サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.03.13
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カテゴリ: 文学
 それにひき比べて、源氏の君はいやに落ち着き払って、何となく心はすでに他にいっている感じなのですが、葵の上が死亡したのが車争いの後、夏ごろだとすると、半年近く自邸には戻っていないことになりますね。
 「葵」の帖の終わりは、自邸に戻った光源氏が、久しぶりに紫の上と対面して、その成長ぶりにちょっと目を見張る、結局少し早いかなとは思いつつ、彼女と新枕を共にするという場面で終わるのですが、紫の上は父の身代わりとも思って頼っていた彼が、実はそういう魂胆であったかということで、ショックでしばらく寝屋から出てこない。このあたりのやりとりはしかし、今までこの帖で御息所の物の怪や、葵の上の死を見てきた、私たちには何となくホッとする場面でもあるので、源氏自身、紫の上のグズがりようにはまともに対処せずに、面白がって何やかやとなだめすかしている。ようするにまだまだ子ども扱いなのです。
 この場面はすさまじかった「葵」の帖と、次につづくさらにドラマティックな「賢木」の帖の間の中間部といっていいので、例によって紫式部はこうした緩除部を挿入して、呼吸を整えているように思えます。もちろん紫の上にとっては源氏と彼に仮託した作者のなぐさみものにされて、それどころではない騒ぎなのですが。

― いかゞありけむ、人の、けぢめ見たてまつり分くべき御仲にもあらぬに、をとこ君は、とく起き給ひて、女君は、更に起き給はぬ朝あり。…
 …「かゝる御心、おはすらん」とは、かけても思し寄らざりしかば、「などて、かう、心憂かりける御心を、うらなく頼もしき物に、思ひ聞えけむ」と、あさましう思さる。 ― 同上

 その辺りはどういうことであったのか、…もともと一つ御帳の内にお寝みつけになっていて、人の目にはいつからともはっきりお見分け出きる御仲合(おんなからい)ではないのであるが、男君だけが早くお起きになって、女君はいっこう起き出していらっしゃらない一朝があった。…
 …このようなお心がおありになろうとは、ゆめにも思いがけなかったことなのに、どうして心底から分け隔てなく頼もしいと思ってばかりいたのであろうと、女君はわれながら浅ましくお思いになるのだった。(円地文子訳、新潮文庫、()筆者)

 それにしても紫式部の描く、少女や娘たちの振るまいや心理の動きは巧みで、これはやはり実娘の賢子を育てた体験や、あるいは宮廷の彰子に伺候したとき彼女が18歳ほどであったことから、思春期の少女たちの振るまいや考えかたなどは、ごく自然に理解できたのでしょう。
 今どきのネットやケータイ情報に浸りきりの若い人たちは知りませんが、年長けて今や人生に自信満々の女性といえども、初めての折だけは、
「何でこんなこと、せなあかんの!?」
と皆さん思うそうですから、紫の上が、その後しばらく恐ろしく機嫌が悪くなるのはしかたがない。源氏のほうも別段あわてるわけでもなく、むしろ怒っている彼女の姿がかわいらしく見えたりもする。
 だから男は野蛮!ということになりそうですが、かつてはこれらの試練を女はみんな通過して行ったわけで、彼女の場合はむしろ源氏という、云わばその筋のプロが相手で幸せだったのかもしれない。
 これは「源氏物語」とは関係ないのですが、男=オスにとっても実は初めての時というのは、結構大変な緊張を迫られるので、結婚初夜に失敗するケースというのは案外多いんじゃないですか。好いか悪いかは別として、かつては先輩(父親ではありません、年上の仲間)に連れられて、その筋のプロのお世話で女を知るということがあったのですが、今やいいかげんな情報だけが氾濫して、男にとっても女にとっても自づから体験して知るという機会がむしろ減っているように見える、そのぶん異性交遊に素人同士の危険がかえって増しているのではないか、と思えるときがあるのですが、それはまあ別の話。

― つづく ―





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Last updated  2009.03.14 09:54:48
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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