓直後は筋肉質な濃厚さがあったが、時間が経つといつの間にか端正な軽やかさに変わっていた。タンニンはこなれて果実味に覆われている。ラズベリー、カカオ、オレンジ等のヒント、多様で奥行きがあり、非常にエレガントで、一点の曇りもなく磨き抜かれた様な味わい。個人的にはやや磨き込みすぎの様な気もするが。飲み頃にはまだ明らかに早く、今飲むならデカンタージュ、大きめのグラスは必須。37Euroは妥当。(Hawesko)2006 Terre d' Ardoise, Carignan VV (VdP Cotes Catalanes)ほっとする。ラズベリー、ボンボン、コーヒーキャラメル。平凡だがバランス良く、快適。(4.99Euro, Rossmann)
2009/02/23
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今朝は積雪があった。今年は昨年、一昨年より雪が多い。湿った雪で、午後にはあらかた溶けてしまった。さて、先週飲んだワイン。2005 Casa del Canto Aged in Oak (DO Yecla/Spain)4.50Euro前後、セパージュはモンストレル(ムールヴェドル)とシラー、アメリカンオークの樽で4ヶ月熟成。クールなブルーベリー、落ち着いた果実味に調和したタンニンにはやや荒さがあるが、快適な飲み口でコストパフォーマンスは非常に良い。普段飲みの赤として申し分なし。太鼓判。(購入先:Rossmann)2008 Rivaner Classic (Wgt. zur Roemerkelter/Mosel)今年最初に買ったの2008年産、4.50Euro位。クリーンな心地よいフルーツ香りにメロン、バナナのヒント、非常にフレッシュで綺麗なアロマ、ミディアムボディ、酸味はやや控えめ、快適なフルーツ感で口当たりも良い。コストパフォーマンスは言うまでもなく、最初に飲んだ2008年産がこうだと、ほかのワインにも期待が高まろうというもの。おススメの新酒(購入先:Trier Galerie内のREWE)。オーナーはビオの若手醸造家。ここのリースリング辛口も良いのだが、ゴー・ミヨには載っていないのは不思議。一つ房くらいの実力はあると思う。2007 Walpolzheimer Klosterberg Spaetburgunder QbA (Jakob Sebastian/Ahr)薄いルビーレッド、ほとんどロゼに近い。ラズベリーのヒント、繊細で質の良い赤だが、アルコール度11.5%でほの甘く、上品な葡萄ジュースのような感じもする。あえて甘口の赤が飲みたい、という人(少なからずいるに違いない)にはおすすめ。私の好みではないが。7.99Euro, Karstadt.2007 Kaseler Nieschen Riesling Kabinett feinherb (Wgt. Erben von Beulwitz)淡い金色、微細な気泡多数。スクリューキャップ。完熟グレープフルーツの絞りたてジュースのヒント、フレッシュ、やや濃いめのボディに柑橘のアロマ、エキストラクト、ミネラルとフルーツの一体感を下支えするような感じの角のとれた控えめな酸味。こういうリースリングを飲むとほっとすると同時に、廉価な輸入ワインの大部分よりも高品質で安心して飲めるワインが身近にあることありがたく思う。個人的にはもう少し酸味が明瞭でも良い。昨年飲んだ時より美味しい。飲み頃に入りつつあるのかもしれない。2008 Cabernet Sauvignon, Pinotage (SouthAfrica)アルディで2.99Euro。醸造所不明。熟したブラックベリー、ヴァニラ、飲めないことはないが、2008年産とは到底思えない熟成感のあるカベルネ由来と思われる果実味が不自然。確かに半年北半球産より熟しているかもしれないが、「つくりもの」の印象を強く受けた。グラス2杯でギブアップ。
2009/02/16
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週末、ドイツでは宝くじの賞金総額が3500万ユーロに達した。約42億円である。私は結局買わなかった。どのみち当たる訳がない。とは言うものの、毎月の利子は税金を払っても6万ユーロになるそうだ。ワイン雑誌をパラパラとめくっていたら、地下セラー施工会社の広告が目に入った。私が住んでいる部屋より広い空間の壁一面に棚がしつらえられ、12本入り木箱がレールに乗って出し入れできるようになっている。マグナムボトルには専用のソフトクッションつきラック。毎月720万円ほどの収入があれば大抵のワインは価格を気にせず買えるだろう。週末の宝くじ、買っておけばよかったかなとチラっと思ったりした。買ったところで当たる訳は無いのだが。さて、最近飲んだワイン。