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白い羽が美しいだけではないと気迫に満ちて蝶が飛び立った。海峡を渡ろうというのだ。自分の無謀さに気づくのにそれほど時間はかからない。100メートルも沖合いの方に飛び続けると白い蝶の疲労は極度に高まり波間に浮いている落ち葉も見つけられないうちに蝶の羽面は波のしぶきに捕らえられ頭から海水に突っ込んでしまう。呼吸できない苦しさから白い蝶はすぐに開放された。口をぱっくり開けて海底から斜めに突きあがってきた青い魚が、その蝶を噛み砕いた。美しかった蝶の白い羽は、燐粉のためか、ぱさぱさしていたし、柔らかい蝶の胴体から噴き出た汁はとても苦かった。青い魚は蝶を吐き出すと、無駄なことをしたとばかりに暗い海底に潜っていった。
Oct 26, 2008
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朝、眼がさめると、わたしは布団の中に脱ぎ捨てられたズボンに変わっていた。芋虫や虎でなくて良かったと思った。しかし、妻が脱ぎっぱなしのズボンを見つければ、だらしがないと言ってひどく怒りだすだろう。それが恐ろしかった。 こんなズボンにわたしが変身してしまったのは、数年前に妻をパチン、パチンと打ったからなのだろうか、それとも、子供がひどく頭がいいのを妬んでいたからなのだろうか。 ズボンとなったわたしは、息子が大きくなってサイズが合うまで、箪笥の中に閉じ込められるかもしれない。いや、今日のうちにも捨てられてしまうかもしれない。 それにしても、朝だというのに、わたしの姿が見えないことに、妻や子供たちは気づかないのだろうか。「あなたをずたずたにしてやる。それから、ぶすぶすと焼いてやる。」日頃、無口だった妻がつぶやいている。「あなたがもういないことを知っている。」「あなたがどうなっているか知っている。」子供たちはもう学校に行ったのだろうか。彼らの声は聞こえない。 妻がわたしの寝室に向かってくる。しかも、はさみでカチカチと音をたてながら。「切ってやる。切ってやる。」 布団の中のズボンを拾い上げると、妻はわたしを切り刻み始めるではないか、涙を流しながら。 本当に涙を流しながら。
Oct 19, 2008
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今頃、気づいたのは遅すぎるけれども、人魚には男はいない。 今、僕のそばに人魚がいる。彼女は下半身が魚で、水が必要なので、湯船に浸かっている。冷たい水がいいのかと思えば、40度ぐらいにしてほしいと言う。この人魚は熱帯生まれかもしれない。 音楽も聴きたいらしい。海の波の音が聞きたいのかとたずねると、なんとロックが好きと答える。ボリュームをあげてくれと言うから、少し大きな音にしたのに、もっともっと大きくしてくれと要求する。がんがんのロックが部屋中に鳴り響く。人魚は希少だから、わがままに育ったのかもしれない。 さらに、おなかがすいたと不満をもらす。何をたべるか、皆目見当がつかない。なんでもよいと言う。パンでもご飯でも麺類だってかまわないが、本当は、肉類が一番好きらしい。その上、椅子には座れないから、湯船に浸かったまま食べたいので、食べ物を浴室に持ってきてと叫びだす。 僕が「君の裸の胸が見えてしまうよ。」と心配すると、「そんなことは気にしない。」と返事する。僕は心臓を少しどきどきさせながら、ハムをはさんだサンドイッチと紅茶をトレイにのせて、浴室に入っていった。 湯船の前のカーテンを開けると、なぜ、男の人魚がいないのかわかったんだ。人魚の彼女は、蛇のような大きな口を開けて、僕ののど笛に喰いかかってきたのさ。僕の叫び声は、ロックの大きな音に消されて誰にも聞こえないだろう。 僕の意識は、まもなくなくなってしまうだろうけれど、覚えておいてほしい。人魚は男を食べる習性がある。
Oct 12, 2008
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