サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.01.06
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カテゴリ: 文学
 古今の世評名高い「古典」といわれる作品群には、当然それに付随したさまざまな批評や感想や研究の類が、その周囲を星雲のように取り巻いているので、なかなか素で中身を味わうということができません。
 まして「源氏物語」のように登場してから1000年のあいだ、常に日本文学の金字塔として時代ごとに読み継がれてきた作品というのは、おそらく世界的にも空前絶後で、その結果私たちは中身を読まずとも、一般教養としての「源氏物語」の通念がイヤでもこびりついています。さらには原典は名にし負う超難解文ですから、とりあえず全貌を通観するには現代語訳に頼らざるを得ない(これは「古事記」や「伊勢物語」の古文語釈とは根本的に異なる、享受のしかたを強いられざるを得ないことを意味します)。

 「源氏物語」の原文が難解といわれるには、たぶん二つあって
1. かな文字が女の文字ツールとして発達してきた結果、いわゆる女性特有の主語なし文と、句読点なし文が主たる語法に多用されているため、誰がしゃべり何がおこったのか、一読して判読できない。
2. かな文字草創期にあって、日本語自体の語彙がまだ少なかったのではないか。今なら多様な感情や行為の表現が「あわれ」や「いみじ」といった、非常に漠然とした形容で表現される(アフリカの「ジャンボ!」やハワイの「アロハ!」の言語表現に近い)。
 皮肉なことですが、主語なし句読点なしで、ながながと(ダラダラと!)続いていく文章というのは、ときどきのゆれ動く感情の表現にはぴったりフィットするので、よく言われることですが 日本語とは優れて女性の言語 なのです!(これは同じ分量の長大な文章を駆使する英語などをみれば、主語や時勢は関係詞で厳格に仕分けされて明晰さを失わないので、日本語の言語用法とは根本的に異なるのです。なにしろ文章の途中で主語が入れ替わったり、時勢がずれていくのは当たりまえ、あとになってこれは光源氏の思っていたことなのか、などということはしょっちゅうです)

 というわけで、現代語訳とはそれぞれの訳者の「現代語釈」とならざるを得ないのですが、なにしろ名だたる作家や古典研究家が次々と挑戦されているわけで、それほどまでに実作者の想像力を刺激する作品だということなのでしょうか(少なくとも他の古典ではありえない現象です)。ところが、それぞれの訳にたいする厳密な評価というのが、日本ではわりあい少なくて、なかば読者に丸投げされている(そのあたり何となく商業的なニオイもしないではないのですが)。
 例のA・ウェイリーの英語訳は、その訳文の完成度の評価が極めて高かったため、「The Tale of Genji」は英文学の古典に名を連ねたわけで、それ以前に何度か英訳が試みられたのはあまり知られていません。かの国では翻訳作業というのは一種の文化事業、文化移殖のような位置づけであって、この作業によって英語圏に、どのようなあらたな言語的豊かさをもたらしたか、というような捉えかたなので、商業的要素は最初から薄い(これは仏語や独語訳でもたぶん同様の考えかたであったでしょう)。

 まあしかし、かたくるしい前口舌はこれくらいにして、ともかく入り口ではね飛ばされないように、寂聴さんの「宇治十帖」を読んでみましょう。なぜ「宇治十帖」かといえば、本体のはじめ「桐壺」や「帚木」は受験勉強の手垢に汚れて読む気がしない(私の父の世代が、カボチャをどうしても食わないのと同じ)ので、世評、心理小説としても面白いといわれるこの部分から入ることにしました。
 一読してほぼ予想したとおりの読後感が残ったので、ひと言で云えば、これはやはり 大人でなければ、その面白味は分からない だろうな、ということです。

― つづく ―





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Last updated  2009.01.06 13:52:41
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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