話飲徒然草(S's Wine)

話飲徒然草(S's Wine)

2021年05月06日
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前号では私のグラス遍歴について書いきた。同様の流れで、今回はワインセラーをとりあげようと思う。何度か書いてきたテーマだが、書き出すと話題がつきないので、今号、次号と二回に亘って掲載することとしたい。

■セラーのなかった時代
私がワインエキスパートの資格を取得したのは1999年のことだが、この時点ではまだワインセラーを保有していなかった。その前年の1998年に結婚、狭い賃貸マンションに二人暮らしの環境だったので、家の中にセラーを置くのに十分なスペースが無かったし、買いたいとも言い出しずらかったのだ。結婚祝いに高価なワインを何本かいただいたのだが、それらを保管するスペースもなく、「セラーがない場合は北向きの押し入れに保管」という(当時言われていた)セオリーも守らず、リビングのテレビ台の引き出しにしまっていた。ところが、当時住んでいたマンションは、狭いくせに日当たりだけは申し分なかった。カミサンも当時まだ働いていたので、夏場のリビングは日中、かなりの高温になった。正直なところ、「ワインは高温に弱い」と分かっていても、少しぐらい大丈夫だろうと嘗めていたところもあった。夏場を過ぎて、何やら風味の怪しくなったお祝いワインたちを開けて悲嘆にくれている私をみて、カミサンがセラーの購入を許可してくれたのは、結婚後1年たってからのことだった。

■一台目のセラーを購入
そうして最初に購入したセラーがフォルスターのロングフレッシュだった。収容本数は36本。限られた本数だったが、セラーのどの段に何を入れようかとか、どのボトルをどの機会に開けようかなどとあれこれ考えるのが楽しみだった。
このロングフレッシュ、結局10年使ったところで知り合いに譲ったのだが、キッチンの脇という悪条件にもかかわらず、一度も不調に陥ることなく稼働しつづけてくれた。コンプレッサーの作動音が少しばかり猛々しいのと、コンプレッサーの作動開始時と停止時に筐体がブルっと震えるのにはやや閉口したが、現行の製品ではその辺は改善されているようだ。そもそも、このセラーで10年保存したボトルたちがいずれも綺麗に熟成していたことを思うと、この程度の振動について、あまり神経質になる必要はないのかもしれないと思ったりもする。子どもたちがガラス扉にシールをベタベタと貼ったりして、最後は見苦しい姿になってしまったが、個人的にはとても愛着のあるセラーだった。
※購入したのはこれより古い型でした。
■寺田倉庫の利用を開始
ロングフレッシュを購入した当初、セラーの収容本数は36本もあれば十分だろうと考えていたが、すぐにこの考えが甘かったことを思い知らされた。ひとたびセラーのある生活に馴染んでしまうと、セール時や新ビンテージのリリース時についつい「まとめ買い」をしがちになる。いつしかセラーの中身は「不動のラインアップ」(=来客用にしか開けないであろう高価なワインや飲み頃がはるか先のワインをこう呼んでいた)になってしまい、寝室のクローゼットで常温保存しているボトルの数は、セラー購入前よりむしろ増えてしまった。
 そんな折、持ち寄りワイン会で友人から聞いたのが、「寺田倉庫」のレンタルセラーだった。倉庫会社のレンタルセラーと聞いて、最初は敷居が高く感じたが、聞けば段ボール単位で入庫できて、保管料も1ケース月600円(当時:現在はサービス形態が異なる)とのこと。出庫料を支払えば、段ボールの中身の出し入れ(閲覧)も可能とのことだったので、まずは自宅の当面飲む予定のないワインたちを預けてみたところ、思いのほか使い勝手がよく、あれよあれよという間に20箱以上に膨れ上がってしまった。

