どれも三人称で、ある状況での主人公の心境の変化を書くという短編らしい短編。各短編が10-20ページほどで、それぞれの短編にユーモアとか哀愁とか違った面白さがあってよい。イタロ・カルヴィーノというと奇抜で実験的なアンチ・ネオレアリズモ小説が多い印象だけれど、この短編集ではリアリティを損なわない程度に非日常的な恋愛の状況を書いていて、文章もページにみっしり詰まっているのに読みやすくてよい。平易な日常語で小説を書いたネオレアリズモの短編なのだろう。カルヴィーノに奇抜さを期待する読者は普通すぎて刺激がたりなくてがっかりするかもしれないものの、基本的な文章がうまくてどの短編も小ぶりながらもよくできている。「ある近視男の冒険」と「ある夫婦の冒険」はオチが効いていてよく、「ある兵士の冒険」と「ある海水浴客の冒険」はユーモラスな状況設定がよい。 欠点としては時代背景がわかりにくい点で、これは書かれた当時の1950年代のイタリアが舞台なのだろうけれども、短編ということもあって描写や説明が簡潔なので、イタリアに行った事もなく、ましてや50年代のイタリアの状況など知る由もない日本人読者としては状況を想像しにくい。当時のイタリア人読者のために書かれた小説だから現代の日本人にわかりにくくてもしょうがないのだけれども。 あとタイトルは「L'avventura di ○○」が「ある○○の冒険」と翻訳されているけれども、冒険という言葉がしっくりこない。フランス語でいうところのアバンチュールで恋の冒険という意味なんだろうけど、日本語で冒険というと探検隊が秘境に財宝を探しに行ったり勇者が魔王を倒しに旅をしたりするようなイメージになってしまう。『L'avventura』というイタリア映画は『情事』という邦題なので、冒険というよりは情事のほうが翻訳としてしっくりくるような気がする。