2007 Riesling trocken "Pur"(Wgt. Franz Ambre/Ruwer)昨年11月のルーヴァーの試飲会で気になっていた醸造所だが、大学の近くのスーパーEdekaにあった。仕入れ担当者に感謝。5.60Euro。期待しつつコルクを抜くも、ブショネであった。残念。とはいえ、捨てるのも勿体ないので先週木曜から夕食にチビチビ飲んでおり、まだグラス2杯分は残っている。コルクの湿った木の匂いにマスキングされつつも、一応ルーヴァーのリースリングらしい果実味はある。出来ればスクリューキャップを使ってほしかった。2006 Pinotage (Kanonkop/Simonsberg-Stellenbosch, South Afrika)最高樹齢55歳、収穫量39hl/ha、29℃で3日間解放桶で発酵、手作業で果帽をパンチングダウン、16ヶ月バリック、新樽比率80%、20%は二度目の使用云々と、裏ラベルに丁寧に説明してある。併記している熟成カーブによれば飲み頃は2010年から始まるとあるが、今飲んでも充分に美味しい。濃厚な広がり感のある果実味にプラム、ダークチェリーのヒント、タンニンはこなれて柔らかく、カカオのヒント。ベルギー産チョコのプラリーネ。アフタに凝縮したベリーが長く残り、とても楽しめる。24~29Euro。2007 Stilvoll Riesling QbA feinherb (Jugendstil/Mosel)「ユーゲントスティル」はモーゼルの若手醸造家4人が結成したグループ名で、これは彼らが最初にリリースしたワイン。5.60Euro。クラシックなモーゼルを目指してやや甘みを残し(22g/Liter)、適度なアルコール度(12%)に仕立てたという。個人的な嗜好からすれば甘みがやや目立ちすぎ、クリーンなフルーツにはとっかかりが無く、ミネラルもごく控えめ。抜栓初日にはあまりの軽さとコンパクトなフルーツ感に失望したが、二日目には弱冠足腰が座ってきた。普段コーラやカクテルに親しんでいる若者には受ける味筋かもしれない。ガイゼンハイムで知り合った4人は1981年と1982年生まれ、いずれも海外での研修を経て地元モーゼルでワイン造りに携わっている。メンバーの一人マティアス・マイアラーはフリッツ・ハーグでも働いており、彼が実家で造ったシュペートレーゼには好印象を受けたことがある。今後の切磋琢磨と向上に期待したい。
2009/02/01
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はや一月も終わろうとしている。博論の手直しをしているのだが、数年前に書いたところはドイツ語はもとより内容的にも不満が多い。しかし出来る限り早く一応の形をつけたいと思う。最近飲んだワイン。2007 Deidesheimer Hofstueck, Riesling trocken (Niederkirchener Weinmacher/Pfalz)先日報告した、北米で好調というファルツの協同組合のリースリング。3.60Euro。サラリとした飲み心地、非常にクリーンなフルーツ感にほのかにパイナップル、グレープフルーツのヒント。理想的なサマーワイン、好感の持てる仕上がり。2005 Les Terrasses (Alvaro Palacio/ DOC Priorat)ガルナッチャ30%, カリニェーニャ60%にCS, シラー。抜栓直後は固く若いカベルネの様。3時間後位に南方系品種の土臭さが少し出てきたが、タンニンは固いままでエレガントかもしれないがやや大人しい優等生。熟成すると繊細な調和と美しさを示すかもしれない。23Euroの価格には現状ではやや不満。2007 Neustadter Dornfelder Rotwein trocken (Hambacher Schloss/Pfalz)3.99EuroでDLG 金賞に惹かれての購入。スムースな舌触り、中程度の濃度でラズベリー風味のフルーティな味はまずまずだが、アフタが短くややシンプルなコカコーラ系。あまり好みではない。2007 Ahrweiler Klosterberg Spaetburgunder trocken (Jakob Sebastian/ Ahr)凝縮したチェリー、ラズベリーの果実味にフレッシュな酸、非常に長いアフタ。13.5%のアルコールを感じさせない、しなやかな飲み心地。アプフューラーとあるので購入した樽だろうが、それにしても高品質。7.99Euroは納得できる。
2009/01/28
