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わたしが透明な人間であると気づいたのは最近のことだ。 夜も11時を過ぎると、都心からT県の郊外に向かう私鉄ではS駅止まりの電車が多い。 そんな電車がS駅に到着すると、車内のアナウンスが流れる。「この電車は終点S駅に到着いたしました。どなたも降りてください。」 大抵、仕事でとても疲れていたり、アルコールでいい気持ちになって、終点でも車内で眠っている乗客がいる。 そういう人を見越してであろう。必ず電車の先頭車両と最後尾の両方の車両から駅員が乗り込みすべての人が降車したか確認する。 ある日、S駅に到着したのに眠り続けている男の人に気づいて、駅員はどうやってその人を起こすのかと眺めていると、駅員はそのまま素通りしていくではないか。もう少しでわたしは「あそこでまだ寝ている人がいますよ。」と駅員に声をかけるところだった。 その車両を見回してみると、その男の人以外にもあと二人が眠っている。そのうちの一人は女性だ。頭を窓ガラスに押し付けているためだろう。顎が上向き口が開いている。駅員は彼らにも気づくことなく、その車両から隣の車両に移っていく。 隣の車両ではその駅員に起こされたのだろう。足元をふらふらさせながら、中年の男性が降りてきた。 先頭車両からの駅員と最後尾からの駅員がその電車の真ん中あたりでおち合うと、二人は電車から降りて赤い旗を揚げる。それが確認終了という合図で、電車のドアがしまり、操車場に向けて電車が走り始める。 わたしの眼前をいくつもの車両が通り過ぎていく。そのどの車両にも首を折り曲げて眠り続けている人が一人や二人いる。電車の中の黄色い電灯の光に照らされて彼らは眠っている。もっともその中の一人は眼が覚めて、「しまった。寝過ごした。」という顔をしていた。 今晩は彼らはこの電車の中で過ごすのだろうか。 わたしは次にやってきた普通電車に乗り換えて、となりの駅で降りる。外に出て巨大なスーパーマーケットを通り越すと電車の線路の下を流れる川に沿って作られている堤防に出る。その堤防の上のじゃり道から電車がよく見える。闇の中で車窓の黄色い光ばかりがくっきりと浮かび上がる。この時間であると車窓に映る乗客の背中の数はあまり多くない。そのいくつかは透明な人間なのである。 彼らを見ることができるのは、透明な人間だけである。 最近、そんなことがわかってきて、どうしてわたしが会社で冷遇され、家でもわたしが家内やこどもたちに話しかけてもろくに返事をしてくれないのか、ようやく理解できるようになったのである。
Sep 28, 2008
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人々は旅人にやさしい。道に迷っていればその方向を指差してあげる。切符の買い方がわからなければ代わりに買ってあげようとする。人々は旅人にやさしい。本来、人々は善意に満ちていて親切な存在なのかもしれない。もしかしたら、かかわりあいにならないように親切な風を装っているだけなのかもしれない。カーテンで仕切られただけの病院の一室の小間にいると看護婦さんは笑顔で話しかけてくれるし隣の小間の人も目が会えば静かに挨拶を返してくれる。人々は旅人にやさしい。なすすべもなく病室で旅立ちを迎える人に人々はやさしい。
Sep 21, 2008
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自分のために身を粉のようにして尽くしてくれた雄カマキリの頭を噛み砕く。かりかりと乾パンをかじるように雌カマキリが食べていく。あなたの心に雌カマキリのような感情がぴくんと立ち上がる。突然の衝動なのにあなたの肢体が滑らかに反応する。男の思念が追いつかない。意識した時には雄のカマキリの頭が喰いちぎられてすぱっとなくなるように男は心を奪われている。
Sep 14, 2008
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馬鹿馬鹿しくて子供を叱る気にもならないし、こんな玩具を売っている業者、そんな物を買い与えた自分にあきれている。 もともとこの玩具には、注意書きとして、うまく動かない場合がありますと書かれている。 作るのは、多少気持ちが悪くて手が汚れることを我慢すれば、それほど大変ではない。アルミの骨格の周りに、その箱の中にビニールで梱包されていた筋肉と脂肪をくっつけて、頭部に脳のようなもの、腹部に内臓のようなものを詰め込んで一番外側に人工皮膚を貼り付ければ、フランケンシュタインは完成だ。 後は、家庭用電源で電気ショックを与えれば、動くらしい。しかし、実際はぴくりともしなかったので、息子が屋根に付けられている避雷針のアース線をその肉の塊に付けて、雷が来るのを待っていたというわけだ。 本当に大きな雷がどかんと来て、それからが大変だ。落雷で火災が起きて、家がきれいに焼け落ちた。でも、さすがに効果があって、こげた肉臭を漂わせながら、フランケンシュタインが立ち上がり、でも、2,3歩歩くと絶命し、そのまま前のめりに倒れてきて、私の上にのしかかり、私は手足を骨折したというわけだ。
Sep 7, 2008
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