話飲徒然草(S's Wine)

話飲徒然草(S's Wine)

2021年05月05日
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つくづくワインというのは不思議な飲み物だ。
同じ銘柄でも飲む時期によって開いていたり閉じていたり、供出温度や時間の経過、ボトル差、ボトルの上部下部や気象条件などによって香味が異なるように感じられたり…。そのようなことに翻弄させられ、当惑しているうちに、気がつけば奥深い迷宮にどっぷりとはまりこんでしまう。グラスによる香味の違いもまた、私たち愛好家を幻惑、いや愉しませてくれる大きな要素のひとつといえるだろう。

■ワインを楽しむのに最低限必要なものは?
今流行りのミニマリスト的視点でワインを楽しもうとしたら、最低限必要なものは何だろうか?まず、ワインオープナー。これがないと始まらないが、ワインの栓を抜ければよいと割り切るのであれば、100円ショップのオープナーでもまずは事足りる。
ワインセラーは無いよりはあったほうが絶対によいと思うが、自宅では寝かせないとスッパリ割り切り、その都度近隣のワインショップで買ってくることにすれば、セラーのないワインライフも可能だろう。
で、本題のワイングラスだ。こちらも極端な話、単にワインを飲むだけなら、湯飲みがあれば事足りる。実際、山梨では伝統的に一升瓶ワインを湯飲みで飲んできた習慣があると聞く。もっとも、このような事例は例外だろう。ワインは味わいとともに色や香りを楽しむ飲み物だ。ワイングラスに関してだけは、日々のワイン代を多少節約してでもきちんとしたものを用意したほうがよいというのが私の持論だ。きちんとしたものというのは、必ずしも高価なものというわけではない。ワインの香味を楽しむための要素をきちんと抑えたグラスということだ。

■ワイングラスに必要な要素
 ワインの色調は、ブドウの品種や作られた年代、健全性などを示唆する重要な情報を含んでいる。その意味で、まずワイングラスは無色透明であることが好ましい。形状については、必須条件となるのが、香りを溜められること。すなわち先端部分に向かって(程度の差こそあれ)すぼまった形状であることが何よりのポイントだ。
大きさについては、ボウルの部分の容積がある程度大きいほうがよい。それだけグラス内に香りを溜められるし、液面と空気との接触面が増えることで、より香りが立ち、味わいもなめらかになるからだ。といっても、自宅で使うとなると、許容できる大きさには限度があるだろう。また、ただ大きければよいかといえば、構成要素の乏しい安価なワインでは粗ばかり目立ったり、デリケートな古酒では空気に触れすぎて酸化が促進されてしまうということもある。それぞれの環境や日ごろ飲むワインに応じて、可能な範囲で大きめのものを選ぶようにするとよいだろう。
 ワインを飲むときにはグラスの脚(ステム)の部分を持つのが正しい作法だといわれている。ボウルの下部を掌で包むように持つと体温が伝わってワインの液温が上がってしまうというのがその理由だが、最近は「リーデルO(オー)シーリーズ」のような脚のないグラスも市民権を得ているので、あまり気にしなくてもよいのかもしれない。細くて長い脚は美しいが、反面、重心が高くなって倒れやすくなったり、洗浄時などにポッキリと折れやすいというリスクもある。
グラスの重さはガラスの材質と大きな関連性がある。一般的に、普及品のグラスにはソーダグラスが使われ、より上質なグラスにはクリスタルガラスが使われる。クリスタルガラスの中でも、酸化鉛を含んだ鉛クリスタルガラスは輝きがあって美しく、指で弾いた時の響きもよいが、重量は重くなりがち。一方、鉛を含まないカリグラスは軽く、強度もあって後加工がしやすいと言われている。ワイングラスでいえば、前者ではリーデル、後者ではロブマイヤーが代表的なブランドだ。
重さや薄さなどは、香味への影響よりはむしろ飲み手の気分の問題が大きいようにも思われるが、いったん軽くて薄いグラスに慣れてしまうと、逆戻りするのは苦痛に感じられる。なお、グラスの厚さについては、気分的な問題だけでなく、「ワインが口内に流れ込む時に厚みの幅により段差が生まれ、形状がほぼ同じグラスでも、その段差を落ちることによってワインの流れが変わる」という説もある。