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先週のキャンパスにある池の様子。厚い氷が張っていた。ここ数日、やや寒気が緩んできている。最近飲んだワインから。2007 Schloss Lieser Riesling QbA trocken (Schloss Lieser/ Mosel)緑家さんはかなり辛口に評価していたけれど、抜栓…ではなく、スクリューキャップなので開栓直後の印象はモーゼルのリースリング辛口としては悪くない。酸とタンニンが強いので一般受けはしないかもしれない、と思った。しかし二日目は凡庸で、前日の印象との落差が印象的。三日目は果実味がやや復調したものの、二本目を買う気にはならなかった。いずれにしても完熟しきっていない収穫を用いたものと思われる。グーツアプフュルングなので自家醸造には違いない。2006 Iphofer Julius-Echter-Berg, Silvaner Spaetlese trocken S (Wgt. Hans Wirsching/ Franken)ヘヴィ級シルヴァーナー。クリーミィで濃厚、複雑。完熟したザクロ、カリンなど、明らかにリースリングとはひと味ちがう。貝殻石灰質土壌らしいたっぷりとしたミネラル感とうまみ、アロマティックでアフタも長く、14.5%のアルコール濃度がグラス2杯目くらいからじわじわと効いてくる。3杯飲んで轟沈しそうになるが、辛うじて踏みとどまることができた。バリック仕立てのシャルドネとも充分張り合えるであろう力強さと懐の深さ。2007 Baden Spaetburgunder Rotwein Edition Fritz Keller (Aldi Sued)ドイツのディスカウントスーパー最大手、アルディがバーデンのVDP加盟醸造所オーナー、フリッツ・ケラーに委託して仕立てたシュペートブルグンダー。6.99Euro。暗めのルビー色、控えめだが中身の詰まった香り、ミディアムボディ、調和のとれたクールな果実味、良い意味でドイツらしくなくピノ・ノワール的。ドイツの赤には白とも赤ともつかない中途半端な赤や、どうしようもなくやぼったい赤もあるが(何度試飲せずに買って後悔したことか!)これはしっかりとピノ・ノワール。木訥で実直なタイプの。この価格でこの品質なら文句なし。2007 Riesling Classic (Wgt. Gebrueder Ludwig/ Mosel)安定して高品質なリースリングをリリースする若手醸造家の造るワイン。複雑さはないがまとまり感のある黄色いフルーツ、ほどほどに飲み応えがありアロマティック。モーゼルのスタンダード。2001 Geheimrat J Riesling Spaetlese trocken (Wgt. Wegeler/ Rheingau)エレガント。凛と背筋の伸びたリースリング辛口、熟成香はほんのり、酸とミネラルのバランスも良好。落ち着いて食事とともに楽しみたい。
2009/01/17
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相変わらず非常に寒い。北部では雪が降ったようだが、トリアーはどんより曇り。年末年始に飲んだワインのことなど。2004 Gevrey Chambertin 1er Cru "Les Cherbaudes" (Domaine des Beaumont)ルーヴァーのフォン・シューベルト家はリースリング醸造とともに、赤を輸入販売するワイン商も経営している。これはその一つ。ひさしぶりにブルゴーニュのピノを飲んだ。繊細で調和がとれ、ラズベリーのフルーツ感が好ましく、今飲んで美味しい。ちなみにシューベルト家がアプツベルクに植えたピノは今年が初収穫の予定だそうだ。2007 Riesling Sekt Brut (Staatliche Weinbaudomaene Trier)軽くアプリコット系のアロマがやや目立つが、柑橘風味でスイスイ飲める。値段も8Euro以下と手頃。2005 "Il Blu" IGT Toskana (La Brancaia)抜栓直後はタンニンが目立ち果実味も上品ながら軽い印象。3時間後に濃厚で甘みたっぷり、赤いベリー全開だがやや甘さが目立つ。翌日は甘みは落ち着いても濃厚さとパワーはそのまま。樽試飲しているような感じ。あと10年は楽勝か。37Euroは安いかもしれない...ごちそうさまでした。2007 Kellerberg Riesling Smaragd (Domaene Wachau)磨き込まれた果実味というと聞こえは良いが、磨きすぎて小さくまとまってしまった印象。ほどほどに濃厚で土壌の味も充分感じられるのだが。オーストリアのリースリングは個人的にはドイツ産より難解な気がする。好きだけど。1995 Wiltinger Braunekupp Riesling Auslese (Bischofliche Weingueter Trier)普通の冷蔵庫で2年寝ていたボトル。14年前の収穫とは思えないフレッシュ感のある繊細な酸味、ほっそりとしたボディにしっかりした柑橘の甘み。熟成感はほんのり、充分楽しめた。それにしても、1995はこんなに酸味のしっかりした年だったっけ。
