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2023.01.18
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梅雨の走りになって、買い溜めする買物客も多いのか、
向いの八百屋からは威勢のいい商い声が聞こえて来るが、
骨董を並べる清六の店には、客らしい客も無かった。

京造りは間口が狭い上に奥行が長いので、奥の土間は暗
かった。おしめ等を洗っていた咲代は、ふと、その手を


「あんた?---お客はんらしいえ。」
「うん」
生返事だけで、出て行きそうにもない。夫の居るだろう
見当に顔を向けて、
「あんた!お客はんと違うかて言うてますのに・・・?」
「うん、今行く」

言葉数は増えても調子は同じであった。ほんに仕様のない
人という素振りで、前掛けで手を拭き拭き、咲代は店に出
て行った。が、直ぐに戻って来た。

「確か、ことっと音がしたのに、誰も居やはらへんわ。も
う、今日で三辺目え。けど、あんなもん盗みに来る人もあ
れへんやろな。」

と言われて、
「何言うねん!店に出したアるもんには、一つ拾万円からす
るもんかてあるのんや。商売もんに何ということ言うのや、
ほんまに、えらい女房もろたもんや。」

「へえ、えらい女房で悪おしたね。あたしが居いひんかった



どうですと言わんばかりの目を夫に向けてから、咲代は背中
の末子の寝顔を見ようと、体ごと首を捩じった。首に力が入
るから、口がへの字になる。それが清六の癪に障った。


「お前が居いひんかったら、この子も出来へんかった筈や。
ほんまによう産む女や。」
「あたしに産ました人は、あんたどすやろ?・・・ほれほれ、
ひどいお父さんやなア、かわいそうに、かわいそうに。」

そんな言葉を残して、咲代はまた洗濯にかかった。この末子
で七人目であった。もうこれ以上はーーーという意味で、末
子と名付けたのである。

清六は、元来、のんき症で、父から
土地等の不動産を譲り受
けていることは、一層、彼を暢気に
した。

それに清六は古いものが好きで、惚れ込んで貰った咲代が、
年々古女房になっていくのに、内心安らぎを感じているので
あった。

また、古道具屋という商売も、いわば彼の趣味道楽に近
かっ
た。毎朝古めかしい品物に、一つ一つ叩きをかけること
が、
彼の生き甲斐であった。


で読み耽っていて、店番もルーズになっていた。

しかし、今
はとっさの直感から、彼は店先に飛び出た。

棚の一番手前にあるべき布袋の置物が無くなっていた。今朝、
いつになく荒っぽく叩きをかけて、その出っ腹から音がした
ので、よく覚えている。

清六は、やられたと思った。盗んだ
者も憎かったが、気の緩
んでいた自分に腹が立った。


仏像だの、甲冑だの、鏡台だの、櫛だの、等身大の人形だの、
骨董ものでゴタゴタした店先であるだけに、ぽっかり空いて
しまった棚の隅の空間が、淋しかった。
・・・・清六の肩が落ちた。咲代が後ろに来て、じっと見守
っているのも知らなかった。

盗まれた布袋の銅像は、値打ちものではなかった。たゞ、その腹の丸みが、他の布袋のものより秀でていた。

黒艶のある豊かな腹の丸みに、清六は一家の安泰を託していたことに、この時、初めて気付いたのであった。

それから、そばに妻の居ることに気付いた。淋しげで虚ろな
彼の目と、それを慰める咲代の目がしばし無言の語らいをし
た。
 そこへ、老紳士が入って来た。咲代は奥へひっ込んだ。老
紳士客は、やヽ大きな武者人形に目を付けたようであった。

色褪せているにも拘わらず、その人形を見つけてくれた老紳士を、清六は有り難く感じて、揉み手をしながら、したり顔で上客に接した。

盗まれた布袋のあった場所は、やはりぽかんと空いた侭で淋しかった。・・・<昭和44年6月20日作>





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Last updated  2023.01.18 08:25:58
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