■リーデルとの出会いとロブマイヤーへの憧れ
 ワインに凝り始めた当初、「舌には、甘味、酸味、塩味、苦みを感じる味蕾が集中している部位(味覚地図)があって、リーデルのグラスはそれを意識して作られた形状なのだ」というような説明を受けて、なるほどと感心したものだが、今回記事を書くにあたって改めて調べてみると、どうやら「舌の味覚地図」というのは誤りらしい。特定の部位が他の部位に比べてわずかに敏感、ということはあっても、特定の味が特定の部位でしか感じられない、ということはないというのが今では通説のようだ。
もっとも、そうだとしてもなお、リーデルの提案するそれぞれの品種の個性にあわせたグラスの形状は、総じて納得感のあるものだし、多くの愛好家に受け入れられている。私も「オーバーチュア・ボルドー」シリーズに始まり、ハンドメイドの「ソムリエ・ブルゴーニュ」に至るまで、過去に購入したリーデルのグラスは数知れない。特に、「ヴィノム・ボルドー」と「ヴィノム・ブルゴーニュ」、「ヴィノム・キャンティクラシコ」は、さまざまなグラス遍歴を経た今でも、私の中ではリファレンス的なポジションのグラスである。 もうひとつ、愛好家の間でカリスマ的人気を誇るブランドが「ロブマイヤー」だ。カリクリスタル製でとにかく軽く薄く、それでいてどこまでも優美な形状が飲み手を魅了する。ブルゴーニュ用の「バレリーナIII」、シャンパーニュ用の「バレリーナ・チューリップ」などは特に愛用者の多い逸品だ。都内であれば、某百貨店試飲コーナーで使われているグラス(バレリーナV)といえばわかるかもしれない。私も初めてロブマイヤーを使ったときには、サイズから想像できないような軽さと飲み口の薄さに驚かされたものだ。ネックは正規品で1脚2万円近い価格だろう。


■グラスの検証
かれこれ6年前の話だが、10種類のワイングラスを一同に集めて白ワインの試飲をする会に参加させてもらったことがある。これが実に「目からウロコ」の試飲で、同じ銘柄を飲んでいるのにもかかわらず、ブラインドで出されたら絶対に別銘柄だと答えるだろうな、というぐらい香味の違いを感じるグラスもあった。以下、気づいたことをいくつか挙げると、

*グラスは大きければ大きいほどよいというものでもなく、それぞれの銘柄の特性に応じたボウルの容量というものがあると改めて実感した。
*ボウルの重心というか、直径が一番大きい部分がどのあたりにくるかによって、かなり香味の印象が異なってくるようだった。
*下が角ばっていて、上に向かって垂直に伸びていくタイプのグラス(意味が通じるだろうか?)は、丸っこいグラスとは香味の出方が特に異なっていた。白ワインの場合、よくいえば、穏やかで上品、悪く言うと酸がのっぺりとなるような印象だった。
*重さやステム(脚)の太さで香味が変わることは本来ありえないが、実際持ち比べてみると、このような要素も大いに先入観となって影響を及ぼすと感じた。

■現在のラインナップ
その後、シャンパーニュの「レーマン(ラ・マルヌ)」、オーストリアの「ザルト」、それに「木村硝子店CAVA(サヴァ)」などが私のお気に入りに加わり、現在は、これらをTPOに応じて使い分けている。

*シャンパーニュ用
左から、ロブマイヤー・バレリーナ・シャンパンチューリップA、ロブマイヤー・バレリーナ・シャンパンチューリップB、レーマン・フィリップ・ジャムス・シャンパーニュグラス。滅多にないことだが、自宅でプレステージ・シャンパーニュを開けるときには、白ワイン用のグラス(主にラ・マルヌ)を用いている。また、ロブマイヤーのチューリップBは、ブランデーを飲むときにも重宝している。