■二台目のセラーを購入
二台目のワインセラーを購入したのは、計画的というよりは半ば衝動的なものだった。某ショップのセールで、ドメティック社の「サイレントカーブ」の100本収容タイプ(現在はオンリストされていない模様)が20万を切る価格で売り出されているのを知って、後先考えずに購入してしまったのだ。2001年のことだ。
もとより自宅にはセラーを2台設置できるようなスペースはなかったので、購入したセラーは実家に置かせてもらうことにした。
設置場所も無いのに二台目のセラーを購入してしまうとはなんて無謀な、と言われそうだが、寺田倉庫に預けていた段ボールを半減させることで、毎月の預入代金の削減になる。20万弱のセラー代金は数年で元がとれる計算だった。(実際にはセラーの電気代がかかるのでそう単純な話ではないのだが。)
サイレントカーブは、アンモニアを使って冷却するタイプであるため、作動音が静かで、振動もほとんどない。ただ、コンプレッサー式に比べると冷却能力の点でやや劣り、例えば暑い季節にセラー内の整理などで長時間扉を開けておくのは憚られた(現行タイプはこの当時のモデルよりも冷却能力がアップしていると聞いている)。他にも設置棚の数が少なく、セラーの下部に入れてしまうと出すのが大変だったり、効率的にワインを詰め込むのに多少のコツが必要だったりと、ロングフレッシュほどの手軽さや便利さはなかったが、その代わり、実家で長期熟成タイプのワインを数年単位で寝かせておくのには都合がよかった。
ちなみにこのセラー、これまで2度の故障に見舞われたが、いずれも春先のことで、最悪の事態にはならずに済んだ。最初の故障は購入後もうすぐ1年というタイミングだった。たまたま実家を訪れた際にセラーを開けてみたら、13度に設定していたはずの温度表示が17度になっていて、設定を変えても温度が下がらなかった。原因はサーモスタットの不良とのことだった。
二度目の故障は2011年。東日本大震災のあとに発生した。おそらく地震の揺れが原因だったのだと思われるが、アンモニアが漏れて、部屋中にアンモニア臭が充満して参った。この時は冷却ユニットごと交換となったが、逆にこのタイミングで冷却ユニットを交換したのが良かったのか、その後は故障もなく、購入から15年を経た今も現役で稼働してくれている。
※今は100本収容タイプは売られていないようですね。
■セラーを追加購入するか、自宅にセラーをつくるかの葛藤
セラーを二台保有することになっても、寺田倉庫のレンタルセラーを完全に引き払うところまではいかなかった。セラー2台で合計130本程度の収容能力に対して、保有ワイン数は400本を超えていたからだ。
そこで、2007年に新居に引っ越しするにあたり、2畳の納戸を改造して、自宅にセラーを作ろうと考えた。セラー部屋を作るのは長年の夢でもあり、新居購入は千載一遇のチャンスだった。一時はかなり前のめりになって検討したが、悩んだ末、結局断念した。
理由のひとつは、新居が思いのほか狭く、収納スペースをまるまるワインのために潰してしまうのが憚られたこと、もうひとつは、購入した中古住宅のリフォームに想像以上の費用がかかり、セラーにまで資金が回らなかったためだ。
この時の判断は正しかった。現在、我が家の納戸は足の踏み場がないほど荷物でいっぱいになっている。仮に納戸をセラーに改造していたら、収納スペース不足で家人との間に深刻な軋轢が起きていただろう。セラー部屋を作らなかった代わりとして、実家に置きっぱなしになっていたサイレントカーブを新居に引き取ることにした。こうして新居には、サイレントカーブとロングフレッシュの二台が鎮座することになった。