2009/01/04
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相変わらず晴れ間の少ない天気が続いている。先日少し雪が降ったが、アイスヴァインが収穫されたという報告はまだ聞いていない。アイスヴァイン以外はどこの醸造所でも収穫を完了したようだ。先日発表されたVDPのまとめによれば、2008年の収穫は難しい局面もあり、醸造家は念入りな気配りとずぶとい神経が必要としたという。大半の生産者は平年を弱冠上回ると評価する収穫年だが、BAやTBAなど高貴な甘口は希だそうだ。夏は畑の念入りな世話が必要で、生産量を抑えるために枝や房の数を減らし、除葉を行った生産者はそれが報われたかたちとなった。モーゼル、ラインガウ、ナーエといった北の生産地域では生理的成熟は遅く始まったため、11月まで収穫作業が続いた。2008年産は多面的で濃厚、複雑で香り高いと同時に、全般にほどほどのアルコール度であることから、ワイン市場での位置づけがしやすい年と言える。他の生産年と比較した場合は長い成熟期間と繊細な果実酸と明瞭なアロマから2004年に例える生産者が多い。総括すると最上の品質を確保するには念入りな手作業が欠かせない年であり、高品質を目指す生産者はリスクを冒さねばならなかった。忍耐と首尾一貫した天候の観察が、ポテンシャルを持つ果汁を得る唯一無二の方法であった、という。公式発表の拙い要約なので伝わりにくい面もあるかと思う。いずれにしても、高品質なワインを目指す生産者には昨年よりも忍耐と念入りな作業が必要な生産年だったことは確かなようだ。
2008/12/07
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自分ではこうと思っていても、人に言われて改めて見直してみると、気がつくことが少なからずある。頭から意見の合わない場合もあるが、ゴー・ミヨのドイツワインガイドに関しては勉強になることが多い。その最新版が発売された。今年の醸造家大賞はファルツの赤ワインのスペシャリスト、クニプサー醸造所。バリック仕立てのドイツ赤の先駆者である。受賞はいまさらのような気がしないでもないが、昨年受賞したバーデンのフーバー醸造所はシュペートブルグンダーの第一人者、それに続くクニプサーは同じ赤でもシラー、カベルネ、ザンクト・ラウレントなど、多様な赤も得意としているところに、ドイツ赤のポテンシャルをアピールしようという狙いがあるように思われる。一方コレクション大賞はショロス・ヨハニスベルク、評価を上げた醸造所大賞(Aufsteiger des Jahres…適切な訳語が思いつかない)はラインヘッセンのワグナー・ステンベル、新発見醸造所大賞はバーデンのアレクサンダー・ライブレ醸造所。シュロス・ヨハニスベルクはいわずと知れた伝統を誇る醸造所だが、それを率いるのは2004年に就任したガイゼンハイム卒の若手(30代だろうか)のクリスチャン・ヴィッテ。彼が醸造所の顔としてポートレートになっている。ワグナー・ステンペルはラインヘッセンの若手醸造家団体メッセージ・イン・ア・ボトルのメンバー。アレクサンダー・ライブレはバーデンのリースリング第一人者アンドレアスの息子で今年30歳。大賞を受賞したこれら3人のほかにも、若い醸造家の活躍する醸造所が評価を上げ、定評を獲得し、あるいは新たに見出されていることが目を引くが、あわせて900醸造所が取り上げられているこのガイドからは、優れた生産者たちがドイツにはひしめいているとの印象を受ける。2007年産のできばえに関しては、前評判ほど見事なワインは多くはなく、完熟を待たずに収穫した生産者が少なくなかったという。また個々の醸造所の評価に関しては、うなずけるものもあればそうでないものもある。これを検証するのも、このワインガイドの楽しみ方のひとつかもしれないと思う。Armin Diel/ Joel Payne (Hrsg.), Gault Millau Weinguide Deutschland 2009, Christian Verlag 2008 (29,95Euro) www.gaultmillau.de
2008/11/19