*白ワイン、赤ワイン兼用
左は木村硝子店のCAVA(サヴァ)22オンス、右はレーマン(ラ・マルヌ)フィリップ・ジャムス・グランブラン。どちらもカリクリスタルで軽く、値段も5000円前後と穏当だ。CAVA22オンスはボルドータイプとブルゴーニュタイプを足して二で割ったような形状。レーマン(ラ・マルヌ)の名称はブランとなっているが、ボウルの直径が大きく比較的浅めの形状は、若いブルゴーニュの赤ワインにも適している。


*主にブルゴーニュ用
写真左は木村硝子店CAVA(サヴァ)29オンス。右はZALTO(ザルト)のブルゴーニュ。どちらもかなりの大きさだが、カリクリスタル製で、見た目よりもずっと軽い。木村硝子29オンスは、約910ccと大容量ながら、脚が短いため、日常の食卓でもさほどかさばらないのがいい。一方で、ボウルが深く、すぼまり方が急で開口部が狭いせいか、香りがやや篭って滞留しがちな印象を受ける。
香味を楽しむという意味では、ZALTOがもっとも私好みに合致する。しかし、いかんせんその大きさと底面積の広い形状ゆえ、食卓で邪魔もの扱いされやすい。一回に注ぐ量が多くなりがちで、結果的に酒量が増えてしまうという悩ましさもある。
そんなわけで、我が家でブルゴーニュを飲む際には、若いワインはラ・マルヌ、バックビンテージは木村硝子、グランヴァンはZALTOというざっくりした役割分担がいつしかできあがっている。

*主にボルドー系用
ボルドーブレンドやサンジョベーゼなどを飲むときに使っているのは、ロブマイヤー・バレリーナIV(左)、それにZALTO(ザルト)ユニバーサル(写真右)、それに写真はないが、定番のリーデル・ヴィノム・ボルドーだ。
ロブマイヤーIVはややボウルの大きさこそ小ぶりだが、ほとんどの場合、このグラスでこと足りる。もう少しなみなみと注いでたっぷり空気に触れさせたいと思ったときにはリーデルの出番となる。ザルト・ユニバーサルはリースリングやソーヴィニヨンブランなどの白ワインを飲むときにも使うことがあるが、前述のとおり、これで飲むとかなり香味が違って感じられるのが面白い。

■あればいいなと思うもの
とりとめのないコラムになってしまったが、最後にもうひとつだけとりとめのないことを。
ワイングラスを持ち運ぶ機会は滅多にないと思いがちだが、持ち込みワイン会や、ホームパーティ、家族旅行など、意外にグラスの運搬ニーズはある。現在はリーデル2脚用の化粧箱を抱えて出かけているが、これが結構かさばる。「ロブマイヤー・トラベラー」のようなキャリングキットがあれば言うことがないが、高価でおいそれとは手がでない。「木村硝子CAVA22オンス」や「リーデル・ヴィノム・キャンティクラシコ」などを気軽に持ち運べるような、安価で小ぶりなキャリングケースがないかと探している今日この頃である。

追記:最近は、取り回しのしやすさなどから、なんだかんだでリーデルのボルドーとブルゴーニュを使う機会が増えています。





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Last updated  2021年05月06日 21時13分18秒
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shuz@ Re[1]:今になって新型コロナ感染(8日目)1週間ぶり出社(04/25) うまいーちさんへ お久しぶりです。コメ…
うまいーち @ Re:今になって新型コロナ感染(8日目)1週間ぶり出社(04/25) コロナですか。お大事に。 私もなりました…
shuz1127 @ Re[1]:【竹橋ランチ】マンマ・ミーヤ再び(娼婦風)(02/09) maki5417さんへ コメントありがとうござ…
maki5417 @ Re:【竹橋ランチ】マンマ・ミーヤ再び(娼婦風)(02/09) スパゲッティーは、材料費が安くお店にと…
shuz1127 @ Re[1]:【悲報】東京アスリート食堂ランチ値上げ(02/08) Henryさんへ なんと、そうだったんですか…
Henry@ Re:【悲報】東京アスリート食堂ランチ値上げ(02/08) アスリート食堂は、昨年8月に親会社(バル…
shuz@ Re[1]:2024年あけましておめでとうございます(01/01) Sugar7さんへ 本年もよろしくお願いしま…
成山裕治@ Re[1]:柴又帝釈天~その2(12/30) ダイアパレスさんへ

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