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[木曜日の創作] バトルラケッター 06
第5章 「忍者 伊賀甲賀郎」
沢は魔道士を抱いて控え室に戻った。
そこに待っていたのは涙ぐんだ相原と、シャラルド・ゲーラーの拍手だった。
沢はベンチに魔道士を寝かせると、いきなり血を吐いて倒れた。
支えたのはシャラルドだった。
バトルラケッター連続優勝者である。
「みごと! ボールはかなりの衝撃だったはず。女の身でよく闘った」
白い歯がピカリと光った。
苦労など知らないような美青年であった。
相原はタオルを持ってきて、沢の口周りの血痕を拭いた。
「出血は歯茎からだな」
いつのまにか、伊賀も来ていた。
「なに? この出血が歯茎からだと!?」
シャラルドの問いを伊賀は無視するかのように、
「見事」
それだけ言い、また控え室の奥へ去った。
「ばかな事を言う男だ。ボールの威力を知らん奴は困る...」
と言い終わる前に、まさか、沢が立ちあがるとは。
「あたし、ボールになんて当たってないわよ」
シャラルドが沢を見た。
沢のパワーグローブの指が開かれ、そこにはボールがあった。
「正確にはキャッチしたのね。うん」
「きゃ~~、すごい!」
喜ぶ相原をよそに、シャラルドはしばらく呆然としたが--
「ハハハハ。僕としたことが」
ボソリと言い残し、控え室から去った。
さて、次の第5試合は残りの3人から選ばれるわけだ。 残るは連続優勝者シャラルド・ゲーラー、忍者・伊賀甲賀郎、白金 沢である。
「まって、放送だわ」
沢の声に、相原は話を止めた。
次は誰VS誰だ!?
「第5試合はシャラルド・ゲーラーVS伊賀甲賀郎!!!!!」
沢は控え室の奥へ目をやった。
だが--
「あ、あれ!?」
そこには誰もいなかったのである。
伊賀はどこへ行ったのか!?
「見て!」
相原の差したのはテレビだ。
なんと、伊賀はすでにコートいた。
いつのまに!?
見るとシャラルドもコートに立っていた。
右手にラケット、左手にパワーグローブ。
男性用テニスウェアのような強化服を着ている。
対して伊賀は黒装束の忍者服に、背中の長剣。
「さあ、いよいよ、シャラルド・ゲーラーの登場です!」
声援がうなった。
連続優勝者にして、上流階級に属するシャラルドに会場すべてが味方している。
「さー! 対戦者、伊賀甲賀郎は何分コートに立っていられるのか!?
そして、この勝負が、事実上の決勝戦となるでしょう!!
いけ! シャラルド・ゲーラー!」
アナウンスは声援を倍増させた。
シャラルドは不敵に笑った。
「きさまに、先程の恥の代償を払って貰おう」
対峙する伊賀に対しての言葉である。
ラケットを振った。ブンと唸りが響く。
コートが囲いによって隔離された。
「代償はきさまの命だ。死んで貰おうか。下層市民!」
ボールが出現した。
試合開始! シャラルドはすでにコートの中央にいた!
「はやい!!」
沢は控え室でうめいた。
対する伊賀は--腕を組んで立っている。
「見よ! 我が必殺の...」
シャラルドはラケットを思い切り振った!
「ゴールデン・ビクトリー・ゴールデン・ボンバー・ライトフラッシュ!!」
原子炉を内蔵したラケットが轟音をたててうなった。
瞬間、ボールが--コートの横壁に弾けた。
シャラルドの左壁であった。
なんと、ボールはコートを乱反射しまくり、ボールの軌跡が光の線を引き--
レーザーに見えるのだ。
「見切れるか!? きさまに!? ハハハ~」
コート内を反射するレーザーは徐々に、伊賀に近付いていった。
このまま、伊賀は反射するボールによってボコボコにされて絶命してしまうのか?
伊賀は--まだ腕組みして立っている。
「さすがは連続優勝者! バトル・ラケッターのコートをうまく利用した、
恐ろしい技だと思う。このままじゃ」
控え室の沢も、伊賀の敗北を想像した。
「ハハハ~死ね!!」
シャラルドは勝利を確信し、後ろを向いた。
その時、伊賀の目が光ったのである!
