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2012年02月01日
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 第6回ヘーゲル「イギリス選挙法改正法案について」
  (第四章 統治権力の分立 最終章)

ヘーゲル『政治論文集』(下 岩波文庫)から「イギリス選挙法改正案について」を読んできました。ヘーゲルは1831年11月14日にコレラで亡くなりますが、これはその7ヶ月前の最後の論文です。

 第四章「統治権力の分立」、最終章です。
その前に、これまでの章を簡単に振り返ってみます。
ヘーゲルは、第一章では、イギリスの当時の議員選挙が、一方では2,3人しか住民のいない村で議員を出す既得権があったり、他方新興の都市で十万人以上の人口をもつようになりながら議員を出せない都市があったりと、現行の選挙法の不合理さをさまざまに明らかにして、この選挙法の改正が避けられない必然性をもつことを明らかにしています。
第二章で、イギリスの社会には、教会の十分の一税や、領主権、狩猟権など、他のフランスやドイツではすでに廃止されたものが、封建制の特権の遺物が生きている。こうした特権を廃止することが福祉の向上と本質的自由の基盤とみなされると。
第三章でヘーゲルは、この改正法によって下院はどう変わるか、2,3の予見を紹介しています。現状に制度が合わなくなっている。そして憲法の欠陥は容易に除去できるとしています。当方はこの点で洞察と、実際に変える力について批判しておきましたが。
ヘーゲルは新しい議会が出来るだけで従来より良くなる保証はないと指摘し、議会に求められている改革について、村型の選挙、買収選挙、棄権の多さ、選挙資格の所得による制限などの課題をあげています。

 もちろん、ヘーゲルはここに紹介したようには、問題をストレートには論じていません。
しかし、そうした問題意識をもって、議事録や新聞などの客観材料を駆使して論じようとしていることは確かだと思います。

 さて、今回の最終章の第四章「統治権力の分立」です。

この主題は、イギリスにおいて、今般の選挙法の改正は、議会と君主との関係に対して、一般に統治権力に対して、どのような影響を及ぼすか、です。

(その前にちょっと寄り道して、金子武蔵氏の解説からの予備知識です。
じつはこの第4章は、新聞(官報)へ掲載することが禁止となったそうです。個人的に配布するのは認められたということですが。
ヘーゲルの論文がプロシアの官報に掲載されたのは1831年4月27日から29日とのこと。論文の掲載された時点というのは、イギリス議会の波乱な選挙法審議のさなかです。
改正法案が下院の第二読会を通過したのは1831年3月22日。賛成302票、反対301票のたった1票の差だったそうです。つづく下院の本会議は紛糾して収拾がつかなくなり、4月23日には国王が出てきて議会は解散され、総選挙となったそうです。
総選挙の結果は、改正推進のホイッグ党が大勝して新しい局面が開かれましたが、執筆しているのは紛糾し解散したころです。その先には、保守・トーリー党の影響の強い上院での審議もあります。
ようするに法案は立ちふさがる多くの困難の中を進められていたということです。
この法案提出者がホイッグ党のグレー内閣で、その反対者がトーリー党首領のウェリントン前首相とのこと。論文の中にたびたび発言が紹介される両氏ですが、二人はそうした関係です。)

さて、本題です、
選挙法の改正は統治権力にどのような影響をあたえるか?

1、P223 ウェリントン公は「現在議会で公共の利益に対する配慮を任されている人々にとって代わって、まったく新しい他の人々が登場してくることになるだろう」として、憂慮していますが、ヘーゲルも同じ動向を認めますが、評価は逆です。
P225 これまでの階級の関心とは正反対の、思いも及ばない理念が出てくることになる。
「この理念たるや、1.実質的自由の基礎を形作り、2.前述の教会財産、教会組織、聖職者の諸関係や領主権をはじめ、そのほか封建的関係より由来している珍奇な権利や財産の制限、さらに、3.まとまりをもたないイギリスの法律に、影響を及ぼさないではいられない」と。
その理念は「フランスでは行き過ぎた暴動と結び付いたが、ドイツではすでに以前に内面的信念と世論の確固たる原理となり、封建的な権利関係の現実的、平和的、漸進的、合理的な改革を生み出している」と。
(ヘーゲルは、理念の役割を大きく見るし、プロシアを理想化しすぎてますが)
P226 これに反して、「これまで統治権力が特権階級の掌中に握られていたイギリスでは、これらの原則が統治権力により採用され、実現されることはなかった。このために人々は、もっぱら統治に対する反対者、現行秩序に対する反対者として登場し、これらの原則はドイツのように具体的実際的に適用」されてこなかったと。

