Rock's cafe

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November 23, 2004
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「冬のショパン」は、初めから終わりまで、一人の少年の目を通して描写される。少年が難しいことを考えたり、難しい比喩表現や描写を用いたりするのは不自然であるので、この小説も平易な文体で貫かれており、読者はそれにつられて知らず知らずのうちに少年と同じ目線で物語を見る(その過程でいくつか作者の罠にまんまとはまることとなる)。物語自体としては、主人公と、その家族と、隣人たちとの交流を描いたもので、ストーリーが進むうちに二人(ジャ・ジャとマーシー)が消えてしまう。読者はその描写を通じて、この小説を読了した後に淡々とした切なさを覚えるが、もう一度読むと、スチュアート・ダイベックは一つとしておおっぴらにそれらを語ろうとしないが、この小説の中で何気なく語られる一つ一つの小さな事件が、実はしっかりと歴史を踏まえ、意義を持っている事に気づく。

まず、舞台となった「シカゴ」という街は、作者の実際に生まれ育った都市であると共に、またの名を「風の街」と言って、この物語に登場する人たちも、風のように都市を通り抜ける移民たちである(ジャ・ジャは、最もその性質を色濃く反映する事となる)。また、地縁的つながりのない人たちが同一住居に集い共同生活を営むというのは、都市そのものの性質とも言える。「冬のショパン」は自伝的少年小説とともに、この時点で都市小説でもある。

また、人物別の分析をすると、主人公の母は戦争で夫を無くし、その傷跡を気丈で隠しながらもしっかりと残している。ジャ・ジャは典型的な19世紀末の東欧移民で、色んな職を転々としながら、そのショパンへの知識の深さには、本人がいうようにきちんとした家の出だということの裏づけが見られる。また、そうとすれば、ジャ・ジャの流浪の背景には19世紀末から20世紀前半にかけての東欧の運命が垣間見られるだろう。また主人公の母は、やたら子供たちの丁寧な言葉遣いにこだわっており、シャーリーの家でバブーシュの最後の「黒んぼ」発言は、シャーリー家と主人公家に大きなショックを残している。時代的背景を考えれば、まだアメリカの人種差別が激しかった時期であり、一応白人に属する彼らが過敏とも思えるこだわりを見せるのは、最初にこの小説を読んだ時のぼくに違和感を与えた。しかし少しアメリカの歴史を勉強すれば、白人だからといって、アメリカで同一の扱いが受けられるわけでは決してないことを知ることが出来る。

「シカゴ育ち」でこの小説の前に配置されている「ファーウェル」という短編の中では、ロシア移民の「先生」が悪ガキのイタズラに真剣に過剰に怯えたり、ロシア語書店を開くと爆弾が届いたりするエピソードがあるが、その背景には明らかに冷戦期の東西対立が存在してるのであり、社会主義諸国では国家による迫害が堂々とまかり通っていたのは周知の事実であるが、「自由主義陣営」に属する国、その代表格のアメリカでも「敵対陣営」側からの移民は偏見の中で暮らし、その視線の元で彼らが黒人差別に対しても敏感に反応するということが読み取れる。

一方で、マーシーというのは、主人公と、その親の間に位置する世代であり、その客観的情報はこの小説の中でほとんど提供されることがないが、少ない記述の中からぼくは映画「フォレストガンプ」のヒロイン・ジェニーの姿が彼女と重なると考える。「フォレストガンプ」の中では知的障害を持ちながらも純粋な心で次々と成功を収め、戦後アメリカの表舞台を歩んで行くガンプと対照的に、美人で聡明なジェニーはプレイボーイ掲載で女子大を中退,場末のステージでヌード,マリファナ,ヒッピー,ラブ&ピース,自殺未遂と常に裏の世界を歩み続ける。貧しい移民世帯の一身の期待を背負って奨学金をもらいながら大学で音楽を学びながらも、「反抗の世代」に位置する彼女はまるでそうするしかなかったかのようにその期待を最後まで裏切り続ける。小説の末尾で、黒人街に住み、自分の子供にジャズピアニストの名前をつけるマーシーと、それを一度見に行って二度と行かなくなったミセス・キュービックには興味深い差異が見られる。豊かでない移民階級に属し人種差別に敏感でありながら、それでも期待された自らの娘がこのような境遇にいることを面白く思わない母親の保守的な一面と、その母親の勧告や制止を一切振り切り、自分らしさを貫くという外観ながら、実際そこには何か深い思慮というよりも、否応なく時代の渦に飲み込まれている娘の姿である。特に自らの身分に誇りを持ちながらも、どこか自分の娘には上流階級への道を歩んで欲しかったと創造されるミセス・キュービックの造形は、この小説に深みを与えている。

ショパンで結び付けられたジャ・ジャとマーシーは、共に「消えるべきして」消えてしまう。周囲の人々はそれによって少なからず影響を受けながらも、「それにもかかわらず」生活を続けていく。その中で少年の「僕」がだんだんと成長してゆく。「冬のショパン」、たくさんの些細な出来事と、その背後に存在する歴史的事実を丁寧に織り込み、物語自体が単一の流れの方向を維持しながら、多重的な理解が可能となる作品である。






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Last updated  November 24, 2004 12:28:24 AM
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