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相変わらず夏らしくない、肌寒い日が続いているが、スーパーでは既にイタリア産の濁り新酒が並んでいた。ファルツやラインヘッセンではそろそろフェダーヴァイザー用の早熟品種の収穫が始まるという。ちっとも暑くないとはいえ、葡萄の成熟は平年より2週間前後先行しているそうで、この調子だと2007年と似た傾向の生産年になりそうだ。先日カルトホイザーホフで開催された試飲会のひとコマ。年配の男達が黙々と試飲する様子は、以下で紹介するワイン・ビデオ・ブログの賑やかな軽さと対照的だ。さて、先日ワイン関連で割と面白いビデオ・ブログ(というのか?)を知った。ゲリー・ヴェイナチャクGary Vaynerchukのワイン批評番組winelibrary.tvだが、もう日本でも知られているのかな。http://tv.winelibrary.com/ジム・キャリーにどこかしら似ているゲリーは、とにかくよくしゃべる。ざっくばらんで肩肘をはらず、自分の言葉で感じたことをズバズバ言うコメントは的確でわかりやすい。一部には新世代のロバート・パーカーという声もあるようだ。既に522回を数える番組は一見の価値あり。一方、ドイツ版のヴェイナチャックがメラニー・ダフィMelanie DuffyのボトルプロットBottle Plotという、YouTubeのブログ。http://www.youtube.com/bottleplotゲリーと同じでざっくばらんでよくしゃべるが、内容的にはもう一歩か。ドイツ語のワイン表現の勉強にはよさそうだ。
2008/08/19
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フランクフルター・アルゲマイネ紙の日曜版にスチュアート・ピゴットが担当するワインコラムがあり、楽しみにしている。先週末7月5日はザールはゼーリヒにある旧ヘレンベルク醸造所が話題の一つだった。フランクフルター・ルンドシャウ紙で25年間ジャーナリストを努めたのち、現在はヴィヌム誌に吸収合併されたアレス・ユーバー・ヴァイン誌の編集長だったヨッヘン・ジーメンスが、2005年末に購入してDr.ジーメンス醸造所となった。聞くところによれば、醸造施設の状態は悲惨で、雨漏りの他に配電線が第二次大戦当時の紙で絶縁されていたほどだったという。その上、大枚をはたいて購入したトラクターは車輪の幅が広すぎて畝の間を通ることすら出来ず、さらに2006年は収穫直前に降った雹で壊滅的な打撃を受けるという、これ以上はないほどの苦難のスタートを切ったのだが、ピゴットによれば2007Spaetlese feinherbは間違いなくザール最上のワインのひとつだという。Dr.ジーメンス醸造所のリースリングはアルコール濃度が高くても11%というから興味深い。いずれ飲んでみたいと思う。もうひとつの話題はラインガウの日本人女性醸造家、栗山朋子さんだ。ラインガウはロルヒのフリードリヒ・アルテンキルヒ醸造所で昨年産からワイン造りの指揮をとる彼女の、リースリングのエレガンスを感じ取るセンスは素晴らしく、ほんのりと漂う繊細な甘みにミネラル感のある酸味が寄り添う2007 Qartzschiefer Rieslingを「まさにエレガント」 Das nennt man elegantと評している。すごいじゃないですか、栗山さん!これからのご活躍を楽しみにしています。
2008/07/09
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先日、近所に住むドイツ人とワインを飲む機会があった。試飲会では以前から顔見知りだったのだが、ようやくワイン会を開くことになったのだ。何を持って行くか少し迷ったが、せっかくなので日本のワインを持って行くことにした。1992 Chateau Takeda Merlot & Cabernet Sauvignon Grand Vin数年前にトリアーを訪れた友人にもらったものだが、いつかドイツ人に飲ませてみたいと思っていた。好機到来である。もちろん、ブラインドで出した。黒いベリーにほのかに揮発酸。「氷砂糖の様なほのかな甘みに繊細なアロマ…ピノ・ノアールかな」とフェリックス。口に含むとがっちりとして濃く、黒いベリーに粘土ぽい味。熟成のヒントは控えめだ。「シラーぽいね、南仏かな」とマーク。16年前の収穫なのに色も香味も思いの外に若々しい。アフタにかけて苦みばしったタンニンが残り、開ききっていない堅い果実味とあわせて、どこか内にこもった厳しい印象を与える。タケダ・ワイナリーの今は亡き若主人武田伸一氏には、一度お目にかかったことがある。ニフティのオフ会で醸造所のワインをプレゼンテーションしてくださったのだが、その時の穏やかな笑顔とこのワインの力強さは、すこし意外な取り合わせの様な気がした。1989年まで3年間ボルドーで修行した伸一氏が、ボルドーに負けるものか、という意地をかけて造ったワインなのかもしれない。濃く、力強く、長期の熟成に耐える、本物のボルドーを目指して。「生産国は?」と聞くと、参加者は皆「東ヨーロッパ?」「新世界?」「ブルゴーニュ?」「ローヌ?」ふふっと思わず笑みがうかぶ。覆いを外して、エチケットを見せた。「へぇ、これが日本の赤なんだ!初めてだけど、料理に合わせたくなるね」とフェリックス。ドイツではエキゾチックなワイン生産国日本でも、まっとうな赤が出来ることをわかってもらえたようである。