■三台目のセラー
引っ越し後3年経ったところで、10年選手となったロングフレッシュを処分して、より大きなセラーに替えた。購入したのは、当時台数限定で売り出されていた、最大170本程度収容の「ユーロカーブ エッセンシャルシリーズ」の特別仕様。
ちなみにカミサンがあっさりと許してくれたのは、「ロングフレッシュが(シールなどで)汚くなってみっともないから。」というシンプルかつ明快な理由からだった。
ユーロカーブに替えたおかげで、我が家の収容本数は、サイレントカーブと合わせて計算上は最大270本程度まで増えた。
購入当初、温度設定が定まらない初期不良に見舞われて「やれやれ」と先が不安になったが、修理後は現在に至るまで安定して12~13度を保ってくれている。
使い始めてみると、実にオーソドックスで安定感のあるセラーだと思った。コンプレッサー式だが、音はあまり気にならない。収容本数が多いわりに棚が少ないので、下の方に積んでしまうと「捜索」するのが大変なことと、奥の部分に水がたまりやすいことがやや難点だが、それ以外、特に大きな不満はない。
※型番は異なりますが、概ねこんなタイプです。
■東日本大震災の衝撃
ユーロカーブの初期不良を修理してもらい、安定稼働し始めたタイミングで起こったのが東日本大震災だった。
東日本大震災では、私の住む東京都内は震度5強の揺れに見舞われた。幸い自宅の被害はほとんど無く、セラー内のワインも無事だった。しかし、そのあとの「計画停電」は全く想定外だった。
我が国に居住している限り、地震など自然災害のリスクは覚悟していなければならない。自宅の倒壊を免れたとしても、地下深くにセラーを掘ったり、自家発電設備を備えたりしない限り、ひとたび長期間停電に見舞われれば(季節によっては)中のワインたちは全滅しかねない。
結局、私の地域で計画停電が実施されることはなかったが、我が国でワインを趣味とすることの根本的な課題を突き付けられた思いだった。
とりあえず私は寺田倉庫の天王洲トランクルームに加えて、横浜都築トランクルームのロッカーをあらたに契約し、複数の場所にワインを分散しておくことにした。毎月の預入費用は増えたが、背に腹は代えられなかった。しかし、寺田倉庫にしても、自然災害時のワインの破損等は免責事項となっており、預け入れワインの安全を保障されているものではない。電源喪失リスクに対する明快な解決策は未だに見つかっていない。

その後、寺田倉庫のサービス変更に併せて、天王洲トランクルームに預けていた段ボールを解約。現在は横浜都築トランクルームのロッカーと自宅のサイレントカーブ、それにユーロカーブというラインアップに落ち着いている。ただ、サイレントカーブは15年経過しているので、そろそろ退役を視野に入れなければならない時期かもしれない。

最近の私の考えは、「結局のところ、身に余る本数を持たないことが一番良いのではないか。」というミニマリズム的発思考に傾いている。横浜都築のロッカーについても、数年のうちには解約して、自宅にセラー1台、プラス(もし必要なら)ペルチェ方式のデイセラーというコンパクトなワインライフにしていきたいと思っている。
セラーについては、いろいろと思うところがある。次号では、これまでの経験から得たTIPSや注意点などを私の意見を交えて紹介したい。





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Last updated  2021年06月03日 19時52分39秒
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shuz@ Re[1]:今になって新型コロナ感染(8日目)1週間ぶり出社(04/25) うまいーちさんへ お久しぶりです。コメ…
うまいーち @ Re:今になって新型コロナ感染(8日目)1週間ぶり出社(04/25) コロナですか。お大事に。 私もなりました…
shuz1127 @ Re[1]:【竹橋ランチ】マンマ・ミーヤ再び(娼婦風)(02/09) maki5417さんへ コメントありがとうござ…
maki5417 @ Re:【竹橋ランチ】マンマ・ミーヤ再び(娼婦風)(02/09) スパゲッティーは、材料費が安くお店にと…
shuz1127 @ Re[1]:【悲報】東京アスリート食堂ランチ値上げ(02/08) Henryさんへ なんと、そうだったんですか…
Henry@ Re:【悲報】東京アスリート食堂ランチ値上げ(02/08) アスリート食堂は、昨年8月に親会社(バル…
shuz@ Re[1]:2024年あけましておめでとうございます(01/01) Sugar7さんへ 本年もよろしくお願いしま…
成山裕治@ Re[1]:柴又帝釈天~その2(12/30) ダイアパレスさんへ

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