サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.02.10
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 内大臣が見た、その近江の君のお姿というのは、

― かたちは、けぢかう、愛敬づきたるさまして、髪うるはしく、罪軽げなるを、額の、いと近やかなると、声のあはつけさとに、そこなはれたるなめり。とりたてて、よしとはなけれど、こと人とあらがふべくもあらず、鏡に思ひ合はせられ給ふに、いと、宿世、心づきなし。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 顔貌は、人なつっこく、愛敬めいた様子であるうえに、御髪も見事なので、これといって欠点はないのであるが、額が、いやに狭いのと、(なにしろ)声の上っ調子なことで、(全部)台無しにしているのである。取り立てて、美人ではないが、(自分の娘とは)別人だと抗うには、(我が身の)鏡に映る顔を思い合わせなさると(そっくりなので)、まことに、(この)因縁は、恨めしい。

 しかしただたんに、顔が似ているだけでなく、育ちが悪いことを別とすれば、彼女が内大臣の直系の血を色濃く引いていることは、だんだん気鮮やかに明らかになって来るのです。

― 「かくてものし給ふは、つきなく、うひうひしくなどやある。事繁くのみありて、とぶらひまうでずや」
と、のたまへば、例の、いと、舌疾(したど)にて、
 「かくてさぶらふは、何の物思ひか侍らむ。年頃、おぼつかなく、ゆかしく思ひきこえさせし御顔、常にえ見たてまつらぬばかりこそ、手打たぬ心地し侍れ」
と、きこえ給ふ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫()筆者)

 「このように(ここに)おられても、(何とも)落ち着かず、馴染めないのでは。(私は)忙し過ぎて、お構いも出来ないのだが」
と、おっしゃると、例によって、大変な、早口で、
 「このように(ここに)お仕えしまして、何の心配がございましょう。(長い)年月、心にかけて、懐かしく思っておりました(殿の)お顔を、常には拝見できぬばかりが、(双六で、好い)目が出ないような感じが致すだけで(ございますわ)」
と、ご返事なさる。

 目から鼻に抜ける、というか、要は貴族社会の大様なゆったりしたテンポなど、この姫には最初から無いも同然、つづくくだりなど、今までの姫君では絶対あり得ない会話が出て来るのです。

― つづく ―





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Last updated  2010.02.10 11:00:25
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
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