2008/04/14
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ラインガウのロルヒにあるアルテンキルヒ醸造所の醸造家、栗山朋子さん。左は経営責任者のアンドレアス・フォン・ローゼン氏。先日、デュッセルドフルで開催されたProWeinに行って来た。ドイツはもとより世界各国から生産者が出展する、ドイツ最大のワイン見本市である。昨年一度来ているので大体様子は知っているつもりであったが、方向感覚がすぐに無くなり、グラスを片手にあちらこちらへと彷徨い歩くと、日本人女性が二人隣同士で並んでいるブースがあった。一人はオッテス徳岡史子さんで、ラインガウ西部のロルヒにあるオッテス醸造所で、ご主人のゲラルドさんとワインを造っている。一昨年醸造所にお邪魔したことがある(その時のブログ)。その隣に立っていたのが、同じロルヒのアルテンキルヒ醸造所で昨年から栽培醸造責任者を務める栗山朋子さんであった。フランケンのルドルフ・フュルスト、ラインガウのP.J.キューン、ゲオルグ・ブロイヤー、ブルゴーニュのドメーヌ・シモン・ビーズで仕事をしながらガイゼンハイムで醸造を学び、現職に至る。半導体メーカーに勤務していた当時にドイツ人のご主人と知り合い、1994年にドイツに来た栗山さんは、「何か物作りに携わる仕事がしたかった」という。ワイン造りを選んだのは、NHKの「今日の料理」のレギュラーで料理研究家であった祖母の遺伝もあるかもしれないそうだ。昨年9月着任したばかりの醸造所で、18haあまりの畑の収穫のタイミングを見極め、ロルヒのテロワールを表現するべく自然酵母による発酵にトライした。アルテンキルヒ醸造所のセラーはトンネルのように空気が吹き抜ける構造だったので、室温をあげて酵母の活動を助けるためにセラーを壁で仕切ったという。瓶詰め前の彼女の醸した新酒は自然発酵独特の香りがしたが、ネガティブな印象は受けなかった。ブラウシーファー、グラウシーファーそれぞれの土壌の味わいが明瞭で、懐の深い酒躯。2006年産リースリングの醸造を担当させてもらったというゲオルグ・ブロイヤー醸造所のワインにどこか通じる面があり、アルテンキルヒの前任者のほっそりとしたスタイルとはひと味ちがう。ガイゼンハイムに在学中も「醸造は職人仕事と同じで、現場を離れると勘が鈍るから」と上記の醸造所で働き続けたという栗山さんは、醸造家の仕事が心底気に入っているようだ。当面の目標はアルテンキルヒのリースリングをドイツのトップクラスにすることだという。彼女になら出来るかもしれない。6月にドイツワイン基金のイヴェントで来日するそうなので、試飲してみて頂きたいと思う。Weingut Friedrich Altenkirchwww.weingut-altenkirch.de関連記事:"Kellermeisterin aus Japan träumt vom Riesling-Preis" Rhein-Main Net 2007 Okt. 20 http://www.rhein-main.net/sixcms/detail.php/4070916オッテス徳岡さんの醸造所Weingut Karl Otteswww.weingut-ottes.de
2008/03/29
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ドイツの大衆紙ビルトの3月18日付けによれば、ワインはスピリッツより脳細胞にダメージを与えるという。ゲッティンゲン大学医学部が飲酒傾向による脳を比較したところ、記憶、方向感覚、空間認識を司るヒポカンプスHippocampusの容量は、アルコールを飲まない3.85ml, ビール飲み3.4ml, スピリッツ飲み2.9ml, ワイン飲み2.8mlと、ワイン飲みが最もダメージを受けていた。ちなみに、ヒポカンプスはアルツハイマー症候群で最初に損傷する部位だそうだ。う~ん、道理で最近物覚えが悪い訳だ...と納得(苦笑)。手遅れだなぁ。
2008/03/23
