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2017年01月10日
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大岡昇平『俘虜記』を読む

私は、戦後の文学について、ほとんど読んだことがなかったんですが。
私などの憲法観ですが、それがなんとなく自然に与えられた感覚があるんですが、
これは、日本の歴史認識にかんする空白によるものなんですね。
前回の梯明秀著『戦後精神の探究』(勁草書房)などを読んで感じます。

それで、少しずつでもその空白を埋めようということで、
何か日本の先の戦争体験を記録した文学はないかと本棚を見たところ、
たまたまですが、この作品があったわけです。

写真: DSCN4720

大岡昇平(1909明治42年-1988昭和63年、79歳)については、まったく初めてなんですが。

その『俘虜(ふりょ)記』は、1949年の作品です。
集英社の日本文学全集80に掲載されていました。

写真: DSCN4722

1944年3月に召集されて、フィリピンのミンドロ島に派遣され、
1945年1月に米軍の俘虜となったそうです。

作品は、守備隊が米軍に追いたてられて捕虜になるまでの体験が書かれているんですね。
こんな一節があります。

「私はすでに日本の勝利を信じていなかった。私は祖国をこんな絶望的な戦いに引きずり込んだ軍部をにくんでいたが、私がこれまで彼らを阻止すべく何ごとも賭さなかった以上、彼らによって与えられた運命に抗議する権利はないと思われた。一介の無力な市民と、一国の暴力を行使する組織とを対等におくこうした考え方に私はこっけいを感じたが、今無意味な死にかりだされていく自己の愚劣をわらわないためにも、そう考える必要があったのである。」(P10)

この作品全体がそうですが、人間の緊張した精神というものは長く続くものではありません。しかしその緊張を記録している作品です。直後には生死の境をさまよった大変な体験に、自身の生き方も翻弄されただろうと思います。周りにいた多くの人たちが戦死し、自分が生き残れたのはたまたま偶然にすぎないんですから。ある程度時間がたって、事態を直視することが出来るようになったわけでしょうが、だけどやがて人間は時のながれとともに、いつのまにか角が取れて、すべては懐かしくも淡い想い出にかわっていくと思います。一般的にはそうしたきらいがあると思います。

大岡氏のこの作品ですが、そうした傾向にさからって、あえて刻み付けた作品です。1949年という時点にたって、この自分の戦争体験について直視した作品です。真剣に真正面から自分と戦争とに向き合ったのが、この作品なんだとおもいます。こうした作品は、ある時の、ある瞬間にしか、決定的な時にしか書けない作品だと思います。
私は大岡氏のほかの作品は読めてませんから、軽軽に断定的なことは言う資格がないのですが、それでもそう感じます。

こうした作品が残されたことは貴重ですね。
憲法の平和主義ですが、その基盤にはこうした国民の大きな体験が礎になっているということなんですね。
これらは、私などの生まれた時から、たったその5‐6年前に日本社会が体験したことなんですから。誰も悲惨なことを、あえて子供に語ろうなんてしません。子どもが求めていたらまた別だったでしょうが。まだ思い起こせば、その痕跡が、ありうるはずなんですね。
私などは、遅まきながらではありますが、いそぎ、もっともっと歴史認識の空白を埋めなければならないと思っています。
それが、現在のトンチンカンな政治の逆流を、指導者のお粗末さを、国民的に正すための力になると思っています。






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Last updated  2017年01月10日 17時52分36秒
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