サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.03.31
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
― ゑみ給ひぬべきを、念じて、
 「いと、あやしう、おぼつかなき御癖なりや。さも、おぼしのたまはましかば、まづ、人の先に、奏してまし。太政おとゞの御むすめ、やんごとなくとも、こゝに、せちに申さむことは、きこしめさぬやう、あらざらまし。いまにても、申文をとりつくりて、美々しう、書き出だされよ。長歌などの、心ばへあらむを、御覧ぜむには、すてさせ給はじ。うへは、そのうちに、情けすてずおはしませば」
と、いとよう、すかし給ふ。人の親げなく、かたはなりや。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 噴き出しそうになるのを、こらえて、
(内大臣は)「ずいぶん、妙に、遠慮深いお癖で(いらっしゃいましたな)。そのようにも、おっしゃっていただいておれば、何をさておき、他人より先に、(あなたを)ご推薦したものを。源氏の大臣の御娘(玉鬘)が、(いくら)目出たくしていらっしゃるとはいっても、こちらから、ぜひにとも申上げるならば、(帝が)お聞きにならないというようなことは、あるまい。今からでも(遅くないから)、申し文を用意して、キチンと、書きなされませい。長歌などの、心得のあることを、ご覧になれば、お見逃しにはなさらんでしょう。帝は、その中でも(とりわけ)、風流味(のあるもの)は放っておかれないからね」
と、ずいぶん巧みに、お騙しになる。人の親とも思えない、ひどい話だこと。

 ここの「人の親げなく、かたはなりや」というのは、語り手の感想で、いわゆる「草子地」ですね。
 しかし近江の君は、すっかりそれを真に受けて、正式の書面の書き方などを、父大臣に手を合わせて教えてもらおうとするので、

― 御几帳のうしろなどに聞く女房、死ぬべくおぼゆ。物笑ひに堪へぬは、すべり出でてなむ、慰めける。女御も、御おもて赤みて、「わりなう見苦し」と、おぼしたり。 「ものむつかしき折は、近江の君見るこそ、よろづ紛るれ」とて、たゞ、わらひぐさにつくり給へど、世の人は、「恥ぢがてら、はしたなめ給ふ」など、さまざま言ひけり。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 御几帳の陰などで聞いていた女房たちは、(面白すぎて)死にそうな気がする。笑うのをこらえられない者たちは、(そこから、そっと)すべり出して、ホッと息をつく。(横で聞いている弘徽殿の)女御も、お顔が赤くなって、「気の毒で見てられないわ」と、お思いになった。「何とも気分が冴えないときは、近江の君に会うに(かぎるよ)、万事気が紛れるからな」と、(内大臣は)笑い者にしていらっしゃるが、世間の人々は、「(こういう姫を持った、ご自分が)恥ずかしいから、(わざと)ひどく扱ってらっしゃるのさ」などと、いろいろうわさし合っている。

 さて、このくだりで「行幸」の帖は終りなのですが、全般の玉鬘をめぐる出仕の件、大宮を介しての内大臣と源氏の折衝、そして裳着の式と続いた本筋に比べて、おしまいがずいぶん軽くなっているのはなぜでしょう。爾来、紫式部は重たい話のあと、多少軽めの、あるいは今回のような「ヲコ」話を、交互に入れる場合があるのですが、今回は「近江の君」が気鮮やか過ぎて、本筋がむしろ霞んでしまう。
 これは取りも直さず「玉鬘十帖」の「求婚譚」という本筋が、ちっともうまく運んでいないことに起因しているので、だからというわけじゃないですが、私のおしゃべりもだいぶ脱線して、末摘花と近江の君という二人の「ヲコ」のヒロインの話を長々としています。

― つづく ―





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Last updated  2010.03.31 15:15:04
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
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