サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.08.27
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 と、こう加藤陽子さんの本について話していたら、今日の新聞にこの本が第九回「小林秀雄賞」を受賞した由、選評者の面々も過去の受賞作品も信頼できる立派な賞で、慶賀にたえないのですが、となるとこの本についてもう少し立ち入らざるを得ません。
 ここでのおしゃべりは、べつに素人の書評を加える目的で始めたわけではないので、以下の話はたんなる感想ですが、それがここでのテーマでもある、今もごく無意識に繰り返される「戦争報道」の話に結びつくかな、と思っているからです。

 まず、日清戦争から太平洋戦争まで、近代日本が選んだ戦争というのを、この本のように通史的に取り上げると、日本の行ってきた戦争というのは、西欧諸国が一般に狙っていた植民地獲得による経済的権益という目的よりも、はるかに「国防」という脅迫的な観念によって色濃く縁どられていた歴史であった、ということです。
 藩単位ではなく日本国の「国防」という意識の萌芽となると、話はどうやら幕末以前の十八世紀末、例の船頭大黒屋光太夫の漂流とか、ロシアのラックスマン根室来航の折りぐらいまでさかのぼって、その時の日本人の振るまいかたぐらいから、見つめ直さなければならないかも知れず、話は際限がなくなってしまって、ここではとても出来ませんが、少なくともこの本はそうしたパースペクティヴまでを読み手に与える、そういう一貫したものの見かたを示唆することが出来るかもしれない、そういう種類の本なのです。

 実のところ、私たちの理解している日本史というのは事実的な系列はみんな知っていても、それぞれ各個の時代区分に分断されて、一貫した国民史という捉えかたをするのはなかなか容易でない。古代王政から律令制、平安時代から中世、戦国時代から江戸開幕、幕末から明治維新、大日本帝国から敗戦後の日本という時代の区切りにおいて、日本人のマインドはいかなる振るまいを示しているのか?何か顕著に現れた日本人の一般的特性のようなものがあるのかどうか?というような疑問に答えてくれるとまでは言わないにしても、そういう視点に立った日本史の本というのは意外と少ないのです。それぞれがまるっきり別の時代社会が始まったように、何の脈絡もなく話が進む、というのは本当の意味での歴史的なものの見かた、とは到底言えないでしょう。
 これを突き詰めていくと、日本人は我が身の歴史として、日本の歴史と真の意味で向き合って来たことがない、ということになってしまうのです。それはひいては日本人は歴史的なものの見かたを知らない、歴史を反省しない国民ということにもなりかねません。

 実際のところ日本人というのは、過去を反芻して未来に備える、というよりははるかに過去はさっさと忘れて、いわば更地に臨むようにして気分を一新するほうが得意なようで、これは歴史的な国民性というよりは、「禊ぎ」に象徴されるような「神話的特性」を持った国民性らしいのです。神話世界においては歴史的な時間性というのは、もとより持ちようがない。「神話世界」を流れている時間というのは、円環的に閉じていて生と死の間を何度でも周期的に繰り返す。それが古代農耕社会の世界観と深く結びついているらしいということは、このブログで何回も話して来たことでした。
 歴史的時間というのは、そうした閉じた時間性を脱して、過去から未来へとずうっと一方向に流れて行くのが、真の意味での時間ではないか?というふうに捉え直したところから出て来たもので、少なくとも近代以降の人間は日本に限らず、そうした感覚に一点の疑念も抱きません。

 「時間とは何か?」という命題は、事柄があまりに自明すぎて、子供以外のほとんどの人が日ごろ疑問を抱くということはしないものですが、捉えかたにはそういう見かたもある、ということを知っておくということは、無自覚に済ましてしまうよりもはるかに有意義なことでしょう。少なくとも、なぜ日本人が過去をすぐに忘れて(しまうように見え)、結果的に同じこと(失敗)を繰り返すのか?という疑問に対しての一つのヒントにはなるはずです。
 手前味噌になりますが、私がしつこく読んでいる「源氏物語」というのも、1000年前の日本の女性が抱いていたらしい時間の捉えかたというものが、少しく今どきの日本人と違っていて、その違いというのがどこから来るものなのか、そのあたりが多少は嗅げるかな、という期待もあったのでした。

― つづく ―





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Last updated  2010.08.27 14:33:46
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
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