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週末のワイン。2006 Riesling QbA feinherb, Wgt. Melsheimer (7.50Euro)ワイン雑誌Vinumの主催する2007年度リースリング生産者大賞受賞したトーステン・メルスハイマーは身長1m93cm、38歳。モーゼルの黒猫で有名なツェルにほど近いライルReil村の醸造所メルスハイマーで父とワイン造りを営む。ガイゼンハイムを卒業して1995年に実家に戻ってから畑をビオに転換。平均収穫量は35hl/haとかなり低い。クリーン、張りのある綺麗なフルーツ感にヨハニスベーレのエッセンス的甘み。QbAながらアウスレーゼ並みに完熟していたようだ。先入観だと思うが、出来のいいビオは果実味に生き生きとした輝きがある。ほんのりとミネラル。2006年らしく完熟してアロマティックなリースリングで素直に美味しい。収穫から1年以上経たとは思えないほどフレッシュで、清澄したモストのニュアンスすら残っている。食事と一緒にグラスを重ねると次第に平板に感じられるようになったが、畑名なしのQbAとしてはそんなものだろう。優秀な生産者であることは恐らく間違いない。ちなみに、このワインを買ったのは大学近くの住宅街にあるスーパー。数ヶ月前に酒コーナーをリニューアルして、地元の醸造所のワインを何種類か置くようになった。喜ばしいことである。2007 Weissburgunder, QbA trocken, Wgt. Walter Rauen (8Euro)8Euroと高かったのは、大聖堂のはす向かいのワインバー兼ワイン屋で冷やしてあったボトルを買ったため。醸造所直なら5~6Euroだろうが、2007年を飲みたかったので、やむを得ず。アルコール感のあるボディに青~黄色いリンゴのヒント、アフタにかけて果梗の青臭い苦みがあり、後味に残るほのかな甘みもやや浮いている。メルスハイマーのような透明感のある果実味ではなく、どこかしら粗野に醸造したような印象を受けるが、これも瓶詰めのショックによるものであり、数ヶ月すると落ち着くのかもしれないが、現状ではあまり好印象ではない。醸造所の名誉のために付け加えると、ここの2006年産ヴァイスブルグンダーは非常にバランスの良い素晴らしいものであったし、リースリングもアロマティックでコストパフォーマンスに優れた造り手である。それにしても、この苦みはどこに由来するものであろうか。マシン収穫だと果梗は枝に残るのだが、それでもダメージが果汁に出たのか。それとも収穫をポンプや機械類で手荒に扱ったのか...早期に瓶詰めするワインは、どのみち上物ではないことが多いのは確かだが。確か2週間ほど前のFAZ Sonntagでシュトゥアート・ピゴットが興味深いことを書いていた。ファルツで聞いた話しだそうだが、2006年の二の舞-完熟後の一雨で黴と腐敗で収穫が深刻な被害を受けた-を恐れた醸造所には、完熟を待ちきれずに一部の収穫を開始したところもあるという。昨年は記録的に早い開花ではあったものの、8月の冷夏で成熟は遅れ、当初は9月上旬の可能性もあるとされた収穫開始はじりじりと遅れ、モーゼルの場合ヴァイスブルグンダーは9月3週目ころ始まった。恐らく果汁糖度と酸度のバランスは数値上は収穫可能であることを示していただろう。だが、いわゆる生理的成熟に達していたかどうか?辛口でアロマティックなワインを醸造する場合、マイシェスタンドツァイト(破砕した収穫を一定時間果皮・果梗を果汁に漬ける操作)で香味を引き出す事が多い。赤ワインの醸造でも、果梗まで熟していないと青臭い苦みが出るという。まして赤より繊細な果汁の白はなおさらであるように思われるが、どうだろうか。...もっとも、モーゼルの2007年産はこれが最初の1本である。あれこれ考えてしまうのは、それだけ期待が大きかったせいかもしれないが、記録的に長期の成熟期間を達成して非常にアロマティックという前評判からは一歩引いて、今後のリリースを待ったほうがよさそうである。
2008/02/11
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キャンパスの池にて。マリオ・ショイアーマンの『ワインと時間』(Mario Scheuermann, Wein und Zeit, Hampp Verlag 2007)を読んでいる。随筆集なのだが、ワインとは何か、その本質を巡っての思索が綴られていて興味深い。一節をかいつまんで要約すると、こんな具合だ。ドイツではリースリングブームに浮かれているが、ドイツワインをオンリストしている一流レストランは海外では希であり、VDPオークションを除けばリリース価格が100Euroを越えるアイコン・ワイン(スーパータスカンやボルドー特級など)はドイツにはなく、エアステス・ゲヴェクスですら15Euroがせいいっぱいの醸造所も少なくない。「アイコン・ワインを造るのは最初の200年を別にすれば容易なこと」とフィリピーヌ・ロッチルドは言うが、ドイツの醸造所格付けを著者が提言した1985年からまだ20余年しか経っていない。