おしゃれ手紙

2007.03.21
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テーマ: お勧めの本(7506)
カテゴリ: 昭和恋々

階下の奥の六畳、秋になるとなまめかし匂いの花をつける、金木犀の木が見える窓のある部屋だった。
早朝だったから、父も姉も兄も、みんな家のいて私の誕生を待っていたという。
たぶん、私の弱々しい産声は、その瞬間、血を分けた家族みんなの耳に聞こえたはずである。
幸福な誕生だと思う。
いまのように病院ではなく、家で生まれる幸せだと思う。

長年気になっていることが一つある。
私を取り上げてくれた産婆さんというのは、いったいどこの誰だったのだろう。
その人は今どこで何をしているのだろう。
今も元気にしている、九十八歳の老母に訊ねても当たり前のことのように忘れたと言う。
私を初めて生の世界へ連れ出してくれた人を知らないということが、私にはなんだかとても不思議なことのように思われてならないのである。
ようやう明るくなりはじめた半世紀前の阿佐ヶ谷の町を、一仕事終えたその人が、トコトコと帰っている後姿が見えるような気がする。
「昭和恋々」久世光彦

私は、岡山の実家で生まれた。
戦後まもない当時は、そのことが当たり前だった。

その家は、父と祖父が、建てた家だった。
1912年生まれの父が、17歳の時のことだからもう、100年近く前のことだ。
古い家を移築したのだから、200年はたっているかもしれない。

その家で、父の妹、トシ子と祖父が死んだ。
その後、父と母が結婚式をあげたのもその家だった。
その後、私が生まれた。

あの家にとって、私は、はじめての子どもだった。

その時、父は、母は、祖母はどんなに喜んだことだろう。

家は、人の死と結婚と出産によって、「聖なる家」となるという。

私が生まれたことによって、あの家は、聖なる家になったのだ。

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Last updated  2012.03.21 20:41:59
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maki5417 @ Re:アット・ザ・ベンチ★定点(12/24) 思い出ベンチ 井の頭公園にもあります。 …
七詩 @ Re:聖☆おにいさん~ホーリーメン VS 悪魔軍団~★ギャグ満載(12/23) イエスと仏陀のギャグは昔花とゆめという…

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