2、P227「新しい要素により破壊されるものは、ひとり国政を掌中に握る連中が属する階級だけにとどまらない、統治権力もまた脱線してしまうであろう。」
(ヘーゲルは君主権にゆだねられていた裁量が議会に移ることを『脱線』と評価しています。それを逸脱のように見るところにヘーゲルの君主制への考え方があります。)

しかしその対立は深刻な闘争にはならないとヘーゲルはみています。P230フランスの場合は、「統治権力が国王とその内閣に属すべきかどうかが問題になり、蜂起した民衆の反乱と暴動とによってはじめて決定的で確実な解決が得られた事柄も、それはイギリスの国家支配の状態においては遥か昔に解決してしまっている。以前から議会が統治権力を持っている。それゆえに選挙法改正法案の改革も、議会の内にすでに確定してしまっている統治権力をどのようにして有効なものたらしめるかという問題に関係するにすぎない」と。

3、P231 選挙法の改正は、野党の性格をかえることになる。
「これまで状態では、この統治権力はただ内閣の交替としてあらわれる表面的な動揺にすぎなかった。」「それはいまや従来の社会体制を維持してきた階級が、新しい人間の進出と異質な原則の導入とによって変化をこうむることは間違いない。」
 「これまで特権階級の人々が、実質的自由の諸権利に対処してきたのは、その特権を保証してきたのはただ単にポジティーブな法という原理であり、それに対して選挙法改正法案は従来の社会体制の基盤を侵害するものだからである。」
 ここで「ポジティーブ」といっているのは、肯定的・積極的の意味ではなく、独断的なといった、現に存在する非合理的なとの意味です。
 これまでの野党は、フランスを例にすると、内閣に入ると、従来の野党の主張を捨てて前任者とほとんど同じような基準に従って行動するようになる。「多くの人々が内閣の職務に就くと、それまでの野党の主張に対して不忠実になって帰ってくる」と野党の機関紙が不満を述べているというのです。

 今の日本で見ているのも、ズバリこの実例にあたりましょう。

 そしてここで問題になっているのは、「今や彼らは統治するということが実際いかなるものであるのか、そして統治にはただ単なる諸原理より以外のものが属するものであることを学ぶのである」と。

P232 イギリス憲法の性格のうちには、政府が社会生活の特定の範囲について、すなわち州や都市などの行政について、教会組織および教育組織について、さらに道路工事のような公共事業について、可能なかぎり干渉しないということが存在している。これまでの制度のもとでは国会議員も一般人もそうした表象をもっていた。選挙法改正法案の反対者たちは、こうした市民生活の状態が自由であるためには、自由の形式的原理を下層階級のニューリーダーたちが受け入れるのは時間の問題だ、政権に就けば自分たちと同じことをやるはずだと言っていると。

 最後に、ヘーゲルの結論部分の要約ですが、
P233 選挙法改正が、これまでの体制とは正反対の諸原則を、統治権力の中心である議会に入れることになる。そうなれば、実定的な特権がもつ利益と実質的自由の要求との間で対立が鋭くなる。他の国家では、以前の実定的な権利にもとづく立法から、実質的自由の原則に基づく立法への移行を、それが動乱、暴動、掠奪をまったくともなうことのない移行を、君主権の要素が持つ力に負うていたが、イギリスでは君主権が無力だから、その闘争をおさえたり、和解させたりする中間的なものがなく、その闘争は危険なものになる、と。
君主権を除き、それに代わりうる他の権力と言えば、国民だろう、と。

最後に感想ですが、ヘーゲルの論文「イギリスの選挙法改正案について」は、当時のイギリス社会の動向を知る上でも有益でした。新たな理念・原則が現れてきていることを考察し、危惧を感じつつもそれを評価していることもわかります。
ヘーゲルの特有の思想や考え方を知る上で、批判すべき点もありますが、全体として得るものが沢山ありました。イギリスやフランスの歴史をよく調べていることを感じます。ヘーゲルの面白い側面を示しています。なかなかの秀作な時事評論として読めました。


 以上で6回にわたりましたが、この論文の学習は終了です。
 終わりまでこれて、やれやれ、何よりです。






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Last updated  2012年02月11日 20時42分52秒
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