サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.03.13
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 取りあえず「帝のお姿は、ハッキリ見えなかったので、何とも … 」と、一応ぼやかした内容の玉鬘の返事を、源氏は紫の上に見せる。例によって奥さんには何でも報告しているようにみえる光源氏ですが、彼の真意は玉鬘を宮仕えに出すということで、自分の身の潔白を示すことにもなるし、あわよくば、そのまま六条院から伺候させれば、彼女とのお付き合いも密かに続けられるか、という算段もあるようです。ヤッパリ喰えない男ですね。紫の上もそのあたりは読み切っているようで、何だか皮肉な感想を洩らすのですが、そのあたりは本文を読んでみてください。

 とはいえ最大のネックは、玉鬘にかんして内大臣に真実を話すかどうか、ということなのですが、さしあたって宮仕えさせるにしても、彼女の裳着(もぎ)の準備が急がれる。裳着とは、公家の女子が成人した時に初めて裳をつける儀式、つまり男の元服にあたる儀式で、通常は結婚適齢前の十二、三歳に行われたのですが、玉鬘の場合、筑紫に流遇していたこともあって、大幅に遅れているわけです。
 したがって裳着とは、女が公式に世間に認知されること意味するので、となると彼女の出自が問題になる。藤原系(世俗)の血筋の彼女が、源氏姓(皇孫)を偽って世間に名乗りを上げるのは、春日明神(藤原姓の氏神)の深慮にももとるだろう、ということで、いよいよ光源氏はこの機会に内大臣に告げることを決意する。
 物語はやっと動き出した感じです。

 光源氏は内大臣宛に、玉鬘の裳着の腰結(こしゆい、腰紐を結ぶ役)を依頼する。腰結とは袴着(はかまぎ)や裳着の儀式のとき、袴や裳の腰の紐を結ぶ衣紋奉仕の役で、徳望のある人が選ばれ、けっこう重要な役なのです。
 ところが内大臣は、母大宮がこの冬から病気がちであることを理由に、断って来ます。理由を知らない内大臣としては、なぜ源氏方の姫の儀式に出なければならないのか、理解に苦しむところなので、うかつに話にのってこない。

 しかし大宮の病気は事実なのでした。

― 中将の君も、夜昼、三条に添ひさぶらひ給ひて、心の空なくものし給うて、をりあしきを、「いかにせまし」と、思す。「世も、いと定めなし。宮も失せさせ給はば、御服あるべきを、しらず顔にてものし給はん、罪深き事多からむ。おはする世に、この事あらはしてん」と、おぼしとりて、三条の宮に、御とぶらひがてら、渡り給ふ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 中将(夕霧)の君も、夜昼、三条の御殿につきっきりで仕えておられ、気持の余裕も失くしていらっしゃる状態で、(何とも)時期が悪いのを、「どうしたものか」と、(殿は)お思いになる。「世の中は、まったく定めないことよ。大宮がお亡くなりになられたら、(玉鬘は)喪服であるべきところ、知らず顔でお過ごしになっては、罪深いことも多かろう。(やはり、大宮が)ご存命のうちに、このことは打ち明けてしまおう」と、お決めになって、三条の宮に、お見舞いをかねて、お伺いなさった。

 源氏がずうっと抱いている玉鬘への好き心も、内大臣とのあいだの不信感も、大宮の重病という、いわば世の無常の前では、すべて吹き飛んでしまう。「乙女」の帖以来高齢にもかかわらず、息子内大臣とのあつれきで、たいそう若やいでいた大宮、いよいよ最後の登場となります。

― つづく ― 





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Last updated  2010.03.13 09:39:13
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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