砂菩に詠む月

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カテゴリ: 小説
安藤
0703.jpg


俺は事実を整理した。


  救急への通報者- 岡地真知子。

現場- 優作氏の工房 休息室

警察- 未介入

以上。

後は現場を見てからだな。

次の日 俺は優作氏の工房へ向かった。
三輪には、岡地真知子を、調査するように言っておいた。
優作に師事して何年か。私生活。恋愛関係。そういったことだ。

バカでもそのくらいはできるだろう。

現場の休息室は4畳半の和室。
座布団が散乱している。
側には丸めた毛布と、バスタオルが1枚。
ちゃぶ台に、紅茶のカップと女性週刊誌が1冊。

ふーん。

俺は週刊誌をパラパラとめくった。

なるほどね。
この部屋の状況と、週刊誌の記事。

謎はすべて解けた。


その夜 俺は三輪の報告を受け取り、岡地真知子と真夜を呼んで調査報告を始めた。
名岡氏の勤める 麻布のレストランの一席で。

「結論から言うと、優作氏の死亡は事故です。脳溢血。事件ではありません。
亡くなる間際の言葉 -セクシィなお菓子- については……」

俺は現場から持ち出した、週刊誌のページを開いた。
そこには
[特集 世界に挑む! お菓子の貴公子 セクシィ名岡氏]
の見出しがあった。

「優作氏はこれを読んだだけでしょう。バカバカしい見出しなので、声に出したのでしょうね。
倒れたのは、辛労が祟っての事のようです。医師の見解もそう述べています」

「お父上は残念でしたが……」

語尾を濁したのは、相手を納得させるテクニックだ。


ひとしきりの沈黙の後。

「…ありがとうございました」

そう言って真夜は立ち上がった。


俺は岡地真知子を呼び留めておいて、真夜を先に返した。



さてと。


「真知子さん。あなたは優作氏とどのくらいのお付き合いでしたか? 男と女として」

「エッ… 」

「真夜さんには知らせてません。安心してください」

「あの夜あなた達は、あの部屋で関係しましたね。座布団の乱れは片付けるべきでしたよ。それに女性週刊誌も」

「何をいってるんです? 」

真知子はうろたえた。

「名岡氏とは、いつからのお付き合いです? 」

「あの… 言ってることが分からないんですけど? 」

「この写真に写っているのは、あなたですよね? 」

俺は先刻の週刊誌をページ一枚めくった。

そこには、ケーキを抱えて微笑む名岡氏の後ろに 小さくだがハッキリと一人の女性が写っていた。

「……」

[失礼だとは思ったんですけどあなたを調べさせてもらいました。誰にも言いませんから、安心してください。これは俺の性分なんです。真実を知らないまま手を引けない性格なもので」

俺は続けた。

「実はあの休息室。枕がないんです。泊まれるように、毛布もシャワー用のバスタオルもあるのにね」

今度は手帳に挟んでおいた 一枚の白い羽をつまんで見せた。

「これ、枕の羽なんです。布団とはちがってキメが細かい、枕専用のダウンなんです。あの部屋に落ちてちゃいけないんですよ」

「真知子さん。あなたの部屋の枕。見せてもらえます? 」

真知子は青ざめた唇をかんでいる。

「別にどうこうするつもりはありません。彼の死は事故でした。ただ、倒れた彼をみて救急車を呼ぶのに 何分 時間を空けましたか? 」

「もし、今日まだ彼が生きていたら あなたは彼を……本当に殺す気でしたね? 違いますか? 」

真知子はすっかり疲れ果てた顔になって、自分と優作 そして名岡との関係を話した。

それを最後まで聞き終えて俺は言った。

「名岡さんと、お幸せに。また何か困ったことがあれば、田沼平久朗探偵事務所までどうぞ。お安くしますよ」

俺は席を立ち夜の街に出た。
まだ夜は冷える。

三輪も少しは探偵らしくなったかな。
当てずっぽうだが、方向は間違っていなかった。
まだまだだけどな。

レストラン入り口のショーケースにチョコレートでできた、ミロのヴィーナスが飾られている。


「セクシーなお菓子… か…」



---了---




笑うところが・・・無い。





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Last updated  2007/03/24 05:17:00 PM
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