Laub🍃

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2012.07.08
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おれたちは、そいつの家によく遊びに行った。
よく分からない骨とか試験管とか本のタワーとか機器が沢山あって、子供心に秘密基地のようで楽しいと感じたものだった。

だけど、おれたちのうちだれ一人、そいつを家に招こうとはしなかった。

そいつよりも、親への対面が大事だった。


そいつがーよく分からない世界で生きてきた、そしてこれからも生きていくであろうそいつがー恐ろしかったせいも、ある。



中学ではすっかりそいつの変人っぷりは知れ渡っていて、唯一そいつに話しかけてる奴は物好きとして扱われていた。
変人…佐藤コウジに話しかけてる奴…田中一郎は、おれの幼馴染だった。

おれの幼馴染なのになあ。おれの一番の友達だったのになあ。

物珍しい事に弱くて、敢えて空気を読まない(のと実際の成績)でバカバカと言われていた一郎は、佐藤によく絡んでいた。

そんな一郎が羨ましくもあり、そんな一郎によくいじめられてるのを助けられた自分が懐かしくもあり、一郎を軽くあしらう佐藤が妬ましくもあり。

「でもあいついいやつだぜ?」

一郎、そいつは優しい奴じゃないぞ。

「イチロ…」
「おーい田中ー、どうしたんだ?」
「悪い、ちょっと話してて…」
「今日お前んち連れてってくれるんだろ?」
「ああ。お前んちみたく面白いもんはないけどなー」


捨てたのは自分。
なのに、どうしてここで出てくる。

だけどおれは、一緒に行くとは言えなかった。

それはあるいは、逆光のいたずらでほくそ笑んだように見えた佐藤に対する意地だったのかもしれない。

……あのとき、止めていればよかった。

そう、後から何度も後悔すると分かっていたら。




最近よく、死体が消えるとか死にかけた人が消えるとか自殺した人が居た筈なのに居ないとか、そんなオカルトな話題が出回っていたけれど、まさか俺の友人がその流れに巻き込まれるなんて、誰が思う。


……一郎は、佐藤を庇った。

あの時何故か化学室に残った佐藤。

「…あいつ、死ぬつもりじゃ…」
「一郎!?」

そこに戻っていったのは一郎だけだった。

「悪い、お前は避難していてくれ」

おれには、戻れと言って。

「あの馬鹿を連れてこないと」

一郎が馬鹿と呼ぶのは佐藤だけだった。
佐藤の妹が行方不明になってから、ことさらその傾向は顕著になった。

比例するように、一郎とおれとの距離は開いていった。


羨ましかった。
恨めしかった。
だから、田中のシャツの裾を掴んだ。
驚いたように目を丸くした田中が、じきに困ったように顔を歪める。
おれがこれまで、されなかった顔だった。
それでも言わずにはいられなかった。


「行かないで」
「……悪い」
「えっ!?」

馬鹿とさんざん罵られてはいたけれど、田中は格闘技のセンスはあった。
それをここで発揮されるとは思わなかった。



暗転、気絶、気が付いたらおれは消防士に助け出されていて、燃えていく校舎をただ茫然と眺めていることしかできなかった。

死体は発見されなかったらしい。
原型をとどめないほどぼろぼろになってしまったのか、それとも異次元に連れて行かれてしまったとかいうやつか。







あれから何年経っただろうか。未だに世界から人は消え続けている。
この世界がどうしようもなく腐っているから別世界に避難しているんだと主張する人も居る。
おれはといえば、人が消える現象の研究者になっていた。
ろくに成果のでない推測ばかりの仕事でも生計を稼げるんだから世も末。



田中は今どうしているだろう。


彼方を見詰めて、紫煙を吐いた。


to be continued...?





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最終更新日  2017.05.16 20:09:52
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