ボルドーの醸造家Jean-Marc Maugeyの様に「ワインは時間であり、時間こそがワインを造るのだ」と言い、除梗せずに発酵し3年樽熟させることは、100年前はラインやザールのリースリングでも行われていたが、それだけの時間をかけて醸造したからこそ贅沢品でありえたのである。しかし最新の醸造技術が普及し市場のニーズに合わせてデザインされる現代は、ワイン造りにおいても清潔さと正確さが優先され、不確かな理由で時間を無駄にする様な事は許されなくなっている。ワイン造りに昔のやり方を復活させることは理論的には可能だが、ステンレスタンク、電力、トラクターをはじめとする技術の利用を断念する醸造家はまずいないだろう。冷却、亜硫酸、炭酸やフィルターを利用して大量に生産された甘口は、ファイネあるいはホッホファイネ・アウスレーゼの安くて手っ取り早いイミテーションとも言える。自然に成分が安定するまで2~4年かかった本物のアウスレーゼが、技術を用いて早々にリリースされるカビネットやシュペートレーゼよりもはるかに高価であったのは当然なのである。最高の価格に到達するワインは何よりも時間をかけて醸造し、長期にわたり熟成する力を持つワインなのだ。ワインにおける時間の持つ意味はまたテロワールとも密接なかかわりを持つ。しかし、テロワールの意味を本当に理解している者はほとんどいない。音楽がそれを理解する聴き手を必要とするように、テロワールを表現したワインにはそれを理解する飲み手が必要なのだ....といった具合。ヴィンテージ情報やテイスティングコメントなど、振り回されそうなほど情報があふれる今、ワインの本質に向けて腰をすえて対峙した一冊。お勧めです。
2008/02/07
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先週末の知人宅でのワイン会にて。1. アーノルド・ライック (オーバーモーゼル) 2006 エルプリング辛口ストレートな柑橘が新鮮・爽快、軽く酵母臭。快適な日常ワイン。2.60Euroは納得。822. ルベンティウスホフ (モーゼル) 2005 ウーレン、アルテ・レーベン樹齢100年を越えるリースリングの収穫を使ったもの。清楚でいながら濃厚、ミネラルの繊細で奥深い香味。883. アーノルド・ライック (オーバーモーゼル) 2006 エルプリング・クラシックまるで炭酸入りかと思わせるほど気泡が多い。淡く明るい金色、口当たりのいいややシンプルな柑橘。824. カールスミューレ(ルーヴァー) 2004 モラリス・L、リースリング・ファインヘルブ不自然に熟成が進んでいる。酸化したりんご、ナッツのヒント、繊細な酸味。10年以上熟成を経たワインなら解るが、これは問題あり。同醸造所の2004ローレンツホーファー・セレクション・アルテレーベンでも不自然なほど早く熟成が進んだ。リリースから1年位は濃厚で複雑、完熟した果実味がそそる見事なワインだったのだが。コルクの通気性か、二酸化硫黄の控えすぎか?825. P. J. キューン(ラインガウ) 2006 オストリッヒ・レンヒェン、リースリング・カビネット醸造所から郵送される際にスクリューキャップのエッジが損傷、液漏れしたボトル。液漏れ翌日なので酸化の兆候は気にならないが、アフタにかけてボトリティスによると思われる軽い苦みが弱冠目立つ。まとまりのある柑橘、グレープフルーツのヒント。806. P. J. キューン(ラインガウ) 2006 オストリッヒ・レンヒェン、リースリング・シュペートレーゼこのボトルもスクリューキャップが損傷していたそうだが、ボリューム感のある柑橘、引き締まった明瞭な張りのある酸味は見事。ただ、果実味の底にわずかながら軽く苦みが感じられる。好きな醸造所なのだが、2006は難しい年だったようだ。857. クレメンス・ブッシュ(モーゼル)2005 プンダリッヒャー・マリエンブルク、リースリング・シュペートレーゼ素直な伸びのある果実味にオレンジのヒント、ミネラリッシュな土壌の味わい。調和のとれた極めて快適な自然な飲み心地で、あっという間に空になった。モーゼルを代表するビオの造り手で、つい先日ファン・フォルクセンとともにVDPに新規加盟を許された。888. J. P. ライナート(ザール) 2003 アイラー・クップ、リースリング・アウスレーゼさらりとした広がりのある綺麗な甘み、青リンゴ、繊細なミネラル。879. カーゼル醸造協同組合(ルーヴァー) 1996 リースリング・アウスレーゼしっかりした酸味で引き締まった酒躯に凝縮感のある柑橘の果実味、クラシックなスタイルの見事なアウスレーゼ。長期熟成能力あり。90前回より問題のあるワインが多かったけれど、それはそれで興味深い会でした。
2007/07/31
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