「未熟」
その言葉はシャラルドを振り向かせた。
観客席から、控え室から、驚愕の叫びが生まれた。
そこには--背の長剣、日本刀を抜いた伊賀がいた。
そして...
「バ、バカな、そんな!」
なんと、その日本刀の切っ先に、ボールが静止していたのだ。
切っ先からボールがポトリと落ちた。
先程までの反射レーザーは夢だったのか。
「み、見ろ!!」
観客が叫んだ。
なんと--シャラルドの眉間に深々と黒鉄の手裏剣が刺さっていたのだ!
シャラルドは立ったまま絶命していた。
会場は静まり返っていた。 シャラルドが--死んでしまうとは--あの連続優勝記録保持者が。
「け、決勝戦を行います...白金 沢VS...い・・伊賀甲賀郎!!!」 アナウンスも驚愕していた。
「よろしかったのですか!?」
どこかで、黒いスーツの男が聞いた。 その問いに、黒い椅子が答えた。
「よい」
控え室で、沢は伊賀甲賀郎の技を見た。
いや、見えなかった。
手裏剣はいつ投げたのか!?
沢は伊賀の底知れぬ実力に戦慄を覚えていた。
背筋に冷たい汗が流れている。
「沢さん...」
相原が、そんな沢の心理を知って声をかけた。
恐い。
恐かった。
沢は伊賀に恐怖を覚えていた。
行ったら殺される。
その時、沢に声がかけられたのである。
「お嬢さん、奴も人間だよ。あんたなら勝てる。
わしに勝ったんじゃからのう。ホッホッホ...」
ベンチに座った魔道士の言葉であった。
その声は親の言葉のような暖かさと、強さをもっていた。
「おじいさん...」
沢は笑った。
踏ん切りがついたのだ。
覚悟がきまった。
「勝ってきます!」
沢は魔道士と相原に挨拶した。
そうだ。
あたしはあの子達の無念を晴らしに来たんだ。 相手が誰だろうが関係ない。
優勝しなきゃ!!!
沢はコートに立ち、自分に言い聞かせた。
目の前に伊賀甲賀郎がいる。
沢にはわかった。
彼から発する不気味な殺気が。
だが、負けられない。負けられないのだ。
「では、優勝決定戦を行います。白金 沢VS伊賀甲賀郎!!」
コートを囲いが覆い、ボールが出現した。
試合開始だ。
先にボールを手にしたのは沢だった。
伊賀は...また、両手を組んで立っていた。
これではシャラルド戦と同じではないか。
どうする!?
ボールを使った攻撃ではシャラルドの必殺技 反射レーザー以上の事はできない。
また、それさえも伊賀には通じなかったのだ。
「やあっ!」
裂ぱくの気合。
やるしかなかった。
ボールを宙に上げ、思い切りラケットを振り抜く!
テニスのスマッシュだ。
同時に沢は走った。
伊賀がボールを処理する時がチャンスだ!
だが、伊賀は...なんと立ったままであった。
超威力のボールは閃光のごとく伊賀へ。
命中するその瞬間、なんと、伊賀は回し蹴りでボールを打ち返したのである!
「な!?」
隙を狙った沢だが、まずい、隙ができたのはこっちだ!
伊賀が日本刀を抜いた!
伊賀の目前まで走りこんでいた沢に...。
控え室に悲鳴が響いた。
相原の悲鳴だった。
なんと、テレビに...脇腹を日本刀で貫かれた沢が表示されているではないか!
背に抜けた白い刀身を伝わって血が床にたれる。 沢は負けた、いや、死んだのか!?
「見事」
いや、なんだ!?
伊賀の体から白煙が立ち昇り--コートに倒れたのは伊賀であった!
コートに立っていたのは右脇腹に日本刀を刺された沢だったのだ。
「ー偶然だわ...」
脇に日本刀を刺された時、偶然に前に出したラケットのスパーク部分が伊賀の腕に当たっていたのだ。
瞬間、伊賀の体に原子力発電のパワーが流れこんだのであった。
伊賀は失神していた。
控え室で目を覆う相原に、魔道士ラーソーサはやさしく声をかけた。
「勝ったよ。沢嬢ちゃんが」「え!?」
アナウンスが叫ぶ。「優勝者!! 白金 沢~~~~!!!!!!」
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