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久しぶりの再開が
こんな形になるとは思わなかった
そのとき私は
朝の支度をしながら
友達とチャットをしていた
「今日は朝から近くで救急車が出てるの
週が開けてすぐなのに大変ね」
そんなことを話していた
まさか君が乗っているなんて
想像さえしていなくて
事故なんてのは
ほんの一瞬の出来事で
気づいたときは
もう終わっていることも多い
君は不意に出てきた車に
直進の形で衝突したらしいと聞いた
汗ばむ九州の初夏
薄手のブルゾンでは衝撃を吸収できず
君は帰らぬ人となった
会社の人がバスで通りしな
まっ二つに折れ曲がったバイクと白いヘルメット
かなり広い範囲で道路の色が変わるほど
血液が広がっていたのを見たと言っていた
慌てて駆けつけた斎場
君がちゃんとかぶっていたヘルメットのおかげで
君の端整な顔に傷ひとつなく
本当に安らかに眠っているから
実感が湧かなくて
挨拶に来た叔父が
事故がおきてからのことを淡々と話してくれた
救急車が来たとき
すでに心臓は鼓動していなかったこと
医師も救急士もできる限り手を尽くして
それでも鼓動は戻らかったということ
今朝元気に出社したのが最後だというのが
まだ信じられないと
叔父がふと 弔問客に挨拶する叔母に目を遣って
「こいつが朝になると起こすんよ
『しん、朝よ。起きんね』って起こすんよ
俺は『もう起こすな』としか言えんっちゃんね」
まだ自分も実感が湧かなくてと
ヘルメットでしっかり保護されていた
端整な顔立ちの
閉じた長い長い睫毛は
揺り起こして声をかければ
ほんとうにふるふると震えて
眉を片方上げながら
「あぁ ちょっと寝てた」
そんなことを言いながら
今にも目を開きそうで
叔母の気持ちが痛いほどわかる
事故というのは
ないにこしたことはないけれど
どんなに注意しても降りかかることもある
不幸にも運命の歯車は
交通事故という異物を挟み込んで
静かに止まった
斎場では君の棺の上を覆うようにして
彼女がずっと話しかけていたね
もしかしたら彼女とは
今日弔問に来た人と同じ顔ぶれのなかで
悲しい涙をぬぐう喪服ではなく
スポットライトを浴びてお辞儀をしながら
並んで晴れやかに
そして少し照れ笑いの
白い衣装で会えたのかも知れなかったのにね
そう思うと切なくて
また一筋涙が流れた
今月末には三十歳になると話していた
まだ若い君は
その歳にしては珍しく
300人近い弔問客に見守られながら
静かに旅立った
残った君のご両親は
しっかりと
気丈なお姉さんと弟くん
そして私たちも支えていくから
どうか心配しないで
見上げた空に
「それじゃ いきますね(^-^)ノ」
そう言うように
ジャスミンの香りの風が流れた
五月
たくさんの人に愛された
まだ若すぎる君の旅立ち
2010.5
ネット詩誌 MY DEAR
新作紹介掲載作品
主催者・島様に感謝