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2026.02.28
他人の経験にケチをつけるだけの人たち
テーマ:
戦争反対
カテゴリ:
戦争と平和
湯川れい子氏、終戦時9歳は「戦争経験に入らない」の声にあきれ…「あなたは何が言いたいのですか?」
作詞家で音楽評論家・湯川れい子氏(90)が23日に自身のX(旧ツイッター)を更新し「戦争の経験」を巡り自身の考えをつづった。
一部ユーザーが、湯川氏が終戦時に9歳だったことを受けて「戦争経験には入らない」といった内容をポスト。これに湯川氏は「貴女は何が言いたいのですか?と言うより、頑張って何を主張なさりたいのですか?」と投げかけた。
「私は8歳の時に、疎開していた山形の米沢市で、昼間、道を歩いていた時に突然、空襲警報が鳴り響いて、見上げたら頭上にアメリカのB29が一機。急に高度を下げて、操縦桿を握る兵士のブルーの眼が見えたように思える距離まで降下。機銃掃射を受けて、塀の蔭に隠れたことがありました。それも戦争体験としては、ずっと悪夢として記憶して来たものですが、これだけでも充分です」
また「戦争で私をめちゃくちゃ可愛がってくれていた軍人だった父を見送り、18歳上の長兄がフィリピンで戦死。姉の婚約者が戦地で玉砕。と、まともに戦争を体験しています」と壮絶な半生を振り返っていた。
---
どう見ても、自身はまったく戦争体験がないであろう人間が、戦争末期、9歳の時に機銃掃射を受けた経験を語る湯川氏に対して「戦争経験には入らない」とか、あんた何様という感想しかありません。
更に、これとは別人と思われますが
---
多田 将@sho_tada
---
こんなことを書き散らすトンデモも現れる惨状です。
確かに、湯川氏がB29と書いているのは勘違いで、小型の空母艦載機(F6F、F4U、アベンジャー雷撃機、ヘルダイバー急降下爆撃機など)かB29の護衛戦闘機P51などである可能性は高そうです。が、どう見ても兵器に関心など薄そうな当時9歳の女の子が、敵の飛行機の正確な機種を把握できないことに、何の不思議もありません。
ちなみに、最初引用文で示しているように、湯川氏は「操縦桿を握る兵士のブルーの眼が見えた」とは書いていません。「~眼が見えたように思える距離まで降下」と書いています。本当に見えたなどとは言っていないのです。
ただ、戦時中米軍機の機銃掃射から逃げ回った経験のある人は大勢いて、その中に「敵のパイロットの顔が見えた」「目が合った」等の証言をする人は大勢います。何を隠そう私の亡父もそうなのです。疎開先の近くに化学工場があって、そのために小型機の機銃掃射にあったことがあるそうです。父は敗戦時小学4年でした。
聞いたのはかなり前なのでうろ覚えですが、父もその時、敵のパイロットの顔が見えた、と言っていたような記憶があります。もちろん、「本当に見えたのか」なんてことを追求するのは意味のないことです。だから、仮にもし「パイロットの眼が見えた」と書いていたとしても、それは誇大表現でも「盛りすぎ」の表現でも何でもないのです。事実としてそうだったかどうかはともかく、そのように感じた経験のある人は、大勢いたのですから。
そして、湯川氏が遭遇した飛行機は、確かに実際はB29ではなく小型の戦闘機等を誤認した可能性が高いのですが、では、本当にB29である可能性が「絶対に」ないかと言えば、そこまでの断定はできないのも事実なのです。可能性は低いけど、絶対ではない。
一連の議論を見ていて驚いたのですが、B29は高高度爆撃機だから、低空で機銃掃射なんかしない(だから湯川氏がB29に銃撃されたのは嘘だ)、なんてヨタ話を開陳する「ミリオタ」が少なからずいることです。
B29が地上を機銃掃射した話はたくさんあります。
確かにB29は、排気タービン(ターボチャージャー)を備え、高度1万メートルでも飛行性能がほとんど落ちない高高度爆撃機として開発されました。当時日本陸海軍の航空用エンジンは、高高度性能が大きく劣り、高高度を飛ぶB29の迎撃に極めて苦労していました。日米の圧倒的な工業力、技術力の差を象徴するエピソードとして知られています。
