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2026.01.22
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カテゴリ: ショート小説





祖母の家には、音の出ない家具が多かった。
テレビは壊れ、時計は止まり、風鈴だけが夏に鳴った。
その中で、居間の隅に置かれた一脚の椅子だけが、なぜか存在感を放っていた。


背もたれに手を置くと、木はすべすべしていて、長い時間、誰かに撫でられてきたことが分かる。
私はその椅子に座るたび、理由のない安心感を覚えた。


「それはね、おじいちゃんの椅子なの」


祖母はそう言って、笑った。


祖父は几帳面な人だったらしい。
新聞は必ず四つ折り、湯呑みは決まった位置。
そして毎朝、その椅子に座り、黙って外を眺めていたという。


祖父が亡くなったあとも、椅子だけは処分されなかった。
壊れてもいないし、高価でもない。
ただそこにあるだけなのに、誰も動かそうとしなかった。


ある冬の日、祖母はぽつりと言った。


「人ってね、立ってる時間より、座ってる時間の方が本音が出るのよ」


その言葉の意味が分からないまま、私はまた椅子に腰を下ろした。
背中を預けると、ぎしりと小さく鳴った。
まるで「ちゃんと覚えてるよ」と言うみたいに。

数年後、祖母の家を引き払うことになった。
家具は次々と処分され、最後に残ったのがその椅子だった。


持って帰る?と聞かれ、私は迷わずうなずいた。


今、その椅子は私の部屋にある。
仕事に疲れた夜、スマホを置いて座ると、不思議と呼吸が整う。

椅子は何も語らない。
でも、そこに座った人の時間だけは、静かに蓄えている。

私は今日も、少し背筋を伸ばして腰を下ろす。
誰かの記憶に守られるように。





あなたにとって思い出の椅子はありますか?





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最終更新日  2026.01.22 00:18:09
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