サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.06.13
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カテゴリ: 文学
 この時の源氏の話、自身が死に際の御息所から、斎宮の後見を頼まれたこと、御息所には生前の負い目があることなどなど、煩雑なので少し端折りますが、女院へのお伺いの件とは以下のようなものでした。

― 「母御息所、いといと、おもおもしく、心深きさまに物し侍りしを、あぢきなきすき心にまかせて、さるまじき名をもながし、うきものに、おもひおかれ侍りにしをなむ、世にいとほしく、思ひ給ふる。この世にて、その恨みの心とけず、過ぎ侍りにしを、「今は」となりての際に、この斎宮の御事をなん、物せられしかば、… いかで、なきかげにても、「かの恨み忘るばかり」と、おもひ給ふるを。うちにも、さこそ大人びさせ給へど、いときなき御齢におはしますを、「すこし物の心知る人は、さぶらはれてもよくや」と、おもひ給ふるを。御定めに」 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 「母上の御息所は、まことに、格調高く、思慮深げになさっていらっしゃったのを、私のつまらない好き心に任せて、ありえないような浮名を流してしまい、私をつれない者として、思われたまま亡くなられたのが、まことに残念に、思われてなりません。この世では、とうとうその恨み心は解けないままに、過ぎてしまいましたが、『もうこれまで』と逝かれる間際になって、この娘の斎宮のことだけは(くれぐれも頼みます)、と私にご遺言なさったので、 … (私としては)どうしても、(御息所が)草葉の陰からでも、「あの恨みも忘れてしまいそう」と思っていただけけたら、と考えているのです。帝も、さすがに大人びてこられたとは言え、まだまだ幼いお歳でおられますので、『多少は物事をわきまえた女御が、お側に仕えるのが好いのではないか』と、思いまして。お心のままに(従いますので)」

 まわりくどくても、藤壺の女院にとって、この源氏の意見は充分肯える中味でした。それというのも世間的には、冷泉帝は故桐壺帝と藤壺の宮の子、桐壺亡きあと現帝の後見は、藤壺系の家格では不安があるのです。御息所の遺言によって前斎宮の後見人となった源氏は、斎宮が入内することによって、公にも冷泉帝を援護することが出来る(今までは世間的には認知されない支援でした)のです。
 そして何よりも、女院にとっては、実際は源氏との不義の子である冷泉帝の安泰こそが、終生変わらぬ目標であったので、その目的達成に向けての女院の考えもまた、多少政治的な色合いが出てこざるをえません。

― (藤壺)「いとよう、おぼしよりけるを。院にも、思さん事は、げに、かたじけなう、いとほしかるべけれど、かの御遺言をかこちて、しらずがほに、まゐらせたてまつり給へかし。「今はた、さやうの事、わざとも思しとゞめず、御行なひがちになり給ひて、かうきこえ給ふを、ふかうしも思しとがめじ」と、おもひ給ふる」 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 「それはたいへん、好いところに思い致されました。朱雀院の仰せに、背くことは、まことに、畏れ多く、おいたわしいことではありますが、その御息所のご遺言にかこつけて、こちらは知らず顔で、帝に入内おさせ申すのがよろしいでしょう。『院は今となっては、そのようなことには、それほどご執着なされず、御勤行に励まれていらっしゃるのだから、(知らず顔で後から)このようになりましたと申し上げても、そう深くはお咎めにはなるまい』と、思われます」

 源氏の意図どおり、藤壺の女院の言質をもらったことで、彼は予定どおり前斎宮の入内を、朱雀院には知らん顔で進めようとします。このあたり、彼と女院のTag Matchは息が合っていて、二人にとって相手が朱雀院なら何とかなるだろう、という心根も垣間見えますね。
 とはいえ、「賢木」の帖のころ藤壺の宮の御帳台(寝室)に入り込んで、子供のように凍り付いていた光源氏、対するに母のような態度で接した女院の立場は逆転して、今やすっかり源氏のペースで、物事が運ばれて行くのは時の流れというべきでしょうか。

― つづく ―





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Last updated  2009.06.13 09:42:52
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
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