が、実はB29が戦略爆撃機として猛威を振るったのは、高高度爆撃によってではありません。当初は高高度爆撃によって軍需工場を爆撃したのですが(最初は中国の成都から北九州の八幡製鉄所等を、サイパン占領後はサイパンから東京・武蔵野の中島飛行機武蔵野工場を集中的に爆撃した)思ったほどの効果を上げることはできなかったのです。
理由は単純。高度1万メートルからの爆撃では、当時の無誘導爆弾ではどう頑張っても正確な着弾など不可能だったからです。しかも東京への空襲は44年後半からの冬場です。偏西風が吹き荒れる冬の日本上空では、なおさらそうだったのです。
このため、B29の部隊第20航空軍の司令官ハンセル准将は更迭され、後任として着任したのが、言わずと知れたカーチス・ルメイ少将です。
彼は作戦を一変させて、B29を昼間高高度爆撃ではなく夜間低空爆撃に投入します。その最初の作戦が、3月10日の東京大空襲でした。
・・・・・という話は非常に有名なエピソードであり、少なくともB29とか日本空襲について関心があって、それについて意見を述べようという人ならみんな知っていることだと思っていたのですが、そうでもなかったのでしょうか。
さて、その3月10日の東京大空襲は、高度2000m程度(さらに低い高度の機もあったと思われます)の低空からの無差別爆撃でした。この時のB29は、機体を軽くして少しでも燃料と焼夷弾を多く積むため、防御機銃のほとんどを撤去していました。が、すべてを撤去していたわけではなく、尾部銃座だけは残されていました。この、尾部に残された唯一の機銃座から地上を銃撃していたことは多くの証言があり、そのため
Wikipediaの「東京大空襲」の項目
にも「一部では爆撃と並行して旋回機関銃による非戦闘員、民間人に対する機銃掃射も行われた」と記述されています。(出典は奥住喜重、早乙女勝元『東京を爆撃せよ : 作戦任務報告書は語る 東京大空襲の本当の標的 (ターゲット) は何だったか?』157号、三省堂)
これもまた有名なエピソードだと思うのですが、やはりB29や本土空襲について語ろうというのに、それを知らない人が多くてびっくりです。「湯川氏は無知だ」というあんたたちの、本土空襲についての知識は、他人を誹れるほどのものかね、と思ってしまいます。
ともかくも、この3月10日の東京大空襲以降、B29は頻繁に低空爆撃を行うようになりました。当初は本革の迎撃を警戒して、低空爆撃は夜間のみでしたが、このころを境に日本の防空戦力は衰微して、低空でもB29の脅威にはならなくなります。このため、B29は、次第に昼間であっても低空爆撃を行うようになってきます。そして、B29から機銃で地上掃射していたことは、
米側の記録にも残っています。
何しろ、米側調査によると、日本上空に到達したB29が1機あたり接触した迎撃戦闘機は、1945年1月には7.9機もあったのに、3月には03機に減り、7月には0.02機しかありません。つまり、1月には10機のB29が日本上空に到達すると平均79機の日本軍戦闘機が迎撃してきた(それでさえも、B29を撃墜するのは非常に困難でした)のに、3月には迎撃機は3機に減り、7月に至ってはB29が50機に対して迎撃機が1機です。それに伴い、日本上空で損傷したB29の割合は、45年1月には3割を超えていましたが、7月には5%にも満たない割合まで減りました。しかもその大半の原因は対空砲火でも迎撃戦闘機でもない、つまり「事故」によるものです。対空砲火や迎撃戦闘機による損傷(損失ではありません)は、1%程度しかありません(データは草思社「米軍が記録したと日本空襲」P96-97)。
米軍はもはや、好きな時間好きな高度でやりたい放題に爆撃できる状態となっていたのです。
というわけで、「B29は低空飛行なんかしない、地上を機銃掃射なんかしない。だから湯川氏はうそつきだ」という言い分は間違いなのです。
さて、では実際に湯川氏が遭遇した機銃掃射は、いつ、どのようなものだったのでしょうか。
上記のような留保はありますが、それを考慮してもやはりB29ではなく小型機による機銃掃射であった可能性が高いと思われます。
湯川氏か戦時中に疎開していた米沢が空襲を受けたのは、記録されている限りでは45年8月9日の1回だけのようです。そのときの日米双方の戦闘記録が発掘されています。
市立米沢図書館の歴史
(8月)9 日、アメリカ軍グラマン戦闘機が飛来し、南原大平付近に爆弾を投下、また広幡京塚地域にも爆撃があり、日誌にも「米沢初空襲」の記載が見られます。
---
新潟歴史双書2『戦場としての新潟』
アメリカ海軍の記録によると、この日の昼にも新潟攻撃が計画されていた。午前九時三十分、牡鹿半島東二五〇キロメートルの海上にあったアメリカ海軍空母「ワスプ」からヘルキャット八機、コルセア四機が発進した。これらの艦載機は、空母「ヨークタウン」・「シャングリラ」から飛び立った艦載機とともに、新潟飛行場や米沢市(山形県)八幡原(はちまんぱら)飛行場を攻撃するために出撃した。この艦載機は米沢市付近を攻撃したが、新潟市へは飛来しなかった。
---
上記の
「アメリカ海軍の記録」はこれのようです。
ミッションとして新潟、米沢、米沢東部の一掃とあり、空母ワスプからF6Fヘルキャットが12機(うち2機は(P)と記載がある写真偵察機型)とF4Uコルセアが4機発進したことが分かります。
可能性としては、湯川さんが経験したのはこの空襲の際の出来事だった可能性が最も高そうです。
ただし、それ以外に可能性がないかとというと、そうでもありません。米沢が空襲の目標になったのはこのときだけですが、米軍機が他の都市への空襲の途中で米沢上空を通過した事例は、おそらく他にいくらでもありそうです。その中で、降下して地上を機銃掃射、なんて事例は数多くったはずですから。
攻撃対象は記録が残っていても、飛行経路まで全部記録が残っているわけではないので、もはや検証のしようもありません。
「ありそう」と思えるものは、まず同じ
山形県の酒田市に対する空襲
です。米沢空襲の翌8月10日に、空母レキシントン、ベニントンから47機の艦載機が飛び立ち、酒田市を空襲しています。太平洋上の空母から、東北地方を横断して日本海側の酒田を空襲しているので、その往復で米沢上空を通過して、そのうちの1機が気まぐれに低空に降りて機銃掃射はあり得ないことではあません。
続いて7月14日と15日の青森函館間の青函連絡船に対する空襲です。これも艦載機によるものです。青森はこの後7月28日夜にB29の空襲を受けていますが、これは夜間なので湯川氏の経験には当てはまらなそうです。
更に
仙台や石巻への空襲
です。仙台は東北の大都市だし、石巻は港湾があるので何度も空襲を受けています。日中の空襲は艦載機によるものがほとんどで、B29によるものは多くが夜間だったようです。
更に、新潟。
主に港への機雷投下が多く、夜間が大半ですが、日中のB29の飛来も、5月25日、8月4日、そして敗戦の日8月15日にも各1機ずつ記録されています。
もし、湯川氏が経験したのが本当にB29の銃撃だとすれば、このいずれかの復路で出来事である可能性はあります。ただ、確率的にはかなり低いのかな、とは思います。
もっとも、大戦末期の日本の空は、米軍機が縦横無尽に飛び回っている状態でした。その中には、とんでもない飛行ルートを取ったものもあります。
3.10東京大空襲に参加したB29のうち、所属部隊も異なる3機が、何故か東京から300km近くも北方の蔵王連峰不忘山に墜落しています。原因はまったく分かっていませんが、公式にはそんな場所を通過する攻撃計画があったことは明らかになっていません。そのくらい飛行経路は(編隊を組む往路もかく復路は)バラバラだし、米側にも日本側にもそんなものの記録がすべて残っているわけもありません。従って、もっととんでもない場所を攻撃した機体の復路での出来事だった可能性も否定はできません。
結局、特定は不可能なのですが、可能性はやはり8月9日の米沢空襲がもっとも高いでしょうね。
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最終更新日 2026.02.28 19:05:56
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